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2008/11/02 [Sun] 17:52:23 » E d i t
浜田靖一防衛相は10月31夜、航空自衛隊トップの田母神俊雄航空幕僚長(60)を更迭しました。そして、政府は10月31日深夜の持ち回り閣議で、田母神氏を航空幕僚監部付とする人事を承認しています。防衛省設置法の規定により、岩崎茂・航空幕僚副長が当面、航空幕僚長の職務を行う、とのことです(朝日新聞2008年11月1日10時22分)。

田母神俊雄航空幕僚長(60)が「日本が侵略国家だったとは濡れ衣だ」などと主張する論文を民間企業の懸賞論文で発表したことが10月31日、分かったためです。

言動をめぐり、自衛隊のトップが更迭されるのは、「現地部隊が超法規的行動を取ることはあり得る」などと発言し、1978年に解任された栗栖弘臣統合幕僚会議議長(故人)以来です(時事通信:2008/11/01-01:36)。


1.田母神俊雄航空幕僚長の論文の題は「日本は侵略国家であったのか」というものであり、次のような内容です。

「日中戦争、日本は被害者」空幕長論文要旨
2008年11月1日3時1分

 田母神俊雄航空幕僚長の論文「日本は侵略国家であったのか」の要旨は次の通り。

 日本は朝鮮半島や中国大陸に一方的に軍を進めたことはない。日清戦争、日露戦争などによって国際法上合法的に中国大陸に権益を得て、これを守るために軍を配置した。
 我が国は蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者だ。
 日本政府と日本軍の努力で(満州や朝鮮半島の)現地の人々は圧政から解放され、生活水準も格段に向上した。
 日本はルーズベルトの仕掛けたわなにはまり真珠湾攻撃を決行した。
 大東亜戦争後、多くのアジア、アフリカ諸国が白人国家の支配から解放された。日露戦争、大東亜戦争を戦った日本の力によるものだ。
 東京裁判は戦争責任をすべて日本に押しつけようとした。そのマインドコントロールが今なお日本人を惑わせている。自衛隊は領域の警備もできない、集団的自衛権も行使できない、武器の使用も制約が多い、攻撃的兵器の保有も禁止されている。がんじがらめで身動きできない。このマインドコントロールから解放されない限り、我が国を自らの力で守る体制がいつになっても完成しない。
 多くのアジア諸国が大東亜戦争を肯定的に評価していることを認識する必要がある。我が国が侵略国家だったなどというのはぬれぎぬである。」(朝日新聞平成20年11月1日付朝刊39面



論文は中国への侵略について「中国政府から『日本の侵略』を執拗(しつよう)に追及されるが、我が国は蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者」など、一貫して日中戦争や太平洋戦争での日本の役割を正当化する内容です。

そればかりか、日本の安全保障政策についても「集団的自衛権も行使できない。武器使用も制約が多く、攻撃的兵器の保有も禁止されている。(東京裁判の)マインドコントロールから解放されない限り我が国を自らの力で守る体制が完成しない」と、武器使用制約の緩和など自衛隊の運用政策にも踏み込んだものであって、抜本的な転換を求めているものです(朝日新聞平成20年11月1日付朝刊「田母神空幕長更迭へ 懸賞論文で『日本の侵略ぬれぎぬ』」)。



2.報道記事を幾つか。

(1) 東京新聞平成20年11月1日付朝刊1面

『侵略はぬれぎぬ』論文 空幕長を更迭
2008年11月1日 朝刊

 航空自衛隊トップの田母神(たもがみ)俊雄航空幕僚長が「わが国が侵略国家だったなどというのはまさにぬれぎぬ」などと主張する論文を民間の懸賞論文で発表したことが三十一日、分かった。日中戦争を正当化するなど政府見解に反する内容で、浜田靖一防衛相は同日夜、「政府見解と明らかに異なる意見で、極めて不適切。空幕長という要職にとどまることは望ましくない」と述べ、同日付で空幕長を解任した。 

