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主に社会問題について法律的に考えてみる。など。
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2008/03/16 [Sun] 06:18:35 » E d i t
戦時下最大の言論弾圧事件とされる「横浜事件」で治安維持法違反の有罪判決を受けた元中央公論編集者の木村亨さんら元被告5人(いずれも故人)の再審上告審判決で、最高裁第2小法廷(今井功裁判長)は3月14日、「再審でも、刑の廃止や大赦があれば免訴になる」と述べ、元被告側の上告を棄却しました。有罪無罪を判断せず、裁判を打ち切る免訴とした1、2審判決が確定します。
3月25日追記:「横浜事件:最高裁は免訴判決で確定(中)」に続くことを追記しました)


1.まず、事実関係について。

(1) 中日新聞2008年3月15日 朝刊

【横浜事件と治安維持法】 戦時中の1942年から終戦前にかけての言論弾圧事件。雑誌「改造」に掲載された故細川嘉六氏の論文が共産主義の宣伝とされ、神奈川県警特高課が、富山県の旅館で開かれた細川氏の出版記念会を「共産党再建準備会議」とみなし、治安維持法違反容疑で改造や中央公論の編集者ら約60人を逮捕。30人余が起訴された。治安維持法は日本共産党を中心とした革命運動などを取り締まり対象とし、25年に公布された。3年後の改正で死刑も導入されるなどし、学問や思想、政治運動の統制手段となった。敗戦を受けて45年10月に廃止され、横浜事件で有罪判決を受けた被告も含め大赦が行われた。」




(2) 東京新聞平成20年3月15日付朝刊31面

凄惨な拷問…逮捕者60人超  丸太に土下座めった打ち

 「再建計画の立案者とされた27歳の僕は、安来節でどじょうすくいを踊っていた」(元被告の故木村亨さんの証言)。学者や編集者らが旅先で開いた宴会は、特高警察によって日本共産党の再建会議に仕立て上げられた。

 米国帰りの労働問題研究家夫妻が突然逮捕された事件など、戦時下の1942年から45年、特高警察は激しい拷問で虚偽の自白を強要し、関係者を次々と摘発した。これらを「横浜事件」と総称するのは、神奈川県警察部特別高等課が中心となったからだ。

 逮捕者は60人以上。共産党再建計画が治安維持法違反との構図だったが、逮捕者には右翼団体の構成員もいたという。4人が獄死、1人が出獄直後に亡くなった。

 拷問は凄惨(せいさん)だった。「裸で後ろ手に縛られ、丸太を並べた上に土下座させられ、ごりごりと踏まれる。ひざの裏に角材を挟まれる。『殺してしまうぞ!』との怒声とともに竹刀やこん棒でめった打ちにされ、全身は真っ黒に膨れ上がった」(木村さん)

 何年も獄中につながれたあと、敗戦直後の混乱期に、たった1回の公判で執行猶予付きの有罪判決が言い渡された。

 当時の特高警察官3人は特別公務員暴行傷害罪に問われ、1952年に最高裁で実刑が確定したが、サンフランシスコ講和条約の特赦があり1日も服役しなかった。

 再審請求は1986年から2002年まで4次までなされたが、当時の裁判記録が残っていないことなどを理由に認められず、3次請求がようやく認められたのは事件から約60年後。03年の横浜地裁の再審開始決定に続き、東京高裁も05年に「自白の信用性に疑いがあり、無罪を言い渡すべき新証拠がある」と決定を是認した。

 しかし、再審では一審から最高裁まで「無罪」とは判断せず、「でっち上げの事件で人権をじゅうりんされた真相を、再審で明らかにしたい」と訴えた元被告たちの声は届かなかった。審理の終了を待たず、元被告5人は全員死亡した。」



被疑者又は被告人から自白を得る手段として諸外国で行われた拷問は、日本でも明治憲法時代、法律上禁止されていたにもかかわらず、「横浜事件」のように実際にはしばしば行われました。特に、「横浜事件」では、死亡することさえ厭わないほど、凄惨で徹底したものでした。

