1.朝日新聞(平成18年5月20日付朝刊1面)によると、
http://www.asahi.com/politics/update/0520/001.html
としています。「共謀罪法案 成立は困難 議長仲裁 首相ひそかに指示
自民、公明の与党は19日、「共謀罪」創設を含む組織的犯罪処罰法改正案の衆院法務委員会での採決を先送りした。国会が空転し、審議停滞を懸念する小泉首相の意向を受けた自民党側が河野洋平衆院議長と調整。議長の要請を受け入れる形をとったものだが、大幅な会期延長がない限り、同法案の今国会中の成立は困難な情勢となった。
与党と民主党は再び修正協議に入る構えだが、共謀罪が適用される対象犯罪などで隔たりは大きく、政府・与党側では「もはや歩み寄る余地はない」という見方が大勢。首相は会期延長には依然、否定的だ。議長を巻き込んだ収拾策をとったことで与党は採決を強行しにくくなり、会期内成立の見通しは立たなくなった。
◇強行回避「鶴の一声」
「国対委員長は現場から突き上げられて苦労している。励ましてほしい」。小泉首相は19日夕、首相官邸で自民党の武部勤幹事長にこう語りかけ、国会運営の指揮をとる細田博之国対委員長を思いやってみせた。
だが、「共謀罪」を盛り込んだ法案を19日に採決するという細田氏の強い決意をその日の朝になって覆したのは、当の首相の「鶴の一声」(党幹部)だった。
19日午前10時半。国会内で細田氏は、公明党の東順治国対委員長らと会っていた。「きょうの採決はしない」。関係者によると、細田氏はこう切り出した。採決に反対する民主党を相手にともに戦ってきた公明党には寝耳に水だった。
細田氏はこの後、自民党の矢野哲朗参院国対委員長、青木幹雄参院議員会長と相次いで会い、この方針を説明。その際、河野洋平衆院議長に調整を委ねる考えを示した。
細田氏と東氏はこの後、河野氏と会談し、民主党の渡部恒三国対委員長との仲裁を求めた。国会空転の際に議長が事態収拾に乗り出すことはしばしばある。だが、委員会の採決前の段階で議長が動くのは、極めて異例の事態だ。
議長とすれば、仲裁を求められれば「話し合いを続けて」と言うしかない――。河野氏の周辺は「議長は乗り気ではなかった」と明かす。
一方、午後1時開会の法務委員会では、こうした動きが十分に伝わらぬまま質疑が続けられていた。採決に移る気配がないので与党理事の一人は国対に電話をかけ、「どうなっちゃってるの?」。返事は「粛々と質疑して下さい」だった。
午後3時過ぎ、そのまま委員会が終了すると、法案を提出した杉浦法相は「何が起こったのか分からない」と首をかしげた。
自民党幹部の一人は、首相の意向と民主党の強硬姿勢に板挟みになった細田氏らについて「困り果てた揚げ句、議長にお願いしたということだ」と指摘し、「漂流国会だ」とつぶやいた。
◇「行革」「医療」を優先
国会運営については「執行部に任せています」としてきた首相の「指令」は突然だった。だが、その意図ははっきりしている。
「官邸が最重視するのは、行政改革推進法案と医療改革法案だ。共謀罪と、どちらを優先させるかということだ。議長を登場させたのは、現場を納得させるためだったのではないか」。複数の自民党国対関係者は、そんな見方で一致する。
参院では22日に医療制度改革関連法案が審議入りし、26日には行政改革推進法案成立が見込まれる。ここで「共謀罪」法案を強行採決し、民主党に1週間も審議拒否されれば、こうした日程が流動化し、首相が否定している会期延長に追い込まれかねない――。首相側はこう懸念したようだ。
一方、これで「共謀罪」法案の今国会成立は難しくなった。民主党の小沢代表は与党との対決姿勢を強めており、修正合意は困難と見られるからだ。与党内には「継続審議か、廃案か」との声が出始めている。
思わぬ事態に、法務省幹部はこう漏らした。「テロに見舞われた気分だ」」
2.昨日(19日)段階では、asahi.com(2006年05月19日13時34分)によると、
http://www.asahi.com/politics/update/0519/004.html
