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2009/05/24 [Sun] 23:58:49 » E d i t
重大な事件の刑事裁判に裁判官とともに市民が加わる裁判員制度が平成21年5月21日、始まりました。施行1日目の21日は、裁判員裁判の対象事件が全国で4件起訴されています。また、施行2日目の22日は、東京など7地検は裁判員裁判の対象事件で容疑者計8人を起訴しています。これで、対象事件の起訴は11地検計13人となりました。

これらの事件では今後、裁判の日程が決まった段階で、それぞれの事件を担当する裁判所の管内の裁判員候補者のもとに「呼び出し状」が届くことになります。 各事件は公判前整理手続きなどを経て、「早ければ7月下旬にも裁判が始まる可能性がある」とされています。



1.報道記事を幾つか。

(1) 時事通信(2009/05/21-21:04)

裁判員事件、初日4人起訴=殺人未遂など-責任能力問われるケースも・最高検

 裁判員制度がスタートした21日、裁判員裁判の対象となる罪で、千葉地検が2人、青森、秋田両地検がそれぞれ1人を起訴した。最高検によると、他の都道府県で対象事件の起訴はなく、制度開始初日の起訴は計4人となった。早ければ7月下旬にも初公判が開かれる。
 千葉地検は殺人未遂罪で、千葉県市川市の無職内藤美由紀容疑者(29)を起訴した。起訴状によると、2月、交際していた男性(34)を殺害しようとし背中を柳刃包丁で刺したとされる。捜査関係者によると、責任能力が争点になる可能性がある。
 強盗致傷罪では同市の無職油谷一成容疑者(28)を起訴。起訴状では、1月に同県船橋市の路上で計3人からバッグを奪い、10日間から98日間のけがを負わせたとされる。別の強盗致傷や窃盗事件で既に起訴されており、裁判長が決定すれば、これらも裁判員裁判で審理される。千葉地検は両容疑者の認否を明かしていない。
 青森地検は強盗致傷と住居侵入の罪で青森県弘前市の無職臼井常仁容疑者(42)を起訴した。起訴状によると、4月、同市内のアパートから現金を盗んだのを見つかり、住民の知人(20)にけがを負わせたとされる。地検によると、起訴事実を一部認めているという。
 秋田地検が現住建造物等放火未遂罪で起訴したのは、秋田市の無職清水隆子容疑者(61)。起訴状では4月、アパート自室に灯油をまき放火しようとしたとされる。地検は「起訴事実を認めている」としている。(2009/05/21-21:04)」



(2) 西日本新聞朝刊2009/05/23付

【市民の司法に 裁判員元年】九州の地検 「裁判員」対象2件起訴 福岡と鹿児島 弁護士「主張を工夫」
2009年5月23日 17:32

 裁判員制度施行2日目の22日、福岡、鹿児島両地検は九州で初めて裁判員裁判対象事件の容疑者計2人を、それぞれ福岡、鹿児島両地裁に起訴した。全国では同日、東京など6地検も7人を起訴。福岡、東京両地検の起訴は初の殺人罪となった。これで裁判員裁判対象事件で起訴されたのは全国で13人となった。各事件は公判前整理手続きなどを経て、早ければ7月下旬にも裁判が始まる可能性がある。

 鹿児島地検が起訴したのは、鹿児島市の元警察官で業務委託業の安崎正昭被告(42)=強姦(ごうかん)致傷罪。起訴状によると、安崎被告は今年3月16日夜、鹿児島市内で、同市内の女性(22)の顔にカッターナイフを突きつけるなどして乱暴、腰などにけがをさせたとされる。

 裁判員を選ぶ選任手続きでは裁判官が候補者に事件概要を説明し、利害関係の有無を問う必要があるため、この事件では「守秘義務のない裁判員候補者に性犯罪被害者のプライバシーが明かされる恐れがある」と懸念の声が上がる。これに対し鹿児島地裁は「事件の概要をどの程度示すかは各裁判官の裁量。デリケートな事案には配慮するだろう」としている。