「拷問は凄惨(せいさん)だった。「裸で後ろ手に縛られ、丸太を並べた上に土下座させられ、ごりごりと踏まれる。ひざの裏に角材を挟まれる。『殺してしまうぞ!』との怒声とともに竹刀やこん棒でめった打ちにされ、全身は真っ黒に膨れ上がった」(木村さん)」



凄惨な拷問で虚偽の自白を強要し、志布志事件のように「でっち上げ」で事件を捏造し、特高警察はそのような凄惨な拷問を平気で行っていたことは、裁判所は十分に知りえたのにもかかわらず、「敗戦直後の混乱期に、たった1回の公判で執行猶予付きの有罪判決が言い渡された」のです。

捏造された犯罪(冤罪)により、逮捕者は60人以上、4人が獄死するほどの拷問が行われたのにもかかわらず、(占領軍に発覚する前に)敗戦直後の1回の公判で有罪とした裁判所(しかも人権蹂躙の証拠を隠滅するため横浜事件の裁判や捜査の記録を焼却した)。このような徹底した言論弾圧に加担した「司法の戦争責任」について、現行憲法下の裁判所、特に最高裁判所はいかに清算する意思を示すのか(謝罪するか)が問われた事件だったのです。


2.次に、判決について触れた記事と判決要旨を。

(1) 朝日新聞平成20年3月15日付朝刊1面

横浜事件 再審打ち切り確定へ 最高裁
2008年03月15日03時08分

 戦時中最大の言論弾圧事件とされる「横浜事件」の再審で、最高裁第二小法廷(今井功裁判長)は14日、治安維持法違反で有罪が確定した元被告5人(全員死亡)の上告を棄却する判決を言い渡した。法の廃止と大赦(恩赦の一種)を理由に、有罪か無罪かに踏み込まないまま裁判手続きを打ち切る「免訴」判決が確定する。無罪判決を言い渡すよう強く求めていた元被告の遺族と弁護側は「法技術的な論理に終始した不当な判決だ」と反発している。

 再審は、元中央公論出版部員の故・木村亨さんら元被告5人の遺族が請求した。治安維持法は終戦直後の1945年10月に廃止され、有罪が確定していた5人は大赦を受けた。

 刑事訴訟法は、法の廃止や大赦の場合には「免訴」を言い渡すべきだと定めている。この点をめぐって第二小法廷は、通常の刑事裁判と同じく、再審の手続きについても「免訴とする理由がある場合には(有罪か無罪かの)実体判決をすることを法が予定しておらず、免訴判決は正当だ」との初判断を示した。

 また、06年2月に一審・横浜地裁が免訴判決を出したことに対し、無罪判決を求めて上級裁判所に不服を申し立てることができるかどうかも争点だった。第二小法廷は07年1月の二審・東京高裁判決と同じく、「免訴判決に対する控訴や上告はできない」と判断した。

 判決は4裁判官が全員一致した意見。今井、古田佑紀の2裁判官は補足意見で、現行の刑事補償法には「無罪判決を受けられる十分な理由があれば、免訴判決でも無罪判決のときと同様の刑事補償を受けられる」という規定があることをあえて指摘した。旧刑事補償法が効力を持っていた際に拘束された事件であっても、今回の遺族が金銭的な補償を請求すれば認められる可能性を示唆。無罪判決でなくても、遺族に納得してもらいたいという配慮を示した形となった。」




(2) 毎日新聞平成20年3月15日付東京朝刊1面

横浜事件:「免訴」確定へ 無罪の判断せず--再審上告審

 戦時下最大の言論弾圧とされる「横浜事件」の再審上告審で、最高裁第2小法廷(今井功裁判長)は14日、治安維持法違反で有罪が確定していた元出版社社員ら5人(いずれも故人)に対し、上告棄却の判決を言い渡した。有罪、無罪の判断をせずに公判を打ち切る「免訴」とした1、2審判決が確定する。小法廷は「刑の廃止や大赦を理由に免訴としたのは正当」と述べた。

