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主に社会問題について法律的に考えてみる。など。
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2008/12/11 [Thu] 01:25:56 » E d i t
広島市安芸区で2005年11月、市立矢野西小1年の木下あいりちゃん(当時7歳)が殺害された事件で、殺人や強制わいせつ致死罪などに問われたペルー国籍のホセ・マヌエル・トレス・ヤギ氏(36)の控訴審判決が2008(平成20)年12月9日、広島高裁でありました。

楢崎康英裁判長は「1審でヤギ被告の全供述調書を却下したことは不可解で、犯行場所を被告のアパート及びその付近とした事実認定は疑問がある。審理を尽くしておらず、訴訟手続きは違法」などとして、無期懲役とした1審・広島地裁判決を破棄、同地裁に差し戻しました。



1.報道記事を幾つか。

(1) 朝日新聞平成20年12月10日付朝刊

「審理不十分」 広島女児殺害、ヤギ被告の無期判決破棄
2008年12月10日1時49分

 広島市安芸区で05年11月、下校中の小学1年生木下あいりさん(当時7)が殺害された事件で殺人、強制わいせつ致死、死体遺棄などの罪に問われたペルー国籍のホセ・マヌエル・トーレス・ヤギ被告(36)の控訴審判決が9日、広島高裁であった。楢崎康英裁判長は「一審は審理を尽くしておらず違法」と述べ、一審・広島地裁の無期懲役判決を破棄して審理を地裁に差し戻した。弁護側は殺人などについて責任能力を争って無罪を主張しており、差し戻しを不服として上告する方針。

 一審は来年5月に始まる裁判員裁判のモデルケースとして、争点を事前に絞り込む公判前整理手続きを2カ月で8回実施。証拠調べを初公判から5日間、計25時間で終える集中審理も行った。高裁判決は一審の訴訟指揮や検察側の立証活動の不備を指摘しており、裁判員となる市民の負担軽減のための迅速化と、必要な審理を尽くすことの両立の難しさを強く印象づけた。

 06年7月の一審判決は、検察側が犯行場所を被告の「アパート自室内」から「アパート及びその周辺」と広げた訴因変更を認めた。しかし、高裁判決は、室内であれば「どのように連れ込んだか」で犯行形態が大きく異なるなど、犯行場所が屋内か自室かは量刑判断の上で非常に重要だと指摘。死刑が求刑された重大事件であり、刑事裁判には真相を明らかにする使命があることからみても「あいまいなまま判断するのは相当でない」と一審を批判した。

 また、一審は被告の捜査段階の供述調書を取り調べなかったため、犯行場所について事実を誤認したのではないかと考えざるを得ないと指摘。被告の自室から押収された毛布に被害女児のものと思われる毛髪と血が付いており、被告の「事件当日、毛布を部屋から外へ出していない」と受け取れる供述が信用できれば、犯行場所は室内と認定できたはずだと述べた。

 被告がペルーで少女に性犯罪をしたとされる前歴をめぐる資料については「一審判決がペルーでの前歴をおよそ考慮する必要がないかのように受け取れる点は賛同できない」と述べ、証拠採用した理由を「量刑や公判供述の信用性を判断するうえでも有用」と説明した。

 検察側、弁護側双方とも量刑を不服として控訴したが、判決は職権で一審の訴訟手続きそのものについて検討。公判前整理手続きの段階で被告の供述調書の任意性が争いになることが当然予想できたのに、この争点を取り上げなかったと非難した。さらに公判で「任意性を立証してまで取り調べる必要性はない」として証拠調べの請求を却下したことは訴訟手続きの法令に違反しているとした。検察側にも犯行場所特定のために必要だとはっきり主張しなかった不手際があると述べた。

 一審判決は、確定的な殺意に基づくわいせつ目的の犯行と断定。被害者が1人で前科がないことなどから「矯正不可能な程度までの反社会性、犯罪性があるとは言い切れず、死刑をもって臨むには疑念が残る事案と言わざるを得ない」と判断していた。」



