「4人の被害」とは、通報を受けて駆けつけた県警愛知署地域課長久手交番の木本明史巡査部長(54)が拳銃で首を撃たれ、現場東側で警戒に当たっていた機動隊特殊部隊の林一歩巡査部長(23)は防弾チョッキのすき間の左鎖骨から入った銃弾が心臓に達して出血死し、大林容疑者の長男健人さん(25)と二女里紗さん(21)もそれぞれ腹と足を同容疑者に撃たれたというものです。
読売新聞によると、警察庁幹部は「手足への銃撃は命にかかわらないため、任務の性質上、隊員も覚悟しているが、今回は不運としか言いようがない」と漏らしているようです。では、SAT隊員死亡は“不運”だったのでしょうか? についてコメントしたいと思います。
1.まず、朝日新聞は大まかな事件検証記事を掲載していました。これを引用しておきます。
「愛知・立てこもり事件 震撼の29時間 警察の対応を検証
2007年05月20日17時23分
元暴力団組員の男が愛知県長久手町の自宅に立てこもった事件は、警察官ら3人が撃たれ、さらに警察官1人が射殺される惨劇となった。初動の認識の甘さや後手後手の対応が事件を長期化させた側面もある。郊外の静かな住宅街を震撼(しんかん)させた「29時間」を検証した。
●「おもちゃ」うのみ 軽装備
愛知署長久手交番の木本明史巡査部長(54)は17日、110番通報を受けて大林容疑者の自宅に駆けつけ、1人で自宅に近寄っていき、撃たれた。
木本巡査部長は普段と同じ装備で、防弾衣などをつけていなかった。
「拳銃はおもちゃだという情報が入っていた。本物と思っていなかった可能性が高い」。容疑者逮捕の会見で、石川文彦・愛知署長は悔やみきれない様子で明かした。
「おもちゃ」という情報は、次女が電話してきた2番目の通報のことだ。当初の「拳銃を持っている」という通報を打ち消すように、「父は落ち着いた。警察が来たら興奮するかもしれない。来ないでください。拳銃はおもちゃです」。
しかし、そばの住民は、「1週間ほど前にもパンという音を聞いた」。たびたびトラブルを起こしていた元暴力団組員の動静について、警察はさしたる注意を払っていなかったことになる。
木本巡査部長は、玄関先に倒れたまま、動けなくなった。29時間にわたる大林容疑者と警官隊とのにらみあいが始まった。
●警官救出、発砲で慎重に
大林容疑者は木本巡査部長を撃った後、長男と次女も銃撃。元妻を人質に取った。
木本巡査部長と元妻の救出を最優先に考えた捜査側を慎重にさせた出来事がまもなく起こった。
大林容疑者が、警官隊に向かい、「近づいたら撃つ」と叫び、実際に1発を発砲したのだ。
石川署長は「拳銃を所持しており、第2、第3の被害者を出さないように最善の態勢を整えていた」と説明する。
発生から約2時間後の17日午後6時ごろから、それまで携帯の無線を通じて聞こえていた木本巡査部長のうなり声も途絶えた。しかし、救出するための突入まで、発生から約5時間を費やした。荒井正道捜査1課長は「装備や捜査員の配置を整えるために時間がかかった」と話す。
木本巡査部長の治療にあたった医療機関側は「あと少し遅ければ最悪の事態になりかねない状態だった」。
木本巡査部長が救出された際、容疑者は4発を撃った。1発が、突入の支援をしていた林一歩(かずほ)警部(23)=巡査部長から特進=の命を奪った。
●解決の端緒は「自力脱出」
林警部は18日未明、死亡。特殊部隊(SAT)の隊員として、創設以来初の犠牲者となった。
同日午前5時ごろ、特捜本部はいったんは突入を決意した。
しかし、結局見送られ、捜査1課特殊班の交渉人(ネゴシエーター)による説得が続いた。
石川署長は、「(新たな)犠牲が出たことで、捜査が慎重になった。危険な現場で、環境を整えていた」と振り返る。
事態が大きく進展したのは、元妻が自力で脱出してからだった。
18日午後2時51分、元妻がトイレの高窓から逃げ出し、保護された。
大林容疑者が「事件の経緯を話したい」などと地元FMラジオ局の人気DJと話し込んでいるすきをついた。
大林容疑者は元妻の脱出を機に気弱な様子になり、「自分も外に出る」などと話し始めたという。元妻の脱出がなければ、膠着(こうちゃく)状態が続いた可能性は否定できない。
藤村博之・県警刑事部長は「反省、教訓として同種事案の再発防止につなげたい」と語った。捜査のあり方について、大きな課題を残した。」(朝日新聞5月20日(日曜)34面)
そばの住民は、「1週間ほど前にもパンという音を聞いた」ということですから、拳銃を所持していた疑いがあったのです。この情報が木本巡査部長に伝わっていたら、軽装備で駆けつけることもなかったはずです。しかも、「事態が大きく進展したのは、元妻が自力で脱出してから」であって、もっと事件が長期化した可能性もあったのですから、多くの課題が残った事件といえそうです。
もっとも、米国と異なり、警察官が撃たれても日本では「『犯人であっても射殺してはいけない』というのが基本。……犯人を撃ってしまった場合の責任問題から速やかな指示が出せない」(東京新聞5月19日付朝刊24面「こちら特報部:特殊部隊SAT 外国との違い」でのジャーナリストの笹川英夫氏の発言)のですから、長期化することはやむを得ないものともいえそうです。
2.では、SAT隊員死亡は“不運”だったのでしょうか?
