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2007/05/28 [Mon] 07:23:04 » E d i t
秋田大学医学部付属病院(秋田市)で平成18年9月、がんの疑いのある腫瘍があった腎臓を、腫瘍を切除した上で移植する生体腎移植が行われていたことが、5月26日、産経新聞の報道で明らかになりました。病院側は手術前、がんだった場合には転移する恐れもあることを患者に文書で説明し、同意を得た上で実施したそうです。秋田大病院の溝井和夫病院長(56)が同日、記者会見を行い、この事実を明らかにしました。
がんの疑いのある腎移植が明らかになったのは、宇和島徳洲会病院の万波誠医師らによる病気腎移植のケース以来です。担当した泌尿器科の羽渕教授は、米国に出張中で27日に帰国する予定だそうです。
この報道についてコメントしたいと思います。(5月28日追記:ドナーとレシピエントを書き違いしていたため訂正。)


1.まず、報道記事から。

(1) 産経新聞平成19年5月26日付朝刊1面(2007/05/26 08:12)

がん疑いの腎臓移植 母子承諾、術後「良性」 秋田大病院

 秋田大学医学部付属病院(秋田市)で昨年9月、がんの疑いがある腫瘍(しゅよう)の見つかった母親(64)の腎臓を摘出し、腫瘍を切除した上で長男(39)に移植する生体腎移植を行っていたことが分かった。移植後の組織検査の結果、腫瘍は良性と判明したが、病院側は事前に、がんだった場合は転移の可能性がゼロではないことを文書で患者に説明し、同意を得て実施していた。病院は「がんであっても、形状などから転移のリスクは低いと判断した」としている。



 昨年11月に表面化した宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)などの病腎移植例以外で、がんの疑いのある腎移植が表面化したのは国内では初めて。厚生労働省は、がんの病腎移植を一般医療で行うことを禁じる指針作りを進めている。

 大学によると、長男は平成17年、慢性腎炎が悪化して腎不全となり、18年4月には週3回の血液透析が必要となった。既婚で子供が3人いるが、働けない状態となり、移植による腎機能回復を強く望んだという。

 母親が提供に同意したが、CT検査の結果、左腎臓にがんの疑いがある直径約1センチの腫瘍があることが同年6月に判明。腫瘍のない右の腎臓を移植すれば、母親が腎不全に陥る恐れがあるため、病院側は左腎移植の可能性を模索した。米国の文献などを参考に、腫瘍の大きさや形状から、悪性度の低い「明細胞腺がん」か「乳頭状腺がん」であれば、部分切除で転移の可能性が低いと判断した。泌尿器科の羽渕友則教授が最終判断し、第三者による倫理審査などは行わなかったという。

 病院側は手術に先立ち、通常の生体腎移植の患者に対する説明・同意手続きのほかに、がん転移のリスクに関する追加説明文書を作成し、同意署名を得た。

 手術は昨年9月26日に実施。まず母親の左腎を摘出して腫瘍をくり抜き、顕微鏡による迅速病理診断を実施。その結果、悪性度の高い「紡錘(ぼうすい)細胞がん」ではないことが分かり、改めて長男に口頭で説明。同意を得た上で移植した。

 移植後の病理診断で、腫瘍はがんではなかったことが確定した。

 長男の腎機能は回復し、母親の経過も良好という。

 羽渕教授は、「腎がんにもいくつかの種類がある。指針には従うが、がんの病腎移植が一律に禁止されれば、こうしたケースの患者を救うことは非常に難しくなる」と話している。」


 「ドナー不足の現実

 今回の秋田大のケースは、移植した時点でがんの疑いが否定されておらず、レシピエント(移植を受ける患者)への転移の可能性があった点で、関係学会が示す現時点の移植ルールを外れた行為だったといえる。ただ、深刻なドナー(臓器提供者)不足に陥った国内の医療現場で、がんの病腎であっても移植を受けたいと強く望む患者がいる現実を改めて示したともいえる。

 厚労省の死体腎移植の指針では、がんの腎臓移植は禁忌とされており、今回のケースも通常なら、腫瘍が見つかった段階で母親をドナーから外す。秋田大の医師らも他のドナー探しを患者に勧めたが、見つからず、最終的に移植を選択していた。