(2) 日経新聞平成20年12月10日付朝刊39面

広島女児殺害 差し戻し  高裁「一審、審理尽くさず」無期判決破棄

 広島市安芸区で2005年11月、小学1年木下あいりちゃん(当時7)が殺害された事件で、殺人や強制わいせつ致死罪などに問われたペルー国籍のホセ・マヌエル・トレス・ヤギ被告(36)の控訴審判決公判が9日、広島高裁で開かれた。楢崎康英裁判長は「1審は審理を尽くしていない」として、無期懲役(求刑死刑)とした広島地裁判決を破棄し、審理を同地裁に差し戻した。弁護側は上告する方針。

 検察側は1審途中で、犯行場所を「被告のアパート室内」から「室内およびその付近」と訴因変更。1審判決は同様に事実認定した。

 これに対し楢崎裁判長は、捜査段階のヤギ被告の調書などに室内での犯行の可能性を示す内容があったものの、1審が被告の全供述調書の採用を却下したことを「誠に不可解」と指摘。「犯行場所に関する事実認定には疑問がある」とした上で、責任能力に疑問が生じるなど、屋外か屋内かは犯行経緯や態様に影響するとして、「合理的理由なく調書を却下しており、審理を尽くしていない」と述べた。1審判決に対し、検察、弁護側とも量刑不当を理由に控訴。高裁は双方の主張にない点を職権で判断した。

 広島地裁は06年7月、被害者が1人で計画性がなく衝動的犯行であること、前科について証拠がないことなどを理由に死刑を回避、無期懲役とした。控訴審で検察側は、被告がペルーで女児への性犯罪で2回訴追されたとする資料を証拠提出し改めて死刑を求めた。一方、弁護側は殺人と強制わいせつ致死罪について無罪を主張。仮に有罪だとしても無期懲役は重過ぎるとした。

 1審判決によると、トレス被告は05年11月22日午後、自宅アパートやその付近で、あいりさんの首を片手で絞め殺害。遺体を段ボール箱に入れ、近くの空き地に放置した。

■トレス被告の弁護人、井上明彦弁護士の話 控訴審での当事者双方の主張を無視して裁判所が職権で判断している。差し戻して被告に不利な証拠を提出するよう言っており、検察官がもう1人いるようなものだ。

■山舗弥一郎広島高検次席検事の話 (1審差し戻しは)予想外の判決だ。内容を検討の上、適切に対処したい。」



(3) 東京新聞平成20年12月10日付朝刊26面

女児殺害審理差し戻し 「無期」破棄 『調書却下は違法』 広島高裁
2008年12月10日 朝刊

 広島市で二〇〇五年、下校中の小学一年木下あいりちゃん=当時(7つ)=が殺害された事件で、殺人、強制わいせつ致死などの罪に問われたペルー人、ホセ・マヌエル・トレス・ヤギ被告(36)の控訴審判決公判が九日、広島高裁であり、楢崎康英裁判長は「供述調書を却下した訴訟手続きは違法」として、無期懲役の一審判決を破棄、審理を広島地裁に差し戻した。検察側は死刑を求めていた。弁護側は上告する方針。

 楢崎裁判長は判決理由で、女児の血液が付いた毛布を、被告が「屋外に持ち出していない」と供述したととれる検察官調書について「弁護人が公判前整理手続きで任意性を争うとしたのに、一審は争点整理をせず証拠請求を却下した」と指摘。

 一審判決は犯行場所を「被告のアパートとその付近」としているが「調書を調べれば場所が分かる可能性があり、犯行態様も明らかになると思われる」と述べ、裁判所が調書を却下したことや、検察官が必要だと主張しなかったことを「誠に不可解」と批判した。

 さらに、一審が屋外での犯行可能性を認めたことは「アパートは市道に面していて通行人に丸見え」などとして事実誤認があると判断。「犯行場所は重要な要素。法令違反が判決に影響することは明らか」として「場所があいまいなまま双方の主張を判断するのは相当でない」と結論付けた。

 昨年十一月に始まった控訴審で、被告のペルーでの女児への性犯罪歴に関する資料を初めて証拠採用した点については「前歴でも、被告の犯罪が確実なら量刑で考慮すべき場合がある」とした。」




