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2007/09/10 [Mon] 08:31:36 » E d i t
臓器売買となる恐れのあるフィリピンで今後腎臓移植を受ける患者に対し、その事後処置にあたる診療はしないという方針を打ち出す動きが国内の病院で広がっているとの記事を、依然に紹介しました(「フィリピンで腎移植受けた患者を診療拒否へ~毎日新聞のみの報道ですが……。」)。


1.診療拒否が広がっているという、毎日新聞の記事を紹介した頃は、半信半疑の記事だったのですが、東京新聞9月9日付朝刊「こちら特報部」によると、診療拒否さらには保険不適用の病院が広がっているそうです。


腎不全患者が腎臓移植を希望する場合、日本における(死体)腎臓移植は15年待ちの状態ですから、生体腎移植のあてがなければ、海外での腎臓移植をせざるを得ません。

ところが、フィリピンで腎臓移植をしてきても日本の病院で診療ができないとなると、患者の命がもたないことになりますし、多くの患者が出向いているフィリピンでの腎臓移植が事実上絶たれてしまいます。患者にとって死活問題です。


以下、診療拒否・保険不適用が広がっているという、東京新聞平成19年9月9日付朝刊の記事を引用します。



2.東京新聞平成19年9月9日付朝刊「24・25面「こちら特報部」

「「比で4月以降」腎移植患者に「差別」 病院が診療拒否、保険不適用 

患者悲鳴、医師苦悩
 
2007年9月9日

 国や学会の公式通達がないのに、今年4月以降にフィリピンで腎臓移植手術を受けた患者を診療拒否したり、保険適用外の自由診療にしたりする病院が出ている。どうやら、「売買臓器を移植した患者を診察すると診療報酬返還を求められる可能性がある」「そういう患者が来たら通報すべきだ」という趣旨のメールや口コミが一部の医師から発信され、各地の病院に広まった影響もあるらしい。患者からは「このままでは命がもたない」と悲鳴が上がっている。 (片山夏子)

◆「薬買えないか」 比の病院に殺到

 今、フィリピンの病院には、日本に帰国した腎移植患者から「薬を買えないか」「診てくれる病院を知らないか」と助けを求める連絡が殺到している。

 腎移植を受けた人は一生、免疫抑制剤の投薬や定期的な診察が必要だ。ところが、フィリピンで今春、腎移植を受けた50代男性は日本に帰国後、診察を受けた医師から「逮捕される可能性がある。通報もできる…」と言われた。結局、診察や薬代などを、保険が利かない自由診療扱いで約20万円を払った。

 60代男性も「4月以降にフィリピンで移植を受けた人は自由診療」と言われた。40代男性も自由診療と言われ、1回の診察に約5万、1ヶ月の薬代が約17万円。別の50代男性は「自由診療で月20万ぐらい掛かる。このままではとても続かない」と切羽詰った様子だ。

 「4月以降の患者は診察しない立場を取ろうと思っている」。東邦大医療センター大森病院・腎センター長の相川厚教授は話す。宇和島徳洲会病院の売買事件の判決後、病院に診療報酬の返還請求がされるといわれていることや、フィリピン政府が事実上「臓器売買」を認める制度を検討していることが明らかになった影響がある。

 「日本移植学会の公式見解はないが、一部の医師にフィリピンでの移植は売買の可能性が高く、売買なら警察に通報義務があることや保険で診ると後で診療報酬返還請求がされるという見方がある。受け入れない立場を取る病院が多いのではないか」

 なぜ4月かは「フィリピン政府の方針が明確になったことや、厚労省の見解があったからでは」と噂(うわさ)されるが、はっきりしない。フィリピン政府は4月に特別な動きをしていない。

 相川教授は言う。「医師として患者を通報することはできないが(臓器売買を)分かっていて診ることもできない。診療報酬の返還で病院をつぶすわけにもいかない。患者は命が懸かっていて必死。患者が悪いのではないが(売買を)推進するわけにもいかない。日本で移植を受けられる体制にしないと、いつまでもこの状態は続く」

◆診療報酬返還のうわさ 臓器売買なら診られない

 自由診療で患者を診る病院の移植医は「フィリピンで行われている移植は売買。だが、医師として困っている患者を追い返すことはできない。誰か診ないと死んでしまう」。学会のある医師からのメールで、通報義務があることや保険診療だと不正請求の可能性があると知らされた。「私も学会員だから、公式(見解)ではないが無視できなかった。診療することに迷いはないが、診療報酬の話は病院の問題になる」。知り合いの医師、複数に同様のメールが届いていたという。

 多くの病院は中国などで腎移植したり、フィリピンでも4月以前に腎移植した患者は保険診療で治療している。「フィリピンで4月以降」の人々だけが自由診療となり、月々2、30万円の治療費がかかっている。

◆治療義務に違反の可能性も「国、学会が方向性を」

 東京医科大八王子医療センター臓器移植外科の松野直徒准教授は「宇和島の事件で売買が現実に罰せられることが分かり、渡航患者を診ると司法の手が入るかもしれないということになった」。

