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2007/10/20 [Sat] 16:54:52 » E d i t
臓器移植法が施行されてから、10月16日で10年が経過しました。臓器移植法の施行3年をめどに見直す、と規定されているのですから、本来なら改正のための審議がなされ、何らかの改正もなされていたはずですが、一度も改正されていません。


1.この臓器移植法10年を契機として、幾つか記事が出ています。その中から幾つかの記事を紹介します。

(1) 東京新聞2007年10月16日 19時33分

 「改正審議進まぬ国会を非難 臓器移植法で患者団体
2007年10月16日 19時33分

 臓器移植関連の患者団体でつくる臓器移植患者団体連絡会(大久保通方代表幹事)は、臓器移植法施行から10年となった16日、厚生労働省で記者会見し、脳死での臓器提供条件を緩和する同法改正案の審議が進まないことに対し「国会の責任を放棄している」と非難し、早期審議を求める声明を発表した。国会議員全員に手渡すという。

 声明は、現行法下での臓器提供が少ないために海外に渡航する患者や、移植できずに死亡する患者が後を絶たないと指摘。「3年をめどに見直すとの条文がありながら、国会はこの10年間放置したまま。人の命を軽んじているとしか思えない」と厳しく批判している。

 大久保代表幹事は、審議が行われない状態がこれ以上長期化した場合には、移植を受けられずに死亡した患者の遺族が原告となり、国会議員らの責任を問う訴訟も検討する考えを示した。

(共同)」




(2) 京都新聞電子版(Kyoto Shimbun 2007年10月16日(火))

脳死移植10年 61例から243人に 待機患者1万2千人

 脳死からの臓器提供を認めた臓器移植法の施行から、16日で10年となる。1999年2月の高知赤十字病院での第1例から15日までに61例の脳死からの臓器提供があり、243人に心臓や肝臓などが移植された。15日には新たに大津赤十字病院で滋賀県で初の法による脳死判定が行われ、京都府立医科大などで移植手術が行われる見込み。臓器の提供は徐々に増えているが、課題は山積みだ。

 ■法改正を検討、異論も

 脳死からの臓器提供は増えているとはいえ、1万2000人を超える待機患者数からみれば限られた数にとどまっている。幼い子どもが心臓などの移植を受ける道は事実上、閉ざされたままで、患者団体や移植医は法改正を強く求めている。

 現行法では、15歳以上を対象に本人の生前の意思と家族の同意によって提供が可能となる。改正案として、年齢制限を外して生前の意思がない場合に家族の同意で可能とする通称A案と、年齢を12歳以上に引き下げるB案が国会に上程されているが、実質審議は行われていない。

 患者団体や、移植医などでつくる日本移植学会はA案による改正を求めているが、子どもの意思をどう考えるのか、虐待による子どもの脳死を調査できるのかなどの問題があり、慎重意見や反対意見は根強い。

 京都では、京都大医学部付属病院と府立医大病院で脳死からの臓器提供を受けた移植手術が計二十二例行われる一方、脳死からの臓器提供は昨年3月の京都第一赤十字病院での一例のみ。脳死判定には多くの難しさがあり、医療施設の負担も課題だ。」


これらの記事から分かるように、1万2000人を超える待機患者がいるのに、脳死からの臓器提供は、61例(10月15日まで)にとどまっていることから、脳死での臓器提供条件を緩和する同法改正案の審議が強く望まれています。

「幼い子どもが心臓などの移植を受ける道は事実上、閉ざされたままで、患者団体や移植医は法改正を強く求めている。」


元々、ドナー不足であるのですが、特に、事実上、幼い子どもが心臓などの移植が不可能になっているため、その点を解消することが求められています。そうすると、 年齢を12歳以上に引き下げるB案(斉藤鉄夫議員他3名の提出法案)では、幼児をレシピエントとする心臓移植は困難ですので、この法案通りに改正してもあまり意味がありません。


