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2009/06/07 [Sun] 23:58:26 » E d i t
「足利事件」で、無期懲役が確定し、服役していた菅家利和(すがや・としかず)さん(62)は平成21年6月4日、千葉市若葉区の千葉刑務所から釈放されたという報道記事について、各紙で異なった様相を呈しています。そこで、何紙か引用してみたいと思います。まずは、東京新聞です。

東京新聞は、東京新聞平成21年4月23日付朝刊22・23面【こちら特報部】の「『DNA鑑定』再考」において、次のように記しています。

<デスクメモ>

 足利事件最高裁判決の際、各メディアはDNA鑑定万能論に傾いた。ひとり、最高裁がDNA鑑定に「お墨付きを与えたわけではない」と当初のDNA鑑定に対する過大評価に警鐘を鳴らしたのは本紙だった。手前みそだが、孤立を恐れず冷静な解説記事を書いた後輩記者がいたことを誇りに思う。」


足利事件最高裁判決当時から、警察庁科学警察研究所の鑑定については問題視されていたのですから、「DNA鑑定万能論」は妥当ではありませんでした。「孤立を恐れず」に多様な視点を提供したという点だけでなく、妥当な情報を提供したという点でも、東京新聞だけが、国民の知る権利(憲法21条)に奉仕するという報道機関としての矜持を示したといえそうです。



1.東京新聞平成21年6月5日付

(1) 東京新聞平成21年6月5日付朝刊1面(12版)

「人生返してほしい」  菅家さん 17年半ぶり釈放 足利事件

■最高検 問題点検証へ
2009年6月5日 朝刊

 栃木県足利市で一九九〇年、女児=当時(4つ)=が殺害された「足利事件」で、無期懲役が確定して服役中だった菅家利和さん(62)は四日午後、千葉刑務所から釈放された。菅家さんと女児の下着に付着した体液のDNA型が一致しないとする再鑑定を受け、東京高検は無罪の可能性が高まったと判断した。再審開始前の釈放は異例で、東京高裁は近く、裁判をやり直す再審の開始を決定するとみられる。一方、最高検は捜査や公判の問題点を検証する方針を明らかにした。 

 菅家さんは千葉刑務所(千葉市)から釈放された後、同市内のホテルで記者会見し、「本当にうれしく思います。私は無罪で、犯人ではありません。まったく身に覚えはありません。無実だから、鑑定は一致しないと思っていた」と笑顔で語った。

 冤罪(えんざい)を生み出した捜査当局については、「当時の刑事や検察官は、私や家族に絶対に謝ってほしい。絶対に許せない。間違ったでは済みません。自分の人生を返してほしい」と強い口調で訴えた。

 釈放は「検察官は、再審の請求についての裁判があるまで刑の執行を停止することができる」と規定した刑事訴訟法四四二条に基づいており、この規定に基づき釈放されたのは異例。

 無期以上が確定した事件で、再審が開始され無罪となれば、八九年の「島田事件」以来になる。

 一方、最高検は伊藤鉄男次長検事をトップに、事件の捜査や公判の過程を検証する。記者会見した最高検の鈴木和宏刑事部長は「すべての記録、証拠を精査し、確定した受刑者を釈放することになった原因、問題を調べる」と述べ、速やかに結果をまとめるとした。

 また、精度の低い初期のDNA型鑑定を実施した他の事件についても、最新のDNA型鑑定を求められる可能性を考慮、現在残っている証拠品を廃棄せず、保管するよう全国の検察庁に指示する。

 <お断り> 足利事件は再審開始を待たず受刑者が釈放され、再審無罪の公算が極めて大きいことから、呼称を「菅家利和さん」とします。



(2) 東京新聞平成21年6月5日付朝刊1面(12版)【解説】

司法は再鑑定拒むな

 先日16日、事件の発生時とほぼ同じ時間帯に、遺体遺棄現場の渡良瀬川河川敷のアシの中を足利事件の弁護団や支援者と歩いた。懐中電灯もなく女児を連れて暗がりの中を移動できるのか。そんな疑問がわき上がる。菅家利和さんの自白にリアリティーは感じられなかった。

