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2009/06/26 [Fri] 03:18:31 » E d i t
栃木県足利市で1990年、女児=当時(4つ)=が誘拐殺害された「足利事件」の再審請求即時抗告審で、東京高裁(矢村宏裁判長)は平成21年6月23日、無期懲役刑の執行停止で釈放された菅家利和さん(62)について、「犯人と認めるには合理的疑いが生じた」として、再審請求を棄却した宇都宮地裁の決定を(刑事訴訟法426条2項により)取り消し、(同法448条1項により)再審開始を決定しました。

死刑か無期懲役の確定事件で再審が開始されるのは、「島田事件」の東京高裁決定(87年3月確定)以来約22年ぶりで、再審は早ければ秋にも宇都宮地裁で始まる見通しです。再審では、検察側が無罪判決が出るよう手続きを進め、無罪が言い渡される公算が極めて大きいとされています。弁護側は警察庁科学警察研究所(科警研)のDNA型鑑定など捜査の問題点を検証するよう求めていますので、再審でどこまで審理されるかが焦点となっています(時事通信:2009/06/23-12:53)。



1.報道記事を幾つか。

(1) 朝日新聞平成21年6月23日付夕刊

足利事件 再審を決定 東京高裁 無罪の公算大
2009年6月23日10時17分

 栃木県足利市で90年に当時4歳の女児が殺害された「足利事件」の再審請求の即時抗告審で、東京高裁は23日、無期懲役が確定した菅家利和さん(62)=服役先の千葉刑務所から今月4日に釈放=の再審を開始する決定を出した。矢村宏裁判長は「菅家さんが犯人であると認めるのには合理的な疑いがある」と判断した。

 決定について検察、弁護側の双方は、最高裁に特別抗告しないことを明らかにした。再審は宇都宮地裁で開かれる。検察側は論告で無罪を求めるか求刑を放棄する方針で、菅家さんに無罪判決が言い渡される公算が大きい。

 即時抗告審で高裁は、菅家さんの有罪立証の柱となった警察庁科学警察研究所(科警研)によるDNA型鑑定の証拠価値を判断するため、2つの再鑑定を実施した。決定は、そのうち、検察側が推薦した素鈴木広一・大阪医大教授(法医学)の鑑定結果を検討。鈴木鑑定が「女児の肌着に残された体液のD
NA型と菅家さんの型とは一致しない」としたことを受けて、「菅家さんは犯人でない可能性が高い」と指摘した。

 さらに、この鑑定結果によって、捜査・公判段階での菅家さんの「自白」は「信用に疑問を抱かせるのに十分だ」と判断。これらの認定を踏まえ、再審開始の要件となる「無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見したとき」にあたると結論づけた。

 一方、弁護側が推薦した本田克也・筑波大学教授(法医学)は再鑑定で科警研の鑑定結果を「誤鑑定」と指摘していたが、決定は本田鑑定の当否は判断しなかった。

 菅家さんは、91年12月に逮捕された。当初は犯行を「自白」。宇都宮地裁での一審公判の途中から否認に転じた。公判では、DNA型鑑定の結果が刑事裁判の証拠となるかが主な争点になった。地裁は93年、鑑定結果や「自白」が信用できるとして無期懲役を宣告。二審・東京高裁も96年に有罪と判断して控訴を棄却した。

 弁護団は、科警研の鑑定は信用できないとして上告中の97年に最高裁に再鑑定を求めた。しかし、最高裁は00年に鑑定について「その後の科学技術の発展により新たに解明された事項なども加味して慎重に検討されるべきだが、これを証拠として用いることが許される」との判断を示し、無期懲役が確定していた。

 菅家さんは02年に宇都宮地裁に再審請求。地裁が08年に棄却したため、東京高裁に即時抗告していた。」



(2) 東京新聞平成21年6月23日付夕刊1面

足利事件 再審が決定 菅家さん無罪確定へ
2009年6月23日 夕刊

 栃木県足利市で一九九〇年、四歳の女児が殺害された「足利事件」で、無期懲役が確定し、十七年半ぶりに釈放された菅家利和さん(62)が裁判のやり直しを求めた再審請求の即時抗告審で、東京高裁(矢村宏裁判長)は二十三日、「菅家さんが犯人ではない可能性が高い」と再審開始を決定した。近く、一審の宇都宮地裁で再審公判が開かれるが、検察側は有罪立証をせず、菅家さんに無罪判決が言い渡される。

 無期懲役以上が確定した事件で、再審無罪になれば、八九年一月の静岡県の「島田事件」以来になる。

 矢村裁判長は決定で、検察側が推薦した大阪医科大の鈴木広一教授による再鑑定結果について「菅家さんと女児の下着に付着した体液のDNA型が一致しないことが認められる。菅家さんが犯人であると認めるには、合理的な疑いが生じている」と述べた。

 捜査段階の自白にも「有罪とされた一つの根拠であるが、再鑑定の結果は、自白の信用性に疑問を抱かせるのに十分な事実といえる」と指摘した。

 弁護側が推薦した筑波大の本田克也教授による再鑑定に関し、検察側が「信用性に欠ける」とする意見書を出したが、決定は「鈴木鑑定のみで菅家さんのDNA型と一致しないことが認められる。本田鑑定の信用性を判断するまでもない」と触れなかった。

