1.asahi.com(2006年05月23日11時36分)によると、
としています。「再修正案なければ共謀罪「採決を」 杉浦法相
共謀罪を創設する組織的犯罪処罰法改正案をめぐり、衆院法務委員会での強行採決が河野衆院議長の要請を受けて見送られた問題で、杉浦法相は23日、閣議後の記者会見で「すでに40時間以上審議しており、一つの法案としては破格に長い。採決する機は熟している」と述べた。民主党から再修正案が示されなければ、法務委での法案審議はこれ以上せず、採決に踏み切るべきだとの考えを示した。
杉浦法相は19日の河野議長の裁定について「できるだけ円滑にという趣旨であり、さらに審議してほしいということではないようだ」と述べた。
また、「先週末に、民主側から再修正の提案がされるはずだったのに出なかった」と述べ、民主党の対応を促した。」
(1) 杉浦法相は議員でもありますが、閣議後の記者会見で法務大臣として発言しているのですから、行政機関の一員としての発言です。
そして、「『採決する機は熟している』と述べた」のですから、「民主党から再修正案が示されなければ、法務委での法案審議はこれ以上せず、採決に踏み切るべき」との考えを示したという評価が妥当です。そうすると、行政機関が、衆議院の委員会の採決のあり方に対して、干渉(=口を出している)しているわけです。
(2) では、このように行政機関が議院の採決に干渉することは、妥当なのでしょうか?
「憲法は、議院の自律権という語を用いてこれを明示しているわけではないが、各議院が他の国家機関や他の議院から干渉などを受けることなく、自主的に内部の組織や運営について決定できることを保障している(例えば、議員の資格争訟:憲法55条、議院規則制定権:憲法58条、議員懲罰権:憲法58条2項など)(辻村「憲法」444頁から要約)」
このように、各議院には、憲法上、議院の自律権が保障されていますので、行政機関が各議院に干渉することは許されませんから、杉浦法相が衆議院に対して干渉することは許されません。
各議院で構成される国会の権能のうち、最も基本的な権能は法律案の議決(憲法59条)であり、各議院での可決によって法律案が成立するのです。そうすると、各議院では、議院での採決の前に委員会で採決し、それによって議院の採決の結論が決まってしまうのですから、委員会での採決とそのあり方は、議院の権能として、最も基本的な権能といえます。
そうすると、杉浦法相という行政機関が、採決とそのあり方という議院の最も基本的な権能に対して干渉したのです。これは明らかに議院の自律権侵害であって、最も許されない干渉であるといえると考えます。
杉浦法相も与党議員であるのですから、その与党議員の立場としては、強行採決であっても採決してしまいたいという気持ちをもつことも、分からなくはありません。
しかし、杉浦法相は、法相である以上は、単なる与党議員ではなく行政機関の一員であるのです。議員としての立場と行政機関とのしての立場の違いについては、特に法律に関わる法相であれば、特に自覚すべきであったように思います。
(3) 「情報流通促進計画byヤメ記者弁護士」さんは、 「杉浦法務大臣に抗議を!〜共謀罪に関して,行政府の長がしてはいけない越権発言」というエントリーで、
としています。「これは,とんでもない越権発言だ。杉浦法務大臣は,行政府としての法務省の長であり,立法府が法律で定めたことを粛々と,中立的な立場から,実行に移していくことがその役割だ。立法府に対して,こういう法律をつくれ,ああいう法律をなくせ,などと口出しをする役割は有していない。
議院内閣制という制度から,内閣にも法案の提出権はあるが,あくまでも,議院内閣制,すなわち,内閣が国会の多数派によって形成されているということを背景に,行政を担当し高度の専門知識を有する内閣に,便宜的に,法案提出権を認めているだけであって,提出された法案の審議については,国会の専権事項である。
しかるに,杉浦法務大臣は,「共謀罪を成立さすべし」と発言し,国会の専権事項に口を出してしまったのである。」
こういった面でも問題のある発言であったといえると思います。「情報流通促進計画byヤメ記者弁護士」さんは、他の点でも問題点を指摘しています。ぜひご覧下さい。
2.もっとも、共同通信によると、
としています。「共謀罪、採決は来週以降に 与党に打開策なく
2006年 5月23日 (火) 20:25
与党は23日、「共謀罪」新設を柱とした組織犯罪処罰法などの改正案をめぐる衆院法務委員会採決を来週以降に先送りする方針を固めた。民主党が態度を硬化させる一方、「強行突破」には小泉純一郎首相が依然消極的なためで、与党は事態打開の糸口をつかみあぐねている。
自民党の細田博之国対委員長は同日午後、記者団に対し行政改革推進法案が26日にも成立の運びとなったことを踏まえ「行革法案が成立次第、(法務委採決を)強行するとの流言飛語が流れているがそういうことはしない」と明言。同党の矢野哲朗参院国対委員長にもこの考えを伝えた。」
「強行突破」には小泉純一郎首相が依然消極的ですし、与党は、委員会採決を来週以降に先送りする方針を固めたわけです。要するに、杉浦法相が何を言おうと何ら影響力がなく、与党の方針決定について何も知る立場にさえないというわけです。
思い起こせば、5月19日に採決されなかった際に、「午後3時過ぎ、そのまま委員会が終了すると、法案を提出した杉浦法相は『何が起こったのか分からない』と首をかしげた。」(朝日新聞(平成18年5月20日付朝刊1面: 「共謀罪創設の是非〜今国会中の共謀罪法案成立は困難に(朝日新聞:平成18年5月20日付より)」参照)のですから、委員会終了後も、与党方針について知らなかったのです。これでは、法務大臣としてはもちろん、与党議員扱いもされておらず、単なる一般人と同じです。
そう考えると、杉浦法相が、議院の自律権を侵害する発言をしたとしても、一般人が発言したのと同じであり、実質的には行政機関の一員でなく、その発言は無視していいとさえ、いえるかもしれません。
<追記>
「保坂展人のどこどこ日記」さんも、「杉浦法務大臣、質疑打ち切り・採決の「指揮権発動」」で、杉浦法務大臣の発言の問題点を指摘しています。
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