FC2ブログ
Because It's There
主に社会問題について法律的に考えてみる。など。
03« 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 12. 13. 14. 15. 16. 17. 18. 19. 20. 21. 22. 23. 24. 25. 26. 27. 28. 29. 30.»05
スポンサーサイト 
--/--/-- [--] --:--:-- » E d i t
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告 *  TB: --  *  CM: --  * top △ 
2010/02/10 [Wed] 03:08:42 » E d i t
平成21年7月25日、東京都文京区千駄木の日本医科大学付属病院に入院中の長男を、母親が刺し殺した事件がありました。


1.MSN産経ニュース(2009.7.25 22:37)

入院中の息子を刺す 無職の女を現行犯逮捕
2009.7.25 22:37

 25日午後5時15分ごろ、東京都文京区千駄木の日本医科大学付属病院から「入院中の患者を家族が刺した」と110番通報があった。警視庁駒込署員が駆けつけたところ、集中治療室に入院していた千葉県柏市西原、会社員、和田正人さん(40)が胸を刺されており、近くにいた母親が「刺しました」と認めたため、殺人未遂の現行犯で逮捕した。

 逮捕されたのは同県我孫子市我孫子、無職、和田京子容疑者(66)。正人さんは約2時間半後に死亡したため、容疑を殺人に切り替える方針。

 同署の調べによると、京子容疑者は午後5時10分ごろ、隠し持っていた包丁で正人さんの胸を刺した。病院関係者が目撃し、110番通報した。

 正人さんは自傷行為を行い、約10日前から入院していた。同署は動機を調べている。」


長男である和田正人さんは自殺を行いましたが、幸いにも未遂にとどまり一命は取り留めたわけです。ですから、本来、家族としては助かったことを喜ぶべきことなのに、母親は和田正人さんの胸を刺して殺してしまい、悲劇をもたらしたのです。そのため、誰もが「なぜ?」と思ったことでしょう。警察も疑問におもって「同署は(母親の)動機を調べている」わけです。

その後の報道として、「自殺を図った息子の回復が見込めないので将来を絶望し殺した」と供述していることが分かったともされていますが、 回復ができないほど意識不明という意味なのか、よく分かりません。そこで、母親が刺した動機にかかわる点について、東京新聞平成22年2月9日付夕刊で記事になっていたので、紹介したいと思います。



2.東京新聞平成22年2月9日付夕刊9面「現場考」

都内の病院 40歳長男殺害事件 母追い詰めた 高額医療費

 東京都内の病院で昨年7月、母親(67)が入院中の長男=当時(40)=を刺殺する事件があった。長男はその10日前、自殺を図って意識不明の重体となり、回復の見込みがなくなっていた。将来を悲観した母を高額な医療費が追い詰めた。

■自殺未遂に保険不適用 病院から500万円請求

 警視庁捜査関係者らによると、長男は東証一部上場企業(東京都台東区)に勤務していた。千葉県柏市の一戸建てに妻と2人の息子の4人暮らし。家族で海外旅行に出掛けるなど周囲には順風満帆な生活に映っていた。

 ところが、長男は昨年7月15日、勤務先の会社ビル屋上で首つり自殺を図る。警備員が発見し、日本医科大付属病院(文京区)に運ばれ緊急手術で一命は取り留めた。しかし意識は戻らず、回復は見込めない状態となった。自殺の動機は明らかになっていない。

 変わり果てた息子の姿に、母親の和田京子被告=殺人罪で起訴=は悲嘆に暮れる。そこに追い討ちを掛けたのは、高額な医療費の請求だった。

 長男の家族は7月24日、病院から「医療費として月末までに500万円が必要」と説明を受けた。これを聞いた和田被告は長男の殺害を決意。翌25日、病院の集中治療室で長男と二人きりになった夕方、かばんから包丁を取り出し―。

 和田被告はその場で「自分が刺した」と認め、現行犯逮捕された。その後の調べに「今後も莫大(ばくだい)な医療費を支払うのは、嫁や孫がかわいそう」と犯行当時の心境を話したという。