 がんの腎臓摘出手術は通常、血管経由の転移を防ぐため、最初に動脈を縛って行うが、秋田大では腎移植の術式を採用し、最初に縛らず行っていた。宇和島徳洲会病院の病腎移植のケースでは、この術式で摘出を行った点が、関係学会から「不適当」と指摘されており、秋田大も不適当だったことになる。

 だが、手術にあたり医師らは、腫瘍の所見が<1>良性<2>悪性度の低いがん<3>悪性度の高いがん―の3つの場合を想定。ぎりぎりまで移植中止の選択肢を残して臨んでいた。

 「迅速診断の段階では長男に麻酔をかけず、悪性度が高いがんとみられる場合は移植中止、それ以外は口頭説明の上で実施する方針だった」(羽渕教授)という。

 患者の願いに最大限こたえようと苦慮したことがうかがえる。

 秋田大の医師らは患者に、がんであっても種類によっては転移の可能性が低いという海外の研究報告を紹介していた。死体腎の提供を増やす努力とともに、病腎移植の研究を進めることが課題だ。(石塚健司)」 



(2) 読売新聞平成19年5月27日付朝刊(13版)34面

 「がん疑いの腎移植 秋田大病院 60代女性から長男に 

◆術後に「良性」

 秋田大学付属病院(秋田市)で2006年9月、腎不全の30歳代の男性に、がんの疑いがある腫瘍(しゅよう)が見つかった60歳代の母親の腎臓を移植していたことが26日、わかった。病院側はがんの場合は転移の危険性があると文書などで説明し、男性は同意していたとしている。

 日本移植学会の指針では親族間の生体腎移植は倫理審査の対象外だが、秋田大は「課題がある場合は病院内の倫理委員会へ申請が必要」と定めていた。記者会見した溝井和夫院長は「今回は、申請が必要なケースだった可能性がある」と述べ、担当した泌尿器科の羽渕友則教授から近く事情を聞く方針を示した。

 記者会見によると、男性が腎移植を希望し、母親が提供に応じたが、2つある腎臓のうち1つにがんの疑いがある直径1センチほどの腫瘍が見つかった。

 腫瘍がない腎臓を移植すれば、母親が腎不全になる可能性があるため、羽渕教授らが、腫瘍がある腎臓の移植を選んだ。事前の検査では腫瘍が悪性の可能性は低く、腫瘍を切除して移植した。悪性の可能性が高ければ、移植は中止する予定だったという。腫瘍は移植後に良性と判明し、ともに術後の経過は良好だという。

 腎移植をめぐっては、宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)で06年11月、泌尿器疾患の患者の治療で摘出した病気腎を移植していたことが発覚。厚生労働省は今夏をめどに、病気腎移植を原則禁止する指針の運用を始めるが、今回のように、移植の際にがんの疑いがある腎臓を用いる例は規制の対象としていない。



◆解説:第三者の事前検証 必要

 秋田大病院の事例が、宇和島徳洲会病院の万波誠医師らによる病気腎移植と違うのは、母親が提供意思を示した後、がんの疑いが判明した点だ。がんなどの治療を求めた患者の腎臓を摘出、移植に利用した万波医師らと異なり、転移の危険性を文書などで説明していた。

 ただし、倫理委員会に諮らず移植に踏み切ったプロセスが気になる。脳死移植の適応基準では、悪性腫瘍の臓器は使うことはできない。この大原則は、生体腎移植を現場の医師の判断で行うに際しても、当然考慮されるべきだ。今回は結果的に良性だったが、移植段階では不明だった。危険性の度合いや決定方針について第三者に事前検証を仰ぐ時間はあったはずだ。

 亡くなった人からの腎臓提供が伸び悩むなか、生体移植は増加傾向にあり、同様の事例が他にもあるかもしれない。国や学会は、まず実態を調査し、ルールが必要なら早急に対応してほしい。(科学部・高田真之)」

(*この秋田大の腎移植に関する読売新聞のHP掲載記事は、平成19年5月26日付夕刊4版掲載のものと同じ内容ですが、27日付朝刊13版の記事内容とはかなり異なります)



(3) 日経新聞平成19年5月27日付39面

がん疑いの腎臓移植 秋田大病院 母から子へ

 秋田大病院(溝井和夫病院長)で昨年9月、悪性腫瘍(がん)の疑いがある60代の母親の腎臓を30代の息子に移植する生体腎移植を行っていたことが26日、分かった。病院側は事前に、がんだった場合は転移する可能性があることを説明、同意を得て手術していた。

