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主に社会問題について法律的に考えてみる。など。
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2009/06/11 [Thu] 23:59:43 » E d i t
1997年に臓器移植法は制定され、3年の見直し規定があるにもかかわらず、一度も改正されたことがありません。ところが、今国会において臓器移植法改正案が採決されようとしています。そこで、臓器移植法のあり方を考えるため、東京新聞は、「命の選択~臓器移植法改正を問う」という連載記事を掲載していましたので(東京新聞5月26日~30日連載)、紹介したいと思います。

連載記事は、「子どもの臓器提供は認められるのか。脳死は人の死とされるのか。2つの大きな問題を中心に、臓器移植のあり方を考える」ものです。そして、連載記事を大別すると、臓器移植を拡大する理由・必要性と、臓器移植を慎重にする理由について触れたものの2つに分けることができます。あらかじめ2つに大別して紹介します。


1.臓器移植を拡大する理由・必要性

(1) 東京新聞平成21年5月26日付朝刊24面「命の選択~臓器移植法改正を問う」(1)

年齢制限 焦る親「日本で助けて」

 4月のある晴れた日の午後。千葉県富津市の中学一年生金子亮祐君(12)は、自宅近くの空き地で父豊さん(43)のグラブに思いっきり直球を投げ込んだ。1年前に心臓移植を受けた体とは思えない躍動感があった。

 幼いころに原因不明の難病「川崎病」にかかり、後遺症で小学四年の暮れに心筋梗塞(こうそく)を起こした。2ヵ月半も意識が戻らず、その後は人工心臓の助けを借りて病院で寝たきりの状態が続いた。医師から心臓移植でしか助からないと言われ、さらに日本では15歳未満の子どもの臓器提供が禁止されていることを知る。豊さんは一時は絶望したが、海外での移植に望みをつなごうと決意した。

 友人らの支援で「救う会」が発足。1億円を超す募金があり、昨年3月にロサンゼルスの病院で10時間の大手術を受けた。手術は成功し、昨年6月に1年半ぶりに帰宅。半月後には所属していた野球チームの試合で始球式を務めるまでに元気を回復した。以前は冷たかった手足も、血のめぐりがよくなり温かくなった。

 「ドナーになってくれた子は、ぼくの中で友達になって一緒に動いている」と亮祐君。今年3月の「第二の誕生日」には心臓を提供してくれた子の分のケーキも切り分けた。「医者になってみんなの命を助けて恩返ししたい」と将来の希望を口にする。元気になった亮祐君を見つめながら豊さんは感じる。 「日本では臓器を提供したいという善意を法律が制限している」

          ■

 「私たちは2歳になる鳳究(ほうく)の命をあきらめることができない。みなさまの善意の力で、息子の命を助けていただければ」。25日午後、東京都庁。三鷹市の会社員片桐泰斗(やすと)さん(31)は記者会見を開き、必死に訴えた。

 鳳究君は昨年10月、拘束型心筋症と診断された。早期に移植手術をするしか命を救う方法はないとされ、今年2月、大阪大の福嶌教偉准教授の仲介で米コロンビア大病院に打診した。

 だが、同大では臓器移植に占める外国人の割合を5%に制限。今年に入って4人の日本人が移植を受けるなど米国人以外で5%に達したため、受け入れがかなわなかった。

 背景には世界的な臓器提供者(ドナー)不足がある。欧州で唯一、臓器移植が可能だったドイツが、3月から外国人の受け入れをやめたことも影響した。

 その後、幸運にも米国の別の大学病院で内諾が得られた。泰斗さんは、手術と渡航に必要な1億円の募金を呼びかけるため妻と会見に臨んだのだった。

 「国内で治療したいが、法律でできない。私たちには時間がないのです。こんなことはうちの子で最後にして、次の子からは日本で助けてもらいたい」

          ◇

 1997年の臓器移植法成立から12年。海外での臓器移植の自粛を求める世界的な流れを受け、国会は長い間たなざらしにしてきた法改正の審議を始めた。子どもの臓器提供は認められるのか。脳死は人の死とされるのか。2つの大きな問題を中心に、臓器移植のあり方を考える。

