1.社説と識者のコメントを引用しておきます。
(1) 東京新聞平成19年7月12日付朝刊【社説】
「年金、政治とカネ、憲法… 参院選きょう公示
2007年7月12日
参院選がきょう公示される。発足十カ月になる安倍政権に評価が下る。年金、政治とカネ、憲法、税と、争点は明確だ。与野党逆転はあるか。熱い戦いを期待する。
今回の参院選ほど、多くの政策課題で争点がはっきりしているのは珍しい。十一日の日本記者クラブ主催の党首討論会でも、争点が次々と浮かび上がった。
二十九日の投票日へ、さらに論点を詰める選挙戦を望む。有権者は分かりやすい選択肢を求めている。
政権の信頼が問われる
党首討論でもそうだったが、争点の一番は年金問題だ。
安倍晋三首相は“消えた年金”について「打てる手段、打てる政策をすべて出している」と、対策に万全を期していることを強調した。
公明党の太田昭宏代表は「必ず全額受け取れるようにしたい」と、与党の立場から首相を後押しした。
いずれも年金不信を払拭(ふっしょく)しようとしている。政府・与党は数年前に年金問題で「百年安心」を唱えて、当時導入した制度に胸を張った。
しかし、その制度のもとでいま、国民の不安と怒りが燃えさかる。
該当者が不明の五千万件の納付記録、入力されずに放置された千四百万件余の記録…。
消えた記録はもっとあるのではないか。そうなれば、もう年金制度は信じられない。有権者の多くが、まだ隠された情報があるのではないかと疑っている。首相はこれにしっかり答えねばならない。
民主党の小沢一郎代表は「自称『百年安心の年金』か、抜本改革かだ」と訴えている。
だが、民主党の提唱する全額税方式の最低保障年金も、今の消費税率を維持したままで、財源が足りるのか疑問がつきまとう。
安倍政権の「百年安心」年金を信じるのか、小沢民主党の年金改革に乗るのか。有権者が判断するにはまだ材料が足りない。双方とも議論を掘り下げ、分かりやすく有権者に伝える努力をすべきだ。
いまだに説明がない
年金制度と消費税問題は切り離せない。その税制について首相は「秋に議論する」の一点張りだ。首相は「消費税を上げないとは、言っていない」と述べたり、そのときにならなければ分からないような言い方をしている。野党が明確な発言を求めるのも、もっともなことだ。
「政治とカネ」問題の対立軸は実に分かりやすい。
赤城徳彦農相の事務所費問題。領収書をつけて内訳を公表するかどうか。党首討論でも野党が公表を迫ったのに対し、首相と公明党の太田氏は必要ないとの認識を示している。
昨年暮れの佐田玄一郎前行革相の不正経理問題を皮切りに、自殺した松岡利勝前農相の「何とか還元水」問題など閣僚による「政治とカネ」をめぐる騒ぎが続いてきた。
その都度、首相は問題の閣僚をかばい、彼らはいまだに説明責任を果たしていない。
こうした政権のありようを是とするか非とするか、これも選挙戦の大事な争点である。
参院議員の任期は六年ある。先の国会で国民投票法が成立した。安倍自民党は、二〇一〇年の改憲発議を目指す政権公約を明らかにしている。首相の狙い通りに進めば、この選挙で選ばれる人たちが、改憲作業に手を染めることになる。
党首討論でも各党の違いがそれなりに示された。改憲に意欲を見せる首相に、小沢氏は「緊急の必要性はない」と述べた。
共産党の志位和夫委員長と社民党の福島瑞穂党首は改憲阻止。これを選挙戦で訴えていくと宣言した。公明党の太田氏は九条第一、二項の維持を訴えた。
改憲の動きが具体化するにつれ、九条護持論も盛り上がりを見せている。参院選の候補者たちは九条を変えるか変えないか、なぜそうすべきなのか、を語るべきだ。首相は海外での武力行使を認めるのかと問われて、返答を留保している。これではいけない。
参院選は衆院選と違って、与野党が逆転しても直ちに政権交代にはつながらない。有識者らからなる「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)は参院選を「政権審判の選挙」と位置づけて、安倍政権の政策や実績に有権者が点数をつけるよう提言している。
「戦後レジーム(体制)からの脱却」を繰り返す首相は、教育基本法改正、防衛庁の省昇格、役人の天下り規制などを、そのシンボルに掲げている。
