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2006/12/18 [Mon] 01:10:17 » E d i t
ファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」を開発、公開し、著作権法違反行為をまん延させたとして著作権法違反(公衆送信権の侵害) ほう助の罪に問われた開発者の金子勇被告に対する裁判が13日京都地裁で開かれ、氷室真裁判長は罰金150万円(求刑懲役1年)の実刑判決を言い渡しました。
この京都地裁判決についてコメントしたいと思います。


1.京都地裁に関する新聞報道から。

(1) 朝日新聞平成18年12月13日付夕刊1面

 「ウィニー開発者に罰金150万円の有罪判決 京都地裁
2006年12月13日

 ファイル交換ソフト「ウィニー」を開発・公開し、利用者が許可を受けずに映画やゲームなどをインターネット上で送信するのを助けたとして、著作権法違反幇助(ほうじょ)の罪に問われた元東大大学院助手金子勇被告(36)=東京都文京区=に対する判決公判が13日、京都地裁であった。氷室真裁判長は「著作権者の利益が侵害されることを認識しながらウィニーの提供を続けており非難は免れないが、著作権侵害の状態をことさら生じさせることは企図しておらず、経済的利益も得ていない」と述べ、罰金150万円(求刑懲役1年)の有罪判決を言い渡した。金子被告は控訴する方針。

 ソフトウエアが不正に利用されたことを理由に、開発者を有罪とした司法判断は初めてで、今後の技術開発にも影響を与えそうだ。

 判決によると、金子被告は自ら開発したウィニーが著作権の侵害に使われていると知りながら、03年9月に自分のホームページに最新版を公開。群馬県高崎市の男性(44)と松山市の男性(22)=いずれも同法違反罪で懲役1年執行猶予3年の有罪確定=が同月、ゲームソフト「スーパーマリオアドバンス」や映画「ビューティフル・マインド」など計28本を無許可で不特定多数のネット利用者に送信できるようにし、著作権侵害の手助けをした。

 判決はまず、ウィニーの性格について「さまざまな分野に応用可能で有意義なものであり、技術自体は価値中立的なもの」としたうえで、技術の外部への提供行為が違法になるかどうかについては「その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識、提供する際の主観的態様による」とする一般的な判断基準を示した。

 そのうえで、金子被告が捜査段階の供述やホームページに掲載した内容などをもとに、ウィニーが一般の人に広がることを重視し、ファイル共有ソフトがインターネット上で著作権を侵害する態様で広く利用されている現状を認識しながら認容していた▽金子被告が著作権侵害がネット上に蔓延(まんえん)すること自体を積極的に企図したとまでは認められない――と認定した。

 さらに、やり取りされているファイルのかなりの部分が著作権の対象となるものだったことを認識しながら、ホームページ上でウィニーを公開し、不特定多数の利用者が入手できるようにした、と指摘。これにより実行犯による著作権侵害行為が行われたとして、金子被告の行為は幇助犯を構成すると結論づけた。


 閉廷後、金子被告は「ウィニーは将来的に有用な技術であって、将来、その技術は評価していただけるものと信じています。それだけに今回の判決は残念でなりません。日本のソフトウエア技術者があいまいな幇助の可能性に萎縮(いしゅく)して、有用な技術開発を止めてしまう結果になることが何よりも残念です」などとするコメントを出した。

     ◇

 〈キーワード:ウィニー〉 インターネット上のネットワークを通じ、個人のパソコン同士をつないで音楽や映像などのファイルを交換できるソフト。情報を管理するサーバーを必要としない。金子勇被告が02年4月にネット上の掲示板「2ちゃんねる」で開発宣言をし、同5月から自身のホームページ上で公開、無料で配布した。

 国内の使用者は現在も数十万人に上ると推定されている。ウィニー使用者をねらった「暴露ウイルス」に感染し、個人情報のほか、官庁や企業の機密情報などがネット上に流出する問題も後を絶たない。」


この記事で京都地裁の判決内容が大体分かると思います。判決要旨自体は<追記>で読むことができますが、判決要旨は分かりやすいといえるか疑問ですので、この記事で足りるのではないでしょうか? 