 弁護側は、捜査段階の鑑定が誤っていたことや虚偽の自白の経緯を明らかにするため、鑑定を担当した警察庁科学警察研究所の技官らの証人尋問を求めたが、矢村裁判長は採用しなかった。

 足利事件は二〇〇〇年七月、最高裁が初めて、DNA型鑑定の証拠価値を認め、菅家さんを無期懲役とした一、二審判決が確定。再審請求について東京高裁が再鑑定の実施を決め、今年五月、検察、弁護側が推薦した法医学者二人は、DNA型を不一致とする再鑑定書を提出した。

 検察側は今月四日、再鑑定結果が「無罪を言い渡すべき明らかな証拠に該当する」とする意見書を東京高裁に提出し、再審開始決定前の異例の釈放に踏み切った。」





(3) 東京新聞平成21年6月23日付夕刊9面

笑顔なき再審決定 菅家さん『少し晴れたが…』
2009年6月23日 夕刊

 「少しは肩の荷が下りた気がするが、捜査の問題点が明らかにならなかったのは納得ができない」。逮捕から十七年半。無期懲役が確定した菅家利和さん(62)の裁判がやり直されることが二十三日、東京高裁で正式に決まった。冤罪(えんざい)の原因究明を求めていた弁護団や支援者にはじけるような笑顔はない。「裁判官も謝罪してほしい」と語った菅家さん。うれしさ半分の複雑な胸中をのぞかせた。 

 「気持ちは少し晴れたが、晴れないところもあります」。再審開始決定を受け、弁護団と記者会見した菅家さんは、終始、うつむいたまま、消え入りそうな声で語った。

 菅家さんらが求めていたのは、「無罪」という結論だけではなく、警察庁科学警察研究所(科警研)鑑定の誤りなど、捜査の問題点を明らかにすることだった。決定では、それらの問題点については何も触れられなかった。

 菅家さんは「科警研の鑑定が間違っていたのに、触れていないのは全く納得できない」と話した。さらに「一審の裁判官をはじめ、(再審開始決定をした)矢村宏裁判長にも謝っていただきたい」と語気を強めた。

 同席した佐藤博史弁護士は「自白の信用性に疑問を呈したが、臭い物にふたをしたという評価は変わりない」と切り捨てた。

◆生活再生へ補償や支援

 再審で無罪が確定すると、菅家さんは刑事補償を請求できる。拘束期間に応じて、裁判所が一日当たり、千円以上一万二千五百円以下の範囲で額を決める。十七年半拘束されたため、一日一万円とすれば六千万円強が支払われることになる。

 これとは別に、不当な取り調べを受けたとして国などに国家賠償法に基づく損害賠償を請求することも可能だ。弁護団は菅家さんのため募金しており、裁判活動などを支える資金に充てる。

 自宅のあった足利市での居住を希望する菅家さんに対し、同市は市営住宅の入居を打診。逮捕前、幼稚園の送迎バスの運転手だったことから、大豆生田実(おおまみうだみのる)足利市長は、小学校のスクールバスの運転手に採用することを提案している。

 運転免許証(二〇〇四年失効)の再発行手続きを進めるとともに、身を寄せている横浜市内の佐藤博史弁護士宅に近い自動車教習所に通って運転感覚を取り戻す計画もある。

◆冤罪の原因 自白重視+鑑定盲信

 冤罪(えんざい)を生み出す原因は何か。元刑事裁判官の安原浩弁護士は、自白の信用性を安易に認める裁判官の体質と鑑定への盲信だという。「鑑定内容を十分吟味せず、自白があるから間違いないと思い込み、また鑑定があるから自白は間違いないと考えてしまう連鎖がある」

 足利事件の場合、DNA型鑑定の結果と菅家さんの自白が冤罪を生み出す「両輪」となった。一審の弁護人もその渦に巻き込まれ、否認に転じた菅家さんに、再び認める上申書を書かせた。

 「自白した以上、説明できなければ」と考えた菅家さんは、自ら架空のストーリーを作り上げた。実況見分の際に殺害現場を指し示せないなど矛盾は多かったが、「DNA神話」は自白と整合しない証拠や目撃証言を封じる結果となった。

 「供述は具体的で体験した者としての真実味がある」。一、二審判決とも自白の信用性を認めた。プロの裁判官は虚偽自白を見抜けなかった。

 弁護側は控訴審で、女児が連れ去られた時間帯に裁判所が検証するよう申し入れたが実現しなかった。「夜、この場に立てば、菅家さんの自白があり得ないことは明らかだったのに」。佐藤博史弁護士は先月十六日の現地調査の現場で語った。

 自白では、殺害現場から裸にして運んでいるが、野バラが群生し、背丈より高いアシが生い茂るのに遺体には傷がない。日が暮れて、懐中電灯もないまま女児を抱えて移動することができるのか。現場に立ちさえすれば、いくつもの疑問がわく。裁判所はその機会を生かそうとせず誤判を重ねた。

