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しかし、政府与党はどれほど真剣な思いで「教育基本法」改正案を可決したのでしょうか? この「教育基本法」を成立させた当時、文部官僚はどういう気持ちでいたのかについて、毎日新聞平成18年11月15日付朝刊の「発信箱」欄で記述がありました。このコラムを紹介し、現在の政府与党の思いと比べてみたいと思います。
1.毎日新聞平成18年11月15日付朝刊2面「発信箱」
「発信箱:文部官僚の号泣=玉木研二
1947年3月18日、帝国議会衆議院「教育基本法案委員会」は熱気に包まれた。委員会設置目的である教育基本法案は既に通過し、義務教育6・3制など新制度を定める学校教育法案が回ってきたのだ。
史料によると、委員18人のほぼ全員が質疑に立ち、校舎や学用品がそろうのかとただした。敗戦の傷跡なお深く、東京では赤子の死亡率10人に1人以上と新聞が報じているころである。
当時の文部省学校教育局長が答弁に立った。
「戦争を放棄した日本は文化国家建設のため教育の徹底的な刷新改革が必要で、次代を担う青少年への期待はまことに大きいが、現状では子供たちに教科書も与えられない……」
このようなことを語りながら彼はあふれる涙を落とし始め、ついに言葉を失い、声を上げて泣いた。委員らも涙にくれ、5分の間声を発する者がなかったという。
実際、慌ただしく翌月に発足した新学制は混乱を極め、青空教室や無資格教員の中学の授業も各地で行われた。今に至る戦後の学校教育制度はこうして第一歩を踏み出したのである。
いま国会で「教育再生」を旗印に教育基本法改正審議が進められている。何も声涙ともに下る演説をというのではないが、つい思うのだ。なぜかくも「軽い」のか。攻めるも守るも切迫した空気を欠き、語りながら子供たちの窮状に思いめぐって詰まる声もない。
局長の「熱涙」は帝国議会衆院本会議で審議経過報告に立った委員長が特に付言して伝えた。議員の心を打ったらしい。途中2度の拍手が記録されている。(論説室)
毎日新聞 2006年11月14日 東京朝刊」
(1) このコラム中に、
という記述があります。「「当時の文部省学校教育局長が答弁に立った。
「戦争を放棄した日本は文化国家建設のため教育の徹底的な刷新改革が必要で、次代を担う青少年への期待はまことに大きいが、現状では子供たちに教科書も与えられない……」
このようなことを語りながら彼はあふれる涙を落とし始め、ついに言葉を失い、声を上げて泣いた。委員らも涙にくれ、5分の間声を発する者がなかったという。」
このエピソードを読むと、文部官僚が、この教育基本法制定に寄せた熱い想いが感じられます。「戦前の教育においては、国家に有用のもののみが真理とされ、教育が国家のために奉仕するものとされ、『皇国民の錬成』が主眼」(文科省の「教育基本法資料室」参照)とされ、無謀な戦争により国内外に膨大な犠牲者を生じさせてしまいました。「現状では子供たちに教科書も与えられない」状態であったように、何もかも失ってしまったわけです。
2度とこのような惨状を招くような戦前教育を行わないようにしようという反省をふまえて、教育基本法の制定により、公教育の根本方針を明確にし、「教育勅語」を頂点に頂く戦前の公教育を転換することを明確にすることができる……。当時の文部官僚が抱いたそのような気概が伝わるエピソードです。
(2) このような気概は文部官僚だけではありませんでした。
「局長の「熱涙」は帝国議会衆院本会議で審議経過報告に立った委員長が特に付言して伝えた。議員の心を打ったらしい。途中2度の拍手が記録されている。」
