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2010/01/12 [Tue] 01:40:56 » E d i t
心と体の性が一致しない性同一性障害により女性から男性に戸籍を変更した夫が、第三者から精子提供を受け妻との間に人工授精でもうけた子について、法務省が「嫡出子として認めない」とする見解を示していたことが明らかになりました。「嫡出子として認めない」のは、夫が元女性で生物学的に父子関係が成り立たないとの理由です。

法務省によると、元女性の夫が、妻との間に人工授精で子をもうけた事例は全国で少なくとも6件あるとのことですが、非嫡出子として扱うよう指示したため、「兵庫県宍粟市において、女性から性別を変更した自営業の夫(27)が実弟の精子を妻に提供してもらい、妻は人工授精で昨年11月に出産した」事例につき、嫡出子届は不受理となるわけです。法務省の見解に沿った場合、性別変更した父親が子との間で嫡出子と同等の法的効力のある親子関係を結ぶには、養子縁組を行う必要があります。

夫が生まれつき男性の場合、正式な婚姻関係があれば、同じ人工授精でも嫡出子として認められていることから、性同一性障害者に対する不当な差別(憲法14条の平等原則違反)であるとして、問題視する声が出ています。



1.報道記事を幾つか。

(1) 朝日新聞平成22年1月10日付朝刊1面(14版)

性別変え夫に、人工授精で妻出産  国、嫡出子と認めず
2010年1月10日3時1分
  
 心と体の性別が一致しない性同一性障害との診断を受け、女性から男性に戸籍上の性別を変更した夫が、第三者の精子を使って妻との間に人工授精でもうけた子を、法務省は「嫡出子(ちゃくしゅつし)とは認めない」との見解を示した。全国で6件の出産例を把握、非嫡出子(婚外子)として届けるよう指示した。だが、同じ人工授精でも夫が生来の男性の場合は嫡出子として受理しており、「法の下の平等に反する」との指摘が出ている。(上原賢子)

 性同一性障害者が自ら望む性別を選べるよう、2004年に施行された特例法に基づき、兵庫県宍粟(しそう)市在住の自営業Aさん(27)が戸籍を「女」から「男」に変更したのは08年3月。翌月、妻(28)と結婚した。男性としての生殖能力はないため実弟から精子提供を受け、妻が体内受精で昨年11月に男児を出産した。

 市役所に「嫡出子」として出生届を出そうとしたところ、宍粟市はAさんの性別変更を理由に受理を保留。法務省の判断を受け、今月12日までに「非嫡出子」と書き改めて届け出るよう、昨年末にAさんに通知した。嫡出子は、法律上の婚姻関係にある夫婦から生まれた子。非嫡出子となれば、戸籍に父親の名は記載されない。

 嫡出子と認めない理由について、法務省は朝日新聞の取材に「特例法は生物学的な性まで変更するものではなく、生物学的な親子関係の形成まで想定していない」と文書で回答。出生届を出す窓口で、戸籍から元は女性だったとわかるため、「遺伝的な父子関係がないのは明らか」(民事1課)と説明している。

 他人の精子を使う非配偶者間人工授精(AID)は、性同一性障害者に限らず夫の生殖能力に問題がある場合の不妊治療として戦後広く行われてきた。1万人以上の子が生まれたとされ、遺伝的な父子関係がないにもかかわらず、一般的には嫡出子として受理されている。「窓口ではAIDの子かどうか、わからないため」(宍粟市)だ。

 法務省の見解は、同じ人工授精で生まれ、同様に遺伝的な父子関係がない子であっても、父親が生来の男性の場合と性別変更で男性になった場合とを分けて対応する立場を明らかにしたものだ。

 ただ、民法には夫が生物学的な男性であるべきだとの規定はない。特例法は性別変更後は新たな性別で民法の適用を受ける(4条)と規定している。Aさんは「男として結婚は認めたのに、父親としては認めないのはおかしい」と反発。市の求めには応じず、市が非嫡出子として手続きを進めた場合は、神戸家裁に不服申し立てをする。

■性同一性障害を差別

 性同一性障害学会理事長の大島俊之・九州国際大大学院法学研究科長(民法)は「生まれた子と遺伝的な父子関係がない点では、Aさんも、人工授精によって子をもうけたほかの多くの夫も同じ。過去に女だったという事実をもとに嫡出子と認めないのは道理が通らない。性同一性障害者への差別だ」と話している。」