(1) まず、警察庁幹部が「今回は不運」と述べている記事を引用しておきます。
「SAT隊員死亡「今回は不運…」、迫られる装備改善
愛知県長久手町の立てこもり事件で、同県警特殊急襲部隊(SAT)の林一歩(かずほ)巡査部長(23)(18日付で警部に2階級特進)が銃撃を受けて死亡したことで、警察当局は、優秀な人材を失うとともに、装備改善を迫られることになった。
銃などから完全に身を守る装備をしながら、現場で機敏に動き回らなければならないという、相反する課題を乗り越えることを宿命とするSAT。警察庁は対策への模索を始めた。
テロ対策などで犯人制圧を行うSATの隊員になるには、体力テストや銃技能テストで優秀な成績が必要なうえ、協調性も重要視される。このため、約25万人の警察官のうち、8都道府県で約300人しかいない超エリートだ。
拳銃に加え、ライフル銃、サブマシンガン、特殊閃光(せんこう)弾などを使いこなし、防弾ヘルメットや防弾チョッキなどをフル装備すると重量は約20キロにも及び、これをつけたまま、ロープ一本でビルから降りるなど、立てこもりやハイジャックなどを想定した訓練を日々行っている。
今回も、フル装備で救出作業に携わっていたが、防弾チョッキのわずかなすき間が命取りとなったことに、警察庁幹部は「手足への銃撃は命にかかわらないため、任務の性質上、隊員も覚悟しているが、今回は不運としか言いようがない」と漏らす。
装備について、「犯人側に手の内を知らせることになる」として、警察庁はその性能を一切明らかにしていないが、既に諸外国の特殊部隊と同レベル(警察庁幹部)といい、それだけに対策も難しい。同庁幹部は「より軽量化、より防弾化を高めてもらうよう、メーカーに依頼するなどして、何とか進めるしかない」と話している。
(2007年5月18日23時7分 読売新聞)」読売新聞(2007年5月18日23時7分)
詳しい状況については、次のようでした。
既に諸外国の特殊部隊と同レベル(警察庁幹部)で、「つなぎ部分」に当たったのですから、不運といえなくありません。「林警部は、現場から7−8メートル離れた事務所東側の車道に止めた捜査車両を盾にしてサブマシンガンを構えていたが左肩に被弾した。防弾装備をまとっていたが、弾が跳ねて方向を変えて防弾チョッキの胸と背中の「つなぎ部分」に当たり、体内に入り込んだという。つなぎ部分には防弾効果がなく、被弾個所には弾が貫通した穴があった。」(東京新聞5月21日付朝刊23面(2007年5月21日 07時31分))
(2) しかし、「特殊班(Special Investigation Team)」の身体を守っている防弾ベストを設計して納入した方である、「☆最近の日記━…★★」さんは、 「5月20日(日) 防げた『SAT隊員射殺』、あれでは”犬死”だ」において、次のように述べているのです。
「ボクの設計した最強の品が、勝手に更新され、デザインや肝心の内容(防弾パネルの構造等)が、警察庁刑事局の当時のキャリア「I」によって、無理やり『サツ庁でも欲しいので、見本として1着だけ大至急の納入』を命じられ、必死になって制作しそれを入れた途端、ブツがどこへ行ったか含め、”それ以来ナシのつぶて”のままというヤクザまがいの取り込みサギをはたらいてくれた(苦笑)。
そして気付いてみれば、いつの間にか、ボクに独走を許していた”オボエめでたい機動隊装備品メーカー”が類似品を登場させるにいたる。
それが先月の「町田市ヤクザ立てこもり」事件で、広く世間に公開させるに至った「新型ベスト」で、主にSATが着ているものだ。……
林隊員はなぜ、盾の上部に上半身をさらしたままそのライナーを下ろし、銃を構えていたのか?
