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2007/07/27 [Fri] 23:57:54 » E d i t
産経新聞は、何度もオーストラリアの病気腎移植事情について記事にしています。このブログでも、「病腎移植、オーストラリアで41例~11年前から。しかも、すべてがん再発なし」「日豪の病腎移植グループ交流~産経新聞6月18日付より」「オーストラリアで病腎移植42例目を実施~産経新聞6月28日付より」で紹介しています。

最近のオーストラリアの病気腎移植事情について、東京新聞の記事(「【特報】オーストラリア現地ルポ 日本で禁止の病気腎移植が未来の医療に」(2007年7月23日)「病気腎移植現地(オーストラリア)ルポ~東京新聞7月23日付「こちら特報部」より」)に続いて産経新聞も現地ルポ記事を掲載しています。その記事を紹介したいと思います。なお、ネット上での記事とは「見出し」や段落などが異なっていますが、このエントリーでは紙面のものを引用しています。(7月28日追記:(上)の部分へのコメントを修正し、(下)の部分にコメントを追加しました。7月29日追記:(上)の部分へのコメントを追加しました。)


1.産経新聞平成19年7月24日付朝刊29面「ブリスベーンの風 移植先進地からの報告(上)」

 「リスクの比較 「生きる」ために選択

 「フリーダム(自由だ)!」。サンタクロースのようなひげを生やしたポール(61)=仮名=は、今の心境を一言でこう表現した。

 オーストラリア東部、クイーンズランド州のある町で、運送業を営んでいた。2年半ほど前、腎不全を患って働けなくなった。自宅で人工透析の機械に数時間つながれる日が、当初は週3日、途中からは週5日。「ほかの日もすぐに激しい疲労に襲われてしまうんだ。人はただベッドで寝ているだけだと思うだろうけど、あまりにつらいんだ」

 今年5月、医師から電話で「がんの腎臓だが、移植を受けられる」と知らされた。病院で詳しい説明を受け、迷わず移植を受けると決めた。「とにかくあの機械から逃れたかったんだ」

 手術は5月22日、州都ブリスベーンにある州立プリンセス・アレクサンドラ(PA)病院で行われた。クイーンズランド州内の腎・肝移植を一手に行う中核病院だ。がんの見つかった患者の腎臓を摘出し、がんを切除したうえで、ポールの体に移植する。

 手術は成功し、腎機能は順調に回復した。

 「翌日にはそこらを歩き回っていたよ。普通の生活に戻ったんだ。あの機械に縛られていたころは、週末のショッピングにも行けないし、バーベキューをしても満足に食べられなかった。今はOKさ。トラックの運転もできるよ」

 ポールは太い腕でハンドルを握るまねをしてみせた。

   ■■■――■■■

 PA病院では1996年以降、既に42人がポールと同じ手術を受けた。提供された病腎の摘出は州内の8病院で行われ、広域の提供システムができあがりつつある。さらに昨年以降、シドニーのロイヤル・プリンセス・アルフレッド病院などでも3例行われるなど、他州に拡大しつつある。

 がんの再発を招く恐れのある病腎移植が、なぜこの国では容認されるのか―。その答えはごく単純で合理的だ。キーワードは「リスクの比較」と「生活の質」。

 腎機能が低下する腎不全の症状を根本的に改善する方法は、透析と腎移植の2つしかない。豪で透析患者が移植を受けられるまで待つ期間(待機期間)は4、5年だ。透析患者は年8%のペースで増えるのに、死体腎のドナー(臓器提供者)数は増えないため、待機期間は長くなる一方だ。

 移植待機中の透析患者の年間死亡率は平均16%。この数字は60歳以上だと25%に達する。原因の多くは透析による合併症。ポールと同じ60歳以上の患者の4人に1人が毎年、移植を受けられずに亡くなっていくのだ。

 一方、4センチ以下のがんが見つかった腎臓から、がんの組織だけを部分切除して腎臓を温存した場合、がんが再発する割合は5%前後だ。腎臓は人体に左右一体あり、片方を摘出しても機能は失われないため、多くの腎がん患者は、部分切除より再発リスクの低い腎臓摘出を希望する。

 こうして摘出された病腎をもらうか、それとも死体腎を待つか。5%の再発リスクと、年間25%の死亡リスク。ポールら患者はこの2つのリスクについて説明を受け、自ら選択する。これまでに病腎移植を拒否した患者は20人中1人程度だという。