ということでしたから、「与党、共謀罪法案の採決先送り 河野議長が要請
河野洋平衆院議長は19日午後、自民党の細田博之、公明党の東順治の両国会対策委員長らと衆院議長室で会談し、与党が同日に予定していた「共謀罪」創設を盛り込んだ組織的犯罪処罰法改正案の採決を先送りするよう求めた。与党の採決方針に対し民主党が審議拒否を辞さない強い姿勢を示していることを受け、国会の混乱を懸念したためで、与党は議長の要請を受け入れる方針だ。
河野議長は会談の冒頭、同法案について「国民の一大関心事になっている。私も事態を心配している」と語った。
与党側は当初、同法案を修正した上で19日中に採決する方針だったが、修正協議を続けてきた民主党が同日午前の臨時役員会で与党の修正案は受け入れず、採決にも反対する方針を決めた。小沢代表は「与党案は極めて弊害が多い。強行採決を与党が図るなら、我々としては強い態度で臨むべきだ」と語った。
こうした情勢を受け、与党側は善後策を協議。河野議長は自民党国対幹部に「国際条約に関係する法案を政争の具にするのはよくない」として、採決の見送りを求めたという。別の国対幹部は同日午後、国会内で「議長裁定が出る」と述べた。……」
強行採決を先送りした理由は、河野衆院議長からの円満な審議の要請と、強行採決の結果、民主党が全面的な審議拒否をすることによる、国会の混乱(他の重要法案への影響)の回避とされていました。
しかし、実は、河野衆院議長の仲裁も小泉首相の指示であり、法案採決回避は、もっぱら小泉首相の政治判断だったというわけです。
(1) 河野議長は、「国民の一大関心事になっている。私も事態を心配している」とか「国際条約に関係する法案を政争の具にするのはよくない」として、採決の見送りを求めたわけですが、これは実によくできた、十分に納得できる理由であったと思いました。
「国民の一大関心事」ということは、強行採決した場合、国民の反発を受け、この共謀罪法案に対する国民の理解が得られないおそれがあるからです。
また、共謀罪法案は、国際的な組織犯罪を防止するという国際条約の整備のための法案であって、各国との協力関係を円滑にするためのものなのですから、国内的利害対立が生じる性質の条約・法律ではないのです。ところが、審議が進まずに、国内的な「政治上の主義や主張についてのあらそい」の問題になる恐れが高くなっていて、「政争の具」となっているからです。
ただ、結局は、小泉首相の指示に基づくものであって、強行採決を止めるべく「現場を納得させるため」の言い訳に過ぎなかったというわけです。
いずれにしても、三権のうち、国会の長の一人である「衆院議長」が仲裁に入ったのですから、特に議院の一員である国会議員は、議長の仲裁を尊重することになります。そうなると、「議長を巻き込んだ収拾策をとったことで与党は採決を強行しにくくなり、会期内成立の見通しは立たなくなった」との判断に行き着くことになるわけです。
(2)朝日新聞(平成18年5月20日付)の記事によると、採決しないとの申し出は、「採決に反対する民主党を相手にともに戦ってきた公明党には寝耳に水だった」ようですから、公明党はまさに道化師ですね。
公明党は、支持宗教団体が治安維持法で被害を受けたにもかかわらず、治安維持法になりかねない共謀罪法案を成立させるため、積極的に公明党議員が質疑を行っていたのに、土壇場で、小泉首相の「鶴の一声」で採決しないとなったわけですから。
だからといって、土壇場で止めたからといって、強行採決という不自然な採決を求めるのもおかしな話です。ですから、おそらく、これからも、公明党、さらには支持宗教団体も道化師を演じ続けるのでしょう。傍目から見ると、哀れに感じますが、当人が道化師役を望むのであれば、何も言うことはありません。
(3) 民主党の小沢代表は、こういう結果を予想していたかどうかは分かりませんが、駆け引きのうまさを感じます。前原代表やその執行部は、メール問題でさえ、処理に失敗したのですから、おそらく前原代表では、こういう駆け引きはできなかったのではないでしょうか。
