新しい記事を書く事で広告が消せます。
<1>「国内外で進化する人工臓器の最前線(1)(読売新聞平成20年10月19日(日)朝刊から連載)」(2008/10/27 [Mon] 00:00:04)
<2>「国内外で進化する人工臓器の最前線(2)」(2008/11/23 [Sun] 23:56:16)
1.もう一度、人工臓器とは何か、について触れておきます(日本人工臓器学会」のHPから引用)。
「人工臓器とは?
心臓、肺、肝臓、腎臓などの臓器の機能が損なわれると種々の病気になり、重い場合は生命の危機にさらされます。人工臓器は、このように病んだ臓器の代行を目的として開発されたもので、さまざまな治療を通じて機能補助が行われます。一口に人工臓器といっても、20万人を超える患者さんの命を救っている人工腎臓(血液透析)から、人工肝臓のように臨床使用されていないものまで、さまざまです。」
「推測して動く義手
「なかなかうまく切れた」
北海道津別町の会社員笠井ヒロ子さん(62)は自宅の居間で、包丁で刻んだネギを見てうれしそうに話す。右手のひじから先には、細やかな包丁さばきを可能にした「筋電義手」を装着している。5本指を1本ずつ曲げ伸ばししたり、手首を回転させたり、ドアのノブを回して開けたりといった複雑な動きも自在だ。
この義手は、東京大学の横井浩史准教授(精密機械工学)が開発した。手足を動かす時、脳から神経を通じて筋肉に流れる微弱な電流(筋電位)を皮膚表面から読み取って動く仕組みだ。電流測定と義手を動かすため、パソコンとコードで結ばれるが、将来的には無線での操作を目指す。
笠井さんは、10年前に勤務先の工場の機械に右手を挟まれ、手首から先を失った。その時、主治医から北海道大学にいた横井さんを紹介された。
当時の筋電義手には、手を握ったり、開いたりする程度の機能しかない。2人は協力し合い、裁縫などの家事をこなせる5本指の義手作りに着手。6年に及ぶ試行錯誤の末、現在のモデルを開発した。
こうした高性能義手は、情報技術(IT)の進歩で実現した。筋電位の測定から、手の動きを推測する複雑な計算がパソコンでもできるようになった。横井さんは「本物の手と変わらない動きができつつある」と強調する。
さらに進化して、脳波などの信号を読み取り、手足代わりに機械を動かすこともITは可能にしつつある。「ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)」と呼ばれる、新しいタイプの人工臓器だ。
この分野の研究が盛んな米国のブラウン大学は2004年、頚椎(けいつい)を損傷し、首から下がまひした男性の脳に電極を埋め、コンピューターを直接操作させることに成功。コンピューターを介して、コミュニケーションしたり、機械を操作したりする道を開いた。
国内でも、国際電気通信基礎技術研究所が05年、人が図形を見ている時の脳血流を措置で読み取って、8割正解する技術を開発した。この手法を応用すれば、筋電位よりも素早く正確に義手を動かすことができると注目される。
国立障害者リハビリテーションセンター研究所は今年1月、脳波をコンピューター処理することで、障害者が電灯やテレビを遠隔操作できるようにした。まず、モニター画面に順番に点滅する7〜24個の文字や記号のどれかを注視し、その点滅直後に出る脳波を、頭に装着した電極でキャッチする仕組み。神作憲司室長は「考えるだけで、家中の家電を操作できるようにしたい」と意気込む。
飛躍的に発展するITが人工臓器の可能性を大きく広げている。(おわり)
(吉田昌史、長谷部耕二、木村達矢、今津博文、萩原隆史が担当しました)」
(1) ドイツに本社のある世界最大の義肢装具メーカー 、オットーボック・ジャパン株式会社によると、古くから義手の歴史は始まっていることがわかります。
「世界における義手の歴史は、古くは16世紀、ゲーテの戯曲「鉄の手ゲッツ」のモデルとなったドイツの騎士ゲッツ・フォン・ベルリヒゲンの鉄製の義手から始まっている。その後、さまざまな技術者たちにより、動く義手、いわゆる能動義手の開発が進められた。
そのような中、1919年、ベルリンのシュレジンガーにより電気を利用した義手が発売されたが、それは本人も述べているように義手としては機能しないものであった。その後は各地でさまざまな電気を利用した義手の研究、開発が試みられた。」
こうした歴史を経て、現在、高性能義手、「ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)」と呼ばれる、新しいタイプの人工臓器に至っているわけです。
もっとも、東京大学の横井浩史准教授が開発した義手については、次のようにすでに報道済みです。ですから、「ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)」と呼ばれる、新しいタイプの人工臓器」と指摘されたとしてもすでに知っていることであって、今さら「新しいタイプ」など言うことさえもおかしいと、思っている方も多いのかもしれません。
「生卵をつかめる筋電センサー内蔵の義手