 松野准教授も、「4月」というのは、フィリピン政府が声明を出した時期に重なるのではないかと思ったという。

 その上で「4月以降の患者は教授の判断を仰ぐしかない。売買だと教授が判断したら診ることができないかもしれない。でも、薬が無くなった患者の診療を拒否するのか。現場はどうしたらいいのか困っている。国でも学会でもなんらかの権威が方向性を出してほしい。ただ患者にも海外での移植は危険性が高いことも知ってほしい」と訴える。

 腎移植を行っている各地の大病院の反応はどうか。神戸大医学部付属病院は「これから対応を検討する」。京都府立医科大付属病院は「取材対応できない」。熊本大医学部付属病院は「まず診療し、その後は状況に応じて対応する」という。

◆厚労省対策室 「個別で判断」

 日本移植学会の大島伸一副理事長は「患者の生きる権利と日本の法や社会のルールとの関係。学会や医者では、この問題に判断を下せない」。厚生労働省の臓器移植対策室は「個別事例をみないと判断できない」。

 同学会幹事で大阪大医学部付属病院の高原史郎教授は「海外移植者の逮捕例はなく司法判断が無いので判断できない。(学会員に聞かれたら)診療報酬返還の可能性があり、それを覚悟して診るしかないと答えている。診ろとも診るなとも言えない」。

 臓器移植法は臓器売買や、あっせんを処罰対象としている。日本人が国外でやっても処罰されるという特別規定もある。では、患者の帰国後に診察した医師が罪に問われることはあるのか。

 上智大の町野朔教授(刑法、医事法)は「海外で臓器売買したとしても、患者が帰国した時、犯罪は既に終わっている。医師が渡航前から知っていれば別だが、診察したからといって臓器売買の共犯になることはない」とする。

 正当な理由が無ければ医師は診療を断れないという、医師法の「応召義務」との兼ね合いはどうか。

 町野教授は「たとえ違法行為を行った者でも診療を拒否する正当な理由に当たらない」と指摘する。たしかに、強盗犯人のけがや薬物中毒者は治療しませんという医師はいない。

 「売買の可能性が高いからと、診療拒否するのは正当な理由に当たらず、応召義務違反になる可能性が高い」と話すのは医療問題弁護団代表の鈴木利廣弁護士。「医師が治療上で知り得たことを(捜査機関などに)通報する義務はない。むしろ守秘義務違反になる可能性がある」といい、売買された臓器を移植した患者のことを通報しなかった医師が罰せられるとの考え方に首を傾(かし)げる。

 医療問題に詳しい光石忠敬弁護士は「道徳的には問題があるが、現実的には問題があるが、現実的には海外での売買か特定することや、移植しなくては生きられない人に法を適用するかは難しい。人情もあるだろう。また、保険診療かどうかは一言で言うと診療が標準的かどうか。日本での術後の診療は保険適用範囲内だろう。自由診療じゃなければならないとしたら、金持ちじゃないと助からないことになる。命がかかわることはもっと素朴に考えていいのではないか」と話す。

 岡山大大学院の栗屋剛教授(生命倫理)も「たとえ犯罪者でも、困っている患者に医療を施すのが医師の職業倫理の根幹。診療拒否は患者の命にかかわる。臓器売買の倫理的、社会的妥当性と医師の倫理的な治療義務とは別問題。目の前に患者がいるのに診ない理由はない」と話した。

<デスクメモ>

 生きるか死ぬかの瀬戸際で、やむなくフィリピンで移植を受けた人々に「保険利きません」はひどい。けれど、臓器売買にからみ、自分も罰せられるのではないかと思う医師を責めるのも酷だ。彼らは法律の素人なのだから。患者のことしか眼中にない徳のある医師が安心して腕をふるえる制度が必要だ。(隆)」




(1) フィリピンで4月以降腎移植受けた患者への診療拒否をする理由は、いくつかあることは確かですが、一番問題なのが次の点です。

 「「4月以降の患者は診察しない立場を取ろうと思っている」。東邦大医療センター大森病院・腎センター長の相川厚教授は話す。宇和島徳洲会病院の売買事件の判決後、病院に診療報酬の返還請求がされるといわれていることや、フィリピン政府が事実上「臓器売買」を認める制度を検討していることが明らかになった影響がある。

 「日本移植学会の公式見解はないが、一部の医師にフィリピンでの移植は売買の可能性が高く、売買なら警察に通報義務があることや保険で診ると後で診療報酬返還請求がされるという見方がある。受け入れない立場を取る病院が多いのではないか」 」



「フィリピンで腎移植受けた患者を診療拒否へ~毎日新聞のみの報道ですが……。」でも、幇助犯は、正犯の行為を容易にすることで成立する犯罪ですので、正犯行為前・正犯行為中に手助けをした場合に限り成立するため、移植後に臓器売買行為を容易にしても、幇助犯は成立せず不可罰なのです。

