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2008/03/29 [Sat] 10:39:01 » E d i t
太平洋戦争末期の沖縄戦で住民に集団自決を命じたと虚偽の事実を著書に書かれたとして、元日本軍隊長らがノーベル賞作家で「沖縄ノート」の著者大江健三郎さん(73)と出版元の岩波書店を相手に出版差し止めや2000万円の慰謝料などを求めた訴訟の判決で、大阪地裁(深見敏正裁判長)は3月28日、「集団自決に旧日本軍が深くかかわったと認められる」とした上で、名誉毀損は成立しないとして請求を棄却しました。

この訴訟がおきたことを理由の1つとして、昨年度の高校教科書検定では「旧日本軍による強制」の記述を削除させたという経緯があったために、この判決が広く注目されていました。

4月1日追記:名誉毀損に基づく損害賠償につき、細かい法解釈論を追記しました)
4月5日追記:判例解説があることの指摘と、原告が控訴したとの事実と引用しました)


1.まず報道記事をいくつか。

(1) 東京新聞平成20年3月28日付夕刊1面

集団自決『軍、深く関与』出版差し止め訴訟 大江さん側勝訴 大阪地裁
2008年3月28日 夕刊

 太平洋戦争末期の沖縄戦で軍指揮官が「集団自決」を命じたとする岩波新書「沖縄ノート」などの記述をめぐり、沖縄・慶良間諸島の当時の守備隊長らが、岩波書店と作家大江健三郎さん(73)に出版差し止めなどを求めた訴訟の判決で、大阪地裁は二十八日、請求を棄却した。元守備隊長らは控訴の方針。 =判決要旨<2>関連<11>面

 判決理由で深見敏正裁判長は「集団自決に軍が深く関与したのは認められる」と指摘。その上で「元守備隊長らが命令を出したとは断定できないとしても、大江さんらが命令があったと信じるに相当の理由があった」とした。

 この訴訟は軍の「強制」の記述削除を求めた教科書検定意見の根拠の一つともされたほか、ノーベル賞作家の大江さん本人が出廷し証言するなど司法判断が注目を集めていたが、判決は史実論争に一歩踏み込んだ形となった。

 判決は、軍が関与した理由として(1)兵士が自決用の手りゅう弾を配ったとする住民証言(2)軍が駐屯していなかった島では集団自決がなかった-を挙げた。

 その上で「守備隊長の関与は十分推認できる」としたが、命令の伝達経路がはっきりしないことから「本の記述通りの命令まで認定するのはためらいがある」とした。

 座間味島の元守備隊長梅沢裕さん(91)と、渡嘉敷島の元守備隊長の弟赤松秀一さん(75)は二〇〇五年八月、大江さんの「沖縄ノート」、故家永三郎さんの「太平洋戦争」の集団自決に関する部分をめぐり「誤った記述で非道な人物と認識される」として提訴した。

 岩波書店の話 わたしたちの主張を認めた妥当な判決。沈黙を破って貴重な証言をしていただいた沖縄の生存者の方々ほか、多くの支援、協力に感謝する。」




(2) 朝日新聞平成20年3月28日付夕刊1面

「沖縄ノート」訴訟、元隊長の請求棄却 大阪地裁
2008年03月28日12時23分

 太平洋戦争末期の沖縄戦で、旧日本軍が住民に集団自決を命じたとした岩波新書「沖縄ノート」などの記述で名誉を傷つけられたとして、元戦隊長と遺族が著者でノーベル賞作家の大江健三郎さん(73)と出版元の岩波書店(東京)に出版差し止めや損害賠償を求めた訴訟の判決が28日、大阪地裁であった。深見敏正裁判長は「元戦隊長の命令があったとは断定できないが、関与は十分推認できる」とし、集団自決には「旧日本軍が深くかかわった」と認定。元隊長らを匿名で「事件の責任者」などとした記述には「合理的資料や根拠があった」として名誉棄損にはあたらないと判断し、請求をすべて棄却した。元隊長側は控訴する方針。

 原告は、大阪府内に住む元座間味島戦隊長で元少佐の梅沢裕さん(91)と、元渡嘉敷島戦隊長で元大尉の故・赤松嘉次さんの弟秀一さん(75)。裁判は、高校歴史教科書の検定にも影響を与えており、軍の関与の有無が最大の争点だった。

 判決は、集団自決について、軍から自決用に手榴弾(しゅ・りゅう・だん)が配られたという生存者の証言が多数ある▽手榴弾は戦隊にとって極めて貴重な武器で、軍以外からの入手は困難▽集団自決が起きたすべての場所に軍が駐屯し、駐屯しない場所では発生しなかったことなどを踏まえ、集団自決への「軍の深い関与」を認定した。

 そのうえで座間味、渡嘉敷両島では元隊長2人を頂点とする「上意下達の組織」があり、元隊長らの関与は十分に推認できるとしつつ、「自決命令の伝達経路は判然とせず、命令それ自体まで認定することには躊躇(ちゅう・ちょ)を禁じ得ない」とした。だが、本のもととなった住民の証言集など元隊長の関与を示す内容は「合理的で根拠がある」と評価し、大江さん側が「命令があったと信じる相当の理由があった」と結論づけた。

 「隊長命令説」は遺族年金を受けるために住民らが捏造(ねつ・ぞう)したとする元隊長側の主張についても、住民の証言が年金の適用が始まる前から存在していたとして退けた。