そうすると、年齢制限を外して生前の意思がない場合に家族の同意で可能とするA案(中山太郎議員他5名提出法案)による改正が求められているわけです。

このA案に対しても批判があることは確かですが、臓器移植改正に関して、朝日新聞が世論調査を行っています(朝日新聞平成19年10月17日付朝刊9・30面)。その記事によると、「15歳未満の子からの提供を「認めるべきだ」としたのは46%で、「認めるべきではない」の35%を上回った。「認めるべきだ」とした人のうち、下限年齢を「12歳まで」としたのは22%。「年齢制限をなくし乳幼児にも認める」としたのは66%だった。」としています。このように、「15歳未満の子からの臓器提供を認めるべきだと答えた人(46%)のうち、A案と同じく年齢制限をなくすべきだとした人が6割超」という状態なのですから、世論の意識としては、A案通りに改正しても多数の賛成を得られることになりそうです。


もちろん、法案のレベルの段階において賛成するということであって、実際上、臓器提供者が増えるかどうかは別問題です。法改正に向けての法案審議も重要ではありますが、果たして法改正したとしても臓器提供者がどれほど増加するのでしょうか? 現状において、臓器提供者の提供意思を生かせる態勢は整っているのでしょうか? その点について、朝日新聞平成19年10月18日付朝刊3面において触れていたので、その記事を紹介したいと思います。


2.朝日新聞平成19年10月18日付朝刊3面

 「脳死移植 模索10年

 臓器移植法が施行され、脳死移植が可能になってから10年。この間に実施された脳死移植は62例と伸び悩み、欧米の実績との差が縮まる気配はない。だが、提供意思を示していた人が脳死に陥った際に、その意思を生かせる態勢は整っているのか。提供を支える医療現場には課題が山積している。(野瀬輝彦、西川迅)

◆実績伸び悩み62例 救急現場に余裕なし

 西日本に住む50代男性は9月下旬、臓器提供を受けた元患者や家族、提供者側の家族ら約130人が集まって新潟市で開いたスポーツ大会に参加。ダーツやウオーキングを楽しんだ。

 99年2月、大阪大学で心臓の移植手術を受けた。高知市であった初の法的脳死判定で、移植患者に選ばれた。肥大型心筋症で1年半ほど前から入院中だった。

 手術から3ヶ月後には退院、その半年後には職場復帰も果たした。今は家庭菜園で汗を流し、三味線をつまびく。1日約4キロの散歩も日課だ。「ドナー(提供者)の尊い気持ちのおかげ。その気持ちを大切にして生きていきたい」と話す。

 だが男性のような人はわずかだ。10年間に行われた法的脳死判定は63。うち62人から計250人に移植された。

 日本臓器移植ネットワークによると、移植を受けたいと登録する患者は心臓で99人、肺で133人。腎臓、肝臓も計1万1911人いる。臓器移植患者団体連絡会は「この10年に、移植を受けられず亡くなった人は4千人」と訴える。

 脳死移植が進まない理由は何か。有賀徹・昭和大学医学部教授(救急医学)は「救急医療の現場に余裕がないためだ」と指摘する。

 06年、全国の救命救急センターなどに前年の脳死発生状況を尋ねた。回答のあった541施設で脳死を経たと見られる死亡例は約5500例。だが、治療目的などで臨床的脳死を判断したのは約1600例だけ。判定しない理由は「時間がかかるから」「面倒な仕事になる」などが多かった。

 法的脳死判定は、臨床判断より時間や人手がかかる。慢性的に人手不足の救急医療の現場には、負担感が強い。

 家族が法的脳死判定を受けて臓器提供をした関東地方の男性(63)は、意思表示カードがあることを主治医に伝えた際の微妙な空気を覚えている。「やっかいなものが来た、という反応に感じた。ややこしくなるので迷惑かな、と思った」

 関東地方の病院では、法的脳死判定の際、集中治療室の看護師や麻酔科医師らが3日間、提供者に付き添った。検査技師や事務職員も普段しない夜勤をした。

 「積極的になれない病院があるのも分かる。多職種がかかわる脳死移植は、病院の総合力が試される」と病院関係者は話す。


◆家族説明で医師ら困惑

 施設や人手の問題以外にも、医師ら医療関係者側には戸惑う要因がある。「救命の現場で、臓器提供について話をすれば、家族に十分に治療してくれないのではという不信感を抱かせるのではないか。そう不安に感じる医療関係者は多い」と福岡県の岩田誠司・移植コーディネーターは話す。