(*「過去に女だったという事実をもとに嫡出子と認めないのは道理が通らない。」との一文は、13版にはあるが14版にはないので追加した。)



「【嫡出子】 法律上の婚姻関係にある男女を父母として生まれた子。戸籍には夫婦の子として記載される。法律上の婚姻関係にない男女から生まれた子が非嫡出子(婚外子)で、原則として母親の戸籍に入り、父親の名は記載されない。将来、法定相続分が嫡出子の半分となるなど不利益を被る可能性がある。」



(2) 朝日新聞平成22年1月10日付朝刊34面(14版)

父親になれない「なぜ」 嫡出子と認めず 夫婦の決断 国の壁

 「父親」になれた喜びに胸を躍らせていた。性同一性障害を乗り越え、新たに男性となったAさん=兵庫県宍粟市=にとって、人工授精は妻とも十分に話し合った末の結論だった。だが、生まれた子は法務省に嫡出子としての届けを拒まれた。「父親になれないのはなぜ?」と悔しさを募らせている。(上原賢子)

 Aさんが女性だったことは戸籍を見ればわかる。昨年11月、市役所で出生届を出す際に押し問答になったのはそのためだ。嫡出子は法律上の婚姻関係にある夫婦から生まれた子、それ以外が非嫡出子――。「それなら僕らは結婚しているから嫡出子や」と詰め寄ったが、かなわなかった。

 非嫡出子では国に父親と認められないことになる。嫡出子にこだわるのは、長く性同一性障害に苦しんだ末に手に入れた「男であること」も否定されたと感じるからだ。

 2004年に性同一性障害との診断を受けた。妻とはその2年後、パーティーで知り合った。自分を男と思い込んでいた妻に「元は女性やった」と打ち明け、交際を申し込むまで1年かかった。妻は驚いたが、誠実な人柄にひかれた。

 2年前に結婚。「子どもがほしい」と言い出したのはAさんだ。男性ホルモンの投与や肝機能障害や心血管疾患のリスクを高めるとも聞いた。「将来、僕が先に死んで妻が一人になっても、支えてくれる子を残しておきたい」。実弟に精子を提供してもらおう、と妻に相談した。妻は半年以上迷った。「夫に残りの人生、生きていてよかったと感じてほしい」と心を決めた。

 11月4日午後、体重2310グラムの元気な男の子が誕生。寝顔をみて「おれの息子だ」と確信した。

 いつか性同一性障害のことを話してきかせるつもりだ。「血のつながりでは親子ではないけれど、父親はおれなんだよ」と伝えたい。 

■《解説》 法整備、現実に追いつかず

 性同一性障害を抱える人が自ら望む性別で社会生活が送れるよう、制度化したのが特例法だった。昨年3月までに戸籍上の性別を変更した男女は1468人。性同一性障害者はこの何倍もいるとみられる。だが今回、法務省が示した見解は、法に基づいて性別変更した人をなお「別扱い」にするもので、今後各地で争われる可能性が高い。

 民法は「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」(772条)と規定。法的に結婚した夫婦の間に生まれた子を嫡出子と定義している。夫以外から精子の提供を受ける非配偶者間人工授精(AID)でも、夫の同意があれば嫡出子として扱われてきたのは、そのためだ。

 日本産科婦人科学会の倫理委員会は、特例法により女性から男性に性別変更した人と妻がAIDを受けることについて「ガイドラインに抵触しない」との見方を07年に示した。学会理事長の吉村泰典・慶応大医学部教授も「法律婚であることがAIDの要件。今回のような夫婦に実施するのを否定する理由はない」と明言。ことは法の受け皿の問題であるのは明らかだ。

 早稲田大学の棚村政行教授(家族法)は「民法は夫について生来の男性とは規定しておらず、特例法でも特にルールを設けていないのだから性同一性障害者を別扱いする理由はない」と指摘。

 一方、学習院大学の野村豊弘教授(民法)は「民法は夫婦間の自然生殖を前提としている。今回のケースは、生来の男性が夫である場合の人工授精と違って夫の子ではあり得ないということが客観的に明らかなので、民法772条の嫡出子とみる『推定』は働かず、法務省のように判断するしかない」と話す。

 だが、両氏とも「第三者の精子や卵子を使って生まれた子と親の関係を決める法整備が現実に追いついていないことが今回の問題を招いた一因だ」という点では一致している。まずは特例法で子の法的な位置づけを明確にするなど、法整備を急ぐべきだ。」



 イ 民法は「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」(772条)と規定しています。

(嫡出の推定)
民法第772条  妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2  婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。


