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2009/01/25 [Sun] 19:12:15 » E d i t
バラク・オバマ米大統領の就任演説については、各新聞社がそれぞれ独自の日本語訳を出しています。が、全文の日本語訳については朝日新聞のものを紹介しておきます。(なお、日経新聞だけは、1月24日朝刊(8・9面)になって、やっと全文(英文・日本語訳)を掲載しました。これでは、日経新聞社の姿勢は、オバマ米大統領の就任演説は重要ではないと判断していると、受け取られてしまうでしょう。)

オバマ大統領就任演説全文の日本語訳については、幾つかの新聞社(朝日、毎日、東京、日経)は注記をしています。そのうち、就任演説の理解のためには、朝日新聞1月22日付の「注記」が最も優れているので、朝日新聞のものを引用しておきます。

また、朝日新聞1月24日付11面(英語全文を日本語訳と比べて掲載したもの)の日本語訳では、演説のポイントを太字で強調しています。演説の理解の手助けになるので、朝日新聞にしたがい、演説のポイントを太字で強調しておくことにします。なお、全文をそのまま引用すると読みづらいので、朝日新聞1月22日付朝刊8面がつけている見出しを入れて、分割しておくことにします。


1.朝日新聞平成21年1月22日付朝刊8面(14版)「オバマ大統領就任演説全文」(2009年1月21日9時21分)

融和 寛容、理性の弁  就任演説の全文と背景


(1) 難題 解決できる <1>市民のみなさん

 「市民のみなさん(注1)。きょう私は、私たちの前にある職務に謙虚な心を持ち、あなた方から与えられた信頼に感謝し、先人が払ってきた犠牲に心を留めながら、ここに立っている。ブッシュ大統領の我が国に対する貢献と、政権移行期に見せた寛大さと協力に感謝したい。

 これで(私を含め)44人の米国人が大統領の宣誓をしたことになる(注2)。宣誓は、繁栄の高まりや平和な時にも行われてきた。だが、多くは、雲が集まり、嵐が吹き荒れる中で行われた。そのような時を米国が耐え抜いてきたのは、指導者の技量や洞察力だけによってではなく、「我ら合衆国の人民」(注3)が先人の理想に誠実で、(独立宣言など)建国の文書に忠実だったからだ。

 これまではそうだった。そして、この世代の米国人もそうあらねばならない。

 私たちが危機のさなかにあるということは、いまやよくわかっている。我が国は暴力と憎悪の大規模なネットワークに対する戦争状態にある。経済はひどく疲弊している。それは一部の者の強欲と無責任の結果だが、私たちが全体として、困難な選択を行って新しい時代に備えることができなかった結果でもある。

 家が失われ、雇用は減らされ、企業はつぶれた。医療費は高すぎ、学校は、あまりに多くの人の期待を裏切っている。(石油などを大量消費する)私たちのエネルギーの使用方法が敵を強大にし地球を脅かしていることが、日に日に明らかになっている。

 これらは、データと統計で示される、危機の指標だ。測定はより困難だが同様に深刻なのは、米全土に広がる自信の喪失だ。それは、米国の衰退が不可避で、次の世代は目標を下げなければいけないという、つきまとう恐怖だ。

 これらの難問は現実のものだ。深刻で数も多い。短期間で簡単には対処できない。しかし、アメリカよ、それは解決できる。

 今日、私たちは恐怖より希望を、対立と不和より目的を共有することを選び、ここに集まった。今日、私たちは、長らく我が国の政治の首を絞めてきた、狭量な不満や口約束、非難や古びた教義を終わらせると宣言する。

 米国はなお若い国だ。しかし、聖書の言葉を借りれば、子供じみたことはやめる時が来た。不朽の魂を再確認し、よりよい歴史を選び、世代から世代へ受け継がれてきた貴い贈り物と気高い理念を前進させる時が来たのだ。それは、すべての人は平等かつ自由で幸福を最大限に追求する機会に値するという、神から与えられた約束だ。

 米国の偉大さを再確認する上で、私たちはその偉大さは所与のものではないと理解している。それは、自ら獲得しなければならないものだ。私たちの旅に近道はなく、途中で妥協することは決してなかった。仕事より娯楽を好み、富と名声の快楽だけを求めるような、小心者たちの道ではなかった。