 十七年半ぶりに釈放された菅家さんの再審開始決定は、裁判員制度の本格実施を前に、取り調べの全面録音・録画の実現の可能性を広げ、刑事司法や捜査のあり方へ変革を迫っている。

  (瀬口晴義)」



 イ:1審はともかく、2審からは弁護側からDNA型鑑定に問題があると指摘され続けていたのですから、告人の弁解を真摯に聞き、真実と向き合う意識さえあれば、少なくとも2審段階からは冤罪であることが分かっていた裁判でした。

 「宇都宮地裁での一審公判の途中から否認に転じた。公判では、DNA型鑑定の結果が刑事裁判の証拠となるかが主な争点になった。地裁は93年、鑑定結果や「自白」が信用できるとして無期懲役を宣告。二審・東京高裁も96年に有罪と判断して控訴を棄却した。
 弁護団は、科警研の鑑定は信用できないとして上告中の97年に最高裁に再鑑定を求めた。しかし、最高裁は00年に鑑定について「その後の科学技術の発展により新たに解明された事項なども加味して慎重に検討されるべきだが、これを証拠として用いることが許される」との判断を示し、無期懲役が確定していた。
 菅家さんは02年に宇都宮地裁に再審請求。地裁が08年に棄却したため、東京高裁に即時抗告していた。」


最高裁は、弁護団が独自に菅家さんの毛髪を検査し、菅家さんのDNA型は犯人のものと異なるとする上告主意補充書を提出していたのに、拙劣な科学警察研究所の鑑定の方を採用し、有罪としたのです(小田中聡樹ほか『えん罪入門』(日本評論社、2001年)110頁)。

結局は、有罪率99%という異常な日本の裁判においては、裁判所としては、捜査機関側の証拠をどこまでも信用する方が無難ということなのです。また、捜査機関側のDNA型鑑定だけを信用しきっており、菅家さんを有罪視していた報道機関の前で、もし、「捜査機関が提出したDNA型鑑定は信用に値しないので、無罪」という判断を下していたら、報道機関は裁判所を猛批判していたはずです。

菅家さんは「科警研の鑑定が間違っていたのに、触れていないのは全く納得できない」と話し、さらに「一審の裁判官をはじめ、(再審開始決定をした)矢村宏裁判長にも謝っていただきたい」とも述べています。17年半も刑務所にいた菅家さんの言葉は、市民の誰もが共感できるものと思いますが、裁判所には届きませんでした。報道機関も、自らの責任に対して多少の検証するところもありますが(例えば、毎日新聞、朝日新聞)、菅家さんに対して真摯に謝罪することはないのですので、裁判所とさほど変わらないのです。

とはいっても、今回、東京高裁は、最高裁や宇都宮地裁と異なって、再鑑定を認め、再審決定をしたのです。この点だけでも、今まで足利事件に関与した数々の裁判官よりも、反省の乏しい報道機関よりも、真実と向き合う意識があり、ずっと真っ当だったということだけは、覚えていく必要があると思います。


 ロ:DNA型鑑定がどうであろうとも、自白した内容には真実味がありませんでした。

「「供述は具体的で体験した者としての真実味がある」。一、二審判決とも自白の信用性を認めた。プロの裁判官は虚偽自白を見抜けなかった。
 弁護側は控訴審で、女児が連れ去られた時間帯に裁判所が検証するよう申し入れたが実現しなかった。「夜、この場に立てば、菅家さんの自白があり得ないことは明らかだったのに」。佐藤博史弁護士は先月十六日の現地調査の現場で語った。
 自白では、殺害現場から裸にして運んでいるが、野バラが群生し、背丈より高いアシが生い茂るのに遺体には傷がない。日が暮れて、懐中電灯もないまま女児を抱えて移動することができるのか。現場に立ちさえすれば、いくつもの疑問がわく。裁判所はその機会を生かそうとせず誤判を重ねた。」


紙面では、詳しく出ていませんが、「自白」によれば、菅家さんは幼女を連れて川岸の運動公園を通り抜けて犯行現場に行ったとされていますが、公園には当時多数の市民がいたにもかかわらず菅家さんを見た者がいませんでした。また、犯行現場は暗く、照明なしに「自白」どおりの行動をするのは、時間帯からして不可能でした。否認の供述を裏付けるスーパーのレシート控えも新たに発見されています(小田中聡樹ほか『えん罪入門』111頁)。こうしたことなど、自白と客観的な事実とは多くの矛盾があったのです。

このように、足利事件では、事件現場を見て検証すれば、「菅家さんの自白があり得ないことは明らかだった」のです。およそ非現実的な内容の自白であったということは、過去の冤罪事例の典型ですから、DNA型鑑定がどうであろうとも、当初から、菅家さんの自白は信用性が認めらないとして、無罪を言い渡すべきだったのです。




2.東京高裁の再審決定の要旨も引用しておきます。

(1) 毎日新聞 2009年6月24日 東京朝刊

足利事件:再審決定要旨

 栃木県足利市で90年、4歳女児が殺害された「足利事件」の再審請求即時抗告審で、無期懲役が確定し釈放された菅家(すがや)利和さん(62)の再審を開始するとした23日の東京高裁決定の要旨は次の通り。

