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2007/06/10 [Sun] 23:41:32 » E d i t
3月ころの報道でしたが、病気腎移植問題について、病気腎を摘出することが傷害罪にあたるのではないかとの報道がありました。検証し残していましたので、触れておくことにします。

移植に限らず、手術はすべて侵害を傷つけるのですから、傷害罪(刑法204条)の構成要件に該当します。ただ、医療行為(治療目的、医学上の法則に従うこと、患者の同意)ということで(又は被害者の同意という理論で)、違法性を阻却し不可罰となる、という論理の中で議論するのが基本です。これを確認しておきます。


1.報道記事を2つほど。

(1) YOMIURI ONLINE(関西発:問われる腎移植)(2007年03月01日)

 「病気腎移植問題、傷害罪の可能性も

◆学会でも言及

 宇和島徳洲会病院の万波誠医師(66)らによる病気腎移植問題で、岡山、広島両県の5病院での病気腎摘出を検証した厚生労働省調査班委員の臼木豊・駒沢大教授(刑法)が28日、石川県で開かれた日本臨床腎移植学会で「移植を念頭にして臓器提供者に摘出をすすめたのなら、傷害罪にあたるかもしれない」と批判。医学的な問題だけでなく、刑事責任追及の可能性があるとの見解を示した。

 同じ調査班委員で移植医の高原史郎・大阪大教授は宇和島徳洲会など4病院の調査委員会の状況に触れ、「意図的に調査結果を曲げたり、不十分な内容にするなら、関係学会で厳しく対応する」とけん制した。

(2007年03月01日 読売新聞)」



(2) 特集宇和島 腎移植2007年03月01日(木)付 愛媛新聞

「病気腎」を問題視 厚労省調査班員が講演 臨床腎移植学会

 日本臨床腎移植学会(会長・高橋公太新潟大教授)の第四十回学会が二十八日、石川県加賀市で三日間の日程で始まった。宇和島徳洲会病院(宇和島市)の万波誠医師(66)らによる病気腎移植について、厚生労働省調査班のメンバーが講演で、医学的妥当性や手続き面などを問題視する意見を述べた。

 同調査班の高原史郎大阪大大学院医学系研究科教授(泌尿器科)と、臼木豊駒沢大法学部教授(刑法)が講演。

 万波医師を支援する大学関係者が病気腎の移植成績が悪くないと主張していることに絡み、高原教授は「データの取り方で良くも悪くもなる」とし、「悪性腫瘍(しゅよう)を持つドナー(臓器提供者)から腎移植した二百七十例のうち、43%の患者が同腫瘍を発症」などとする米国の研究発表を紹介。「米国には生体腎移植時のルールはないが、死体腎移植では悪性腫瘍が絶対禁忌になっている」と説明した。

 臼木教授は「(病気腎移植を)法律で禁じる必要はなく、患者が本当に自発的に申し出た場合は否定できない」との考えを示す一方、他者に移植することをドナー側担当医が持ち掛ける行為は、自発的意思を担保する面から「絶対に駄目だ」と強調した。

 会場からは「患者側から摘出を申し出ることなどあり得ない」「根本的に間違った医療だ」などの声が上がる一方、「患者から申し出る『例外』もゼロではなく、オープンにやれば許される」との意見も出た。

 腎臓病関連の五学会は三月下旬、病気腎移植問題に対する統一見解を声明の形で出す考え。同移植禁止の内容となる見通しで、関係者によると、悪性腫瘍とネフローゼ症候群を絶対禁忌と明示する方向になっている。(以下、略)」




2.傷害罪にあたる可能性があり、刑事責任を追及される可能性があると言及したのは、臼木豊駒沢大法学部教授です。この見解を検証します。

(1) 

 「臼木豊・駒沢大教授(刑法)が28日、石川県で開かれた日本臨床腎移植学会で「移植を念頭にして臓器提供者に摘出をすすめたのなら、傷害罪にあたるかもしれない」と批判。医学的な問題だけでなく、刑事責任追及の可能性があるとの見解を示した。」(読売新聞)

要するに、移植目的での摘出要求は、患者の同意は無効となり、傷害罪にあたるということでしょう。

しかし、生体腎移植は、移植目的での臓器を摘出するものです。ここでは誰か提供を勧められたのか、提供者が自発に思いついたかによって、摘出が違法となるといった議論はありません病気腎移植の場合についてだけ、誰か提供を勧められたのか、提供者が自発に思いついたかを問題にするのは不均衡です。

同意が有効かどうかについては、「これから行われようとする医的侵襲内容を完全に認識した上での真摯な同意」(前田雅英「刑法総論講義」(第4版)309頁)があれば、よいのですから、誰か提供を勧められたのか、提供者が自発に思いついたかは、同意の有効性とは非常に関係が乏しいのです。

この理由は妥当でないと考えます。


(2) 