 当時、黎明(れいめい)期のDNA型鑑定が「神話」のように独り歩きし、捜査官が自白内容をろくに吟味しなかったのではないかと強く感じた。

 弁護団が訴えたのは、最新技術によるDNA型鑑定の実施だ。当時は「足利市周辺で同じ血液型、DNA型を持ち、性的犯罪が可能な男性は700人いる」(弁護団)程度の精度。地球の人口以上の4兆7000億人から1人を識別できるほど格段に精度が上がった技術でやり直してほしいという当然の要求だった。

 しかし、司法は耳を貸さなかった。昨年12月、東京高裁が再鑑定実施を決めた時には、殺人罪の公訴時効15年は過ぎていた。冤罪(えんざい)を見逃し、真犯人を捕まえる機会も失った責任は極めて重い。

 足利事件と同時期、DNA型鑑定が有力な証拠となった福岡県の2女児殺害事件がある。殺人罪などに問われ無実を訴えていた元被告は、再審請求を準備中の昨年10月に死刑が執行された。

 米国ではDNA型鑑定が犯人の特定だけでなく、冤罪を晴らす決め手としても活用され、200人以上が無罪になった。日本でも、再審の手続きを踏まなくても、再鑑定を受ける権利を制度化することが求められる。(東京社会部・瀬口晴義)」




(3) 東京新聞平成21年6月5日付朝刊3面(12版)【核心】

取り調べ 全面可視化を
「密室」の検証可能に 菅家さん釈放
2009年6月5日

 17年半ぶりに冤罪(えんざい)が晴れた菅家利和さん(62)は、他にも2件の幼女殺害で「自供」させられていた。4日の釈放後、菅家さんは「刑事たちの責めがすごく、怖くなって『やった』と言ってしまった」と憤った。無実の人が自白する背景に、密室での取り調べは検証できないという問題点がある。裁判員裁判で、裁判員を冤罪に巻き込まないためにも、捜査当局は取り調べの全面録音・録画に踏み出すべきだ。 (社会部・瀬口晴義)

▼検察の敗北

 検察が「白旗」を上げた瞬間だった。

 「無罪を言い渡すべき明らかな証拠に該当する蓋然(がいぜん)性が高い」。東京高検は4日午前に発表したコメントで、再審開始を待たずに「無罪」を認めた。

 1991年12月、DNA型が「一致」したという鑑定結果を基に、栃木県警は早朝から菅家さんの取り調べを始めた。菅家さんは否認を続けたが、深夜に容疑を認め、翌日未明に殺人容疑などで逮捕された。

 足利市には未解決の幼女殺害事件が他に2件あったが、菅家さんは同月末に2件とも「自供」した。1件については再逮捕されたが、宇都宮地検は「物証がない」として不起訴にしていた。

▼「怖い」刑事 

 菅家さんは1審の途中から「刑事が怖くてやったと言ってしまった」と主張。釈放後の会見では「取り調べでうそを言っても、裁判官は見抜いてくれると考えていた」と話したが、1審から最高裁まで、自白調書の信用性に疑問を差し挟む裁判官はいなかった。

 検察と警察は裁判員裁判の対象事件で、容疑者が自白した部分に限った録音・録画を実施。これに対して日弁連は取り調べの全過程を録音・録画する全面可視化を求めている。菅家さんの取り調べが虚偽の自白を生み出したことは、自白部分だけの録音・録画では不十分なことを示しており全面可視化の動きがさらに強まりそうだ。」



DNA型再鑑定 真相解明へ証拠保管

 再審無罪への道を開いた2つのDNA型再鑑定は、ともに法医学の専門家で、検察側が推薦した鈴木広一・大阪医科大教授と弁護側の本田克也・筑波大教授が実施した。

 対象になった女児の下着は1991年の鑑定で、背面の中央部から下方にかけて、犯人の体液が付着した数ヵ所が切り抜かれていた。

 穴の周辺に体液が残っている可能性があるとして、2人は今年1月、下着を半分ずつに切り分け、それぞれDNA型を調べた結果、ともに菅家さんの型とは「不一致」と結論づけた。両鑑定ともに、抽出した複数のDNA型は同一で、犯人の型である可能性が極めて高いとされた。