 田母神空幕長は、全国でホテルなどを展開する「アパグループ」(東京都港区)の第一回「真の近現代史観」懸賞論文に応募し、最優秀賞(懸賞金三百万円)を受賞した。

 論文は「日本は侵略国家であったのか」という題で、日本が中国大陸や朝鮮半島に軍を駐留させたのは、すべて条約に基づくものだったと指摘。日本は「蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者」「日本だけが侵略国家だといわれる筋合いもない」「東京裁判はあの戦争の責任をすべて日本に押しつけようとしたもの」などと持論を展開した。

 また「日本政府と日本軍の努力によって、現地の人々はそれまでの圧政から解放され、また生活水準も格段に向上した」「多くのアジア諸国が大東亜戦争を肯定的に評価している」と主張した。

 自衛隊の現状については「領域の警備もできない、集団的自衛権も行使できない」「アメリカに守ってもらうしかない。アメリカに守ってもらえば、日本のアメリカ化が加速する」などとの見方を示した。

 浜田防衛相は論文についてこの日初めて知ったといい、「本人としては普段から思っていることを書いたのだと思うが、自分の立場をもう少し重く考えていただきたかった」と苦言を呈した。

 空幕長は「日本の発展のため、自虐的な東京裁判史観から解放されることが必要だ」と受賞コメントを述べている。同社は論文をホームページで英訳とともに公開している。

◆侵略に関する政府見解

 1995年8月15日、当時の村山富市首相が「戦後50周年の終戦記念日に当たって」と題する談話を発表。その中で過去の戦争などについて「わが国は遠くない過去の一時期、国策を誤り、植民地支配と侵略によって、アジア諸国の人々に多大の損害と苦痛を与えた」と「侵略」を明確に認め、「痛切な反省と心からのおわびの気持ち」を表明した。その後も日本政府の基本的見解として踏襲され、麻生太郎首相も「私の内閣でも引き継ぐ」と表明している。」



(2) 読売新聞平成20年11月1日付夕刊16面「解説」

部下も上司も「暴走」放置

 航空自衛隊のトップだった田母神俊雄・前航空幕僚長の論文問題は2つの点で問題がある。

 1つは、防衛省の「背広組」と呼ばれる内局幹部が、論文の内容を確認していなかったという「文民統制」(シビリアン・コントロール)上の問題だが、それ以上に、部隊としてトップの“独走”を食い止められなかったという点も見過ごすことができない。

 空自幹部の一部は、少なくとも、田母神前空幕長が論文を提出したという事実は事前に知っていたという。前空幕長が奔放な発言をすることは空自内では有名で、当然、空自の幹部たちは組織としてどのような論文だったのかをチェックする必要があったはずだ。

 現場の部隊では階級が1つの上の上司にさえ、正面切って苦言を呈しにくい雰囲気がある。しかし最高幹部を補佐する幕僚は組織を管理するうえでも、上司に意見を言うべき時がある。自衛隊の幕僚たちが、なぜ上司の過ちを放置したのか。この点も深く検証すべきだろう。 (石間俊光)」



日本政府は1995年8月15日、「戦後50周年の終戦記念日に当たって」と題する談話を発表し、その中で過去の戦争などについて「わが国は遠くない過去の一時期、国策を誤り、植民地支配と侵略によって、アジア諸国の人々に多大の損害と苦痛を与えた」として、「侵略」であったことを明確に認めています(東京新聞)。

それなのに、この論文は、日中戦争での日本の侵略や植民地支配を正当化し、政府見解を公然と否定する内容ですから、浜田靖一防衛相は同日夜、「政府見解と明らかに異なる意見を公にすることは航空幕僚長として不適切で、速やかに職を解く」と述べ、同空幕長を同日付で解任したわけです。

田母神氏の論文では、「現在の自衛隊が、集団的自衛権を行使できず、攻撃的兵器の保有も禁じられている現状に強い不満を示していて、航空自衛隊トップの発言として、シビリアンコントロール・文民統制の観点」(NHKニュース(10月31日21時37分))からも問題です。




3.識者の見解を幾つか。

(1) 東京新聞2008年11月1日 朝刊

『小学校から勉強を』 「低レベル」論文内容 識者らあきれ顔
2008年11月1日 朝刊

 「わが国は日中戦争に引きずり込まれた被害者」という田母神俊雄航空幕僚長の文章に、近現代史に詳しい学者らはあきれ顔。内容をことごとく批判し「レベルが低すぎる」とため息が漏れた。