 「臼木教授は「(病気腎移植を)法律で禁じる必要はなく、患者が本当に自発的に申し出た場合は否定できない」との考えを示す一方、他者に移植することをドナー側担当医が持ち掛ける行為は、自発的意思を担保する面から「絶対に駄目だ」と強調した。」(愛媛新聞)

要するに、ドナー側担当医から臓器提供を持ちかけられると、患者は拒否できず、同意は無効であるということだと思います。
確かに、手術中に執刀医から臓器提供を持ちかけられるとか、緊急の施術中に臓器提供を持ちかけられる場合でしたら、事実上拒絶できず、そのような同意は無効とはいえると思います。

しかし、本来、医療契約は自由な意思で締結されるのですから、患者側は不満があるか否かに関わらず、自由に病院を移ることができ、担当医は何時でも変更できるのですから、通常、臓器提供を拒否できない状態になく、同意が無効であるとの評価は困難です。大体、万波医師らの事例を見ても、手術中に執刀医から臓器提供を持ちかけられるとか、緊急に手術を行うというものではないのです。


ドナー(予定)患者にとって臓器提供を最も拒否しづらい相手は、担当医ではなく家族(及び親戚)です。(生体移植について)家族から臓器提供を暗に求められることはかなりあると思いますが、家族が臓器提供を求めることは禁止されていません。

ドナー(予定)患者にとって臓器提供を最も拒否しづらい相手の要求行為を禁止せずに、ドナー側担当医から臓器提供を持ちかけることは、自発的意思を担保する面から「絶対に駄目だ」というのは、あまりにも不均衡で不合理です。

ドナー側担当医から臓器提供を持ちかけたかどうかは、同意の有効性判断の1要素となるでしょうが、ドナー側担当医から臓器提供を持ちかけたかどうかを最も重要な要素として「絶対に駄目だ」とする理屈は、理由がなく非常に無理があります。同意が有効かどうかは、「これから行われようとする医的侵襲内容を完全に認識した上での真摯な同意」(前田雅英「刑法総論講義」(第4版)309頁)があればよいのですから。


このように検討すると、病気腎を摘出することが傷害罪にあたる可能性があるという臼木教授のご見解は妥当でないと分かります。臼木豊・駒沢大教授のご見解は、少し検討しただけでも妥当性がないと判断できるものであって、とても議論に値するものではないのですが、主張した以上、ぜひ論文として発表して頂きたいと思います。もっとも、多くの刑法学者は苦笑し、無視することになるでしょうが。



3.不思議なのは、なぜ3月ころに傷害罪にあたるという主張をしたのかということです。それは、病腎移植が傷害罪にあたるのかどうかについては、すでに昨年11月の時点で、問題にならないことは分かっていたことです。

 「○木下委員
 今の学会の声明というか考え方は当然のことだと思うのですが、そもそもこれは移植という視点ではなくて、手術の適応自体が問題にならないのでしょうか。何か刑法に抵触しないかどうかという問題はないでしょうか。(中略)

○町野委員
 非常に手短に、今の御質問について。一つ、犯罪にならないかということですが、これは恐らく今までのやり方だと難しいだろうと思います。要するに不必要な摘出手術をしたということが一つですね。それから、後で移植をした相手方に対して何か不利益が生じたときはもちろん刑事事件の訴訟は起こりますが、不適切な摘出手術をしたというのも、前に富士見産婦人科事件というのがありまして、あれは結局のところ刑事事件にならなかった。あのところではかなり医療の裁量性が広く認められている経緯がありますので、今回、それを急にきつくすることは難しいだろうと思います。」(06/11/27 第24回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会議事録


要するに、腎不全の腎臓について、内科治療か外科治療か、外科治療としても全摘か部分切除か、患者の状態(年齢、健康状態など)にもよるのですから、医療の裁量の幅は広いであって、捜査機関側も医療の裁量の幅が大きいことを十分に理解しているのです。ですから、仮に「不適切な摘出手術」であっても、医療行為として違法性を阻却、または刑事責任を問うには軽微な違法であると理解されているわけです。

それゆえ、病腎摘出が仮に「不適切な手術」であっても、起訴され刑事責任追及がなされる可能性は著しく低いのです。ですから、今回も刑事事件にならないということになります。


このように検討してみると、病腎移植問題では、論理の遊びとして傷害罪を議論することあるとしても、現実的には傷害罪にあたるとして、刑事責任追及がなされることはまずありません。刑事責任追及の可能性がほとんどないのに、問題視することは、暴力団の常套手段である「脅しをかける」に等しい行為です。「脅しをかける行為」は恥ずべきこととして、現に慎むべきであると考えます。

傷害罪の可能性に言及した新聞社は、読売新聞と愛媛新聞です。暴力団対策を謳う特集記事を連載していた読売新聞が「脅しをかける行為」を行うのですから、読売新聞にとっての「暴力団対策」や、「脅迫行為」への批判は、場合によるということなのでしょう。読売新聞は部数が多いだけで評価が低いのもうなずけるところがあります。

テーマ:法律全般 - ジャンル:政治・経済

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