 鈴木教授は「STR」と呼ばれる最新の方法で「(全部一致しなければ同一とされないが)検査した33個のDNA型のうち、26個が異なった」と説明。本田教授は、捜査段階で実施した「MCT118」と呼ばれる方法でも、菅家さんとは別人と判明したとして「当時の技術的不完全さで、複合してミスがあった可能性がある」と指摘した。

 最高検は、足利事件と同じ時期のDNA型鑑定について、「信頼性が失われているとは考えない」としながらも、再審請求に備えて、現在残っている証拠品を廃棄せず保管するよう全国の検察庁に指示することを明らかにしている。

 すでに公訴時効が過ぎているとはいえ、真犯人のDNA型が明らかになっている以上、捜査当局は性犯罪者のデータベースと照合するなど、真相解明の努力を続けるべきだろう。 (社会部・荒井六貴)」



(4) 東京新聞平成21年6月5日付朝刊27面(12版)

「警察、検察許せぬ」
釈放の菅家さん 語気強め捜査批判
自由の喜び、笑顔一変
2009年6月5日 朝刊

 冤罪(えんざい)を背負わされた怒りに声を震わせた。栃木県足利市で女児が殺害された「足利事件」での逮捕から17年半。菅家利和さん(62)に対する司法の遅すぎた答えは、再審開始が決定する前の異例の釈放だった。 「絶対に許せない。自分の人生を返してほしい」。捜査と裁判への不信感をあらわにした菅家さんは「冤罪で苦しむ人たちを支援していきたい」と力を込めた。

 刑務所を出て約1時間後、千葉市内のホテルで行われた記者会見。グレーのジャケットを着た菅家さんが弁護団とともに姿を見せると、会場から大きな拍手がわき起こった。

 メガネをかけ、短く刈った髪には白髪が目立つ。冒頭で「今日は本当にありがとうございます。釈放されたのは、支援してくれた方や弁護団のおかげです」と丁寧な口調で感謝の言葉を述べた。

 笑顔を交えながら話していた菅家さんの表情が変わったのは、警察や検察に対する感想を聞かれた時。 「謝って済むとは思っていない」「間違ったでは済まない。自分の人生を返してほしい」。真犯人に対しても「絶対に許せません。時効を許してはならないと思う」と語気を強めた。

 菅家さんは、「足利事件」を含めて3件の幼女殺害事件で、虚偽の「自白」をした。その理由を「刑事たちの取り調べが厳しく、髪の毛を引っ張られたり、け飛ばされたりした。無理やり責められ、白状しろ、早くしゃべって楽になれと言われ、どうしようもなくなって自白してしまった」と明かした。 「今後は冤罪で苦しんでいる人たちのために支援をしていきたい」と言う。

 逮捕後に父親を亡くし、母親も2年前の4月に亡くなった。菅家さんは「故郷ですから生まれた所に戻りたい。早く両親のお墓参りに行き、私は犯人ではないですよと伝え、安心してもらいたい」と話した。

 会見の途中、支援者からヒマワリの花束を受け取ると満面の笑みに。「カラオケが大好きで地元でのど自慢大会に出たことがある」と語った菅家さんは「刑務所でも大会に出たが2番でした」と話し、会場の笑いを誘った。

■大きく手を振り支援者に応える

 釈放された菅家さんを乗せたワンボックスカーが4日午後3時47分、千葉刑務所の正面から姿を現すと、待ち構えた支援者らが一斉に手を振り車に駆け寄った。後部座席から身を乗り出し、両手を大きく振って支援者に応える菅家さん。100人を超える報道陣が囲む中、菅家さんは満面の笑みで何度も何度も頭を下げながら、支援者の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

