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2008/11/03 [Mon] 23:27:02 » E d i t
市民的及び政治的権利に関する国際規約(「自由権規約」)に基づく、国連(UN)の自由権規約委員会(Human Rights Committee)は2008年10月30日、日本の人権保障状況に関して問題の改善勧告を含む「最終見解」を公表しました。これは、自由権規約の実施状況に関する第5回日本政府報告書に対して、2008年10月15日、16日に行われた審査を踏まえたものです。


1.「最終見解」は、合計34項目にも及ぶ詳細な評価・勧告となっています。ですから、自由権規約委員会は、日本の人権状況保障状況は、広範囲にわたって問題点があると指摘しているといえます。後で詳しい内容を引用しておきますが、全体的な特徴について触れておきます。

(1) 「最終見解」の中では、少しだけ評価を受けた点がありました。

前回の審査から今回の審査までの10年間に、<1>男女平等社会の実現を目指す方策(男女共同参画基本計画の樹立、女性の雇用差別、DV防止法改正など女性と子どもに対する暴力問題)に関して、一定の改善がなされたこと、<2>及び国際刑事裁判所への加盟等を積極的な側面として評価しています(会長声明集 Subject:2008-10-31 国際人権(自由権)規約委員会の総括所見に対する会長声明)。



(2) しかし、自由権規約委員会は、第6パラグラフから第34パラグラフに至る29項目にもわたり、日本政府に対して具体的な改善勧告を行っています。勧告内容は多岐にわたるとともに、1998年の前回勧告に比べても極めて具体的かつ詳細なものになっています(「アムネスティ・インターナショナル日本」の「日本 : 自由権規約委員会の最終見解発表 日本の人権保障政策のグランドデザインが示される」(2008/10/31) )。

 イ:問題とされた主要な項目は次のものです。(( )はパラグラフの項目の数字です。)

<1>法執行官への人権研修、および国内人権機関(6、7、8、9)
<2>公共の福祉(10)
<3>女性差別(11、12、13、14、15)
<4>死刑制度、および被拘禁者の人権(16、17、21)
<5>代用監獄、および捜査取り調べの可視化(18、19)
<6>刑事施設および留置施設視察委員会(20)
<7>日本軍性奴隷制(22)
<8>人身売買(23)
<9>外国人研修および技能実習生(24)
<10>出入国管理(25)
<11>表現の自由(26)
<12>子どもの虐待、および婚外子差別(27、28)
<13>LGBTへの差別(29)
<14>マイノリティへの差別(30、31、32)
<15>報告期限および勧告の配布(33)



 ロ:報道では、自由権規約委員会は、日本の死刑制度について「ここ数年、死刑執行の件数が着実に増えている」として懸念を示したとして(NHKニュース(10月31日 12時7分))、日本政府に対し、「(国内の)世論調査に関係なく死刑制度の廃止を検討すべきだ」と勧告したという点が大きく取り上げられました。その死刑問題についてのパラグラフは、詳しくは次のようなものです。

パラグラフ16では、次のように勧告された。「世論の動向にかかわりなく、締約国は死刑の廃止を考慮すべきであり、一般世論に対して、死刑を廃止すべきであるということを必要な限り説明すべきである。現段階では、規約6条の2に規定された通り、死刑は最も重大な犯罪のみに厳格に限定すべきである。死刑囚の処遇、高齢者に対する死刑執行や精神疾患を持つ人の死刑執行については、より人道的なアプローチがとられるべきである。締約国はまた、死刑囚や家族が死刑執行に絡む心理的な負担を少しでも軽くすることができるよう、死刑の執行日時に関して、十分な期間的余裕をもって事前に知ることができるようするべきである。死刑囚に対しては、恩赦、減刑、執行延期手続きなどがより柔軟に認められるべきである。」

パラグラフ17では、次のように勧告された。「締約国は、死刑事件に関しては必要的再審査手続きを設けるとともに、再審請求や恩赦の出願がなされている場合には執行停止の措置をとるべきである。恩赦の出願に関して回数制限を設けることは考慮してもよい。再審請求にかかわる弁護人との打ち合わせについては、すべて秘密接見交通が保障されるべきである。」

これらに加えて、パラグラフ21では、次のように指摘された。「締約国は、死刑囚の拘禁を原則として昼夜間独居とすることについて、そうした原則を緩め、昼夜間独居は限られた期間のみの例外的な措置とし、期間制限を設けること。保護房に収容される囚人の身体的、精神的診断を事前におこなうこと。不服申立てができずに明確な基準もなく指定される「第4種制限区分」により一定の囚人を隔離処遇することを止めること。」


このように、死刑問題については、パラグラフ16・17にわたって詳細に勧告を行っています。昼夜にわたる独居拘禁の関係のパラグラフ21でも取り上げられ、合計3つのパラグラフにおいて勧告するほど、死刑問題については問題視しているといえます。

  (イ) パラグラフ16では、死刑を廃止していない現段階においても、死刑の適用犯罪を「最も重大な犯罪」に厳格に限定すべきことを求めています。これは、以前の勧告内容に厳格性要件を付け加えたものであって、「具体的な立法措置として死刑適用犯罪を減少させ、量刑基準も客観的かつ厳格にすることが求めたもの」(「アムネスティ・インターナショナル日本」の「日本 : 自由権規約委員会の最終見解発表 日本の人権保障政策のグランドデザインが示される」(2008/10/31) )といえるのです。