(2) 朝日新聞平成18年12月13日付夕刊1面「解説」

 「技術開発に節度求める

 ソフトウエアが利用者によって悪用された場合、その開発者の責任はどこまで問われるのか。13日の京都地裁判決は、開発者が著作権者の利益が侵害されることを認識しながら公開した行為が犯罪となるという初めての判断を示した。

 ソフトウエアは本来、利用の仕方によってさまざまな使い方が可能になるという中立的な性格をもつ。ユーザーによって違法な使われ方をされたからといって、即座に開発者が違法行為の手助けをしたと断定することは難しい。

 このため検察側は、被告がインターネットの掲示板や自身のホームページに書き込んだ内容から、「現在の著作権保護システムを根本的に破壊しようとする動機」があったと指摘。使用者が判明しにくい匿名性や、著作物ファイルを無限に複製して拡散させる機能をもつことなどを挙げ、「著作権侵害のために作られたソフト」であることを立証しようとした。

 判決は著作権侵害を蔓延(まんえん)させる目的があったとは認めなかったが、検察側の主張に沿ってソフトウエアを提供した行為が著作権侵害を手助けしたと認定した。

 今回の判決は、コンピューター技術の開発や公開行為に、一定の歯止めをかける形になった。弁護側は「技術者に取り返しのつかない萎縮(いしゅく)効果をもたらす」と批判している。一方で、いくら優れたアイデアや技術が盛り込まれていたとしても、法秩序の混乱をもたらしかねない技術開発が、無限定に許されてもよいはずもないだろう。

 コンピューターやインターネットは社会に欠かせない基盤となっている。著作権法に限らず、技術者には自ら開発する技術の内容と影響に責任を持つ節度と自覚が求められる。  (岡本玄)」


この記事は、この問題に関して偏りのない解説記事になっていると思います。もちろん、これで法律論が理解できるわけではないですが。




2.識者のコメントも幾つか。

(1) 読売新聞平成18年12月13日付夕刊19面

 高木浩光・産業技術総合研究所情報セキュリティ研究センター主任研究員の話 『ウィニーは、本人の意思に関係なく、個人のファイルやデータが流出してしまい、利用者が責任を持って使えるソフトではない。今回の判決にかかわらず、ウィニーの使用を法的に規制していかないと、情報セキュリティーの観点から極めて危険だ』

 ネットワークセキュリティー会社『ネットエージェント』(東京)の杉浦隆幸社長の話 『判決はソフト開発をしているプログラマーに危機感を与え、今後、プログラム開発の萎縮につながる心配がある。本当に悪いのは、ウィニーを介して情報をネット上に流出させるウイルスを作った人たち。これらの人たちを取り締まる法律がないことは深刻な社会問題だ』

 土本武司・白鷗大学法科大学院教授(刑法)の話  『有罪判決は妥当だが、量刑に問題がある。正犯は懲役刑。ほう助罪は通常、正犯より軽いが、今回の場合、ウィニーがなければ犯罪は起きなかった。被告自身は経済的利益を得ようとはしていないが、日本は知的財産権の重要性を認識しないといけない。今回の判決は科学技術の発達は大事だが、違法なことをしてはいけないというメッセージのように思える』」


高木氏は、「ウィニーは、本人の意思に関係なく、個人のファイルやデータが流出してしまい」と述べていますが、これはウィニーとウイルスを混同したものです。「ウィニーの使用を法的に規制」せよといっても、非現実的でそんな規制は困難でしょう。

杉浦氏は、ウイルス作成者を処罰すべきとしていますが、それはいいとしても、まずはウィニーでのウイルス対策が急務のはずです。もっとも、京都地裁が下した有罪判決により、金子氏はウイルス対策を公表しないままであり、それはかえって今後も被害が拡大しかねずマズイ状況です。ウイルス対策をしないことの方が「深刻な社会問題」をずっと招くのではないでしょうか?

土本氏は、金子氏は利益を得ていなくても「今回の場合、ウィニーがなければ犯罪は起きなかった」として量刑が軽すぎるとしていますが、こういう理解はウィニー自体が悪質であると評価していることになります。しかし、ウィニーはもちろん、ソフトウエア一般的に価値中立的なものであるという理解と反することになりますが、妥当ではないでしょう。


<12月21日付追記>

「高木浩光@自宅の日記」さんの「新聞の意味不明な識者コメントはデスクの解釈で捏造される」によると、改竄された文章がそのまま新聞に掲載されてしまったそうです。本当は、「ウィニーは、流出した個人のファイルやデータを、利用者が意図しなくてもいつまでも流通させてしまう。責任を持って使えるソフトではない」というような内容だったそうです。読売新聞はどうしようもないですね。こちらでも、訂正という形にします。