 むしろ、(米国の旅を担ってきたのは)リスクを恐れぬ者、実行する者、生産する者たちだ。有名になった者もいたが、多くは、日々の労働の中で目立たない存在だった。彼らが、長く険しい道を、繁栄と自由に向かって私たちを運んでくれたのだ。

 私たちのために、彼らはわずかな財産を荷物にまとめ、新しい生活を求めて海を越えた。

 私たちのために、彼らは汗を流して懸命に働き、西部を開拓した。むち打ちに耐え、硬い土を耕した。

 私たちのために、彼らは(独立戦争の)コンコードや(南北戦争の)ゲティズバーグ、(第2次世界大戦の)ノルマンディーや(ベトナム戦争の)ケサンで戦い、命を落とした。

 彼らは、私たちがより良い生活を送れるように、何度も何度も奮闘し、犠牲を払い、手がひび割れるまで働いた。彼らは、米国を個人の野心の集まりより大きなもの、出自の違いや貧富の差、党派の違いよりも偉大なものだとみていたのだ。」




(2) 世界の主導役に戻る  <2>二者択一を拒絶

 「これが、私たちが今日も続けている旅だ。私たちは地球上で最も繁栄した、強力な国であり続けている。私たちの労働者は、この(経済)危機が始まったときと比べ、生産性が落ちたわけではない。先週、先月、昨年と比べ、私たちの創造性が低くなったのでもなければ、私たちの商品やサービスが必要とされなくなったのではない。私たちの能力は衰えていない。ただ、同じところに立ち止まり、狭い利益を守り、不快な決断を先延ばしする時代は明らかに過ぎ去った。私たちは今日から、自らを奮い立たせ、ほこりを払い落として、アメリカを再生する仕事を、もう一度始めなければならない。

 あらゆるところに、なすべき仕事がある。経済状況は、力強く迅速な行動を求めている。私たちは行動する。新たな雇用を創出するだけではなく、成長への新たな基盤を築くためにだ。商業の糧となり、人々を結びつけるように、道路や橋、配電網やデジタル回線を築く。科学を本来の姿に再建し、技術の驚異的な力を使って、医療の質を高め、コストを下げる。そして太陽や風、大地のエネルギーを利用し、車や工場の稼働に用いる。新しい時代の要請に応えるように学校や大学を変革する。これらすべては可能だ。そしてこれらすべてを、私たちは実行する。

 私たちの志の大きさに疑念を抱く人がいる。我々のシステムではそんなに多くの大きな計画は無理だ、と言うのだ。だが、そうした人たちは忘れるのが早い。これまで我が国が成し遂げてきたこと、そして、共通の目的や勇気の必要性に想像力が及んだとき、自由な人々がどんなことを成し遂げられるかを、忘れているのだ。

 皮肉屋たちは、彼らの足元の地面が動いていることを知らない。つまり、これまで私たちを消耗させてきた陳腐な政争はもはや当てはまらない。私たちが今日問わなくてはならないことは、政府が大きすぎるか小さすぎるか、ではなく、それが機能するかどうかだ。まっとうな賃金の仕事や、支払い可能な医療・福祉、尊厳をもった隠退生活を各家庭が見つけられるよう政府が支援するのかどうかだ。答えがイエスならば、私たちは前に進もう。答えがノーならば、政策はそこで終わりだ。私たち公金を扱う者は、賢明に支出し、悪弊を改め、外から見える形で仕事をするという、説明責任を求められる。それによってようやく、政府と国民との不可欠な信頼関係を再建することができる。

 市場が良い力なのか悪い力なのかも、問われていることではない。富を生みだし、自由を広めるという市場の力は、比類なきものだ。しかし、今回の(経済)危機は、市場は注意深く見ていないと、制御不能になるおそれがあることを、私たちに思い起こさせた。また、富者を引き立てるだけでは、国は長く繁栄できない、ということも。私たちの経済的な成功は、国内総生産(GDP)の規模だけではなく、繁栄がどこまで到達するかに常に依存してきた、つまり、意欲のある人にどれだけ機会を広げられたかだ。慈善心からではなく、それが、私たちの共通の利益への最も確実な道筋であるからだ。