要するに、自由権規約委員会は、立法により、明確に死刑の適用を減らせと要求しているのですが、体感治安の悪化という感覚だけによる厳罰化の要請に流されて、死刑の適用を増やしている裁判所への非難でもあるといえます。

  (ロ) また、パラグラフ16では、死刑確定者の保護の改善をも要請しています。(a)高齢者、精神障害者への死刑執行に関しては、厳格な保障手続を設けることを要請し、(b)死刑囚や家族の心理的な負担を少しでも軽くため、死刑執行の日時については、十分な期間的余裕をもって事前に告知すること、(c)現実的に機会を奪われ、その結果再三にわたる請求を余儀なくされている再審請求や恩赦出願に関して、これらを柔軟に認めること、を求めています。

刑訴法480条は心神喪失者への刑の執行停止を定め、482条2号は「年齢70年以上」の者への刑の執行停止を定めており、事実認定の誤りを救済するという再審請求制度といったより人権に配慮した趣旨を貫くことを求めたものですから、(a)~(c)の要請は、日本政府が日本の現行法の趣旨を歪めた対応をしているとさえ、いえるものです。

  (ハ) パラグラフ17では、死刑確定者の救済措置の改善を要請しています。(a)死刑判決での必要的再審制度の導入、(b)再審・恩赦の請求について、必要的に死刑執行停止の効力を持たせること、(c)再審手続に関しては、再審が実際に開始されるまで秘密接見交通が認められないのが現状であるため、再審請求の手続に関して、弁護人との秘密接見交通を保障すること、を求めています。

これらは、「公正な裁判を保障する上での当然の措置だが、これがとられていない日本の現状が極めて厳しく糾されたもの」(「アムネスティ・インターナショナル日本」の「日本 : 自由権規約委員会の最終見解発表 日本の人権保障政策のグランドデザインが示される」(2008/10/31) )といえます。

  (ニ) パラグラフ21では、刑事拘禁制度の改善を要請しています。すなわち、死刑囚を例外なく、昼夜独居拘禁とする現在の体制を緩和し、昼夜間独居拘禁は限られた期間のみの例外的な措置とすることを求めています。

人間を独居拘禁の環境に長期間おいておくと人格は崩壊するのですから、故意に精神疾患に陥らせているとさえいえるため、憲法13条(個人の尊重)、18条(奴隷的拘束の禁止)、36条(残虐な刑罰の禁止)に違反するおそれがあります。これは、日本政府が日本の現行法に反し、非人道的な対応をしているとして、非難しているものと判断できます。


 ハ:特徴的な点は、パラグラフ34において、パラグラフ17、18、19、21に関しては、自由権規約委員会は、日本政府に対して1年以内に進捗状況について報告することを求めていることです。すなわち、

<a>パラグラフ17の内容:死刑事件に関しては必要的再審査手続の創設、再審請求や恩赦請求がなされている場合は必要的に執行停止、再審請求に関して弁護人との間で秘密接見交通を保障、
<b>パラグラフ18の内容:代用監獄制度の厳格な保障措置を満たさない限り廃止、尋問での弁護人の立会の肯定、起訴前保釈の導入)、
<c>パラグラフ19:長時間の取調べ禁止・規制違反の場合の罰則創設、取り調べの全過程のビデオ録画、取り調べへの弁護人の立会い、黙秘を不利益に判断せずに、裁判所は自白よりも科学的な証拠に依拠すべき、
<d>パラグラフ21:死刑囚を例外なく昼夜間独居拘禁する体制を緩和すること、保護房拘禁の最長時間を制限し、事前に医師の診断を必要とすること、審査の申請のできない独居拘禁を継続しない、


については、1年以内の改善を求めているのです。

その他、以前に勧告され未だ実現していない項目についても、今後の審査における報告義務が規定されており、徹底したものとなっています。また、自由権規約委員会は、パラグラフ33により、日本政府がこの「最終見解」への対応などを3年後の2011年10月29日までに報告するよう求めており(NHKニュース(10月31日 12時7分))、かなり短期間に報告することを求めています。

パラグラフ33では、次回報告期限を短めに設定するとともに、今回の「最終見解」の内容について、社会一般のみならず、政府、行政府、司法府部内の末端に至るまで、その内容を周知徹底させることを特に強調しています。「日本政府の今回の審査に際しての回答が形式にとどまり、かつ前回勧告からほとんど進展がなかった点を強く懸念しての要請事項」(「アムネスティ・インターナショナル日本」の「日本 : 自由権規約委員会の最終見解発表 日本の人権保障政策のグランドデザインが示される」(2008/10/31) )です。要するに、自由権規約を批准しておきながら、自由権規約を遵守せず、条約の誠実な遵守を要求した憲法98条2項に反している対応を強く非難したため、あえて指摘したものといえます。


 ニ:特徴的な点としては、日本政府が日本国民に知らせる責任を懈怠していることを非難している点をも挙げることができます。

今回の審査に際しては、さまざま場面で日本政府は世論の動向や反対意見の存在を、改善措置をとらない言い訳として用いていました(例えば、死刑制度の存在、民法における差別的規定の存在)。しかし、国民の多数派に歯止めをかけて、少数派の人権を保障することにこそ、人権を保障する意義がある以上、人権制約の問題は、世論の動向で決めてはならないのです。ですから、「むしろ世論や一般に広まる誤解を是正する役割や責任が締約国にあることが、再三指摘されています」(「アムネスティ・インターナショナル日本」の「日本 : 自由権規約委員会の最終見解発表 日本の人権保障政策のグランドデザインが示される」(2008/10/31) )。