この民法772条の規定により、法的に結婚した夫婦の間に生まれた子は嫡出子と推定されることになります。その結果、夫以外から精子の提供を受ける非配偶者間人工授精(AID)でも、法的な婚姻関係があれば、(夫の同意があれば)父子関係は実子と扱うのが戸籍及び学説・判例上の運用となっています(高橋朋子=床谷文雄=棚村政行『民法7 親族・相続(第2版)』(有斐閣、2007年)139頁以下)。要するに、遺伝子上のつながりのない子も実子になっているわけです。

性同一性障害により性別を変更した者(元男性、元女性)であっても、民法772条にいう「夫」又は「妻」なのですから、法的に結婚した夫婦の間で生まれた子である以上、非配偶者間人工授精(AID)でも、民法772条により嫡出子として推定するのが基本であるはずなのです。


 ロ ところが、法務省は、この民法772条の基本原則を捻じ曲げる法解釈を行うわけです。その捻じ曲げのポイントは2点あります。

 <1>1点目のポイントは、「生物学的に親子関係がないことが明らか」(民事1課)・「民法は夫婦間の自然生殖を前提としている」(学習院大学の野村豊弘教授)という理屈、言い換えれば「自然の摂理ではありえない」「(性同一性障害者の子どもは)民法の想定外」という理屈を、民法規定に勝手に付け加えたことです。

しかし、「自然の摂理ではありえない」「(性同一性障害者の子どもは)民法の想定外」という点は、生殖補助医療すべてにおいて当てはまるものであって、なぜ、この場合のみ区別するのか根拠がありません。もし生殖補助医療に関する問題はすべて民法の想定外とするならば、すべて立法問題となるはずですが、既に述べたように非配偶者間人工授精(AID)の場合には、依頼夫婦と出生した子との嫡出親子関係を認めていることと、整合性に欠けています(吉田邦彦「死後凍結保存精子による体外受精子の亡父への死後認知請求(法律上の父子関係形成)の可否(最二判18・9・4)」判例評論604号7頁・判例時報2036号(平成21年6月1日号)153頁)参照)。

また、「夫婦間の自然生殖を前提」とか「自然の摂理」云々という理屈は、いわば「性交至高主義」という意味といえます。しかし、「現実には必ずしも崇高な意思に支配されているとは限られない性交に親子関係形成上の線引きを認めるのは何故なのかが、よくわからない」のです(前掲判例評論604号7頁・判例時報2036号(平成21年6月1日号)153頁参照)。

 <2>2点目のポイントは、性同一性障害特例法に基づいて性別変更した人であっても、なお法務省は「別扱い」にするとしたわけです。要するに、性同一性障害特例法上では、性別変更した人を「別扱い」していないのに、法務省は、例えば、戸籍上男性となっていても「女性」扱いするわけで、性同一性障害特例法を変容させた解釈をしたわけです。

しかし、性同一性障害特例法に基づいて性別変更した人は、その特例法に基づいてすでに元の性は失っているのに、「元の性」のまま扱いをすることは、いったい現在と元のどちらの性を有しているというのでしょうか。法務省は、特例法に基づいて性別変更した人を、どちらの性でもない、まるでコウモリ又はキメラ(=ギリシャ神話で、ライオンの頭・ヤギの胴・ヘビの尾をもち口から火を吐く怪獣)扱いしているのと同然であって、不当な扱いであるように思います。当事者たるAさんは「男として結婚は認めたのに、父親としては認めないのはおかしい」(朝日新聞)と反発していますが、当然の反応といえます。

このように、国自ら、性同一性障害者をいつまでも元の性から解放させない扱いをすることは、性同一性障害者にいつまでも元の性に苦しんだ悩みを強制し続け、また、性同一性障害特例法性同一性障害者に対する世間の差別を助長するものであって、妥当性を欠いています。


 ロ 性同一性障害特例法4条は、「性別の取扱いの変更の審判を受けた者は、民法(明治二十九年法律第八十九号)その他の法令の規定の適用については、法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別に変わったものとみなす」と規定しています。

そうすると、法律で例外規定を設けない限り、変更された性別の者として「みなす」のですから、性別変更後も「別扱い」することは違法であり、また、現在、民法772条の適用を排除する規定がない以上、民法772条の適用を排除する法解釈は不当であるというべきです。