 同州の病腎移植は、対象患者を65歳以上に限定して始められ、現在は60歳以上に引き下げられた。待っているうちに死んでしまうリスクの高い高齢者に絞っているのだ。リスクの問題だけでなく、患者を透析生活から1日でも早く解放することが、生活の質を豊かにするという点で、この国では重視されている。

   ■■■――■■■

 7月11日、PA病院で通算43例目となる腎がん患者からの病腎移植が行われた。

 午前10時、まずドナーの右腎臓を内視鏡で摘出し、続いてこぶのように膨らんだがんの病変部分を切除する。執刀したのはアイルランドからきた女性の研修医、ノーマ・ギブンス医師。摘出は順調にいったが、切除に手間取った。すかさず腎移植チームの責任者でクイーンズランド大学教授のデビッド・ニコル医師(46)がサポートした。

 ニコル医師のもとで学ぶ医師はギブンス医師ら総勢9人。このチームで年間110例以上の生体・死体腎移植を行い、国内外に巣立っていく。日本で最多の東京女子医大に匹敵する件数だ。

 がんの大きさは約3.5センチ。きれいに切除され、検査の後、レシピエントの待つ手術室へ運ばれた。

 手術を見学した医師が言った。

 「技術的には熟練した移植医なら誰でもできる手術だ。それよりも感銘を受けたのは、この効率的なシステムの素晴らしさだ」

   ◇

 日本の厚生労働省が「原則禁止」の指針を打ち出した腎がん患者からの病腎移植。だが、日本から多くの医師が研修に訪れる移植先進地、オーストラリア・クイーンズランド州では、州政府による公的システムとして病腎移植のネットワークが運営され、日常の医療になっている。この国で救われる命と、日本では救えない命。現地から報告する。(石塚健司)


 ■日本の現状■

 日本の透析患者数は平均17年時点で約25万人にのぼり、世界有数の「透析大国」といわれる。毎年、新たな透析導入患者数の増加が死亡者数の増加を上回るため、透析患者は年1万人のペースで増え続け、巨額の透析医療費が病院経営を支える構図になっている。透析開始後5年間の生存率は61%、10年間は39%。一方で、移植の普及は欧米よりはるかに遅れ、腎移植の待機期間は平均16年。豪より深刻なドナー不足に陥っている。」




(1) 産経新聞は、オーストラリアの秒腎移植事情について、3日間にわたる充実した記事を掲載しました。(上)はその第1日目のものです。幾つかの点に触れていきます。

「がんの再発を招く恐れのある病腎移植が、なぜこの国では容認されるのか―。その答えはごく単純で合理的だ。キーワードは「リスクの比較」と「生活の質」。

 腎機能が低下する腎不全の症状を根本的に改善する方法は、透析と腎移植の2つしかない。豪で透析患者が移植を受けられるまで待つ期間(待機期間)は4、5年だ。透析患者は年8%のペースで増えるのに、死体腎のドナー(臓器提供者)数は増えないため、待機期間は長くなる一方だ。……

 こうして摘出された病腎をもらうか、それとも死体腎を待つか。5%の再発リスクと、年間25%の死亡リスク。ポールら患者はこの2つのリスクについて説明を受け、自ら選択する。これまでに病腎移植を拒否した患者は20人中1人程度だという。

 同州の病腎移植は、対象患者を65歳以上に限定して始められ、現在は60歳以上に引き下げられた。待っているうちに死んでしまうリスクの高い高齢者に絞っているのだ。リスクの問題だけでなく、患者を透析生活から1日でも早く解放することが、生活の質を豊かにするという点で、この国では重視されている。」


患者に対して、メリットとデメリットを示して移植するか否かの選択を求めるのです。選択権を保障している点が重要です。しかも、「5%の再発リスク」があるとはいっても、40例に及ぶ移植すべてがん再発がないのですから、「再発リスク」は0%に近いのです。そうなると、健康体からの腎臓移植のリスクと何ら変わらないのですから、「病腎移植を拒否した患者は20人中1人程度」になるのは当然の結果でしょう。