 ◇第1 争点等について

 1審判決及び控訴審判決が菅家さんを犯人と認定した根拠は、(1)犯行現場付近に遺留されていた被害者の半袖下着に付着した犯人のものと思われる体液と菅家さんの体液のDNA型が一致した(2)菅家さんの1審公判及び捜査段階における自白供述が信用できる--の2点に集約できる。再審請求で提出された新証拠も(1)(2)に関し1審及び控訴審で調べられた証拠(旧証拠)の信用性を弾劾しようとするものである。

 当裁判所は、旧証拠、新証拠及び当審における事実取り調べの結果を総合し、現時点において(1)及び(2)の根拠が維持できるか否かについて、検討する。

 ◇第2 DNA型鑑定に関する事実について

 1審判決及び控訴審判決で認定されたDNA型に関する事実は、次の通りである。

 警察庁科学警察研究所の技官らが、菅家さんの体液と下着に付着していた体液のMCT118部位におけるDNA型を123マーカーを用いて判定した結果、16-26型で一致した(本件DNA型鑑定)。両者の血液型も一致し、このようにDNA型及び血液型が一致する者の日本人における出現頻度は1000人中1・2人程度だった。控訴審でも、その後使用されるようになったアレリックマーカーを用いた型番号と123マーカーを用いた型番号は相互に対応し、本件DNA型鑑定の信頼性は失われていないと判断された。

 DNA型鑑定に関して、再審請求で提出された新証拠は、押田茂実・日本大教授作成の検査報告書等。押田報告書は、菅家さんの毛髪のアレリックマーカーを使用したMCT118部位のDNA型が18-29型で、123マーカーによる16-26型に通常対応するとされている18-30型ではないというものだ。

 当裁判所は、上記新証拠の内容、本件の証拠構造における本件DNA型鑑定の重要性及びDNA型鑑定に関する著しい理論と技術の進展の状況等にかんがみ、弁護人が申し立てたDNA型の再鑑定を行う旨決定した。具体的には、鈴木広一・大阪医科大教授及び本田克也・筑波大教授を鑑定人に選任し、下着については、以前の鑑定により切り取られて体液の付着が判明している数カ所の中心点をつないで左右に切り分ける形でこれを2分し、各1片に付着する体液と菅家さんから採取した血液等の各DNA型を明らかにしてそれらが同一人に由来するか否かを判定させた。

 鈴木鑑定によると、常染色体及びY染色体の各STR検査において、下着の体液が付着していた個所の近くから切除した3カ所の部分から、同一のDNA型を持つ男性のDNAが抽出され、それは菅家さんとは異なるDNAだった。体液の付着が確認されていない部分からはDNAが抽出されなかった。

 本田鑑定によると、MCT118部位、Y染色体のSTR検査及びミトコンドリア検査において、下着の体液が多く付着していた個所及びその上下の部位から切除した3カ所以上の部分から、同一のDNA型を持つ男性のDNAが抽出され、それは菅家さんとは異なるDNAであった。

 鈴木鑑定及び本田鑑定により抽出された各男性DNAは、両鑑定に共通するY染色体の6STRの型が一致し、同一人のものであることが推定される。

 検察官は本田鑑定の信用性を争うが、鈴木鑑定は信用性を争わないという。鈴木鑑定のみによっても▽菅家さんのDNAと下着から検出された男性DNAの型は一致していないこと▽その男性DNAは、体液の付着が確認されている個所に近い3カ所の部分から抽出されていること▽体液の付着が確認されていない部位からはDNAが抽出されていないこと--が認められ、鈴木鑑定が用いた体液のDNAの抽出方法については検察官も適切なものと認めていることなどを併せ考慮すると、前述の男性DNAが犯人のものと思われる遺留体液から抽出された可能性が高く、その型は菅家さんの型と一致しないことが認められる。そうすると、本田鑑定の信用性について判断するまでもなく、菅家さんは犯人ではない可能性が高いということになる。

 そして、こうした事実は、確定判決において菅家さんが有罪とされた根拠の(2)である自白についても、その信用性に疑問を抱かせるのに十分な事実と言える。他に菅家さんが犯人であると認めるに足りる証拠はなく、菅家さんが犯人であると認めるには合理的な疑いが生じている。

 ◇第3 結論

 再審請求は、刑事訴訟法の「有罪の言い渡しを受けた者に対し無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見した時」に該当する。再審請求を棄却した宇都宮地裁決定を取り消し、本件について再審を開始し、菅家さんの刑の執行を停止する。

毎日新聞 2009年6月24日 東京朝刊」



(2) 朝日新聞平成21年6月23日付朝刊15面(14版)

「足利事件」再審開始決定主文と理由(要旨)

 「足利事件」で有罪とされた菅家利和さんが申し立てた再審請求に対する即時抗告審で23日、東京高裁が出した決定主文と理由は次の通り。

 主文

 本件について再審を開始する。

 理由

 1審判決及び控訴審判決が申立人を犯人であると認定した根拠は、次の2点に集約できる。<1>犯行現場付近に遺留されていた被害者の半袖肌着に付着した犯人のものと思われる体液と申立人の体液のDNA型が一致したこと<2>申立人の1審の公判及び捜査段階における自白供述が信用できること。