「途中2度の拍手」があるといったように、当時の国会議員も教育基本法の重要性を感じており、文部官僚が抱いた「熱い想い」に共感したわけです。
(3) なぜこれほどの気概を持っていたのかというと、教育基本法がなぜ制定されたのか?という点と関連すると思います。
昭和21年(1946年)6月27日の衆議院の本会議において森戸辰男が、「教権を確立しても、教育勅語を根本においたままでは意味がない、欽定憲法に代わって新憲法が制定されようとしている際、教育勅語に代わる教育根本方針・教育根本法律を憲法の条文規定において確立すべきだ」と主張したわけです。
他方で、貴族院でも、8月27日の本会議で教育刷新委員会の南原繁は、「政府は、学校教育法を設けて学校教育の根本問題を規定する方針だと承知しているが、この新憲法にこそ教育全般に通じた根本方針とこれに対する国家の任務を規定する必要があった」と質したのです(季刊教育法150号(平成18年9月25日発行)37頁、子どもと教科書全国ネット21編「ちょっと待ったぁ! 教育基本法「改正」40頁〜)。
このような考えは、「教育根本方針憲法条規確立論」と言われる主張です。このような考えが有力であったことから、新憲法の条文に教育根本方針を規定しないのであれば、これに代わる次善の策として、教育基本法が制定されたのです。
このような教育基本法構想誕生の事情に加えて、この教育基本法は、戦後教育にふさわしい教育根本方針をプログラム的に明らかにするために発案されたのではなく、新憲法の、とりわけ国民の権利義務との関連で法律的に意味のある教育根本事項だけを精選して取り上げたものなのです。
こういった、このような教育基本法構想誕生の事情に加えて、教育基本法の内容からして、教育基本法=教育憲法と言われているわけで、だからこそ、国会議員や文部官僚は、この教育基本法制定に「熱い想い」があったのです。
2.教育基本法を改正する政府与党は、この教育基本法改正案にどれほど「熱い想い」があるのでしょうか?
政府与党は、多くの批判がある(教育基本法「改正」の問題点って?、「マガジン9条」より「第29回教育基本法改悪の問題点(その1)、「マガジン9条」より「第30回教育基本法改悪の問題点(その2)参照)のに、執拗に成立させようとしているのですから、妙な「熱い想い」はあるのです。
しかし、民主党や社民党の議員が、今まさに深刻な問題である「いじめや必修科目未履修問題、タウンミーティングのやらせ問題」について審議が必要だと主張するのに対して、「少数の横暴だ」(中川秀直幹事長の14日の記者会見:朝日新聞11月15日付朝刊4面)として、採決を急ぐのです。中川幹事長は、この改正案を単なる野党との駆け引きとしか思っていないのですから、当時の文部官僚や当時の国会議員が抱いた「熱い想い」に基づいて成立した法律を全面改正することへの慎重さが微塵も感じられないのです。
政府のタウンミーティング(TM)での「やらせ質問」の有無などを調査する「タウンミーティング調査委員会」でも、委員長の林芳正内閣府副大臣は、謝礼金について「額の多寡はあるが、問題性は極めて低い」(朝日新聞11月15日付夕刊1面(asahi.com(2006年11月15日11時30分)))としか思わないのです。林芳正内閣府副大臣は、公金を使って質問者を作出することは、買収者を使って虚偽の世論を誘導させることであるのに、これをおかしいと思わないほど規範意識が欠落しているのです。
元々、このやらせ質問を作成したのは、白間竜一郎内閣官房参事官(当時文科省広報室長)なのですから、現在の官僚には「熱い想い」は皆無です。
このように今の政府与党には、当時の文部官僚や当時の国会議員が抱いた「熱い想い」はどこにもありません。
3.教育基本法改正に反対している側はどうでしょうか?