これに対して、日本では患者に(病腎移植か否かの)選択権はありません。しかも、待機期間は、日本では15年もの長期間であるのに対して、オーストラリアでは4、5年なのです。オーストラリアよりも、病腎移植を認める意義が大きいのにもかかわらず、日本では患者に選択権がないのです。実に不条理です。


(2) 

「手術を見学した医師が言った。

 「技術的には熟練した移植医なら誰でもできる手術だ。それよりも感銘を受けたのは、この効率的なシステムの素晴らしさだ」」


注目すべき点は、手術を見学した医師が述べるように、完成された「効率的なシステム」です。この「効率的なシステム」こそ学ぶべき点なのでしょう。この「効率的なシステム」については、次の産経新聞平成19年7月25日付朝刊27面「ブリスベーンの風 移植先進地からの報告(中)」が触れています。

「技術的には熟練した移植医なら誰でもできる手術」というのは、万波誠医師が述べていたことと共通しています。もっとも、注意すべきことは、技量の優れた万波医師らや海外での「技術的には熟練した移植医」であるということです。「技術的には熟練した移植医」に当たる医師は、日本移植学会の幹部には少なそうです。もし多かったとしたら、手術を見学した医師と同様に、「技術的には熟練した移植医なら誰でもできる手術」であると判断し、病腎移植は「実験的医療」でないと断定できたはずですから。




2.産経新聞平成19年7月25日付朝刊27面「ブリスベーンの風 移植先進地からの報告(中)」

徹底した説明 「将来」見据え決断を

 日本の厚生労働省が「原則禁止」を通知した腎臓がん患者からの病腎移植が、州の公的システムとして日常的に行われているオーストラリア東部、クイーンズランド州。その中核となるブリスベーンの州立プリンセス・アレクサンドラ(PA)病院は、1989年に世界で初めて生体肝移植を成功させた病院としても知られる。

 この移植の対象となったのは日本人の母子だった。当時、日本のメディアの一部は「親の体を損なう医療は倫理上問題がある」と反対の声を上げたが、現在は日本でも日常医療になっている。

 PA病院には日本から、腎・肝の移植を受けるため渡航した患者も多く、研修医として学んだ日本の医師も多い。日本の臓器移植コーディネーターの研修もこの病院で行われた。「移植先進地」だ。

   ■■■――■■■

 同州の病腎移植のシステムは、こんな流れで行われる―。

 まず、州内の病院で患者の腎臓に4センチ以下のがんが見つかり、患者が腎臓摘出を希望した場合、担当医はPA病院の腎移植チームに連絡する。

 これを受けて、州内の腎移植をすべて行うPA病院腎移植のチームの責任者、デビッド・ニコル医師らが、この患者のCT画像などをもとに、腎臓が移植に適しているかを検討する。

 移植可能と判断された場合、現地の担当医が患者に、腎臓を移植に使うことについて同意を求める。州の法律で、摘出された臓器の処分方法は患者が決めることになっているからだ。説明役を現地の医師に任せるのは、ドナー(臓器提供者)とレシピエント(移植を受ける患者)双方の利害を守るため、同一の医師が説明してはならないためだ。

 ドナーは腎臓摘出の手術を受けることについて同意書にサインするが、移植に使うことについての同意書は作成していない。

 ドナーが提供に同意すると、州の移植コーディネーターが派遣され、患者の血液型検査など適合性情報の収集にあたる。これをもとにレシピエント選定に移る。

 州内の腎移植を待つ透析患者はすべて、州の移植待機リストに搭載されている。そのうち病腎移植の対象になるのは現在、60歳以上の患者だけだ。この中から、適合性があり、待機期間がもっとも長い患者がレシピエント候補に選ばれる。

 候補が決まると、現地の担当医が本人に連絡。続いて、PA病院の医師が本人に、手術のリスクなどを説明する。患者が同意する場合は同意書を作成する。

 摘出手術はこれまでに州内8病院で行われた。現地の医師が執刀し、PA病院の移植チームがサポートする場合が多い。患者の腎臓を摘出し、がんを切除したうえで、迅速検査に回す。移植可能と判断されると、レシピエントの待つPA病院に運ばれる。

 移植後のレシピエントは、腎機能とがん再発の有無を定期的にチェックされる。再発が見つかった場合は腎臓を摘出することになっているが、これまで行われた43例のうち、摘出に至った例はゼロだ。移植した腎臓が機能し続ける割合(生着率)は1年間が97%、5年間が85%、10年間が75%で、通常の死体腎移植をやや上回る成績を収めている。