 5人は▽元中央公論社社員、木村亨さん▽元改造社社員、小林英三郎さん▽元古河電工社員、由田(よしだ)浩さん▽元日本製鉄社員、高木健次郎さん▽元満鉄調査部員、平舘利雄さん。1945年8~9月に有罪判決を受け、同10月に治安維持法が廃止され大赦を受けた。遺族や弁護側は名誉回復のため無罪判決を求めて上告し「無罪かどうか判断する実体審理をすべきだ」と主張した。

 これに対し小法廷は「再審も原則として通常の公判の手続きと同じだ」との初判断を示し「免訴の理由がある場合(無罪などの)実体判決をする規定はない」と述べた。

 さらに「免訴判決に対し無罪を主張して上訴できない」としたプラカード事件の最高裁判決(48年)を引用し、再審でも同様と結論付けた。

 今井裁判長と古田佑紀裁判官は補足意見で「もし免訴でなければ無罪判決を受けると認められる時は、無罪と同様に刑事補償を受けられる」とする刑事補償法の規定を挙げたうえで「本件も刑事補償の対象になり得る」と述べ、名誉回復に一定の配慮を示した。【北村和巳】

==============

 ■ことば

 ◇横浜事件と免訴

 1942年に雑誌「改造」に掲載された論文が「共産主義の宣伝」とされたことを発端に、警視庁や神奈川県警特高課が45年までに、治安維持法違反容疑で出版社社員ら約60人を逮捕。4人が獄死、約30人が有罪判決を受けた。免訴は公訴権の消滅により有罪、無罪を判断する実体審理をせずに裁判を打ち切ること。免訴事由は(1)同じ犯罪について確定判決がある(2)犯罪後に刑が廃止された(3)大赦があった(4)時効が完成した--で横浜事件では(2)と(3)が理由とされた。

毎日新聞 2008年3月15日 東京朝刊」




(3) 徳島新聞2008/03/14 17:01

横浜事件判決要旨 再審上告審

 横浜事件の再審上告審で、最高裁第2小法廷が14日言い渡した判決の要旨は次の通り。

 再審制度が非常救済制度で、再審開始決定確定後の事件の審判手続きが通常の刑事事件の審判手続きと差異があるとしても、再審制度は所定の事由が認められる場合、当該審級の審判をあらためて行うもので、その審判は再審が開始された理由に拘束されない。

 再審制度の審判手続きは原則として通常の審判手続きによるべきで、本件に適用される旧刑事訴訟法などの規定が、再審の審判手続きで免訴事由がある場合に、免訴に関する規定の適用を排除し実体判決をすることを予定しているとは解されない。

 確定判決後に刑の廃止や大赦が行われた場合、旧刑訴法の適用がないということはできず、被告5人を免訴した1審判決は正当。通常の審判手続きで、免訴判決に対し上訴できないことは確定した判例であり、再審の審判手続きでも免訴判決に対し被告が無罪を主張し上訴することはできないと解するのが相当だ。

 ▽今井功裁判官の補足意見

 免訴判決は有罪無罪の実体判決をする訴訟条件がないことを理由とする形式裁判で、免訴事由があるときは、さらに実体についての審理判断をすることなく、審理を打ち切ることが被告の利益になる。再審の審判手続きでも通常の審判手続きと変わることはない。

 本件のように有罪の確定判決を受け死亡した被告には、審理打ち切りによる利益がほとんどないだろう。しかし本件のような再審事由の場合だけでなく、他の再審事由で開始された場合も含めた再審の審判手続き全般を考察しなければならず、再審の審判手続きでも審理打ち切りによる被告の利益は存在する。再審の審判手続きの免訴判決で有罪の確定判決が完全に効力を失う結果、被告の不利益は法律上完全に回復されることになる。

 免訴は有罪を前提としない形式判決で、刑事補償法により、免訴の裁判を受けた者は、免訴の事由がなければ無罪判決を受けると認められる十分な事由があるときは刑事補償を請求でき、免訴判決を受けた被告の補償や名誉回復に一定の配慮をしている。再審の審判手続きで免訴判決があった場合も適用され、他の再審事由による再審と取り扱いを異にして免訴の規定の適用を排除すべき理由に乏しい。