 「小学校、中学校から勉強し直した方がいいのでは」と都留文科大の笠原十九司(とくし)教授(日中関係史)は話す。空幕長の文章は旧満州について「極めて穏健な植民地統治」とするが、笠原教授は「満州事変から日中戦争での抗日闘争を武力弾圧した事実を知らないのか」と批判。「侵略は一九七四年の国連総会決議で定義されていて、日本の当時の行為は完全に当てはまる。(昭和初期の)三三年にも、日本は署名していないが『侵略の定義に関する条約』が結ばれ、できつつあった国際的な認識から見ても侵略というほかない」と説明。「国際法の常識を知らない軍の上層部というのでは、戦前と同じ。ひどすぎる」と話す。

 「レベルが低すぎる」と断じるのは纐纈(こうけつ)厚・山口大人文学部教授(近現代政治史)。「根拠がなく一笑に付すしかない」と話し「アジアの人たちを『制服組トップがいまだにこういう認識か』と不安にさせる」と懸念する。

 「日本の戦争責任資料センター」事務局長の上杉聡さんは「こんなの論文じゃない」とうんざりした様子。「特徴的なのは、満州事変にまったく触れていないこと。満州事変は謀略で起こしたことを旧軍部自体が認めている。論文は『相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない』というが、満州事変一つで否定される」と指摘する。

◆文民統制揺るがす

 小林節・慶応大教授の話 田母神論文は、民族派の主張と同じであまりに稚拙だ。国家と軍事力に関する部分は、現職の空自トップが言っていい範囲を明らかに逸脱した政治的発言で、シビリアンコントロール(文民統制)の根幹を揺るがす。諸国に仕掛けられた戦争だったとしても、出て行って勝とうとしたのも事実で、負けた今となって「はめられた」と言っても仕方がない。現在の基準や戦争相手国の視点で見れば、日本がアジア諸国を侵略したのは間違いのない事実だ。世界史に関する“新説”を述べるのは自由だが、発表の場にも細心の注意を払い、学問的に語るべきだ。

◆一行一行、辞職に値

 水島朝穂・早大教授の話 航空自衛隊のイラク空輸活動を違憲とした名古屋高裁判決に「そんなの関係ねえ」という驚くべき司法軽視の発言をした空幕長とはいえ、閣僚なら一行一行が辞職に値するような論文で、アジア諸国との外交関係を危うくするのは間違いない。自衛隊法は自衛官に政治的な発言を過剰なまでに制限し、倫理規程は私企業との付き合いも細部にわたって規制している。内容のひどさは言うまでもないが、最高幹部が底の抜けたような政治的発言をして三百万円もの賞金をもらうのは資金援助に近い。」


◆確信犯的な論文

 軍事ジャーナリスト・前田哲男氏の話 航空幕僚長は航空自衛隊のトップであると同時に、服務規定で政治的中立を要求される公務員。シビリアンコントロール(文民統制)の下にある空自の指揮官であり、政府が公式に表明した歴史見解を受け入れるべきなのに全く違う自説を展開している。教科書に載っている歴史的事実とも全く違い、不正確で論文とは言えない。今回は文章を書いて豪語したのだから、完全に確信犯。口が滑ったというのとは違う。戦後の防衛大を出たエリートに、こんな考え方が残っていたとは驚きだ。防衛大の教育は何だったのだろうか。」(27面11版S)



(2) 朝日新聞平成20年11月1日付朝刊39面(+11月2日付朝刊35面「訂正記事」)

◆事実誤認だらけ

 日本の近現代史に詳しい現代史家の秦郁彦さんの話 論文は子引き・孫引きのつぎはぎで、事実誤認だらけだ。通常の懸賞論文コンテストなら、選外佳作にもならない内容だ。論文では私の著書「盧溝橋事件の研究」も引用元として紹介されているが、引用された部分は私の著書を引くまでもなく明らかなデータだけ。私が明らかにした事件の1発目の銃弾は(中国の)第29軍の兵士が撃ったという見解には触れもせず、「事件は中国共産党の謀略だ」などと書かれると、まるで私がそう主張しているかのように誤解される。非常に不愉快だ。

