やりたい放題だった村上ファンドが一転して危うくなったわけですが、それはともかく、一転して「共謀罪」法案が成立しそうだという点について、東京新聞の解説記事があるので、それにコメントしてみたいと思います。
1.東京新聞(平成18年6月1日付朝刊1面)における「解説」は、次のように論じています。
「参院選にらみ政略優先
『共謀罪』創設をめぐる与野党の攻防は1日、一度は今国会での法成立を断念した与党が突如、民主党の修正案を『丸のみ』する形で決着する方向となった。与党が『丸のみ』してでも成立にこだわったのは、世論の支持が野党に傾く『共謀罪』論争を、来年夏の参院選まで引っ張ろうと図る民主党の思惑をつぶすのが狙いだ。
与党は5月19日の衆院法務委員会で、強行採決も辞さない構えを見せていたが、小泉純一郎首相サイドは国会審議への影響を懸念。与党は河野洋平衆院議長のあっせんを受け入れる形で採決を見送った。この時点で事実上、強行採決は封印されてしまった。
そうなると民主党との修正協議に活路を見いだすしかないが、民主党案が、処罰対象を『国際的な組織犯罪』に限定している部分がネックとなった。与党は、国連で採決された共謀罪の新設を求める『国際組織犯罪防止条約』が、処罰対象を国際的な犯罪に限定してはならないとしていることから、ここだけは頑として譲らなかった。
それが一転、1日午後になって、自民党は民主党案の『丸のみ』を民主党に提案した。政府・与党は民主党案を『条約違反だ』と批判してきた。それを全面的に受け入れれば、整合性はどうなるのか。政府は2日の国会審議で、この点を明確に説明する責任がある。
自民党幹部は『まとまれば何でもいいんだ。(法制定後に)改正すればいい』と言い放った。民主党の攻撃封じという戦略だけが先行したご都合主義との批判は免れない。」
2.(1) ずっと与党は、「懲役禁固5年超に絞る、国際的な性格をもつ犯罪に限る」という民主党案を「条約違反だ」と批判してきました。それなのに、一転して、与党は民主党案の「丸のみ」を決めたのですから、どう考えてもおかしいですし、何か裏があると見るのが自然でしょう。
この記事によると、
のですから、「民主党の攻撃封じという戦略」だけで民主党の修正案を「丸のみ」したというこの記事の評価は極めて妥当だと思います。「自民党幹部は『まとまれば何でもいいんだ。(法制定後に)改正すればいい』と言い放った」
(2) 「民主党は2日の法務委員会で政府の答弁を聞いた上で、採決の是非を含む対応を最終的に決定する」(東京新聞平成18年6月2日付)そうですが、その採決は大変慎重であるべきだと思います。
毎日新聞のHPによると、
そうですから、政府答弁を非常に警戒して対応してくれるものと期待したいと思います。「菅直人代表代行は「これまで不可能と言っていたのに急に可能になるのは理解できない。首相が訪米するので『お土産』にするという首相の意向が反映しているのではないか」と指摘した。
与党の思惑に対する警戒感も強まっており、小沢一郎代表が鳩山由紀夫幹事長らに「慎重に事を運べ」と指示したのもその一環だ。鳩山氏は記者団に「すぐ採決という話にはならない。見極めないと大変危ない」と語った。
毎日新聞 2006年6月1日 21時59分 (最終更新時間 6月2日 1時04分)」
(3) 「保坂展人のどこどこ日記」さんの「神経戦が続く「共謀罪」の行方 速報 国会報告 / 2006年05月24日」というエントリーによると、民主党は次のような論点メモを渡しているそうです。
「民主党は今朝の法務部門会議で『共謀罪の課題』という論点メモを確認し、与党側に手渡したという。その論点とは、
1、「共謀罪」における「共謀」の要件(具体性・明示性など)・既遂となっている犯罪の共謀共同正犯における「共謀」と、結果が生じていない共謀罪における「共謀」との認定要件の明確化
2、「共謀取り消し」の合意の取り扱い・中止犯との関係
3、共謀罪の逮捕の要件(現行犯・逮捕令状)
4、「必要的刑の減免」の必要性とその範囲
5、「国際的性質の要件」の付加・外国のからの捜査共助要請があく場合の「国際的性質の要件」緩和
6、国際的な組織犯罪に対する国際協力を必要とする「重大な犯罪」の範囲
7、「組織的な犯罪集団」の要件・「団体のウチ、その構成員の継続的な結合関係の基礎となっている根本の目的が重大な犯罪等にある団体」を基本として,定義検討
8、「合意の内容を推進するための行為」の範囲」
これをすべて民主党の言うとおりに、政府が「丸のみ」しているかどうかをよく見極めるべきだと思います。濫用のおそれを避けるためには、これらの論点をすべて民主党通りに受け入れることが、採決をする際の最低限の条件であると思います。
(4) 以前からの繰り返しですが、共謀罪法案は、実際に捜査を行う刑事さんが重大事件の捜査が手薄になるから反対し、警察のノルマ達成のため乱用の恐れがあるのですから、捜査機関にとっても、一般市民にとっても有害無益な法案です。
そうであれば、原則として採決しないという態度で臨んでいいと思います。
もし採決するのであれば、対象犯罪や共謀罪の要件については、今後の改正で厳格にするとしても緩和できないとし、仮に緩和する場合には議員の4分の3以上の賛成を必要とするといった要件を付加しておくのもいいかと思います。
(5) 「民主党の攻撃封じという戦略」だけで民主党の修正案を「丸のみ」しようとする政府の態度は、到底、真摯なものとはいえず、それこそ河野議長が指摘したように、共謀罪法案を「政争の具」としたものだと評価できます。民主党案は条約違反とまで言い切っていた自民党・公明党は、どう説明するのでしょうか? 今までの政府答弁は全部間違っていたというのでしょうか?