 ▽古田佑紀裁判官の補足意見

 1審判決は刑事補償法により、本件も刑事補償の対象となり得るとし、これを正当と考える。免訴の裁判に関しては、同法施行後に裁判があった場合、施行前の拘置などは補償されないとする見解もある。しかし無罪などの裁判が施行後にあった以上、拘束が施行前かどうかを問わないのが合理的で、旧刑事補償法でも同様に理解される。」




3.この「横浜事件」には多くの法律上の問題点(=刑事訴訟法上の問題点)がありますが(法律時報2006年11月号、同2007年7月号150頁、同2008年3月号72頁参照)、主として、<1>「無罪を言い渡すべき、新たに発見した明確な証拠」があるとして再審が開始された場合(再審開始を認めた東京高裁が拷問による虚偽自白を認定し、「無罪を言い渡すべき新証拠」としていた)、再審の審判は再審が開始された理由に拘束されるのか、<2>免訴事由があっても再審請求は許されるが、再審の審判手続きで免訴事由がある場合に、免訴に関する規定の適用を排除し実体判決をするべきかどうかが問題となりました。

また、再審での1、2審判決が免訴判決を出したことから、別個の問題点が生じました。すなわち、<3>通常の審判手続きで、免訴判決に対し被告人が無罪を主張し上訴できるか否か(前提論点)、<4>通常の審理手続きでは上訴できないとしても、無睾の救済という再審制度の目的からすれば、再審の審判手続きでは免訴判決に対し被告人が無罪を主張し上訴できるのではないか(免訴判決には無罪を求めて控訴できないとする最高裁判例が、再審に適用されるか)が問題となりました。


(1) これらの問題点のうち、はっきりした議論になっているのは<1>と<3>ぐらいで、最高裁判例まであるのは<3>だけだと思われます。<3>の議論だけのせておきます。

<学説>
  ・肯定説:被告人が免訴の裁判に対して無罪を主張することは上訴の利益がある。
   (理由)上訴の目的は当事者の具体的救済にあるから、被告人には無罪を主張する主観的利益がある(岡部)。
  ・否定説(通説):被告人が免訴の裁判に対して無罪を主張することは上訴の利益がなく許されない。
   (理由)免訴判決は形式裁判であり、被告人は免訴判決の形式裁判により手続から開放されて、起訴されなかったと同じ自由の身になるので、形式裁判は被告人に利益な裁判であり、上訴の利益はない。
  ・限定的肯定説(田宮):被告人が訴訟条件の存在と無罪とを併せて主張する限り、上訴の利益があり上訴が許される。
   (理由)一度公訴提起された以上,形式裁判よりは無罪判決の方が被告人に有利であることは明らかである。

<判例>
  最高裁昭和23年(1948年)5月26日大法廷判決(プラカード事件判決)は否定説を採用している。その後の判例(最大判昭30・12・14、最決昭46・2・25、最決平2・2・28)も一貫して否定説を採用している。


    

(2) 今回、最高裁は<1>につき、再審の審判は再審が開始された理由に拘束されない、<2>につき、再審の審判手続きで免訴事由がある場合に、免訴に関する規定の適用を排除して実体判決をすることにはならないとしました。また、<3>につき、免訴判決に対し被告人が無罪を主張し上訴できないという最高裁判例を前提として、<4>につき、再審の審判手続きでも免訴判決に対し被告人が無罪を主張し上訴できないとしました。

そのため、

「元被告側は上告趣意書で「無罪判決を受けて初めて名誉回復となる。免訴では救済されない」と主張。再審で実体的な審理をし、確定した有罪判決を是正して無罪とするよう求めていた。」(日経新聞平成20年3月15日付朝刊39面「横浜事件 上告棄却、免訴確定へ 最高裁 有罪・無罪判断せず」