===========================================================
【海外での移植】 日本移植学会などによると、臓器移植法制定後、海外で心臓移植を受けた18歳未満は約60人。その10倍近い約500人が、渡航できずに死亡したとみられる。子どもに限らず、海外で移植を求める人が多くなり、国際移植学会は昨年、海外渡航移植の自粛を促すイスタンブール宣言を採択した。世界保健機関(WHO)は来年、臓器移植の自国内完結を促す指針を採択予定。」



(2) 東京新聞平成21年5月27日付朝刊26面「命の選択~臓器移植法改正を問う」(2)

ドナー 死んでも、生き続けて

 念願の渡米からわずか6日目の朝のことだった。昨年12月、横浜市の会社員中沢啓一郎さん(37)の長男聡太郎ちゃん=当時(1つ)=は、心臓移植を受けるためカリフォルニア州の病院に入院したが、容体が急変した。

 医師による心臓マッサージの間、啓一郎さんは「また復活して笑顔を見せてくれる」と信じていた。しかし、1時間後、 「もう戻りません」と医師から告げられた。妻奈美枝さん(34)と冷たくなった一人息子を抱き続けながら、あることに思いが至った。

 「聡太郎の目がだれかの目になって、その人の視界が開けたら役に立てる。聡太郎も同じ空を見ることができる」

 放心状態の中、二人は医師に聡太郎ちゃんの角膜と心臓弁の提供を申し出た。移植を待つ人や家族の気持ちが痛いほど分かったからだ。

 結局、細菌感染の可能性があったため、提供は見送られた。 「2回亡くなったような悲しみに包まれた」と啓一郎さんは振り返る。

 夫妻は帰国後、日本でも子どもの臓器移植ができるように願い、運動を続ける。一方で、臓器提供者(ドナー)への社会の気遣いや敬意も移植の普及に必要と考える。ドナー家族が好奇の目で見られ、傷つくケースがあるからだ。「ドナー家族が豊かな気持ちで生活できる社会が必要です」

          ■

 子どもの突然の死に接し、栃木県内の母親は心が揺れた。次男(4つ)=当時=が車にはねられ、宇都宮市内の病院に運ばれた。医師は「危険で手術もできない。一晩もつかどうか」。名前も呼びながら手足をさすり、いつも読む絵本を読んで聞かせた。手は温かいのに、握りかえしてこない。心電図のモニターが少しずつ弱くなっていった。

 「自分が産んだ子が骨と灰になっちゃう。4つで、まだ何もしていないのに。生きていれば、何かの役に立つ人生になったかもしれないのに、このままいなくなっちゃうんだ」

 ふと、ある言葉が浮かんだ。一度も考えたことがなかった臓器提供。 「わが子が何かで生き続けてほしい。生きていたっていう証しを残したい」という願いだった。

 父親は移植の話を聞いて最初は戸惑った。でも「長く生きていてくれるのならいいな」と思い、二人で医師に申し出た。心臓は夕方に停止し、腎臓が成人女性に移植された。

 あれから5年。女性の様子を移植コーディネーターから聞くたびに、 「息子も一緒に成長させてもらっている」と思う。

 「家族ごとに選択があっていいし、その選択を普通に話せる社会になったいいな」。母親はそう語り、事故の前日に次男にせがまれて買った長靴を取り出して、いとおしそうに見つめた。」





2.臓器移植を慎重にする理由

(1) 東京新聞平成21年5月28日付朝刊30面「命の選択~臓器移植法改正を問う」(3)

長期脳死 今も成長 生きている

 「キィーーー」。午後5時すぎ、夕食の支度をしていた横浜市の布川美佐子さん(47)が急ブレーキの音を聞いて外に出ると、交差点で小学三年の長男雄大君=当時(9つ)=が、女性に抱きかかえられ「痛い、痛い」と叫んでいた。

 1995年9月、雄大君は「ちょっと一回りしてくる」と自転車で出掛け、女性が運転するワゴン車にはねられた。救急病院に運ばれたが、頭蓋(ずがい)骨骨折や脳挫傷などで意識不明となり、12日目に脳死状態と診断された。