 福岡地検が殺人罪で起訴したのは福岡県久留米市の無職田中潤被告(78)。起訴状によると、田中被告は今月1日夜、同市の自宅作業場で長男(49)の胸などをナイフで刺して殺害したとされる。

 田中被告の弁護士は22日、同市で記者会見し「裁判官と裁判員の考えがどれくらい違うか測りかねるが、主張が分かりやすく伝わるよう、画像などを使う方法も検討する」と話した。

 裁判員裁判は、公開の法廷で検察側、弁護側双方による冒頭陳述や証拠の取り調べがあり、証人や被告に対して裁判員も質問できる。証拠調べが終わると検察官が論告求刑。被害者参加制度が適用されている場合、被害者本人や遺族からも求刑意見が述べられる。その後、裁判員と裁判官は非公開の「評議」に入り、有罪か無罪か、有罪ならばどのくらいの量刑が適切かを話し合い、法廷に戻って判決を言い渡す。

=2009/05/23付 西日本新聞朝刊=」



 イ:対象事件として、特に注意するべき点は、次の4点です。

<1>5月22日に東京、福岡両地検でなされた起訴は、22日午前までにはなかった殺人罪であること(東京、福岡両地検が起訴したのは、それぞれ無職藤井勝吉さん(71)と無職田中潤さん(78))、
<2>千葉地検が覚せい剤取締法違反(営利目的の輸出入)罪などで起訴したのは外国人2人であること(千葉地検が起訴したのは、メキシコ国籍の大学生の男性(21)とカナダ国籍の会社員の女性(29)です)、
<3>千葉地検が起訴した殺人未遂罪の事件は、捜査関係者によると、責任能力が争点になる可能性があること、
<4>鹿児島地検が起訴したのは、強姦致傷罪の事件であること、

です。

すなわち、<1>殺人既遂事件となれば、死刑も含めた判断も迫られる可能性がありますし(しかも被告人は高齢者ゆえ、死刑相当は妥当なのかも問題となります)、<2>外国人が被告人の場合、適正手続の保障(憲法31条)の見地から、適切な通訳がなされているのかどうか判断する必要がありますし、<3>責任能力(刑法39条)の有無を判断するために、異なる結論が出されると予想される精神鑑定結果を判断しなければなりませんし、<4>強姦事件では、「守秘義務のない裁判員候補者に性犯罪被害者のプライバシーが明かされる恐れがある」と懸念の声に配慮した運用をなす必要があります。

これら対象事件を見ると、裁判員裁判施行の当初から、裁判員には重い負担が課されている事件を判断することになったといえます。もちろん、無罪推定の原則の下、被告人が本当に真犯人といえるほど(合理的な疑いを容れな程度まで)十分な立証ができているのかどうか判断すること自体も重い負担といえます。


 ロ:さて、こうした事件につき、裁判員となる市民にとって必要とされる心構えを幾つか示している、東京新聞の「始動裁判員~あなたへのメッセージ」という連載記事を3回分引用しておきたいと思います。この3回分は、元検事、検察審査会の元審査員、被害者遺族であり、いずれも訴追側にいる人物へのインタビュー記事となっています。



2.東京新聞平成21年5月22~24日付朝刊

(1) 東京新聞平成21年5月22日付朝刊24面「始動裁判員~あなたへのメッセージ」(3)

供述左右されず まず物証――「冤罪」見抜いた元検事

 自白しているように書かれた調書は、捜査のプロの目には典型的な「冤罪(えんざい)調書」に映った。

 10年ほど前に起きた主婦殺人事件。関東地方の検察庁で刑事部長を務めていた元検事は、 「夫が妻を殺したと自供した。逮捕を認めてほしい」という県警の要求を突っぱねた。