(1) 「東京新聞のHP(2006年11月14日 18時34分)」
「政府のいじめ対応批判 被害者遺族ら声明
いじめが原因とみられる子どもの自殺が相次いでいることについて、いじめで子どもが自殺した親や弁護士、学者ら80人は14日、「政府自身がいじめへの対応を抜本的に行おうとしていない」と批判し、「二度といじめを起こさないような教育体制をつくること」などを求めた声明を発表した。
声明では「学力競争や管理強化によるストレスがいじめの背景にあるのに、政府は管理的、厳罰的な対応しかしていない」「教育基本法や少年法の改正で子どもたちをさらに追い込む政策は誤り」などと政府の姿勢を批判。
その上で「被害者が救済を訴えられるような体制づくりや多様な個性が尊重される学校づくりを望む」としている。
長男が高校在学中にいじめに遭い、親子で自殺まで考えたという高野定子さん(53)は記者会見で「自殺した子どもの気持ちを理解する努力をしてほしい」と話した。
(共同)
(2006年11月14日 18時34分)」
(2) このように、いじめで子どもが自殺した親らは、「政府自身がいじめへの対応を抜本的に行おうとしていない」と批判し、「学力競争や管理強化によるストレスがいじめの背景にあるのに、政府は管理的、厳罰的な対応しかしていない」「教育基本法や少年法の改正で子どもたちをさらに追い込む政策は誤り」などと政府の姿勢を批判しています。
文部科学省による「生徒指導上の諸問題に関する調査研究会報告書」の「暴力行為及びいじめに関する実地調査の結果について」という項目を読むと、児童生徒のストレスがいじめの要因であることを示しています。
「(2)児童生徒のストレスの増加傾向
家庭生活、学校生活での欲求が充足されない児童生徒には相当のストレスがかかっていると考えられ、その結果、自らの行動を自制する能力の低下と突発的な問題行動につながっている可能性がある。このことは、実地調査の結果からも、問題行動を起こす児童生徒の多くが、家庭でのネグレクト、学校での友達関係のトラブル、学力不振などストレスがかかるような様々な背景を抱えている傾向が見られる。」
いじめで子どもが自殺した親らにとっては、教育基本法の改正によって子どものストレスが増加し、改正によっていじめ自殺が増加しかねないとして、切迫感を持って声明を行っているのです。教育基本法改正に反対する側は、切迫した「熱い想い」があるのです。(毎日新聞のコラムはこの点では間違った判断をしています。)
政府与党は、今まさに問題となっている「いじめ問題」や「いじめ自殺」への対応を抜本的に行おうとせずに、教育基本法改正案の問題点はそのまま維持し、教育基本法改正をするだけで、後は文科省の官僚や官僚の影響下にある「教育再生会議」に任せたままです。今やるべきことが何なのか、政府与党は少しも分かっていない、おそらく、分かろうとしないのです。
4.憲法学者である成蹊大学教授・安念潤司氏は、座談会において、
と述べています。「第2次大戦において日本がなぜ負けたかと言えば、頭が悪かったから負けたのです。兵隊は実に勇猛果敢に戦ったのですが、高等統師が無能を極めました。この構図は、今も少しも変わっていません。日本は、現場は実に有能・誠実ですが、エリート層はまことにお粗末です。」(ジュリスト1260号(2004年1月1−15日号)15頁)
いじめ自殺問題や必修科目未履修問題への解決の具体策を構築することなく、教育基本法改正案の成立を優先させるという政府与党の態度を見ていると、安念教授の言う通り、政府与党は頭が悪く、無能であり、今の官僚の考えはお粗末であるとしか言いようがありません。
真っ当な政治を期待するためには、政府与党批判はもちろん、米国の中間選挙において米市民が意思表明したのと同様に、国民は今後あらゆる選挙において、自民党・公明党以外の党の候補者に対して投票し、政権交代することこそが賢明な措置であると考えます。
解析を見ててここのURLがあったので、おひさしぶりっと思って飛んできました。
難しい記事なので、記事に対して気の利いたコメントは出来ませんが、相変わらず難しいテーマを頑張ってらっしゃって感心。
>難しい記事なので、記事に対して気の利いたコメントは出来ませんが
気の利いたコメントとか考えずに、何でも構いません。
>相変わらず難しいテーマを頑張ってらっしゃって感心。
教育基本法改正問題については、まだまだ書くことが少なすぎるくらいです(汗)
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