 事故の翌日は雄大君が楽しみにしていた運動会。「みんな踊ったり、走ったりしているよ。目を覚ましなよ」。美佐子さんが耳元で懸命に話し掛けると、雄大君の両目の端から涙が伝った。温かい体をさすり続ける。事故から19日目、息が絶え、心臓も止まった。

 「最後の1週間はとても大切な時間だった。脳死は人の死じゃない」と美佐子さんは言う。

 国会では脳死を人の死とした上で、家族の承諾で臓器提供を認めるかどうかが焦点となっている。美佐子さんは「突然の事故の際、家族は冷静ではいられない。医師の説明で誘導されたら、臓器提供を承諾してしまう人も増えるだろう。脳死が人の死になったら、命を救うより臓器を取り出す方が優先されてしまう気がする」と不安を感じている。

 15歳未満の臓器提供が議論される度に、居たたまれない気持ちになる人もいる。長期脳死と呼ばれる状態の子を持つ親たちだ。

 関東地方に住む、みづ君=愛称=(9つ)は臨床的脳死と診断されてから8年半、人工呼吸器を付けたまま、成長を続けている。5項目の小児脳死判定基準のうち、脳波や瞳孔など4項目を満たす。残りの無呼吸テストは、体に負担がかかり命の危険があるため、行っていない。

 1歳2ヵ月だった2000年11月、激しいけいれんで救命救急センターに運ばれた。生命の危機を乗り越え5年前には在宅ケアに移行した。

 71センチだった身長は110センチ、体重は9キロから18キロに。歯も11本生えかわった。夫婦げんかをすると、みづ君の心拍数が上がる。汗もかくし、排便もする。母親は「親として毎日してあげることがたくさんある。ささやかな幸せを感じられるのは、生きているから」と訴える。

 医師から「もうダメでしょう」と二度言われた。あきらめかけたが、みづ君は死のふちからはい上がってきた。生きたいという意思が痛いほど伝わってきた。「息子が頑張っているのに親があきらめたらおかしいですよね」

 移植を待つ親の気持ちはよく分かる。子どもに「生きてほしい」と願う気持ちは同じだからだ。だが、息子は生きているのに、法律で脳死が死と決められたら、臓器という「モノ」としてしか、存在価値を認められないのではないか。 「脳がダメだと生きてちゃいけないのでしょうか」

================================================================
【長期脳死】 脳死は全脳の機能が停止し、決して元に戻らない状態。脳血流があっても脳死とされる。日本移植学会によると、脳死に陥ると自発呼吸できず、約半数は2-3日で、90%以上は1週間以内で心臓停止に至る。一方、臨床的脳死と診断後、長期間心臓が停止しない症例もあり、長期脳死とも呼ばれる。特に小児に多いとされる。」




(2) 東京新聞平成21年5月29日付朝刊26面「命の選択~臓器移植法改正を問う」(4)

偏見 提供家族を尊ぶ社会に

 「息子さんの腎臓で、いくらもらえるんですか?」

 岐阜市の男性(76)は、散歩中に近所の人に掛けられた言葉が、10年たっても耳から離れない。臓器提供者(ドナー)となって19歳で他界した長男の葬儀から、1ヵ月後のこと。青ざめ、手が震えた。

 長男が意思表示カードを持ったのは、臓器移植法が施行された1997年。角膜移植で視力を得た老人が「この目で見る世界は想像より美しい」と感激する姿をテレビで見たからだ。

 2年後、友人の車に同乗して事故に遭った。 「息子の最期の願いをかなえなければ」と、男性は血だらけの車内からカードを捜し出した。

 病院に脳死判定できる医師がおらず、提供できたのは心停止後の腎臓と角膜にとどまったが、無償で4人を救った長男は両親の誇り。それなのに―。

 「ここ、ここだよ。息子の腎臓を売った家」。男性の妻が、家の外からの心ない声を耳にしたのは一度や二度ではない。 「あの子はすごい子なのに、世間は『物好き』 『いくらで売った』と卑しめた」