 手術後の検査で腫瘍は良性と分かり、2人とも経過は良好だという。

 溝井院長によると、腎不全が悪化し移植が必要になった息子への腎臓提供に母親が同意。しかし手術前の検査で、腎臓に直径約1センチの腫瘍が見つかった。

 同大泌尿器科の羽淵(ママ)友則教授が画像診断の結果などから、腫瘍は悪性度が低く、転移の可能性が低いと判断して手術に踏み切った。さらに母親から摘出した腎臓の腫瘍を手術中に調べる迅速病理診断を実施。悪性度の高いがんである可能性が低いことを確認し、その結果を再び息子に説明、同意を得た上で、腫瘍を除去した腎臓を移植した。

 宇和島徳洲会病院(愛媛県)の万波誠医師らによる病気腎移植の発表を受け、厚生労働省は臓器移植法の運用指針に病気腎移植の原則禁止を盛り込む方向で検討中。

 ただ病気腎移植は治療上の必要から摘出した腎臓を移植する行為で、日本移植学会幹事を務める高原史郎大阪大教授は「今回は最初から移植を目的としていたのでこれには当たらない」と指摘。さらに「手術前の画像検査と術中の病理診断で慎重な検討を加えており、危険はほとんどなかった。通常の治療内容といえる」としている。


◆問題ないケース――大島伸一・日本移植学会副理事長の話

 今回は親子間で、明確に臓器提供の意思を持って行われた移植であり、基本的に問題はない。大学の倫理委員会にかけていれば、どこからも文句は出なかっただろうが、果たしてそこまで必要だったかも疑問がある。第三者から病気の腎臓を移植するという、新たな治療法の開発を目的とした宇和島徳洲会病院のケースとはまったく異なる。」



記事についてのコメントはで行いますが、大島氏の発言についてだけはここで触れておきます。面白いことに毎日新聞と他の新聞(日経・東京)で、大島氏の発言が全く違うのです。

 「大島伸一・日本移植学会副理事長は「ドナーに不利益はなかったと見られ、病気腎移植と同じではない。だが、第三者も交えた倫理委員会などで検討すべきだったと思う」と指摘している。」(毎日新聞(2007年5月27日東京朝刊26面))

「大学の倫理委員会にかけていれば、どこからも文句は出なかっただろうが、果たしてそこまで必要だったかも疑問がある」(日経新聞・東京新聞)


毎日新聞相手では、倫理委員会で検討すべきと言っておきながら、他では、必要だったかも疑問として倫理委員会での検討は必要ないというのです。同日の紙面でこうも大島氏の発言が異なると、大島氏は虚言癖があるのか、それとも毎日新聞だけが騙されたのか、どちらでしょうか? 。大島氏の発言を追っていると、訳が分からなくなりそうです。




2.3紙の記事を紹介しましたが、産経新聞の記事だと、経緯が充実していますし、5月26日時点で海外にいる、最終判断をした羽渕教授のコメントまで取れているのですから、申し分のない記事といえます。
ですので、産経新聞だけでもよいのですが、読売新聞の記事は産経新聞の記事と同様、よい指摘があることと、日経新聞の記事は日本移植学会の意向が出ているので、取り上げてみました。幾つかの点について触れていきます。


(1) 

「秋田大学医学部付属病院(秋田市)で昨年9月、がんの疑いがある腫瘍(しゅよう)の見つかった母親(64)の腎臓を摘出し、腫瘍を切除した上で長男(39)に移植する生体腎移植を行っていたことが分かった。」


この秋田大病院のケースは、「生体腎移植の際にドナー側の腎臓に病気がある腎臓を移植した」一例といえます。確かに、移植後の病理診断で、腫瘍はがんではなかったことが確定しています。しかし、移植時点では(悪性度の高いがんではないという判断でしたが)がんの可能性がある状態でしたから、「生体腎移植の際にドナー側の腎臓に病気がある腎臓を移植した」場合に当たると評価すべきです。


生体腎移植の際にドナー側の腎臓に病気がある腎臓を移植することは、以下の紹介記事でもわかるように、今までもかなりの事例を各医療機関が自由に実施してきており、日本移植学会に限らず泌尿器科学会も、単なる生体腎移植の一類型であるとして全く問題視してきていませんでした。