2007年07月13日 20:44 発信地:東京
【7月13日 AFP】東京大学(Tokyo University)の横井浩史(Hiroshi Yokoi)准教授は10日、都内の同大学研究室で新型の筋電義手を発表した。ひじの表面筋電をとらえる筋電センサーが内蔵されており、生卵をつかんだりアルミ缶をつぶしたりといった細かな動きが可能。(c)AFP」(AFP BBNews(2007年07月13日 20:44 発信地:東京))
(2) 記事の後半は、「ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)」に焦点を合わせたものになっています。筋電義手も関係するのでしょうが、国立障害者リハビリテーションセンター研究所の話題は、義手のことではなく、脳波でもって「障害者が電灯やテレビを遠隔操作」できるようにするシステムのことです。
「国立障害者リハビリテーションセンター研究所は今年1月、脳波をコンピューター処理することで、障害者が電灯やテレビを遠隔操作できるようにした。まず、モニター画面に順番に点滅する7〜24個の文字や記号のどれかを注視し、その点滅直後に出る脳波を、頭に装着した電極でキャッチする仕組み。神作憲司室長は「考えるだけで、家中の家電を操作できるようにしたい」と意気込む。」
色々な場面で活用できるという「ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)」の有用性は分かりますし、障害者にとってはこうしたシステムは聞き逃すことができない話題であることは確かです。
しかし、人工臓器というテーマからは完全にずれてしまっています。「人工臓器の最前線」というテーマに沿って、義手の話題、さらには他の人工臓器の話題を触れてほしかったように思います。
3.人工臓器については、最近、大きく取り上げられた記事がありましたので、紹介しておきます。
(1) 関西発:YOMIURI ONLINE(読売新聞)(2008年11月26日)
「移植対象外の74歳、補助人工心臓を「永久使用」…阪大病院が国内初
重症の心臓病の女性(74)が埋め込み式の補助人工心臓を装着することで、歩行できるまでに症状が回復、大阪大病院(大阪府吹田市)を退院することになり、26日記者会見した。補助人工心臓は、これまでは移植手術までのつなぎとして使用されており、永久使用の目的で装着するのは国内初。心臓移植の対象外となる高齢患者の在宅治療や生活向上が期待される。
退院が決まったのは、奈良県の主婦南元子さん。昨年7月に心筋梗塞(こうそく)にかかり、後遺症で、心不全を起こすなど重い虚血性心筋症になった。一時は心機能が通常の4分の1まで落ち、ほとんどベッドに寝たきりだった。
今年8月、スクリューの回転で拍動のない血流を作り、左心室から大動脈へ送り込む親指大のポンプ式人工心臓を埋め込む手術を受け、自力で500メートルほど歩けるまで回復した。
ポンプは体外につないだ小型ビデオカメラほどのバッテリーとコントローラー(重さ約1キロ)で動く。退院後は、血栓ができるのを防ぐ抗凝固剤を服用しながら、2週間か1か月に1回通院する。
補助人工心臓は近年、小型化、高性能化しており、装着することで心臓の負担が軽くなり、心機能そのものが回復する場合もある。南さんが装着した米国製の補助人工心臓・ジャービック2000は国内では臨床試験中だが、同じ人工心臓を埋め込んだ例は欧州を中心に数百例あり、63歳で埋め込んで昨年末に死亡するまで7年半生存した英国人男性もいた。
国内では1997年の臓器移植法の施行後、心臓移植は60例。移植を前提に100人ほどが補助人工心臓を装着して待機しているが、移植の適応基準は60歳未満とされ、高齢者は移植を受けられなかった。
南さんのように、補助人工心臓を装着すれば回復も見込める患者は日本でも年間1000人程度いると推定される。澤芳樹教授(心臓血管外科)は「移植だけに頼らない治療が世界的に必要とされている。ほとんど治療法のなかった高齢患者に新しい可能性が期待できる」と話している。
希望が出てきた
会見した南さんは、「生きて病院を出られるだけでいいと願っていたのに、こんな小さな機械がよくこれだけ人助けをしてくれるものだとびっくりしている」と喜びを語った。この手術をしないと寝たきりになる可能性が高いため、家族が手術を決断したという。「半分死んだ状態から助けてもらい希望が出てきた。退院したら演奏会や演劇にも行きたい」と笑みを浮かべた。
(2008年11月26日 読売新聞)」
(2) この記事で最も大事なポイントは次の点です。
「国内では1997年の臓器移植法の施行後、心臓移植は60例。移植を前提に100人ほどが補助人工心臓を装着して待機しているが、移植の適応基準は60歳未満とされ、高齢者は移植を受けられなかった。
南さんのように、補助人工心臓を装着すれば回復も見込める患者は日本でも年間1000人程度いると推定される。澤芳樹教授(心臓血管外科)は「移植だけに頼らない治療が世界的に必要とされている。ほとんど治療法のなかった高齢患者に新しい可能性が期待できる」と話している。」
