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主に社会問題について法律的に考えてみる。など。
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2006/10/12 [Thu] 04:43:39 » E d i t
東京都品川区長は10月10日、出生届を受理するよう命じた東京高裁決定を不服として、最高裁の判断を仰ぐための許可抗告を同高裁に申し立てたという報道がありました。この点についてコメントしたいと思います。


1.まずは新聞報道から。

(1) asahi.com(朝日新聞平成18年10月11日朝刊34面)

「母性とは、親子とは何か考えて」 代理出産の向井夫妻
2006年10月11日01時03分

 タレントの向井亜紀さん(41)夫妻が代理出産を依頼して生まれた双子(2)をめぐり、東京都品川区長は10日、出生届を受理するよう命じた東京高裁決定を不服として、最高裁の判断を仰ぐための許可抗告を同高裁に申し立てた。向井さんは同日夜、記者会見し、「抗告(申し立て)は予想していた。生殖補助医療が発達した今、もう一度母性とは何か、親子とは何かを考えてほしい」と話した。

向井さんは会見中、終始穏やかな表情。国内では公表しないままに代理出産が行われる例が多いことをふまえ「代理出産をあえてオープンにした場合に、日本の司法がどう答えてくれるかが知りたくて、裁判を起こした。最高裁で話し合われるのもいい勉強になると思っている」と話した。

 「母体を生殖の道具として使う行為」などとする懸念については「お金のためではなく、本当にボランティア精神からおなかを貸してくれる人もいる」と強調した。

 夫の高田延彦さんは最高裁の決定に向け「何が何でも(向井さんを)母親にしてくれという気持ちはさらさらない。子どもたちが成長した時に、きちんと説明できるような議論をして、子どもが幸せになれる結果を望むばかりだ」と話した。」



(2) 日刊スポーツ(平成18年10月11日付26面)

向井亜紀、役所書類は「母」
 
 東京都品川区は10日、タレント向井亜紀(41)と元プロレスラー高田延彦氏(44=PRIDE統括部長)夫妻が代理出産でもうけた双子の男児(2)の出生届受理を命じた先月29日の東京高裁決定を不服として、最高裁への許可抗告を申し立てた。これを受け夫妻は高裁決定後、初めて会見。高裁決定に「真正面から取り組み理解していただいた」と感謝した上で「最高裁には2人の子どもたちの幸せを考える決定をしてほしい」と訴えた。

 夫妻は弁護士2人を伴い会見場に現れた。弁護士が東京高裁の決定内容を説明した後、慎重に言葉を選びながら質疑に応じた。

 高田 高裁決定にもろ手を挙げて喜んでいるわけではないが、真正面から今回の問題について取り組んでくれたことに感謝している。我々からアクションできる立場ではないので、あとは結果を待つしかない。

 向井 代理出産はどこかで誰かがやっていること。私はオープンにやった方がいいと思うので、日本の法律がそれに応えてくれるのを確かめるのは意味があると思う。

 代理母出産について日本の法律に規定はないが、法務省の見解は「日本では産んだ女性が母親」。そのため、法務省は夫妻の子として提出された出生届を不受理とした。高裁決定も民法の解釈論としては「高田夫妻は法律上の親とはいえない」としている。しかし、<1>米国裁判所が高田親子の子と認定した<2>向井は子供を産めない体である<3>代理母も金銭目的ではない、などを認定。「血縁関係は明らかで、親子と認めた米国の確定裁判を承認しても公序良俗に反しない。受理しないと法律的に受け入れる国がない状態が続く。子の福祉を優先すべき」と判断した。

 向井によると、先日、置引に遭い、子どもたちの健康保険証もなくしたという。「品川区役所で再発行を求める書類を書く際、続き柄を空欄で出したら、打ち出された書類は『母』になっていました。実務的には母にしてもらっている」と話した。裁判をする意味について2人は「役所はなぜ不受理なのか説明してくれない。子どもたちが大きくなったときに、きちんと理由を含めて説明してあげたい。説明できる判断なら期待した答えではなくとも納得する」と話した。

 子どもたちは元気いっぱいだ。高田は「親ばかですが、素直でかわいい」、向井も「レスラーになりたいと言ったら『わたしを倒してからいけ』と言います」と笑った。

[2006年10月11日7時59分 紙面から]