 出迎えた支援者の男性は、菅家さんを乗せた車を見送りながら「長かった。感無量です」と声を詰まらせた。」



検察幹部「勝ち目なかった」

 意見書の提出期限を1週間残し、極めて異例の再審開始決定前の釈放に踏み切った検察幹部は、 「とても勝ち目がなかった」と険しい表情を浮かべた。

 これまで重大事件の多くで、検察は再審開始決定に争う姿勢を示してきた。だが、今回突きつけられたのは、菅家さんと犯人のものとみられる体液のDNA型の不一致という事実。菅家さんと犯行を結びつける唯一の物証が覆る事態に、検察は早々にギブアップするしかなかった。

 菅家さんが捜査段階で自白しているため、今後、取り調べの全過程を録音・録画する全面可視化を求める声が強まる可能性もある。捜査当局は裁判員裁判の対象事件で容疑者の自白部分に限って録音・録画しているが、別の検察幹部は「自白の信用性は一部の録音・録画で十分担保できる」と話す一方、 「最高検の検証チームの調査は、取り調べの手法が中心になるだろう」とも語った。

 警察庁の吉村博人長官は定例会見で「高検の判断を厳粛に重く受け止めている。東京高検の審理や再審公判の推移を見ながら、捜査上の問題点に適切に対処する」と述べた。

 警察庁の幹部の一人は「検察側からの要請で必要な補充捜査を行ったが、再鑑定で明らかになったDNA型の人物の特定には至っていない」と話す。 女児の下着に触れた可能性がある栃木県警捜査員だけでなく、警察庁が保有する約5万人の容疑者から採取したDNA型のデータベースの中で、一致する該当者はいなかったとみられる。

 今回の捜査のあり方について事件当時、栃木県警の鑑識課に所属していた宇都宮市の鑑識鑑定士斎藤保さん(62)は「当時の鑑定の信用性は低く、取り調べもいいかげんだったということ。見込みが先行してしまった」と疑問を投げかけた。

 現場で指紋や足跡の採取を担当したが、証拠になるようなものはなかったという。

 狭山事件などで弁護団の再審請求に鑑定書を提出している斎藤さんは、 「これまでの流れから釈放は当然」と指摘。冤罪事件を生む原因について「検察官の手抜き。本来ならもっと早く、疑義が生じたところで率先して再鑑定を指揮すべきだった。一番だらしない」と話した。」



手放しで喜べない

 日弁連足利事件委員会委員長で弁護団の一員でもある笹森学弁護士の話 検察は鑑定書を読んだ段階で、菅家さんの無実は分かったのだから、もっと早く釈放すべきだった。検察内部で再審はやむを得ないとの判断があったと思うが、意見書では弁護側が推薦した鑑定人の結論を否定している。警察庁科学警察研究所の抵抗で折衷案のような意見書になったのだろう。手放しで喜ぶわけにはいかない。

新しい闘い始まる

 菅家さんの弁護人を務める佐藤博史弁護士の話 再審開始決定を充実したものにするため、菅家さんがなぜ自白し、それを関係者がなぜ見抜けなかったのかをすべて解明したい。二度と足利事件の悲劇を繰り返させないためには、徹底的に解明しなければ、事件は終わらない。明日からまた新しい闘いが始まる。」



(5) 東京新聞平成21年6月5日付朝刊27面(12版)

被害者遺族に会いたい 菅家さん一問一答 
2009年6月5日 朝刊

 記者会見した菅家さんとの主なやりとりは次の通り。

 -今の気持ちは?

 当時、私は急に犯人にされた。全く身に覚えがない。私は無実で、犯人ではありません。刑務所でもつらかったが、一生懸命頑張ってきた。支援してくれた方や弁護団のおかげです。

 -17年間どういう気持ちでいたか?

 犯人にされて、ずっと我慢してきた。当時の刑事と検察官は絶対謝ってほしい。絶対許すことはできない。間違ってただけでは済まない。自分の人生を返してもらいたい。

 -刑務所の中にいたとき菅家さんの両親が亡くなった。

 自分が警察に捕まって、おやじがショックで亡くなった。2年前の4月に、母が亡くなった。つらかったと思う。

 -DNA型再鑑定で不一致という結果が出た時はどう思った?

