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主に社会問題について法律的に考えてみる。など。
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2006/09/17 [Sun] 12:49:52 » E d i t
地下鉄サリンなど13事件で殺人罪などに問われたオウム真理教元代表の麻原彰晃被告=本名・松本智津夫=について、最高裁は15日、東京高裁の控訴棄却決定を支持し、被告側の特別抗告を棄却する決定を出しました。この決定についてコメントしたいと思います。


1.毎日新聞(平成18年9月16日土曜日朝刊1面)

オウム裁判:松本被告の死刑確定 教祖初公判から10年、裁判を打ち切り--最高裁
 
 ◇高裁決定を支持

 地下鉄サリンなど13事件で殺人罪などに問われたオウム真理教(アーレフに改称)の松本智津夫(麻原彰晃)被告(51)について、最高裁第3小法廷(堀籠(ほりごめ)幸男裁判長)は15日、東京高裁の控訴棄却決定を支持し、被告側の特別抗告を棄却する決定を出した。戦後最多となる計26人の殺害と1人の監禁致死など、全事件を「教祖」の指示と認定した1審の死刑が確定した。社会を震かんさせた事件の首謀者に対する裁判は、96年4月の初公判から10年余で、控訴審が一度も開かれることなく打ち切られた。(2、3面にクローズアップ、社会面に関連記事、6面に特集)

 被告が自ら控訴や上告を取り下げて裁判が打ち切られたケースはあるが、統計が残る66年以降、控訴棄却決定で死刑が確定するのは初めて。決定は4人の裁判官全員一致の意見。

 特別抗告審では、東京地裁の死刑判決の是非ではなく、(1)訴訟能力の有無(2)弁護側の控訴趣意書の提出遅れに刑事訴訟規則で容認される「やむを得ない事情」があるか(3)提出遅れという弁護活動の不備による不利益を被告に負わせることの可否--が争われた。

 第3小法廷は(1)について、▽高裁の依頼で今年2月に提出された精神鑑定の結果▽1審判決当時の被告の発言内容▽拘置所での日常生活の様子--などから、訴訟能力があるとした高裁決定を「是認できる」と述べた。

 (2)については、弁護団が趣意書を作成しながら、高裁による再三の提出勧告に対し「精神鑑定の方法に問題がある」などとして提出しなかった経緯に言及。「やむを得ない事情があるとは到底認められない」としたうえ「弁護人が被告と意思疎通できないことは、提出遅延を正当化する理由にならない」と判断した。

 (3)については「弁護人の行為による効果が、被告の不利益となる場合でも被告に及ぶことは法規の定めるところ」と指摘。「被告自ら弁護人と意思疎通を図ろうとしなかったことが、裁判を打ち切るような事態に至った大きな原因」と批判し「高裁決定を揺るがすような事情を見いだすことはできない」と結論付けた。

 松本死刑囚は17事件で起訴されたが、審理迅速化のため検察側は薬物密造など4事件の起訴を取り消し、地下鉄、松本両サリン事件の負傷者3920人を起訴事実から外した。1審では「弟子が事件を起こした」と、ほぼすべての事件で無罪を主張。東京地裁は04年2月、「空想虚言に基づいて多数の生命を奪った犯罪は愚かであさましく、極限の非難に値する」と死刑を言い渡した。

 2審の弁護団は控訴趣意書を昨年8月の期限までに提出せず、東京高裁は今年3月に控訴棄却を決定。弁護側は異議を申し立てたが棄却され、最高裁に特別抗告していた。【木戸哲】

 ◇一区切りの感--最高検の横田尤孝次長検事の話

 地下鉄サリン事件発生から約11年、初公判から10年が経過し、決定を受け一区切りの感がある。控訴審、上告審に係属中の被告がいるので、引き続き適切に対応する。

 ◇被告へのひぼう--松本被告弁護団の抗議声明

 決定はきわめて不公平で不当。強く抗議する。決定は被告が弁護人と意思疎通を図ろうとしないことが控訴棄却をもたらした大きな原因と指摘するが、被告の精神状態を無視するもので、被告へのひぼうというほかない。