◆区長「司法に判断」

 最高裁への許可抗告手続を申し立てた品川区の浜野健区長は「子どもがほしいという向井さんの気持ちには動かされるものがあるが、医療の進歩に社会的コンセンサスが得られていない状況を考えると司法の最終判断に委ねたい」と述べた。また、長勢甚遠法相は「最高裁判例や学説のほとんどが日本では分娩(ぶんべん)で母子関係とする考え方で統一されているが、高裁決定はきちんとした判断があるように思えず、確定すると混乱する」との見解を示した。


◆許可抗告:高裁の決定や命令に不服

 民事裁判で高裁の決定や命令を不服として高裁の許可を得て最高裁に抗告すること。高裁は決定や命令に法令解釈の上で重要な事項を含むと認められる場合、抗告を許可しなければならない。最高裁は審理の上、明らかな法令違反があるときは、高裁決定などを破棄する。高裁の決定や命令に不服がある場合、旧民事訴訟法では憲法違反を理由とする特別抗告に限られていたが、改正法で許可抗告が新設された。」




2.日刊スポーツが今まで出てない「東京高裁決定の内容」に触れているので、朝日新聞や読売新聞の報道を併せると、これで大体、東京高裁決定の論理展開が判明できたと思います。

(1) まとめると次のような論理展開でしょう。

この代理出産による実親子関係の成立の成否の事案は、米ネバダ州裁判所が「向井さん夫妻が子供たちの血のつながった、そして法律上の父母と認められる」とする命令を出しているので、外国判決の承認(民事訴訟法118条)の問題として処理することになる。
          ↓
民事訴訟法118条の要件を検討すると、
・命令は「外国裁判所の確定判決」にあたるので、118条本文の要件は満たす。
・118条3号は「判決内容が公序に反しないこと」を要件とするが、民事訴訟法上、日本の基本的価値や秩序に混乱をもたらさないなどの条件を満たせば日本で承認される、との枠組みによるべき。
          ↓
この枠組みで具体的に検討する。
          ↓
判例上、分娩の事実で母子関係を決定するので、民法の解釈論としては、高田夫妻は法律上の親とはいえない。
          ↓
しかし、ここでの問題は民事訴訟法118条3号における「公序」に該当するかの問題である。118条3号の「公序」は、民法90条の「公序」より狭く、内国強行法規、例えば、物権、親族相続の規定に抵触する外国法でも、必ずしも118条3号の「公序」に反しない。
          ↓
(イ):民法制定時に想定されていないからといって、人為的操作による妊娠、出生すべてが法秩序に受け入れられない理由にはならない。現に、人工授精による妊娠については、当事者の意思を十分に尊重して確認する条件の下で、現行法制度の中で容認されている。
          ↓
(ロ):代理母とその夫は、代理出産した子との間での親子関係や養育を望んでいないから、このままでは、子らは法律的に受け入れるところがない状態が続く。他方で、向井夫婦は子らを出生直後から養育し、今後も実子として養育することを強く望んでいる。
したがって、日本において向井夫婦を法律的な親と認めることを優先すべき状況であり、向井夫婦に養育されることが最も子の福祉にかなう。
          ↓
(ハ):厚生労働省の審議会が代理母出産を禁止する理由として挙げた「人をもっぱら生殖の手段として扱うことの禁止」「安全性」「商業主義の排除」などのいずれにも、今回のケースは当てはまらないと判断できる。
          ↓
(ニ):現在、わが国では代理母契約について、禁止規定は存在せず、代理妊娠・出産を否定するような社会通念は確立されていない。
          ↓
(イ) 民法制定時に想定されていないような人為的操作による妊娠・出生すべてが日本の法秩序に反するわけではない
(ロ) この事案では日本での養育が子の福祉にかなう
(ハ) この事案は、厚生労働省の審議会が代理母出産を禁止する理由に反しない
(ニ) 日本法上禁止規定がなく社会通念に反しない
ことからすると、この事案において双子が向井夫妻の実子とすることは、日本の基本的価値や秩序に混乱をもたらすとはいえず、118条3号の「公序」に反しない。
          ↓
結論:夫妻と双子を実親子と認めた米国の確定裁判を承認すべきであるから、民事訴訟法118条により、出生届受理が妥当。