 そこで現時点において<1>及び<2>の根拠が維持できるか否かについて、検討する。

 当裁判所は、DNA型鑑定に関する著しい理論と技術の進展の状況等にかんがみ、弁護人が申し立てたDNA型の再鑑定を行う旨決定した。大阪医科大教授鈴木広一筑波大教授本田克也を鑑定人に選任し、半袖肌着については、以前の鑑定により切り取られて体液の付着が判明している数ヵ所の中心点をつないで左右に切り分ける形でこれを2分し、付着する体液と申立人から採取した血液等の各DNA型を明らかにしてそれらが同一人に由来するか否かを判定させた。

 鈴木鑑定によると、半袖肌着の体液が付着していた個所の近くから切除した3ヵ所の部分から、同一のDNA型を持つ男性のDNAが抽出され、それは申立人とは異なるDNAであった。また体液の付着が確認されていない部分からはDNAが抽出されなかった。

 本田鑑定によると、半袖肌着の体液が多く付着していた個所及びその上下の部位から切除した3ヵ所以上の部分から、同一のDNA型を持つ男性のDNAが抽出され、それは申立人とは異なるDNAであった。

 なお、鈴木鑑定及び本田鑑定により抽出された各男性DNAの型がいずれも一致したため、同一人のものであることが推定される。

 検察官は本田鑑定の信用性を争うものの、鈴木鑑定については信用性を争わないという。

 鈴木鑑定のみによっても半袖肌着から検出された男性DNAが犯人のものと思われる遺留体液から抽出された可能性が高く、その型は申立人の型と一致しないことが認められる。そうすると、本田鑑定の信用性について判断するまでもなく、申立人は犯人ではない可能性が高いということになる。

 そして、この事実は、確定判決において申立人が有罪とされた根拠である自白についても、その信用性に疑問を抱かせるのに十分な事実と言える。他に申立人が本件の犯人であると認めるに足りる証拠はなく、申立人が本件の犯人であると認めるには合理的な疑いが生じている。

 以上からすれば、本件再審請求は、刑事訴訟法435条6号所定の有罪の言い渡しを受けた者に対して無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見したときに該当する。

 よって、同法426条2項により原判決を取り消し、同法448条1項により本件について再審を開始し、同条2項を適用して申立人に対する刑の執行を停止することとして、主文のとおり決定する。」

 
裁判例を理解する場合、「何がポイントとなっているのか」をしっかり把握する必要があります。足利事件では、「どの点がポイントとなって有罪認定されたのか」が最も大事な点です。

 「1審判決及び控訴審判決が菅家さんを犯人と認定した根拠は、(1)犯行現場付近に遺留されていた被害者の半袖下着に付着した犯人のものと思われる体液と菅家さんの体液のDNA型が一致した(2)菅家さんの1審公判及び捜査段階における自白供述が信用できる--の2点に集約できる。」


何度が触れていますが、「足利事件」では、「被告人と犯人との結びつきを示す証拠が、自白の他には、DNA型鑑定しか実質上存在しなかった」(中島宏「MCT118型DNA鑑定の証拠能力」判例時報1776号(判例評論519号)214-217頁(2002年))わけです。すなわち、足利事件において有罪認定の決め手とされたのは、実質上、自白とDNA型鑑定だけだったのです。

東京高裁も、「2点に集約できる」と述べており、「足利事件」のポイントを的確に捉えた上で判断をしているわけです。

ところが、菅家さんを逮捕した栃木県警の元捜査幹部は「DNA型鑑定以外にも、自白だって、状況証拠だって崩れていないじゃないか。動じずに裁判の行方を見守る」と述べています(東京新聞2009年6月5日【栃木】)。このように、栃木県警の元幹部は、「足利事件」判決の最も大事なポイントが分かっていなかったわけです。捜査機関がこうした誤った認識でいる限り、何時までたっても「足利事件」を理解することができず、今後の捜査において冤罪を作り出してしまう要因の1つとなっていくのだろうと思うのです。




3.解説記事を幾つか、引用しておきます。

(1) 朝日新聞平成21年6月23日付夕刊1面「解説」

捜査・公判 どう検証

 東京高裁の再審開始決定は、菅家さんの自由を約17年半にわたって奪った当時の捜査や公判に強く疑問を投げかけるものとなった。

 ただ、菅家さんや弁護団が求めたにもかかわらず、高裁はDNA型の再鑑定をした鑑定人の証人調べなどを行わずに決定を出した。菅家さんの無罪を早く確定させ、名誉を回復させる意図とみられるが、これまでの捜査や公判でどのような誤りがあったのかを検証する機会を失わせかねない側面もある。

 検察側推進の鑑定が科警研の鑑定の信用性に触れなかったのに対し、弁護側推薦の鑑定は科警研鑑定を「誤鑑定」であると指摘していた。高裁は弁護側鑑定の当否は判断しなかったため、これから始まる再審でも弁護側推薦の鑑定は審理の対象とされない可能性が高い。