 また判決は、元隊長らの実名を挙げて住民に自決を命じたと指摘した歴史学者の故・家永三郎さんの著作「太平洋戦争」(68年、岩波書店)も、名誉棄損は成立しないとの判断を示した。

 「沖縄ノート」は、住民の証言集など集団自決の証言を集めた文献を引用しながら、両島では「部隊の行動をさまたげないために、また食糧を部隊に提供するため、いさぎよく自決せよ」という軍の命令があったと指摘した。

 元隊長側は裁判で「住民に集団自決を命じた事実はない。逆に、住民には自決しないよう厳しくいさめ、後方で生き延びるよう伝えた」などと軍の命令を否定。集団自決は「家族の無理心中」と受け止めるのが自然と訴えた。

 大江さん側は、「日本軍が『軍官民共生共死』の方針を住民らに担わせ、タテの構造の中で自決を強制したことは明らか」と反論していた。

     ◇

 〈沖縄戦集団自決と教科書検定〉 1945年3月下旬、米軍は沖縄本島西の座間味島と渡嘉敷島を攻撃し、4月に本島に上陸した。沖縄各地で住民の集団自決が相次ぎ、座間味島では約130人、渡嘉敷島では300人以上の住民が手榴弾などで亡くなったとされる。

 05年8月に提訴された今回の訴訟は、高校の教科書検定に影響を与え、昨春には「軍の強制」を示す記述がいったん削除された。だが、沖縄県で反発が強まり、文部科学省は昨年末までに、「軍が強制した」という直接的な記述は避けつつ、「軍の関与」を示す表現を復活させる教科書6社の訂正申請を承認した。」




この訴訟については、「軍や元隊長による自決命令の有無が主な争点」とされていますが、法律的には、出版物の表現が個人の名誉を毀損するか否か(名誉毀損に基づく不法行為(民法709条)の有無)を巡って争われたものです。ですから、法律的には、「『軍や元隊長による自決命令があった』と信じる相当の理由があったか否か」が争点であり、「軍や元隊長による自決命令の有無」は法律的に主要な争点ではありません。

「判決理由で深見敏正裁判長は「集団自決に軍が深く関与したのは認められる」と指摘。その上で「元守備隊長らが命令を出したとは断定できないとしても、大江さんらが命令があったと信じるに相当の理由があった」とした。」(東京新聞)

「判決は、集団自決について、軍から自決用に手榴弾(しゅ・りゅう・だん)が配られたという生存者の証言が多数ある▽手榴弾は戦隊にとって極めて貴重な武器で、軍以外からの入手は困難▽集団自決が起きたすべての場所に軍が駐屯し、駐屯しない場所では発生しなかったことなどを踏まえ、集団自決への「軍の深い関与」を認定した。

 そのうえで座間味、渡嘉敷両島では元隊長2人を頂点とする「上意下達の組織」があり、元隊長らの関与は十分に推認できるとしつつ、「自決命令の伝達経路は判然とせず、命令それ自体まで認定することには躊躇(ちゅう・ちょ)を禁じ得ない」とした。だが、本のもととなった住民の証言集など元隊長の関与を示す内容は「合理的で根拠がある」と評価し、大江さん側が「命令があったと信じる相当の理由があった」と結論づけた。」(朝日新聞)


このように本判決は、著作のもととなった住民の証言集(1950年に地元新聞「沖縄タイムス」の記者がまとめた住民の証言集「鉄の暴風」)や関連文献(『沖縄県史 第10巻』『座間味村史 下巻』『沖縄の証言』)など元隊長の関与を示す内容は「合理的で根拠がある」と評価して、 「軍や元隊長による自決命令があった」と信じる相当の理由があったと認定したため、名誉毀損は成立しないことになったわけです。

戦後まもなくの住民証言(「鉄の暴風」)は、もっとも生々しい記憶を基にしてなされたのですから、信用性は高いといえます。ですから、その住民の証言集などに基づいた記述は、 「軍や元隊長による自決命令があった」と信じる相当の理由があったといえることは、ごく素直な判断です。この意味で、本判決の判断はどの裁判所であっても揺らぐことのない判断であり、(原告は控訴する意向のようですが)控訴審においても名誉毀損は成立しないとの判断が認められる可能性が極めて高いといえます。



2.解説記事を幾つか。

(1) 東京新聞平成20年3月28日付夕刊1面「解説」(C版)

教科書検定にも影響

 沖縄集団自決訴訟で、元守備隊長らの請求を退けた28日の大阪地裁判決は、隊長命令があったと断定しなかったが、軍の深い関与を認定。教科書検定問題にも発展した史実論争に一石を投じた。

 今回と同じようなケースに、日中戦争で中国兵らを「百人斬り」したとの報道や記述をめぐり、旧日本軍少尉の遺族が起こした訴訟がある。東京地裁は2005年、「歴史的評価が定まっておらず、記述が明白に虚偽とは言えない」と請求を棄却。遺族は最高裁まで争ったが敗訴が確定した。

 出版社側に有利な事情もあった。これまでも「軍の強制」を明記した教科書は検定に合格しており、命令説はいわば「通説」だった。最高裁は1997年の「第三次家永教科書訴訟」判決で、軍の命令も集団自決の一因だとすることにほぼ異論がなかった学界の状況に触れていた。