 「私がやりました」と認めてはいる。だが、殺害方法も動機も書かれていない。犯人の血液が付着したとみられるタオルと、夫の血液型が違うという矛盾の説明もなかった。

 刑事部長は、県警の主張をうのみにして逮捕を認めようとした若い検事をしかり、自白調書のコピーを取り寄せるように命じた。一読して、不自然さを感じた。

 逮捕を認めない検察の方針を耳にした県警の捜査一課長が、部屋に飛び込んできた。 「この事件には自信がある。検事が逮捕を認めなくたって第一次捜査権は警察にあるんですから」。息巻く課長に、地検の刑事部長は言い放った。

 「逮捕するならすればいい。ただし、送検されたらすぐ嫌疑不十分で釈放しますよ」

 数ヵ月後、同じ課長が「真犯人が見つかりました」と喜々として報告にきた。犯人は殺された主婦の昔の同僚の男だった。

 一度、数十万円を借りて、再び無心に来たが、断られて逆上、女性を絞殺したと自供した。駅に設置された防犯カメラが犯行時刻の前後に男の姿をとらえていたことから、容疑者として浮上。消費者金融10社から1500万円以上の借金があり、返済に困っていたという。遺留品の血の付いたタオルの血液型も一致した。

 「警察の違法捜査を防ぐのは検察の本来の役割だ」。検事正などを歴任した後に退官した元検事の持論だ。それでも、捜査経験に乏しい検事が、ベテラン捜査員ぞろいの警察側の主張を押し返すのは難しい。

 警察が誤認逮捕してしまう可能性は常にある。公訴権を持つ検察が十分にチェックできず起訴した場合、無実の人が獄につながれることになる。過去の多くの冤罪事件は同じ構図で起きている。裁判員は見破ることができるのだろうか。

 「プロの裁判官でも事実認定は難しいが、物証は動かない。被告の供述だけにとらわれず、法廷に提出された物証をよく見てほしい」と元検事は語った。」


 イ:この記事中に出ている事例は、警察が虚偽の自白を強要したものと思われます。捜査官は、とにかく犯人とにらんだ者に対しては事件を認めさせようとはかり、否認する被疑者に対しては、「人格の無視」「プライドの剥奪」が行われ、ときとして強迫といえるような罵声を浴びせてきます。県警の捜査一課長が「この事件には自信がある」と述べたようですが、相当な強要がなされたのではないかと推測できます。

しかし、過去の冤罪事例では、虚偽の自白が強要されたり、物証が捏造された事例が後を絶ちません。ですから、ここで述べている元検事は、「虚偽の自白だから信用しない」という態度を取ったわけです。

虚偽の自白の疑いがあると冤罪の可能性が十分にある以上、この元検事は、冤罪防止の見地から、「被告の供述だけにとらわれず、法廷に提出された物証をよく見てほしい」と述べているのです。


 ロ:もっとも、物証を重視する姿勢を逆手に取り、捜査機関は時として「物証を捏造する」こともあるのですから、物証だからといって安易に信用するべきではありません。警察が捏造した物証か否かという点も含めて「物証をよく見てほしい」のです。

また、物証であっても安易に信用するなと言うのはDNA型鑑定でも同様です。平成21年5月24日放送の「サンデープロジェクト(テレビ朝日)」では、次のような特集を放映していました。

特集

DNA鑑定“光と影”
~「冤罪疑惑」と「失われた証拠」~



今月、足利事件のDNA再鑑定結果に司法・警察関係者、そしてメディアは揺れた。19年前、DNA型が一致するとして逮捕された受刑者。しかし再鑑定結果は「受刑者と犯人のDNA型は一致しない」という衝撃的なものだった。

近年、精度が飛躍的に向上し、確率的に個人を識別できるまでになったDNA鑑定。その最新の科学技術が“冤罪疑惑事件”を解明しようとしている。

ところが一方で、最新のDNA鑑定で犯人とされた容疑者が無実を訴える事件がある。今回、番組は、これまでメディアに全く報じられていない二つの強姦事件を取材した。
取材した二つの事件には多くの共通点があった。一つは、警察が容疑者を逮捕した理由は「DNA型が犯人と一致する」という点。
もう一つが、被害者が証言している犯人像と容疑者は大きく食い違う点だ。さらに、いずれの事件でも、警察は一級品の証拠を、なぜか犯人検挙前に被害者に返していたのだ。

