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2008/10/22 [Wed] 17:15:09 » E d i t
危険運転致死傷罪のうち、信号無視運転致死傷罪(刑法208条の2第2項後段)の構成要件である「赤信号を『殊更に』無視する」ことの解釈が争われた刑事裁判において、最高裁第1小法廷(甲斐中辰夫裁判長)は10月16日付の決定で、「赤信号だと明確に認識していなくても、信号規制に従うつもりがなく、表示を意に介さずに進行」すればと「およそ赤色信号に従う意思のないもの」に当たるとして、「赤色信号を『殊更に無視し』」に含まれるとの初判断を示しました。

この事案では、赤信号をはっきり認識していなかった場合でも、赤信号を「殊更に無視し」たといえるのか、赤信号であるとの確定的な認識が必要なのか否かが問題となりました。

最高裁は、赤信号であるとの確定的な認識がない場合であっても、赤信号を「殊更に無視し」たといえる場合があると判断したわけです。もちろん、赤信号であるとの確定的な認識がない場合すべて、赤信号を「殊更に無視し」たに当たるとしたわけではありません。
10月23日追記:「殊更に無視し」とは、危険運転致死傷罪の「故意とは異なる主観的要素」であることを追記しました。念のため。)


1.報道記事を幾つか。

(1) 毎日新聞平成20年10月19日付東京朝刊28面

名古屋・危険運転致死:構成要件「赤信号を『殊更に』無視」、「従う意思ない」該当

 ◇最高裁が初判断

 危険運転致死罪の構成要件である「赤信号を『殊更に』無視する」ことの解釈が争われた刑事裁判で、最高裁第1小法廷(甲斐中辰夫裁判長)は16日付の決定で「赤信号をはっきり認識していなくても、信号の規制に従う意思がなければ要件に該当する」との初判断を示した。

 その上で同罪などに問われた無職、平敏浩被告(42)の上告を棄却。懲役10年の1、2審判決が確定する。

 弁護側は「『殊更に』の要件を満たすには、赤信号の明確な認識が必要」と指摘。

 赤かどうかはっきり分からず、「赤でも構わない」と思って交差点に進入した平被告には危険運転致死罪は適用されないとして、業務上過失致死罪の適用を主張した。

 これに対し小法廷は「信号表示を意に介さず、赤でも無視しようとの意思で進行すれば、要件を満たす」と結論づけた。

 1、2審判決によると、平被告は07年2月、無免許運転中に信号無視をパトカーに見つかり、追跡を振り切ろうと信号表示を認識しないまま時速70キロで名古屋市中区の交差点に進入、横断中の女性(当時23歳)をはねて死亡させた。【北村和巳】

毎日新聞 2008年10月19日 東京朝刊」



(2) 共同通信(2008/10/18 21:37)

赤信号ことさら無視で最高裁判断 「明確な認識必要なし」

 「赤信号をことさらに無視」とは、どんな状態か-。危険運転致死罪の条文解釈が争われた男の上告審決定で、最高裁第1小法廷は18日までに「赤信号だと明確に認識していなくても、信号規制に従うつもりがなく、表示を意に介さずに進行すれば該当する」との初判断を示した。

 その上で甲斐中辰夫裁判長は、車で歩行者をはねて死亡させた無職平敏浩被告(42)の上告を棄却した。懲役10年の1、2審判決が確定する。決定は16日付。

 名古屋高裁判決などによると、平被告は昨年2月、名古屋市内で乗用車を運転中に信号を無視し、パトカーに見つかり逃走。その後、交差点の信号表示を認識しないまま、手前で車が止まっているのを見て赤信号だろうと思ったが進入、横断中の女性=当時(23)=をはね、死亡させた。

 「赤信号をことさらに無視し、重大な危険を生じさせる速度で運転、人を死傷させた」という同罪の条文解釈が争点となり、弁護側は「『ことさら』とは、わざわざ、故意に、という意味。赤信号だという明確な認識はなく(法定刑の軽い)業務上過失致死罪の適用が相当」と訴えていた。

2008/10/18 21:37 【共同通信】」




2.この事案で問題となったのは、危険運転致死傷罪(刑法208条の2)であり、そのうち、信号無視運転致死傷罪(刑法208条の2第2項後段)でした。

(1) 最高裁判例について検討する前に、まずは、信号無視運転致死傷罪(刑法208条の2第2項後段)の条文・解釈を示しておきます。

  イ:条文・概要

(危険運転致死傷)第二百八条の二

1 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。
2  人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。」

(*平成13年法律138号により本条は追加され、平成16年法律156号により本条1項の法定刑が引き上げられ、平成19年法律54号により、「四輪以上の自動車」という文言が「自動車」に改められて、「自動車」のなかには「四輪以上の自動車」に加え「二輪又は三輪の自動車」及び「原動機付自転車」も含まれることになった(平成19年5月23日公布6月12日施行)。)


  (イ) この規定に掲げられている危険運転行為は、悪質・危険な自動車(バイクを含む)の運転行為のうち、現在の死傷事犯の実態等に照らし、重大な死傷事犯となる危険性が極めて高いものを類型化したものです。