 ◇被害者・遺族は会見で怒り新た

 最高裁決定を受け「地下鉄サリン事件被害者の会」代表世話人の高橋シズヱさん(59)ら被害者・遺族が記者会見し、怒りを新たにした。

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毎日新聞 2006年9月16日 東京朝刊」



●毎日新聞9月16日付朝刊6面

オウム裁判:松本被告・死刑確定 突き進んだ無差別テロ 教団武装「日本の王に」

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 ◆1審認定の13事件犯罪事実

 東京地裁判決が認定した犯罪事実は次の通り(いずれも教団幹部らとの共謀、年齢は当時)。

  (1)田口修二さん殺害(殺人)=88年に静岡県富士宮市の富士山総本部道場で起きた在家信徒死亡事件の口封じのため、89年2月、総本部向かいにある独房修行用に改造したコンテナ内で、脱会しようとした田口修二さん(21)の首を絞め殺害。

  (2)坂本弁護士一家殺害(殺人)=オウム真理教被害者の会を支援していた坂本堤弁護士(33)の排除を計画し89年11月4日未明、横浜市磯子区の坂本弁護士方で、坂本弁護士と妻都子(さとこ)さん(29)、長男龍彦ちゃん(1歳2カ月)の3人の首を絞めるなどして殺害。

  (3)サリンプラント建設(殺人予備)=教団武装化の一環として、化学兵器のサリンをプラントで大量生成することを計画。93年11月~94年12月、山梨県上九一色村(当時)でプラントをほぼ完成・作動させた。

  (4)滝本弁護士襲撃(殺人未遂)=オウム真理教被害対策弁護団で活動していた滝本太郎弁護士(37)を排除しようと94年5月9日、甲府地裁西側駐車場に止まっていた滝本弁護士の乗用車にサリンを流入させ、サリン中毒症の傷害を負わせた。

  (5)松本サリン(殺人、殺人未遂)=サリンの殺傷能力を確かめるため、教団進出に反対する住民との裁判が係属していた長野地裁松本支部の裁判官や周辺住民の殺害を計画。94年6月27日夜、松本市内でサリンを発散させ、伊藤友視さん(26)▽阿部裕太さん(19)▽安元三井さん(29)▽室岡憲二さん(53)▽瀬島民子さん(35)▽榎田哲二さん(45)▽小林豊さん(23)の計7人を殺害、住民4人に重傷を負わせた。

  (6)自動小銃密造(武器等製造法違反)=ロシア製自動小銃「AK74」を模倣した銃約1000丁を94年6月~95年3月、上九一色村の第11サティアンなどで製造しようとした。

  (7)落田耕太郎さん殺害(殺人、死体損壊)=94年1月30日未明、上九一色村の第2サティアンで、脱走後に他の信者を連れ出そうと教団施設に侵入した落田耕太郎さん(29)の首を絞め殺害。遺体をマイクロ波加熱装置とドラム缶を組み合わせた「マイクロ波焼却装置」で焼いた。

  (8)冨田俊男さん殺害(殺人、死体損壊)=警察のスパイに仕立て上げようとした信者の冨田俊男さん(27)を拷問したがスパイと認めず、口封じを計画。94年7月10日、第2サティアンで絞殺し遺体をマイクロ波焼却装置で焼いた。

  (9)水野昇さん襲撃(殺人未遂)=94年12月2日、東京都中野区の路上で、教団を脱会しようとした知人の信者を支援していた水野昇さん(82)の後頭部に注射器を使って猛毒のVXを掛け、VX中毒症の傷害を負わせた。

 (10)浜口忠仁さん殺害(殺人)=大阪市の会社員、浜口忠仁さん(28)を警察のスパイと疑い、94年12月12日、同市淀川区の路上で注射器内のVXを掛け、同月22日、中毒死させた。