 その中で、「軍の強制」の記述削除を求め、その後事実上撤回した教科書検定審議会の突出ぶりは際立ち、拙速のそしりを免れないだろう。史実を検証し、誤りを正すことは当然重要だ。ただ慎重さを欠く見直しは、歴史から学ぶ機会を奪う危険をはらんでいる。」



東京新聞は、名誉毀損が成立しない背景を3点指摘しています。

「今回と同じようなケースに、日中戦争で中国兵らを「百人斬り」したとの報道や記述をめぐり、旧日本軍少尉の遺族が起こした訴訟がある。東京地裁は2005年、「歴史的評価が定まっておらず、記述が明白に虚偽とは言えない」と請求を棄却。遺族は最高裁まで争ったが敗訴が確定した。

 出版社側に有利な事情もあった。これまでも「軍の強制」を明記した教科書は検定に合格しており、命令説はいわば「通説」だった。最高裁は1997年の「第三次家永教科書訴訟」判決で、軍の命令も集団自決の一因だとすることにほぼ異論がなかった学界の状況に触れていた。」


要するに、<1>同様のケースである、日中戦争で中国兵らを「百人斬り」したとの報道や記述をめぐり、旧日本軍少尉の遺族が起こした訴訟について、遺族は最高裁まで争ったが敗訴が確定していること、<2>「軍の強制」を明記した教科書は検定に合格しており、命令説はいわば「通説」であること、<3>最高裁は1997年の「第三次家永教科書訴訟」判決で、軍の命令も集団自決の一因だとすることにほぼ異論がなかった学界の状況に触れていたこと、の3点です。

このように、つい最近、「百人斬り」訴訟で最高裁(最高裁平成18年12月22日決定は上告棄却)が出ていること、命令説は通説であり、「第三次家永教科書訴訟」判決で、最高裁が軍の命令を認めているのが学説であることに疑問を差し挟んでいないのですから、これだけ強固な背景が揃っていれば、被告側は訴訟で負けようがないでしょう。



(2) 朝日新聞平成20年3月28日付夕刊1面「解説」

住民の証言認める

 28日の大阪地裁判決は、元戦隊長2人が「命令」を出したとまでは断定できないものの「関与」は推定できるとし、大江さんらが住民の集団自決への「軍命令」を真実と考えたことには理由があると判断した。命令を裏付ける文書などの「直接証拠」がないとされるなかで、「軍の深い関与」を認める初の司法判断となった。

 出版物の表現が個人の名誉を棄損するかは、過去の判例から<1>取り上げる問題に公共性・公益目的があるか<2>真実または真実と信じるに足りるだけの理由があるかが判断基準とされる。沖縄戦の問題を扱った著作の「公共性」に争いはなく、「軍の命令は真実」と信じる十分な理由があったかが焦点となった。

 大江さんらが「軍命令」を信じるもととなったのは、1950年に地元新聞「沖縄タイムス」の記者がまとめた住民の証言集「鉄の暴風」や関連文献だった。一方、元隊長側は証言には伝聞が多く、うそが含まれていると反論。集団自決の前夜に梅沢元隊長に自決用弾薬をもらいにいって断られたと80年代になって語り始めた住民女性の話などを引き合いに出し、元隊長らの命令はなかったと訴えていた。しかし、判決は、戦後まもなくの住民証言の信用性は高く、「軍の命令」と信じる合理的な根拠になると認めた。

 判決は、「軍の強制」表現の削除をへて、軍の主要な関与の記述が復活された現高校教科書の歴史認識を支える内容となる。(阪本輝昭)」



朝日新聞の解説では、この訴訟の法律的な争点について端的に示しています。

「出版物の表現が個人の名誉を棄損するかは、過去の判例から<1>取り上げる問題に公共性・公益目的があるか<2>真実または真実と信じるに足りるだけの理由があるかが判断基準とされる。沖縄戦の問題を扱った著作の「公共性」に争いはなく、「軍の命令は真実」と信じる十分な理由があったかが焦点となった。」



「過去の判例から」とあるので、出版物による名誉毀損に関する判例について、その判示を幾つか引用しておきます。

「民事上の不法行為たる名誉棄損については、その行為が公共の利害に関する事実に係りもつぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、右行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当であり、もし、右事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、右行為には故意もしくは過失がなく、結局、不法行為は成立しないものと解するのが相当である(このことは、刑法二三〇条の二の規定の趣旨からも十分窺うことができる。)。」(最高裁昭和41年06月23日判決

「事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,上記行為には違法性がなく,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁,最高裁昭和56年(オ)第25号同58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)。」(最高裁平成16年07月15日判決


このように、すでに幾つかの最高裁判例があり、確立した基準となっています。本判決(大阪地裁)も、この確立した基準を踏襲して判断を行っています。

朝日新聞の解説が指摘するように、判例の判断基準のうち、「公共性・公益目的」は問題ないため、<2>真実または真実と信じるに足りるだけの理由があるかという点、すなわち、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があるか、または、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があるか否かを満たすかどうかが争われたのです。

具体的には、「軍の命令は真実」と信じる十分な理由があったかが焦点になったわけです。要するに、「軍の命令があった」という証明をしてもいいのですが、そういう証明をしなくても、客観的に「軍の命令があった」否かでなく、「軍の命令があった」と信じるについて相当の理由があるという証明をすれば足りるのです。