その例として挙げることができるのは、すでに述べたパラグラフ33のほかに、パラグラフ16があります。パラグラフ16では、「世論の動向にかかわりなく、締約国は死刑の廃止を考慮すべきであり、一般世論に対して、死刑を廃止すべきであるということを必要な限り説明すべきである。」と勧告しています。「世論の動向にかかわりなく」という点は、人権保障の意義、立憲主義的憲法の目的からすれば、あまりにも当たり前の指摘なのですから、「日本政府は、人権保障の意義について無知すぎる」と罵倒されているに等しいものです。

他にも、民法における差別的規定の存在についても(パラグラフ11、28)、委員は、「死刑と同様、国内に反対意見があることを差別的制度存続の理由にしてはならない」と批判を行っています(「アジア女性資料センター」の「国連人権委員会自由権規約審査:進展ない女性差別解消に強い批判」(投稿日時: 2008-10-20))。各人の実質的差異といった合理性がなければ差別は許されないのですから(憲法14条、相対的平等)、反対意見があることだけでは合理的な理由とならず、憲法14条に反するものです。日本政府は、ごくごく当然の批判を受けたのです。


 ホ:他の特徴としては、日本政府は他の団体と協力することを求めています。すなわち、自由権規約委員会は、「最終見解」の冒頭パラグラフ2において、日本弁護士連合会やアムネスティ・インターナショナル日本といったNGOと政府とが不断に対話することにより、人権状況を改善する努力を強く求めているのです。


2.「アムネスティ・インターナショナル日本」の「日本 : 自由権規約委員会の最終見解発表 日本の人権保障政策のグランドデザインが示される」(2008/10/31)

日本 : 自由権規約委員会の最終見解発表 日本の人権保障政策のグランドデザインが示される


ジュネーブ時間10月30日(日本時間10月31日)、市民的および政治的権利に関する国際規約にもとづく自由権規約委員会による第五回日本政府報告書の審査の最終見解が発表されたのを受け、アムネスティ・インターナショナル日本はこれを歓迎するとともに、そこに記載された具体的な改善措置について、日本政府が直ちに必要な措置をとるよう強く呼びかける。

最終見解は10月15日と16日の委員会による審査を受け、28日と29日にわたる会議で採択されたもので、日本が今後とるべき人権保障政策のためのグランドデザインを示している。委員会は、男女平等社会の実現を目指すいくつかの方策、DV対策法、国際刑事裁判所への加入などを積極的な側面として評価しつつ、第6パラグラフから第34パラグラフに至る29項目にわたり、日本政府に対して具体的な改善勧告をおこなっている。勧告内容は多岐にわたるとともに、1998年の前回勧告に比べても極めて具体的かつ詳細にわたっており、実現可能性が高い。日本政府は、こうした勧告を速やかに受け入れ、ただちにこれらを完全実施するための措置を講じなければならない。

法執行官への人権研修、および国内人権機関
パラグラフ6で、委員会はまず、法執行機関、また下級審を含む司法において、人権条約に関する理解がいきわたっていない状態に懸念を示し、パラグラフ7で裁判官を含め、条約の適用及び解釈に関する研修をすべきことを勧告している。これは、国際的な人権基準とあまりにかい離した日本の人権理解に対して重大な警鐘を鳴らしているものである。同時に、パラグラフ8で個人通報制度への加入を強く求め、司法の独立との関係でこれに消極的な態度を示した日本政府の態度を批判している。さらに、パラグラフ9で、国内人権機関を、パリ原則に沿って行政府から独立した機関として設置するよう求めている。「独立」の文言が強調されたことで、現在政府内部で検討されている法務省内の人権擁護委員会では、その要件を満たさないことが指摘されているものである。

公共の福祉
委員会はまた、パラグラフ10で公共の福祉の概念が人権を制限する方向で用いられていることに懸念を示し、立法による定義づけと、それが条約の許す制限を超えないよう保障することを求めている。日本では公共の福祉の概念が、表現の自由の制限の事例などに煩瑣に見られるように、人権制約の際に恣意的に用いられている点に懸念を示しているものである。

女性差別
パラグラフ11、12、13で、女性差別の問題に関して、委員会は民法改正をただちに進めるとともに、第二次基本計画、女性の労働条件などに関して、より具体的な目標を設定した措置の実施を求めた。また、パラグラフ14で、刑法第177条の強姦罪の定義に男性に対するレイプも含めるとともに、重大な犯罪とし、被疑者側の立証責任を回避させ、合わせてこうした犯罪に対処するための特別のジェンダー研修を裁判官および法執行官に対して実施するよう求めた。パラグラフ15では、ドメスティック・バイオレンスに関しても、加害者を確実に処罰することに加えて被害者側に対するケアの対策を強調した。特に外国籍の被害者に対する特別のケアを求めている。この点は、パラグラフ23の人身売買の問題とも関係する。

死刑制度、および被拘禁者の人権
死刑の問題に関しては、二つのパラグラフにわたって詳細な勧告がなされた。また昼夜間独居の関係でもうひとつパラグラフでも取り上げられた。

