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なお、危険運転罪に関しては、最近、「福岡市・3児死亡交通事故事件:危険運転致死罪適用否定へ〜福岡地裁が訴因追加命令」でも触れています。こちらは、危険運転致死傷でなく、業務上過失致死傷を適用する可能性が高い点で、正反対の結論となったため対比されて報道していました。こちらもご覧ください。
1.まず報道記事をいくつか。
(1) 時事ドットコム(2007/12/25-13:09)
「二審は危険運転罪認定=赤信号無視、懲役18年−6人死傷飲酒事故・名古屋高裁
愛知県春日井市で昨年2月、車を飲酒運転してタクシーと衝突し6人を死傷させたとして、一審名古屋地裁が懲役6年とした元会社員桑山健被告(27)の控訴審判決公判が25日、名古屋高裁であった。片山俊雄裁判長は「赤信号を無視して交差点に進入したと推認できる」として、業務上過失致死傷罪を適用した一審判決を破棄、危険運転致死傷などの罪で懲役18年(求刑懲役20年)を言い渡した。
片山裁判長は「(被告は)事故があった1つ手前の交差点では赤信号に気付きながら進入したと認めており、続けて高速のまま赤信号に進入したということは、信号無視以外のケースでは考えにくい」と指摘。「ことさらに赤信号を無視した」と認定した。
また、信号を青と思い込んだ可能性があるとして、危険運転致死傷罪の適用を認めなかった一審判決について、「危険回避のためクラクションを鳴らしていないことを理由としているが、安全運転をする通常の運転者を想定しており、その論理自体が相当でない」と述べた。」
(2) 朝日新聞平成19年12月25日付夕刊17面
「懲役18年言い渡し 一審を破棄 春日井6人死傷控訴審
2007年12月25日10時23分
愛知県春日井市で昨年2月、6人が死傷した事故で、危険運転致死傷と道路交通法違反(酒気帯び運転)の罪に問われた同市知多町4丁目、元会社員桑山健被告(27)の控訴審判決が25日、名古屋高裁であった。片山俊雄裁判長は「被告は殊更に赤信号を無視した」として危険運転致死傷罪の成立を認め、同罪の成立を認めずに業務上過失致死傷と道交法違反の罪で懲役6年(求刑懲役20年)を言い渡した一審判決を破棄し、被告に懲役18年を言い渡した。
控訴審の最大の争点は、一審と同様、危険運転致死傷罪の構成要件である「殊更に信号を無視した」行為が認定できるかどうか。被告は事故現場の交差点に赤信号で進入したが、「青信号だと思い込んでいた」と供述していた。
片山裁判長は、被告が、事故現場の交差点の一つ手前の交差点を赤信号で通過したことに気付いており「(普通なら)次の交差点にまで赤信号で高速度で進入する事態は起きない」とし「赤信号かどうかを意に介さず、殊更に無視した」と認定。「信号確認は運転者の初歩的かつ基本的な注意義務で殊更に無視した犯行は無謀。虚偽の弁解で自己の責任軽減に終始した」と述べた。
控訴審判決によると、被告は昨年2月25日午前1時ごろ、酒気帯び運転で同市味美白山町2丁目の交差点に殊更に赤信号を無視して時速約70〜80キロで進入。タクシーと衝突し、男性運転手(当時68)と乗客の自衛官3人の計4人を死亡させ、乗客の女性と、被告と同乗していた女児にけがを負わせた。
一審判決は、被告が事故現場の赤信号交差点に進入時、クラクションを鳴らして危険回避をしていないなどとして、「信号を無視する者の行動としてはあまりにも無防備」「信号機が青色と思い込んでいた可能性を払拭(ふっしょく)できない」と指摘し、危険運転致死傷罪の成立を否定。訴因変更命令によって検察側に予備的に追加させた業務上過失致死傷罪を認定していた。
検察側は、信号無視を「不注意」としたのは重大な事実誤認だとして控訴。弁護側も、飲酒量などで一審の事実誤認と量刑不当を主張し控訴したが、控訴審結審前に量刑不当の主張を取り下げていた。」
(3) 中日新聞2007年12月25日 夕刊
「危険運転適用で懲役18年 名高裁判決 愛知・春日井4人死亡
2007年12月25日 夕刊
愛知県春日井市で昨年2月、飲酒運転で赤信号の交差点に入りタクシーに衝突して4人を死亡、2人にけがを負わせたとして、危険運転致死傷などの罪に問われた元会社員桑山健被告(27)の控訴審判決が25日、名古屋高裁であった。片山俊雄裁判長は「赤信号を認識したのに意に介さず、相当な速度で交差点に進入したと認められる」と述べ、業務上過失致死傷罪等を適用して懲役6年(求刑懲役20年)を言い渡した1審・名古屋地裁判決を破棄、危険運転致死傷と道交法違反の併合罪を適用して懲役18年を言い渡した。