<4月1日追記>

細かい法解釈論を少し追記しておきます。

「摘示された事実がその重要な部分について真実であること」の基準時は、口頭弁論終結時に客観的に判断し、その行為時に存在しなかった証拠を考慮することができます(最高裁平成14年1月29日判決、判例タイムズ1086号102頁)。これに対して、「事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由」があることの基準時は、行為時です(最高裁判所判例解説(民事篇)平成11年度658頁)。ですから、現在になって、いくら記述を否定するような新証言が出てきたからといって、「事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由」がないと判断することは相当に困難です。

「相当な理由」については、取材対象の信頼度、裏付け調査の程度、記事掲載の迅速性の要請、取材の信頼度に対応した記事として掲載したか等の事情を勘案して判断します(最高裁判所判例解説(民事篇)平成11年度660頁、岡口基一『要件事実マニュアル(第2版)下(ぎょうせい、平成19年)197頁)。今回の事案の場合、1950年に地元新聞「沖縄タイムス」の記者がまとめた住民の証言集「鉄の暴風」や関連文献を基にしたのですから、十分に「相当な理由」を満たすようなものであったといえるでしょう。



(3) 読売新聞平成20年3月28日付夕刊26面

◆細部こだわらず

 我部政男・山梨学院大教授(日本近代史)の話 「これまでの学問の成果を尊重した、極めて妥当で常識的な判断だ。軍の命令について、命令書の有無などの細かな点にこだわると水掛け論になってしまうが、裁判所はそこにこだわらず、背景をとらえて本質をみた。従軍慰安婦問題などのアジアの人たちの被害を時効を理由に門前払いしてきた司法が、今回、賢明な判断をしたことは、沖縄や日本人に対してだけでなく、アジアの人たちへの感情への配慮も感じられる」

◆法的判断を放棄

 現代史家の秦郁彦氏の話 「法的判断を放棄したとしか思えない奇妙で意外な判決。争点は隊長の自決命令があったかどうかであり、『自決命令それ自体まで認定することには躊躇(ちゅうちょ)を禁じ得ない』と、命令が出ていない可能性さえ認めているのに、『関与』という表現に置き換えて逃げている。日本軍がいなかったところでは集団自決が発生しなかったというのも、日本軍がいないところには米軍が攻めてこなかったのだから当たり前で、素人的な議論に終始している。実質的論議は控訴審で争われることになるだろう」



「これまでの学問の成果」は「軍の命令があった」というのが通説ですから、その通説を尊重したのですから、我部政男・山梨学院大教授が述べるように「極めて妥当で常識的な判断だ」という理解になります。

それに引き換え、秦郁彦氏が争点は隊長の自決命令があったかどうかであり、「法的判断を放棄したとしか思えない奇妙で意外な判決」と述べているのは、誤った理解です。法律的には、「『軍や元隊長による自決命令があった』と信じる相当の理由があったか否か」が争点なのであり、「軍や元隊長による自決命令の有無」は法律的な争点ではないのですから。

また、秦郁彦氏は、「『自決命令それ自体まで認定することには躊躇(ちゅうちょ)を禁じ得ない』と、命令が出ていない可能性さえ認めている」としています。しかし、「躊躇を禁じ得ない」としているのは、裁判所としては自決命令があったと断定しにくいというだけのことで、命令が出ていない可能性を認めているという意味ではありません。裁判所としては、名誉毀損における判例の基準からすれば、「軍の命令があった」という認定をしなくてもいいのですから、別におかしな判示ではありません。

秦郁彦氏は「実質的論議は控訴審で争われることになるだろう」と述べています。その実質的論議の中身としては、「隊長の自決命令があったかどうか」を論議するということなのでしょうが、控訴審でも、名誉毀損における過去の判例の基準に従う以上、その判決文は「軍の命令があった」と信じるについて相当の理由があると判断されるだけだと思われます。秦郁彦氏の期待は、控訴審でも裏切られる結果になりそうです。




3.この事案は、過去の確立した判例の基準に従う限り、名誉毀損は成立しないとの判断となる可能性が極めて高いのであり、過去の確立した判例を分かっている以上、本判決の結果は訴訟を提起する前から十分に予測できたはずです。


(1) そうなると、原告、少なくとも原告側の弁護士は敗訴すると分かっていたはずなのに、なぜ、この原告が大江健三郎さんと出版元の岩波書店を訴えたのだろうかということです。

「今回の裁判は、「沖縄ノート」の著者でノーベル賞作家の大江健三郎さんと出版元の岩波書店を訴えたものだが、そもそも提訴に無理があった。

 「沖縄ノート」には座間味島で起きた集団自決の具体的な記述はほとんどなく、元隊長が自決命令を出したとは書かれていない。さらに驚かされたのは、元隊長の法廷での発言である。「沖縄ノート」を読んだのは裁判を起こした後だった、と述べたのだ。

 それでも提訴に踏み切った背景には、著名な大江さんを標的に据えることで、日本軍が集団自決を強いたという従来の見方をひっくり返したいという狙いがあったのだろう。一部の学者らが原告の支援に回ったのも、この提訴を機に集団自決についての歴史認識を変えようという思惑があったからに違いない。」(朝日新聞平成20年3月29日付「社説:集団自決判決―司法も認めた軍の関与」)