   ■■■――■■■

 7月11日、PA病院の泌尿器科クリニックで、44例目となる移植のレシピエント候補に対する説明が行われた。移植チームのスタッフ、ニキ・イズベル医師が、男性の腎不全患者(63)とその妻に、約1時間かけて、過去の追跡調査をもとにがん再発のリスクや腎機能の回復期待値、手術後のケア態勢などについて、順を追って説明していく。

 患者「私はいろんなことを活発にやりたいんだ。ヨットに乗ったりね」

 イズベル「アウトドアの活動が好きなのね。腎機能が回復すれば、ヨットにも乗れるでしょう。あなたは63歳ですよね。これから5年、10年の時間をどう過ごすのかという観点で、移植を受けるか考えてください」

 患者「ああ、(病腎移植は)やるしかないと思っていますよ」

 男性の手術は近く行われる予定だ。 (石塚健司)」


州内に限るようですが、効率的で完成された公的システムが出来上がっていることが分かると思います。日本では、いわゆる「瀬戸内グループ」内と長年診療している患者さんを含めて、ある程度システムが出来上がってはいたのですが、ここまで効率的で完成された公的システムではありませんでした。

どのようなシステムを構築するかは、国情に応じて色々あるはずですし、オーストラリアであってももっと色々なシステムを示唆する意見もあったかと思います。ですから、日本でのいわゆる「瀬戸内グループ」のシステムも否定するべきではなかったはずです。しかし、日本では病腎移植を全面否定し、「瀬戸内グループ」のシステムは良くないものだと否定されてしまいました。

「ドナーは腎臓摘出の手術を受けることについて同意書にサインするが、移植に使うことについての同意書は作成していない。」


日本における議論ですと、「移植に使うことについての同意書」も必要だったという報道が多かったと思います。移植先進地であるPA病院では、腎臓を移植に使うことについての同意は求めてはいるのですが、「移植に使うことについての同意書」は作成していないのです。これは、臓器の処分についての自己決定権はあるとしても、必ずしも病気腎は移植に使用されるわけではなく、臓器を放棄した後はドナーに何ら不利益が生じるわけではないので「同意書」は不要であると考えているからだと思います。




3.産経新聞平成19年7月26日付朝刊29面「ブリスベーンの風 移植先進地からの報告(下)」

 「病腎の可能性 懐疑論打ち消す実績

 1例目の病腎移植を行う前に、私はその可能性を長い間考え続けていた。だから私の中で迷いはなかったし、ためらいもしなかった。医学とは、何もしないより可能性を追求していくものなのです」

 オーストラリア・ブリスベーンで病腎移植の公的システムを軌道に乗せたプリンセス・アレクサンドラ病院の泌尿器・腎移植チーム責任者、デビッド・ニコル医師(46)=クイーンズランド大学教授=はこう語る。

 腎臓がん患者の治療で腎臓を摘出する手術を数多く手がけていた。取り出した腎臓はホルマリンに漬けられ研究に使われるか、廃棄されるかだ。しかし、腎臓がんを部分切除した場合の再発率の低さを考えると、これらの腎臓からがんを切除して移植に使えば、死を待つだけの多くの患者を救えるのではないか。そう考え続けていたという。

 GOサインが出るまで、病院内ではさまざまな論議があった。最終的には病院の顧問弁護士らと協議し、患者に対して十分なインフォームドコンセント(説明と同意)の手続きを行えば問題ないとの結論になった。

 機会が訪れたのは1996年5月。事故死したドナー(臓器提供者)の腎臓にがんが見つかった。レシピエント(移植を受ける患者)の同意を得た上で、1例目の病腎移植に踏み切った。

 「周囲には懐疑的な声もあった。しかし、実績が証明になり、そうした声はやがて起こらなくなった」とニコル教授は振り返る。

   ■■■――■■■

 ニコル教授は、現時点で計43人にのぼる病腎移植の全レシピエントの追跡調査を続けている。がんの再発を認めたケースは1例もなく、成績は良好だが、調査結果を本格的な論文にまとめて発表したことは1度もない。