控訴審も1審と同様、危険運転致死傷罪の成立要件である「桑山被告が意図的に赤信号を無視したかどうか」が争点となった。
片山裁判長は、事故現場の1つ手前の交差点で桑山被告が赤信号を無視したことを認識していた点に着目し、「次の交差点では、それ以上に信号表示に注意するのが普通。赤信号を意に介さず交差点に入った以外に考えがたい」と指摘して、同罪の成立を認めた。
弁護側は「青信号と思いこんでいた」と主張したが、判決は「なぜ思いこんだかについての具体的な説明がなく、信用できない」と退けた。
量刑について、片山裁判長は「酒を飲んだ後に帰宅するために車を運転したという動機に酌量の余地は皆無」と指摘した上で、「無謀な行為で取り返しのつかない結果を生じた。過去に6回の交通違反があり意識に問題がある」と述べた。
判決によると、桑山被告は昨年2月25日午前1時ごろ、酒を飲んでワゴン車で同市の国道302号を運転しながら赤信号の交差点に進入。青信号で入ってきた航空自衛隊小牧基地の隊員4人を乗せたタクシーに衝突し、運転手と隊員ら4人を死亡させ、女性隊員と桑山被告の車の同乗者の2人に重軽傷を負わせた。
■久保田明広・名古屋高検次席検事の話 検察官の主張をいれた判決の内容は今後、同種事件の先例ともなりえる極めて妥当なものと評価している。
【危険運転致死傷罪】 1999年、東京都の東名高速で飲酒運転のトラックに追突された車が炎上し、女児2人が焼死した事故などをきっかけに2001年の刑法改正で新設された。悪質な交通事故の厳罰化が目的で、法定刑の上限は死亡事故で懲役20年で、業務上過失致死傷罪の4倍。(1)泥酔状態での運転(2)無軌道な高速走行(3)対向車線を走るなどの妨害走行(4)故意の赤信号無視−などで死傷事故を起こした場合に適用される。」
(1) 条文
(危険運転致死傷)
刑法第二百八条の二 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。
2 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。
この規定は、1項では、運転者の意思によっては的確に自動車(バイクを含む)の進行を制御することが困難な状態での三類型の危険運転行為による致死傷罪を規定していて、酩酊運転致死傷罪・制御困難運転致死傷罪・未熟運転致死傷罪の3つを含んでいます。
2項では、運転者による自動車の進行の制御自体に問題はないが、特定の相手方や特定の場所・状況との関係において危険性の高い2類型の危険運転行為による致死傷罪を規定していて、妨害運転致死傷罪・信号無視運転致死傷罪の2つを含んでいます。この5つの行為は、同じく危険運転罪ですが別個の犯罪行為です。
なお、「時速20キロでの信号無視運転と危険運転致死傷罪の成否」(2006/03/21(火) 00:32:11)でも、信号無視危険運転罪について触れていますが、当時と異なりこの規定は改正されたため若干違いがあります。
例えば、当初は「四輪以上の自動車」と限定されていたのですが、平成19年5月17日成立の法改正により「四輪以上の」の文言を削除し、原動機付自転車や自動二輪を運転して人を死傷させた場合にも危険運転致死傷罪を適用できるような規定に改正しました(同年6月12日施行)。
(2) 今回の裁判の事案ついて検討する前に、信号無視運転致死傷罪(刑法208条2項後段)の要件はどのように解釈されているか、について書いておきます。
この事案で適用の有無が問題となった信号無視運転致死傷罪(刑法208条2項後段)の要件は、赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた、ことです。信号無視運転致死傷罪の成立要件としては、飲酒運転かどうかは無関係であることに注意する必要があります。
イ:赤信号とは、法令に基づき公安委員会が設置した信号機の表示する赤色灯火の信号(道交法4条、道路交通施行令2条)のことである。これに相当する信号とは、赤色信号と同様の効力を有する信号のことであり、具体的には、道路交通法が定める「警察官の手信号その他の信号」等のことである(同法6条1項、同令4条、5条)。