「沖縄ノート」には元隊長が自決命令を出したとは書かれていないのに、なぜ 「沖縄ノート」が「軍や元隊長による自決命令があった」と虚偽の事実を書いたというのか、意味不明です。しかも、原告の元隊長は、「沖縄ノート」を読むことなく、裁判を起こしたのです。裁判提起前に「沖縄ノートを読んでもいないのに、なぜ裁判前に「沖縄ノート」によって名誉を毀損されたといえるのか、訳が分かりません。元々、勝訴の見込みのない、無理な訴訟であったといえるのです。

勝訴の見込みのない、無理な訴訟であったのに、「提訴に踏み切った背景には、著名な大江さんを標的に据えることで、日本軍が集団自決を強いたという従来の見方をひっくり返したいという狙いがあった」ようです。しかし、訴訟を起こしたおかげで、かえって司法判断として、「集団自決には日本軍が深くかかわったと認められる」と述べる結果となってしまい、藪蛇(やぶへび)になってしまいました。



(2) この訴訟がおきたことを理由の1つとして、昨年度の高校教科書検定では「旧日本軍による強制」の記述を削除させたという経緯があった点も、問題の1つです。

 「裁判は、06年度の高校日本史教科書の検定にも影響を与えた。文部科学省は、原告らの主張を根拠の一つとして、軍の「強制」があったという趣旨の記述に対して検定意見を付け、これを受けていったんは修正、削除された。

 しかし、沖縄県民をはじめとした激しい反発が起こり、軍の「関与」を認めたり「強制的」とする記述が復活した。判決は、当初の検定意見に見られる文科省の認識のあやふやさに疑問を突きつけた形で、文科省として反省と検証が必要である。

 沖縄県民の反発の背景には、本土防衛の捨て石にされたという思いや、それをきっかけに現在の米軍基地の島と化したことへの怒りがある。

 判決は、当時の軍がいったん米軍に保護された住民を処刑するなど、情報漏れを過度に恐れていた点を指摘している。国民を守るべき軍隊が戦闘を最優先目的として国民に犠牲を強いた構図が浮かび上がり、沖縄県民が共有する不信を裏付けたことになる。」(毎日新聞平成20年3月29日付「社説:沖縄ノート判決 軍の関与認めた意味は大きい」


本判決が「集団自決に旧日本軍が深くかかわったと認められる」と判断した以上、元隊長らの一方的な主張をよりどころにした文科省は、反省と検証を迫られることになりました。

教科書検定は最終的には「軍の関与」を認めましたが、元隊長らの一方的な主張に基づき無理やりに日本軍の責任を軽減しようとし、また、「当時の軍がいったん米軍に保護された住民を処刑する」など「国民を守るべき軍隊が戦闘を最優先目的として国民に犠牲を強いた」という汚点をことさらに矮小化することによって、歴史認識を歪めようとする文科省の姿勢自体にこそ最も問題があったといえるのです。



<追記>

この沖縄戦集団自決訴訟についての詳しい争点などについては、「大江健三郎・岩波書店沖縄戦裁判支援連絡会」をご覧ください。



<4月5日追記>

「日本ジャーナリスト会議」の「梅田 正己 ■沖縄「集団自決」裁判(大江・岩波訴訟)■『司法の近頃まれに見る理性的判決』」では、判例の解説をしています。ご覧ください。なお、本判決の判決要旨については、「沖縄タイムス」の「「集団自決」訴訟判決(要旨)」(2008年3月29日(土) 朝刊 1・10面)をご覧ください。

太平洋戦争末期の沖縄戦を取り上げた岩波新書「沖縄ノート」(岩波書店)などをめぐる出版差し止め・損害賠償請求訴訟で、住民に集団自決を命じたと書かれ、名誉を傷つけられたと主張している原告の元戦隊長側は4月2日、集団自決への「旧日本軍の深い関与」を認定して請求を棄却した3月28日の大阪地裁判決を不服として、控訴しました(朝日新聞)。原告弁護団は、大阪地裁判決について「法解釈も事実認定も不当。偏見に満ちた判決だ」とコメントしています。

しかし、大阪地裁判決は確立した判例の基準に従っているのですから、不当な「法解釈」はありません。原告弁護団は確立した判例基準自体が間違っているというのでしょうか。無謀な主張です。また、事実認定も素直なものであって、法解釈と事実認定に「偏見」は見あたりません。エントリー中では、原告弁護団は最初から敗訴することは予測していたはずだと書きましたが、原告弁護団は、名誉毀損訴訟についてまるで理解していなかったようです。

テーマ:裁判 - ジャンル:政治・経済

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コメント
この記事へのコメント
お久しぶりです。藹です。

仰る通りです。

当該判決に対して批判している人の中には、民法の名誉毀損の成立要件を確認もされていないような方が少なくありませんし、そもそもどうもこの訴訟の請求内容を理解せずに、全く的外れの批判をされている方が多いように思います。

困ったものです。
2008/03/29 Sat 23:27:07
URL | 藹 #2wVHmwyI[ 編集 ]
「沖縄ノート」には元隊長が自決命令を出したとは書かれていないのに、なぜ 「沖縄ノート」が「軍や元隊長による自決命令があった」と虚偽の事実を書いたというのか、意味不明です。