 対策は始まっている。福岡県では05年から、臓器移植について説明する冊子を県が作り、病院に配布する。「話しにくいが、文書なら」という医師らに活用してもらう。

 同県飯塚市の飯塚病院では06年10月以降、冊子を家族に手渡すケースが35例あった。そのうち1例で、家族は心停止後の提供を申し出た。「治療方針を説明するのと同様に、臓器提供という選択肢を家族に示すのは当然だと思う。行政の冊子なら、家族が誤解する恐れも低いのでは」と名取良弘・脳神経外科部長。

 北海道移植医療推進協議会は03年、道内の医師、看護師ら約千人に意識アンケートをした。脳死を人の死と認めたのは38.8%。さらに「分からない」と4割が答えた。「移植への理解が不足していることがはっきりした」と北海道大病院臓器移植医療部の嶋村剛准教授は話す。

 移植医でつくるNPOは同年から、患者や家族と医療者の橋渡し役を務める院内コーディネーターを育成する講習会を始めた。看護師らを対象に毎年開き、21人が修了。03年にゼロだった腎臓提供は04年以降、毎年10件前後になった。

 「移植に理解のあるスタッフを増やせば状況は変わるはずだ」と嶋村さんは強調する。


◆身内優先提供の改正案

 脳死や心停止後の移植が進まない一方、生きている人が親族に肝臓や腎臓を提供する「生体移植」が増えている。05年実績では、脳死9件に対して生体腎834件、生体肝561件。目の前で苦しむ人を救いたいと提供する家族らが、数字を押し上げている。

 やっと昨年3月に議員提案された改正2法案。実質的な審議入りはまだだが、両案とも、親族に優先的に提供して欲しければ、意思表示カードなどに記せる。

 脳死下で実際にあった事例がきっかけだ。01年7月、脳死と判定された男性は親族への腎臓提供を希望していた。移植ネットと厚生労働省が協議した結果、意思を尊重して腎臓病を患う親族に供された。現行法では移植患者の「指名」を禁じる規定はなかった。

 同省審議会で関係者が議論を重ねたが、「限定的に認めてもよい」「病気の家族がいると提供への重圧がかかる」と意見が噴出。「指名」は当面認めないとし、国会での議論に期待して結論を先送りした経緯がある。

 これに対し、生命倫理政策研究会・共同代表の島(ぬでしま)次郎さんは「(指名は)機会の公平性という法の基本理念に反する。親族からもらえるとなると脳死移植を狭い人間関係に閉じこめ、かえって全体の発展を阻害するのでは」と懸念を示す。(以下、省略)」



(1) 幾つかの点に触れていきます。まず1点

「脳死移植が進まない理由は何か。有賀徹・昭和大学医学部教授(救急医学)は「救急医療の現場に余裕がないためだ」と指摘する。

 06年、全国の救命救急センターなどに前年の脳死発生状況を尋ねた。回答のあった541施設で脳死を経たと見られる死亡例は約5500例。だが、治療目的などで臨床的脳死を判断したのは約1600例だけ。判定しない理由は「時間がかかるから」「面倒な仕事になる」などが多かった。

 法的脳死判定は、臨床判断より時間や人手がかかる。慢性的に人手不足の救急医療の現場には、負担感が強い。

 家族が法的脳死判定を受けて臓器提供をした関東地方の男性(63)は、意思表示カードがあることを主治医に伝えた際の微妙な空気を覚えている。「やっかいなものが来た、という反応に感じた。ややこしくなるので迷惑かな、と思った」

 関東地方の病院では、法的脳死判定の際、集中治療室の看護師や麻酔科医師らが3日間、提供者に付き添った。検査技師や事務職員も普段しない夜勤をした。

 「積極的になれない病院があるのも分かる。多職種がかかわる脳死移植は、病院の総合力が試される」と病院関係者は話す。」


要するに、<1>法的脳死判定は時間や人手がかかるため、人手不足の「救急医療の現場に余裕がない」ことと、<2>「多職種がかかわる脳死移植は、病院の総合力が試される」ため、多職種が在職する大きな病院でなければ困難であるということです。多職種が関わるということは、当然ながら費用も要するのであり、脳死判定から臓器提出までの全過程に必要とされる諸費用は100万を大幅に超える額がかかっているのです(大島信一「臓器移植法の6年」ジュリスト1264号(2004年3月15日号)10頁。費用負担は個別症例ごとに書く施設で対応。)。