 しかし、 「誤判定」の指摘が正しいとすれば、有罪の最大の支えだった「科学的証拠」が揺らいでいることにほかならず、検証は避けて通れないはずだ。

 足利事件は「DNA型鑑定が刑事裁判の証拠となりうる」と最高裁が判断した初めての事件だ。再審の法廷で、鑑定人や当時の取り調べ捜査官らを証人尋問するなどして徹底的な検証を行うのかどうか。すべては自らも当事者である裁判所の姿勢にかかっている。 (河原田慎一)」



(2) 東京新聞平成21年6月23日付夕刊1面「解説」

裁判所は誤判の検証を

 東京高裁が菅家利和さんの再審開始を決めたのは、DNA型鑑定に寄り掛かり、虚偽の自白を見抜けなかった捜査機関と裁判所の「敗北宣言」でもある。

 再審開始は、提出された証拠の「新規性」と「明白性」が要件とされる。最高裁の「白鳥決定」(一九七五年)は「新しい証拠が確定判決の事実認定に合理的な疑いを生じさせれば足りる」とした。

 東京高裁の決定は、菅家さんと女児の下着に付着したDNA型を不一致とした再鑑定を「無罪を言い渡すべき証拠を新たに発見したときに該当する」と説明。再審開始は、当然の帰結といえよう。

 検察側は最高検次長検事が菅家さんに謝罪したが、再審決定前の異例の対応について、検察幹部は「裁判員裁判が始まる時期に、検察が追い込まれてから謝罪したと思われるのは避けたかった」と裁判員制度の影響を認める。

 プロの裁判官でも誤判をする。事実認定の判断に不安を感じている裁判員や、裁判員候補者に足利事件の教訓をどう伝えるのか。裁判員裁判を実り多いものにするためにも、高裁の即時抗告審で誤判の原因を探るべきだったのではないか。

 宇都宮地裁で始まる再審では、検察は無罪論告する見通しで、弁護団は実質審理は行われないと危惧(きぐ)している。同地裁が誤判の責任を感じているなら、捜査機関の検証に委ねるのではなく、自らの再審公判の中で検証すべきだ。

 (社会部・荒井六貴)」



(3) 日経新聞平成21年6月23日付夕刊

刑事司法全体の検証必要 裁判員時代、重い説明責任

 過去、実際に起きた「タンスの指紋」という戒めがある。空き巣に入られた家のタンスから指紋が検出され、窃盗の前科がある男性が逮捕された。ところが結果は無罪。男性は家具職人で、このタンスを作った本人だったという

 科学的な証拠があっても、それだけは決め手にならない。鑑定結果や自供を裏付ける事実、犯人しか知り得ない「秘密の暴露」はあるのか。全体を把握すべき捜査幹部が犯人ではない可能性を十分検討したのか。こうした捜査の基本動作を徹底することが、足利事件からまずくみ取るべき教訓だろう。

 釈放された菅家利和さんは会見で、強引な取り調べがあったと話しており、今後、取り調べの全過程を録音・録画する「可視化」議論が再び高まると思われる。

 ただ、栃木県警などが進めている検証では、現段階では「判決でも認定されたように、自白の誘導や押しつけの事実は見当たらない」(警察幹部)といい、「仮に今回の取り調べを録画していれば、逆に有罪の心証を強める恐れがあったのでは」との戸惑いの声も聞かれる。

 取り調べという異常な状況の中では、取調官に迎合してしまう人も多い。自分に都合のいい筋書きを組み立てたり、意図的に第三者を巻き込んだりするケースもある。

 一種の可視化に冤罪(えんざい)防止効果があるのか、 「録画された中では自白率が落ち、真相解明が困難にな」といった指摘とのバランスをどう考えるかなど、なお慎重な検討が必要だ。

 そのためには警察、検察による「身内」の調査だけでは不十分であり、司法の場での検証が欠かせない。東京高裁は弁護団の求めに応じ、捜査段階でDNA型鑑定に当たった担当者や捜査員らに対する証人尋問を実施すべきではなかったか。

 そもそも冤罪事件について、刑事司法の「入り口」である警察の捜査だけを検証しても解決にはつながらない。警察捜査をチェックし、起訴の適否を判断する検察、捜査―公判を通して被疑者・被告を弁護する弁護士、そして裁判所に至るまで、司法システム全体にかかわる問題だからである。

 今回の事件をめぐっては、裁判所に対してもまた、 「自白や科学的証拠を容易に採用する傾向がある」 「再鑑定の決定までになぜ6年も要したのか」といった疑問が投げかけられていることを忘れてはならない。

 2007年に明らかになった富山の冤罪事件でも、裁判所は弁護側が求めた取調官の証人尋問申請を退けた。今年5月に始まった裁判員制度が掲げる理念は「司法への市民参加」 「開かれた裁判」のはずだ。

 肝心の裁判所だけは説明責任の枠外にあるというのでは、改革の実が危ぶまれる。 (編集委員・阪口祐一)」


やっとというべきか、「足利事件」で冤罪が生じた責任としては、裁判所にも問題があることを指摘しています。すなわち、「すべては自らも当事者である裁判所の姿勢にかかっている」(朝日新聞)、「同地裁が誤判の責任を感じているなら、捜査機関の検証に委ねるのではなく、自らの再審公判の中で検証すべきだ」(東京新聞)、「肝心の裁判所だけは説明責任の枠外にあるというのでは、改革の実が危ぶまれる」(日経新聞)といった形で、裁判所も冤罪に関して責任が重いことを指摘してます。