(2) 毎日新聞平成18年12月13日付夕刊9面

 「◇萎縮効果の懸念--ネット社会に詳しい岡村久道弁護士(大阪弁護士会)の話

 ウィニーが客観的に見て、料理にも殺人にも使える包丁なのか、もっぱら違法行為に使われるピストルなのかが問われていたのに、判決は踏み込んでいない。少子高齢化の中でハイテク技術大国を目指す日本の司法が、ハイテク先端部門にきちんとした判断をできなかった。萎縮(いしゅく)効果を生む懸念がある。

 ◇技術的価値認めた--藤原洋・インターネット総合研究所長の話

 裁判所は弁護側の意見も取り入れた上で、ウィニーの技術的価値を認めた。少子化や理系離れなどが進む中、技術立国を目指す日本のIT研究開発の流れを、せき止めるような判決にならなかったことを評価したい。判決は、被告一個人の責任追及ではなく、科学技術に携わる者全体の意識としてとらえ、警鐘としていかねばならない。

 ◇罰するのは疑問--竹内郁雄・東京大情報理工学学系研究科教授(計算機科学)の話

 技術自体の価値は中立的という、弁護側の主張が通ったことは評価できる。技術開発の権利は守らなくてはならない。ソフトを公開した当時の金子被告のモラルに多少問題はあっただろうが、それを罰することができるのか疑問。利用する側の認識も裁く法律も、技術開発の進歩に追いついていないのが現状だ。」


藤原氏は「日本のIT研究開発の流れを、せき止めるような判決にならなかった」としていますが、基準が明確でないため、安易すぎる見方のように思えます。

岡村氏と竹内氏は、モラルに問題があるとしても罰するほどのものか疑問視しているものです。一審判決の基準では、技術者に萎縮効果を生む可能性があることは確かです。



(3) 東京新聞平成18年12月13日付夕刊

 「■違法行為中止を

<コンピュータソフトウェア著作権協会の話> 著作権侵害を防ぐ具体的な措置を講じないままにウィニーを開発し頒布すれば、ネットワークを通じて侵害行為が必然的にまん延することを認識していたにもかかわらず、被告があえてウィニーを開発・頒布したという点について、判決はその責任を認定した。今後もウィニーのユーザーに対し、違法行為を直ちに中止するよう求めていく。

■ほう助概念拡大

<園田寿・甲南大法科大学院教授(刑法、情報法)の話> 通常、ほう助罪の成立には、正犯として誰が、いつ、どこで何をするかなどの認識が必要だが、金子被告の場合、正確な認識はない。判決はほう助の概念を主観的な面で広げて適用しており、現在本屋で売られているウィニーの解説本などにも刑法的規制が及ぶ可能性が出てきた。出版・表現の自由という憲法論にまで発展する非常に重要な判断だ。罰金刑という選択は軽いが、通常のほう助ではなく、扇動に近いため犯罪性が軽いと考えたのではないか。

■量刑上不服も

<京都地検の新倉明次席検事の話> 起訴事実についての主張は認められたが、量刑上承服しがたい面がある。上級庁と協議して適切に対応したい。」


コンピュータソフトウェア著作権協会は、著作権を保護する立場なので、中止を求めるのは当然でしょう。

園田氏は、「ほう助罪の成立には、正犯として誰が、いつ、どこで何をするかなどの認識が必要」としていますが、通説・判例の立場と異なっています(後述する3.(2)を参照して下さい)。それはともかく、広く規制することの危険性を説いています。刑法学者としては謙抑的であるべきということは学者らしい主張です。



(4) 日本経済新聞平成18年12月13日付夕刊23面

 「「ほう助」の概念 広く認めすぎる――園田寿・甲南大法科大学院教授(刑法、情報法)の話

 著作権法違反についての漠然とした認識だけで有罪としたのは、「ほう助」の概念を広く認めすぎだ。ウィニーの解説本や、コピープロテクトの外し方を紹介する雑誌など、出版物が規制される恐れがあり、表現の自由が制約を受けかねない。憲法問題に発展する。

 「ひょっとしたら犯罪に使われるかも」というだけで刑事責任を問われては、今後のソフト開発に大きな萎縮効果を生んでしまう。判決は踏み込みすぎている。」


これも同じく園田氏の見解です。園田氏は刑法学者のうちで、インターネットなどいわゆるIT関係に最も詳しいので、幾つかの新聞社からコメントを求められたようです。




3.この事案は、ファイル交換ソフト「Winny」を開発した金子勇氏に対して、著作権法違反幇助の罪で起訴されたのですから、金子氏の行為が、従犯(幇助犯:刑法62条1項)の成立要件を満たすのかどうかが問われています。