 (11)永岡弘行さん襲撃(殺人未遂)=オウム真理教被害者の会会長、永岡弘行さん(56)に対し95年1月4日、東京都港区の路上で注射器内のVXを掛け、中毒症の傷害を負わせた。

 (12)仮谷さん監禁致死(逮捕監禁致死、死体損壊)=信者の居場所を聞き出そうと95年2月28日、品川区の路上で、信者の兄の仮谷清志さん(68)を拉致し第2サティアンに監禁。3月1日、全身麻酔薬の副作用による心不全で死なせ、遺体をマイクロ波焼却装置で焼いた。

 (13)地下鉄サリン(殺人、殺人未遂)=警察による強制捜査を回避するため不特定多数の人を殺害して混乱を起こそうと計画。95年3月20日朝、東京の地下鉄3路線の電車内でサリンを発散させ、乗客の岩田孝子さん(33)▽和田栄二さん(29)▽坂井津那さん(50)▽小島肇さん(42)▽藤本武男さん(64)▽田中克明さん(53)▽伊藤愛さん(21)▽岡田三夫さん(51)▽渡辺春吉さん(92)▽中越辰雄さん(54)と、駅員の高橋一正さん(50)▽菱沼恒夫さん(51)の計12人を殺害、乗客14人に重傷を負わせた。

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毎日新聞 2006年9月16日 東京朝刊」


この特別抗告は実質的な審理を行った裁判ではなく、「特別抗告審では、東京地裁の死刑判決の是非ではなく、(1)訴訟能力の有無(2)弁護側の控訴趣意書の提出遅れに刑事訴訟規則で容認される「やむを得ない事情」があるか(3)提出遅れという弁護活動の不備による不利益を被告に負わせることの可否--が争われた」というものです。

ですが、この特別抗告の一番重要なポイントは(2)の点です。すなわち、平成17年8月の提出期限をすぎて、平成17年3月に控訴趣意書を提出しても、遅延がやむを得ない事情に基づくとして(規則238条)、これを期間内に提出された適法なものとして審判の対象とすることができるのかという点です。
この点は、「松本被告の控訴棄却への異議申し立てを棄却(東京高裁平成18年5月30日決定)」や、「オウム松本被告の控訴棄却~東京高裁の控訴棄却の判断は妥当なのか?」で触れたように、「最高裁昭和32年4月23日決定…は、控訴趣意書提出最終日が弁護人側から数回にわたり延期申請があったためその都度延期され、しかもその延期された期限から1箇月以上も遅れて提出されたときは、やむを得ない事情に基づくものとはいえないとする…。」という前例もあることから、遅延がやむを得ない事情に基づくという判断は困難でした。

本決定は、次のように判示しています。

「所論は,控訴趣意書の提出が平成18年3月28日になったことについては,刑訴規則238条にいう「やむを得ない事情」があると主張する。しかし,控訴趣意書の提出期限は平成17年8月31日であり,同期限が延長された事実はないばかりか,同日の裁判所と弁護人との打合せの席上,弁護人は,控訴趣意書は作成したと明言しながら,原々審の再三にわたる同趣意書の提出勧告に対し,裁判所が行おうとしている精神鑑定の方法に問題があるなどとして同趣意書を提出しなかったものであり,同趣意書の提出の遅延について,同条にいう「やむを得ない事情」があるとは到底認められない。弁護人が申立人と意思疎通ができなかったことは,本件においては,同趣意書の提出の遅延を正当化する理由とはなり得ない。」


確かに、「やむを得ない事情」があるとはいえないという判断は妥当といえるのでしょう。しかし、「やむを得ない事情」についての事例判断にとどまり、「やむを得ない事情」の判断基準を示すことがありませんでしたから、今後の指針となりえない判例となってしまいました。「やむを得ない事情」が問題となる事例自体がほとんどないのですから、判断基準を示すべきだったと考えます。