冤罪事件の典型として、自白を強要して「虚偽の自白」を得て、「誤った鑑定」や捏造した証拠を裁判所に提出し、裁判所は、このような「虚偽の自白」や「誤った鑑定」を信用し、「私は犯人ではありません。」という被告人の弁明を信用しない点が挙げられています。裁判所が変わらない限り、冤罪をなくすことはもちろん、冤罪を減らすことさえも困難なのです。




3.識者の見解も幾つか、引用しておきます。

(1) 朝日新聞平成21年6月23日付夕刊18面

■再審こそ市民感覚を

 冤罪事件に詳しいフリージャーナリスト・江川紹子さんの話 裁判所は「どうして無辜(むこ)の人が有罪判決を受けるに至ったのか」という点を徹底的に検証する必要がある。ただ、再審でまともな検証がなされるか、心配だ。富山県氷見市の冤罪事件の再審でも「無罪にすればいいのだろう」と言わんばかりに終結を急いだ。冤罪被害者への本当の謝罪にならないばかりか、同じ問題が繰り返されるだけだ。裁判所は法的安定性を求めるあまり過去の過ちをただすことに消極的で、事実に対する謙虚さや好奇心がなくなっている。裁判員制度が導入されたが、再審請求審にこそ市民が参加する仕組みをつくり、市民の感覚を持ち込む必要がある。

■裁判非難は不合理だ

 東京高裁で刑事事件の裁判長を務めた村上光鵄(こうし)弁護士の話 再審を経て無罪が確定すれば、当初の有罪判決が誤っていたことになる。科学的証拠に対する過信や自白の取り方に問題がなかったのかは検証されるべきだが、必ずしも再審手続きの中ですべきことではない。再審は元の裁判を非難するために行うのではなく、新たな証拠に基づいて文字通り改めて裁判をする手続きだ。今回の決定は、DNA型の再鑑定によって無罪を言い渡すべき新証拠があると判断した。もっと早く、再鑑定をすべきだったとの思いもあるが、元々の裁判でこの新証拠がなかったにもかかわらず、再審開始決定と同じ判断をすべきだっと批判するのは不合理だ。」



(2) 読売新聞平成21年6月23日付夕刊12面

■検証は法廷外で

 再審に詳しい村岡啓一・一橋大大学院教授(刑事法)の話 「冤罪事件には、無実の人がウソの自白に追い込まれるという共通点がある。冤罪の原因をDNA鑑定に求めるだけでは教訓にならず、菅家さんが警察の取り調べで虚偽自白に追い込まれた理由を徹底的に検証しなければならない。ただ、再審での裁判所の役割は誤った判決の是正にあるので、原因究明の責務までは負わせられない。法律の実務家や研究者による第三者機関を作るなどして、虚偽自白を生む司法のあり方を根本から考え直すべきだ。

 ■技術進歩の結果

 DNA鑑定などの科学捜査に詳しい長井辰男・北里大名誉教授(法科学)の話 「科学捜査の元来の目的は、容疑者が犯人であるか、全くの別人であるのかを客観的に識別すること。足利事件の再審開始は、この技術が格段の進歩を遂げ、威力を発揮した結果だと受け止めるべきだ。今後は、科学捜査の持つ中立性や客観性を確立しながら、無用な冤罪事件をなくすために貢献するような活用法を考える必要がある」



(3) 東京新聞平成21年6月23日付夕刊8面

◆鑑定検証ありえた

 元判事の木谷明法政大法科大学院教授の話 再審請求は新証拠に基づいて無罪かどうかを判断する場であり、検察が無罪を認めた以上、その他の審理は必要ないというのは筋論だ。しかし今回は刑の確定後に無罪が判明した異例の事態。捜査・公判の問題を明らかにする意味でも、警察庁科学警察研究所が実施した鑑定の誤りを検証する対応はあり得たと思う。決定の立場は、いかにも官僚的な形式論に思える。

 今回のように公判でも自白を維持したケースはまれだ。弁護人が争わなかった一審で、裁判官が無罪の判断をするのは相当難しいだろう。

 ただ二審以降は、本格的な弁護側の反論を謙虚に受け止める必要があった。自白の不合理性を過小評価したように見える。

 最高裁も弁護人が独自に行ったDNA型鑑定の結論が出た段階で、洗い直すことも可能だった。再審請求審での宇都宮地裁の判断は到底受け入れられない。弁護側が鑑定に使った毛髪が本人のものか疑問があるなら、自ら鑑定をすればよかった。」


これらを見ると、人によって再審についての理解がずいぶんと異なることが分かるかと思います。重要な点について、あまりに理解が異なるのは問題です。

 イ:まず、村上氏は、「元々の裁判でこの新証拠がなかったにもかかわらず、再審開始決定と同じ判断をすべきだっと批判するのは不合理」と述べて、裁判所擁護を繰り広げています。