このような状態からすれば、「死亡例は約5500例。だが、治療目的などで臨床的脳死を判断したのは約1600例だけ」にとどまるのも当然とさえ、いえるでしょう。法改正をしたところで、これら2点を解消する方向へ手立てをしなければ、脳死移植は一向に増えない結果になる可能性が高いといえるかと思います。



(2) 2点め。

「施設や人手の問題以外にも、医師ら医療関係者側には戸惑う要因がある。「救命の現場で、臓器提供について話をすれば、家族に十分に治療してくれないのではという不信感を抱かせるのではないか。そう不安に感じる医療関係者は多い」と福岡県の岩田誠司・移植コーディネーターは話す。」


要するに、現実の臓器提供が求められる時点で、十分な治療をしてくれないのではないかとの不安感が家族にあるため、医療関係者は不安感をもたれないようにしたいため脳死移植を控えてしまうということです。

この家族の不安感としては、臓器提供者の家族が提供したことについて後悔している事態も生じていることから、脳死移植の提供を求められても家族は同意しかねることがあるのです。娘(22歳)が脳死となり臓器提供した事例について、次のような記事がありました。

「心臓移植を受けた患者から『余命数か月と言われていたが、娘さんのおかげで助かりました』と感謝を表した手紙が届いた。娘の意思を尊重して良かった、と改めて思った。

 しかし、悔いもある。病院で意識不明の対面した48時間後には脳死と判定され、さらに12時間後に移植が終了した。ゆっくり手を握ってやる時間もなかった。

 『臓器提供もせず、もっと娘とお別れする時間を持って、抱きしめてあげるべきではなかったのか』との思いが消えない。食欲がなくなり、体重が半年で13キロ落ちた。軽いうつ病と診断された。

 脳死移植での臓器提供者は交通事故や急病で脳死になった人たちが多い。悲嘆に暮れながら提供の許否を決断しなくてはならない家族の苦悩は深い。移植の橋渡し役都道府県の移植コーディネーターが相談に乗ることがあるが、この女性の場合、臓器提供した病院と離れた地方に住み、難しかった。『私たち家族は取り残された感じ。家族の気持ちを分かってくれる相談相手がほしい』と話す。」(読売新聞平成19年10月18日付朝刊38面「命をつなぐ 臓器移植法10年: (5)悲しみに暮れる間もなく決断  ドナー遺族 誇りと悔い」

このように、臓器提供者家族に対する心のケアが必要なのですが、ケアの具体策も調査結果もまとまっていないようです(上記読売新聞)。遺族の心情を置き去りにし、臓器提供者家族が後悔するようでは、法改正したとしても臓器移植は増えるわけがありません。


「移植医でつくるNPOは同年から、患者や家族と医療者の橋渡し役を務める院内コーディネーターを育成する講習会を始めた」とありますが、どんなにコーディネーターを育成したところで、コーディネーターへの待遇が良くない例もあるため、十分に仕事を全うできないのです。

「この4月、7年努めた同県のコーディネーターから、県立保健大助手に転身した奈良岡恵子さん(35)はどんなに頑張っても周囲の理解が得られず、孤立無援になる』と振り返る。……医師不足で疲弊する脳外科医らに、移植の話に耳を傾ける余裕はなかった。在任中の臓器提供の情報は23件にとどまり、心停止後の腎臓移植も4件しかなかった。病院訪問を繰り返す姿に、県庁では『遊んでいるのではないか』と批判された。非常勤・月額報酬20万円という待遇は全く変わらなかった。

 奈良岡さんが昨年末に実施した調査によると、ネットワークと都道府県のコーディネーター(計44人回答)の68%が、将来も仕事を続けることについて『意欲がない』『分からない』と回答した。『現在の人数、業務内容では体力的にも厳しい』『疲労困ぱい』との回答が並んだ。

 心身とも燃え尽き、数年で退職するコーディネーターも後を絶たない。奈良岡さんは『これでは家族のケアなど出来ないのではないか』と懸念する。」(読売新聞平成19年10月19日付朝刊34面「命をつなぐ 臓器移植法10年: (6)孤立するコーディネーター  低い待遇 心身とも疲弊」