 「論文発表は十分に症例を重ね、長期の観察期間を経て安全性を確かめてからにしなければ、混乱を招きかねないと考えているからです」

 このため日本で豪の動きは知られず、昨年来の病腎移植をめぐる論議の末、日本移植学会などは「前例がない」などの理由で「医学的妥当性がない」との見解を出していた。

 ニコル教授は、「日本社会の拒絶反応の多くはおそらく『がんは怖い』という感情的なものではないか。しかし実際は、がんより腎不全の方が怖い。病腎によるがんの再発リスクは低いし、患者の経済的負担は移植より透析療法の方が大きい」と指摘する。

 実際にニコル教授自身も、病腎移植について豪のマスコミに積極的に伝えることはしていなかった。「センセーショナルな報道で誤解を招くことを恐れたからだ」という。

   ■■■――■■■

 宇和島徳洲会病院などで行われた病腎移植について医学的検証を進めた日本の関係学会は、ドナーの利益が十分に保護されていなかった点を特に問題視した。

 国内の一連の病腎移植では、ドナーの腎提供に対する同意が文書化されておらず、利害の対立するドナーとレシピエント双方への説明を同じ医師が担当したケースもあった。このため、「小さな腎がんなら部分切除で腎臓を残すべきで、不必要な摘出だった」と断じられた。

 この点をニコル教授らはどう考えているのだろう。

 「ドナーとレシピエントへの説明を同じ医師が担当することは絶対にあってはならない。しかし、部分切除で腎臓を残すことを優先すべきだという考え方にも賛成できない」

 クイーンズランド州では、部分切除してもがんの再発リスクがわずかに残る点を患者にきちんと説明するため、腎臓摘出を希望する患者の方が圧倒的に多いのだという。

 実は、日本の医療現場でも同じ論争が起きている。ある国立大学の泌尿器科教授が語る。

 「左右2つの腎臓のうち、もう1つの腎臓が健常なら、全摘を望む患者さんの方が多数です。再発リスクを説明せずに部分切除を勧める医師がいるとすれば、そちらの方が不親切だと言うべきだ」

 ニコル教授の病院で病腎した女性(57)は言った。

 「全摘の方がすっきりするし、必要な方にさし上げられるのなら、素晴らしいことだわ」   (石塚健司)」



産経新聞平成19年7月26日付朝刊29面「ブリスベーンの風 移植先進地からの報告(下)」は、日本での議論と比較すると実に興味深い記事となっています。


(1) 

「「周囲には懐疑的な声もあった。しかし、実績が証明になり、そうした声はやがて起こらなくなった」とニコル教授は振り返る。」


オーストラリアでは懐疑的な声があっても、病腎移植を「禁忌」などと全面否定する意識はなく、多数の移植に成功している実績という客観的事実を尊重したのです。

これに対して、日本では、病腎移植を「禁忌」などとして全面否定し、多数の移植に成功している実績という客観的事実は、ことさらに成果を矮小化し、多数の移植は勝手に人体実験をしたとして余計に否定する意識となりました。


(2) 

「ニコル教授は、現時点で計43人にのぼる病腎移植の全レシピエントの追跡調査を続けている。がんの再発を認めたケースは1例もなく、成績は良好だが、調査結果を本格的な論文にまとめて発表したことは1度もない。

 「論文発表は十分に症例を重ね、長期の観察期間を経て安全性を確かめてからにしなければ、混乱を招きかねないと考えているからです」

 このため日本で豪の動きは知られず、昨年来の病腎移植をめぐる論議の末、日本移植学会などは「前例がない」などの理由で「医学的妥当性がない」との見解を出していた。」


オーストラリアでは「調査結果を本格的な論文にまとめて発表したことは1度もない」のに、それを非難されていないようです。これに対して、日本では、病腎移植を発表しなかったとして厳しく批判されてしまいました。もっとも、オーストラリアの病腎移植は一部は発表され、日本での病腎移植も一部だけ発表していましたが。


(3) 

「ニコル教授は、「日本社会の拒絶反応の多くはおそらく『がんは怖い』という感情的なものではないか。しかし実際は、がんより腎不全の方が怖い。病腎によるがんの再発リスクは低いし、患者の経済的負担は移植より透析療法の方が大きい」と指摘する。