(4) 朝日新聞平成20年12月10日付朝刊39面

広島女児殺害 拙速な一審「無念」 遺族「苦しみ長引く」

 裁判員裁判のモデルケースとして迅速化を目指した一審の無期懲役判決は「審理が尽くされていない」とされた。広島市で05年11月に木下あいりさん(当時7)が殺害された事件の控訴審。「裁判を振り出し戻す」という判断に対し、遺族や関係者の間に波紋が広がった。

 「死刑か無期懲役以下の刑か、どちらか言い渡されると思っていたが、差し戻しとは……。非常に残念です」。公判終了後、記者会見したあいりさんの父、木下建一さん(41)は予想外の判決に無念さをにじませた。

 一審では、殺人などの罪に問われたペルー国籍のホセ・マヌエル・トーレス・ヤギ被告(36)の死刑を望み、無期懲役判決に強い衝撃を受けた。この日は、「無期懲役以下でも受け入れよう」と覚悟を決め、両手で元気いっぱいにピースするあいりさんの遺影をひざの上に置き、妻と一緒に傍聴した。「結論が出なくて残念だったね」。そう心の中で語りかけ、法廷で遺影を抱き直した。

 会見では、「苦しみがさらに長引くのかと、つらい思いになりました」と漏らした。判決文の朗読中に何度も取り乱したヤギ被告については「苦しんでいるのだろうが、それ以上にあいりと遺族は苦しんだ。最後まで判決を聞いてほしかった」と憤った。

 来年5月の裁判員制度スタートを想定し、異例の早さで進んだ一審。「遺族の心の負担を考えれば、非常に良かったと思っていた。ただ、今回のように複雑な事件では、争うべき点が審理で漏れることもあるのだとつくづくわかりました」と語った。

 裁判員制度については、「いい制度だと思うが、事件によっては限られた時間では審理できない。裁判所が(事件を)選別していかないと、今回のような差し戻しがあり得る」と指摘した。(加戸靖史)

     ◇

 判決後、ヤギ被告の弁護団が記者会見した。井上明彦弁護士は「被告を有罪にするために、足りない証拠を付けろと(検察側に)アドバイスしているようなもの」と判決を示した。一方、山舗(やましき)弥一郎・広島高検次席検事は「予想外の判決。内容を検討のうえ、適切に対応したい」との談話を出した。」



1審は09年5月から始まる裁判員制度のモデルケースとして、公判前整理手続きが適用されました。そのため、裁判員制度のモデルケース通り、今回の事件では06年3月~5月に8回行われ、5日間連続の集中審理が行われるなど06年5月の初公判から約2か月で判決が言い渡されたのです。ところが、控訴審判決は、より十分な審理をすべきだったとして差し戻してしまったのです。いわば、控訴審判決は「裁判員制度のモデルケース」を半ば否定したわけです。

弁護側は上告する方針ですが、上告された場合、最高裁が棄却すれば1審に差し戻され、受理すれば高裁の判決に対する判断が下されることになります(2008年12月10日02時20分 読売新聞)。




2.解説記事を幾つか。

(1) 朝日新聞平成20年12月10日付朝刊39面「解説」

「裁判員」へ丁寧さ課題

 9日の広島高裁判決は、審理の迅速化が求められるとしても、粗雑になることは許されない、と警鐘を鳴らした。

 裁判員制度に向け、裁判所は事前に公判の骨格をつくる公判前整理手続きと集中審理の準備を進めてきた。重大事件の審理は2~3年かかるのも当たり前だったが、市民を長くは拘束できないからだ。

 だが、高裁判決は一審の公判前整理手続きで、重要な争点が見過ごされたと批判する内容だった。

 また、市民が大量の記録を読むことは難しいため、裁判員裁判では口頭審理が重視される。しかし、公判での供述は捜査段階と変わることもある。この点について高裁判決は、捜査段階の供述調書を証拠採用しなかった一審を批判。供述調書が重要な内容を含む場合、取り調べる必要があることを強調している。

 公判前整理手続きはその後、多くの事件で採用され、手続きに1年以上費やす例も珍しくなくない。ただ、供述調書の任意性をめぐる争いは審理の長期化につながるとされ、高裁判決が求めた点に対応すれば、公判前整理手続きだけでなく、裁判員が参加した審理に想定以上の日数がかかることもありうるだろう。