ロ: 「殊更に無視し」とは、故意に赤色信号に従わない行為のうち、およそ赤色信号に従う意思のない場合をいう。赤色信号であることの確定的な認識があり、停止位置で停止することが十分可能であるにもかかわらず、これを無視して進行する行為や、信号の規制自体を無視し、およそ赤色信号であるか否かについては一切意に介することなく、赤色信号に従わずに進行することが客観的に明らかである行為がこれに当たる。したがって、故意に赤信号に従わない行為の中でも、信号の変わり際で、赤色信号であることにつき未必的な認識しか認められない場合は、これに当たらない。
ハ: 「重大な交通の危険を生じさせる速度」とは、妨害行為の結果、相手方と接触すれば大きな事故を生じることとなるような速度をいう。このような速度に当たるか否かは、著しく接近してその通行を妨害することになる相手方の進行状況・位置関係・赤信号を無視して進行しようとしている道路の状況に基づき、社会通念に従って判断する。具体的には、速度20〜30キロメートルで走行していれば、この速度要件をみたす。
ニ:本罪が成立するには、危険な運転行為をした結果人の死傷という結果が発生したことが必要である。したがって、自動車の直前への飛び出しによる事故など、結果の発生が運転行為の危険性とは関係のないものについては、因果関係が認められない。
<参考文献>
・井上宏「自動車運転による死傷事犯に対する罰則の整備(刑法の一部改正)等について」ジュリスト1216号36頁(平成14年)
・曽根威彦「交通犯罪に関する刑法改正の問題点」ジュリスト1216号46頁(平成14年)
・西田典之「刑法各論〔第3版〕」46頁(平成17年)
・前田雅英「刑法各論講義(第4版)」51頁(平成19年)
今回の裁判の事案では、「殊更に無視し」したと言えるか否か、すなわち、赤色信号であることの確定的な認識があったのか否かが争点となったのです。
「控訴審の最大の争点は、一審と同様、危険運転致死傷罪の構成要件である「殊更に信号を無視した」行為が認定できるかどうか。被告は事故現場の交差点に赤信号で進入したが、「青信号だと思い込んでいた」と供述していた。」(朝日新聞)
「 控訴審も1審と同様、危険運転致死傷罪の成立要件である「桑山被告が意図的に赤信号を無視したかどうか」が争点となった。」(中日新聞)
故意犯処罰については、通常、未必的認識、確定的認識とわず処罰しています。もっとも、認識しているか否かならばともかく、未必的か確定的かは内心的な事情ですから、証拠をもってどちらの認識かを区別することはかなり困難です。ですので、「殊更に無視し」したと言えるか否か、すなわち、赤色信号であることの確定的な認識があったのか否かを証拠をもって争うことは、検察側及び弁護側双方にとって困難なのです。
(3) 1審判決は、「信号機が青色と思い込んでいた可能性を払拭(ふっしょく)できない」と指摘して業務上過失致死傷罪を適用しました。信号無視危険運転罪は、赤色信号であることの確定的な認識を必要とするのですから、1審判決の判断は元々の法解釈に忠実な判断であるといえ、あながちおかしな判断とはいえません。
1審と2審のどちらの判断にせよ、一番のポイントは信号機の位置づけだと考えます。
「信号確認は運転者の初歩的かつ基本的な注意義務で殊更に無視した犯行は無謀」(朝日新聞)
信号機は、道路を進行している場合最も目に付きやすい道路標示であり、また、信号機がある道路の場合は横断歩道があることが予想されるため歩行者との衝突を避け、交差する道路を進行する車両と衝突する危険を避けるなど、運転者にとって最も気を付ける基本的な交通ルール表示です。だからこそ、「信号確認は運転者の初歩的かつ基本的な注意義務」といえるのです。信号無視は一種の前方不注視といえますが、運転者の初歩的かつ基本的な注意義務ゆえに、うっかり赤信号を見逃したとか、青信号と勘違いしたという言い訳は難しいのです。
このように、「信号確認は運転者の初歩的かつ基本的な注意義務」だということを重視するならば、2審判決のように信号無視危険運転罪を適用することはさほど無理ではなくなってくるのです。
確かに、2審判決が示すように「信号確認は運転者の初歩的かつ基本的な注意義務」という視点は妥当とはいえます。しかしそうなると、信号無視運転は、およそ信号無視危険運転罪が成立することが容易になってきます。そうなれば、道交法での信号無視処罰が無意味になってしまい、広範囲に危険運転罪が適用され、事案上、不相当な重罰化になってしまう可能性があるのです。はたしてそれでいいのでしょうか?