 実際にニコル教授自身も、病腎移植について豪のマスコミに積極的に伝えることはしていなかった。「センセーショナルな報道で誤解を招くことを恐れたからだ」という。」


この記述は実に興味深いです。日本社会、すなわち、日本の市民のみならず、日本移植学会の幹部の「拒絶反応の多くはおそらく『がんは怖い』という感情的なものではないか」と述べているからです。

万波医師らもそうでしたが、ニコル教授自身も「病腎移植について豪のマスコミに積極的に伝えること」はなかったのです。「センセーショナルな報道で誤解を招くことを恐れたからだ」という理由は実に賢明な判断でした。

日本では、「瀬戸内グループ」を犯罪者集団のごとく扱われ、独自な倫理観で移植しているなどとセンセーショナルな報道が行われ、しかも、オーストラリアの医師たちと異なり、センセーショナルな報道を冷静に諌めることなく危険視する、日本の一部(多数?)の医師たちという状況だったのですから。

日本では、公表する結果になって冷静な報道がなされるどころか、日本移植学会の幹部による捏造と判断できるようなリーク報道さえ、行われました。もっとも、ここまで愚かなことは、オーストラリアの医師たちは行うはずはないでしょうが。


(4) 

「宇和島徳洲会病院などで行われた病腎移植について医学的検証を進めた日本の関係学会は、ドナーの利益が十分に保護されていなかった点を特に問題視した。

 国内の一連の病腎移植では、ドナーの腎提供に対する同意が文書化されておらず、利害の対立するドナーとレシピエント双方への説明を同じ医師が担当したケースもあった。このため、「小さな腎がんなら部分切除で腎臓を残すべきで、不必要な摘出だった」と断じられた。

 この点をニコル教授らはどう考えているのだろう。

 「ドナーとレシピエントへの説明を同じ医師が担当することは絶対にあってはならない。しかし、部分切除で腎臓を残すことを優先すべきだという考え方にも賛成できない」

 クイーンズランド州では、部分切除してもがんの再発リスクがわずかに残る点を患者にきちんと説明するため、腎臓摘出を希望する患者の方が圧倒的に多いのだという。」


要するに、長年病腎移植を実施してきたニコル教授からすれば、日本で実施された病腎移植の問題点については、指摘する点が間違っているということです。

「ドナーとレシピエントへの説明を同じ医師が担当することは絶対にあってはならない」という点の指摘は妥当だったのですが、それは、ドナーとレシピエント双方の利害を守るためであって、「部分切除で腎臓を残すことを優先すべきだ」からではないのです。

注意すべき点は、同一の医師が双方に説明を行うと外形的にみて利益を害するおそれがあると疑われるから、「あってはならない」と指摘するのであって、具体的に利益を害していたかどうかとは別問題です。「万波医師から手術を受けた双方の患者さんからは、利害が守られなかったと非難も出されてはおりません。反対に双方が感謝の言葉をメディアで」述べているくらいなのです(「万波誠医師を支援します」さんの「≪ブリスベーンの風≫ 移植先進地からの報告(中) 産経新聞」(2007/07/28 05:06))。患者と万波医師とは、外形的な疑わしさを払拭できるほどの信頼関係があり、だからこそ双方の患者から非難されていないということなのです。

日本移植学会や日本の報道機関では、「部分切除で腎臓を残すことを優先すべきだ」という考えが強調されましたが、「部分切除してもがんの再発リスクがわずかに残る点」はほとんど無視され、その点まで報道されることはほとんどありませんでした。全部摘出よりも部分切除では再発リスクも負うのに、それでも腎臓を残すことが本当に望ましいのでしょうか? 部分切除は体の負担のリスクともにがん再発のリスクもあったのです。がん再発(転移)・再び手術へ、というリスクを負うかどうかも十分に考慮する必要があるのです。




4.オーストラリアの病腎移植事情に関する3回にわたる充実した記事によって、日本での病腎移植に対する対応(原則全面禁止)がおかしいことがよく分かったと思います。ここまで違っているとなると、日本移植学会の幹部は、オーストラリアの病腎移植事情について全く知らなかったと判断するしかありません。いくら最初から病腎移植を否定する気であったとしても。