 「そもそも生体腎移植においてはドナー(腎臓提供者)に機能のよい腎臓や解剖学的に問題の少ないほうを残し、レシピエント(腎臓をもらう患者さん)に問題のあるほうを移植するというのが大原則であるということをご存知だろうか?
 日本移植学会やアメリカ移植学会では、ドナー腎に問題のあった症例をうまく移植したという報告が毎年のようにいくつも出されている。
 まず、腎動脈瘤のあった症例であるが、国内では、東京女子医大が腎移植症例1150例中、腎動脈瘤を持った症例8例を手術して成功したと1998年に報告している。
 そのほか、報告だけでも藤田保健衛生大学、浜松医大、京都府立医大、広島大学、北海道大学などから動脈瘤を持ったドナー腎の移植の成功が、30症例以上寄せられている。腎動脈瘤以外にも血管系に問題のある症例を体外で修復後、移植することはまったく珍しいことではない。」(「シリーズ・検証 腎不全と移植医療1 病気腎移植は医学的に議論されるべきだ」(徳洲新聞 2006年(平成18年)12月4日 月曜日 No.547 1,3面より))

 「夫婦間などの移植で腎動脈瘤などが見つかりながら、治療して移植に用いたケースは、これまでも少なくない。親族間の場合、病気腎であっても「移植学会の基準に基づいたものであれば認められる」(奥山明彦・泌尿器科学会理事長)としてきた。」(中国新聞「病気腎移植の波紋<上> 封印 '07/4/2」)

 「11月半ばに、愛知県の藤田保健衛生大学病院で91年に病気腎移植が行われていたばかりか、当時愛知腎臓団体理事として手術にゴーサインを出していたのが、万波批判の急先鋒である大島・移植学会副理事長だった事実が明らかになった頃から、バッシングの波は急速に引いていった。」(週刊文春12月28日号(12月20日発売)30頁・「病気腎移植問題~大島伸一・移植学会副理事長は万波医師を非難する資格があるのか?」)


問題視していないという意味は、大島氏が「親子間で、明確に臓器提供の意思を持って行われた移植であり、基本的に問題はない」と述べるように、生体腎移植では、臓器提供の意思が書面化されていれば、どんな病気腎(がんでももちろんOK)でも、倫理委員会に諮ることなく、摘出・移植を自由に実施できるということです。
日本移植学会の指針では親族間の生体腎移植は倫理審査の対象外ですから、病気腎でも生体腎移植の一類型である以上、倫理審査は不要となるのですから、歯止めは「臓器提供の意思が書面化」だけになるからです。

大島氏は「がんの臓器の移植は禁忌」と言っていますが、今回、移植時点でがんの疑いがあったのに「問題ない」というのですから、(親族間での)生体腎移植では、「がんの臓器の移植は禁忌ではない」と考えていることになります。要するに、生体腎移植では「死体腎移植の指針では、がんの腎臓移植は禁忌」というルールは妥当しないというわけです。


このように、「臓器提供の意思の書面化」で足り、一般的に(親族間での)生体腎移植では「がんの臓器の移植は禁忌ではない」とし、倫理委員会が存在していても倫理審査は不要であるとなれば、「なぜ、がんの臓器の移植は絶対禁忌でないのか? 臓器提供の意思の書面化だけで、移植を受ける意思の書面化はいらないのか? 今後も倫理審査をしないつもりなのか?」と、多くの人が不安感を抱くはずです。なので、さすがに読売新聞は批判を行っています。

 「倫理委員会に諮らず移植に踏み切ったプロセスが気になる。脳死移植の適応基準では、悪性腫瘍の臓器は使うことはできない。この大原則は、生体腎移植を現場の医師の判断で行うに際しても、当然考慮されるべきだ。今回は結果的に良性だったが、移植段階では不明だった。危険性の度合いや決定方針について第三者に事前検証を仰ぐ時間はあったはずだ。」

要するに、がんの臓器の移植は絶対禁忌と言っていたくせに、勝手に例外を作るような誤魔化しは止めるべきで、時間もあるのに勝手に今後も倫理審査を不要としてリスクを患者だけに負わせるべきでない、ということです。
本当に「第三者に事前検証を仰ぐ時間はあった」かどうかは不明ですが、生体腎移植の場合だけ禁忌でないというのは身勝手すぎることは確かでしょう。