このように、民法772条の基本原則を捻じ曲げる法解釈には、何らの合理性な理由がありません。法務省は、合理的な理由がないのに、同じ人工授精でも夫が生来の男性の場合は嫡出子として受理していることと差別的扱いし、性同一性障害者に対する差別を助長するものであるので、「法の下の平等に反する」(憲法14条)ものとして、違憲的な扱いであるというべきです。



2.朝日新聞に特ダネを抜かれた新聞社は、後追い記事を掲載しています。なお、読売新聞は、なぜか後追い報道さえもしていません。

(1) 毎日新聞平成22年1月11日付朝刊1面

性同一性障害:妻が人工授精で出産…6件、嫡出子と認めず

 心と体の性が一致しない性同一性障害のために女性から男性に戸籍変更した夫と妻が、第三者の精子を使った人工授精でもうけた子について、法務省が非嫡出子として扱うよう求める見解を示していることが分かった。障害による性別変更を認めた特例法の施行後、法務省が把握する同様の相談例は全国で6件に上る。「生物学的に出産は不可能」との理由だが、「法の下の平等に反する」と反発の声も上がっている。

 08年3月に女性から性別変更した兵庫県宍粟市の自営業の男性(27)は、実弟から精子の提供を受け妻が昨年11月に出産した。市に出生届を出したが、性別変更を理由に受理を保留され、子を非嫡出子として届け出るよう指示された。男性は8日に嫡出子として改めて出生届を投かん。市が非嫡出子として手続きを進めた場合には、神戸家裁に不服申し立てするという。

 市が法務省に判断を仰いだところ、「実子ではないことが明らかで、非嫡出子に書き改めるように」との回答があったという。

 04年7月施行の特例法は、家裁の審判を受けることで戸籍の性別変更を可能にした。法制度上の戸籍変更や婚姻は可能だが、法務省によると、子については「生物学上は同性同士で、子をもうけることは不可能」との考えから、出生届を受け付けた自治体からの問い合わせには、非嫡出子として受理するよう通知しているという。

 法務省は「民法は非嫡出子と親が養子縁組を結んだ場合、嫡出子の身分を得ると定めており、養子縁組すれば身分上、相続などの差別を受けることはない」と説明している。

 法務省によると、夫以外の提供精子を使う非配偶者間人工授精(AID)の場合、生来の男性と女性が届け出ても非嫡出子と判断される可能性がある。実際には人工授精であるとの事実を自治体に届け出ることはなく、嫡出子として受理されているという。

 男性は「同じ人工授精で生まれても、父親が生来の男性である場合は嫡出子と認められているのにおかしい。国に男であることを否定されたようだ」と話している。【谷田朋美、石川淳一】

毎日新聞 2010年1月10日 20時37分(最終更新 1月11日 2時19分)」



(2) 東京新聞平成22年1月11日付朝刊23面

嫡出子 届け出認めず 性同一性障害 戸籍性変え夫に 妻が出産
2010年1月11日 朝刊

 性同一性障害で、戸籍の性別を女性から変えた兵庫県宍粟市の自営業男性(27)が、弟の精子の提供を受け非配偶者間人工授精(AID)で妻(28)との間に生まれた子どもの出生届を市役所に提出したところ「非嫡出子」として届け出るよう指示されていたことが十日、男性への取材で分かった。

 同様なケースについて法務省は、宍粟市を含む各地の自治体から六件の照会があり、非嫡出子として受理するよう指示したことを明らかにし「生物学的に親子関係がないことが明らかな場合、嫡出子として受理するわけにはいかない」(民事一課)としている。