 一審で調べられる証拠が不十分であってはならないのと同時に、審理に長い時間もかけられない。高裁判決は克服すべき課題を突きつけている。(鬼原民幸)」



(2) 日経新聞平成20年12月10日付朝刊39面

裁判員制度控え迅速化の流れ 真相解明の使命を重視 高裁

 広島小1女児殺害事件でペルー人被告の審理を1審に差し戻した広島高裁判決は、死刑の適否が問われる限界の事例だからこそ、事実をあいまいにしたままの量刑判断は許されないとの姿勢を示したといえる。裁判員制度を控え、審理の迅速性を重視しながら刑事司法の流れがあるが、刑事裁判の使命に真相解明機能があると強調した形だ。

 高裁は、1審判決が被告の検察官調書を取り調べなかった点を違法とした。調べていれば、犯行場所をアパート室内と特定できたかもしれないのに「室内およびその付近」と認定し、審理が尽くされていないと判断した。

 上告もできるが、差し戻されれば、自室で犯行に及んだととれる捜査段階の供述が自発的だったかどうか(任意性)が新たな争点になる。「水掛け論」になりやすい調書の任意性が争われると、刑事裁判は長期化する可能性もある。

 高裁は、犯行場所が屋内か屋外かは情状などの判断に非情に重要としながら、自室ならば被告に有利なのか不利なのかは言及しておらず、差し戻し審での量刑の行方も見えない。結論が先送りされたことになり、被害者遺族にとっては「長い裁判」が続くことになる。」



(3) 中国新聞平成20年12月9日付

スピード審理に“注文” 広島高裁の判決 '08/12/9

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 【解説】速ければいいのか―。小一女児殺害事件で、ペルー人被告の審理を差し戻した九日の広島高裁判決は、来年に始まる裁判員裁判の在り方にこう注文を付けたようにみえる。

 裁判員裁判では、市民の負担軽減のために迅速な審理が求められている。実施に先駆けて、事前に争点を絞り込む公判前整理手続きや集中審理といった方法が取り入れられた。

 一審の広島地裁はこうした手法をいち早く導入。二カ月に八回の公判前整理手続き、五日連続の審理、開廷日は計七日…。初公判からわずか五十日の判決は、従来の同種事件の数倍のスピードで「裁判所、検察、弁護士の三者が進行を協力したモデルケース」と評された。

 中でも、殺意を認めたとされる捜査段階での供述調書を地裁が証拠採用しなかったことは注目を集めた。供述調書は「証拠の王」とされてきたが、今回のように否認した場合、任意性をめぐって審理が長期化しやすい。

 そこで地裁はあえて採用を却下。被告人質問という生のやりとりを重視して、犯行場所は「被告宅付近」と細かく認定せず、検察側や遺族が求める極刑を退け、無期懲役の結論を導いた。

 しかし、高裁は「屋外を含むかどうかで経緯や態様、ひいては量刑に影響する」との立場から、場所の特定につながる供述が調書に含まれている可能性を挙げ、地裁の訴訟指揮を「誠に不可解」と厳しく批判した。

 地裁と高裁の違いは、事件の本質をつかみ取る「核心司法」と、細部に真実が宿るとする「精密司法」の立場の差だ。裁判員裁判は「核心」に向かっている。高裁を「時代に逆行している」と非難するのはたやすいが、判決は、限定された証拠で市民に「死刑か無期懲役か」を迫る難しさも示唆している。」





3.刑事法学者の見解を幾つか。

(1) 朝日新聞平成20年12月10日付朝刊39面(14版)

粗雑さへの警鐘に

 刑事法学者らの間では、裁判員制度を見据えた今回の判決を評価する声が目立った。

 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「一審は、審理の充実をはかるためにある公判前整理手続きを急ぎすぎた。捜査段階の被告の供述を証拠から切り捨てたのは疑問。控訴審が審理不尽と批判したのは当然だ」と話した。さらに「『準備は丁寧に、審理は迅速に』というのが司法改革の精神だ。ラフな審理では被害状況も解明されない。裁判員となる市民も証拠が不十分だと分かれば、死刑判決以外にないと思っても死刑を選択することが不可能になってしまう」と指摘した。