こうやって、東京高裁決定の論理を明らかにすると、妥当な論理展開・結論であると思います。



(2)東京高裁決定について、違った論理で説明してみます。

民事訴訟法118条3号の「公序則」は、例外的性質の規定ですから、その発動は慎重にされるべきと解されています(山田鐐一「国際私法」128頁)。日本法上の代理出産の肯否は議論中であって代理出産の禁止規定がなく、合法か違法か未定なのですから、118条3号の「公序」に反するとの判断は困難です。
代理出産の禁止規定がないのにもかかわらず、積極的に「公序則」に反すると判断することは、慎重であるべき公序則の発動にそぐわないからです。


東京高裁決定によると、結果として代理出産によっても実親子とした出生届を肯定することになりますが、母子関係は分娩の事実によるという「分娩主義」(最高裁昭和37年4月27日判決)と抵触します。これをどう説明すべきでしょうか?

日本民法上の親子関係は、「自然の血縁に基づいて法的親子関係が生じる実子と、養育の意思に基づいて成立する養子に分かれる」(二宮周平「家族法」157頁)とされています。血のつながりを求めるのが人間の本性ですから、血縁に基づくのが実子とされているのです。
そして、母子関係を分娩という事実によるとしていたのは、従来、分娩の事実で自然の血縁があることを客観的に証明できたからである(二宮周平「家族法」157頁)、と説明できます。

要するに、実親子関係(母子関係)の成立は血縁によるのが原則(「血縁主義」)であって、分娩の事実は血縁の証明手段にすぎないのですから、代理出産の場合のように血縁者と分娩者が一致しない場合には、血縁主義に従って血縁者を実親子と判断すべきであると考えます。生殖補助医療をすべて禁止することは不可能である以上、現実を踏まえた判断が必要だからです。

そうすると、向井夫妻の両方と双子との間に血縁関係が存在するのですから、外国判決の承認によって、双子を向井夫妻の実子と認めても、分娩主義に優先する「血縁主義」に反しない以上、日本の基本的価値や秩序に混乱をもたらすとはいえないでしょう。


このような論理からしても、東京高裁決定の結論は妥当であると判断できると考えます。



(3) なお、長勢甚遠法相のコメントには問題があります。長勢甚遠法相は

「最高裁判例や学説のほとんどが日本では分娩(ぶんべん)で母子関係とする考え方で統一されているが、高裁決定はきちんとした判断があるように思えず、確定すると混乱する」

との見解を示しました。
しかし、この問題は、東京高裁決定は外国判決の承認の問題として実親子関係を認めたのであって、日本法上の「分娩主義」を変更するものではないのです。 現に、東京高裁決定は「民法の解釈論としては、高田夫妻は法律上の親とはいえない」と判断しているのです。

また、外国判決の承認の問題において、判断を示した判例は東京高裁決定以外になく、学説としては「民事訴訟法118条が規定する外国判決承認制度によって、外国裁判所で決定された親子関係がわが国においてもそのまま承認される余地がある」(早川吉尚「ジュリスト123号」(2003年)40頁)とするものがあるくらいで、学説上、殆ど議論されていません。外国判決の承認の問題においては判例・学説上、統一された見解はないのです。

長勢甚遠法相のコメントは、外国判決の承認の問題であることを理解しない発言であって、妥当ではありません




3.向井さんは、国内では公表しないままに代理出産が行われる例が多いことをふまえ「代理出産をあえてオープンにした場合に、日本の司法がどう答えてくれるかが知りたくて、裁判を起こした」そうです。既に数百件以上、代理出産を行っている日本人夫婦が存在するのに、秘密裏にせざるを得ない状況にあることは不健全です。

向井夫妻が代理出産で子供をもうけたことをオープンにしたことで、訴訟になりました。多くの代理出産を行った夫婦、これから代理出産を行おうとしている夫婦を代表して、あえて訴訟を起こしたに等しいのですから、向井夫妻の行動は大変意義があると考えます。

個人的には東京高裁決定のまま維持されると考えますが、仮に最高裁において東京高裁決定の判断が否定されたとしても、代理出産を望む日本人夫婦がいなくなるとは考えられません。東京高裁決定の判断を否定しても、今まで通り、代理出産であることを役所に明らかにすることなく実子として届け出るだけなのです。東京高裁決定の判断を否定したところで、なんら問題解決にはならないのです。

テーマ:法律全般 - ジャンル:政治・経済

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