(2) 

「がんの腎臓摘出手術は通常、血管経由の転移を防ぐため、最初に動脈を縛って行うが、秋田大では腎移植の術式を採用し、最初に縛らず行っていた。宇和島徳洲会病院の病腎移植のケースでは、この術式で摘出を行った点が、関係学会から「不適当」と指摘されており、秋田大も不適当だったことになる。」(産経新聞)


産経新聞が指摘するように、日本移植学会等関係学会の基準からすると、「秋田大も不適当」になるはずですが、日本移植学会の高原氏や大島氏は、問題ないと評価しているようです。おそらくは、生体腎移植である以上、移植が最優先であるから移植用の術式は当然であって、ドナー側の治療や健康は二の次なので、転移してもかまわないということなのでしょう。


ただ、関係学会が言うように、がんの腎臓摘出手術については動脈を縛って行う以外はしてはいけないのかというと、そうではないことを指摘しておきます。

 「臓器摘出手技に関しても、「癌の標準術式である、最初にまず血管を縛ることをしていないので、最初に移植ありきの術式であり、認められない」とされていますが、「まず血管を縛る」というのは、40年近く前の1969年にRobson先生らによって確立された「根治的腎摘出術」の要点の一つですが、現在では必ずしも重視されていません。

 一例を挙げますと、早期の腎臓癌の治療として最近盛んに腎の部分切除術が行われるようになってきていますが、その場合、腎臓およびそれにつながる血管を周囲からきれいに剥がし、腎臓に超音波の機械を当てて癌の位置や大きさを確認し、次いで腎臓の周りにガーゼやビニールシートを敷き詰めてから、初めて血管鉗子で腎臓の血流を遮断します。この間腎臓には血液が流れているまま手術を行います。その後、腎臓の組織障害を防ぐため、腎臓を氷で一気に冷やし、十分冷えたところで部分切除を開始します。すなわち、生体腎移植の際に行う腎臓摘出術と同様に、腎臓全体が周囲組織から剥がされた後に血流が遮断されるわけです。

 また、M.D.アンダーソン癌センターとクリーブランドクリニックという、世界でも有数の優れた医療機関から出された数百例規模の臨床データによれば、一般に腎の部分切除の適応となり得る直径4cmまでの腎臓癌に対して、根治的腎摘出術を行った場合と、腎部分切除術を行った場合の術後の転移率は、それぞれ7.1%と5.8%だったそうです。すなわち、血管を先に縛ろうが後に縛ろうが、転移の頻度は実際には変わらないと言えます。

 要するに、血管を縛ってから摘出する手術方法(「根治的腎摘出術」の要点の1つ)は、40年前に確立していた手術方法でしたが、現在の医療現場では、血液が流れているままの手術方法が盛んに行われている、特に、早期の腎臓癌の治療として最近盛んに実施している腎の部分切除術では、そういった手法が実施されている、というわけです。

 批判する側(日本移植学会の幹部)は、世界的には古い医学的常識に凝り固まっているようです。」(「病気腎移植推進・瀬戸内グループ支援ネット」さんの「専門・調査委員会報告についての意見」(2007年2月26日(月曜日) )



(3) 

 「手術にあたり医師らは、腫瘍の所見が<1>良性<2>悪性度の低いがん<3>悪性度の高いがん―の3つの場合を想定。ぎりぎりまで移植中止の選択肢を残して臨んでいた。

 「迅速診断の段階では長男に麻酔をかけず、悪性度が高いがんとみられる場合は移植中止、それ以外は口頭説明の上で実施する方針だった」(羽渕教授)という。

 患者の願いに最大限こたえようと苦慮したことがうかがえる。

 秋田大の医師らは患者に、がんであっても種類によっては転移の可能性が低いという海外の研究報告を紹介していた。」(産経新聞)


手術中の迅速病理診断の結果によっては移植中止の選択肢を残しているように、慎重な手順であったとはいえ、悪性度の高いがん以外は移植するものであったのですから、患者の願い(自己決定)を最優先した手術であったといえます。