 国防について、私たちは、安全と理想の二者択一(注4)を拒絶する。米国の建国の父たちは、私たちが想像できないような危険に直面し、法の支配と人権を保障する憲章を起草した。これは、何世代もが血を流す犠牲を払って発展してきた。この理想はいまも世界を照らしているし、私たちは便宜のために、それを捨て去ることはない。大国の首都から、私の父が生まれた小さな村(注5)まで、今日、(式典を)見ている他国の人々や外国政府のみなさんに知ってほしい。米国は、将来の平和と尊厳を求めるすべての国家、男性、女性、子供の友人であり、再び主導する役割を果たす用意があることを。



(3) 私たちの多様性 強み  <3>手をさしのべる

 「先人たちがファシズムと共産主義を屈服させたのは、ミサイルや戦車によってだけではなく、頼もしい同盟国と強固な信念によってでもあることを思い起こしてほしい。彼らは自らの力だけが自分たちを守ったのではないことも、その力が、自分たちが好きなように振る舞う資格を与えたのでもないことを理解していた。

 その代わりに先人たちは、自らの力は慎重に使うことで増大し、自らの安全は、大義の正しさ、模範を示す力、謙虚さと自制心から生まれると知っていた。

 私たちはその遺産の継承者だ。いま一度こうした原理に導かれることにより、私たちはより厳しい努力、つまり、より強固な国際的協力と理解を必要とする新たな脅威にも立ち向かうことができる。

 私たちは、責任ある形でイラクをその国民の手に委ねる過程を開始し、アフガニスタンの平和構築を始める(注6)
また古くからの友好国とかつての敵対国とともに、核の脅威を減らし、地球温暖化の恐れを巻き戻す不断の努力を行う。

 私たちは、私たちの生き方を曲げることはなく、それを守ることに迷いもしない。自分たちの目的を進めるためにテロを引き起こし、罪のない人々を虐殺しようとする者に対し、私たちは言おう。いま私たちの精神は一層強固であり、くじけることはない。先に倒れるのは君たちだ。私たちは君たちを打ち負かす。

 なぜなら、私たちの多様性という遺産は、強みであり、弱点ではないからだ。私たちの国はキリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒、ヒンドゥー教徒、そして無宗教者からなる国家だ。世界のあらゆる所から集められたすべての言語と文化に形作られたのが私たちだ。

 私たちは、南北戦争と人種隔離という苦い経験をし、その暗い歴史の一章から、より強く、より結束した形で抜け出した。それがゆえに、我々は信じる。古い憎悪はいつか過ぎ去ることを。種族的な境界は間もなく消え去ることを。世界がより小さくなるにつれて、共通の人間性が姿を現すことを。そして、アメリカは、新たな平和の時代を導く役割を果たさなければならないことを。

 イスラム世界に対して、私たちは、共通の利益と相互の尊敬に基づき、新たな道を模索する。紛争の種をまき、自分の社会の問題を西洋のせいにする国々の指導者に対しては、国民は、破壊するものではなく、築き上げるものであなたたちを判断することを知るべきだと言いたい。

 腐敗と謀略、反対者の抑圧によって権力にしがみついている者たちは、歴史の誤った側にいることに気づくべきだ。そして、握りしめたそのこぶしを開くのなら、私たちが手をさしのべる(注7)ことを知るべきだ。


 貧しい国の人々に対しては、農場を豊かにし、清潔な水が流れるようにし、飢えた体と心をいやすためにあなた方とともに働くことを約束する。

 そして、米国同様に比較的豊かな国には、私たちはもはや国外の苦難に無関心でいることは許されないし、また影響を考えずに世界の資源を消費することも許されない、と言わなければならない。世界が変わったのだから、それに伴って私たちも変わらなければならない。

 私たちの前に現れた任務を考えるとき、つつましい感謝の気持ちとともに、いまこの瞬間にもはるかな砂漠や山々をパトロールしている勇敢な米軍人たちのことを思い起こす。

 アーリントン国立墓地に眠る戦死した英雄たちの、時代を超えたささやきと同じように、彼らには、私たちに語りたいことがあるはずだ。私たちが彼らに敬意を表するのは、彼らが私たちの自由の守護者だからというだけでなく、彼らが奉仕の精神の体現者、つまり自分自身より大切なものに意味を見いだそうとしているからだ。そして今、一つの時代が形作られようとしている今、私たちすべてが抱かなければならないのがこの精神だ。