 性同一性障害者の性別変更は、二〇〇四年に施行された特例法に基づき、要件を満たせば可能になった。

 男性は〇八年三月、戸籍の性別を変更し、翌月結婚。実弟から精子の提供を受け、妻は昨年十一月四日に男児を出産、同月五日に宍粟市役所に出生届を出した。

 しかし市の担当者が性別変更を知っていたため、嫡出子としての受理を拒否。男性は翌日、非嫡出子としての届け出を指示され、養子縁組するよう勧められた。

 神戸地方法務局龍野支局(兵庫県たつの市)からも同様の説明を受けた。

 一方、法務省によると、生まれつき男性と女性の夫婦の子は、AIDの事実が分からない限り、生物学的にも親子関係があると推定し、嫡出子として受理されている。

 男性は弁護士に相談し、嫡出子とする出生届を市に郵送した。

 不受理となれば神戸家裁龍野支部に不服申し立てする方針。「国から男と認められているのに、父としては否定された。何のための特例法なのか」と話している。」


差別的な扱いだ

 性同一性障害学会理事長の大島俊之九州国際大教授(民法)の話 

 性同一性障害特例法に基づき性別を変えた場合、自治体が戸籍で把握でき、父子関係が認められないことになる。正式な婚姻関係があるのに、差別的な取り扱いだ。」


【嫡出子と非嫡出子】

 民法は、法律上の婚姻関係にある夫婦で、妻が妊娠した子どもは夫が否認しない限りは夫婦の子と推定すると規定。この子どもを嫡出子と言う。一方、事実婚など法律上の結婚をしていない両親の子どもは非嫡出子(婚外子)と呼ばれる。父親が非嫡出子を認知し、その後母親と法律上の婚姻関係になった場合も、嫡出子の身分を得られる。非嫡出子は遺産の相続分が嫡出子の半分となるなど、不利益を被る可能性がある。」



(3) 神戸新聞:2010/01/10 22:25

性同一性障害の夫に「嫡出子」の届け認めず 宍粟市 

 性同一性障害特例法により戸籍の性別を女性から変更した宍粟市の自営業男性(27)が、弟の精子提供を受けた人工授精で妻(28)との間に生まれた子どもの出生届を同市に出したところ、市が「嫡出子」として認めなかったことが10日、分かった。子どもは戸籍が作られないまま2カ月以上が経過。性別変更がない人工授精の場合は嫡出子として受理されており、男性側は不受理となれば家庭裁判所に不服申し立てする方針。

 同様なケースについて法務省は、宍粟市を含む各地の自治体から6件の照会があり、非嫡出子として受理するよう指示。「生物学的に親子関係がないことが明らかな場合、嫡出子として受理するわけにはいかない」(民事1課)としている。

 夫以外の精子を使う非配偶者間人工授精(AID)で生まれた子かどうかは自治体の窓口で区別できないため、嫡出子として受理される。しかし昨年11月、男児の出生届を出した際、男性の戸籍に性別変更の記載があるため、市は嫡出子としての届け出を認めず、嫡出・非嫡出は空欄のまま届けを受け取った。

 その後市は、非嫡出子とするよう夫婦に指示。男性は弁護士と相談して嫡出子とする追加届を今月8日に郵送したが、市は非嫡出子として届け出るよう求める。非嫡出子では戸籍に父親の名前が記載されず、相続で不利益を被る可能性がある。

 性同一性障害学会理事長の大島俊之・九州国際大教授は「他人の精子の人工授精でも嫡出子と認めてきたのに、性同一性障害だけ認めないのは、法の下の平等に照らして許されない」と指摘。男性は「法律で男と認められ、妻とは正式に結婚しているのに、父親だと認められないのは悔しい。最高裁まで争っても、わが子として出生届を出したい」と話している。

(2010/01/10 22:25)」


 イ 「昨年11月、男児の出生届を出した際、男性の戸籍に性別変更の記載があるため、市は嫡出子としての届け出を認めず、嫡出・非嫡出は空欄のまま届けを受け取った」(神戸新聞)とあります。これは、現在、戸籍の身分事項欄に「性別変更」という文言は明記していないのですが、性別変更をすると「平成15年法律第111条裁判発効日」の記載が付けられるのです。ですから、「平成15年法律第111条裁判発効日=性別変更」の意味となり、戸籍係にもその人が性同一性障害であるかどうかは一目瞭然であったわけです。

「平成15年法律第111条裁判発効日」の記載があることで、一生涯、性同一性障害であったことが記され、今回のような差別的扱いを受ける切っ掛けとなるのですから、「平成15年法律第111条裁判発効日」の文言を削除するべきでしょう。

もちろん、「平成15年法律第111条裁判発効日」があることで、子供にとっては親が性同一性障害であったことを知ることになり、非配偶者間人工授精(AID)による子であるという、ある意味、「出自を知る権利」を確保できる面はあることは確かです。しかし、非配偶者間人工授精(AID)による子であるか否かは、親が子供に対して適切な時期に知らせることが、子供の精神上大事であって、国が余計なお節介をするべきではありません。


 ロ 「法務省によると、生まれつき男性と女性の夫婦の子は、AIDの事実が分からない限り、生物学的にも親子関係があると推定し、嫡出子として受理されている」としています。しかし、このような書き方をすると、「AIDで生まれた子供が生物学的な父子関係がなくても、嫡出子として受理されるのは、『形式的な審査権限しかない役所として、確かめようがないから』という理由に基づく」とか、「制度的に父子関係を認めた上で受理しているわけではなく、『虚偽だと見抜けないから』受理しているだけ」といった勘違いをしてしまいそうです。