東京新聞の記事でも、上智大の町野朔教授が「海外で臓器売買したとしても、患者が帰国した時、犯罪は既に終わっている。医師が渡航前から知っていれば別だが、診察したからといって臓器売買の共犯になることはない」と指摘しているように、診察しても犯罪が成立することないことは、異論の余地がないほど明白なのです。


(2) なのに、なぜか病院側はおびえて診療拒否や最初から保険不適用とするのです。それは、結局は、厚労省が後で勝手に違法だと判断して、診療報酬返還請求をされてしまうのではないかと、心配するからです。宇和島徳洲会病院のように

 「愛媛のニュース2007年09月05日(水)
 保険適用外見方固める 病気腎問題監査大詰め


 病気腎移植の保険診療の妥当性などをめぐり、厚生労働省と愛媛社会保険事務局、愛媛県は4日、宇和島市の市立宇和島病院への共同監査を再開した。監査を先行してきた宇和島徳洲会病院については同省などが結論の最終調整中だが、病気腎移植は「省令で原則禁止する『特殊療法』で、保険適用外」との見方を固めており、両病院とも診療報酬返還は避けられない情勢。監査が大詰めを迎え、保険診療のルールを逸脱した両病院と執刀医の万波誠医師(66)=宇和島徳洲会病院泌尿器科部長=らに対する処分の行方が焦点となっている。
 監査は診療内容や診療報酬請求に不正または著しい不当が疑われる場合に実施し、悪質性や頻度に応じ行政上の措置を決める。保険医療機関指定取り消しと保険医登録取り消しの行政処分が最も重く、次いで戒告、注意がある。取り消しの場合、健康保険法などに基づく監査要綱に、地域医療確保を目的とした再指定までの期間短縮の例外規定はあるものの、原則五年間は再指定(再登録)が認められない。
 両病院への監査は広範囲の診療科に及び、他の不正請求の有無や施設基準の適否などを含め、結論は「総合的に判断する」(同事務局)方針だが、重視しているのが宇和島徳洲会病院で11件、市立宇和島病院で25件行われた病気腎移植の是非。社保庁関係者によると、学会などで議論された医学的、倫理的見地とは基本的には別次元の問題で、保険料と公費で支え合う保険診療の要件に合致するかが監査の対象になるという。」



(3) 本来、医療行為は、患者の自己決定権が尊重され、医師に広範囲の裁量が認められているのですから、行為の当時に明確に違法行為でない限り、その医療行為は適法であり、通常の医療と扱われるはずです。

病気腎移植は、行為当時、いくつかは発表もなされ、生体腎移植の延長にすぎないという扱いだったのですから、実験的医療・『特殊療法』という評価も何もなされておらず、ずっと問題視していませんでした

ところが、後々になって、病気腎移植が実験的医療だと断定したことで、その判断を遡及的に適用し、厚生労働省と愛媛社会保険事務局は、遡及的に、病気腎移植は「省令で原則禁止する『特殊療法』で、保険適用外」と評価しようとしているのです。こうして厚労省が恣意的判断を平然と適用してくるとなると、多くの病院は、フィリピンでの腎移植患者への診療の場合も、厚生労働省は同じ扱く恣意的扱いを行うと予想するのは自然なことです。日本移植学会さえも、恣意的判断に反対していないのです。

「日本移植学会の大島伸一副理事長は「患者の生きる権利と日本の法や社会のルールとの関係。学会や医者では、この問題に判断を下せない」。厚生労働省の臓器移植対策室は「個別事例をみないと判断できない」。

 同学会幹事で大阪大医学部付属病院の高原史郎教授は「海外移植者の逮捕例はなく司法判断が無いので判断できない。(学会員に聞かれたら)診療報酬返還の可能性があり、それを覚悟して診るしかないと答えている。診ろとも診るなとも言えない」。」


本来、移植患者の心配を解消するためには、日本移植学会や厚労省が積極的に保護対策を採るべきなのですが、傍観しているのです。こうして、日本移植学会の幹部と厚労省がそろって傍観しているようでは、診療報酬返還の可能性があることを暗示し、フィリピンでの移植患者を診療させないよう圧力をかけているのだろうと、誰もが推測できると思います。


(4) たとえ犯罪者でも、困っている患者に医療を施すことを希望する医師も多いとは思います。

 「岡山大大学院の栗屋剛教授(生命倫理)も「たとえ犯罪者でも、困っている患者に医療を施すのが医師の職業倫理の根幹。診療拒否は患者の命にかかわる。臓器売買の倫理的、社会的妥当性と医師の倫理的な治療義務とは別問題。目の前に患者がいるのに診ない理由はない」と話した。」


「医師の職業倫理の根幹」という意識はどの医師もあるのでしょう。しかし、厚労省と日本移植学会の幹部は、フィリピンでの移植を抑制することを最優先させ、「医師の職業倫理の根幹」は二の次なのです。結局は、病気腎移植問題において、病気腎移植を禁止してしまい、移植を希望する患者を切り捨てたのと同じことをしているのです。

テーマ:政治・経済・時事問題 - ジャンル:政治・経済

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