「遺族や弁護側は名誉回復のため無罪判決を求めて上告し「無罪かどうか判断する実体審理をすべきだ」と主張した。」(毎日新聞)


という、被告人らが名誉回復のため求めていた「無罪判決を求める権利」が認められずに終わったのです。

元々、再審の公判手続手続については、現行法はわずか2ヶ条(刑事訴訟法451条、452条)の規定しか設けておらず、その具体的内容はすべて解釈論に委ねられており(光藤景皎編『事実誤認と救済』(1997年、成文堂)255頁)、解釈論の裁量の幅が大きいといえるのです。そして、幾つかの論文は出てはいますが、それぞれの論者の見解がある程度一致しているほどにまで解釈論が確立しているわけではないというのが現状です。

こういう現状において、今回の最高裁は、法解釈論としては、すべて元被告人(再審請求人)側に不利益な結論となる見解を採用しました。しかし、刑事裁判における再審は、憲法39条が二重の危険の禁止を定めた趣旨に従い利益再審のみを認めたことからすれば、誤判一般の救済制度ではなく、冤罪に苦しむ無辜を救済する人権保障上の制度なのです(光藤景皎『口述刑事訴訟法(下)』(2005年、成文堂)96頁)。最高裁の法解釈は、冤罪に苦しむ無辜を救済するという、再審制度の意義・目的をなるべく狭めようとするものであって、妥当な解釈とはいえません(最高裁が再審制度の意義に反する解釈をする以上、刑事訴訟法の改正をすることになります)。

特に、再審の審判手続きでも、免訴の適用を排除せずに実体審理をしないという解釈は妥当ではありませんでした(<2>の点)。なぜなら、通常の刑事裁判であれば、法の廃止など免訴事由があれば(いまだ確定していない以上)有罪か無罪か判断するまでもなく裁判を打ち切ることにも利益があるのですが、再審の場合は、一度有罪判決が確定している以上、再審で裁判所が無罪を言い渡さない限り、有罪か無罪か不確定なままとなり元被告人の名誉は回復されないからです。また、「横浜事件」の元被告人の場合は有罪が確定したまま全員死亡しているのですから、いまさら免訴として早期に裁判を打ち切るという恩恵はまったく無意味ですし、刑事補償という金銭が得られても使えないため意味がないのですから。

また、<4>の点も、最高裁の解釈(再審の審判手続きでも免訴判決に対し被告人が無罪を主張し上訴できない)には説得力がありません。<3>で触れたように、「被告人は免訴判決の形式裁判により手続から開放されて、起訴されなかったと同じ自由の身になる」から、上訴の利益がないというものです。すでに有罪になっている者にとってはどうやっても「起訴されなかったと同じ」にはならず、しかも元被告人は死亡しているので手続からの解放は無意味だからです。このように、<3>の点での理屈は、<4>の点では通用しないのです。

このように、今回の最高裁が採用した見解は、法解釈上妥当でなかったと考えます。



(3) 仮に、今回の最高裁が採用した見解が妥当であるとしても、最高裁は、判決文において「司法の戦争責任」への謝罪・反省の意思を示すことを行うべきだったのです。その方法としては、2通りありました。

1つは、裁判所(最高裁・下級審両方)がしばしば行っている「傍論」において、「横浜事件」に関する司法判断を示すことです(「傍論での憲法判断の是非(上)」(2005/11/06 [Sun] 00:50:20)参照)。傍論での司法判断は、行政学上、違法行為抑止機能・行政権統制機能を果たすものとして積極的に評価されているように、意義あるものなのですから、「傍論」のなかで最高裁としての「司法の戦争責任」への反省を示すことは十分に可能だったのです。しかし、最高裁は「傍論」による判断を行いませんでした。

もう1つの方法は、裁判官の個別意見の中で「横浜事件」に関する司法判断を示すことです。例えば、最高裁は、昨年4月、中国人元労働者が強制連行・労働に対する賠償を求めた訴訟の判決で、請求を退ける一方「被害者の苦痛は極めて大きく、被害救済に向けた努力が期待される」と付言しています。「横浜事件」再審でも、最高裁ではこのような形での言及もあり得たのです。