そして、下された判決は実に驚くべきものだった・・・。

21日から始まった裁判員制度。裁判員が有罪か無罪かを判断する証拠は果たして適正なものなのか。犯罪捜査の「伝家の宝刀」、「水戸黄門の印籠」にも、なぞらえられるDNA鑑定。
その知られざる”落とし穴”を独走追跡する。

≪出演≫
大谷 昭宏 (ジャーナリスト) 」


なぜか、「いずれの事件でも、警察は一級品の証拠を、なぜか犯人検挙前に被害者に返して」いるなどして再鑑定ができない状態であるのに、裁判所は、ともかく警察側が出したDNA型鑑定を金科玉条のように扱うのです。

その結果、「被害者が証言している犯人像と容疑者は大きく食い違う」といったような、一般人にとっては社会経験上、見過ごせない矛盾証拠があっても、裁判所は、DNA型が犯人と一致するからと言う点を重視して、有罪と認定してしまったのです。明快に言えば、この2つの事例では、捜査機関側は、DNA型鑑定という客観的証拠を捏造し、裁判所は疑問を抱くことなくその証拠を重視しているのです。

現状では、裁判所による「DNA型信仰」は揺るがないことから、裁判員は、裁判官と異なり、DNA型鑑定であっても妄信することなく、「物証をよく見てほしい」と思います。

(なお、被害者団体などが、DNA型鑑定といった捜査手法が発達した点をもって、公訴時効制度の廃止に合理性があるとしていますが、こうした「DNA型鑑定信仰」の状態下では、捜査機関側はDNA型鑑定を捏造する誘惑から逃れることができないように思います。)


 ハ:一応、この記事についても肯定的に説明してきましたが、正直なところ、白けた気持ちです。というのは、冤罪を作り出している元凶は、無実の者であっても起訴している検察官にあるからです。

検事正などを歴任した後に退官した元検事の持論として、「警察の違法捜査を防ぐのは検察の本来の役割だ」ということだそうですが、そうした持論を持つ検察官は少ないでしょうから、大変立派な持論であることは確かです。

しかし、一部そうした持論を持つ検事がいたとしても、自白を強要し、物証を捏造し、被告人に決定的に有利な証拠を隠したままで起訴することなぞ、少なくないのが現実なのです。「物証さえも捏造するほどの冤罪の元凶のくせに、『物証をよく見てほしい』だなんてよくも白々しく言えるものだ」と思ってしまうのです。



(2) 東京新聞平成21年5月23日付朝刊24面「始動裁判員~あなたへのメッセージ」(4)

自分の良心 勇気持ち発言を――検察審査会の元審査員 

 くじで選ばれた市民11人が、検察官が容疑者を裁判にかけないとした不起訴処分が妥当かどうかを審査する検察審査会。裁判員と同じように市民感覚を生かして物事を判断する役割を担う。

 「自分に求められたのは、人を裁く勇気ではなく、良心の声を口にする勇気だった」

 関東地方の40代の元審査員は、今年初めまでの半年間の任期をそう振り返る。

 印象深い事件がある。万引きした男性が店員に取り押さえられた際、首を強く締め付けられて死亡した。検察官は店員の殺意を認めず不起訴とした。

 元審査員は、結果の重大性から起訴すべきだと考えた。遺族にとって殺意の有無は関係なく、男性は戻ってこない。遺族の気持ちを思いやった。「自分の良識に頼った。これが市民感覚だと思う」

 審査会の学生や主婦、会社員らが意見を出し合った。店員が力を緩めたら男性は逃げるか、店内の客に危害を加えていたかもしれない。一理あると思った。小差で不起訴相当と議決された。 「まさに十人十色。いろんな考えがあるんだな」と感心した。