中国新聞の判決要旨によると、

http://www.chugoku-np.co.jp/NewsPack/CN2008032801000358_Detail.html
 「沖縄ノート」は座間味島と渡嘉敷島の元守備隊長を原告梅沢及び赤松大尉だと明示していないが、引用された文献、新聞報道などで同定は可能。書籍の記載は、2人が残忍な集団自決を命じた者だとしているから社会的評価を低下させる。

とあるので、意味不明とまではいえないと思います。

というか、「元隊長が自決命令を出した」と書いたこと(社会的評価を低下させたこと)が認められなければ、
そもそも真実性に関する判断はされないと思います。

まあ、裁判を起こした後に「沖縄ノート」を読んだというのは驚きですけど…。
2008/03/30 Sun 11:52:10
URL | イロハ #-[ 編集 ]
>藹さん:2008/03/29 Sat 23:27:07
コメントありがとうございます。
お久しぶりです。お元気でしたか? ブログの方は更新なされていないので(ミクシィでは更新なされているのかもしれませんが)、心配していました。


>当該判決に対して批判している人の中には、民法の名誉毀損の成立要件を確認もされていないような方が少なくありません

一般の人なら民法の名誉毀損の成立要件を知らないままで批判しても仕方がないのかなと、多少思います。もちろん、まったく批判になっていないわけですけど。

しかし、ジャーナリストや新聞の社説(産経新聞3月29日付「社説」)が、民法の名誉毀損の成立要件を知らないで批判するのは「仕方がない」では済まされません。間違った批判を流布するのは止めてほしいですね。


>そもそもどうもこの訴訟の請求内容を理解せずに、全く的外れの批判をされている方が多い

あらら。そういう方もいるんですか!?

そういえば、ブログを検索していたら、「裁判員制度が実施されたら、こういう結果にならない」などと本判決を批判している人も何人かいましたね。裁判員制度を実施するのは、刑事裁判だけという理解も、また定着していないのかなと感じました。大丈夫なのか、裁判員制度!(苦笑)


>困ったものです

いやーホント困ったものです。出版物による名誉毀損は、一般人でもその被害をこうむる可能性は十分にあるわけですから、よく知っておいた方がいいのですけどね~。
2008/03/30 Sun 17:22:26
URL | 春霞 #ExKs7N9I[ 編集 ]
>イロハさん:2008/03/30 Sun 11:52:10
はじめまして、コメントありがとうございます。


>> 「沖縄ノート」は座間味島と渡嘉敷島の元守備隊長を原告梅沢及び赤松大尉だと明示していないが、引用された文献、新聞報道などで同定は可能。書籍の記載は、2人が残忍な集団自決を命じた者だとしているから社会的評価を低下させる。
>とあるので、意味不明とまではいえないと思います

普通は、著書にご本人(被害者)の名前があるか、仮になくても著作の中で本人(被害者)だとすぐに分かるからこそ、社会一般(読者)は被害者が誰か特定でき、そのためその出版物で「社会的」評価を低下させる、となるわけです。

本判決では、「明示していないが、引用された文献、新聞報道などで同定は可能」としています。しかし、「沖縄ノート」には明示がなく、引用された参考文献まで見ないと分からないのです。しかも、「沖縄ノート」は1970年発行ですから、参考文献として引用した新聞報道となるとそれ以上に前の年代のものですから、読者一般にとって検索もそう容易いものではない。(国会図書館で利用者登録をして検索するなど、検索不可能ではありませんが) このブログにしても、多数の参考文献を引用することがありますが、参考文献を引用すればそれをまるごと同意しているわけではないのですから、そこをみれば名誉毀損になると言われたら、かなりの驚きです。

ですから、この訴訟の事案(「沖縄ノート」に関して)の場合、氏名を明示していなくても、参考文献を引用していれば明示しているのと同じと認められる(「同定」)という理解は、相当に無理があり、素直な理解とは言い難いと思うのです。

意味不明とまでは言いすぎの感があったかもしれませんが、氏名を明示していなくても名誉毀損とか、明示していなくても「同定」というのは相当に無理のある理解なので、「意味不明」としました。はっきりいえば、この点では本判決に批判的立場ということになります。


>そもそも真実性に関する判断はされない

訴訟でも争点になっていましたが、元々、一般の読者に特定されず、社会的評価を低下することになっていないとした方がよかったかもしれません。もしかしたら、控訴審ではそう判断して請求を棄却するかも。


>まあ、裁判を起こした後に「沖縄ノート」を読んだというのは驚きですけど…。

そうですよね。そんな訴訟はまずないと思います。裁判官も、そんな原告の証言を聞いて、唖然とするというかガクッときてしまったでしょうね。この原告の決定的な証言だけで、裁判官も原告敗訴の結果にしようという心証をもったのではないでしょうか。
2008/03/30 Sun 17:51:04
URL | 春霞 #ExKs7N9I[ 編集 ]
私は元気です
春霞さん、こんばんは。藹です。

すうたまちゃんのブログの更新は、侭ならない状態であることは否定しようがない事実ですね。

確かに、ミクシィの日記は、時折書いています。
ニュースのネタに関するコメントという、全く面白くないものですけど…。

当方は、すうたま事業の復活のために、様々な事業を手当たり次第に行っています。

現在のところ、小売業に力を入れています。
ネットでは、海洋深層水を扱っていますので、また宜しくお願い致します。
因みに、このサイトです。

http://deepseawatermahalo.blog96.fc2.com/
2008/03/31 Mon 03:01:41
URL | 藹 #2wVHmwyI[ 編集 ]
>藹さん:2008/03/31 Mon 03:01:41
元気ということですので、それは良かったです。

