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主に社会問題について法律的に考えてみる。など。
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2006/04/10 [Mon] 00:53:21 » E d i t
いわゆる蔵書破棄訴訟について、「新しい歴史教科書をつくる会」や関係者側は、原告1人につき3千円の支払いを同市に命じた差し戻し控訴審判決を不服として平成17年12月6日、最高裁に再び上告していましたが、最高裁は上告を棄却しました。この再上告審についてコメントしたいと思います。


1.asahi.com(2006年04月07日22時48分)によると、

船橋市に賠償命令が確定、「つくる会」著書廃棄で最高裁

 千葉県船橋市立図書館の司書が01年、「新しい歴史教科書をつくる会」や当時の関係者の著作などを廃棄したことをめぐり、著者らが市に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第二小法廷(津野修裁判長)は7日、賠償額が不当とした「つくる会」側の再上告を棄却する決定をした。著者7人と「つくる会」にそれぞれ3000円の賠償を市に命じた東京高裁の差し戻し後の控訴審判決が確定した。著者側は1人あたり300万円の賠償を求めていた。 」

としています。

差戻し後の控訴審判決(東京高裁平成17年11月24日判決)の判断は妥当なものでしたから、上告棄却の決定は妥当であり、当然に予想された結果であるといえると思います。
著者側は1人あたり300万円の賠償を求めたようですが、それは到底無理であり、殆ど認められない主張であることは、著者はともかく、著者側の弁護士なら分かっていたと思います。




2.ただ、差戻し後の控訴審判決(東京高裁平成17年11月24日判決)は不当ではないか? と疑問に抱く方もいるかと思います。そこで、控訴審判決の評釈の一部を引用しておきます。

判例時報1915号(平成18年3月1日号)29頁〜によると、
 

 「二 本判決は、右最一判が説示するところに従い、公立図書館の職員が、閲覧に供されている図書の廃棄について、著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的好みによって不公正な取扱いをすることは、当該図書の著作者の右人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となるとし、控訴人らが受けた損害額を算定するために右人格的利益の性質について検討し、公立図書館で閲覧に供されることにより、その図書の著作者はその閲覧について合理的な理由なしに不公正な取扱いを受けないという法的保護に値する人格的利益を取得すると解した上で、右人格的利益の性質、本件廃棄についての経緯、本件破棄に係る図書が再び船橋市西図書館に備え付けられ、閲覧に供されるなどの措置が執られていることなどの諸事情を総合勘案し、在外選挙権に関する大法廷判決(最大判平17・9・14本誌1908・36)が一人につき5000円の損害賠償を認容したことと対比することにより、右人格的利益が侵害されたことにより閲覧に供された図書の著作者が受けた無形の損害に対する金銭賠償としては、一人当たり3000円をもって相当とするとした。


 三 公立図書館の職員である公務員が、閲覧に供されている図書の廃棄について、著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって公正な取扱いをすることは、当該図書の著作者の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となる(右最一判、本判決)。

 そして、在外選挙権に関する右最大判は、一人につき5000円の損害賠償を認容しているところ、確認の訴えについて説示する箇所においてではあるが、『選挙権は、これを行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず、侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものである』と説示しているのであり、このことにかんがみれば、本件廃棄に係る図書が再び船橋西図書館に備え付けられ、閲覧に供されるなどの措置が執られている本件の場合の方が、損害額が小さくなると解することが可能であろう。

 なお、個人の人格的利益の侵害に対する損害賠償の算定例として、最二判平15・9・12民集57・8・973、本誌1837・3が、大学が講演会の主催者として学生から参加者を募る際に収集した参加申込者の学籍番号、氏名、住所及び電話番号に係る情報を参加申込者に無断で警察に開示した行為は、大学が開示についてあらかじめ参加申込者の承諾を求めることが困難であった特別の事情がうかがわれないという事実関係の下では、参加申込者のプライバシーを侵害するものとして不法行為を構成すると判断したことを受け、差戻後の東京高判平16・3・23本誌1855・104は、慰謝料として一人当たり5000円の損害賠償を認容しているところである。


 四 本判決は、前記最一判平17・7・14の判断に基づいて控訴人らが受けた損害額を算定したものであり、実務上参考になろう。」

としています。

要するに、事後的に回復可能性のない選挙権と、事後的に回復可能性があり回復された著作者の人格的利益を比較して損害額を決めようと判断したわけです。すなわち、選挙後の投票権を認めても無意味なのだから、選挙権は事後的に回復困難であり、事後的に回復困難な権利(選挙権)に対する賠償が5000円とするのが判例なのだから、それと比較すると、事後的に回復でき、現に回復できている利益に対する賠償なら、5000円よりもっと少ない賠償額でなければ不均衡であるというわけです。

この評釈によると、同じ人格的利益侵害についての他の判例とも比較しています。東京高裁平成16年3月23日判決によると、講演会参加者の名簿という情報という意味でのプライバシー侵害の場合、5000円の賠償額としたと紹介しています。このプライバシー侵害と比較すると、著作者の人格的利益侵害ならもっと賠償額は少なくてよいだろうというわけです。


この評釈には出ていませんが、権利・利益の重要性の違いにより賠償額に差異が生じるのではないかと思います。選挙権(憲法15条)は議会制民主主義に不可欠な権利ですし、プライバシー権(憲法13条)は個人の人格価値に密接にかかわる権利であって、いずれも憲法上重要な人権です。これと比較すると、「著作者の人格的利益」は狭い範囲において保障された利益です。なぜなら、すべての図書館のうちで公立図書館に限定され、しかも公立図書館で閲覧に供されている図書であることを前提として、図書館の広い裁量により当然に廃棄される可能性があるなかで、不公正な取扱いを受けないという利益なのですから。

このような権利・利益の重要性の違いからすると、賠償額には差が出てくることはもちろん、選挙権やプライバシー権よりも、著作者の人格的利益侵害の方が多額になることは考え難いのです。




3.こうしてみると、控訴審判決は、侵害された権利・利益に応じて賠償額を決しているということになりますから、当然といえば当然のことであって、きわめて常識的な判断をしたといえるわけです。

そうすると、差戻し後の控訴審判決(東京高裁平成17年11月24日判決)は不当ではなく、妥当であるといえます。

結局、この控訴審判決の判断は、再上告審でも受け入れられて、上告棄却の決定がなされたのです。控訴審判決が常識的な判断をしたのですから、それを是認することもまた、常識的ですから、再上告審も妥当というべきでしょう。




<追記>

蔵書破棄訴訟については、このブログでは度々論じています。「蔵書破棄訴訟」と検索するとすべて見ることできます。

順番に並べると、「蔵書破棄訴訟差戻し控訴審判決」「蔵書破棄訴訟差戻し控訴審判決〜補足」「蔵書破棄訴訟の判例解説へのコメント」となっています。こちらもぜひご覧下さい。

テーマ:裁判 - ジャンル:政治・経済

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