 そんな経験は自分たちだけではないと、やがてドナー家族の交流会で知る。家族の臓器の提供を非難されて近所や親類から冷たくされた人が大勢いた。 「つらい思いをした上に、中傷までされるなんて」。妻は、長男と一緒に作ったカードの丸の位置を最近、 「臓器提供をしません」に書き換えた。

          ◇

 「移植は信頼関係の医療。だから、提供する家族を一番大事にして細やかな配慮を心掛けている」

 昨年来、脳死での臓器摘出を3例、扱った名古屋第二赤十字病院の看護副部長で院内コーディネーターの一人、江上菊代さん(56)は言う。

 その中に、肉親がカードを所持していることを初めて知って揺れ続けた家族がいた。 「これが本人の気持ちなんだよね」。同意の署名後も「これでいいんだよね」と何度も確認し合っていた。

 現行法で「人の死」ではない脳死は、ドナーの家族が承諾して初めて「死」となる。江上さんは臓器摘出手術までの6日間、家族にずっと寄り添い続け、不安げな表情を見逃さず声を掛けた。 「お気持ちが変わったら、いつでも言ってくださっていいのですよ」

 摘出が終わり、家族から涙ながらに言われた。 「この病院に連れて来てもらい、遺志を通せて、あの子は幸せでした」。江上さんは「良いお手伝いができた」と、心から頭を下げた。

 臓器移植は命の犠牲の上に成り立つ。だがドナーを敬い、その家族を支え励ます社会なのだろうかと、岐阜市の夫婦は冷めた目で今の改正論議を見つめる。「家族を気遣う文言がない法律では、どの改正案が通っても臓器提供は増えないでしょう」

===============================================================
【ドナー家族の支援態勢の違い】 米国にはドナー家族の権利章典があり、全米ドナー家族協議会や政府が一体で家族を支える。2年に1度、全米規模の感謝式典がある。全米臓器配分ネットワーク「UNOS」本部(バージニア州リッチモンド)にはドナーの名前を刻んだ壁が設けられ、見学コースに含められている。日本ではドナー家族が自分たちで複数の交流会を運営。最近は移植者団体との交流も始まっている。」




(3) 東京新聞平成21年5月30日付朝刊26面「命の選択~臓器移植法改正を問う」(5)

医師苦悩 虐待児 見逃す可能性も

 「呼吸が戻っても脳死と呼ぶのか」 「脳全体の細胞が死ななくても脳死と言えるのか」―。一昨年11月、東京都内で開かれた「日本脳死・脳蘇生(そせい)学会」のシンポジウムで、医師らの質問が相次いだ。

 「脳死に共通の理解がない。多くの医師も分かっていないのでは」と大阪医大の田中英高准教授は疑問を投げかける。

 臓器移植法改正案のA、D案は子どもの脳死移植に年齢制限を設けない。日本小児科学会の会員調査では、子どもの脳死診断が可能かとの問いに15%が「不可能」、48%が「分からない」と答えた。田中准教授は「本当に脳死でいいのか脳細胞が死んでいるのか。分からないから皆、怖いんです」と解説する。自身も、脳死診断後に300日以上も心臓が動き続ける長期脳死の子どもに出会ってきた。

 子どもの脳死診断基準は、厚生労働省の研究班が2000年に作った案がある。項目は大人と同じで、脳の機能が失われて二度と回復しない状態かどうかを判定する。

 田中准教授は「脳の一部が生きていても脳死ですよ、とちゃんと言わなければ。でも、それでは混乱するから、脳死臨調をまた開いて脳死の定義を皆で決めたらいい。国民がOKなら、神経が生きていても血流が残ってても脳死なんだと。それでもええんです」。

 脳死判定に詳しい横田裕行・日本医大病院副院長は「2000年の基準で判定できる。世界水準で見ても標準的」と現行の判定基準を評価する。 「ただ、きちんと判定することがすごく重要。その仕組みは整えなければならない」と話す。