今回のSAT林隊員について、詳しく述べられることはないかもしれないが、今警察側から後悔されている範囲によれば
『左側鎖骨下部から銃弾は入り、右肋骨、胸骨を貫通し(また逆に戻って?)心臓に達している』
というものだ(これは右目で照準をつけていた姿勢のまま、その相手側から撃ち返された角度だろう)。
これはいかにも警察側は偶然、ベストの部分を交わし銃弾は「ベストを着ていない首筋から体内に撃ち込まれた」ということになっている。
ベストの強度についてはこうすれば触れずに済む。
それならそれで(より強い物を支給してくれれば)良いのだが、どうもこの説明は毎度毎度、防弾チョッキを着ていながら殉職した事件を警察が説明する言葉と同じなのはいったい偶然か?
ボクは違うと思う。
銃弾はあのヘルメットのライナーにいったん当たって、そこから方向を替えて鎖骨下へとバウンドしたのではないのか?
MP5を立射の構えで持ち、その照準を定めたとしたら斜めになったライナーに当たった銃弾は、一目散に「ベストの首周りが甘い部分」から”滑り込み”、首の付け根部分を速度ほとんど落とさず暴れまわり、一帯を損傷させる。
警察側は(意外にも?)反論するだろうが、もし鎖骨下に入った直撃弾なら動きはもっと直進性の高い弾道となっていたはずだ。
ボクがSITと共に作った品は、
『とにかく、エリや首下部から銃弾が滑り込まないよう』細心の工夫を凝らした。
デザイン的にはヘルメットを装着した首が、エリの中にめり込み包まれる…といったもの。
これも『常に”上方向に”犯人の銃口はあるもの』といった現場からの金言によるものだったし、立場が変わってSIT側が狙撃体制に入った時、うつぶせて構える(=伏射)ため、相手が撃ち返してきた場合、首がのぞきやすい角度であるため、首周りはスナイパー兼用でもある限り「タートルネック状」であるのが望ましいのである。
自動小銃MP5を構えた林さんが撃たれたシーンの報道VTRを見ると、防弾盾を構えた前列の隊員の背後に立って、(二人一組の編成で)2つのうち「左側組背後」に位置していた林さんが撃たれ、力なく崩れて行ったシーンがリプレイされている。
気が付いて欲しいのは、同僚の林さんがゆっくり崩れ落ちる…相手が発砲してきた!というのに、右側のMP5を構えていた隊員が、なすすべもなく銃口を上に向け、「捧げ銃」のスタイルで発砲を直ちに放棄してしまっている様子である。
これは何なのかわからない?
『近付いたら(倒れている方の)警官を殺すぞ』と”大林が警告”している状況下、ジュラルミン色の大盾と、暗い色の小型盾との二種類を警官らが持って接近した。
結論を先に言っておく。
この林さんの遺族は直ちに警察庁・愛知県警および発砲した犯人大林の3者を相手に、民事訴訟を提起すべきだ。
1)警官という人命軽視
2)誤った脆弱な装備を支給した事による使用者管理ミス
3)「負傷警官収容作戦」の部隊運用ミス
すべての原因は、日本の警察が伝統的に体質となってもはや気付かなくなっている、『警官という人種に対する人命軽視』から始まっている。
まだか、やっちまえと煽り立てる風にしか聴こえないマスコミの論調も、明らかにそこに手を貸している。」
『とにかく、エリや首下部から銃弾が滑り込まないよう』細心の工夫を凝らし、デザイン的にはヘルメットを装着した首がエリの中にめり込み包まれる形、すなわち、首周りは「タートルネック状」の製品を提示したのにもかかわらず、無視されてしまったのです。そのため、SAT隊員は”オボエめでたい機動隊装備品メーカー”が作った劣化した類似品を着ることになったのです。
こういう事情を知っている警察幹部としては、「今回は不運としか言いようがない」とか、「より軽量化、より防弾化を高めてもらうよう、メーカーに依頼するなどして、何とか進めるしかない」などと、裏事情が明らかにならないよう発言するしかないということになります。
報道機関の一部はこういった裏事情を知っているのでしょう。特に、朝日新聞は、読売新聞と異なり「不運」だったといった記事はなく、社説でも「防弾衣や盾などの装備」について、読売新聞のように「装備面に改良の余地はないのか」(読売新聞5月19日付社説)と言った評価ではなく、「適切」だったかのかというように元々問題のある装備ではなかったのかというような疑問を呈しているですから。
「「防弾衣や盾などの装備や隊員の配置は適切だったのか。きちんと検証することが必要だ。最前線の警察官の命をどうやって守るかも警察の大きな責任だ。」(朝日新聞5月19日付「社説」)」
元々裏事情を知らない報道機関は論外としても、報道機関としては警察と対峙することは避けたいでしょうから、それとなく触れるしかないのかもしれません。しかし、『警官という人種に対する人命軽視』という事実は変わらないのです。