 なぜなら、政府はできること、しなければならないことをするにせよ、この国が依存するのは、究極的には米国人の信頼と決意であるからだ。最も難しい局面を乗り切るのは、堤防が決壊した時に見知らぬ人を招き入れる親切心であり、友人が仕事を失うのを傍観するよりは自分の就業時間を削減する労働者の無私の心だ。煙が充満した階段に突っ込んでいく消防士の勇気、子どもを育てる親の献身の気持ちが、私たちの運命を最終的に決める。」



(4)  困難な任務 引き受ける <4>新たな挑戦

 「私たちの挑戦は新しいものかもしれない。立ち向かう手段も新しいものかもしれない。だが、成否を左右する価値観は、勤労と誠実さ、勇気と公正さ、寛容と好奇心、忠誠と愛国心、といったものだ。これらは古くから変わらない。そしてこれらは真理だ。私たちの歴史を通じて、これらは前に進む静かな力となってきた。必要なのは、こうした真理に立ち返ることだ。今私たちに求められているのは、新たな責任の時代だ。それは、一人ひとりの米国人が、私たち自身や我が国、世界に対する責務があると認識することだ。その責務は嫌々ではなく、むしろ困難な任務にすべてをなげうつことほど心を満たし、私たち米国人を特徴づけるものはないという確信のもとに、喜んで引き受けるべきものだ。

 これが市民であることの代償と約束である。これが、不確かな行き先をはっきりさせることを神が私たちに求めているという、私たちの自信の源でもある。これが、私たちの自由と信念の意味だ。なぜあらゆる人種と信仰の男性と女性、子供がこの広大な広場に集い、共に祝えるのか。そしてなぜ、60年足らず前だったら地元のレストランで食事をさせてもらえなかったかもしれない(注8)父を持つ男が、(大統領就任の)神聖な宣誓のためにあなたたちの前に立つことができるのか、ということだ。

 さあ、この日を胸に刻もう。私たちが何者で、どれだけ遠く旅をしてきたかを。建国の年、最も寒い季節に、いてついた川の岸辺で消えそうなたき火をしながら、愛国者の小さな集団が身を寄せ合っていた。首都は放棄された。敵が進軍していた。雪は血で染まっていた。独立革命の行く末が最も疑問視されていたとき、建国の父は広く人々に次の言葉が読み聞かされるよう命じた。

 「将来の世界に語らせよう。厳寒のなか、希望と美徳だけしか生き残れないとき、共通の危機にさらされて米全土が立ち上がったと」 (注9)

 アメリカよ。共通の危機に直面したこの苦難の冬の中で、時代を超えたこの言葉を思い出そう。希望と美徳をもって、いてついた流れに再び立ち向かい、どんな嵐が来ようと耐えよう。私たちの子供たちのまた子供たちに、私たちは試練のときに、この旅が終わってしまうことを許さなかった、と語られるようにしよう。私たちは後戻りも、たじろぎもしなかったと語られるようにしよう。そして、地平線と神の恵みをしっかり見据えて、自由という偉大な贈り物を受け継ぎ、未来の世代にそれを確実に引き継いだ、と語られるようにしよう。

 ありがとう。みなさんに神のご加護がありますように。そして、神のご加護がアメリカ合衆国にありますように。」



ワシントンを引用

 注1 市民のみなさん(My Fellow Citizens) 初代大統領ワシントンが1789年4月30日の第1回就任式で「上下院に集まる市民のみなさん」と呼びかけて演説を始めた。多くの大統領が踏襲してきた。

 注2 過去の大統領の人数 オバマ氏の勘違い。オバマ氏は第44代だが、実際は第22代クリーブランド大統領がいったん落選した後、4年後に帰り咲き、第24代として宣誓しているため、これまでに大統領になった米国人は43人。

 注3 「我ら合衆国の人民」(We the people) 合衆国憲法前文の書き出しを示す。」


 

前政権の姿勢を批判

 注4 安全と理想の二者択一(choice between our safety and our ideals) ブッシュ政権が対テロ戦争の下で、グアンタナモ収容所での無期限収容やイラク・アブグレイブ刑務所での拷問、令状なし盗聴といった措置を取り、安全を優先するためには米国の理想からの逸脱もやむを得ないという姿勢を見せてきたことへの批判だ。ここでの「法の支配と人権を保障する憲章」(a charter to assure the rule of law and the rights of man)とは合衆国憲法を示している。