パラグラフ16では、次のように勧告された。「世論の動向にかかわりなく、締約国は死刑の廃止を考慮すべきであり、一般世論に対して、死刑を廃止すべきであるということを必要な限り説明すべきである。現段階では、規約6条の2に規定された通り、死刑は最も重大な犯罪のみに厳格に限定すべきである。死刑囚の処遇、高齢者に対する死刑執行や精神疾患を持つ人の死刑執行については、より人道的なアプローチがとられるべきである。締約国はまた、死刑囚や家族が死刑執行に絡む心理的な負担を少しでも軽くすることができるよう、死刑の執行日時に関して、十分な期間的余裕をもって事前に知ることができるようするべきである。死刑囚に対しては、恩赦、減刑、執行延期手続きなどがより柔軟に認められるべきである。」

パラグラフ17では、次のように勧告された。「締約国は、死刑事件に関しては必要的再審査手続きを設けるとともに、再審請求や恩赦の出願がなされている場合には執行停止の措置をとるべきである。恩赦の出願に関して回数制限を設けることは考慮してもよい。再審請求にかかわる弁護人との打ち合わせについては、すべて秘密接見交通が保障されるべきである。」

これらに加えて、パラグラフ21では、次のように指摘された。「締約国は、死刑囚の拘禁を原則として昼夜間独居とすることについて、そうした原則を緩め、昼夜間独居は限られた期間のみの例外的な措置とし、期間制限を設けること。保護房に収容される囚人の身体的、精神的診断を事前におこなうこと。不服申立てができずに明確な基準もなく指定される「第4種制限区分」により一定の囚人を隔離処遇することを止めること。」

パラグラフ17とパラグラフ21の勧告は、パラグラフ34において一年後の進捗報告を義務付けるフォローアップ手続きの対象とされており、委員会がその重要性に着目していることは明らかである。死刑の適用犯罪を「最も重大な犯罪」に限ることに関しては、以前の勧告内容に厳格性要件が付け加えられたことで、具体的な立法措置として死刑適用犯罪を減少させ、量刑基準も客観的かつ厳格にすることが求められているものである。また、高齢者、精神疾患を持つ人に関する死刑執行に関しても、厳格な保障手続きを設けることが要請されている。さらに、現実的に機会を奪われ、その結果再三にわたる請求を余儀なくされている再審請求や恩赦出願に関して、これらを柔軟に認めるよう求めている。また、現在検察官は死刑執行停止の手続をとっていないが、そうした手続を必要的におこなうよう求めている。再審手続に関しては、再審が実際に開始されるまで秘密接見交通が認められない現状に対して厳しい指摘がなされ、再審請求の手続に関して秘密接見交通を保障することが求められた。これは、尋問中の弁護人の立会権とともに、公正な裁判を保障する上での当然の措置だが、これがとられていない日本の現状が極めて厳しく糾されたものである。

昼夜間独居に関しては、死刑囚だけでなく、懲罰的におこなわれる隔離収容および原則昼夜間独居とされる第4種制限区分についても、懸念が示されている。

代用監獄、および捜査取り調べの可視化
パラグラフ18では、代用監獄制度(日本政府は「代用刑事施設)と呼称している)について、条約(特に規約第14条)の保障措置が完全に満たされない限り廃止せよという強い勧告となった。尋問中の弁護人の立会を認めること、起訴前保釈の導入なども求められている。この勧告も、フォローアップの対象となっている。

続くパラグラフ19では、取り調べ尋問の長さの制限とそれを逸脱した場合の罰則などの必要性も述べられている。尋問はすべて録音録画されるべきであり、弁護人の立ち会いの権利を保障するよう求めている。警察による取り調べの役割は真実発見ではなく証拠の収集に限られることが強調されたのは、捜査機関による取り調べが過剰な役割を担おうとしていることに対する重大な警鐘である。被疑者が黙秘することで不利益な判断をされることがないよう、また裁判所は自白ではなく近代的で科学的な証拠に依拠するべきであるとも指摘され、現在の取り調べが近代的でも科学的でもないと批判している。この勧告も、フォローアップの対象となっている。

刑事施設および留置施設視察委員会
パラグラフ20では、刑事施設および留置施設の視察委員会に関しては、十分な資金と権限が認められるようにすることが求められる一方、委員の選任に関して施設当局の管理者が選任することに委員会は懸念を示している。また、被留置者が受け取った申立てについて都道府県公安委員会ではなく外部専門家による独立した審査機関で判断するよう求めている。どのような申立てがあったのかなどについて、詳細な統計を示すようにも求められており、施設限りで申立てが握りつぶされることを防ぐよう意識されている。

日本軍性奴隷制
日本軍性奴隷制、いわゆる「慰安婦」問題に関しては、パラグラフ22で、法的責任を認め、公式に謝罪すること、加害者に対する処罰、教育現場での言及義務が勧告された。これまでの他の条約機関や国際機関、他国議会などからの勧告内容に加え、さらに踏み込んだものとなっている。自由権規約委員会は、これまでも審議の中で本件に触れつつも、最終見解の勧告に含めたのは今回が初めてである。戦時性暴力に対する責任追及という重大な国際的な義務を、日本が60年以上を経て未だに果たしていないことを、明確に示した勧告として高く評価できる。

人身売買
人身売買に関して、パラグラフ23で「締約国は、人身売買被害者を認定する努力を強化し、締約国に人身売買された、あるいは通過して売買された流れに関する体系的な統計を保証し、人身売買に関連した犯罪の加害者に関する量刑手続きの政策を見直し、被害者を保護する民間シェルターを支援し、通訳、医療、カウンセリング、未払い報酬や賠償請求のための法的支援、リハビリテーションのための長期支援、そして人身売買被害者の法的地位の安定などを保証することによって被害者支援を強化すべきである」と勧告された。