長期化した警察の対応には色々問題があったのかもしれません。しかし、市民はそのことに対して批判するよりもまず、「防弾衣や盾などの装備や隊員の配置」が適切でなく、警察庁幹部のせいで装備不備が生じて、結果として現場の警察官の人命が失われたということ自体を批判すべきであると考えます。SAT隊員死亡は、現在の装備ではあり得ることだったのであって、“不運”ではなかったのです。
<5月25日追記>
週刊文春5月31日号(5月24日発売)「SAT隊員を殺した愛知県警の『平和ボケ』」から一部引用。
「木本巡査部長が防弾チョッキを着用せずに現場を訪れたことに対する批判もある。だが、そもそも交番に防刃プロテクターはあるが、防弾チョッキは常備されていない。」(29頁)
「95年に警視庁と防弾チョッキを共同開発した「流体力学」代表の鑑定士・前野重雄氏はこう語る。
『アメリカの弾道学者の言葉に、『防弾チョッキは穴が開いたらTシャツと同じ』という表現がある。肩のつなぎ目部分に防弾機能がないこと自体が間違い。そういった製品を使用した時点で、林さんの死亡は人災ともいえます」(31頁)
この記事からすると、警察内部において現場の警察官の命が軽く扱われているようです。
犯人が銃を持った篭城事件を想定した訓練をやっていたそうですが、いくら訓練をやってみても、犯人から撃たれる可能性はなくなりません。まずは、癒着メーカーに「欠陥製品」を作らせるのではなく、銃弾から十分に身を守る装備を作れるメーカーに作ってもらうことが必要かと思います。
テーマ:政治・経済・時事問題 - ジャンル:政治・経済
| #[ 編集 ]
なんだか最後のほうの装備に関する指摘に、あの日本陸軍を思い出してしまいました。
>まだかやっちまえ
老人・タカ派だと好んで「平和ボケ」という言葉を使うのでしょうが(苦笑)。
前途ある青年の死がお涙頂戴の種に終わってしまうのではなく、警察の体質を改めることも重要だと思うのですが…。
ところで娘の「拳銃はおもちゃ」、という発言に唖然としました。この期に及んでまだかばっているのでしょうか?それとも本気で言ったのでしょうか。なんとも悲しい発言だと思いました。
日記の他の箇所をみたら「癒着のあった業者」が“良い仕事”をしたようですから、その通りなのでしょうね。
>なんだか最後のほうの装備に関する指摘に、あの日本陸軍を思い出してしまいました
>前途ある青年の死がお涙頂戴の種に終わってしまうのではなく、警察の体質を改めることも重要だと思うのですが…。
銃器を持っている犯人に対しては、警察が反撃しようがしまいが、身を守る装備はしっかりしておくべきだ、というくらいは誰もが異論がないことなんですけどね。人命軽視は、昔の日本軍も同じですから、日本の伝統なのかもしれませんね(^^ゞ これも伝統を重視する「美しい国」の表れでしょうか……。
>ところで娘の「拳銃はおもちゃ」、という発言に唖然としました。
この家族の関係はよく分からなくて。犯人は元暴力団員ですが、それ以外の家族は被害者でもあるので、あまり報道されていないせいでもありますけど。
<追記>
↓この記事を見ると、二女は真っ当な人みたいですね。ともかく、この犯人は無茶苦茶ですが。
「発砲立てこもり事件 警官介抱の二女へ発砲 4発目、殺意持ち無差別か
5月22日16時5分配信 産経新聞
発砲立てこもり事件で、殺人未遂容疑で逮捕された大林久人容疑者(50)が、駆けつけた愛知署長久手交番の木本明史巡査部長(54)らに発砲した4発のうち、最後の1発が同巡査部長と、巡査部長を介抱している二女、里紗さん(21)に向けられていたことが分かった。命中しなかったものの、2人とも被弾する可能性があった。
大林容疑者は逮捕後の調べに対し「殺意はなかった」と供述しているが、県警特捜本部は、激高した大林容疑者が警察官と自分の子供を区別せず、殺意を持って無差別に撃ったとみている。
調べでは、「父親が暴れている」との通報を受けた木本巡査部長は、大林容疑者と元妻(50)、長男健人さん(25)と里紗さんの計4人が庭先で口論しているところに到着、仲裁に入ろうとしていきなり撃たれた。大林容疑者はさらに、止めに入った健人さんと里紗さんに向けて1発ずつ撃ち、けがをさせた。
最後の1発は、大林容疑者が最初の3発を撃った後、元妻を抱えるようにしていったん家に入り、しばらくしてから発砲された可能性が高い。里紗さんが木本巡査部長に覆いかぶさるようにしていたところに向けて撃たれたとみられる。
最終更新:5月22日16時5分」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070522-00000028-san-soci
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