(1) ここで、刑法62条と従犯の成立要件について触れておきます。

刑法第62条1項 正犯を幇助した者は、従犯とする。


この従犯が成立するには、

<1>幇助者が、正犯者の実行行為を幇助する意思(=幇助の故意:正犯者の実行行為を表象し、かつ、幇助者自身の行為がそれを容易にするものであることを表象・認容すること)で、
<2>これを幇助する行為を行うこと(=幇助行為:構成要件に該当する実行行為以外の行為であって、正犯者の実行行為を容易にするもの)を要する

とされています。
従犯が成立するためには、幇助の故意(主観面)幇助行為(客観面)を満たす必要があるわけです。



(2) この事案の場合、金子氏は、このソフトを使って誰か不特定多数の人が著作権侵害に利用するかもしれないと意識していたが、特定の誰が著作権侵害をするのかは分からず、また、その特定の誰かと意思を通じて著作権侵害を手助けしたわけではなかったようです。

前者は、「概括的な故意」(正犯の場合の例ですが、歩行者天国の真中に爆弾を投げ込むような場合、誰かは分からないが誰かが死ぬだろうと認識していた場合)の問題であり、後者は、「片面的従犯」と言われる問題です。

この2点も問題となることは確かですが、概括的な故意でも幇助の故意はあるとされていますし、片面的従犯も処罰できると理解するのが一般的なので、この事案で特に問題視する必要はありません。

なお、正犯者が誰であるか(大審院昭和10年2月13日判決)や、正犯者の行為の日時・場所等具体的内容にわたっての詳細や、被害者が誰であるかなどを認識することは必要でないと解されています(大塚仁著「刑法概説(総論)」303頁)。なので、金子氏が正犯者が誰だか知らなくても不可罰になるわけではありません。



(3) そこで、この事案において、刑法上最も重要な点は、次の2点であると考えます。まず、1点目は、ファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」は、「著作権法違反行為を助長するために制作・配布されたプログラム」、「著作権侵害のために作られたソフト」であり、Winny(ウィニー)を開発・公表したこと自体で、従犯の成立要件を満たすのではないか、という点です。

この点ついては、京都地裁は、ウィニーの性格について「ウィニー2は、それ自体はセンターサーバーを必要としない技術の一つとしてさまざまな分野に応用可能で有意義なものだ。技術自体は価値中立的」なものであると評価し、金子氏には著作権侵害を蔓延させる目的があったとは認めなかったのです。

要するに、京都地裁は、「Winny(ウィニー)」は、「著作権法違反行為を助長するために制作・配布されたプログラム」でなく、「著作権侵害のために作られたソフト」でなく、価値中立的なものであると評価して、Winny(ウィニー)を開発・公表したこと自体で、従犯の成立要件を満たすものではないと判断したわけです。

これはウィニーの性格をどう見るかという認定の問題ですが、技術的な評価はもちろんですが、京都地裁が「応用可能で有意義なもの」としているように、ソフトとしての価値の高さに着目して、価値的中立性を認めたものと考えられます。



(4) 「Winny(ウィニー)」の性格は価値中立的なものであるとすると、そのような中立的なソフトを利用者が悪用し違法行為を行った場合、そのような中立的な性格を有するソフトの開発者には従犯が成立するのかどうかが問題となります。すなわち、中立的行為(日常的行為)をすべて従犯としてよいのか否か、いわゆる「中立的行為による幇助」とか、「日常的行為と幇助」と言われている論点が問題となっているのです。これが2点目です。


  イ:この「中立的行為による幇助」「日常的行為と幇助」について、西田典之著「刑法総論」322頁は、次のような説明をしています。

 「日常的行為と幇助
 
 金物屋AがBに包丁を売却したが、もしかすると、Bが殺人や強盗を行うかもしれないという漠然とした認識があった場合にも幇助犯が成立するとはいえないであろう。しかし、店の前でBがCらと喧嘩をしており、その途中で、Bが包丁を買いに飛び込んできたような場合には幇助犯を認めるべきであろう。この場合には、自己の因果的寄与の認識・認容の有無すなわち(片面的)幇助の故意が犯罪の成否を決定するといってもよい。