 元最高検検事の土本武司・白鴎大法科大学院長(刑事法)も「審理を早く片づけることを重視して中もが粗雑になってしまうとすれば問題であり、公判前整理手続きで証拠を過度にそぎ落としてしまうことへの危険性を指摘した判決と言える。迅速化のみを図るのではなく、刑事裁判の目的である真相の解明を追求すべき」と話した。

 また、諸沢英道・常磐大大学院教授(被害者学)は「判決が指摘するように、一審段階で検察側が用意周到に証拠価値を精査していれば差し戻しという事態は避けられたはずだった。公判前整理手続きは、裁判員が審理するための土俵を造る役割を担う。控訴審でその不備を指摘されるケースが続けば裁判員制度自体が混乱し、候補者となった市民に不安が広がるだろう」と語った。」



(2) 朝日新聞平成20年12月10日付朝刊39面(13版)

◆供述切り捨て疑問

渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話 一審は、審理の充実をはかるためにある公判前整理手続きを急ぎすぎた。捜査段階の被告の供述を証拠から切り捨てたのは疑問で、取り調べ状況を解明し、証拠にふさわしいかどうかを検討すべきだった。控訴審が審理不尽と批判したのは当然だ。被告の本国の性犯罪歴さえも取り寄せる時間を取らなかったのも、公判前整理手続きの趣旨に反する。「準備は丁寧に、審理は迅速に」というのが司法改革の精神だ。

 ラフな審理では被害状況も解明されない。今後、市民の代表となる裁判員も証拠が不十分だと分かれば、本来死刑以外ないと思っても死刑を選択することが不可能になってしまう。

◆続出なら制度混乱

諸沢英道・常磐大大学院教授(被害者学)の話 広島高裁は、地裁が実施した公判前整理手続きの問題点を明確に指摘した。高裁が指摘するように、一審段階で検察側が用意周到に証拠価値を精査していれば差し戻しという事態は避けられたはずだし、広島地裁も検察側のミスに気づくべきだった。公判前整理手続きは、裁判員が審理するための土俵を造る役割を担う。控訴審でその不備を指摘されるケースが続けば裁判員制度自体が混乱し、候補者となった市民に不安が広がるだろう。」



(3) 日経新聞平成20年12月10日付朝刊39面

差し戻し審では「前歴」も重要視

 板倉宏・日本大名誉教授(刑法)の話 1審判決はペルーでの「前歴」がないとの前提で無期懲役としたが、高裁は考慮する必要性に言及しており、今回の差し戻し判決で死刑を選択する余地もありうる状況になった。妥当な判断だ。差し戻し審では「前歴」が量刑判断の重要な材料になるだろう。また、裁判員制度が始まると、専門家でない市民が審理するため事実認定がアバウトになる可能性もあり、厳密さを求める意味合いもあるのかもしれない。」



(4) 毎日新聞 2008年12月10日 大阪朝刊

◇量刑不当を意識--立命館大の井戸田侃(あきら)名誉教授(刑事法)の話

 上級審が「審理の不尽」として訴訟手続きの違法を認定するのは、有罪か無罪かを争うケースが一般的。今回の判決が指摘しているのは、通常の「審理不尽」とは違う。量刑を念頭に置き、その判定の基礎をなす事実の認定手続きに誤りがあるという点を指摘しており、やはり、検察側の「量刑不当」を意識した判決ではないか。その意味では、差し戻し審では量刑に影響が出る可能性があるだろう。

 ◇裁判長の叱咤だ--青山学院大大学院の新倉修教授(刑事法)の話

 この判決には、1審の審理で公判前整理手続きがきちんと活用されていないことへの高裁の怒りを感じる。プロとして厳格な仕事をしろ、という裁判長の叱咤(しった)だ。しかし、裁判の迅速化という観点で考えると、差し戻しの判断が適正だったかは疑問が残る。」