外国人研修生および技能実習生
パラグラフ24では、研修生問題に関して、「締約国は、法定最低賃金と社会保障などをはじめとする最低労働基準に関する国内法による保護を、外国人研修生および技能実習生に適用し、研修生と技能実習生を搾取した雇用主に対して適性な制裁措置を科すべきである。また締約国は、現行の制度を、研修生及び技能実習生の権利が十分に保護された新たな枠組みに移行し、低賃金労働者を募集するよりもむしろ能力開発に焦点をあてることを検討すべきである」と勧告された。審議の中でも、奴隷的状態にあると指摘され、国際的にも注目されている。

出入国管理
パラグラフ25では、入管法にかかわる政策に関して、拷問を受ける可能性のある国への送還を禁止する明示的な規定(ノン・ルフールマン原則)を設けることが勧告され、また難民認定手続きにおける通訳手配を含めた様々な問題の解決が指摘されている。特に難民不認定となった際に即時送還されることを防ぐよう勧告されている。合わせて、テロ容疑者を法相の判断のみで即時退去強制できる制度につき、不服申立てを実質的にできる条件を整えることを含め、情報開示と適正な手続きを設けることが勧告された。これにより、昨年11月から開始された外国人が入国する際の入国管理手続は、見直しを迫られることになる。

表現の自由
パラグラフ26の表現の自由の制限については、公職選挙法の個別訪問の禁止がこれに抵触すると懸念されたほか、政治活動や市民運動でのビラ配布行為が住居侵入罪で逮捕、起訴、処罰されている現状に懸念を示し、そのような表現の自由の制限を排除するよう勧告している。これは立川のテント村事件などでの一連の警察、検察、裁判所の判断の動きを踏まえた勧告であり、日本の人権状況が国際的に見て極めて重大な問題を含んでいることを明確に示している。

子どもの虐待、および婚外子差別
パラグラフ27で、子どもの虐待に関して性交同意年齢の引き上げが勧告されたほか、パラグラフ28では婚外子差別について国籍法第3条、民法900条4項の改正を求めるほか、戸籍法第49条1項1号で規定される出生届における嫡出の記述を無くすよう求めている。再三にわたって各条約機関から勧告されているにもかかわらず、未だに改正が進んでいない点であり、今回より詳細かつ具体的な勧告となっている。

LGBTへの差別
同性愛者や性同一性障害にかかわる差別の根絶のため、パラグラフ29で、性的指向にもとづく差別の禁止を規定するべく勧告されている。また同性事実婚カップルに対しても異性婚カップルと同様の利益措置が講じられるよう求めている。

マイノリティへの差別
年金制度に関して、パラグラフ30で国籍者以外に対する年金からの除外を是正することが勧告され、移行措置をとることが求められた。またパラグラフ31では、朝鮮学校に対して、他の私立学校と同様の卒業資格認定、その他の経済的、手続的な利益措置が講じられることが求められている。最後にパラグラフ32では、アイヌ民族、琉球/沖縄の先住民族性を正式に認め、土地権、文化権などを認めるよう求められた。日本政府が、アイヌ民族を先住民族として認めながら、国連先住民族権利宣言にある先住民族としては未だに認めていない現状に対して、強い懸念を示し、それを是正することも含めているものである。

報告期限および勧告の配布
委員会はパラグラフ33で次回報告期限を2011年10月29日に設定するとともに、今回の最終見解の内容について、社会一般のみならず、政府、行政府、司法府部内の末端に至るまで、その内容を周知徹底させることを特に強調している。日本政府の今回の審査に際しての回答が形式にとどまり、かつ前回勧告からほとんど進展がなかった点を強く懸念しての要請事項である。パラグラフ34には、パラグラフ17、18、19、21に関して一年後のフォローアップ手続を行うことが求められている。その他、以前に勧告され未だ実現していない項目についても、今後の審査における報告義務が規定された。

世論と人権保障
今回の審査に際しては、さまざま場面で日本政府は世論の動向や反対意見の存在を、改善措置をとらない言い訳として用いていた。しかし、人権の問題は、世論の動向で決めてはならない。むしろ世論や一般に広まる誤解を是正する役割や責任が締約国にあることが、再三指摘された。日本政府は、今回の最終見解を、今後の日本の人権状況を作り上げていく基礎となるグランドデザインとして受け止め、そのロードマップに従い、具体的な措置を講じることが強く求められる。

アムネスティ・インターナショナルは、日本政府に対し、今回の委員会からの最終見解を遅滞なく完全実施するよう強く求めるものである。人権の問題に国境はない。日本政府は、国際社会からの要請をこれ以上無視してはならない。

最終見解原文:http://www2.ohchr.org/english/bodies/hrc/docs/co/CCPR-C-JPN-CO.5.doc

以上」


報道では、死刑制度、代用監獄、従軍慰安婦といった目を引くような点のみが取り上げられましたが、これらを読むと、実に詳細に日本の人権状況を問題点をつぶさに把握していることに驚かされます。