また、弁護人としては、被告人から不服の理由を十分に聞いた上、第1審判決を分析し、説得力ある控訴趣意書を作成する必要があるのです。控訴審の弁護活動のポイントは第一にこの説得力ある控訴趣意書の作成にかかっているといえるのですから、意思疎通なく出来上がった控訴趣意書を提出することには問題がありました。それでも、控訴趣意書を提出すべきというのなら、控訴趣意書はどうあるべきなのか、控訴趣意書を軽視することにならないかなど、もっと踏み込んだ見解を示すべきでしたが、このような「控訴趣意書の重要性」に触れることがなかったのですから、説得力を欠く判例となったと考えます。

また、「『被告に訴訟能力はない。治療すべきだ』として公判の停止にこだわるあまり、被告の裁判を受ける権利が奪われる致命的な結果を招いた弁護団の責任は重大である。一方で、弁護団の精神鑑定への立ち会いや鑑定医への尋問を認めず、対立を深めた高裁の訴訟指揮も、柔軟さを欠いた。」(東京新聞9月16日付「核心」)。高裁での訴訟指揮の問題性も指摘すべきでした。訴訟指揮は、ただ審理を促進するための権限ではないのですから。

結局、「第三小法廷は約三カ月かけ、一審からの記録を精査。重大事件とあって通常あまり例がない最高裁独自の判断を『職権』で示したが、『責任は麻原被告にもある』と踏み込んで指摘した以外、中身は高裁決定と同じだった。」(東京新聞9月16日付「核心」)といったさほど内容のない決定であったと思われます。


どの新聞でも現在では、公判前整理手続により、争点を整理して、公判開始後ほぼ連日法廷を開いて審理期間を短縮するので、今回の死刑確定まで10年はかからなかったはずとの指摘がなされていました。

しかし、「審理に時間がかかるのは真実を発見しようとする努力の結果。それを否定するのは刑事弁護をするな、と言うのに等しい」と安田弁護士が憤る」(東京新聞9月16日付朝刊3面)ように、時間がかかるのはやむを得ないのです。何より、起訴時17事件(その後13事件)、1万5000点の証拠、弟子たちの供述調書もなく、3938名に及ぶ殺人及び殺人未遂の被害者(地下鉄サリン・松本サリン。その後18人に絞り込む)、麻原被告の場合、直接実行していないので、すべて「共謀共同正犯」として「共謀」の有無が最大の争点なのに、起訴状には実行行為者と「共謀して」とあるだけで、いつ、どこで、誰と、どのように謀議したのかの記述が全くありませんでした。麻原被告はほとんど目が見えないため、資料を見ることができず、調書を読んで自分で判断することもできないのですから、13もの事件をはっきり区別して弁護人との打ち合わせをすることは、弁護人も麻原被告の側も大変です。(安田好弘「『生きる』という権利――麻原彰晃 主任弁護人の手記」参照)。

要するに、元々、目が不自由で訴訟手続の進行が難しく、13事件と多く、どれも重大事件ですし、立証も弁護も難しい「共謀」を中心に争う事件だったのに、最初から「共謀」の中身や証拠を示していないのです。これでは、審理を促進しようがないのです。いずれにせよ、(1審で実質審理打ち切りということがなければ)死刑確定まで10年くらはかかったと思われます。




2.いわゆる識者のコメント

(1) 朝日新聞(9月16日付朝刊2面)
 

混迷状態 放置し悪化  

 松本被告と接見した、精神科医の加賀乙彦さんの話 事件がなぜ起きたのかを解明するためには、松本被告にコントロールされた弟子たちの話だけでは半分も状況は理解できない。松本被告の考え方の解明は全世界の人々が知りたがっており、日本にはテロリズムの本質を明らかにする責務がある。

 私は多くの拘禁反応の症例に接してきたが、松本被告も拘禁反応による混迷状態で、訴訟能力はないとみている。治療すれば症状は改善するのに、放置したことで悪化した。10年以上も裁判に要した理由のひとつはそこにある。


 『異常』で片づけるな

 ジャーナリストの江川詔子さんの話 松本被告の魅力は、何を聞いてもシンプルで力強い答えをすぐに返すところだと信徒に聞いたことがある。そういうものに頼りたい弱さは私たちにもある。複雑な世の中を善悪の二つに分けて論じたがるいまの風潮が、まさにそうだ。