◆公然と奇矯な説

 白石隆・政策研究大学院大学副学長(国際関係論)の話 近隣諸国の反発が予想されるから問題だというレベルの話ではない。日本が歴史とどう向き合っているかという問題として、外からは認識されるだろう。たとえ個人の立場で書いたにしても、空自のトップという肩書は常についてまわる。

 史実や歴史の定説は、史料に基づく検証や反証を通じてかたまっていくもの。多くの歴史家から見て奇矯な説を高官が公然と出すということは、日本人がそのような歴史を総括していると見られても仕方ない。」




4.これらの記事からすると、田母神氏の「我が国が侵略国家というのは濡れ衣」とした論文を巡る問題については、3つの問題点があるといえます。

(1) まず、この論文に記されている内容(“歴史認識”)自体に問題があります。

「論文は子引き・孫引きのつぎはぎで、事実誤認だらけ」(現代史家の秦郁彦さん)、「多くの歴史家から見て奇矯な説」(白石隆・政策研究大学院大学副学長)、「世界史に関する“新説”」(小林節・慶応大教授)と評価しているように、おそらく誰もが気づくように「謀略史観に満ちた内容」(テレビ報道での秦郁彦さんの話)であって、ほとんどが妄想の類でしかありません。

朝日新聞で掲載している要旨では引用していませんが、日本が(日米)戦争に突入したのは、「アメリカによって慎重に仕掛けられた罠であったことが判明して」おり、「実はアメリカもコミンテルンに動かされていた」というのですから、どうかしているとしか思えないほどです。

朝日新聞平成20年11月2日付「社説」によると、「一部の右派言論人らが好んで使う、実証的データの乏しい歴史解釈や身勝手な主張がこれでもかと並ぶ」ものだそうです。 どうやら一部の右派言論人の間では、妄想の類が蔓延しているようです。



(2) 歴史認識に間違いがあるだけでなく、政治的中立性・シビリアンコントロール(文民統制)の観点からも問題です。

氏名及び航空自衛隊のトップである航空幕僚長という身分を明かした上で、「集団的自衛権も行使できない。武器使用も制約が多く、攻撃的兵器の保有も禁止されている。(東京裁判の)マインドコントロールから解放されない限り我が国を自らの力で守る体制が完成しない」と、武器使用制約の緩和など自衛隊の運用政策にも踏み込み、日本の安全保障政策の抜本的な転換を求めているのです。

これらの「国家と軍事力に関する部分」は、「現職の空自トップが言っていい範囲を明らかに逸脱した政治的発言で、シビリアンコントロール(文民統制)の根幹を揺るがす」(小林節・慶応大教授)ものです。

もちろん、「航空幕僚長は航空自衛隊のトップであると同時に、服務規定で政治的中立を要求される公務員」ですから、公務員の政治的中立性を害するものです(軍事ジャーナリスト・前田哲男さん)。



(3) 「部隊としてトップの“独走”を食い止められなかったという点」(読売新聞)でも問題です。
 

 「空自幹部の一部は、少なくとも、田母神前空幕長が論文を提出したという事実は事前に知っていたという。前空幕長が奔放な発言をすることは空自内では有名で、当然、空自の幹部たちは組織としてどのような論文だったのかをチェックする必要があったはずだ。
 現場の部隊では階級が1つの上の上司にさえ、正面切って苦言を呈しにくい雰囲気がある。しかし最高幹部を補佐する幕僚は組織を管理するうえでも、上司に意見を言うべき時がある。自衛隊の幕僚たちが、なぜ上司の過ちを放置したのか。この点も深く検証すべきだろう。」(読売新聞平成20年11月1日付夕刊16面「解説」)

 「田母神氏の奇矯な言動は今回に限ったことではない。
 4月には航空自衛隊のイラクでの輸送活動を違憲だとした名古屋高裁の判決について「そんなの関係ねえ」と記者会見でちゃかして問題になった。自衛隊の部隊や教育組織での発言で、田母神氏の歴史認識などが偏っていることは以前から知られていた。
 防衛省内では要注意人物だと広く認識されていたのだ。なのに歴代の防衛首脳は田母神氏の言動を放置し、トップにまで上り詰めさせた。その人物が政府の基本方針を堂々と無視して振る舞い、それをだれも止められない。
 これはもう「文民統制」の危機というべきだ。浜田防衛相は田母神氏を更迭したが、この過ちの重大さはそれですまされるものではない。」 (朝日新聞平成20年11月2日付「社説」)