例えば、婚外子差別について国籍法第3条、民法900条4項(婚外子の相続分差別規定)の改正を求めるなど、具体的な規定についての改正を求めています。また、それも、政治活動や市民運動でのビラ配布行為が住居侵入罪で逮捕、起訴、処罰されている現状に懸念を示し、そのような表現の自由の制限を排除するよう勧告しており、最高裁判例にまで目を配った指摘をしています。これは、ビラ配布を住居侵入罪で処罰した点を非難した点は、日本の最高裁が「憲法の番人」としての役割を果たしていないと、最高裁平成20年4月11日判決を直接名指したに近い形で批判したものです(「反戦ビラ配りと住居侵入罪の成否:最高裁平成20年4月11日判決は、立川反戦ビラ配布事件において住居侵入罪を肯定」(2008/04/12 [Sat] 22:59:06))。

従軍慰安婦問題に言及した点、公職選挙法の個別訪問の禁止がこれに抵触すると懸念した点、琉球・沖縄をマイノリティ(先住民族性)として言及した点は、今回の審査で初めて指摘した点です。

このように、日本の人権保障状況について、国際社会は極めて厳しく見つめているといえそうです。




3.ここまで見てくると、報道記事で触れている内容は少なすぎて半ば読む気力を失う感じもしますが、どこまで論じているかを知っておくべきでしょう。紙面で大きく紹介した順に、幾つか引用しておきます。

(1) 東京新聞平成20年10月31日付夕刊1面

日本に死刑廃止検討勧告 国連委 慰安婦問題 謝罪も
2008年10月31日 08時58分

 【ジュネーブ=共同】国連のB規約(市民的および政治的権利)人権委員会は30日、日本政府に対し死刑制度の廃止を「世論調査と関係なく、前向きに検討すべきだ」と勧告する審査報告書を発表した。同委員会の対日審査は1998年以来、10年ぶり。

 従軍慰安婦問題についても「法的責任を認め、被害者の多数が受け入れられる形で謝罪すべきだ」と初めて勧告した。同問題については女性差別撤廃委員会、拷問禁止委員会に続き、関連する人権条約の管轄機関による勧告が出そろったことになる。

 人権保護団体アムネスティ・インターナショナル日本の寺中誠事務局長は「予想されたほぼすべての問題でより具体的な勧告が出た。日本の人権に対する国際社会の目は厳しさを増している」と勧告内容を歓迎。一方、日本政府筋は「審査では日本の立場について説明を尽くしたが、十分理解が得られず残念だ」などと語った。

 報告書は死刑について、世論の廃止支持が少ないことを理由に制度維持を主張する日本政府に対し「廃止が望ましいことを一般に知らしめるべきだ」と、廃止論議を高める責任が政府にあるとの見解を表明。死刑執行の通告について「死刑囚や家族に対し、妥当な期間を置いて事前通告すべきだ」とするなど、現行制度の問題点についても踏み込んで指摘した。」


この記事で1点のみ触れます。

「日本政府筋は「審査では日本の立場について説明を尽くしたが、十分理解が得られず残念だ」などと語った。」


自由権規約委員会の「最終見解」では、ここまで多岐にわたって「日本政府は、何もしていない」と厳しく勧告しているのですから、うわべだけ「説明を尽くした」ところで、理解が得られるわけがありません。人権改善のため「何もしていない」(=不作為)という怠慢を見直すしかないのです。



(2) 朝日新聞平成20年10月31日付夕刊2面

「死刑廃止、日本は検討を」 国連規約人権委が勧告
2008年10月31日11時18分

 【パリ=飯竹恒一】国連規約人権委員会は30日、日本の人権状況に関して問題の改善勧告を含む「最終見解」を公表した。日本政府に対し、死刑制度については「(国内の)世論調査に関係なく死刑制度の廃止を検討すべきだ」と勧告。扱いが注目されていた従軍慰安婦問題では「法的責任を認め、謝罪するべきだ」として、「決着済み」とする日本政府の主張を退けた。

 対日審査・最終見解は98年の前回以来10年ぶり。

 最終見解は、死刑制度について日本政府が存続の根拠として「世論の支持」を主張し続けていることに対し「政府は国民に廃止が望ましいことを知らせるべきだ」と指摘した。死刑制度に関しては前回の最終見解でも廃止に向けた勧告が出たが、国際的な死刑廃止機運の高まりを受けて表現は厳しさを増した。

 慰安婦問題は、前回は最終見解に盛り込まれなかったが、今回は言及。「生存している慰安婦に十分な補償をするための法的、行政的なすみやかな措置」を求めた。昨年、米国下院で日本政府に公式謝罪を求める決議が採択されるなど、国際的な批判の高まりを背景にした指摘とみられる。

 最終見解は、代用監獄制度に対しても廃止を勧告した。

 死刑制度や慰安婦問題に関して日本政府は、審査段階の質疑で国内状況を説明して理解を求めたが、委員らには従来の立場の繰り返しで説得力に欠けたとみられる。

 同委員会は全加盟国の「市民的、政治的権利に関する国際規約(人権B規約)」の実施状況を一定期間ごとに審査する。対日審査は5回目。勧告に法的拘束力はない。」


この記事でも1点のみ触れます。

 「扱いが注目されていた従軍慰安婦問題では「法的責任を認め、謝罪するべきだ」として、「決着済み」とする日本政府の主張を退けた。 (中略)
 慰安婦問題は、前回は最終見解に盛り込まれなかったが、今回は言及。「生存している慰安婦に十分な補償をするための法的、行政的なすみやかな措置」を求めた。昨年、米国下院で日本政府に公式謝罪を求める決議が採択されるなど、国際的な批判の高まりを背景にした指摘とみられる。 」