 無実だから一致しなかったと思った。同房の人と「よかった」と握手した。

 -一審の裁判で、無罪をなかなか主張しなかったのは?

 傍聴席に刑事がいるのではとビクビクしていた。

 -真犯人に対してどう思うか?

 絶対許せない。真犯人には時効があってはならない。時効があっても私は許さない。

 -刑務所を出て最初にしたのは?

 コーヒーをもらった。刑務所のコーヒーとは、ひと味もふた味も違った。

 -墓参りで両親には何と報告したいか?

 自分は犯人でないので両親に安心してもらいたいと思う。

 -亡くなった女児とその両親に対しては?

 女児の両親に会って「私は犯人でない」と伝えたい。墓参りして「おじさんは犯人でない」と伝えたい。

 -これから何をしたいか?

 冤罪に苦しんでる人のために支援していきたいと思う。」



(6) 東京新聞平成21年6月5日付朝刊26面(12版)

自白の過程「解明を」
他の再審請求事件弁護士ら DNA鑑定に批判も

 足利事件で菅家利和さんの再審開始が決定的となり、他の再審請求事件を担当している弁護士らは、一様に喜びの声を上げるとともに、捜査当局の取り調べを批判した。

 静岡県清水市(現静岡市)で起きた袴田事件の再審を求めている小川秀世弁護士は「大変画期的なこと。弁護団の努力が実り、本当によかった」と声を上げて喜んだ。

 「無実の人がなぜ自白するのかという心理的メカニズムを理解できていない裁判官がいまだにいる。同じことを繰り返してはいけない。再審では、どのような取り調べが行われたのかを明らかにしてほしい」と願った。

 埼玉県の狭山事件再審弁護団の中山武敏主任弁護人も「他の事件で再審を求めている関係者を力づける」とした上で、 「狭山事件でもさまざまな鑑定書を出しているが書面審理だけ。他の事件もきちんと事実調べをすべきだ。取り調べの可視化で完全に録音・録画されれば、足利事件のようなことは起きない」と捜査側を批判した。

 12人の被告全員が無罪となった鹿児島県志布志市の選挙違反事件で、取り調べ中に親族の名前を書いた紙を踏まされた川畑幸夫さんは「密室でガンガン調べられると、頭が変になりそうになる。取り調べの一部可視化が行われているが、都合のいい部分だけ調書を採られたら犯人が作られる」と話した。

 富山県警に強姦(ごうかん)などの疑いで誤認逮捕され約2年間服役後、再審で無罪が確定した柳原浩さんは「当時のDNA鑑定は精密ではないのに、信じ込んだ警察が悪い」と批判。その上で「確かと思われた物証でも覆ることがある。それに、なぜ自白してしまったのか。私のときと同様に、取り調べで強制があったのではないか。早く取り調べの全面的な可視化を実現すべきだ」と話した。

 日本で初めて犯罪捜査にDNA型鑑定を取り入れた石山夫・帝京大名誉教授(法医学)は「事件当時の鑑定がずさんだったのではないか。技術と経験を持った人が鑑定したのではなく、ジェット機の運転を素人がやったようなものだ。こういうことが起こると以前から思っていた。釈放は当たり前のことだ」と指摘した。」



■他への影響限定的

元東京地検特捜部長の河上和雄弁護士の話 有罪の基礎となったDNA型鑑定結果が崩れたのは決定的で、検察側が再審開始を容認したのは当然。無罪証拠に当たるとの結論を出した以上は、速やかに釈放した判断も妥当といえる。DNA型鑑定の精度が低かった当時に、鑑定結果が決定的な証拠になった事件は極めて少ないと思われ、ほかの事件への影響は限定的だろう。自白偏重との批判は免れないが、その結果、「自白がなければ無罪に違いない」という風潮が強まることになれば、裁判員制度を控えた日本の刑事司法は立ち行かなくなり、その点が危惧(きぐ)される。