しかし、今回の最高裁には、「刑事補償の対象になり得るなどとする補足意見は付いたものの無罪を示唆したものではなく、教訓として事件全体を俯瞰するする意見もありませんでした(西日本新聞2008年3月15日「解説」)。こんな程度の補足意見では、「元被告側の司法への不信を取り除き、過去との決別を示す絶好の機会を放棄したとの印象がぬぐえない結論となった」(西日本新聞2008年3月15日「解説」)のです。




続きは、「横浜事件:最高裁は免訴判決で確定(中)~免訴判決を妥当とした最高裁判決を妄信し礼賛するのは止めるべきでは?」(2008/03/25 [Tue] 05:07:13)で論じます。

テーマ:裁判 - ジャンル:政治・経済

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コメント
この記事へのコメント
聞き届けてもらえない無念
 この裁判の報道に接するたびに胸が痛んできました。亡くなられた方々とご遺族の永遠に続く無念。凄惨な拷問と共に、むごい。酷すぎます。言葉を失います。
 西山記者の裁判にも、割り切れないものを感じます。国が相手ですと、難しいのでしょうか。http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/adagio/okinawa.htm

 春霞さん。エントリ、ありがとう。【下】のほうも、お待ちします。
2008/03/17 Mon 10:06:37
URL | ゆうこ #mQop/nM.[ 編集 ]
>ゆうこさん:2008/03/17 Mon 10:06:37
コメントありがとうございます。


>この裁判の報道に接するたびに胸が痛んできました。亡くなられた方々とご遺族の永遠に続く無念。凄惨な拷問と共に、むごい。酷すぎます。言葉を失います。

でっち上げ事件で、熾烈な拷問を知りながらの有罪判決、裁判関係者自ら裁判記録などを焼却して証拠隠滅を行うなど、まさに司法による「国家犯罪」でした。裁判所は、遺族の無念さを見捨てて、反省する機会を自ら放棄したのです。多くの市民が失望したと思います。

捜査機関も、今は死亡させるほどの拷問はしなくなりましたが、今でも肉体的・精神的な拷問による取り調べ、非合法な司法取引などもやっています。酷いものは起訴猶予になりますが、たまに裁判所は有罪判決を出したりするのですから、ある意味、見て見ぬふりをしているともいえるわけで、昔も今も変わらないな~と感じます。取り調べの可視化が実現すると、「見て見ぬふり」を止めることができるので、裁判官としてはホッとしているかもしれません。


>西山記者の裁判にも、割り切れないものを感じます。国が相手ですと、難しいのでしょうか。

00~02年の米国公文書の公開などで密約の存在が明らかになった以上、本来、有罪判決は誤りだったのです。裁判所がそう素直に判決を出すことは可能だったのですが……。裁判所は、特に自らの過去への反省をしない国家機関ですね。


>【下】のほうも、お待ちします

ありがとうございます。しばらくお待ちください。
2008/03/18 Tue 22:03:39
URL | 春霞 #ExKs7N9I[ 編集 ]
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???Υ?? 綶?Υ???ë?ä?TХå?ä??
2008/03/16(日) 11:10:51 | 綶?Υ??
    皆様のご支援に感謝致します! ありがとう! この動乱でお亡くなりになった方のご冥福を祈ります。 そして、怪我をなさった方の一日も早いご治癒をと思う。 しかし、中国という政府は自国民を殺すのに躊躇しないのか? 天安門事件といい、。。。。。実...
2008/03/17(月) 23:34:00 | 晴天とら日和
●2008年03月15日(土曜日)付社説 ●横浜事件再審―過去の過ちに背を向けた 1942年から45年にかけて、雑誌編集者ら数十人が「共産主義を広めようとした」として、治安維持法違反の疑いで神奈川県警特高課に次々に逮捕された。取り調べの拷問は過酷を極め、4人が獄死し?...
2008/03/20(木) 15:31:54 | 松尾光太郎 de 海馬之玄関BLOG
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