「信号確認は運転者の初歩的かつ基本的な注意義務」という視点は道交法での信号無視でも妥当するのですから、本来、赤信号であるとの確定的認識がある場合も、道交法での信号無視の罪で処罰することを予定していたはずです。
2審判決が「信号確認は運転者の初歩的かつ基本的な注意義務」という視点を掲げて、信号無視危険運転罪を適用したことは、交通ルールの基本を踏まえたものであり、妥当とは言えるのですが、(信号無視)危険運転罪の適用範囲が広がりすぎる点で危惧を感じます。
3.解説記事もいくつか。
(1) 毎日新聞2007年12月25日 中部夕刊
「愛知・春日井の酒気帯び4人死亡:名高裁「危険運転」適用 遺族、涙で「納得」
◇「被告は受け止めて」
「原判決を破棄する」。愛知県春日井市で6人が死傷した事故に名古屋高裁の片山俊雄裁判長が危険運転致死傷罪の適用を告げると、遺族は「納得がいく」と涙を流した。業務上過失致死傷罪での判決を破棄され、改めて懲役18年を言い渡されても表情を変えない桑山健被告(27)に対しては「事実をまっすぐ受け止めるべきだ」と憤った。【岡崎大輔】
25日午前10時、名古屋高裁1号法廷。桑山被告は傍聴席に向かって一礼し、判決を待った。
「被告は赤信号を殊更無視した」。片山裁判長が「殊更」と危険運転致死傷罪の要件である「故意」を認めても、桑山被告は表情を変えなかった。
「青信号だと思ったとの被告の供述は信用できない」「相当量の飲酒後に帰宅するため飲酒運転をした動機に酌量の余地はない」「事故現場へ70〜80キロで進入し、00〜04年には速度超過を含む交通違反歴6件がある。交通法規に対する被告の意識には大きな問題がある」……。片山裁判長が厳しく批判する間も桑山被告は前を見据えたまま。言い渡し後、片山裁判長から「分かりましたか」と問われると、背筋を伸ばし「はい」と一言答えただけだった。
判決後、死亡したタクシー運転手の妻の中島光子さん(62)は「『危険運転罪』が認められうれしいの一言です。被告は事実を真摯(しんし)に受け止めてほしい」と涙を流した。
1審では、桑山被告が現場交差点に進入する際、速度を落としたり、クラクションを鳴らすなど、危険回避行動を取っていないことが「青信号と思いこんでいた可能性を排除できない」との過失認定につながった。高裁判決はクラクションの有無などは「判然としない」としつつも1審判決を「赤信号無視などの無謀運転をしたとの前提を取りながら、安全運転をする者の運転方法を想定して(判断して)おり、論理自体が相当ではない」と破棄した。
中島さんの長男の直人さん(36)は「1、2審を通じて『危険運転罪』が認められるという期待はなかったが、一般的にみても納得のいく判決で、裁判官に感謝したい」と話した。
■解説
◇状況証拠、積極的評価
赤信号無視を「見間違えによる過失」とした名古屋地裁判決を破棄し、「殊更無視した」と危険運転致死傷罪(法定上限・懲役20年)を認定した名古屋高裁判決は、「故意か、過失か」という被告の内面を、積み上げられた事故状況の証拠から積極的に故意と判断した。
同罪は、業務上過失致死傷罪(法定上限懲役5年)と違い、被告が危険運転を故意に行ったと証明する必要がある。交通事故は被告本人や目撃者の供述に頼る部分が大きく、東海大学の池田良彦教授(刑事法)は「裁判官や検事という実務側に難しい法律になっている」と、立証の難しさを指摘。実際、昨年の交通事故で業務上過失致死傷容疑による検挙が約82万件だったのに対し、危険運転致死傷容疑は約380件で、確定判決での認定も少ないという。
1審では検察側が危険運転致死傷罪で求刑した後、裁判所が業務上過失致死傷罪を訴因に追加するように命じた。福岡市元職員による3児死亡事故の公判でも、福岡地裁が同様の追加命令を出している。池田教授は「ハードルが高い危険運転致死傷罪だけでは無罪になる可能性があり、遺族感情を(無罪判決により)逆なですることは避けたいという苦肉の策」と分析する。