 判例も、ピンクチラシを印刷した業者に売春周旋罪の幇助を肯定している(東京高判平成2・12・10判例タイムズ752号246頁)。同様に、著作権法違反行為を可能とするソフトを誰でもコンピュータによってダウンロードできるようにした行為につき、これを利用した者については著作権侵害罪の成立が認められているが(京都地判平成16・11・30判例時報1879号153頁=ウィニー事件)、ソフトをダウンロードできるようにした者について概括的幇助犯が成立するかについては、現在、刑事事件が継続中である。この場合も当然に、幇助犯の成立を認めるべきだと思われる。

 これに対して、軽油取引税の不納付罪に寄与することを認識しながら軽油を購入する行為につき、「売買の当事者たる地位を超えるものではな」いとして、幇助犯の成立を否定した例もあるが(熊本地判平成6・3・15判例時報1879号153頁=ウィニー事件)、この場合には、この程度の因果的寄与は「幇助」に当たらないと解すべきであろう。」


要するに、金物屋Aが包丁をBに売った場合に、その包丁を使ってBが人に傷害を負わせたら、包丁は傷害を容易にしたといえます。そうなると、包丁を売ったAには常に傷害罪の幇助犯が成立することになりますが、それではあまりに処罰範囲が拡大しすぎです。日常的取引では常に他者の犯罪に役立ちうるのですから、常に処罰されるようだと日常的取引が不可能になってしまうからです。

他方で、店の前でBがCらと喧嘩をしており、その途中で、Bが包丁を買いに飛び込んできたときに販売した場合には従犯を認めるべきでしょう。あまりにもはっきりとした形で具体的に正犯者を手助けしているのですから、処罰の必要性が高いからです。

そこで、日常的取引・中立的行為について処罰が拡大しないように、いかに従犯の成立を限定するのか、この2つの事例の結論の差異をどういう基準で区別するのかが問題となってくるのです。これが、「中立的行為による幇助」とか、「日常的行為と幇助」と言われている問題点です。


  ロ:この論点については、ドイツ刑法学では様々な学説があるのですが(中立的行為による幇助(1) / 松生 光正 姫路法学27・28号(1999年)203-227頁、中立的行為による幇助(2)(完) / 松生 光正 姫路法学31・32号 [2001年]、「刑法授業補充ブログ」さんの「中立的行為による幇助」 参照)、日本では、次の2説が代表的なものでしょう。

A説(多数説?):自己の因果的寄与の認識・認容の有無、すなわち、(片面的)幇助の故意で従犯の成否を決定する。因果的寄与が乏しければ、「幇助」にあたらない。

B説:日常的取引行為・中立的行為は、それが外見上平穏な取引である限りは、犯行に利用される未必的な認識がある場合であっても従犯は成立しない。


要するに、A説はここで引用した東京大学・西田典之教授の見解で、これはおそらく多数説でしょう。このA説は主観面で限定しようとしているのであり、他方で、B説は立命館大学・松宮孝明教授の説(松宮孝明著「刑法総論講義」269頁)で客観面で限定しようとしているのです。


  ハ:京都地裁は、

 「価値中立的な技術を提供することが犯罪行為となりかねないような、無限定な幇助(ほうじょ)犯の成立範囲の拡大も妥当でない。 結局、外部への提供行為自体が幇助行為として違法性を有するかどうかは、その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識、提供する際の主観的態様によると解するべきである。」

といった基準を示しました。
「無限定な幇助(ほうじょ)犯の成立範囲の拡大も妥当でない」という価値判断を示して、「主観的態様による」と述べたのですから、これは多数説(A説)と同様の見解を採用したと評価できます。

多数説と同様の見解を採用したのですから、この京都地裁の結論に対して刑法学上は問題視する見解は少ないと思われます。西田教授はこの京都地裁が出る前から、「この場合も当然に、幇助犯の成立を認めるべきだと思われる」と書いているのですから。


 ニ:もっとも、主観面によって限定した見解といっても、幇助の故意の有無の判断とほとんど変わらないのですから、どれほど限定できるのか疑問があります。また、幇助行為は、正犯を容易にすればよく、正犯の実行にとって不可欠であることを要しないので、従犯の処罰範囲は広いのですから、不可罰にする方が無理といえるかもしれません。

そうすると、今回の判決によると、コンピューター技術の開発や公開行為に、一定の歯止めをかける形になりますし、技術者に取り返しのつかない萎縮効果をもたらしかねません。

そこで、もっと明確に限定できる基準によるべきであると考えます。この事案は、ソフトウエアの開発・公表が幇助行為とされたのですから、ソフトウエアの特殊性に鑑みた限定を行うべきであると考えます。