 オウム事件は社会を映すゆがんだ鏡だった。『奇妙な人たちの異常な事件』で片づけるのではなく、裁判で明らかになったことを手がかりに、私たち一人ひとりが『ここから何を考えるべきなのか』を探すことが大切だ。


 カルトの構図 いまも

 浅見定雄・東北学院大名誉教授(宗教学)の話 松本被告を頂点とするオウム真理教のカルト集団的な側面が解明されず残念だ。事件当時『なぜエリートの若者たちが?』と言われたが、『有能な男とかわいい女の子を集めればもうかる』がカルトの発想。大勢の人に声をかければ、問題に突き当たっている人もいてはまってしまう、という構図はオウムの危険性が知られた今も変わっていない。さまざまなカルトが今後も力をもつ可能性があり、オウムを知らない若者世代に注意喚起する必要がある。」


一連の事件は、松本被告を頂点とするオウム真理教のカルト集団が起こした事件でした。ですから、カルト集団的な側面の解明が必要でしたし、全世界の人々が知りたがっていたのですから、「日本にはテロリズムの本質を明らかにする責務」があったはずです。

「松本被告の魅力は、何を聞いてもシンプルで力強い答えをすぐに返すところ」だったそうですが、そういう点に惹かれる人々は多いと思います。小泉首相がずっと支持率が高かったのですから。

加賀乙彦さんの話の話にあるように、「治療すれば症状は改善する」見込みがあるのですから、治療すべきだったのに、治療をせずに裁判を打ち切ってしまいました。

もちろん、裁判にあらゆる真相究明を求めることは無理な話です。ですが、裁判所が自ら「日本にはテロリズムの本質を明らかにする責務」を放棄する結果を招くべきではなかったと考えます。


(2) 法律学者のコメント

 

元最高検検事の土本武司・白鷗大法科大学院教授(刑事法)の話
 「裁判の手続きとしては、弁護団が指定期日までに控訴趣意書を出さなかったことなどで、特別抗告が棄却されるのは予想されていた。今後、弁護団が再審開始を求め続ける可能性もあり、争う道はまだある。このまま裁判の幕が下りるのなら、何か大切なことをやり残したような空虚さを感じる」産経新聞(9月16日付朝刊30面)

 

前田雅英・首都大学東京法科大学院教授(刑事法)の話 「今回の決定は、松本被告の訴訟能力を認める根拠とした医学的な検査結果を挙げ、弁護活動の不当さも指摘するなど、最高裁決定としては異例の具体的な内容になった。長期審理を容認した法曹関係者への厳しいメッセージと受け止めるべきだ。刑事裁判の迅速化を促す意味も持ち、国民が納得しやすい結末と言える」読売新聞(9月16日付朝刊38面)


確かに、前田教授の言うように、「国民が納得しやすい結末」だったのでしょう。しかし、本決定が示した内容は、訴訟能力や「やむを得ない事情」の事例判断であって、「長期審理を容認した法曹関係者への厳しいメッセージ」はありませんし、「刑事裁判の迅速化を促す意味」も込められていません。前田教授は、(近年、やっと刑事訴訟法の共著を出版したとはいえ、刑法学者であるせいか、)実質審理が1審で打ち切りという異常さを理解していないようです。

「この裁判が手続き的処理で決着をつけるべきではなく、実体を審理して決着をつけるべき重大な裁判なのは明らか」(朝日新聞(平成18年5月31日付朝刊):元東京高裁部統括判事の村上光鵄・京大法科大学院教授(刑事法))であって、「このまま裁判の幕が下りるのなら、何か大切なことをやり残したような空虚さを感じる」というのが、刑事訴訟法学者の大方の見解だと思います。


(3) 東京新聞(9月16日付朝刊31面)