 最前線の救急医らにも戸惑いがある。 「ドナーカードなしに急に移植の話を親に切り出すのか」。川口市立医療センター(埼玉県)の高山泰広医長は戸惑いを隠さない。

 「ノルマのように提供者を出すことにならないか」も心配だ。たとえば、高山医長の統計では、体温を下げて脳を保護する脳低体温療法をしなければ脳死者が増える。提供の多い病院がいいとなれば、治療法が変化する可能性もあるという。

 虐待児の子どもから臓器を移植し、犯罪を見逃す可能性も指摘される。日本移植学会の寺岡慧理事長は「疑いある場合は司法解剖される。心臓死の子どもの臓器提供は36例あるが問題は起きていない」と説明する。

 基本的に外傷の死亡は疑われるが、京都大病院で娘の点滴にスポーツ飲料などを混ぜた母親のような例もある。別の救急医は「見逃す場合はそもそも怪しいとさえ思わない。提供しようとする親がかえって疑われないか」とする。

 どう親に話すのか、どこまで疑うのか、そして脳死とは何か。患者が頼るべき医師たちも悩みを抱える。=おわり

 (東京社会部・安藤淳、西田義洋、科学部・永井理、名古屋社会部・島崎諭生、片山夏子が担当しました)

===============================================================
【子どもの脳死判定基準】 6歳以下の子どもで2回の脳死判定の間隔を24時間以上とする以外は成人と同じ。生後12週未満の乳児は諸外国でも除外しているため、除外する。旧厚生省の研究班が子どもの脳死症例139例を検討してまとめた。」



臓器移植法 改正案の特徴

ア 現行法
 1 人の死:心停止、呼吸停止、瞳孔の反射そう失の3つの原則+生前に提供意思がある場合のみ脳死を人の死とする
 2 提供の年齢:15歳以上
 3 提供条件:本人の意思表示+家族の同意

イ A案
 1 人の死:3兆候を原則として、一律に脳死を人の死に含める
 2 提供の年齢:0歳以上
 3 提供条件:本人が拒否していない+家族の同意

ウ B案
 1 人の死:現行法と同じ
 2 提供の年齢:12歳以上
 3 提供条件:現行法と同じ

エ C案
 1 人の死:現行法と同じ
 2 提供の年齢:15歳以上
 3 提供条件:現行法と同じ

オ D案
 1 人の死:15歳以上は現行法と同じ。15歳未満は家族が代諾した場合だけ脳死を人の死とする
 2 提供の年齢:0歳以上
 3 提供条件:15歳以上は現行法と同じ。15歳未満は家族同意+第三者委員会の審査」




3.「日本では臓器を提供したいという善意を法律が制限している」と、誰もが思うでしょう。「日本移植学会などによると、臓器移植法制定後、海外で心臓移植を受けた18歳未満は約60人。その10倍近い約500人が、渡航できずに死亡したとみられる」と知れば、日本で移植できるように改正すべきだと思うはずです。

他方で、臓器移植問題について、よく知らない人はもちろんのこと、臓器移植法改正A案に賛同している人であっても、「臓器移植を慎重にする理由」の内容には強いショックを受けたのではないかと思います。

(1) 強いショックを受けたと思われる点は次の部分でしょう。

「関東地方に住む、みづ君=愛称=(9つ)は臨床的脳死と診断されてから8年半、人工呼吸器を付けたまま、成長を続けている。5項目の小児脳死判定基準のうち、脳波や瞳孔など4項目を満たす。残りの無呼吸テストは、体に負担がかかり命の危険があるため、行っていない。(中略)
 71センチだった身長は110センチ、体重は9キロから18キロに。歯も11本生えかわった。夫婦げんかをすると、みづ君の心拍数が上がる。汗もかくし、排便もする。母親は「親として毎日してあげることがたくさんある。ささやかな幸せを感じられるのは、生きているから」と訴える。(中略)
 移植を待つ親の気持ちはよく分かる。子どもに「生きてほしい」と願う気持ちは同じだからだ。だが、息子は生きているのに、法律で脳死が死と決められたら、臓器という「モノ」としてしか、存在価値を認められないのではないか。 「脳がダメだと生きてちゃいけないのでしょうか」」(「命の選択~臓器移植法改正を問う」(3))