患者の願い(自己決定)を最優先できた根拠は、「がんであっても種類によっては転移の可能性が低いという海外の研究報告」であることに注意する必要があります。

日本移植学会の大島氏や高原氏は、「がんであっても種類によっては転移の可能性が低いという海外の研究報告」は信用できないものとして万波医師らの病腎移植を非難したのですが、秋田大病院の医師は信用に足る研究報告と評価したのです。担当した泌尿器科の羽渕教授が米国に出張中であることも踏まえると、羽渕教授は、米国では病腎移植を推進していることを熟知していると思われます。

どうやら日本移植学会の大島氏や高原氏が行った批判は、古い医学的知識に基づいていると感じている医師が多数いることを推測させますし、少なくとも秋田大病院では病腎移植に対する理解があるといえるのです。




3.読売新聞は、「亡くなった人からの腎臓提供が伸び悩むなか、生体移植は増加傾向にあり、同様の事例が他にもあるかもしれない」と指摘しているように、生体腎移植で行われる病気腎の移植は、既に指摘したようにかなりの事例があるのですし、がんの腎臓の場合もまだあると考えられます。

(1) そうなると、生体腎移植で行われる病気腎の移植についてどう扱うかが問題となってきます。まずは、病気腎移植のように全面禁止にするのか、それとも今までどおり生体腎移植の一例として、自由に実施することを認めるのかどうかです。

全面禁止とすれば、生体腎移植さえも移植の道を狭めてしまうことになってあまりに不合理ですから、生体腎移植で行われる病気腎の移植は認めるべきです。日本移植学会も止める気はないでしょう。
ただ、認めるとしたら、レシピエント側としては病気腎であることには変わりがないのですから、病気腎移植を全面禁止することは不均衡であって不当であるというべきです。

そうなると、産経新聞が「病腎移植の研究を進めることが課題」と指摘しているように、病気腎移植ともども全面禁止の扱いではなく、研究を進め、認めるべきです。


(2) ただし、今までどおり生体腎移植の一例として、自由に実施することを認めてよいのかどうかは、疑問です。

万波医師らが行った「病腎移植」は(第三者から)治療目的で摘出した場合であるのに対して、秋田大の行った「病腎移植」は(親族間で)生体腎移植として移植目的で摘出したものです。

前者はドナー側に治療という利益があるのですが、後者は元々、ドナー側に全く利益がなく100%不利益な生体腎移植のための摘出であって、たまたま病気腎であったため治療も兼ねることになったものです。

そうすると、後者の場合、ドナー側に100%不利益な生体腎移植であり、しかも病気腎だったのですから、生体腎移植と病気腎移植を兼ねる以上、病気治療をも怠らないように、前者よりもより一層、摘出・移植に慎重であるべきです。要するに、医療とは治療目的で行うという大原則がある以上、がんの疑いのある臓器であれば、転移の可能性もあるのですから、まずはドナー側の治療を優先する医療であるべきなのです。

大島氏は

「第三者から病気の腎臓を移植するという、新たな治療法の開発を目的とした宇和島徳洲会病院のケースとはまったく異なる」

と述べていますが、「病気の腎臓を移植するという、新たな治療法」であることは全く同じであり、しかもより一層慎重さが必要なのですから、「まったく異なる」のでなく、「ほとんど同じ」と評価する方が妥当であるというべきです。

今回の場合は生着しているようですが、今までの生体腎移植で行われる病気腎の移植は、(万波医師らが行った病腎移植と異なり)すべて生着しなかったそうです。そうなると、生着するためには優れた技量を有する医師が実施することが必要です。意味のある移植をもたらすためにも、「今までどおり生体腎移植の一例として、自由に実施すること」、すなわちドナー側の治療を軽視しているような移植は妥当でないと考えます。

テーマ:社会ニュース - ジャンル:ニュース

コメント
この記事へのコメント
「おかしい」と感じる
厚生労働省が原則禁止しようとしている「病気腎移植」の立場から考察する。

高原史郎教授が「最初から移植目的としたから・・・」と言っているが、腫瘍は遺伝性の病気であるそうだから、よけい病気腎としての危険は大きいのではないかと考える。

家族間の健康な腎臓移植さえ拒絶反応でダメになることがある。
破棄する予定の病気腎であれば、レシピエントはずっと楽な気持ちでもらえる。今回の生体腎移植にはない、利点もふまえた「病気腎」だと思うばかりだが。