田母神氏は防衛大卒業の「制服組」です。1971年に空自に入り、高射部隊を担当し、その後は空幕防衛課業務計画班長や空幕装備部長、航空総隊司令官など主流を歩み、2007年3月から空幕長に就いたという経歴の持ち主です(朝日新聞)。

田母神氏は防衛大で教育を受けた人物であり、航空自衛隊は、田母神氏のような奇矯な言動を繰り返す人物がトップにまで上り詰めてしまう組織であり、しかも、航空自衛隊では誰もこうした「奇矯な言動」を止めることができない組織ということが明らかになったのです。どの段階でも、“独走”を止めることは可能であったのにとめることができなかった点で、今後も同様のことが繰り返される可能性が高く、深刻であるのです。




5.部隊としてトップの“独走”を食い止められず、今後も同様のことが繰り返される可能性があるとすれば、抜本的な改革をする必要があります。
 

 「空幕長更迭―ぞっとする自衛官の暴走

 こんなゆがんだ考えの持ち主が、こともあろうに自衛隊組織のトップにいたとは。驚き、あきれ、そして心胆が寒くなるような事件である。 (中略)

  制服組の人事については、政治家や内局の背広組幹部も関与しないのが慣習だった。この仕組みを抜本的に改めない限り、組織の健全さは保てないことを、今回の事件ははっきり示している。防衛大学校での教育や幹部養成課程なども見直す必要がある。

 国際関係への影響も深刻だ。自衛隊には、中国や韓国など近隣国が神経をとがらせてきた。長年の努力で少しずつ信頼を積み重ねてきたのに、その成果が大きく損なわれかねない。米国も開いた口がふさがるまい。

 多くの自衛官もとんだ迷惑だろう。日本の国益は深く傷ついた。

 麻生首相は今回の論文を「不適切」と語ったが、そんな認識ではまったく不十分だ。まず、この事態を生んだ組織や制度の欠陥を徹底的に調べ、その結果と改善策を国会に報告すべきだ。」(朝日新聞平成20年11月2日付「社説」)


今年4月には、空自のイラクでの活動を違憲と判断した名古屋高裁の判決について、お笑い芸人の言葉を引いて「『そんなの関係ねぇ』という状況だ」と記者会見で話しており、物議をかもしました。これは、公務員として憲法尊重擁護義務(憲法99条)を負っている、航空幕僚長が「そんなの関係ねえ」というのですから、憲法軽視も甚だしい発言です。司法権の判断の尊重といった権力分立制を採用していることも、まるで理解していないかのようです( 「自衛隊イラク派遣訴訟:名古屋高裁平成20年4月17日判決は、「空自イラク派遣は憲法9条違反」と判断(上)~朝日新聞4月18日付「社説」を紹介」(2008/04/18 [Fri] 20:56:49)参照)。

今回、公然と日本の安全保障政策に異議を唱えており、現職の空自トップが言っていい範囲を明らかに逸脱した政治的発言ですから、政治的中立性に明らかに反し、シビリアンコントロール(文民統制・憲法)の根幹を揺るものです。ここまで、現行憲法が定めた日本の統治機構に反する行動にでたのですから(憲法尊重擁護義務を定める憲法99条違反)、国民及び政治家を舐めきっていることが明らかであり、極めて深刻です。

したがって、 防衛大学校での教育や幹部養成課程の見直し、制服組の人事への外部による監査・介入を認めるなど、抜本的な改革をするを必要があるように思われます。浜田防衛相は田母神氏を更迭しましたが、更迭しただけでは済まされる問題ではありません。自衛隊は、戦時中と同様、組織内での暴走を食い止める意識に欠けているのですから。