 起訴か不起訴かで容疑者の人生は大きく変わる。だからこそ知識と経験を総動員してとことん考えた。ところが慣れるにつれ、検察官の考えに引きずられて発言している自分に気付き、 「専門的な意見は専門家に任せればいい。ありのままの自分でいい」と思い直したことがあった。

 市民の多くは、裁判員として人を裁くことに不安や戸惑いを感じている。 「自分の良心に耳を傾け、勇気を持って発言してほしい。私自身は冗舌ではなかったけれど、それでよかった」

 中部地方の60代の元審査員は、審査員に課せられている守秘義務が審査会をめぐる情報公開を阻み、制度の改善を妨げていると感じる。例えば、出会い頭の衝突で2人が死亡した事故。酒を飲んでいた加害者は青信号だったと主張し、検察官は不起訴にした。

 「飲酒運転をしていた人の話をうのみにはできない。死人に口なしでいいのか」

 独自の現場検証を踏まえ、元審査員は加害者のスピードの出し過ぎを指摘し不起訴は不当と訴えた。すると事務局が判例を示し、被害者の赤信号無視を否定できない限り、不起訴は揺るがないという。民意を反映させるのが審査会の存在意義なら、その意見を尊重すべきではないのか。

 自分の経験を公の場で語り、制度改善につなげたいが「守秘義務違反」と言われる。 「審査員OBが54万人もいるのにほとんど審査会のことが知られず、関心を持たれないのはおかしい」。評決内容を終生口外してはいけない裁判員制度にも、同じ危惧(きぐ)を抱く。」


 イ:検察官には、公訴を提起しない裁量権が与えられていますが、事件を不起訴処分にすることは、その事件については裁判所の審判の機会がなされなくなることを意味します。例えば、不当な政治的配慮から重要な事件を不起訴処分としたり、捜査機関の内部犯行について身内をかばう意識からこれを不起訴処分とするようなことがあれば、重要な犯人が処罰を免れることになってしまいます。

そこで、不起訴処分が不当かどうかチェックする制度が必要になります。現行法には、不起訴処分のチェックシステムとして、<1>検察審査会制度、<2>準起訴制度、<3>上級検察官の指揮監督権の発動の申立てなどがあります。

検察審査会は「公訴権の実行に関し民意を反映せしめてその適正を図るため」(検察審査会法1条)に設けられたもので、市民により不起訴処分を審査するシステムです。この記事に出ている方は、この検察審査会の委員だったということです。


 ロ:この記事では、「民意を反映させるのが審査会の存在意義なら、その意見を尊重すべきではないのか」と指摘しています。確かに、現行法でも民意を反映しようとした制度ですが、検察審査会の議決に法的拘束力はなく、審議会の議決を参考にしつつも、公訴を提起するかどうかは、最終的に検察官が判断するものとされていた点で、民意を公訴に反映させる面で不徹底であるとして批判がなされてきました(光藤景皎『刑事訴訟法1』205頁)。そこで、2004年の改正により、検察審査会の一定の議決に対し法的拘束力を付与する制度が導入されました。議決に法的拘束力を認めた(=議決に公訴提起の効力を認めた)点で、「国家訴追主義」を修正するものです。その記事を引用しておきます。

  (イ) 毎日新聞 2009年5月18日 東京朝刊

検察審査会:権限強化、議決2回で起訴へ 「市民の声反映」に期待

 ◇「検事役」弁護士に戸惑いも

 裁判員制度が始まる21日、同様にくじで選ばれた一般市民が検察の不起訴処分の妥当性を審査する「検察審査会」の権限も、強化される。議決に拘束力はなかったが「起訴相当」の議決を2回すれば起訴される。「市民の声が反映される」と期待がある一方、議決2回の事案で検察官役を担う弁護士側は手探り状態だ。【安高晋】