 注5 父が生まれた小さな村 オバマ氏の亡くなった父親はケニア西部コゲロ村で生まれ育ったルオ族だった。」



敵対国指導者と会う

 注6 責任ある形のイラク撤退(responsibly leave Iraq to its people) オバマ氏はイラクから16ヶ月以内に駐留米軍の戦闘部隊の大半を撤退させると公約。アフガンについては、テロとの戦いの主戦場と位置づけ、米軍を増派させる。

 注7 手をさしのべる(extend a hand) オバマ氏は、イランや北朝鮮などの敵対的な国家の指導者とでも、それが米国の国益にかなうのならば、米国が指定したタイミングで前提条件なしで会うことも辞さない、と公約してきた。」



ペインの一節から

 注8 人種隔離政策(segregation) 公民権運動によって撤廃されるまで、南部では有色人種は飲食店から学校に至るまで白人用の場所には入れないという法律が横行していた。

 注9 愛国者の小さな集団(a small band of patriots) ジョージ・ワシントンらが1776年12月、英国軍への反撃に成功したトレントン・プリンストンの戦いに打って出る直前の状況を示している。引用文は、独立宣言への源流を形作った政治パンフレット「コモン・センス」を出版したことで知られるトマス・ペインの文章「アメリカの危機」(The American Crisis)から。ワシントンはこれを読ませて士気を鼓舞した。

 全体の演説の長さ オバマ氏の演説は約21分で終わった。大統領就任演説としては短め。過去最短記録はワシントンの2度目の就任式(1793年)で、135語だけ。最長は1841年の第9代ハリソン大統領の8445語で、約2時間に及んだ。」




2.オバマ米大統領の就任演説についての解説・社説

(1) 朝日新聞平成21年1月22日付朝刊15面「私の視点―ワイド―」

◆オバマ演説 希望を実感させる説得力

 鶴田知佳子(つるた・ちかこ) 東京外国語大教授、同時通訳者

 オバマ大統領が誕生した瞬間、CNNの中継を同時通訳しているブースの中で、同僚と私は思わず喝哉(かっさい)を叫んだ。これで久しぶりに大統領らしい英語の通訳ができる。もっと正直に言えば、通訳者の頭が悪そうに聞こえないで助かる……。

 選挙戦に比べると、就任演説は抑制されたものに聞こえたかもしれない。有名な「イエス・ウィ・キャン」は一度もなく、「チェンジ」も二度しか出てこなかった。しかし、変化、希望、団結という彼のキーワードは、その奥にこめられている。

 就任演説をひとことで言うなら「過去の成功体験を未来への希望へとつなごう」というものだ。アメリカは今、危機の下にある、だが過去にも建国の時の苦難を乗り越えたではないか、団結して克服していこう、と。

 「安全と理想の二者択一を拒絶する」と語ったのは、ブッシュ政権に対する批判だろう。冒頭で「ブッシュ大統領に感謝」と言いつつこの批判を織り込んだのは、自分は変化をもたらしていくのだということを明確に示している。

 クリントン氏以来、私は大統領の演説や会見などの同時通訳をしてきた。クリントン氏は南部なまりで親しまれたが、通訳者としてはあまりの早口で困ったことが何度もあった。オバマ大統領は若々しく、さっそうとしている。バリトンの声はよく響き、間の取り方もうまい。

 だが彼の演説の一番の特徴は言葉の力そのものにある。

 選挙戦中の演説で、3つの疑問を示したあとに「答えは……」で始まる3つの文章を並べるなど、3回の繰り返しが特徴的だった。勝利宣言でも「新たにエネルギーを開発し、新たに雇用を作り出し、新に学校を建てる」というように「新に(ニュー)」を3回並べた。

 雄弁さと巧みなレトリックは、下手をすると大衆をあおるような演説になりがちだ。しかし彼の場合そうはならない。語り口はクールであり、激高したり叫んだりすることはほとんどない。自己陶酔には陥らず、むしろ常に聴衆を見ている。抑制した話し方が、かえって説得力、信頼性を増している。

 初のアフリカ系大統領だが、黒人特有の発音やアクセントがない。インドネシアやハワイの学校で学んだり、カンザス州出身の白人の祖父母に育てられたりしたからだろう。高い教育を受けた知識人の英語だ。