有権者の力量も試される
この選挙では、その路線自体に、有権者が是非の答えを出すことになる。これまで示された「目次」だけでなく、具体的な政策の中身が選択のポイントとなる。
首相は「約束したことは必ず実行していく」と言っている。その約束は信頼に足るか。与野党逆転を訴える野党もまた、実のある政策を提起しているか。じっくり聞いて、見極める力量を有権者も備えたい。
暮らしにかかわる大事な選挙である。有権者の力量も試される。」
(2) 東京新聞平成19年7月12日付夕刊12面
「◆覚悟が問われる――山口二郎さん(北大大学院教授)
戦後レジームからの脱却や憲法改正を掲げる安倍政権そのものを認めるのか否かが問われる、重要な選挙だ。首相としての適格性や政治理念をどう評価するか。有権者は、投票に覚悟が求められる。
年金記録不備問題で世論が沸騰すると、安倍首相は、慌ててわずか1日の審議で法案を通させるなどした。政策をじっくり議論し熟成させるという議会政治の基本を理解していない。その人が改憲や集団的自衛権の行使容認に意気込んでいる。このまま国のかじ取りを委ねていいのかどうか。
争点の1つである憲法に関しては、選挙戦ではあまり議論されていない可能性があるが、首相は勝てば「改憲路線が支持された」と言うだろう。年金問題について言えば、記録がどこへ行ったかという話より、重要なのは持続可能な制度について根本から議論することだ。3年前の参院選でも争点だったが、いまだに前へ進んでいない。
有権者の判断が今後の政治に与える影響は極めて大きい。各党首の言葉やマニフェストを吟味して一票を投じてほしい。
◆自覚して一票を――石坂啓さん(漫画家)
衆院では与党に議席を与えすぎていて、乱暴な政治になっているような印象だ。「美しい国」を目指すと安倍首相は言うが、現状では健全ではない。今の政治に頼っていて幸せでいられるのか。それを自覚して投票してほしい。
多くの人が腹を立てた年金制度は、分かりにくさに問題の本質がある。社会保険庁の職員はサービス精神など持っていない。それでも「国が生活を守ってくれる」と信じている人も多かった。「増税」もあった。これほどの痛みは今までなかったというのが実感だ。
憲法改正問題も大きな争点。3年後に改憲発議があるとするならば、待ったなしだ。既に改憲に向け動きだしていて、自民党の新憲法草案には自衛軍の保持が盛り込まれた。戦争をする国でいいのか。まっとうな憲法とはどうあるべきか。“臨界点”は既に超えている気もするが、流れを変えることはできるのか。野党側にも、与党を切り崩す余力が感じられない。漫画家のように斜に構えて、世の中や権力者を意地悪く見てみたらどうだろうか。」
2.今回の参院選は、「年金、政治とカネ、憲法、税」と、主要な争点はこの4点であり明確です。
(1) この4点のうち、「争点の一番は年金問題」です。元々、国民年金制度には「将来、年金はもらえない(又は、微々たる支給にとどまり「払い損」)のではないか?」という不信感があり、今度は不明の五千万件の納付記録などの問題発生によって、「払っていても払ったことになっていない」という年金制度全体に対する不信が生じたのです。数年前まで与党が国民に説いていた「100年安心の年金」は、嘘だったことは確かなことになりました。
こういった状況において、安倍晋三首相が“消えた年金”について「打てる手段、打てる政策をすべて出している」と、対策に万全を期しているという言葉をどれだけ信じることができるのか非常に疑問です。
年金の受給資格を得るのに、海外では英米が10年程度、ドイツでは5年であるのに対して、日本は25年です。長期間すぎること自体問題なのです。25年というあまりにも長期間であると25年に満たない者の保険料が払い損になってしまいますし、25年では未払いか否かの管理・証明が困難なのですから。民法上、債権の消滅時効が10年(民法167条1項)であるのは、立証困難であることが理由の1つであることから分かるように、25年は長すぎて、“消えた年金”が生じるのは必然とさえいえるのです。