駆け引きのうまさは、公明党という道化師を駆使しつつ、土壇場での強行採決回避という、小泉首相の政治判断にも当てはまりますが。
こういう政治的な駆け引きで、共謀罪法案の行方が翻弄されるのはどうかと思いますが、どういう経過であれ、 共謀罪法案は、実際に捜査を行う刑事さんが重大事件の捜査が手薄になるから反対し、警察のノルマ達成のため乱用の恐れがあるのですから、捜査機関にとっても、一般市民にとっても有害無益な法案です(「共謀罪創設の是非〜「刑事が反対する理由」(東京新聞平成18年5月18日付)」参照)。ですから、採決されず、成立困難になること自体は妥当であると考えています。
<5月21日追記1>
5月19日の採決見送りについて触れたブログとしては、「保坂展人のどこどこ日記」さんの「河野議長要請で与党「強行採決」断念」、「強行採決回避は「世論の逆襲」へのおそれだった」というエントリーです。おそらく、誰もが読んでいるとは思いますが、採決回避直前の様子などを触れています。
同じく、19日の採決見送りについては、「日本がアブナイ!」さんの「速報】 共謀罪の強行採決は回避されました!」と、「JIROの独断的日記」さんの「<共謀罪>与党と民主党の修正協議、主張にはなお隔たり←密告者は罪を免れることをしっていますか?」というエントリーがあります。前者は議長裁定についてコメントをしていますし、後者は、毎日新聞(5月20日0時34分更新)の記事を引用して、与党再修正案や早川議員(自民党)の主張についてコメントをしています。
「情報流通促進計画byヤメ記者弁護士」さんの「共謀罪の行方に関心を寄せるすべての方へ〜5月19日の出来事の意味と来週の展開(海渡弁護士)」では、海渡弁護士が、5月19日に起きた出来事の意味と来週の予測される展開について触れています。
(追記:直接の引用元は、「独立系メディア『今日のコラム』」さんの「共謀罪:5月19日に起きた出来事の意味と来週の予測される展開」(弁護士 海渡 雄一 2006年5月20日)」です。
「雑談日記(徒然なるままに、。)」さんは、共謀罪関係について、数多くのエントリーがあります。その中で、「緊急連絡、videonews.comで「誰のための共謀罪か(再放送):海渡雄一氏(弁護士)」が無料放送になってます。」というエントリーでは、海渡弁護士のコメントが聞けるように、リンク先のアドレスが載っています。
いずれもぜひご一読ください。
<5月21日追記2>
共謀罪創設規定隠れ賛成派といえるのは、「元検弁護士のつぶやき」さんです。そのエントリーのうち、「●共謀罪の議論について」では、
と述べています。「反対意見の中で濫用の危険性として例示されているシミュレーションのほとんどは、検事の感覚ではばかばかしくて捜査なんかする気になれないものです。」
どういった設例を取り上げているのか分かりませんので、はっきりしません。しかし、おそらく法律の素人が不安視して思い付いた事例を取り上げて、「ばかばかしい」と言っているのではないでしょうか? 悪質だと思います。批判するなら、東京新聞でなどで取り上げている真っ当な設例について批判すべきですし、海渡弁護士や「情報流通促進計画byヤメ記者弁護士」さんに対して直接批判すべきでしょう。
「JIROの独断的日記ココログ版」のJIROです。
貴ブログで、拙文を御紹介頂き、
誠に有難うございました。
こちらのエントリーを読ませて頂きましたが、「法的・論理的考察」をする上で、大変勉強になります。
今後ともよろしく御願い申し上げます。
それでは、失礼致します。
以前からずっと拝見させて頂いています。幅広く話題を取り上げ、しかも深みのある内容なので、いつも勉強になります。こちらこそ、今後とも宜しくお願いします。
本来なら貴ブログにコメントしたいところなのですが、メールアドレスを記入しないとコメントできない仕様ですね。ですので、いずれ公開できるメールアドレスを取得してから、コメントさせて頂きます。
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