病腎移植のメリット・デメリットを比較し、万波医師らの病腎移植を調査するだけでなく、病腎移植を実施している諸外国を十分に調査し、諸外国と比較しても深刻なドナー不足である現状をどのように打開するのか、患者の自己決定権の尊重という原則を制限できるのか、を考慮したうえで、今後の方向性を決定するのが、本来のあり方でした。

しかし、「病腎移植を実施している諸外国を十分に調査」という点をほとんどせずに、「病腎移植否定」という運用指針を決定してしまったわけです(改定運用指針に対する意見聴取結果を見ると、病腎移植を否定するような論文は引用しても、肯定的な論文は無視していました)。まさに「病腎移植否定」という「結論ありき」だったのです。


オーストラリアでは病腎移植が公的システムとして問題なく実施されているという「真実」を知らされないまま、病腎移植否定が正しいと思い込んでいる日本市民が多いと思いますが、このオーストラリアの病腎移植事情を読んだ日本の市民は、どう思ったでしょうか? 騙されたと感じた人も多いのではないかと思います。騙されて多くの現在及び未来の腎不全患者が不利益を受けてしまったのです。

今のところ、病腎移植を肯定することは困難ですが、まず、日本の市民が、病腎移植の「真実」を知ることが肝心なことなのだと思います。産経新聞や東京新聞は、今後もこういう良質で価値ある記事を伝えてほしいと思います。

テーマ:政治・経済・時事問題 - ジャンル:政治・経済

コメント
この記事へのコメント
春霞様
詳しい解説と主張ありがとうございました。

>オーストラリア・クイーンズランド州では、州政府による公的システムとして病腎移植のネットワークが運営され、日常の医療になっている。この国で救われる命と、日本では救えない命。現地から報告する。(石塚健司)

石塚記者の今回の現地報告は、病腎移植が実施されている事実を詳細に伝えたもので、その意義はとても大きいことですね。

外国で病腎移植のシステムができて実施されているのであれば、本気になれば日本でもできないはずがありません。
今まで学会、厚生労働省がこのことを知らなかったのであれば、それを今更言っても仕方ないですが、事実が分かった以上、今後は、豪州の例を詳細に調査・分析するなど再検討が出来るはずです。

今後それさえせずに、否定し続けることだけは止めてもらいたいと切に思います。

ただ今回の産経、東京新聞やネットでの情報を見ておられない市民の方が大部分だと思います。
地元愛媛の方々でも今回の報道を知らない方が私の周りには大勢います。というかほとんどの方が知らない。従って病腎移植は否定されるべきものと思い込んでおられるのが実態です。
誠に残念ではあります。

>日本の市民が、病腎移植の「真実」を知ることが肝心なことなのだと思います。産経新聞や東京新聞は、今後もこういう良質で価値ある記事を伝えてほしいと思います。

全くそのとおりだと思います。産経、東京新聞さんの今回の取組は報道機関として最後まで真実を追究する姿勢として高く評価されるものです。
どうか他のメディアでもこういう事実の報道をしていただくことをお願いしたいと思います。
2007/07/30 Mon 01:11:17
URL | hiroyuki #-[ 編集 ]
>hiroyuki さん
コメントありがとうございます。


>石塚記者の今回の現地報告は、病腎移植が実施されている事実を詳細に伝えたもので、その意義はとても大きいことですね。

同感です。詳しい報告です。


>外国で病腎移植のシステムができて実施されているのであれば、本気になれば日本でもできないはずがありません。

そうですね。システムが出来上がっていて、すでに10年も病気腎移植を実施しているのです。日本では原則禁止だとしてできないなんて、情けないと思うのですけどね。日本移植学会の会員は、移植医として矜持をもっていないようです。


>ただ今回の産経、東京新聞やネットでの情報を見ておられない市民の方が大部分だと思います。

それが一番ネックです。こうしてブログで紹介してはいますが、記事を見ていなければ意味がないです。


>産経、東京新聞さんの今回の取組は報道機関として最後まで真実を追究する姿勢として高く評価されるものです。
>どうか他のメディアでもこういう事実の報道をしていただくことをお願いしたいと思います。

ドナー不足の現状は、運用指針が出ても同じですから、ぜひずっと報道してほしいです。他の報道機関も。
2007/07/31 Tue 23:59:46
URL | 春霞 #ExKs7N9I[ 編集 ]
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2007/07/28(土) 20:29:12 | 晴天とら日和
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