「ソフトウエアは本来、利用の仕方によってさまざまな使い方が可能になるという中立的な性格をもつ」(朝日新聞12月13日付)のですから、ユーザーが違法な使い方をすることも十分に予想され、違法な使い方すべてを禁止することは困難なのです。
また、ソフトウエアは元々、未完成のまま公表されるのであって、いわばそのソフトウエアを使う者に被害を与えながら、バージョンアップすることで完成に近づくのです。バージョンアップ自体はソフトとして当然のことなのです。

そうすると、ソフトウエアの性格上、ある程度、違法な使い方や被害が生じることは織り込み済みのことですから、ソフトウエアを使って悪用する者が出てきた場合にも、原則としてソフトウエア開発者には従犯は成立しないというべきです。

ただ、いつまでも悪用する者が生じたままは利益侵害が放置されたままになってしまい妥当ではないので、例えば、コンピュータソフトウェア著作権協会が、ソフトウエア開発者に悪用への歯止めを欠けるよう、何度か警告したにもかかわらず歯止めをかけない場合など、一定の権限ある機関が警告したにもかかわらずあえて歯止めをかけず、又は積極的に悪用を促進した場合(=因果的に具体的な促進がある場合)に、従犯が成立するという判断をすることが妥当であると考えます。




4.京都地裁判決は、おそらく現在の多数説に従った見解ですから、日本の刑法学者の多くは妥当な判決と評価すると思います。

京都地裁判決は「技術提供一般が犯罪となるようなほう助の適用拡大は適当でない」と述べて、捜査機関へ警告を発していますし、また、その提供が違法かどうかは、社会での利用状況や技術への認識、提供する際の主観的態様によるとの基準も示してはいます。

しかし、「ほう助の適用拡大は適当ではない」といったところで、単なる警告にすぎず、適用拡大を抑制することになりませんし、また、主観的限定では、捜査機関の価値判断に左右されてしまい恣意的判断を招く危険性があるのです。

そうなると、結局は、日本のソフトウエア開発が滞りかねず、日本の将来にわたる経済発展を阻害する結果になりかねません。処罰による波及効果が大きいことを苦慮すると、この場合に刑罰という法的制裁を行うことは、なるべく謙抑的でなければならないという刑法の基本的な姿勢に反するものといえるのです。

初めから完成されたソフトウエアなんかないのです。京都地裁は、技術そのものの負の部分に、もう一歩踏み込んだ判断を示す必要がありました。やはり、主観で限定するのではなく、客観的・具体的な判断基準を示すべきであったと思うのです。

京都地裁判決を受け、弁護側はただちに大阪高裁に控訴しています。二審では、ほう助罪適用の基準があらためて明確に示されることを望んでいます神戸新聞(平成18年12月14日付)社説「ウィニー判決/「違法」の線引きはどこに」参照)。

京都地裁(1審判決)のままでは、法的リスクを恐れてソフトウェア開発者が萎縮しかねない点について、「「Winny裁判」で有罪判決、自由なソフト開発はもうできない?(2006/12/13)」も参照して下さい。




<追記>

判決要旨を取り挙げておきます。朝日新聞と毎日新聞掲載のものです。

(1) asahi.com(2006年12月13日17時31分)

 「「ウィニー」裁判、判決要旨
2006年12月13日17時31分

 ファイル交換ソフト「ウィニー」の開発・公開をめぐる刑事裁判で、京都地裁が13日、開発者を有罪とした判決理由の要旨は以下の通り。

 ●被告の行為と認識

 弁護人らは、被告の行為は(著作権法違反の)正犯の客観的な助長行為となっていないと主張する。しかし、被告が開発、公開したウィニー2が、実行行為の手段を提供して、ウィニーの機能として匿名性があることで精神的にも容易ならしめた客観的側面は明らかに認められる。

 ウィニー2は、それ自体はセンターサーバーを必要としない技術の一つとしてさまざまな分野に応用可能で有意義なものだ。技術自体は価値中立的であり、価値中立的な技術を提供することが犯罪行為となりかねないような、無限定な幇助(ほうじょ)犯の成立範囲の拡大も妥当でない。

 結局、外部への提供行為自体が幇助行為として違法性を有するかどうかは、その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識、提供する際の主観的態様によると解するべきである。

 被告の捜査段階における供述や姉とのメールの内容、匿名のサイトでウィニーを公開していたことからすれば、違法なファイルのやりとりをしないような注意書きを付記していたことなどを考慮しても、被告は、ウィニーが一般の人に広がることを重視し、著作権を侵害する態様で広く利用されている現状を十分認識しながら認容した。