 厚生労働省保険課によると、健康保険法は「故意に給付事由を生じさせた時」などに保険給付は行わない、と定めており、自殺未遂の場合、原則として健康保険は適用されない。一方、自殺未遂であっても、うつ病などで「精神疾患による事故」と認められれば、保険が適用されるケースがあるという。

 保険が適用された場合は、一定の金額を超えた部分が払い戻される「高額療養費制度」があるが、保険が適用されなければ同様の制度はない。生命保険協会によると、民間の生命保険に加入しても、自殺未遂に伴う入院費や手術費は一般に支払われない。

 長男が加入していた健康保険組合は「裁判前なので答えられない」、病院も「ご家族の許可なくお答えできない」などと経緯について答えていない。

 長男が自殺を図るという悲劇の中で、保険が適用されるか、支払いを猶予するなどの制度があれば、母が“二重の悲劇”へと転落することはなかったのではないか。せめて、家族が受けた悲劇を少しでも和らげ、手を差し伸べる配慮が周囲にあったなら…。やるせない思いが残る。 (佐藤大)」




(1) 「厚生労働省保険課によると、健康保険法は『故意に給付事由を生じさせた時』などに保険給付は行わない、と定めており、自殺未遂の場合、原則として健康保険は適用されない」のです。この条文を挙げておきます。

 「健康保険法第116条 被保険者又は被保険者であった者が、自己の故意の犯罪行為により、又は故意に給付事由を生じさせたときは、当該給付事由に係る保険給付は、行わない。

 国民健康保険法第60条 被保険者が、自己の故意の犯罪行為により、又は故意に疾病にかかり、又は負傷したときは、当該疾病又は負傷に係る療養の給付等は、行わない。」



要するに、自殺未遂は、故意に基づく事故ですので、「故意に給付事由を生じさせた」に該当するとされ、保険給付はできないことになっています。ただし、精神障害が原因で自殺未遂となった場合には、「精神疾患による事故」であるとされ、「故意」によるものではないとして、保険給付が認められることになるわけです。こうした「保険給付の制限」があるのが現在の運用です。(なお、自殺によって死亡した場合は、死亡に対する保険給付としての埋葬料は、被保険者であった者に生計を依存していた者で埋葬を行う者に対して支給される性質なので、埋葬料は支給されます。)

厚生労働省の「自殺予防対策」によれば、「救命救急センターに搬送された自殺未遂者に対する調査では、自殺未遂者の81%に何らかの精神障害が認められ、特に、うつ病、統合失調症、アルコール依存症が多い」とされています。ですから、確実なことは分かりませんが、この長男の自殺未遂も、精神障害が原因で自殺未遂となった場合であるという判断は十分にあり得たのです。自殺を図った場所は、会社のビルの屋上ですから、会社の仕事が影響しているとの判断が十分に可能で、仕事との関係でうつ病になったとも考えられます。

ですから、「自殺未遂の場合、『原則』として健康保険は適用されない」とまでいえるかどうかはともかく、自殺未遂の場合、必ず健康保険が不適用というわけではないのです。



(2) この事件では、「長男は昨年7月15日、勤務先の会社ビル屋上で首つり自殺を図る」という事態の後、「長男の家族は7月24日、病院から『医療費として月末までに500万円が必要』と説明を受けた」とあります。よほどの余裕がある家族である場合はともかく、多くの家族にとって、1週間のうちに500万円といった「高額の医療費」を用意するのは非常に困難でしょう。

突然の自殺による動揺、それに追い討ちを掛けるように「高額な医療費の請求」がされるとなると、精神的な動揺は頂点に達するはずです。この長男を刺した母親は、捜査機関の取り調べで「今後も莫大(ばくだい)な医療費を支払うのは、嫁や孫がかわいそう」と犯行当時の心境を話したようですが、もしこの母親と同じ状況に置かれたら、誰しもがこうした心境になって刺し殺してしまうかもしれません。