要するに、人工臓器が臓器移植の代用品となっているのではなく、臓器移植ができないために人工臓器でしか対応できないケースなのです。そして、同様のケースである高齢患者は、国内に1000人以上いるのですから、まさに新しい治療法となっているのです。
このように、人工臓器でしか対応できない患者を主として対象として、より多くの人工臓器が開発され、普及していくことを願うばかりです。
4.3回にわたって人工臓器の記事を紹介してきました。
読売新聞の記事は、国内外で進化する人工臓器の最前線について、幾らか理解できるものであり、有意義なものであったとは思います。この記事により初めて知った方もいるとは思います。もっとも、インターネットでは、この「人工臓器の最前線」という記事はまるで話題になっていませんが。
(1) 問題は、記事全体を通じて、人工臓器の問題点・課題点は具体的にどういう点であり、将来の展望はどうなっているのかという点があまり明確ではなかったことです。そこで、そうした点に触れている記事を引用しておきます。
「医療現場で使われている人工心臓など人工臓器の現状や今後の可能性は? 仙台市青葉区のせんだいメディアテークで20日開かれた本年度最初(通算第21回)の東北大サイエンスカフェでは、「新しい医工学が人体をどこまで変えられるか―医学と工学の融合が拓(ひら)く未来医療」がテーマだった。講演者は、東北大先進医工学研究機構の井街宏教授。医学と工学の融合分野である「医工学」の発展の歴史をひもときながら、医療の現場でどう役立っているのかを紹介。(中略)
病気を治すには体力や免疫力など自己修復機能が必要だが、人工臓器や再生医療などによって強制的に人工修復することも可能になった。
臓器移植もその一つだが、日本では提供者が極めて少ない。絶対数の不足や臓器の大きさの制限、拒絶反応のほか、倫理、費用の面など社会的な問題がある。
動物などからの異種移植やクローンは、解決すべき品質的、倫理的な問題がある。組織工学や再生医療は、ヒトの細胞を培養して治療する方法で部分的に臨床が始まっているが、日常的に使われるには組織工学で10―30年、再生医療で30―50年かかるだろう。
つまり、人工修復には、今の技術では人工臓器しかない。人工臓器と臓器移植との機能面での圧倒的な差をどう縮めていくかが研究テーマだ。
人工臓器は、生体の機構が十分に解明されていない問題がある。異物反応や耐久性、小型軽量化をどうクリアするかも課題だ。しかし、将来的にはオーダーメードも可能で、大量生産や長期保存できるメリットがある。それらを生かせば、人工臓器は臓器移植に取って代わる可能性を秘める。」(河北新報/東北大サイエンスカフェ(第21回)「新しい医工学が人体をどこまで変えられるか」(2007/4/20)
人工臓器は、「生体の機構が十分に解明されていない問題」、「異物反応や耐久性、小型軽量化をどうクリアするかも課題」であり、こうした問題点・課題点がある以上、前途はそう明るいものとはいえせん。
しかし、今後、仮に臓器移植が増えたとしても、今の日本社会では急激に増える可能はなく、臓器のオーダーメードはもちろん、臓器の長期保存は不可能です。先に触れたように、臓器移植ができないために人工臓器でしか対応できないケースもあります。人工臓器の有用性は高く、将来的な展望としてはより一層使われていく可能性が高いといえるのです。
(2) 連載記事では、こうした人工臓器製品は海外で進化を遂げており、海外での方が人工臓器を使用するケースが進んでいるとの指摘が何度かありました。一種の製品開発ですから、開発している企業の資金の規模や研究者の能力に左右される面があるとしても、日本政府は、人工臓器に対して積極的に開発援助を行っていくべきではないでしょうか(欧米では開発援助しているとの指摘がなされています。)。
日本政府は、臓器移植を推進する広報はしてはいても、米国のように政府が率先して移植可能な臓器を拡大するような提言をしていません。世界各国に比べても、ドナーが圧倒的に不足している状況であるのに。もう何度も触れているように、海外では修復腎移植が有用であるとして積極的に行い始めていますが、日本では原則禁止の指針を決めてしまい、修復腎移植は禁止のままです。
人工臓器にしても、日本政府がどれほど広報を行っているというのでしょうか?
日本政府は、人工臓器を積極的に推進するような姿勢はしておらず、移植可能な臓器を拡大するようなこともせず、臓器移植を積極的に推進できるような医療体制を整えることもさえもしていないのです。日本政府は、日本の市民の生命身体の健康や生活の質に対して、より改善しようという気がないのでしょうか。
読売新聞は、「人工臓器の最前線」第5回の最後に「飛躍的に発展するITが人工臓器の可能性を大きく広げている」と指摘で結んでいます。確かに、そうした点は否定しませんが、それだけで済ませることができないのが、人工臓器開発ではないかと思うのです。
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