 そうした利用が広がることで既存とは異なるビジネスモデルが生まれることも期待し、ウィニーを開発、公開しており、公然と行えることでもないとの意識も有していた。

 そして、ウィニー2がウィニー1との互換性がないとしても、ウィニー2には、ほぼ同等のファイル共有機能があることなどからすれば、本件で問題とされている03年9月ごろにおいても同様の認識をして、ウィニー2の開発、公開を行っていたと認められる。

 ただし、ウィニーによって著作権侵害がネット上に蔓延(まんえん)すること自体を積極的に企図したとまでは認められない。

 なお、被告は公判廷でウィニーの開発、公開は技術的検証などを目指したものである旨供述し、プログラマーとしての経歴や、ウィニー2の開発を開始する際の「2ちゃんねる」への書き込み内容などからすれば、供述はその部分では信用できるが、すでに認定した被告の主観的態様と両立しうるもので、上記認定を覆すものではない。

 ●幇助の成否

 ネット上でウィニーなどを利用してやりとりされるファイルのうち、かなりの部分が著作権の対象となり、こうしたファイル共有ソフトが著作権を侵害する態様で広く利用されている。

 ウィニーが著作権侵害をしても安全なソフトとして取りざたされ、広く利用されていたという現実の利用状況の下、被告は、新しいビジネスモデルが生まれることも期待し、ウィニーが上記のような態様で利用されることを認容しながら、ウィニーの最新版をホームページに公開して不特定多数の者が入手できるようにしたと認められる。

 これらを利用して正犯者が匿名性に優れたファイル共有ソフトであると認識したことを一つの契機とし、公衆送信権侵害の各実行行為に及んだことが認められるのであるから、被告がソフトを公開して不特定多数の者が入手できるよう提供した行為は幇助犯を構成すると評価できる。

 ●量刑の理由

 被告は、ウィニーを開発、公開することで、これを利用する者の多くが著作権者の承諾を得ないで著作物ファイルのやりとりをし、著作権者の有する利益を侵害するであろうことを明確に認識、認容していたにもかかわらず、ウィニーの公開、提供を継続していた。

 このような被告の行為は、自己の行為によって社会に生じる弊害を十分知りつつも、その弊害を顧みることなく、あえて自己の欲するまま行為に及んだもので、独善的かつ無責任な態度といえ、非難は免れない。

 また、正犯者らが著作権法違反の本件各実行行為に及ぶ際、ウィニーが、重要かつ不可欠な役割を果たした▽ウィニーネットワークにデータが流出すれば回収なども著しく困難▽ウィニーの利用者が相当多数いること、などからすれば、被告のウィニー公開、提供という行為が、本件の各著作権者が有する公衆送信権に与えた影響の程度も相当大きく、正犯者らの行為によって生じた結果に対する被告の寄与の程度も決して少ないものではない。

 もっとも被告はウィニーの公開、提供を行う際に、ネット上における著作物のやりとりに関して、著作権侵害の状態をことさら生じさせることを企図していたわけではない。著作権制度が維持されるためにはネット上における新たなビジネスモデルを構築する必要性、可能性があることを技術者の立場として視野に入れながら、自己のプログラマーとしての新しい技術の開発という目的も持ちつつ、ウィニーの開発、公開を行っていたという側面もある。

 被告は、本件によって何らかの経済的利益を得ようとしていたものではなく、実際、ウィニーによって直接経済的利益を得たとも認められないこと、何らの前科もないことなど、被告に有利な事情もある。

 以上、被告にとって有利、不利な事情を総合的に考慮して、罰金刑に処するのが相当だ。 」



(2) 毎日新聞平成18年12月14日付朝刊

 「ウィニー事件:京都地裁判決(要旨)

 京都地裁であったWinny(ウィニー)の著作権法違反ほう助事件の判決要旨は次の通り。

 ◆罪となるべき事実

 金子勇被告は、ファイル交換ソフト「ウィニー」を制作し、改良を重ねながら、自己のホームページで継続して公開及び配布をした。

 03年9月11~12日、ウィニーで不特定多数のインターネット利用者にゲームソフトなどを自動送信し得るようにして、ゲームソフトや映画を自動公衆送信し得るようにしたAら、著作権法違反事件を起こした計2人の犯罪行為をほう助した。

 ◆開発、公開の経緯

 金子被告は02年4月、インターネットの大型掲示板「2ちゃんねる」に「2chネラー向きのファイル共有ソフトつーのを作ってみるわ」と書き込み、同年5月、自己のホームページで公開した。同年12月に正式版を公開。03年4月にWinny1・14を公開して、配布をいったん中止。同年5月にWinny2・0β1を公開した。