【関連】松本サリン被害河野義行さん手記
唯一の『功』は、被害者支援の立法に道開いたこと
 
 
 一九九四年に起きた松本サリン事件で被害に遭い、当初容疑者扱いされた河野義行さん(56)=長野県松本市=が十五日、この十二年余を振り返る手記を本紙に寄せた。

 麻原被告の死刑が確定したが、私には何の感慨もわかない。私にとって、今回の最高裁決定も事件の通過点にしかすぎない。私にはまだ事件は終わっていない…。だが、不満は残る。

 十年間を超えた裁判は被害者にとっては長い年月であったが、否認事件で、犠牲者二十七人の殺人容疑を含む裁判では、異例の短期間の決定だと思う。控訴審では審理すらされず、被告の謀議や訴訟能力の有無などがどのように立証されたのか、不安を感じる。また、世間では裁判手続きを軽視する傾向もあり、何が何でも死刑になればよいというのであれば、社会はこの事件から何も学ぶことができなくなってしまう。

 私はこれまで、麻原被告に対して憎しみの感情はわかなかった。メディアや社会から「麻原が憎くないのか」と言われ続けたが、私の思いは変わることはなかった。私には、恨みや憎しみの感情によって不幸の上に不幸を重ねたくない、という思いがあるからだ。

 だが、犯罪被害者の立場にあっては、国の支援対策の貧困さに困惑と憤りを覚えた。微力な被害者の存在への支援をマスコミや講演活動を通して訴え続けてきた。

 被害者支援の施策は格段に改善されたが、先進国に比べて三十年遅れているとさえ言われている。二〇〇四年十二月に犯罪被害者等基本法が成立し、国や地方自治体、国民までが被害回復の責務を負った。さらに、犯罪被害者等基本計画により支援は実態に即したものになるであろう。サリン事件の功罪を問うならば、犯罪被害者の実態を世間にさらし、被害者支援の立法化に道を開いたことが、唯一の「功」の部分だと思う。」


河野さんが指摘するように、「世間では裁判手続きを軽視する傾向もあり、何が何でも死刑になればよいというのであれば、社会はこの事件から何も学ぶことができなくなってしまう」と思います。

裁判手続の軽視・無理解は、世間だけではありません。ジャーナリストの江川詔子さんは「今後、新しい事実が発見される可能性はないはず」(毎日新聞9月16日付朝刊30面)と述べていて、原則として新しい事実が予定してない控訴審の構造の理解がないのです。また、作家の佐木隆三さんは「訴訟能力の有無は、約8年の1審を見続けてきた者として問題ないと言える」と述べていて、今争っている訴訟能力の有無は、1審後控訴審時の訴訟能力の有無であって、1審時の訴訟能力を問題にしているわけではないことを理解できていないのです。なぜ、裁判を見続けてきて、裁判手続を学ばないのか不可解です。

何より大切なことは、犯罪被害者支援です。なのに、「被害者支援の施策は格段に改善されたが、先進国に比べて三十年遅れているとさえ言われている」のです。河野さんは「犯罪被害者の立場にあっては、国の支援対策の貧困さに困惑と憤りを覚えた」わけで、色々な対策が講じられてきましたが、さらなる被害者対策を行うべきです。被害者対策が充実すれば、安心して被害者が捜査への協力も可能になりますし、検挙率向上に繋がり、より住みやすい社会になると思われます。




3.東京新聞(平成18年9月16日付朝刊:社説)

カルトは解明できたか 麻原死刑確定
 
 地下鉄サリン事件などで起訴されて十一年。オウム真理教の元代表麻原彰晃被告の死刑が確定した。「カルトの犯罪」の“闇”はあまりに深い。憤りは消えず、虚(むな)しさばかりが残る。