■可視化要請強まる

宮崎誠・日弁連会長の話 検察が再審開始を容認し、菅家利和さんの身柄を解放したことを高く評価する。足利事件は、冤罪(えんざい)者であっても容易に自白する現実をあらためて明白にしたもので、取り調べの全面可視化の要請は一層強まった。」



(7) 東京新聞2009年6月5日【栃木】

県警、関係者『無罪判決ではない』2009年6月5日

 威信をかけて菅家さんを逮捕したはずの県警。釈放されたことで当時の捜査のあり方にも厳しい目が向けられることになり、幹部は四日、不測の事態の対応に追われた。

 宇都宮地検から刑の執行停止の一報が入ったのは午前十時二十分ごろ。県警は「釈放であり、無罪判決が出たわけではない」とテレビカメラの前での会見を拒否。午後二時、高田健治刑事部長の「執行停止は重く受け止める」というコメントを白井孝雄刑事総務課長が読み上げた。

 白井課長は「事件当時のDNA型鑑定は、当時の方法にのっとり適正に行われた」と釈明。一方、女児の下着に付いた体液と菅家さんのDNA型が不一致だった再鑑定の結果を受け、県警は「下着に触れた第三者のDNAを抽出した可能性がある」として直前まで元捜査員らのDNA型鑑定まで進めていた。

 誤認逮捕や自白強要の可能性、真犯人の再捜査についても白井課長は「審理を見守りたい。とにかく重く受け止めている」と繰り返すだけで、厳しい表情を崩さなかった。

    ◇

 菅家さんを逮捕した県警の元捜査幹部は「高検の判断が出たことは、受け止めるよりほかに仕方ない」と苦渋の表情。だが「再審開始イコール無罪ではない」とも強調した。

 菅家さんが自白したとされる十八年前の夜。足利署捜査本部の取調室で捜査員の手を握り、泣きながら「やった」と認める菅家さんの姿と、大勢の市民が署を取り囲んだ様子が目に焼きついている。

 「県民の期待のもと、全力の捜査だった。間違いはない。DNA型鑑定以外にも、自白だって、状況証拠だって崩れていないじゃないか。動じずに裁判の行方を見守る」と、自らに言い聞かせるようにつぶやいた。」



(8) 東京新聞2009年6月6日【栃木】

足利事件 県警には批判相次ぐ 『名誉回復市民の総意』
2009年6月6日

 足利市の大豆生田実市長は五日、市議会閉会後、足利事件で無期懲役が確定し再審請求中の菅家利和さん(62)が釈放されたことについて、記者団の質問に応じた。「菅家さんの名誉回復は足利市民の総意。こちらに戻ってこられるのであれば心からお迎えしたい。市としてもできるだけのことを考える。陰で支えてこられた方々にも心から敬意を表したい」と話した。

 大豆生田市長は菅家さんとの面会を強く希望しているとしたうえで、どのような言葉をかけるのかとの問いには「菅家さんが逮捕された時、私も彼が犯人だと思った。お気持ちをお察しすると取り繕うようなことはとても言えない」と険しい表情で語った。

 一方、菅家さんを殺人などの疑いで逮捕した県警には四日から五日にかけ、一般市民から当時の捜査に対する批判などが相次いだ。

 県警の県民広報相談課のまとめによると、五日午後四時までに寄せられた足利事件に対する意見は三百三十四件。内訳は電話が二百六十八件、メールが六十六件で、ほとんどが「県警は何をやっている」「謝れ」などといった批判だったという。」





3.最後に、東京新聞の社説を。

(1) 東京新聞平成21年6月5日付朝刊【社説】

足利事件釈放 もっと早く救えたはず
2009年6月5日

 「足利事件」で服役していた男性が釈放された。DNA型再鑑定は男性が犯人でないことを示していたから当然だ。再審開始前の釈放は前例がないことだが、もっと早く冤罪(えんざい)から救えなかったか。