しかし、非配偶者間人工授精(AID)が夫の同意を得てなされた場合は、母とその夫の嫡出子と推定される(民法772条の推定が及ぶ嫡出子)のであって、しかも、同意した夫の否認権(=自分の子供ではないという主張)を排除する考えが一般的なのです(高橋朋子=床谷文雄=棚村政行『民法7 親族・相続(第2版)』(有斐閣、2007年)139頁、手嶋豊『医事法入門(第2版)』(有斐閣、2008年)。夫は子の嫡出性を承認したとして否認権を失うとするか(民法776条)、信義則上、夫は否認権の行使を許されないというのがその理由です(高橋朋子=床谷文雄=棚村政行『民法7 親族・相続(第2版)』139頁)。

そして、裁判例もこうした学説と同様の立場を採っているのです(裁判例として東京高決平10・9・16家月51巻3号165頁・判例タイムズ1014号245頁)。要するに、夫の同意がある以上は、非配偶者間人工授精(AID)であることが明らかになったとしても、夫婦間の子供として届けている限り(他人の子を自分の子と偽ったという虚偽の届け出になるわけではなく、)、嫡出子として扱われるのが戸籍実務及び判例の運用なのです。


 ハ 法務省は「民法は非嫡出子と親が養子縁組を結んだ場合、嫡出子の身分を得ると定めており、養子縁組すれば身分上、相続などの差別を受けることはない」と説明しています。

確かに、養子縁組の方法であれば、相続での差別はないでしょう。しかし、非嫡出子であったこと、養子縁組であることが戸籍上に記載されてしまいますし、養子縁組の場合は、嫡出子の場合と異なって、離縁が可能であって親子関係を断絶することが可能です。夫以外の精子を使う非配偶者間人工授精(AID)で生まれた後に、離縁を認めることだけは、子供の保護のため、絶対に避けなければなりません。こうした不利益が生じる以上、法務省の言い分は妥当でないのです。


 ニ 男性は「法律で男と認められ、妻とは正式に結婚しているのに、父親だと認められないのは悔しい。最高裁まで争っても、わが子として出生届を出したい」と話しています。

民法772条の原則を重視し、性別変更を認めて元の性から解放することを認めた、特例法の趣旨を重視し、同じ人工授精でも夫が生来の男性の場合は嫡出子として受理していることと差別的扱いをしていることを素直に理解すれば、法務省の扱いは、「法の下の平等に反する」(憲法14条)として、この夫婦の主張を認める裁判所もあるでしょう。しかし、法務省の見解を鵜呑みにする裁判所も少なくないと思われます。


 ホ この夫婦から生まれた子であり、この夫婦が養育する子であることには変わりがないのですから、この夫婦の嫡出子として扱うのが親子のあり方として妥当です。ですから、裁判所がどのように判断するとしても、最高裁での判断を待つことなく、性同一性障害特例法を改正して、夫以外の精子を使う非配偶者間人工授精(AID)で生まれた子も、夫婦の嫡出子となることを明記するべきです。

もっとも、戸籍から「平成15年法律第111条裁判発効日」の文言を削除すれば、今回のような問題は事実上、解消されるのです。ですから、「平成15年法律第111条裁判発効日」の文言を痕跡なく削除するという安易な方法も一案でしょう。

念のため繰り返しますが、この問題でもっとも大事な点は、民法解釈をくちゃくちゃこねくり回すことではなく――その意味で、民法しか知らない民法学者の出る幕ではない――、夫が生まれつき男性の場合、正式な婚姻関係があれば、同じ人工授精でも嫡出子として認められていることから、性同一性障害者に対する不当な差別(憲法14条の平等原則違反)ではないのか、という憲法論であるということです。(インターネット上で、間違った理解をしている方(法科大学院生?)を見かけたので、付け加えました。)


テーマ:法律全般 - ジャンル:政治・経済

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昨日の記事の補足をしておく。 どちらを先に読んでもいいが、昨日の記事と、今回の記事を両方読むと問題の本質がよりよくわかると思う。 最初に述べておくと、お役所仕事や官僚に対して日頃不満を持っている人は多々いるだろうが、それはひとまず置いておいて、今...
2010/01/12(火) 03:32:46 | 閑寂な草庵 - kanjaku -
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