 対象は、21日以降に1回目の「起訴相当」を議決された事件。検察は原則3カ月以内で処分を再考し、再び不起訴とすれば同じ審査会が再審査。改めて起訴相当と議決されれば、管轄する地裁が指定した弁護士が起訴する。08年で全国の検察審査会が受け付けた事件は2039件。04年は2666件で減少傾向だ。08年は起訴相当13件、不起訴不当117件の議決がされたが、検察が議決後に起訴したのは35件。

 兵庫県明石市の歩道橋事故(01年)では起訴相当の議決が2回されたが、神戸地検はいずれも不起訴とした。遺族会代表の下村誠治さん(50)は権限強化を「遺族の権利が広がる」と評価し、21日に3回目の審査を申し立てる。

 一方、検察官役を務める弁護士には不安もある。検察事務官や警察を直接指揮することはできず、補充捜査は検察官に依頼しなければならない。日本弁護士連合会は3月、全国の弁護士会をテレビ中継でつないだ500人規模の研修会を開催。講師には、公務員の不起訴処分について地裁に裁判開始を認められた「付審判決定」で検察官役を務めた経験のある福岡県弁護士会の川副正敏弁護士(59)を招いた。川副弁護士は「検察官が独占する起訴の裁量をコントロールできるのは利点だ」と指摘している。

==============

 ■ことば

 ◇検察審査会


 48年に創設され全国の地裁・支部内に計165ある。有権者から11人の審査員が選ばれ、任期は半年。被害者や告訴・告発者の申し立てのほか職権で審査する。起訴相当(起訴すべき)は8人以上の賛成、不起訴不当(さらに捜査すべき)は過半数以上の賛成で議決。それ以外は不起訴相当となる。

毎日新聞 2009年5月18日 東京朝刊」



  (ロ) 最高裁判所のHPで引用している検察審査会の統計資料によると、これまでの議決の割合は、「起訴相当・不起訴不当11.3%、不起訴相当55.8%、その他32.9%」となっており、ほとんどが起訴相当と判断していないのです。

しかも、検察官役を務める弁護士(「指定弁護士)は、「検察事務官や警察を直接指揮することはできず、補充捜査は検察官に依頼しなければならない」のですから、不起訴の意見であった捜査機関側が公訴の維持に熱心であることを期待できません。

そうすると、付審判請求手続と同様に、有罪率は低いものとなると予想されます。ですから、より民意が反映する制度へと改正されたとはいえ、さほど意義のある改正になっていないように思われます。もっとも、議決に公訴提起の効力を認めた以上、「なぜ、検事は不起訴にしたのか」という非難が表面化するのですから、検察官に対するプレッシャーになることは確かでしょう。


 ハ:この記事で大事な点は、「慣れるにつれ、検察官の考えに引きずられて発言している自分に気付き、 『専門的な意見は専門家に任せればいい。ありのままの自分でいい』と思い直したことがあった」として、「『自分の良心に耳を傾け、勇気を持って発言してほしい。私自身は冗舌ではなかったけれど、それでよかった』」と感じている点です。

傍聴している市民が一様に指摘することは、「検察官と裁判官は言うことが同じことが多いが、事前に打ち合わせしているのではないか、休憩時間に親しそうにやりとりしているが、一日中一緒にやっていれば自然と癒着することはないのか、等の『検察官・裁判官の一体感』」です(秋山賢三ほか『続・痴漢冤罪の弁護』(2009年、現代人文社)21頁)。

模擬裁判と異なり、現実の裁判員裁判では、検察官と裁判官は結託したかのように裁判員を丸め込もうとしてくるでしょう。犯罪結果を知って被害者のことに思いを致し、被告人が犯人であるとの証拠を見せられれば、心情的にどうしても「検察官の考えに引きずられて発言」しがちになることが予想されます。

ですから、冤罪を防止し適正な裁判を実現するためには、裁判員は、「検察官の考えに引きずられ」たりせずに、「自分の良心に耳を傾け」るこそが、大事であるように思います。



(3) 東京新聞平成21年5月24日付朝刊28面「始動裁判員~あなたへのメッセージ」(5)