 生い立ちをたどれば、挫折や無念の連続だったろう。オウム事件の核心は、麻原被告の社会に対する恨みや敵意だったのかもしれない。

 生まれながらに、左目がほとんど見えなかった。その障害のため、不本意ながら、盲学校に通わされ、医師になる夢を捨てたとされる。

 「東大へ行く」「政治家になる」と語り、郷里の熊本から上京したが、夢は次々と砕かれ、ついにニセ薬を売って逮捕される。

 そんな運命を恨んだのだろうか。社会を呪(のろ)ったのだろうか。

 松本智津夫という本名を捨て、麻原彰晃という“衣装”をまとうと、夢というより妄想を膨らませ、やがて身勝手な犯罪へと暴走した。

 それが、オウム帝国という疑似国家である。われわれから見れば、現実離れした虚構の帝国であったとしても、麻原被告にとっては、“省庁”をそろえた現実世界だった。その疑似国家が、本物の国家に対し、鋭い牙をむいて挑んだのが、オウム事件ではなかったか。

 地下鉄サリン事件など十三事件で起訴され、死亡者は二十七人にのぼる。世界を驚愕(きょうがく)させた大事件なのに、被告自身が法廷でほとんど何も語らなかったため、真相も真意も推し量ることしかできない。

 教団はバブル景気とともに巨大化し、バブル崩壊とともに加速度的に殺人集団へと化した。サリンやVXガスなどの化学兵器をプラント生産していた事実は、あまりに衝撃的だった。それに比べ、警察当局の出動は遅かった。カルト集団をめぐる教訓をくみ取らねばならない。

 有名大学を出た若者たちが、なぜ麻原被告を「グル」とあがめ、無差別テロに走ったのか。なぜ凶暴な教義の呪縛(じゅばく)から逃れられなかったのか…。裁判の場での解明には至らなかった。疑問の不完全燃焼は残念だ。真相究明こそが、テロ対策の第一歩だからだ。

 オウム対策の「団体規制法」が制定され、教団の活動は公安調査庁の観察下にある。分裂騒ぎの渦中にあるといえども、関係者によれば、今も出家信者は約四百人、在家信者は約千人にのぼるといわれる。

 超能力や神秘体験…。ネットを通じて、より若者はカルトに取り込まれたりする時代である。オウムを生んだ“病巣”は、今も社会のいたるところにある。」


まずもって不満が残るのは、「警察当局の出動は遅かった」ことです。坂本弁護士一家殺害事件においても、オウム真理教の「プルシャ」(バッジ)が落ちていたのに、O氏の自首もあったのに、神奈川県警はきちんと捜査をしていませんでした。「警察が当たり前の捜査をしていれば、松本サリン事件や地下鉄サリン事件など、後のオウム事件は起こらなかっただろう」(安田「『生きる』という権利69頁)とさえいえるのです。

「真相究明こそが、テロ対策の第一歩」であるのに、裁判の場での解明には至らず、疑問の不完全燃焼に終わってしまいました。日本のテロ対策はどうするのでしょうか? 過去に起きたことを教訓として未来に生かすことをなぜしないのでしょうか?

米国では、「二〇〇一年九月十一日の米中枢同時テロで、米議会の調査委員会は三年後に詳細な報告書を提出。「政府がテロの脅威を見逃してきた」と厳しく追及した」のに、「一方、松本サリン事件後に、地下鉄サリン事件を防げなかった責任について、国会でしっかりした議論はなされなかった。」(東京新聞9月16日付朝刊1面)のです。

「刑事裁判による真相解明には限界がある」ことは確かです。しかし、「麻原被告が絶対者になったメカニズムも、検察は十分に立証していない。教祖は裁きの場から退場するが、政府や国会は事件から教訓をくみ取る努力をするべきだ。いまからでも遅くはない。」(東京新聞9月16日付朝刊1面のです。

本来なら、政府や国会に真相究明や事件から教訓を汲み取る努力をすべきですが、どんな事件でも中途半端で終わることばかりです。東京新聞は、努力を促していますが、実際上は、政府や国会は何もしないのでしょう。それが今までの日本の政府や国会ですから。




4.これで麻原彰晃氏の死刑がほぼ確定したわけですが、執行の予定はどうなっているのでしょうか?