コーディネーターが孤立するというのは、結局は、(医師不足で疲弊しているという事情があるとしても)医師側の意識に問題があるのです。こんな状態では、法改正したとしても臓器移植は増えるわけがありません。



(3) 3点目。

「昨年3月に議員提案された改正2法案。実質的な審議入りはまだだが、両案とも、親族に優先的に提供して欲しければ、意思表示カードなどに記せる。

 脳死下で実際にあった事例がきっかけだ。01年7月、脳死と判定された男性は親族への腎臓提供を希望していた。移植ネットと厚生労働省が協議した結果、意思を尊重して腎臓病を患う親族に供された。現行法では移植患者の「指名」を禁じる規定はなかった。

 同省審議会で関係者が議論を重ねたが、「限定的に認めてもよい」「病気の家族がいると提供への重圧がかかる」と意見が噴出。「指名」は当面認めないとし、国会での議論に期待して結論を先送りした経緯がある。

 これに対し、生命倫理政策研究会・共同代表の島(ぬでしま)次郎さんは「(指名は)機会の公平性という法の基本理念に反する。親族からもらえるとなると脳死移植を狭い人間関係に閉じこめ、かえって全体の発展を阻害するのでは」と懸念を示す。」


親族を優先することを認める規定は、改正案の注目点です。要するに、臓器提供者の意思を尊重する規定を設けようというわけです。

この身内優先提供の規定に対して、島(ぬでしま)氏は機会の公平性という法の基本理念に反するという批判が行っています。そうすると、この規定の是非は、臓器提供者の意思を重視するのか、移植機会の公平性を重視するのかによるということになります。では、どのように考えるべきでしょうか?

【臓器の移植に関する法律第2条(基本理念)】
 1 死亡した者が生存中に有していた自己の臓器の移植術に使用されるための提供に関する意思は、尊重されなければならない。
  2 移植術に使用されるための臓器の提供は、任意にされたものでなければならない。
  3 臓器の移植は、移植術に使用されるための臓器が人道的精神に基づいて提供されるものであることにかんがみ、移植術を必要とする者に対して適切に行なわなければならない。
  4 移植術を必要とする者に係る移植術を受ける機会は、公平に与えられるよう配慮されなければならない。


臓器移植法2条は、機会の公平性も明記していますが、まず1項において本人の「意思」を尊重することを明記していますし、だからこそ、本人の書面(ドナーカード)を必要としたのです。となると、機会の公平性よりも本人の意思尊重こそもっとも基本となる原則であると判断できるのです。

また、生体間移植では、臓器提供者は親族などに限定され、当然ながら臓器提供を受ける側は親族に限られるのですから、死体間移植の場合において親族への提供を願う本人の意思を否定するのは不均衡です。 島(ぬでしま)氏は「親族からもらえるとなると脳死移植を狭い人間関係に閉じこめ」ると批判していますが、生体間移植を失念したものであって、妥当性があります。もしこの批判が妥当だとすると、生体間移植を全否定することになりますが、生体間移植が移植の多数を占めている日本の移植事情からすると非現実的な主張であり、まったく妥当性がないのです。

医療行為の妥当性は、患者の自己決定権を重視する点にあるのですから、移植機会の公平性よりも、臓器提供者の意思を重視する方が医療行為のあり方に適っているのです。

このようなことから、機会の公平性という法の基本理念に反するという、島(ぬでしま)氏による批判は、臓器移植法の基本原則について根本的な理解を欠いたものであり、医療行為のあり方にも反するのですから、妥当性に欠けるのです。身内優先提供の規定は、妥当性があると考えます。




3.臓器移植法改正に関して法的な問題点を指摘しているのが、北海道新聞平成19年10月18日付「社説」です。この社説を引用しておきます。

臓器移植10年 実績積み重ねる努力を(10月18日)

 臓器移植法が施行されて丸十年になった。この間に実施された脳死下の臓器移植は全国六十二例、道内三例にすぎず、移植医療が定着したとは言えない。

 脳死と判定されたら臓器を提供したいと考える人が政府の調査で四割を超えた。国民の意識は変わってきたが、提供者(ドナー)は不足している。

 法は臓器の提供条件から脳死判定、摘出、患者の選定、記録の作成、情報公開まで、厳格なルールを設けた。移植医療の透明性を高めるためだ。これがドナー不足の一因となっている。