 これは、黒人層や貧困層に対して訴える点では、かえって不利になったかもしれない。

 だが彼の演説が巧みなのは、自分の苦しかった生い立ちを語ったり、さまざまな人種、年齢、仕事の人たちを実名で挙げたりすることで、聞いている人があたかも「自分のこと」を語られているように思うスピーチを行うことだ。自分が持っているものをどう使えばいいのか、それがわかっているのだろう。

 黒人指導者のキング牧師を、ケネディ大統領を、そしてリンカーン大統領を想起させることも特徴の一つだ。就任演説の終わりに、建国の父たちが極寒のなかで立ち上がったことを挙げて、人々を鼓舞した。自分はアメリカの歴史とアメリカらしさを体現していることを訴えることに成功したといえる。

 彼の演説に共通しているのは、この人についていけば明日は良くなると思わせる説得力、そして聞いている人たちを自分も統一体の一部と思わせる力だ。同時通訳をしながら、国家の指導者の言葉とはこういうものかと思った。」



(2) 朝日新聞平成21年1月22日付朝刊8面

価値観の転換 見える

久保文明・東大教授(アメリカ政治)

 選挙中の聴衆を奮い立たせる演説とは異なって、オバマ氏が自分の目指す米国像を説明する内容だった。一種、米国史の再定義のようなところがあった。

 今米国は、国内では経済危機の対応に追われているし、国外ではイラクとアフガニスタンで戦争も続けている。国民全体に対して、皆少しずつ犠牲を払おうと呼びかけている。それが米国の良き伝統ではなかったかということだ。キーワードは、「自己犠牲」 「無私」 「責任」さらに「共通の目的」 「アメリカの再建」などだ。

 最近の金融危機に見られるような、個々人が自分の利益ばかり考えるような米国とは異なる国になる必要があるというアピールだ。

 それは政治の軸を単に右から左に移すのではなくて、米国の価値観を替え、最近のイデオロギー的な分極化を克服するということだ。国を根本から作り替える必要があるという考えが読み取れる。

 外交では貧しい国に対する責任も語っている。就任演説としては非常に壮大で特異なものではないかと思った。

 イスラムについて、かなり比重を割いて言及している。これも相当例外的なことだと思う。和解のメッセージが入っているが、自分たちのできないことを西側諸国のせいにする政治指導者に対しては、「破壊ではなく何を建設するかで評価される」と牽制(けんせい)するなど厳しいメッセージも含まれている。イスラム問題を相当重視していると感じた。

 一方、人種問題にはあまり触れていない。彼にとって人種対立は米国の抱える問題の本質ではないのだろう。やはり国民の間にある自己本位な考え方をいかにして乗り越えるかの方が、はるかに大事だと思っているようだ。

 かなり抽象的な議論が多い。読み解くのが少し難しい哲学的側面を持つ演説だ。相当深みがあり、玄人向けではないかと思った。 (聞き手・加藤洋一=ワシントン)」



(3) 朝日新聞平成21年1月22日付「社説」

オバマ氏と世界―柔らかく、したたかに

 自省するかのような厳粛なトーンで、オバマ新米大統領は語りかけた。選挙戦のころの、聴衆を奮い立たせるような熱っぽさは影をひそめた。直面する困難の重さと、指導者としての責任感がそうさせたのだろう。

 経済危機など現実の厳しさを率直に認めたうえで、「アメリカよ、それは解決できる」と、米国民に勇気をもって試練に立ち向かうよう求めた。

 そんななかに「すべての国の皆さんや政府に知ってほしい」という異例の呼びかけがあった。

 イスラム世界に対し「私たちは、新たな道を模索する」と述べ、これまでとはアプローチを変え、共通の利益と相互の尊敬に基づく関係を築きたいという意欲を示した。

 9・11同時テロをきっかけに、米国ではイスラムへの偏見が一気に強まった。逆に、イスラム世界では反米感情が燃え上がった。この不信と憎悪の悪循環を何としても断ちたいという思いに違いない。それなしに中東和平もイラクの安定もないし、本当のテロ対策も成り立つまい。

 イラク戦争で4千人を超える米軍兵士が命を落とした。イスラムとの対話を呼びかける新大統領の言葉を、米国民も納得して聞いたのではないか。

 むろん、新大統領の一言で長年の対立の構図が解けるわけはない。イスラエルのガザ侵攻にオバマ氏は沈黙し、イスラム世界を中心に失望と憤りが広がった。だが、就任演説で触れたことの重さは軽視すべきではない。