第3者の検証がここでも必要だったとか言うが、そうなれば手術すべては何らかの危険が伴うわけだから、ここでも疑問がある。「本当に」第3者の検証が必要だろうか。

病気腎移植に対して、何だか公平でない発言があちこちで聞かれ、「おかしい」と感じている。(大島副理事長の発言だけでなく)

病気腎移植の道は、深刻なドナー不足の中で、みながきっと幸せになるグットアイデアなのに、闇にほうむろうとする人たちの気がしれない。
2007/05/28 Mon 14:03:03
URL | 五月晴れ #-[ 編集 ]
春霞様
背景・経緯は違いますが、腎臓移植そのものは、宇和島での事案と秋田大での事案での病気の腎臓が移植されたということは全く同じと言うべきです。
ところが昨年来の専門委員会や学会の見解によると、がんの疑いがある腎臓を移植したこと、4㎝未満のがんの腎臓を摘出したこと、血管を縛る方法が移植を目的とした術式であったこと等は全て不適切とされています。秋田大学病院の今回の手術について私は敬意を表するものですが、秋田では適切、宇和島では不適切とされることに対しては全く納得がいきません。宇和島で不適切とする手術そのものの根拠は一体何なのかと専門委員会等の指摘する根拠そのものを疑がわざる得ません。大島副理事長のコメントは矛盾だらけで信用などできるはずがありません。
同じ病腎移植で、親子間での移植は良、他人間では否とするのでは、科学に基づくのではなく情に基づく見解なのでしょうか。
今回、厚生労働省が運用指針に「病腎移植移植は現時点では妥当性がない」と一般医療での全面禁止を盛り込むことにより、これまで行われていた今回秋田大学のような病腎移植についても道が閉ざされる可能性があり、多くの腎不全・透析患者の腎移植の機会が奪われることになりましょう。少なくとも医療現場が混乱することは明らかです。
産経さんの記事取り上げ・問いかけは誠に大きな意味があります。


2007/05/28 Mon 22:39:03
URL | hiroyuki #-[ 編集 ]
羽渕教授は、相当の経験のある本物の臨床医だと感じます。

ろくな医療もできない学会のお偉さん方とは違うのでは?

宇和島の病気腎移植、完全な否定の結論を出した各学会と調査委員会ですが、各症例について、学会の否定的な主張と、万波医師の言い分を両方見せて、意見をだしてもらいたいものです。

「両刃のメス」をはじめ、これだけ騒いでいる愛媛新聞さん、ぜひ秋田に飛んで、インタビューしてください。 
2007/05/31 Thu 00:16:51
URL | ぽち #-[ 編集 ]
>五月晴れさん
コメントありがとうございます。お返事が遅れてすみません。記者会見についてのエントリー後にお返事しようと思って、遅れました。


>高原史郎教授が「最初から移植目的としたから・・・」と言っているが、腫瘍は遺伝性の病気であるそうだから、よけい病気腎としての危険は大きいのではないかと考える。

臓器移植法運用指針改正案では、「病腎移植とは治療目的での摘出した場合」と定義したので、移植目的だと「病腎移植」の定義には当たらないことはことは確かです。定義的には、高原氏の言う通りです。

しかし、ドナー側としてはがんの疑いがあった以上、治療も考慮したうえでの摘出も必要なはずですし、五月晴れさんの仰るとおり、レシピエント側もがんの疑いのある腎臓というリスクを負うわけです。なので、実質的には病腎移植と変わらないのです。
高原氏の言い訳は、説得力がないです。


>第3者の検証がここでも必要だったとか言うが、そうなれば手術すべては何らかの危険が伴うわけだから、ここでも疑問がある。「本当に」第3者の検証が必要だろうか。

読売新聞は「第3者の検証がここでも必要」としていますね。おそらく倫理委員会の審査を行うべきだったというのでしょう。

私も、五月晴れさんと同じように(このエントリーでは微妙な書き方をしてしまっていますが。すみません。)倫理委員会の審査をする必要はなかったと思います。
秋田大は「課題がある場合は病院内の倫理委員会へ申請が必要」と定めていますが、「課題がある場合」自体、判断が難しいですから。