与党は、一転して、法案を成立させようとしているいますが、未だに条約締結国の事情は「約120ヶ国が条約に締結している」というくらいで、海外の事情は不明確なままです。「既に共謀罪を備えている締結国に加え、条約締結の際に共謀罪を新設した他国の状況についても綿密に調査し、国会に積極的に情報提供する姿勢が、政府に求められている。」(東京新聞平成18年6月1日付朝刊)といえるのではないでしょうか。
採決されるか否かは分かりませんが、いずれにしても政府与党は、諸外国の事情に関する情報提供を行って欲しいですし、依然として情報提供をしようとしない、不誠実な政府与党の態度と、共謀罪法案を「民主党の攻撃封じという戦略」に利用し、「政争の具」とした政府与党の態度は、必ず記憶に留めておくべきだと考えます。
<追記>
「日本がアブナイ!」さんは、「共謀罪・・・政府与党は、そこまでエゲツナイことをして、サミット土産を作りたいのか?!」というエントリーで、「政府&与党の議員はあまりにもエゲツナイ方法をとったように思う。国会議員として、プライドもへったくれもないような情けない手法である。サミット前に法案を成立させたい余りに…」と書いています。同感です。昨年9月の選挙でも刺客を送り込むとかエゲツナかったですが、小泉政権は何でもありだな〜と感じさせます。
「逍遥録 −衒学城奇譚−」さんは、「いるか、どっちもッ!」というエントリーで「ナメられとるなぁ、国民。おーい民主党、たのむから安易な妥協はせんでくれよ。」と述べていますが、まさにそのとおりです。くれぐれも安易な妥協はやめて欲しいです。
貴ブログはよく拝見させて頂いています。
TB&コメント有難うございました。
何だかドッと疲れてしまっている朝です。(苦笑)
おとといコチラで西原先生に関するエントリーを
拝見したので、知人に「東京新聞をとっておいて
ね」って頼んでおいたのですが。
この週末にとりに行くエネルギーが、残ってないかも〜、です。^^;
しかし、自民党もここまで堕落してしまったとは。
ますます、今後の民主政治に危機感を覚えてしまいますね。
折角、少し時間があくので、刑事法や国際法関係の
学者の人たちに、どんどん声をあげて頂きたいです。
今、刑法学会の第一人者って誰なのでしょう?
<まさか、前田雅英氏???>
こんな時に芦部先生や藤木先生がいて下されば、
と知人がぼやいていたです。
自分のブログに書く前に、コメントさせて頂きました。事情がよく分かっていない方のコメントに「あまりに呆れた」ものですから(ーー;)
>おとといコチラで西原先生に関する>エントリーを拝見したので、知人に「東京新聞をとっておいて
西原先生の記事は、西原先生自身の論文を読むより分かりやすいです(汗)
それと、今東京新聞は、教育基本法改正に関する検証記事(6月2日開始)を連載中です。mew-run7さんにとってはよく知っていることだとは思いますが、私には大変勉強になっています。
>学者の人たちに、どんどん声をあげて頂きたいです。
>今、刑法学会の第一人者って誰なのでしょう?
><まさか、前田雅英氏???>
業績からしても異論がなさそうな方としては、団藤重光先生や、中山研一先生、大塚仁先生、福田平先生、そして西原春夫先生でしょうか。
前田先生は、まだこの先生方にまで届いていないと思います。それに前田先生は各種の審議会関係で忙しそうで、研究活動は停滞気味のような感じがしますね。
>こんな時に芦部先生や藤木先生がいて下されば、
>と知人がぼやいていたです。
そこまで遡ってしまいますか(^^ゞ
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