4.最高裁平成21年10月16日判決は、広島高裁が示した「審理不足」という判断は誤りだとして、はき差し戻しとしました。広島高裁につき、エントリーにする機会を逸したままでしたが、大事な内容を含む判決でしたので、エントリーにしておくことにします。

この4.の部分は、「来栖宥子★午後のアダージォ」さんの「「広島女児殺害事件 高裁破棄、地裁へ差戻し」楢崎裁判長、光市事件の時と同様の振る舞い〈1〉」(2008-12-11)というエントリーへのコメントしたものを引用しました。

なお、最高裁は近いうちエントリーにしたいと思います。また、エントリーの日時は、平成20年12月11日ですが、実際にアップした日時は、平成21年10月17日午前11時17分です。

広島高裁の判断は妥当ではない (春霞)
2008-12-20 23:02:21

>慎重な審理に、異論は無い。拙速が冤罪を生んではならないからだ
>被告人に有利な前歴の故に地裁へ差し戻したのであれば、これは名判決(大岡裁き)と評されるのだろうが、死刑を指向する判決(破棄・差し戻し)のゆえに、そうは云い難い
>合理的理由に見えても、死を内包した判決文は寝覚めが悪い

私も、慎重な審理を行う態度だけは、ある程度は評価できます。ただし、この事件の裁判は、裁判員制度のモデルケースとして行われたのですから、少々事情が違います。

証拠書類をなるべく限定して、簡潔・迅速(拙速?)に行うのが裁判員制度です。もし差し戻されれば、自室で犯行に及んだととれる捜査段階の供述が自発的かどうか(任意性)が新たな争点になります。しかし、「水掛け論」になりやすい調書の任意性が争われると、当然、刑事裁判は長期化します(日経新聞平成20年12月10日付朝刊39面)。

裁判員制度を前提として「もっと証拠を出せ、慎重に審理しろ」と要求することは自己矛盾ですし、「任意性」まで争い、挙句、長期裁判になってしまうのでは、裁判員制度に不可能を強いるようなものです。楢崎裁判長は、裁判員制度がよく分かっていないのではないか、と思わざるを得ません。

最も問題なのは、広島高裁の楢崎裁判長が、あたかも検察官のように振舞ったことです。

トレス被告人の弁護人である、井上明彦弁護士は、「控訴審での当事者双方の主張を無視して裁判所が職権で判断している。差し戻して被告に不利な証拠を提出するよう言っており、検察官がもう1人いるようなものだ。」(日経新聞平成20年12月10日付朝刊39面)と述べていますが、まさにその通りです。こんな態度では、広島高裁は、公平な第三者であるべき裁判所(憲法37条)とはいえませんし、当事者主義さえも、よく分かっていないのではないか、と思わざるを得ません。

また、この事件では、裁判員制度と同様、初公判から約2か月で判決という極めて早いスピードで審理を行い、被告人側は防御上不利益を受けたのです。それなのに、高裁段階で、裁判官が勝手に検察官の役割まで行うようでは、裁判員制度では防御権の行使は事実上否定されてしまいます。

「寝覚めが悪い」のはもちろんのこと、広島高裁の楢崎裁判長のこの判決は、無茶苦茶であって、到底評価に値しません。」



振り返れば、「刑事法学者らの間では、裁判員制度を見据えた今回の判決を評価する声が目立った」(平成20年12月10日付朝刊39面(14版))ようです。

しかし、裁判所が、検察官が主張・立証を求めていないことまで要求し、あたかも検察官のように振舞うことは、検察、被告人・弁護側が訴訟を追行するという当事者主義に反するものであって、明らかに間違った判断でした。最高裁平成21年10月16日判決がわざわざ当事者主義に言及し、広島高裁の誤りを指摘していますが、当事者主義という刑事訴訟法の基本構造を失念したと糾弾されたのですから、広島高裁の楢崎裁判長にとって致命的な恥というべきです。

広島高裁に賛同した学者も大いに恥じ入るべきです。当事者主義という刑事訴訟法の基本構造さえも失念してしまうほど、著しく能力のない刑事法学者(渡辺修・甲南大法科大学院教授、元最高検検事の土本武司・白鴎大法科大学院長)は、廃業したするべきです。


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