もし倫理委員会の審査を必要とした場合も、倫理委員会が執刀医や患者の意向に反して、「疑いがある以上は移植できない」などと決定することは考えにくいです。
もしも、「疑いがある以上は移植できない」と決定していたら、今回の場合、健康な腎臓を摘出しただけで移植されずに終わっていたかもしれません。それは、あまりにも無意味です。
2007/06/01 Fri 07:49:12
URL | 春霞 #ExKs7N9I[ 編集 ]
>hiroyuki さん
コメントありがとうございます。お返事が遅れてすみません。記者会見についてのエントリー後にお返事しようと思って、遅れました。


>背景・経緯は違いますが、腎臓移植そのものは、宇和島での事案と秋田大での事案での病気の腎臓が移植されたということは全く同じと言うべきです。

仰るとおりです。レシピエント側としては病気、それも移植時点においてがんの疑いがあったのですから、病腎を移植したのと同じであり、レシピエント側のリスクも同じです。


>ところが昨年来の専門委員会や学会の見解によると、がんの疑いがある腎臓を移植したこと、4㎝未満のがんの腎臓を摘出したこと、血管を縛る方法が移植を目的とした術式であったこと等は全て不適切とされています。

がんの恐れがあった以上、日本移植学会の幹部が、特に「血管を縛る方法が移植を目的とした術式」を採ったことをなぜ非難しないのか、不思議です。この場合は、がん転移のおそれは、どうでもいいのでしょうか……。


>秋田では適切、宇和島では不適切とされることに対しては全く納得がいきません。
>宇和島で不適切とする手術そのものの根拠は一体何なのかと専門委員会等の指摘する根拠そのものを疑がわざる得ません。

同感です。ここが一番問題です。一方は適切、一方は不適切とは、落差が激しすぎるます。


>大島副理事長のコメントは矛盾だらけで信用などできるはずがありません。

大島氏のコメントは、いつも矛盾だらけです。病腎移植の賛否は別として、移植医はもっとおかしいと表明していいと思うのですが。


>厚生労働省が運用指針に「病腎移植移植は現時点では妥当性がない」と一般医療での全面禁止を盛り込むことにより、これまで行われていた今回秋田大学のような病腎移植についても道が閉ざされる可能性

臓器移植法運用指針改正案では、「病腎移植とは治療目的での摘出した場合」と定義したので、生体腎移植は移植目的なので、病腎移植の定義には当たらず、生体腎移植の規制が受けるとしても、いまのところは規制されないとは思います。

ただ、病気の腎移植であることは変わらないので、レシピエント側としては病腎移植と同じです。特殊な生体腎移植は規制がなく、病腎移植は全面禁止だなんて不合理だと思います。


>産経さんの記事取り上げ・問いかけは誠に大きな意味があります

そうですね。
産経新聞さんは、同じ病気の腎臓移植、それもがんの疑いがある場合であるのに、一方は規制なし・他方は全面禁止となって異なるのはあまりにもおかしくないか?、との疑問を投げかけたのです。大変意義があることです。
2007/06/01 Fri 08:16:24
URL | 春霞 #ExKs7N9I[ 編集 ]
>ぽちさん
はじめまして、コメントありがとうございます。


>羽渕教授は、相当の経験のある本物の臨床医だと感じます。
>ろくな医療もできない学会のお偉さん方とは違うのでは?

このエントリーでは、ちょっと微妙な書き方をしてしまったため、羽渕教授を批判したかのように受け取れたかもしれません。すみません、批判する意図ではありませんでした。

記者会見については別のエントリーで取り上げましたが、羽渕教授の自信の程が伺えます。患者の希望があり、高度な医学的判断を行って妥当とすれば、倫理委員会の審査は不要といっているのですから。

羽渕教授の技量と経験は分かりませんが、「ろくな医療もできない学会のお偉さん方」と違うことは確かです。がんであっても種類によっては転移の可能性が低いという海外の研究報告を知っていたのですし。


>「両刃のメス」をはじめ、これだけ騒いでいる愛媛新聞さん、ぜひ秋田に飛んで、インタビューしてください。 

読売新聞や山陽新聞ならともかく、愛媛新聞はできるのでしょうか……。愛媛新聞の病腎移植記事を見ていると、愛媛当たりから離れた独自の記事がなく、最近は日本移植学会が出している情報をずっとなぞっているだけです。愛媛新聞さんには秋田へ行くだけの資金力も、独自に検証する能力もないから、秋田へインタビューすることなんて、まず無理かと思います。
2007/06/01 Fri 08:30:34
URL | 春霞 #ExKs7N9I[ 編集 ]
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