<追記>

「2008年11月2日(日)「しんぶん赤旗」」から引用しておきます。

更迭の空幕長
侵略美化 就任前から
隊内誌に論文 政府の任命責任重大


--------------------------------------------------------------------------------

 「我が国が侵略国家だったというのは濡衣(ぬれぎぬ)」などと、かつての日本の侵略戦争を美化する論文を執筆し、空幕長を更迭された田母神(たもがみ)俊雄氏が、空幕長就任前から同様の侵略戦争美化論文を航空自衛隊の隊内誌に発表していたことが一日までに分かりました。

 同氏は、安倍内閣時の二〇〇七年三月に閣議で了承されて空幕長に就任しました。麻生太郎首相は「(論文は)個人的に出した」ものだと釈明しますが、こういう人物を任命した自公政権の責任は避けられません。

 論文が掲載されていたのは、『鵬友』という隊内誌(隔月刊)。「鵬友発行委員会」と「航空自衛隊幹部学校幹部会」が編・発行しています。

 田母神氏が統合幕僚学校長時代の〇三年七月号から〇四年九月号まで四回にわたって「航空自衛隊を元気にする10の提言」を掲載。「東京裁判は誤りであった」「南京大虐殺があったと思い込まされている」などと、侵略の事実さえ否定。日本の占領地統治を「慈愛に満ちたもの」などと美化しています。

 また、扶桑社の『新しい歴史教科書』を「歓迎」し、「自衛隊にも国の機関として国民が正しい歴史観を持つためにやれることがあるのではないか」と主張。「総理大臣の八月十五日における靖国参拝も可能になるであろうことを期待している」と求めています。

 また空幕長就任後の〇七年五月号には、「日本人としての誇りを持とう」という論文を寄稿。この中で「日本は朝鮮半島や中国を侵略し残虐の限りを尽くした」ことについて「ウソ、捏造(ねつぞう)の類(たぐい)」と、事実を全面否定。「コミンテルン(共産主義インタナショナル)に動かされているアメリカ」によって「日本は日米戦争に追い込まれていく」という妄想を展開しています。

 田母神氏は、論文が陸自や海自でも配布されていることを自慢しており、防衛省・自衛隊内では周知の事実だったとみられます。」


田母神氏は、『鵬友』という隊内誌で妄想の類を公言しており、航空自衛隊のみならず、「防衛省・自衛隊内では周知の事実だった」ようです。


テーマ:政治・時事問題 - ジャンル:政治・経済

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コメント
この記事へのコメント
これは、もっとひどい
渡辺昇一氏が審査委員長だそうですが、氏本人が書いたものかと思いました。
防衛大学校では、こんなことを教えているのでしょうか?

シンガポールでは、日本軍の残虐な行為が今でも語り継がれていて、それを後世に伝えるために立派な石碑があります。
そのシンガポールで
「日本軍の評価が高い」とは誰が言っているのか、教えてほしいものです。
この人に、シンガポール人の友人が一人でもいるのでしょうか?

また、ヤメ蚊さんのブログにあったものですが、
「航空自衛隊を元気にする10の提言」
例えばわが国が近年推進している男女共同参画社会、夫婦別姓、情報公開、公務員倫理法等は、その有用性を否定するものではないが、他方これが日本弱体化のために利用されているのではないかという危惧を禁じえない
http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005

唖然として、言葉もありません。
2008/11/03 Mon 11:51:47
URL | もみじ #aEpDLGac[ 編集 ]
>もみじさん:2008/11/03 Mon 11:51:47
コメントありがとうございます。


>渡辺昇一氏が審査委員長だそうですが、氏本人が書いたものかと思いました。
>防衛大学校では、こんなことを教えているのでしょうか?