日本政府は何もしてないわけではなかったのですが、「法的責任」を避けた対応をした点がやはり問題とされてしまいました。安倍晋三元首相は、訪米してお詫び行脚を行ったわけですが(「米議会、慰安婦決議案26日採決へ~種をまいたのは日本!」(2007/06/21 [Thu] 06:40:29)参照)、何の効果もなく、「米国下院で日本政府に公式謝罪を求める決議が採択されるなど、国際的な批判の高まり」が重視されたといえそうです。



(3)  読売新聞平成20年10月31日付夕刊18面(4版)

死刑撤廃の検討勧告 国連委、日本政府に

 【ジュネーブ=大内佐紀】国連に事務局を置く「市民的・政治的権利に関する国際規約」委員会は30日、日本政府に対し、死刑制度の撤廃を検討するよう求める勧告を出した。

 同委は同規約の批准国の人権状況を定期的に審査しており、日本が対象になるのは10年ぶり。勧告はまず、日本の死刑制度について〈1〉死刑執行が増加している〈2〉執行することを本人に告知してから執行までの時間が短すぎる〈3〉高齢者や、精神状態が正常でない死刑囚が執行対象となっている――などと懸念を表明した。

 そのうえで、「(死刑制度存続への支持が多い)世論調査の結果とは関係なく、死刑制度の撤廃を前向きに検討し、国民にも廃止が望ましいことを知らせるべきだ」と勧告した。また、確定したすべての死刑判決を見直す制度を導入し、再審や恩赦請求があった場合は刑の執行を見合わせるよう求めた。さらに、死刑囚を独房に拘置するのは例外扱いにするべきだとした。

 ◆勧告に拘束力なし 日本側「国内問題」

 今回の勧告に国際法上の拘束力はない。森法相は31日の閣議後記者会見で「その趣旨を尊重しつつ、適切に対応したい」と述べたが、勧告を受けて死刑制度の見直しに動く可能性はないとみられる。

 国連は昨年12月、死刑存続国に対して総会決議で初めて死刑執行の一時停止を求め、昨年5月には拷問禁止委員会が日本政府に執行の告知時期の改善を勧告しているが、日本側は「死刑制度の在り方は国内の問題」との姿勢を崩していない。

 法務省は今年すでに死刑囚15人の刑を執行し、1976年以降では最多。今回の委員会審査のさなかの今月28日にも2人を執行しており、国内の死刑廃止団体は「国連を愚弄(ぐろう)している」との批判を強めていた。

 しかし、ある法務省幹部は「死刑に関する国連の委員会の審査は、死刑判決に間違いが多いという誤った前提に立っている」と、不信感を隠さない。勧告について、全国犯罪被害者の会の岡村勲・代表幹事は「死刑制度の是非は、その国の国民が凶悪犯罪にどう向き合うかを考えて決めること。国連の委員会が一国の司法制度にまで介入するべきではない」と話している。

(2008年10月31日12時49分 読売新聞)」


 イ:この記事では、幾つか触れていきます。1点目。

 「森法相は31日の閣議後記者会見で「その趣旨を尊重しつつ、適切に対応したい」と述べたが、勧告を受けて死刑制度の見直しに動く可能性はないとみられる。」


自由権規約委員会の「最終見解」の「趣旨を尊重しつつ、適切に対応したい」というのあれば、誠実に遵守して履行すべきです。しかし、尊重すると言いながら「死刑制度の見直しに動く可能性はない」のであれば、虚偽の発言をして自由権規約委員会を欺いたとして、より強く非難を受けることになります。本当に「趣旨を尊重」するのかどうか、注目されます。


 ロ:2点目。

 「法務省は今年すでに死刑囚15人の刑を執行し、1976年以降では最多。今回の委員会審査のさなかの今月28日にも2人を執行しており、国内の死刑廃止団体は「国連を愚弄(ぐろう)している」との批判を強めていた。
 しかし、ある法務省幹部は「死刑に関する国連の委員会の審査は、死刑判決に間違いが多いという誤った前提に立っている」と、不信感を隠さない。」


すでに触れたように、自由権規約委員会は、日本の死刑制度について「ここ数年、死刑執行の件数が着実に増えている」として懸念したために、死刑問題については、パラグラフ16・17・21という合計3つのパラグラフにわたって勧告するほど問題視したのです。ですから、「死刑判決に間違いが多いという誤った前提に立っている」という見方は、的外れなものというべきです。

もっとも、平成20年10月28日午前、久間三千年さん(70)を処刑しましたが、この事件は冤罪の可能性があったのに処刑してしまったのです(「10月28日、2人の死刑を執行:前回9月11日から47日という最短の間隔での執行~さらに加速してきた「自動執行化」」(2008/10/30 [Thu] 01:41:11)参照)。すでに冤罪でも処刑してしまった「福岡事件」「藤本事件」もあることからすれば、「死刑判決に間違いが多い」というのは「誤った前提」とは言えないように、思えます。


 ハ:3点目。

 「勧告について、全国犯罪被害者の会の岡村勲・代表幹事は「死刑制度の是非は、その国の国民が凶悪犯罪にどう向き合うかを考えて決めること。国連の委員会が一国の司法制度にまで介入するべきではない」と話している。」