 公約したイラクからの米軍撤退を軌道に乗せ、戦争の収束に誠実に取り組むことがイスラム世界の対米不信を解く第一歩だ。イスラム世界もこの絶好の機会を真剣にとらえて、対話に踏み出してほしい。

 ブッシュ政権が敵視してきた独裁政権などにも、手をさしのべる用意があると表明した。北朝鮮やイラン、キューバなどが念頭にあるのだろう。

 「握りしめたこぶしを開くなら」という条件がついた。核開発やテロ支援をはじめ、国際社会のルールを無視し、地域の緊張をいたずらに高めるような姿勢を変えよということだ。もっともな立場だし、「悪の枢軸」呼ばわりして無用な緊張をあおるより、はるかに賢明な外交である。

 オバマ氏は、途上国の貧しい人たちにも呼びかけた。日本などの先進国には、貧困や環境・資源問題にともに取り組もうと語った。

 目新しい主張ではないけれど、ブッシュ時代には欠けていた他者への共感と謙虚さを感じさせた。国際協調主義への明確な転換である。

 「世界が変わったのだから、米国も変わらなければならない」。この難題をどう実行して見せるか、世界は期待しつつ注視している。」





3.注記や就任演説中の重要ポイントの指摘、そして、幾つかの解説を読むことで、オバマ米大統領の就任演説を正しく理解できたのではないかと、思います。

(1) 解説のなかでは、次の点に注目しておきたいと思います。

 「就任演説をひとことで言うなら「過去の成功体験を未来への希望へとつなごう」というものだ。アメリカは今、危機の下にある、だが過去にも建国の時の苦難を乗り越えたではないか、団結して克服していこう、と。
 「安全と理想の二者択一を拒絶する」と語ったのは、ブッシュ政権に対する批判だろう。冒頭で「ブッシュ大統領に感謝」と言いつつこの批判を織り込んだのは、自分は変化をもたらしていくのだということを明確に示している。」(鶴田知佳子(つるた・ちかこ) 東京外国語大教授、同時通訳者)

 「最近の金融危機に見られるような、個々人が自分の利益ばかり考えるような米国とは異なる国になる必要があるというアピールだ。
 それは政治の軸を単に右から左に移すのではなくて、米国の価値観を替え、最近のイデオロギー的な分極化を克服するということだ。国を根本から作り替える必要があるという考えが読み取れる。」(久保文明・東大教授(アメリカ政治)

 「そんななかに「すべての国の皆さんや政府に知ってほしい」という異例の呼びかけがあった。
 イスラム世界に対し「私たちは、新たな道を模索する」と述べ、これまでとはアプローチを変え、共通の利益と相互の尊敬に基づく関係を築きたいという意欲を示した。(中略)
 ブッシュ政権が敵視してきた独裁政権などにも、手をさしのべる用意があると表明した。北朝鮮やイラン、キューバなどが念頭にあるのだろう。(中略)
 オバマ氏は、途上国の貧しい人たちにも呼びかけた。日本などの先進国には、貧困や環境・資源問題にともに取り組もうと語った。
 目新しい主張ではないけれど、ブッシュ時代には欠けていた他者への共感と謙虚さを感じさせた。国際協調主義への明確な転換である。」(朝日新聞「社説」)


オバマ米大統領は、安全か理想かの二者択一しかないという硬直的な考えを否定し、個々人が自分の利益ばかり考えるような価値観を変えるべきことを主張しているのです。しかも、就任演説の内容を米国民だけに向けてメッセージを送るのではなく、「すべての国の皆さんや政府に知ってほしい」という異例の呼びかけを行い、「ブッシュ時代には欠けていた他者への共感と謙虚さ」を示しました。他者への共感・寛容さを説き、自己中心的な価値観の転換を迫り、国際協調主義への明確な転換を表明した点こそが、この就任演説で読み取るべきことのように思います。



(2) 最後に。就任演説を聞き、日本はどういう外交をとるべきなのでしょうか。

 イ:東京新聞平成21年1月25日付朝刊23面「本音のコラム」(山口二郎・北海道大教授)

日本の主張は

 オバマ大統領の就任はとりあえず何かしてくれるのではないかという期待を世界中の人々に抱かせた。就任演説は、高らかに理想を謳(うた)うというよりも、かなり抑制的な調子で、世界が直面する問題の難しさを国民に印象づけるものであった。