あまりよく知らないのですが、田母神氏の論文は、「正論」「諸君!」といった雑誌ではよくあるような内容だそうですね。(それほど詳しくはないのですが)、確かに渡辺昇一氏なら書きそうな内容です。堂々と、妄想が蔓延るようだと、もっと妄想の類も知る必要がありそうです。防衛大学校での教育も、こうした妄想を教えているのか、ぜひ知りたいところですが。

そういえば、日経新聞平成20年11月3日付「社説」に次のようなことを書いていました。

「三自衛隊には四文字熟語を重ねてそれぞれの体質を冷やかす表現がある。陸は「用意周到・優柔不断」、海は「伝統墨守・唯我独尊」、空は「勇猛果敢・支離滅裂」がそれである。これが当たっているとすれば、田母神氏は典型的な航空自衛官だったのかもしれない。」
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20081102AS1K0100101112008.html

確かに、田母神氏の論文は「支離滅裂」です。「支離滅裂」は航空自衛官の伝統だったとはね~。きっと、防衛大学校でもこうした「伝統」が延々と引き継がれていくのでしょう。
2008/11/04 Tue 00:35:46
URL | 春霞 #5oClkA7g[ 編集 ]
企業献金では?
この話しを聞いて阪神大震災の時にシビリアンコントロールを守るために命令が下るまで出撃できなかった隊員の悔しさを思い出します。
平和のために命をも犠牲にしたのにそれを踏みつけるとは。。

この懸賞自体が出来レースで公務員の汚職のような気もしますね。




http://www.jasdfmate.gr.jp/
2008/11/04 Tue 05:48:28
URL | ほっちゃれ #17ClnxRY[ 編集 ]
先の大戦を全否定する歴史観は全く受容しないし、“集団的自衛権も行使できない。武器使用も制約が多く、攻撃的兵器の保有も禁止されている”現状を大いに憂う私ですが、田母神氏の発言はその重要な地位からして浮薄に過ぎた、と思いますね。
2008/11/05 Wed 20:22:33
URL | rice_shower #UXr/yv2Y[ 編集 ]
>ほっちゃれさん:2008/11/04 Tue 05:48:28
コメントありがとうございます。


>この懸賞自体が出来レースで公務員の汚職のような気もしますね

元谷外志雄・APAグループ代表と、田母神氏は昵懇の中だったからこそ、最優秀賞となったのかもしれませんね。

問題は、F15に搭乗できた対価としての最優秀賞の懸賞金300万円を出したのかもという疑いがあることでしょうね。搭乗の決裁は空幕長だった田母神氏だったと報道されていますし、それに加えて、論文の内容も「コミンテルンの陰謀~」などと酷いもので、受賞に値するようなものではありません。そうなると、懸賞論文を奇貨として金銭を出したという、収賄罪の可能性も出てきます。そうなると、仰るように「公務員の汚職」になってきます。


「--懸賞論文募集はどこで知ったのか??

「アップルタウンというAPAの雑誌で。私は航空自衛隊小松基地の司令をしていた関係でAPAグループ代表が航空自衛隊金沢友の会の会長をしておられました。そういうことから、小松にいるときからアップルタウンの雑誌を送っていただいてました」

 --会長(APAグループ代表)とは親しいのか

「小松時代にだいぶお世話になりました」

 --会長がF15にのっている写真がありましたが、便宜供与などもあったのか

「特定の方だけに便宜供与をあたえるというわけではありません。みなさんに航空自衛隊をよく知っていただくために、公平に公正に自衛隊の飛行機にのったりということはしてもらっています」」
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/081104/plc0811040107001-n2.htm

2008/11/05 Wed 22:33:59
URL | 春霞 #5oClkA7g[ 編集 ]
>rice_showerさん:2008/11/05 Wed 20:22:33
コメントありがとうございます。お久しぶりです。


>先の大戦を全否定する歴史観は全く受容しないし、

個人的見解としては、どんな見解であろうとも、個人の思想の自由として認められますね。とはいえ、rice_showerさんだって、日米戦争に関して、「実はアメリカもコミンテルンに動かされていた」などという陰謀史観には賛同しないとは思いますが。右派言論人の間では、結構、陰謀史観が好まれているのか、よく分からないところです。


>“集団的自衛権も行使できない。武器使用も制約が多く、攻撃的兵器の保有も禁止されている”現状を大いに憂う私ですが、田母神氏の発言はその重要な地位からして浮薄に過ぎた、と思いますね。

そうなんですよね、航空幕僚長という地位が問題なのです。いくら日本の安全保障について一家言あったとしても、「現職の空幕長が活字で公刊してしまっては、それこそ、軍事力に対するシビリアン・コントロール(政治の優先)に反する」(小林節・慶大教授)ことになってしまいます。(「驚かされた空幕長の歴史論文」(H20/11/04)
http://www.nnn.co.jp/dainichi/column/ryoudan/index.html