「息子さんの腎臓で、いくらもらえるんですか?」
 岐阜市の男性(76)は、散歩中に近所の人に掛けられた言葉が、10年たっても耳から離れない。臓器提供者(ドナー)となって19歳で他界した長男の葬儀から、1ヵ月後のこと。青ざめ、手が震えた。(中略)
 病院に脳死判定できる医師がおらず、提供できたのは心停止後の腎臓と角膜にとどまったが、無償で4人を救った長男は両親の誇り。それなのに―。
 「ここ、ここだよ。息子の腎臓を売った家」。男性の妻が、家の外からの心ない声を耳にしたのは一度や二度ではない。 「あの子はすごい子なのに、世間は『物好き』 『いくらで売った』と卑しめた」
 そんな経験は自分たちだけではないと、やがてドナー家族の交流会で知る。家族の臓器の提供を非難されて近所や親類から冷たくされた人が大勢いた。 「つらい思いをした上に、中傷までされるなんて」。妻は長男と一緒に作ったカードの丸の位置を最近、 「臓器提供をしません」に書き換えた。」(「命の選択~臓器移植法改正を問う」(4))



「「呼吸が戻っても脳死と呼ぶのか」 「脳全体の細胞が死ななくても脳死と言えるのか」―。一昨年11月、東京都内で開かれた「日本脳死・脳蘇生(そせい)学会」のシンポジウムで、医師らの質問が相次いだ。
 「脳死に共通の理解がない。多くの医師も分かっていないのでは」と大阪医大の田中英高准教授は疑問を投げかける。」(「命の選択~臓器移植法改正を問う」(5))



ドナーとなり得る市民の側から、これらの点を読んで感じることは、端的に言えば、次のように言えるかと思います。

<1>脳死状態であっても、生物として生きている証しといえる「成長」を続けることができるとしたら、15歳未満の子どもからの臓器移植につき、A案のように歯止めなく臓器提供を認めることは、それこそ「成長」という生命の証しを奪うことになるのではないか。

<2>臓器移植のドナー家族側は、家族の死という辛い思いをしながら「善意の提供」をしたにもかかわらず、世間からは「物好き」 「いくらで売った」と卑しめられ、中傷されるのであれば、どんなに臓器移植法を改正しようとも、臓器提供する者が増加するわけがない。

<3>脳死判定をする側である医師の多くが、脳死とは何かについてよく分かっていないのは驚きである。ごく一部の医師であればよいのだが、「日本脳死・脳蘇生学会」のシンポジウムに出てくるような医師でさえ、脳死がよく分かっていないのであれば、脳死を前提にした臓器移植は増えるはずがない。正しく脳死判定できているかさえも不安を感じる。


脳死状態に陥った子は「成長」さえもするのですから、そうした子を持つ親に対しては、特にケアが必要と思われるのに、今の日本社会には、臓器提供者(ドナー)への社会の気遣いや敬意が足りなすぎます。臓器移植に対して無知でしかも偏見を持っている市民が数多くいるまま、一部医師と思いたいですが、今でも、医師でさえ脳死をよく知らないままでは、臓器移植改正を議論する前提を欠いています。

これでは、いくら臓器移植法を改正しようとも、現実的には臓器移植が増加する可能性はほとんどないでしょう。また、報道機関も、「国会議員は臓器移植法改正を放置している」と非難していますが、報道機関も含め、臓器移植につき、無知で偏見をもつ市民の側にはそうした非難をする資格はないと思えるほどです。

日本と異なり、「米国にはドナー家族の権利章典があり、全米ドナー家族協議会や政府が一体で家族を支える」体制になっています。「2年に1度、全米規模の感謝式典」があり、「全米臓器配分ネットワーク「UNOS」本部(バージニア州リッチモンド)にはドナーの名前を刻んだ壁が設けられ、見学コースに含められている」といったことを行うとすれば、移植医療は、ドナー家族が支えていることを意識できるはずです。こうした体制がなければ、いくら臓器移植法を改正しようとも無意味なことになってしまうように思います。