 脳死下で臓器を提供できるのは、患者が大学病院などの「臓器提供施設」に運ばれた場合に限る。このため、臓器提供の意思をドナーカードに残しても生かされないことが多い。

 臓器提供施設を増やすには病院が設備や人員を充実させる必要がある。簡単ではないが、増設は課題の一つだ。

 脳死が疑われる患者の家族に臓器提供の可能性を確認するのをためらう医師が少なくない。医師に代わって移植を橋渡しする「院内コーディネーター」の養成を急ぎたい。

 現行の枠組みの中で実績を積み重ねながら、こうした課題を一つ一つ克服し信頼度を高めることが脳死移植の定着につながるのではないか。

 臓器移植法は施行後三年をめどに検証し、見直すことになっていたが、手つかずのまま現在に至っている。

 患者団体は臓器提供における厳しい条件を緩和するよう求めている。

 こうした声を背景に、年齢に関係なく、本人が拒否していなければ家族の同意で臓器を提供できるようにする法改正案が国会に提出されている。

 とはいえ、「書面による本人の意思表示」は現行法の大原則だ。欧米並みに家族の同意だけで提供が可能なように転換するのは性急ではないか。

 交通事故や脳血管疾患で突然、脳死状態に陥った患者の家族に冷静な判断を求めるのは難しい。条件の緩和には慎重な論議が必要だ。

 問題は、十五歳未満の臓器提供が認められないため小児への移植が事実上できず、海外で心臓などの移植を受ける子どもが後を絶たないことだ。

 移植を待ちながら死んでいく子は海外にもいる。放置できない問題だ。

 国会には、現行の枠組みのままで臓器提供のできる年齢を「十二歳以上」に引き下げる法改正案も出ている。

 子どもの場合、脳死状態と診断された後、心臓が長期間停止しない「長期脳死」の例が報告されている。

 十五歳未満で意思表示が難しい場合は文書による親の同意で提供できるようにすべきだとの意見も根強い。

 ただ、国民的な合意が形成されているとは言えない。移植をめぐる問題点をあらためて整理し、あらゆる機会をとらえて論議を深める必要がある。」




(1) この社説は、ここまで論じてきたものを簡潔にまとめたものといえます。

「施行から10年を迎えた臓器移植法の改正論議では、本人の意思確認が焦点となっている。朝日新聞の世論調査では、本人の提供意思の確認が「必要」と答えた人が、家族の同意だけでよいとする人を上回った。移植を待つ患者らが求める改正案は、家族承諾のみで移植を可能にする内容だが、世論はより慎重な意思確認を求めているようだ。」(朝日新聞平成19年10月17日付朝刊9面「本人意思尊重 根強く 臓器移植本社調査『脳死は死』47%」)

世論調査でも、本人の提供意思を重視することを求めていますし、北海道新聞の社説においても、「書面による本人の意思表示」は現行法の大原則であるとして、改正に対して慎重さを求めています。しかも、医療行為の妥当性は、患者の自己決定権を重視する点にあることも踏まえると、本人の提供意思を不要とすることには出来る限り、慎重さが必要となることに注意する必要があるのです。

このように、家族承諾のみで移植を可能にする内容に法律を改正するだけでも難しさがあるのです。



(2) 法改正の論議も重要です。ですが、現状において、臓器提供者の提供意思を生かせる態勢は十分ではなく、法改正したとしても臓器提供者が増加するとは思えないのです。 臓器提供者の提供意思を生かせる態勢を整えることは、法改正がなくても今までできたことです。ですが、今までそのような努力は実っておらず、ほとんど実行していなかったことと等しいのです。

ここまで述べてきたように、移植医療体制全般に及ぶような問題点があるのですから、個別の医療機関や患者団体の要望でできるものではありません。要するに、行政・国会側が全体的な移植医療体制を整える必要があるのにしていなかった(おそらく、分かっていても面倒だからしなかったのだと思う)ことに一番の責任があるのだと思います。