◇死刑早期執行、可能性は低く

 死刑執行について刑事訴訟法は、判決確定日から6カ月以内に法相が命令すると定めているが、法的拘束力のない訓示規定とされる。そのうえ、再審手続きが終了したり共同被告人の判決が確定するまでの期間は、6カ月の「期限」が延びるとされ、実際には7、8年後の執行が多い。

 8月末現在の死刑囚は88人。法務省は「原則として確定順に、再審や恩赦を相当とする情状の有無などを慎重に検討し、これらがない場合に初めて執行を命令する」と説明する。松本死刑囚の場合は、弁護側が再審請求する公算が大きく、一部の元幹部らの裁判も続いている。法務省幹部は「元幹部らは松本死刑囚と一緒に審理されていないので厳密には共同被告人ではないが、法の趣旨を考えれば裁判の進行は考慮するだろう」と言う。松本死刑囚の死刑が早期に執行される可能性は低そうだ。

 一連の事件では、高橋克也容疑者(48)らが現在も逃亡中だが「未逮捕の共犯者がいても死刑の執行は適法」という判例がある。」(毎日新聞(9月16日朝刊3面:クローズアップ2006:オウム裁判 松本被告・死刑確定(その1)


執行までにはかなりの時間

 刑事訴訟法の規定では、死刑は確定から六ヶ月以内に執行しなければならないが、麻原被告は共犯者の公判が続いており、執行にはかなりの時間を要するものとみられている。

 麻原被告の共犯として起訴された元幹部のうち、刑が確定していないのは12被告。広瀬健一、井上嘉浩両被告ら10人が最高裁に上告中で、中川智正、遠藤誠一両被告は東京高裁で控訴審が続いている。

 また、刑訴法では死刑囚が心神喪失状態になった場合、法相が執行を停止するとしており、弁護団は確定後も「受刑能力がない」と主張するとみられている。」(東京新聞9月16日付朝刊3面)


<参照条文>
第四百七十五条  死刑の執行は、法務大臣の命令による。
○2  前項の命令は、判決確定の日から六箇月以内にこれをしなければならない。但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であつた者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない。

第四百七十九条  死刑の言渡を受けた者が心神喪失の状態に在るときは、法務大臣の命令によつて執行を停止する。
○2  死刑の言渡を受けた女子が懐胎しているときは、法務大臣の命令によつて執行を停止する。
○3  前二項の規定により死刑の執行を停止した場合には、心神喪失の状態が回復した後又は出産の後に法務大臣の命令がなければ、執行することはできない。
○4  第四百七十五条第二項の規定は、前項の命令についてこれを準用する。この場合において、判決確定の日とあるのは、心神喪失の状態が回復した日又は出産の日と読み替えるものとする。


毎日新聞や東京新聞の記事に出ているように、死刑執行については、刑訴法475条1項2項本文によれば、判決確定日から6ヶ月以内に法相が命令すると定めています。

しかし、これには例外があり、再審手続中であれば、再審によって確定判決も覆る可能性があるので、刑訴法475条2項により、6ヶ月での執行をしないのが通例です。
また、共同被告人に対する審理が再審、非常上告等を通じて間接的に影響を及ぼすこともあり得るので、刑訴法475条2項により、共同被告人の審理中は6ヶ月での執行をしないのが通例です。この本決定の事件では、共同被告人はいませんが、共謀共同正犯として処罰するのですから、実質的な共同被告人がいるので、刑訴法475条2項の趣旨からすれば、やはり6ヶ月での執行はないことになります。

そうなると、少なくとも7年、「10年以上執行されない」こともありうる(朝日新聞9月16日付朝刊2面「法務省幹部のコメント」より)のです。

更に言えば、裁判所がいくら訴訟能力があると認定しても、実際上は、心神喪失状態なのですから、刑訴法479条からすれば、心神喪失状態を回復するまで(今のままではおそらく死亡するまで)執行されないことも十分にあり得るでしょう。そう考えると、治療して回復を待って訴訟手続を行う方が合理的で妥当だったと思うのです。今回の決定は色々な問題点を残したといえると思います。

テーマ:法律全般 - ジャンル:政治・経済

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