>すうたま事業の復活のため

こちらからも「復活」をお願いしたいです。いつの日かの復活を待っています。


>ネットでは、海洋深層水を扱っています
>因みに、このサイトです

お知らせ、ありがとうございます。購入することがあるかもしれません。
2008/04/02 Wed 07:39:23
URL | 春霞 #ExKs7N9I[ 編集 ]
名誉毀損
私はこの判決を週刊誌はどう取り上げるのかなと意地悪く考えてしまいました。
週刊誌はよく名誉毀損で訴えられ、負けて賠償金支払いを命じられることもあります。
そんな週刊誌が「名誉毀損を認めるべき!」などと言ったら、自分たちが書く記事がますます名誉毀損で訴えられて負けることを認めないといけなくなるんじゃないかと。
映画「靖国」問題では稲田議員を応援する週刊Sも、さすがにこちらは稲田応援団になれないのでは。もっとも、平気でダブルスタンダードをやる厚顔無恥かもしれないから、わかりませんけどね。
2008/04/04 Fri 05:33:48
URL | kiriko #-[ 編集 ]
>kirikoさん:2008/04/04 Fri 05:33:48
コメントありがとうございます。

>そんな週刊誌が「名誉毀損を認めるべき!」などと言ったら、自分たちが書く記事がますます名誉毀損で訴えられて負けることを認めないといけなくなるんじゃないかと

kirikoさんのご指摘は素晴らしいです。「名誉毀損を認めるべき!」なんて書いてあったら面白いですね。「そんな記事を書くなら、自分が被告となったときは簡単に名誉毀損を認めるにちがいない!」と、みんなから盛んに揶揄されるでしょう。

ぜひ、普段えげつない記事ばかりの週刊Sは「名誉毀損を認めるべき!」という記事を書いてほしいです。そして、裁判所は、週刊Sに対しては、どしどし名誉毀損を認めて高額賠償を負わせてほしいですね。


>映画「靖国」問題では稲田議員を応援する週刊Sも、さすがにこちらは稲田応援団になれないのでは

そうでしょうね。週刊Sは名誉毀損訴訟に関しては身に沁みて分かっているはずですから、判決をみれば「原告はもうダメだ」と分かるはずです。本当なら、「名誉毀損を認めるべき!」という記事を出してほしいところですが、腰が引けた記事になるのでしょうね。

週刊Sのことだから、朝日新聞だけでなく、原告をも茶化すマネをしてみせるかもしれませんね。もう完全に傍観者というか、他人事になってしまうのでしょう。そういう態度こそ、週刊Sに相応しいかと。
2008/04/04 Fri 23:58:00
URL | 春霞 #ExKs7N9I[ 編集 ]
はじめましてm(_ _)m
一項目めで名誉毀損の構成要件を満たしているように判示された事は俺も確かに違和感があるし、微妙な所だと思うんですが、ちょっと、昔あった『柳美里裁判』の事を思い出しました。

あれも新聞等で読んだ限りでは名誉毀損になるかどうか微妙な裁判だったと思うんですが、結局被告は名誉毀損に問われ完全敗訴になったと記憶しています。

という事は、今回の裁判の肝は、いわゆる『公共性』という事だったんでしょうか?

そこが重視された為、原告敗訴になった、と。



ただ、判決理由全体としては予想よりかなり踏み込んだ判決だったように思います。
事実認定の部分については、もっとぼかしてくると思っていたので。


まぁとりあえず、この裁判は高裁以降も注目していきたいですね。

2008/04/05 Sat 03:49:43
URL | た~ん #-[ 編集 ]
>た~んさん:2008/04/05 Sat 03:49:43
はじめまして、コメントありがとうございます。


>一項目めで名誉毀損の構成要件を満たしているように判示された事は俺も確かに違和感があるし、微妙な所だと思うんですが

ご賛同、ありがとうございます。


>ちょっと、昔あった『柳美里裁判』の事を思い出しました

「石に泳ぐ魚」事件(最判平成14年9月24日判決)ですね。この事件は、柳美里さんの小説に、モデルとなった女性が、顔の腫瘍、国籍、出身大学、専攻、家族の経歴や職業などがそのまま描写されていることを知り、出版差し止めと慰謝料を請求した事案ですね。最高裁は、「本件小説中の『朴里花』と被上告人とは容易に同定可能であり,本件小説及び『表現のエチカ』の公表により,被上告人の名誉が毀損され,プライバシー及び名誉感情が侵害された」としました。
http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~suga/hanrei/11-3.html

この事件でも、小説中に実名はなかったため、「同定」の有無が問題がなりました。この点では、沖縄戦集団自決訴訟と同じですね。
ただ、さすがにこの事件では、モデルとなった女性の多くの特徴を暴露しすぎで、それも顔の腫瘍というあまりも分かりやすい特徴を暴露しているので、裁判所は「容易に同定可能」という判断をしているわけです。