病気腎移植問題において何度が触れたことですが、米国は政府が率先して(病気のあった臓器移植も含めて)臓器移植を増加を図る努力を行っているのですが、それに比べると、日本政府の対応はまったくしていないといえるほどです。臓器移植を増加するためには、病気のあった臓器まで拡大することも排除することなく努力を図るのが米国の対応であり、世界的な移植事情です(「「病気腎移植禁止」に米国学会元会長らが反論~世界の流れに逆行している!!!」「“ブリスベーンの風”移植先進地からの報告~産経新聞7月24・25・26日付より」参照)。

万波医師らは、腎臓移植に関してですが、病気腎移植にも目を向けてレシピエントを増やす努力を行い、結果を残してきました。これは、極めて優れた技量をもつ医師と、医師と患者との強い信頼関係があればこそできたことですが、これも臓器提供者の提供意思を生かせる態勢の整備の一方法であったのです。しかし、厚労省や日本移植学会などは、病気腎移植の道を断ってしまい、世界的な流れに反するような愚かな選択をしてしまいました。


臓器移植問題については、臓器移植法を改正することも必要かもしれませんが、それは臓器移植問題においてはごく一部の解決にとどまっており、現状では法改正してもその効果は乏しいのです。臓器提供者の提供意思を生かせる態勢の整備など、移植医療体制全般に目を向けて全体的な考察が必要なのです。

テーマ:政治・経済・時事問題 - ジャンル:政治・経済

コメント
この記事へのコメント
春霞様
お久しぶりです。
臓器移植法施行10年の今年10月、各地で臓器提供意思表示カードの啓発活動や臓器移植法改正を求める論説が新聞紙上でよく取り上げられています。
いろいろな記事の紹介と解説ありがとうございました。
薬害C型肝炎の問題にしても、厚生労働省の不作為が招いていることを厚生労働省自身自ら振り返ってもらいたい、怠慢もいいかげんにして欲しいと真に思います。
2007/10/24 Wed 23:42:50
URL | hiroyuki #-[ 編集 ]
追伸
失礼しました。
不作為は厚生労働省だけではありませんでした。
臓器移植法を改正するといいながら、審議を棚上げにしている国会もまた責任を放棄しているとしか思えません。河野衆議院議員も国会の不作為責任について言及されていました。
2007/10/24 Wed 23:47:26
URL | hiroyuki #-[ 編集 ]
>hiroyukiさん:2007/10/24(水) 23:42:50と2007/10/24(水) 23:47:26
コメントありがとうございます。お久しぶりですね。

>いろいろな記事の紹介と解説ありがとうございました

hiroyukiさんのブログを拝見していると、このブログでも、もっと臓器移植問題について度々取り上げるべきだと痛感します。


>薬害C型肝炎の問題にしても、厚生労働省の不作為が招いていることを厚生労働省自身自ら振り返ってもらいたい
>臓器移植法を改正するといいながら、審議を棚上げにしている国会もまた責任を放棄しているとしか思えません

同感です。厚労省はできる限り何もしないですね。そして国会も。
臓器提供意思を生かせる態勢作りだけでも積極的に取り組むべきだったのに、消極的でした。患者は命の危機に晒されていることが分かっていないのではないかと思えるほどです。
2007/10/27 Sat 01:58:24
URL | 春霞 #ExKs7N9I[ 編集 ]
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「無期懲役といっても刑期が決まっていないだけで、7年もすれば出てくる。日本は終身刑もなく犯罪者に著しく甘い」といった発言に対し、「たしかに、無期懲役は終身刑ではないが、無期懲役の平均は21年6ヶ月だ」などと言って反論している人をときどき見かけますが、こうい...
2007/10/21(日) 03:47:41 | 無期懲役刑に関する誤解の蔓延を防止するためのブログ
職務で出会った女性と不倫 40代の警部補を道警が 減給処分(10/18 07:10)北海道新聞職務を通じて知り合った女性と不倫し、地方公務員法上の信用失墜行為があったとして、道警が札幌方面の警察署に勤務する四十代の男性警部補を
2007/10/21(日) 09:27:01 | 探偵浮気調査検索サイト
スイスの労働規制でどうなっていいるのだろうか。 スイスの会社勤めの本職での労働時間は自己申請で やろうと思えば1分単位でも労働時間を申請できるが、お店ではそうではない。
2007/10/21(日) 14:12:46 | スイスで仕事をしながらスイス生活文化を学ぶスイス滞在生活ガイド
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