小林節教授は、さらに、「このような高度な政治問題にはあえて論及しない節度こそが自衛隊将官の矜持(きょうじ)であったはずである。」と書いています。高い地位にある者はその地位に相応しい見識・矜持を持つということが、日本社会では失われつつあるのかもしれません。
2008/11/05 Wed 23:21:00
URL | 春霞 #5oClkA7g[ 編集 ]
同氏が定年を間近に控えたこの時期に、あのような発言を為したのは、「物議を醸すのが目的だった」と考えるのが自然なので、発言したこと自体を非難しても詮無い事ですなぁ。
わたし的には、ならばこそ、高次の議論を引き起こし得る、もっと緻密で深い洞察が有ってしかるべきだったろうが(嘲笑を招くような陰謀史観ではなく)、との慨嘆にとらわれます。
2008/11/06 Thu 01:05:20
URL | rice_shower #UXr/yv2Y[ 編集 ]
>rice_showerさん:2008/11/06 Thu 01:05:20
コメントありがとうございます。


>同氏が定年を間近に控えたこの時期に、あのような発言を為したのは、「物議を醸すのが目的だった」と考えるのが自然なので、発言したこと自体を非難しても詮無い事ですなぁ。

「物議を醸すのが目的だった」……のかと一時思いました。しかし、朝日新聞などによると、どうやら、論文指導をして「懸賞論文には田母神氏以外にも航空自衛官78人が応募」という多数が参加して、しかも、昵懇の中のAPAグループという身内同然の懸賞論文です。こうした経緯からすれば、単なる「模擬試験」を皆で受けた程度の安易な気持ちでやっただけのように思います。


「小松基地、同テーマで論文指導 田母神氏は応募薦める
2008年11月7日3時1分

 航空自衛隊の田母神(たもがみ)俊雄・前航空幕僚長(60)=3日付で定年退職=が日本の侵略などを正当化する論文を発表し、更迭された問題で、空自小松基地(石川県小松市)の第6航空団が、田母神氏が応募した懸賞論文と同じテーマ「真の近現代史観」で幹部隊員に論文指導をしていたことが6日、防衛省の調査で分かった。
 田母神氏は98~99年に小松基地トップの司令を務め、今回の懸賞論文では空自内で応募を勧めていた。懸賞論文には田母神氏以外にも航空自衛官78人が応募。62人は第6航空団の所属で、大半は尉官クラスの若手幹部だった。防衛省は同基地で指導のテーマになった経緯を調べている。」 (朝日新聞平成20年11月7日付朝刊)
http://www.asahi.com/national/update/1106/TKY200811060314.html

論文指導という手取り足取りやってもらえて、論文を提出して、うまくいけばお金(=懸賞金)ももらえるわけですから、「皆で、うまい話でウハウハしよう」という感じだったのでは? 


>わたし的には、ならばこそ、高次の議論を引き起こし得る、もっと緻密で深い洞察が有ってしかるべきだったろうが(嘲笑を招くような陰謀史観ではなく)、との慨嘆にとらわれます。

この論文は、「嘲笑を招くような陰謀史観」ですから、多くの人は「かわいそうな人」な感じで田母神氏を見ているのでしょう。「日本政府は火星人によって操られている」と言っているような人とさほど変わりません。

田母神氏は、怪しげな文献のみをつぎはぎしただけなのに、「内容は誤っていない」と言ってしまうのですから、田母神氏に深い洞察を求めること自体が高望みしすぎなようにも思いますけどね。


「--論文の内容については、今も変わらないか

「内容については誤っていると思いません」

--論文を拝読して、市販の雑誌から引用が多い。田母神さんご自身が発見されたことはほとんどないと思うが

「それはおっしゃるとおりで、私自身が歴史を研究してというより、いろんな研究家の書かれたものを読んで勉強して、それらについて意見をまとめるということであります。なかなか現職で歴史そのものを深く分析する時間はなかなかつくれないと思います」」
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/081104/plc0811040009000-n2.htm
2008/11/07 Fri 06:45:26
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