しかし、木谷先生が述べるように、「二審以降は、本格的な弁護側の反論を謙虚に受け止める必要があった」のですし、「最高裁も弁護人が独自に行ったDNA型鑑定の結論が出た段階で、洗い直すことも可能だった」のです。最高裁自ら、「新証拠」を拒絶していたのですから、「元々の裁判でこの新証拠がなかった」などという言説は、明らかに間違っています。


 ロ:もう1つの問題点は、「科学的証拠に対する過信や自白の取り方に問題がなかったのかは検証されるべきだが、必ずしも再審手続きの中ですべきことではない」(村上光鵄氏)、とか「再審での裁判所の役割は誤った判決の是正にあるので、原因究明の責務までは負わせられない」(村岡啓一氏)と述べる人がいることです。

弁護側は、捜査段階の鑑定が誤っていたことや虚偽の自白の経緯を明らかにするため、鑑定を担当した警察庁科学警察研究所の技官らの証人尋問を求めたが、矢村裁判長は採用しませんでした。村上氏と村岡しは、こうした東京高裁の判断を妥当と判断したわけです。

しかし、木谷先生は、「今回は刑の確定後に無罪が判明した異例の事態。捜査・公判の問題を明らかにする意味でも、警察庁科学警察研究所が実施した鑑定の誤りを検証する対応はあり得た」と述べており、証人尋問を行う方がよかったと批判しています。

再審は、「誤った判決の是正」にあることは確かですが、単なる誤判一般の救済制度ではなく、「冤罪に苦しむ無辜(むこ)を救済する人権保障上の制度」(光藤景皎『口述刑事訴訟法(下)』(成文堂、2005年)96頁)なのです。ですから、再審での裁判所の役割は誤った判決の是正にあるので、原因究明の責務までは負わせられない」(村岡啓一氏)という理解は、問題があります。

請求審の審理

 再審の請求を受けた裁判所は、差し出された趣意書や証拠書類等を審査するとともに、請求人およびその相手方の意見を聴いて裁判しなければなりません(規286条)。この場合、必要があれば、事実の取調べをすることができます(43条3項、445条)。この事実の取調べの方法には、証人尋問・鑑定のほか、押収・捜索・検証、検察官からの未提出記録の取寄せ、公務所への照会などさまざまなものがあります。

 再審請求審理手続は、「被告人であった者の有罪か無罪かを直接審理する手続ではなく、裁判の前段階をなす決定手続にすぎず、当事者主義による対審構造はとっていない」とする考えが従来有力でした(請求人不関与構造)。しかし、事態は次第に改善され、少なくとも証拠調べ等における当事者(または弁護人)の立合いの徹底化、意見聴取の実質化、尋問権の保障など個別の事件に応じて請求人の実質的関与にかなりの前進がみられます(三井誠・鴨良弼編『刑事再審の研究』170頁)。この請求人関与の構造は維持・拡充されることが必要です。

 そういう中で、証拠決定された証拠調を実施しないままで、当事者の意見も聞かず、再審請求を棄却した原決定を抗告審として取り消した仙台高決昭48・18刑月5巻9号1312頁(松山事件)は注目に値します。いわく、刑訴規則286条は、「再審制度が個々の裁判の事実認定の誤りを是正し、有罪の言渡を受けた者を救済することを目的とするところから、再審請求人の意見を十分に酌んだ上で再審請求の理由の有無を判断することが望ましいとしてもうけられたものと解すべ」きである、と。」(光藤景皎『口述刑事訴訟法(下)』106頁)


昔の状況とは異なり、再審制度は、「再審請求人の意見を十分に酌んだ上で再審請求の理由の有無を判断することが望ましいとしてもうけられたものと解すべき」というのが現在の解釈です。とすれば、菅家さん側が冤罪の原因を明らかにするために鑑定人などの証人尋問を求めている以上、証人尋問を認めるのが法律上、妥当というべきです。

この足利事件では、当時のDNA型鑑定は個人の特定としては役に立たないほどの低い精度であり、しかも科学警察研究所の鑑定技術は拙劣であったのに、捜査機関と裁判所は妄信したのです。こうした「捜査・公判の問題を明らかにする意味」でも、警察庁科学警察研究所が実施した鑑定の誤りを検証する対応は妥当です。

このようなことから、木谷明先生の見解の方が妥当であり、村上光鵄氏や村岡啓一氏の見解は妥当とはいえないのです。


 ハ:法律の専門家である以上、個人的な意見を述べることも学問上は妥当なことです。新聞社もそうした少数意見を載せることは、意見の多様性を確保するものだというのかもしれません。冤罪をもたらした裁判所を擁護し、また、証人尋問をしなかった東京高裁の対応を擁護することで、なるべく捜査機関側が犯したミスを擁護するのも、一新聞社の立場なのかもしれません。

しかし、「再審制度は、無辜を救済する人権保障上の制度である」という根本に反するような解釈論を、なんの注釈もなく紙面に掲載することは、市民に対して、再審制度についてひどい誤解を与えるものであって、妥当とは思えないのです。


テーマ:裁判 - ジャンル:政治・経済

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