 それにしても、宗教的な多元性と寛容を強調し、アメリカの自由や民主主義などの普遍的な原理を世界とともに共有するという姿勢を示したあたりには、ブッシュ政権と異なる謙虚さを感じられた。

 新政権の誕生との関連で、アメリカ外交において日本の存在感が一層小さくなるのではないかという懸念を示す識者も多い。何とも滑稽(こっけい)な話である。世界において日本が軽んじられるようになったのは、ひとえに、思考停止のままブッシュ政権に追従したからである。

 日本の存在感を高める道筋は、簡単ではないが、明白である。日本人も自国の進路をしっかり考え、自分の主張をアメリカにぶつければよいだけの話である。違う国なので、利害や理念が異なるのは当然である。

 オバマ大統領自身も強調した民主主義に則(のっと)って日本人が議論した結果、日本の政策はこうなりましたとまずはアメリカに主張することから、国家間の交渉は始まる。米軍再編や沖縄の基地問題について日本人がどうしたいのかを考えることから外交論議を始めるべきである。」



 ロ:民主主義に則って日本人が議論し、「日本人も自国の進路をしっかり考え、自分の主張をアメリカにぶつければよいだけの話」であり、「米軍再編や沖縄の基地問題について日本人がどうしたいのかを考えることから外交論議を始めるべき」なのです。要するに、とかく思考停止しがちで、他者の様々な価値観を許容できず、論理的に考えることなく感情論に流されている日本社会を改めること――が求められています。

しかし、本当に可能なのでしょうか。

<1>田母神・前航空幕僚長は、都合よく史実をつなぎ合わせ、怪しげな資料を基にして「陰謀史観」を開陳した論文であるにもかかわず、驚くべきことに擁護する市民が多数いるのであり(「田母神・前空幕長の論文問題:“日本の侵略行為正当化”論文の歴史認識を検証(朝日新聞平成20年11月11日付より)」(2008/11/11 [Tue] 22:37:20)参照)、<2>「派遣切り」に遭い、職や住まいを失って路頭に迷っているのだから、生存権(憲法25条)の保障が及んで当然であるのに、そうした人たちに対して「自己責任」であると非難する市民が多数いるのです。そこには、およそ論理的に考える思考力が欠けているのです。

更に言えば、<3>インターネット上では、いわゆる「ネット医師」が暴走しています。

 「私は、医師しか閲覧・投稿できない「医師専用掲示板」や医師が書いているブログの書き込みを見て驚いた。そこには、ふだん私たちが「先生」と呼んで尊敬している医師のものとは思えない言葉が、いくつも書き連ねていたのだ。
 それらの多くが、医療による被害者を訴える遺族、支援者、マスコミなどを、名指しで非難するものだった。
「クレーマー」「モンスター患者」「自称被害者」「医療テロリスト」「医療カルト」「マスゴミ」「「ハイエナ弁護士」「賠償金がほしいのか」「武士らしく切腹しろ」……等々。
 こうした心ない言葉を投げつけるだけではない。鵜呑(うの)みにしたうわさ話に、さらに憶測を上塗りし、事実無根のデマをあたかも真実であるかのようにネットに垂れ流す。」(鳥集徹『ネットで暴走する医師たち』(WAVE出版、2009年)82頁以下)


これら名誉毀損罪(刑法230条)や侮辱罪(刑法231条)に当たるような言動であっても、平気で書いてしまうのです。しかも、そうした言動に対して自省を求める医療者に対して、むしろ誹謗中傷を行ってしまうのですから、まるで反省することはないのです。

「鵜呑(うの)みにしたうわさ話に、さらに憶測を上塗りし、事実無根のデマをあたかも真実であるかのようにネットに垂れ流す」ような態度に至っては、妄想と事実との区別、論理的に考えることがまるでできないことの証左です。傍から見れば滑稽で幼稚としか思えないのに、これら「ネット医師」には理解できないのです。論理性の欠如がここにも表れています。

「とかく思考停止しがちで、他者の様々な価値観を許容できず、論理的に考えることなく感情論に流されている日本社会を改めること」、「米軍再編や沖縄の基地問題について日本人がどうしたいのかを考えることから外交論議を始めるべき」という点は、現段階では、不可能に近いように思うのです。


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