名古屋高裁は「苦肉の策」と言える1審とほぼ同じ証拠で正反対の結論を導き出した。事故状況を重視する姿勢を明確に示した判決は、危険運転致死傷罪適用を巡る今後の裁判に大きな影響を与えそうだ。【岡崎大輔】
毎日新聞 2007年12月25日 中部夕刊」
この毎日新聞の記事は、どうにも危なっかしい記述が多いです。
イ:
「「青信号だと思ったとの被告の供述は信用できない」「相当量の飲酒後に帰宅するため飲酒運転をした動機に酌量の余地はない」「事故現場へ70〜80キロで進入し、00〜04年には速度超過を含む交通違反歴6件がある。交通法規に対する被告の意識には大きな問題がある」……。片山裁判長が厳しく批判する間も桑山被告は前を見据えたまま。」
判決文のうち、犯罪事実認定の部分(信号無視)と量刑の部分(飲酒の事実)を混合して記事にしているので、実に紛らわしく、(一般市民が)誤解を生じてしまう可能性があります。断罪したような部分を切り取って記事にすることは止めてほしいと思います。
ロ:
「同罪は、業務上過失致死傷罪(法定上限懲役5年)と違い、被告が危険運転を故意に行ったと証明する必要がある。交通事故は被告本人や目撃者の供述に頼る部分が大きく、東海大学の池田良彦教授(刑事法)は「裁判官や検事という実務側に難しい法律になっている」と、立証の難しさを指摘。」
自動車事故は、本来、過失犯罪であるのに、重罰化するために無理に故意犯と扱ったのですから、危険運転罪自体、元々無理がある規定なのです。ですから、「裁判官や検事という実務側に難しい法律」と述べていますが、弁護側にとっても難しいのです。危険運転罪が、検事側にとって立証が難しく不利な規定のような意識を植えつけるような記述は止めてほしいと思います。
ハ:
「1審では検察側が危険運転致死傷罪で求刑した後、裁判所が業務上過失致死傷罪を訴因に追加するように命じた。福岡市元職員による3児死亡事故の公判でも、福岡地裁が同様の追加命令を出している。池田教授は「ハードルが高い危険運転致死傷罪だけでは無罪になる可能性があり、遺族感情を(無罪判決により)逆なですることは避けたいという苦肉の策」と分析する。」
訴因変更命令がでるというのは、検察側が(立証十分であるとの)裁判官の示唆に気づかないでいるか、検察側が裁判所の示唆をあえて無視するためです。死亡という事実が生じている場合には、結果の重大性から、検察の不手際によって無罪判決となることを避けるために訴因変更命令をだすことがあるのです。なので、危険運転罪に限ったことではなく、「無罪になる可能性があり、遺族感情を(無罪判決により)逆なですることは避けたい」という面は(少しはあるとしても)あまり当たらないように思います。「苦肉の策」という認識は大袈裟すぎるように思います。
ニ:
「名古屋高裁は「苦肉の策」と言える1審とほぼ同じ証拠で正反対の結論を導き出した。事故状況を重視する姿勢を明確に示した判決は、危険運転致死傷罪適用を巡る今後の裁判に大きな影響を与えそうだ。」
危険運転罪のうち、信号無視危険運転罪に関しては名古屋高裁の考え方は指針となりうることは確かです。しかし、危険運転罪には5類型の行為が含まれていて、それぞれ別個の要件で成立するのですから、名古屋高裁判決がすべての「危険運転致死傷罪適用を巡る今後の裁判に大きな影響を与え」ることはありません。あまりいい加減な記事を書くのは止めてほしいものです。
(2) 日経新聞平成19年12月25日付夕刊17面
「信号無視、「故意」と判断 検察、状況証拠積み重ね
4人が死亡した愛知県春日井市の酒気帯び運転事故を巡る25日の名古屋高裁判決は、信号無視を続けて走行した行為を「故意」ととらえ、危険運転致死傷罪を適用、悪質な運転に対する厳罰化を求める被害者の声に応えた格好となった。