 一九九〇年五月に栃木県足利市内で殺害された保育園女児が見つかった「足利事件」で、翌年十二月に殺人容疑で逮捕された菅家利和さん(62)は一、二審とも無期懲役の判決を受けた。最高裁はDNA型鑑定の証拠能力を初めて認定して有罪判決が確定。菅家さんは服役中だった。

 菅家さんは無罪を訴えて再審請求し、東京高裁で抗告審が続く。被害者の衣類に付いた体液のDNA型は菅家さんのものとは一致しないという再鑑定が出て、再審開始が確定的になった段階だ。

 東京高検は再鑑定を「無罪の証拠に当たる蓋然(がいぜん)性が高い」とする意見書を高裁に提出、菅家さんの刑の執行を停止した。再審開始決定を待たず受刑者を釈放したのは前例がないが、妥当な決定だ。

 再鑑定の「一致しない」は「別に犯人がいる」ことを示すものであり、刑事裁判の原則「疑わしきは被告人の利益に」どころではない。冤罪の菅家さんを速やかに釈放しなければ、国家による人権侵害を続けることになる。

 DNA型鑑定は現在、科学的で客観的な立証手段となった。検察が今回の再鑑定を評価せずに異議を唱えては、ほかの裁判や捜査全般にまで影響が及びかねない。

 これまでの検察であれば、受刑者を釈放せず徹底的に争ったかもしれない。しかし、裁判員制度がスタートした。「開かれた検察」として人権尊重をアピールする意味もあったのではないか。

 弁護側は宇都宮地裁での再審請求で、菅家さんの毛髪からDNA型を調べた結果、警察の鑑定とは異なるとの再鑑定を提出した。

 だが、地裁は請求を棄却した。この司法判断に誤りはなかったのか。「使われた毛髪が請求人(菅家さん)のものと確認できない」という理由だが、そうであれば地裁の職権で再鑑定すべきだった。

 裁判官は事件に先入観を持ったり、結論ありきで臨むことは許されない。訴追する検察側に対するチェック機能も忘れてはならない。

 逮捕から釈放までに十七年半もかかった。司法の真摯(しんし)な姿勢があれば、もっと早く菅家さんを救えたはずだ。検察庁が再検証するのは当然だが、裁判所も再調査して誤判防止に役立てるべきだ。」



(2) 引用した分量から分かるように、「足利事件」について、かなりの紙面を割いて記事にしています。6月5日付の新聞報道のうち、実に充実した内容となっています。菅家さんの記者会見での発言を中心にして、再鑑定の保障を認めていくことや、取り調べの全面可視化の必要性を強調した内容作りとなっています。

「「足利事件」の菅家さん、17年半ぶりに釈放~再審開始が確定的に」(2009/06/06 [Sat] 16:53:34)において、「足利事件」報道において必要なポイントとして、5点ほど挙げておきました。

すなわち、<1>「足利事件」では、信用性に欠ける当時のDNA型鑑定を妄信し、暴行を加えてまで虚偽の自白を強要した点が冤罪の原因あり、警察と検察に最大の責任があること、<2>信用性に欠ける当時のDNA型鑑定にお墨付きを与えた最高裁判例(最高裁平成12年7月17日決定刑集54巻6号550頁)など裁判官も重大な責任を負っていること、<3>「逮捕=有罪」視する報道や、DNA型鑑定という新しい科学的捜査手法・科学的証拠に対して批判的な姿勢をしなかったという不作為責任が報道機関にもあること、<4>警察、検察、裁判所が、菅家さんやそのご家族の人生を台無しにしてしまったこと、<5>「足利事件」の本当の真犯人が処罰を免れてしまったこと、<6>「飯塚事件」では、同じく信用性に欠ける当時のDNA型鑑定に基づいて久間三千年さんに対して死刑が確定し、刑が執行されてしまったこと、です。

これら5点のうち、東京新聞だけは<3>の点は免れるとして、ほとんどの点について言及しているため、市民に対して十分な情報を提供をしているといえます。ただ、難点を言えば、<2>の点への言及が弱いといえるかと思います。


テーマ:裁判 - ジャンル:政治・経済

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