臓器移植法改正案は4案あり、いずれの案も過半数を占めるかどうか不明である以上、今国会で、臓器移植法が改正されるのかどうかは、不明です。臓器移植法が改正されるかどうか否かに関わらず、臓器移植の正しい理解を普及し、臓器提供者(ドナー)への社会の気遣いや敬意をもつようにすることを、すぐにでもなすべきことであると考えます。



(2) 今回の連載記事とは直接関係ない話ですが、触れておきます。

今回の連載記事の5回目には、「東京社会部・安藤淳、西田義洋、科学部・永井理、名古屋社会部・島崎諭生、片山夏子が担当しました」との記述がありました。どうやら、臓器移植問題などについて積極的に記事し、数多くの説得力のある記事を書いていた、片山夏子さんは、大変残念ながら、「特別報道部(特報部)」を外れて、名古屋社会部に転勤なさったようです。

今まで、「特報部」でのご活躍、ありがとうございました。片山夏子さんご署名の記事があればこそ、このブログでも臓器移植問題を積極的に取り上げることができたと思います。片山夏子さんには、大変感謝しています。片山夏子さんの今後のご活躍をお祈りすると同時に、臓器移植問題については、できる限り積極的に記事することを努めていただきたいと思います。

テーマ:法律全般 - ジャンル:政治・経済

コメント
この記事へのコメント
http://www.videonews.com/on-demand/421430/001005.php

part2(有料配信)中の、ぬで島氏の「脳死は死生観の問題ではない」との視点は目から鱗でした。

昔から脳科学が大好きで、そもそも“心”は脳の何処でどのように生まれ、そして在るのかの問いに現代科学は未だ答えられないことを知っていますし、また脳死反対論者の小松美彦氏の著書も読み、自分なりに現代医学の言うところの脳死は怪しい、との認識を持ちながらも、私自身のドナーカードには「脳死時、全ての臓器を提供する」と記載してあります。

息子さんの脳死と向き合うことになった柳田邦男氏の『犠牲(サクリファイス)』の中に、死は瞬間ではなく、時に一定の長さを有する、しかし不可逆なプロセスである、というニュアンスの記述があり、どこで線を引くかは自分で決める、ということだと自身に言い聞かせています。

脳死者を目の当たりにした経験も有ります。
尋常ならざるお世話になった、中国の母とも言うべき人でした。 彼女が突然の脳出血で脳死状態になったとの連絡を受け、慌てて北京に会いに行きました。 死者を前にしているという意識は全く湧きませんでした。 長い闘いになると聞かされ、3日くらいして帰国しましたが、それから数日後、心臓死を迎えました。 つらくて葬儀には参列しませんでしたが、かけがえの無い人の、死のプロセスに長く立ち会えて本当に良かった、との思いは今も変わりません。

私の脳死状態、臓器摘出を受容し難い人達には、こんな風に言いたい。
「この脳死状態を、僕は自分の死、即ち生きることを止める時だと選択した。  だから最後に少しだけ良い事をさせて欲しい。 現代科学、医学の未熟ゆえの、大いなる錯誤であるかも知れないし、臓器移植以外に術(すべ)を有さぬ医学者を大いに侮蔑するけれども、そういう時代に産まれ、生きた僕自身は、そういう時代の基準を敢えて甘受して、何人かの病で苦しむ人々の役に立ちたい」





2009/06/12 Fri 10:13:59
URL | rice_shower #UXr/yv2Y[ 編集 ]
>rice_showerさん:2009/06/12 Fri 10:13:59
コメントありがとうございます。
度々のネットワーク障害や私事などで、コメントへのお返事が遅れています。大変申し訳ありません。徐々にでもお返事をしていきたいと思いますので、しばらくお待ち下さい。


>part2(有料配信)中の、ぬで島氏の「脳死は死生観の問題ではない」との視点は目から鱗

情報ありがとうございます。


>脳死者を目の当たりにした経験も有ります
>尋常ならざるお世話になった、中国の母とも言うべき人でした

経験に基づいた判断となると、脳死を人の死としてよいのかどうか、確固たるものになりますね。日本では、人の死や死の淵にある方に直接接する機会が減っている方が多くなっています。そうした中で、脳死は人の死と認めるか否かを判断せよと言われても、どうしても実感できず、判断できないのかもしれません。