 ◆ほう助の成否

 金子被告が開発、公開したウィニーがAらに手段を提供して著作権法違反事件を有形的に容易ならしめ、匿名性があることで精神的にも容易ならしめたという客観的側面は明らかだ。

 しかし、ウィニーはセンターサーバーを必要としないP2P技術の一つで多くの分野に応用可能で有意義で、いかなる目的で開発したかにかかわらず、技術それ自体は価値中立的で、無限定なほう助犯の成立範囲の拡大も妥当ではない。

 ほう助行為として違法性を有するかどうかは、その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識、提供する際の主観的態様いかんによると解するべきである。

 ◆供述の任意、信用性

 捜査機関による威迫や偽計などはないと認められ、金子被告が弁護士に送ったメールでも、あくまで自主的に誓約書を書いたと認めており、捜査段階では複数の弁護士による接見がなされており、手続き的な助言等もされていると考えられることなどから、供述には任意性が認められる。

 供述は、インターネットが普及してコンテンツ提供者側に無断でソフトのコピーがなされている現状では、利用者が提供者に代金を支払う既存のビジネスモデルは矛盾をはらんでいると考えていたこと、(匿名性が特長のファイル交換ソフトの)Freenetの存在を知ってビジネスモデルが変わる契機となるのではないかと考えたこと、匿名性と効率性を兼ね備えたファイル交換ソフトを作り、新しいビジネスモデルにつながればいいと思ったことという点では一貫し、自己のホームページで述べた内容とおおむね一致している。

 しかし、京都簡易裁判所での拘置質問などでの発言からすると、著作物の違法コピーをインターネット上にまん延させようと積極的に意図していたとする部分については信用性は認められない。

 ◆主観的態様

 サイト上で違法なファイルのやりとりをしないよう付記していたことや無視フィルター機構があることを考慮しても、金子被告はウィニーが一般の人に広がることを重視し、ファイル交換ソフトがインターネット上において著作権を侵害しながら広く利用されている現状をインターネットなどで十分認識しながら、既存とは異なるビジネスモデルが生まれることも期待しつつウィニーを開発、公開し、これを公然と行えることでもないとの意識を有していたと認められる。03年9月ごろでも同様の認識をしてこれを認容し、開発、公開を行っていた。しかし、著作権侵害がインターネット上にまん延すること自体を積極的に企図したとまでは認められない。

 なお、金子被告は公判廷で、開発、公開は技術的検証が目的で、P2P型大規模BBSの実現を目指したものである旨供述している。公判廷供述はその部分に関して信用できるが、こうした主観的態様と両立しうる。

 インターネット上においてウィニー等のファイル交換ソフトを利用してやりとりがなされるファイルのうちかなりの部分が著作権の対象となり、ウィニーを含むファイル交換ソフトが著作権を侵害する態様で広く利用されている現状を認容。自己のホームページ上に公開し、不特定多数の者が入手できるようにしており、ソフトを公開して不特定多数の者が入手できるように提供した行為は、ほう助を構成する。

 ◆量刑の理由

 金子被告は、社会に生じる弊害を十分知りつつも、自己の欲するまま行為に及び、独善的かつ無責任で非難は免れない。また、Aらが著作権法違反の行為に及ぶ際、ウィニーが重要かつ不可欠な役割を果たし、ウィニーネットワークにデータが流出すれば回収等も著しく困難であること、利用者が相当多数いることなどから、各著作権者の公衆送信権に対して与えた影響も相当大きく、Aらの行為で生じた結果に対する寄与の程度も決して少なくない。

 もっとも、金子被告は、インターネット上の著作物のやりとりに関し、著作権侵害をことさら生じさせることを企図していたわけではなく、著作権制度が維持されるためにはインターネット上における新たなビジネスモデルを構築する必要性、可能性があることを視野に入れ、新しいP2P技術の開発という目的も持ちつつ、開発、公開を行った側面もある。金子被告は経済的利益を得ようとしていたものではなく、実際、直接経済的利益を得たとも認められない。前科前歴もない。有利、不利な事情を総合的に考慮して、罰金刑に処するのが相当である。

毎日新聞 2006年12月14日 東京朝刊」

テーマ:法律全般 - ジャンル:政治・経済

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2007/07/23(月) 18:07:19 | 内気男のITニュース外野席・・・
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