こういった問題点が残っているのにも関わらず、安倍首相は、本気で「対策に万全を期している」と述べているのですから、参院選で与党議席が激減しないようだと、こういった問題点は放置されることになるでしょう。それでもいいのか否かが有権者に問われています。
(2) 税金、すなわち消費税率も争点です。安倍首相は、「消費税率を上げないなんて一言も言っていない」と発言し、その後、あまりにも波紋を広げたため、「上げないですむ可能性もある」とか「秋に議論する」と変更してしまいました。参院選を意識して「選挙直前に増税路線との印象を与えたくないとの判断から」(日経新聞7月12日付3面)、ちょっと変更してみせたただけだと思われます。
参院選で与党議席が激減しないようだと、当然、「上げないですむ可能性もある」といったことは反故にして、消費税率を上げてくるはずです。それでもいいのか否かが有権者に問われています。
(3) 第3点目は、政治とカネの問題です。「赤城徳彦農相の事務所費問題」について、首相と公明党の太田氏の言い分のように、「領収書をつけて内訳を公表」する必要がないとしてよいのかどうかです。自殺した松岡利勝前農相でも同様の問題が生じていたのに。まさか、赤城徳彦農相も自殺で終結すればよいとまでは思っていないでしょうが。
何人もの閣僚に政治とカネの問題が生じても、「首相は問題の閣僚をかばい、彼らはいまだに説明責任を果たしていない」のです。
参院選で与党議席が激減しないようだと、「こうした政権のありようを是とする」ことになったと評価するでしょう、安倍首相は。それでもいいのか否かが有権者に問われています。
(4) 4点目は、改憲問題です。「安倍自民党は、二〇一〇年の改憲発議を目指す政権公約を明らかにしている」のですから、安倍首相は勝てば「改憲路線が支持された」と言うことになるでしょう。
参院選で与党議席が激減しないようだと、与党は改憲に向けて突き進むことになりますが、それでもいいのか否かが有権者に問われています。
3.他にも貧富の格差など、多くの争点があり、個々人それぞれ争点にしたいことはあるとは思います。どういう争点であろうとも、安倍政権の下では、強行採決によって法案を成立させていくことになります。しかも十分な審議さえすることなく。「年金記録不備問題で世論が沸騰すると、安倍首相は、慌ててわずか1日の審議で法案を通させるなどした」ことはその典型です。
要するに、
「(安倍首相は)政策をじっくり議論し熟成させるという議会政治の基本を理解していない。その人が改憲や集団的自衛権の行使容認に意気込んでいる。このまま国のかじ取りを委ねていいのかどうか。」
議会の審議は、法案の問題点を公開の場で明らかにすることによって、国民に法案に関する情報を提供して注意喚起を促すものであって(「争点明示機能」)、そういう経過を経た後、多数の賛成で法案を承認することで、民主的正当性をもった法律となるのです(「年金法案、委員会審議4時間で採決〜国会審議は何のためにあるのか?」参照)。
しかし、安倍首相は、議会制民主主義を採用する日本国の首相という地位にありながら、法案成立という結果だけを求めてしまい、議会の「争点明示機能」を理解しておらず、 議会政治の基本を理解していないのです。
議会政治の基本を理解していない人物であっても、「首相としての適格性」があると判断するのかどうか。今後も強行採決をよしとするのか否か。今回の選挙は、「有権者の判断が今後の政治に与える影響は極めて大きい」(山口教授)といえます。今回の選挙では、特に有権者の投票には覚悟が求められているのです。
’07参院選:全候補者アンケート 消費税、自民「引き上げ論」74%−政党:MSN毎日インタラクティブ
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/seitou/news/20070714ddm003010048000c.html
財界や政府・自民党から消費税増税・法人税減税大合唱
http://www.toshoren.jp/Ctg-Toshoren_Undo_News/news2007_06/news2007_06-02.htm
米国からの便り 消費税が16%?