>この脳死状態を、僕は自分の死、即ち生きることを止める時だと選択した。
>現代科学、医学の未熟ゆえの、大いなる錯誤であるかも知れないし、臓器移植以外に術(すべ)を有さぬ医学者を大いに侮蔑するけれども、そういう時代に産まれ、生きた僕自身は、そういう時代の基準を敢えて甘受して、何人かの病で苦しむ人々の役に立ちたい

私も脳死を人の死としてよいと思っていますが、rice_showerさんと同じように、自分の命につき、脳死でよいと自己決定する判断も、尊重してほしいと思います。

仰るとおり、「現代科学、医学の未熟ゆえの、大いなる錯誤であるかも知れない」とは思います。その現在、必要とされている医療、未熟な医療を必要としている患者がいるのであれば、そのために出来る範囲で協力することは、少しもおかしなことではないと思うのですけどね。

ところで、日本宗教連盟は、「脳死・臓器移植は、他者の重要臓器の摘出を前提とする限り普遍的な医療とはなり難く、あくまでも緊急避難的な治療法と言わざるを得ません」といって慎重な態度をとっています。ですが、医療は発展していくものですから、「普遍的」と言うこと自体、どうにも納得しがたいものがあります。
2009/06/13 Sat 22:24:04
URL | 春霞 #5oClkA7g[ 編集 ]
この法案での一番の問題はレシピエント側の立場でしか考えていない事だと思います。
ドナー家族のケアやその権利や立場を尊重する法案作りをしない限り、いくら脳死を法的に決めた所でドナーは増えないと思います。

また、今の様に情報公開がされない臓器移植ではドナーやドナー家族もやりきれないでしょう。 ある記事でありましたが、ドナー家族にとって、その臓器で人が救えたかどうか知ると言うのは物凄く大きな事であって、それを墓前に報告する権利は認めるべきだと思います。
2009/06/15 Mon 18:05:45
URL | 迷い猫 #-[ 編集 ]
>迷い猫さん:2009/06/15 Mon 18:05:45
コメントありがとうございます。
4月頃から特に私事でブログの更新ができない状態が続き、またブログ運営会社FC2が度々ネットワーク障害を起こしており、コメントへのお返事が遅れています。大変申し訳ありません。徐々にでもお返事をしていきたいと思いますので、しばらくお待ち下さい。


>この法案での一番の問題はレシピエント側の立場でしか考えていない事だと思います。

法案に限らず、臓器移植の専門家の見解が、ドナー家族に対する配慮に欠けていることに危惧を感じます。本音は「臓器さえ取れれば、ドナー家族はどうでもいい」と考えているのではないか、と。

例えば、読売新聞平成21年6月19日付朝刊13面には、大阪大病院移植医療部副部長で、日本移植学会幹事の福嶌教偉氏と、昭和大教授で日本救急医学会理事の有賀徹氏に対するインタビュー記事がありますが、両者はともに臓器提供後のドナー家族に対する配慮を全くしていません。こんなことでは、臓器移植法を改正しても、反発を受けてしまうように思えてなりません。


>ドナー家族のケアやその権利や立場を尊重する法案作りをしない限り、いくら脳死を法的に決めた所でドナーは増えないと思います。

同感です。記事を紹介しましたが、米国にはドナー家族の権利章典があり、全米ドナー家族協議会や政府が一体で家族を支えています。日本でもこうした体制を整えない限り、臓器提供者は増えるはずがありません。参議院では、ドナー家族の権利章典を制定するなどのことに努めてほしいです。
2009/06/19 Fri 22:41:10
URL | 春霞 #5oClkA7g[ 編集 ]
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2009/06/16(火) 21:03:18 | ????¤
今日、臓器移植法案の改正案が衆議院を通った。 いわゆるA案という案が過半数の賛成を得たと聞き、いろんな感慨を持ったが、今日はそれを書...
2009/06/19(金) 00:11:54 | ほしあかりをさがせ
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2009/06/22(月) 09:27:35 | ?
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