>あれも新聞等で読んだ限りでは名誉毀損になるかどうか微妙な裁判だったと思うんですが、結局被告は名誉毀損に問われ完全敗訴になったと記憶しています

「石に泳ぐ魚」事件は、名誉・プライバシー・名誉感情を害したものであるのに対して、沖縄戦集団自決訴訟は名誉を害したとされるものです。仰るとおり、名誉毀損の点では共通していますし、柳美里さん側の敗訴でした。
もっとも、「石に泳ぐ魚」事件は、特にプライバシー侵害が問題となったものでしたから、いささか違いがありますね。「石に泳ぐ魚」事件は小説というフィクションであるという違いもあります。


>という事は、今回の裁判の肝は、いわゆる『公共性』という事だったんでしょうか?
>そこが重視された為、原告敗訴になった、と。

エントリーで触れたように名誉毀損を免責するためには公共性が必要ですし、また、プライバシーも公共の利害に直接関係する場合には一定範囲内で私生活の公開は許されることもあります(東京地裁昭和39年9月28日判決)。「石に泳ぐ魚」事件の最高裁は、モデルとなった女性は「大学院生にすぎず公的立場にある者ではなく,また,本件小説において問題とされている表現内容は,公共の利害に関する事項でもない」としており、公共性はまるでありませんでした。柳美里さん側の全面敗訴ですね。

沖縄戦集団自決訴訟は、判決要旨によると「『太平洋戦争』は,太平洋戦争を評価,研究する歴史研究書であり,沖縄ノートは,日本人とは何かを見つめ,戦後民主主義を問い直した書籍であって,原告梅澤及び赤松大尉に関する本件各記述を掲載した本件各書籍は公共の利害に関する事実に係わり,もっぱら公益を図る目的で出版されたものと認められる。」としています。こちらの事件では、公共性があることは明白でした。
http://okinawasen.web5.jp/

このように、両事件を比較した場合、公共性の有無は大きな違いですね。仰るとおり「(公共性が)重視された為、原告敗訴になった」面もあるのでしょうが、名誉毀損が問題となった事件とプライバシーが問題となった事件の性質の違いの方が大きいかな~と思います。


>ただ、判決理由全体としては予想よりかなり踏み込んだ判決だったように思います。
>事実認定の部分については、もっとぼかしてくると思っていたので。

そうですね。かなり細かく判断しています。訴訟当事者の期待に応えた判決になっています。地裁ではこういう判決をしたりしますが、おそらくは高裁では、もっとあっさりとした判決で終わらせてしまうでしょうけど。


>まぁとりあえず、この裁判は高裁以降も注目していきたいですね。

そうですね。原告側がどういう主張をしていくのかを特に注目しています。それにしても、本判決を不当判決だと糾弾した保守論壇の法的知識のなさは、かなりがっかりさせられました。
2008/04/06 Sun 23:34:02
URL | 春霞 #ExKs7N9I[ 編集 ]
真実はどこに?
>藪蛇(やぶへび)になってしまいました。

起訴の真意は、少なからず広がりも見せていると思います。それは、軍国主義的なものでもなく、利己的なものでもなく、ただ故人への誠意なのでは?とも感じています。

失礼ながら、トラックバック送らせていただきました。
お時間のある時にでもごらん下さい!
2008/05/26 Mon 21:29:31
URL | 木村信教 #-[ 編集 ]
>木村信教さん:2008/05/26 Mon 21:29:31
はじめまして、TBとコメントありがとうございます。


>起訴の真意は、少なからず広がりも見せていると思います

民事裁判では、(原告が)「起訴」したとは使いません。「起訴」は、刑事裁判において検察側が行うことです。多少気になりましたので。


>真実はどこに?
>>藪蛇(やぶへび)になってしまいました。
>ただ故人への誠意なのでは?とも感じています

名誉毀損の裁判ですから、歴史的な「真実」を追究する場ではありませんし、元々、裁判は歴史を検証する場ではありません。

「出版物の表現が個人の名誉を棄損するかは、過去の判例から<1>取り上げる問題に公共性・公益目的があるか<2>真実または真実と信じるに足りるだけの理由があるかが判断基準とされる。沖縄戦の問題を扱った著作の「公共性」に争いはなく、「軍の命令は真実」と信じる十分な理由があったかが焦点となった。」(朝日新聞)

名誉毀損の裁判というものを理解していれば、裁判は「故人への誠意」を示す場でないことは分かったはずです。訴訟を起こさずに、「真実は違うのだ」と述べていた方が、ご本人にとっては良かったはずです。
2008/05/30 Fri 05:47:13
URL | 春霞 #5oClkA7g[ 編集 ]
承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
2009/09/30 Wed 11:32:28
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?ǵ?Фξ???Фξ??????YouTube?å???
2008/03/30(日) 20:26:24 | ???YouTube
    皆様のご支援に感謝致します! ありがとう! なんたって、原告側が、大江健三郎氏の「沖縄ノート」を読んでいなかったという事実。唖然とするしかないでしょう!これはもう、・・・・・。 反語のようになりますが、・・・・・ 曽野綾子の「ある神話の背景...
2008/03/31(月) 21:55:41 | 晴天とら日和
野球三昧の翌日、つまり昨日、は、朝から出張でございました。 もうヘロヘロ~。 ですが、↓こんなニュースを見つけたので、とりあえず魚拓をとっときましたー。 「沖縄ノート」訴訟、元軍人の請求棄却 大阪地裁(朝日新聞) 深見敏正裁判長は、元戦隊長の命令が...
2008/03/31(月) 23:13:18 | かめ?
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2008/05/26(月) 21:30:10 | 自分探しの心の旅路
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