国連の自由権規約委員会の審査は、162の同規約の全批准国を対象に5-6年ごとに規約の順守状況をチェックする制度であり、日本は自由権規約を批准しているので、審査を受けているのです。 憲法98条2項は、条約の誠実な遵守を要求しているのですから、条約に基づく勧告に従うことは憲法98条2項を遵守するものであって、憲法に合致するものです。条約に従うことこそ憲法に合致する行動なのですから、「司法制度にまで介入するべきではない」という考えは憲法無視の理屈であって、妥当ではありません。「全国犯罪被害者の会(あすの会)」は、犯罪者はともかく死刑にすべきであるという怨念に凝り固まってしまっており、冷静さを失っています。

刑事大衆主義(penal populism)・ポピュリズム刑事政策という言葉があります。主として大衆受けを目指して進められる刑事政策のことを言います。大衆は厳罰志向を持ち刑務所を歓迎しているとされていますから、この刑事政策は、厳罰、収容、排除政策と読み替えることができます(西村春夫「被害者の刑事裁判参加制度とポピュリズム政治」法学セミナー645号(2008年9月号)28頁)。

 「宮澤はPrattを引用してポピュリズム刑事政策の最大の特徴は、「普通の人々」の中でも犯罪被害者(遺族)に「普通の人々」を代表する特権的資格が与えられその要求が刑事政策の形成・実践において専門家の見解に優越するものとして取り扱われる資格を獲得するということとみる。Prattは、刑罰権力の新しい座標軸が被害者を含む大衆を中心に動き始めたことを意味すると注意を喚起する。わが国においても例外ではなく、全国犯罪被害者の会のリーダーと保守系政治家や検察エリートとの結合による、政策転換、メディア操作、世論誘導への働きかけは情熱的で、圧倒的である(宮澤のエピローグの巻末注、最近のメディア報道を参照)。もちろん、法曹エリートは刑罰権力の移動を否定するだろうが、批判的法学者は移動を含めてポピュリズム集合体が近代法の遺産の破壊をもたらすと警告するだろう。被害者集団は自己の発言権強化のためにポピュリスト政治家と結びつくが、他方、ポピュリスト集団は被害者を通じて大衆をみずからの陣営に引き入れようとする。このようにして両集団は連合してお互いの利益を追及するなかで被害者の政治化は進む。」(西村春夫「被害者の刑事裁判参加制度とポピュリズム政治」法学セミナー645号(2008年9月号)29頁)。


読売新聞だけが、厳罰化を助長するような法務省幹部や全国犯罪被害者の会のコメントを掲載したことは、象徴的です。これは、「ポピュリズム刑事政策」に取り込まれてしまって、「全国犯罪被害者の会のリーダーと保守系政治家や検察エリートとの結合による、メディア操作」に一役買ってしまった、迂闊な報道機関であることを示してしまったのですから。(なお、ポピュリズム刑事政策については、「光市事件・差し戻し控訴審が結審~弁護団への過剰な批判で喜ぶものは誰なのか?」(2007/12/07 [Fri] 05:47:39)でも触れています。)




4.最後に。

(1) 自由権規約委員会の「最終見解」は、日本の人権保障状況について網羅的に審査しており、細かいと思えるような部分にまで及んでおり、強く勧告した部分もあります。そして、自由権規約委員会の審査は、前回から今回の審査の間には10年間あったのですが、今回は1年(パラグラフ34)、3年(パラグラフ33)という、短期間に進捗状況について報告することを、日本政府に求めているのです。

確かに、日本政府はこの10年間において、ほとんど人権保障について改善をしてなかったのですし、とても説得できるだけの説明さえもしなかったのです。とはいえ、短期間に報告するよう求めるといった勧告まで受けたのですから、ひどく恥ずかしくなるほどです。

もっと恥じ入るべきなのは、法律関係者です。今回の審査でも委員からは、日本の裁判所や捜査機関が自由権規約を誤解している例が多いとして、下級審の裁判官を含めての自由権規約の解釈適用を職業訓練に含めるよう勧告され、裁判官・検察官・弁護士に対する国際人権法教育を行うことを求められているのですから(パラグラフ7、10)。



(2) 合計29項目にわたる、日本政府に対する具体的な改善勧告は、その多くはすぐにでも実現可能なものばかりですから、本来は、国外から指摘を受けなくても改善するべきだったのです。それなのに、何しなかったのが日本政府であり、それを妄信的に後押ししていたのが一部の市民です。

終局的な「憲法の番人」は国民――憲法の保障

 違憲審査制がうまく機能すれば、憲法の最高法規性も実効的に担保される。しかし、裁判所は、たしかに政治的に中立な機関として位置づけられているが、その判断が政治の動向にまったく左右されないという保障はない。政治が憲法を無視するような方向で動いているときに、裁判所だけの力でそれをくい止めることは、きわめて困難である。そのようなときには、国民じしんがそうした動きに「抵抗」して、憲法を守っていかなければならない。「憲法の番人」は、終局的には、国民じしんなのである。」(浦部法穂編『憲法キーワード』(有斐閣双書、1991年)18頁参照)


人権保障が損なわれているとき、終局的にその保障を回復する立場にいるのは、我々、日本国民・市民自身なのです。


テーマ:死刑 - ジャンル:政治・経済

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★★★★★ 国連の自由権規約委員会が「最終見解」を公表~合計34項目にも及ぶ詳細な評価・勧告 http://sokonisonnzaisuru.blog23.fc2.com/blog-entry-1540.html  イ:問題とされた主要な項目は次のものです。(( )はパラグラフの項目の数字です。) <1>法執行官へ
2008/11/05(水) 17:59:15 | 日本マスコミ報道テレビは腐ってる,著作権非親告罪化反対
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