犯罪のない社会へ展望示せ――被害者遺族

 「被告のやったことは殺人だと思う」。検察官の横で涙ながらに訴える遺族の妻に視線が一斉に注がれた。

 1月、東京地裁。被告人に質問したり、求刑や量刑に意見を述べたりできる被害者参加制度。それが適用された交通事件の初公判は、張り詰めた空気に包まれた。交差点にバイクで侵入した被害者が、右折してきた被告のトラックと衝突、死亡した。

 実刑を求める遺族の思いに反し、判決は5年の執行猶予がついた。裁判長は遺族に向かい「実刑でなく落胆したと思うが、誰でも犯す可能性のある事故」と語りかけた。

 このような自動車運転過失致死罪は裁判裁判の対象ではないが、 「裁判員だったら遺族感情に流されて実刑だったのでは」との見方もある。

 それでも、遺族の代理人として出廷した弁護士の元橋一郎(45)は「裁判員は感情の揺れ動きはあっても、流されることなく遺族に真摯(しんし)に向き合ってくれる」と信じている。市民の持つバランス感覚への信頼が根底にある。

 確かに、被害者参加制度を取り入れた模擬裁判の多くで、 「遺族感情に配慮した」として重罰に傾く裁判員役がいた。だが、一方で「量刑判断は、遺族の思いとは切り離して考えた」との声も少なくなかった。

 一方、冒頭の裁判を傍聴していた「被害者と司法を考える会」代表の片山徒有(ただあり)(52)は、遺族の声が法廷の雰囲気を一変させたことに驚いた。 「遺族が自分の言葉で語るのは重要。でも、検察官と並んで一緒に追及するのは心の負担が重すぎる」と心配になった。

 片山の息子隼(しゅん)(8つ)=当時=は12年前、ダンプカーにひき逃げされ、亡くなった。以来、片山は被害者や遺族の立場を尊重した法整備を求めてきたが「市民の目線に立った司法の実現はまだまだ」と思っていた。

 そこへ、市民の力が注入される裁判員制度が始まった。片山は「全面的賛成ではない」と言いながらも歓迎する。「職業裁判官だけでは思い及ばないような、市民の意見が反映されると思うから」

 大勢を殺傷する通り魔や幼児の虐待死など世間の耳目を集める事件がやまない。その原因や背景を考えるとき、貧困や孤立、支援の欠如といった事情が浮かぶ。犯罪を許した社会の一員として、裁判員自身にも「無関心だった」という反省の視点があってもいいのではないか。

 「被告への処罰だけを意識するのではなく、犯罪をなくし、被害者を二度と生み出さない社会をどうやって実現するのか、展望をも示した判決であってほしい」。裁判員が被害者の声に耳を傾けることは、豊かな社会を自ら築く礎になる。そう片山は確信している。(敬称略)」


今までは、一部の市民は、まるで他人事のように判決や弁護活動について、感情論に基づいて非難を繰り広げていました。しかし、これからは、裁判員となれば、被告人が置かれてきた状況、すなわち、貧困や孤立、支援の欠如といった事情についても考慮した上で、判断せざるを得ません。

 「大勢を殺傷する通り魔や幼児の虐待死など世間の耳目を集める事件がやまない。その原因や背景を考えるとき、貧困や孤立、支援の欠如といった事情が浮かぶ。犯罪を許した社会の一員として、裁判員自身にも「無関心だった」という反省の視点があってもいいのではないか。

 「被告への処罰だけを意識するのではなく、犯罪をなくし、被害者を二度と生み出さない社会をどうやって実現するのか、展望をも示した判決であってほしい」。」


裁判員に対しては、片山さんが述べるように、<1>「犯罪を許した社会の一員として、裁判員自身にも『無関心だった』という反省の視点」を持つこと、<2>「被告への処罰だけを意識するのではなく、犯罪をなくし、被害者を二度と生み出さない社会をどうやって実現するのか、展望をも示」すこと、をも求めたいと思います。


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