警察庁によると、1―11月の同罪適用数は前年同期比66件増の388件。悪質運転には同罪の立件を念頭に置いた捜査を指示しているが、危険な運転をあえてした故意の立証が必要だ。心理状態を明らかにするには客観的な状況証拠の積み重ねしかなく、立証は困難とされる。
福岡市で昨年、幼児3人が死亡した飲酒運転事故では福岡地裁が業務上過失致死傷罪を訴因に追加するよう命令。危険運転致死傷罪の適用が見送られる可能性がある。
今回、検察は故意の立証に時間を費やした。信号システムを管理する愛知県警の警察官を証人尋問。被告が事故前に何度も現場を通ったとの供述を基に、信号サイクルの運動性によって交差点の赤信号を認識していたと主張した。
この日の判決は「青信号と勘違いした」とした被告側の主張を虚偽の弁解とし、「赤信号であったとしても無視しようとして進入したと推認できる」と結論づけた。」
2審判決が信号無視危険運転罪を認めたポイントは次の点です。
「今回、検察は故意の立証に時間を費やした。信号システムを管理する愛知県警の警察官を証人尋問。被告が事故前に何度も現場を通ったとの供述を基に、信号サイクルの運動性によって交差点の赤信号を認識していたと主張した。
この日の判決は「青信号と勘違いした」とした被告側の主張を虚偽の弁解とし、「赤信号であったとしても無視しようとして進入したと推認できる」と結論づけた。」
被告人は、事故を起こした現場を何度も通行しているとすると、運転者の意識としてはいつ信号が変わるのかという「信号サイクル」は、条件反射的に染み付いているはずです。そうすると、青信号と勘違いしたという言い訳は、まずしづらいでしょう。最高裁において、「青信号と勘違いした」という主張を通すことは困難であるように思います。もっとも、そうなると、危険運転罪が適用される可能性が高くなりますが、それでは先に述べたように、(信号無視)危険運転罪の適用範囲が広がりすぎる点で危惧を感じます。
厳罰化を突き進み、厳罰化で脅すことによって交通違反が減っていることは確かです。ただ、厳罰化により交通違反が減少してもそのうち慣れてしまうとまた、増加するかと思います。厳罰化よりも、交通教育の充実により交通事故を減らすほうが健全なように思うのです。
<平成20年1月8日追記>
asahi.com(2008年01月07日19時38分)から、引用。
「危険運転致死傷罪を不服とし上告 春日井6人死傷事故
2008年01月07日19時38分
愛知県春日井市で06年2月、6人が死傷した事故で、危険運転致死傷と道路交通法違反(酒気帯び運転)の罪に問われた同市知多町4丁目、元会社員桑山健被告(28)は7日、懲役18年(求刑懲役20年)を言い渡した名古屋高裁判決を不服として、最高裁に上告した。
同高裁は、危険運転致死傷罪の成立を認めず業務上過失致死傷罪を認定して懲役6年とした一審・名古屋地裁判決を破棄し、被告が事故現場の手前の交差点にも赤信号で進入していたことなどから「殊更に赤信号を無視した」と認定し、危険運転致死傷罪の成立を認めていた。」
1審の名古屋地裁(平成19年1月)は、桑山被告が信号を青と思い込んだ可能性があるとして危険運転致死傷罪の成立を認めなかったのであり、そういう解釈・判断も十分に可能ですから、上告するのも無理はないと思います。最高裁がどのような判断を示すのか注目しています。
>高裁の判断をたぶん最高裁も支持するでしょう
その可能性が高いと思います。
>今回は事故後のおわびなどで加害者と遺族の間で感情のもつれでもあったのではないでしょうか
そうでしょうね。記事からすると反省する姿勢が足りないようですし。加害者側の意図のように過失であるとしても、4人死亡させたことへの責任はあるのですから。
裁判所としては、加害者側には交通違反歴が何度かあって、また信号無視をするのではないかとの疑念を抱いたことも事実認定に影響したように思います。
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