http://kensirou2001.blog79.fc2.com/blog-entry-67.html
八国山だより 消費税を16%に
http://patience052.blog101.fc2.com/blog-entry-4.html
日本経団連意見書:「近い将来の税制改革」についての意見 消費税率引上げの展望
「消費税率を、第一段階として3%程度は引き上げるべき」
「消費税率を遅くとも2007年度までには10%とすべきである。」
「消費税で賄おうとすれば30%以上の税率」
「2025年度までの消費税率の増加を18%程度までに」
棄権は危険!そのわけは??
http://senkyo2.seesaa.net/
>消費税増税 - 税率 10%, 16%, 18% or 30%?
安倍政権の下では幾らでも消費税率が上昇しかねません。消費税の問題もぜひ考慮して選挙に行ってほしいです。
>棄権は危険!そのわけは??
仰るとおりですね。棄権は好ましいものではありません。
憲法上、明確な規定はなくても棄権の自由はあることは確かです。しかし、棄権の自由の保障は強制投票制を否定する趣旨であって、投票の棄権を奨励するわけでないのです。
今度の参院選は、皆さん、ぜひ選挙に行ってほしいです。
いつもは、春霞さんとは反対の立場で投稿していますが、きょうは視点を変えて。
選挙結果は、多分自民党の負け(惨敗もあり得る情勢!?)でしょう。
ボクは、思想的・政策的には自民党に近いのですが、今回(次回の総選挙)は、民主党勝ちでいいと思っています。
政治腐敗、役人天国を改善するためにも、他の先進諸国(英米等)のように、時々A党とB党との間で政権が交代する方が望ましいと考えるからです。
日本国のためにも、戦後政権を独占してきた自民党に数年間「野党」になってもらい、充電期間を経て、政権復帰したらよいと思っています。
以上、選挙結果は、開票してみないとわかりませんが。
URL | Gくん #-[ 編集 ]
>いつもは、春霞さんとは反対の立場で投稿していますが、きょうは視点を変えて
おお! 今回は考え方が一致してます! 一致するのも悪くないですね。
>政治腐敗、役人天国を改善するためにも、他の先進諸国(英米等)のように、時々A党とB党との間で政権が交代する方が望ましいと考えるからです。
仰るとおりです。政権交代があった方がいいことは確かです。
特に、安倍首相の場合、強制採決の連発し、参議院ではほとんど審議なしで採決ですから、議会制民主主義が有名無実化し、参議院の存在意義を失ってしまいます。
こんな首相の対応を良しとすることは、到底できません。
>日本国のためにも、戦後政権を独占してきた自民党に数年間「野党」になってもらい、充電期間を経て、政権復帰したらよいと思っています。
自民党は政権を独占する期間が長すぎて、極めて不健全です。自民党が数年間野党になったら、もっと謙虚な政党に生まれ変わるかもしれません。
もちろん、参院選では政権交代は実現することはないのですが。ただ、与党側が過半数割れすれば、強行採決などはできなくなるという意義があります。
この点(上記2点)では、珍しく見解が一致しましたね。
開票結果は判明していませんが、事前報道のとおりなら、次回総選挙での「政権交代」の序章になることでしょう!
たぶん、今回のテーマだけの表層的な一致でしょうね!ブログ主さんとは、立憲主義に対する考え方が異なる印象を受けますので、次回(テーマにもよりますが)からは、反対論の立場に戻るでしょう。
いよいよ、今晩、結果判明です。
URL | Gくん #-[ 編集 ]
>開票結果は判明していませんが、事前報道のとおりなら、次回総選挙での「政権交代」の序章になることでしょう!
ぜひ政権交代を望みます。
>たぶん、今回のテーマだけの表層的な一致でしょうね!
議論すれば意外と色々と意見が一致するかもしれませんよ。
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