自殺を遂げない場合には払えきれないほどの高額な医療費が待っており、それなら、自殺未遂にとどまるくらいならむしろ死んでしまった方がよかったと、本人も家族も思いかねないのですから。



(3) このように誰しもがこの母親と同じことをしてしまうかもしれない状況において、一体、どうすればよかったのでしょうか? どうしても“二重の悲劇”を回避できなかったのでしょうか? 東京新聞は回避策として、次のような指摘をしています。

「長男が自殺を図るという悲劇の中で、保険が適用されるか、支払いを猶予するなどの制度があれば、母が“二重の悲劇”へと転落することはなかったのではないか。せめて、家族が受けた悲劇を少しでも和らげ、手を差し伸べる配慮が周囲にあったなら…。」


確かに、自殺未遂の場合もすべて保険の適用があるとか、自殺の場合は高額の医療費も支払いを猶予するという制度を創設することも一案です。確かにこうした方法は1週間以内などといった急に高額な医療費を支払うわけではないので、根本的な解決(回避策)になるとは思います。

自殺対策基本法第18条(自殺者の親族等に対する支援)は、「国及び地方公共団体は、自殺又は自殺未遂が自殺者又は自殺未遂者の親族等に及ぼす深刻な心理的影響が緩和されるよう、当該親族等に対する適切な支援を行うために必要な施策を講ずるものとする。」と規定しています。ですから、自殺未遂の場合もすべて保険の適用があるとか、自殺の場合は高額の医療費も支払いを猶予するという制度の創設も、あり得ることです。

しかし、残念ながら、こうした運用は現行法(健康保険法、国民健康保険法)の文言からは実施困難なので、法改正が必要となります。ただし、よくよく考えれば、何も法改正をしなくても“二重の悲劇”は回避できたように思います。

健康保険法・国民健康保険法の解釈からすれば、元々、自殺未遂の場合、必ず健康保険が不適用というわけではないのです。ですから、<1>元々病院が(精神障害が原因で自殺未遂したわけではないと判断できるまで)500万円の請求をするべきではなかったともいえます。病院側がもう少し自殺による悲嘆に暮れる家族への配慮をしていればと感じます。<2>少なくとも、「自殺未遂の場合、必ず健康保険が不適用というわけではない」という法的知識をアドバイスする者(ソーシャルワーカー、社会保険労務士など)がいれば、適切な金額で適切な時期での医療費の支払いが可能だったかもしれないのです。

東京新聞の記者は、「せめて、家族が受けた悲劇を少しでも和らげ、手を差し伸べる配慮が周囲にあったなら…」と述べています。<1>や<2>の方法も「家族が受けた悲劇を少しでも和らげ、手を差し伸べる配慮」の一種でしょう。<1><2>の方法でなくても、刺し殺すというところまで追い詰められた心情を和らげる人たちがいれば、“二重の悲劇”は回避できたかもしれません。

現行法の下においても“二重の悲劇”は避けることは可能でした。誰しもが“二重の悲劇”になりかねないと心に刻み、こうした悲劇が再び繰り返すことが無いよう、回避策を伝えるなど積極的に自殺未遂者の親族を支えるようにしてほしいと願っています。

テーマ:政治・時事問題 - ジャンル:政治・経済

諸法 *  TB: 0  *  CM: 3  * top △ 
コメント
この記事へのコメント
病院も病院だよね
記事を読んで思ったことは
「病院も500万て言われて『わかりました』って払えないであろうことはわかるはずなのに、なぜ併せて相談窓口などを紹介するなどして、家族の心理的負担を軽減する努力をしなかったのか」ということ。
ある意味、この方は被害者なのかもしれないですよね。
2010/04/21 Wed 20:24:02
URL | なな #-[ 編集 ]
承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
2010/12/02 Thu 16:56:23
| #[ 編集 ]
承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
2013/01/21 Mon 17:46:34
| #[ 編集 ]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://sokonisonnzaisuru.blog23.fc2.com/tb.php/2034-d7bad702
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。