1項の危険運転行為の類型は、運転者の意思によっては的確に自動車(バイクを含む)の進行を制御することが困難な状態下で走行させる行為であり、その行為の性質上、重大な死傷事故を発生させる危険性の高い行為の類型です。3類型の危険運転行為による致死傷罪を規定していて、酩酊運転致死傷罪・制御困難運転致死傷罪・未熟運転致死傷罪の3つを含んでいます。

2項の危険運転行為の類型は、運転者による自動車の進行の制御自体には支障はないのですが、特定の相手方や特定の場所・状況との関係において重大な死傷事故を発生させる高度の危険性を有する行為の類型です。2類型の危険運転行為による致死傷罪を規定していて、妨害運転致死傷罪・信号無視運転致死傷罪の2つを含んでいます。

これら5つの行為は、同じく危険運転罪ですが別個の犯罪行為ですから、各要件をつなぎ合わせることで犯罪を肯定することは不可能です。

  (ロ) 危険運転致死傷罪は、故意に一定の危険な運転行為を行った結果人を死傷させた者を、その行為の実質的な危険性に照らし、暴行により人を死傷させた者に準じて処罰しようとするものですから、その第1次的な保護法益は、人の生命・身体の安全です。本罪に該当する行為を処罰することにより、交通の安全をも保護することとなるので、第2次には交通の安全についても保護法益としているといえます。

本罪は、人の死傷についての認識・認容は欠いていますが、基本となる運転行為は故意で行う犯罪ですので、故意犯の一類型です。故意の行為をした結果、人を死傷させた罪ですから、結果的加重犯に類する犯罪類型ですが、本罪の定める危険運転行為自体は刑法において処罰していないので、典型的な結果的加重犯ではありません。


  ロ:信号無視運転致死傷罪(刑法208条の2第2項後段)の解釈

「(1) 2項後段の罪は、赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させる罪である。

 「赤信号」とは、公安委員会が設置した信号機の表示する赤色灯火の信号(道路交通法4条、同法施行令2条)を意味する。「これに相当する信号」とは、赤色信号と同様の効力を意味し、具体的には、「警察官の手信号その他の信号」(同法6条1項、同法施行令4条・5条)が挙げられる。

(2) 「殊更に無視」の要件は、法制審議会の部会での審議に際し、「信号に従わず」では広すぎるとの懸念が示されたことから、悪質かつ危険な運転行為に限定するために設けられたものである。

 「赤色信号を殊更に無視する」とは、故意に赤色信号に従わない行為のうち、およそ赤色信号に従う意思のないものをいう。赤色信号であることの確定的な認識があり、停止位置で停止することが十分可能であるにもかかわらず、これを無視して進行する行為や、信号の規制自体を無視し、およそ赤色信号であるか否かについては一切意に介することなく、赤色信号に従わずに進行する行為がこれに当たる。したがって、赤色信号に従わない行為であっても、信号看過の場合、信号の変わり際で、赤色信号であることにつき未必的な認識しか認められない場合などは、これに当たらない。

 (裁判例としては、交差点に進入する際に警笛を鳴らした事案(大阪地判平15・6・19判時1829号159頁)、連続して赤色信号を無視した事案(東京地判平14・11・20判タ1119号273頁)、パトカーに追跡されながら赤色信号を無視した事案(大阪地堺支判平14・7・8判時1790号161頁)、赤色信号に従って停止している他の車両の横を通って交差点に進入した事案(津地判平14・5・8判タ1109号270頁)などがある。)

(3) 「重大な交通の危険を生じさせる速度」とは、赤色信号を無視して進行した場合に、自車が相手方と衝突すれば大きな事故を生じさせると一般的に認められる速度、あるいは、相手方の動作に即応するなどしてそのような大きな事故になることを回避することが困難であると一般的に認められる速度を意味する。本類型にあっては、運転者の進行制御能力に特段の支障がないことから、低速度で進行中の事故など、類型的に重大な死傷事犯となる危険性が高いとは認められない行為を除くために、この速度要件が必要とされたものである。

 本罪は故意犯であるから、重大な交通の危険を生じさせる速度であることの認識が必要であるが、大きな事故になる蓋然性や衝突回避の困難性という評価自体の認識が必要とされるわけではなく、これらを基礎付ける事実の認識があれば足りることは1項の場合と同様である。具体的には、通常、20~30km/hの速度で走行していれば、本速度要件を満たす場合が多いと解されるので、運転者において、他の車両等の走行状況や道路状況に加え、自車を速度約30kmで走行させていたなどの認識があれば足りることが多いであろう。

 (従来の下級審判例を見ても、赤色信号殊更無視の事例群においては、速度55km~100km程度の事案が多く、時速20kmでこれを肯定したもの(東京高判平成16・12・15東高刑時報55巻1~12号113頁。なお、甲府地判平成15・1・10判例集未搭載)は少ない。最決平成18年3月14日(刑集60・3・363)は、交差点で信号待ちをしていた先行車両の後方から、赤信号を殊更に無視し、対向車線に進出し時速約20kmで普通乗用自動車を運転して同交差点に侵入しようとしたため、自車を、右方道路から青信号に従い左折して対向進行してきたトラックに同交差点入口手前において衝突させ、同車運転者らを負傷させたという事案について、危険運転致死傷罪の成立を認めている。)

(4) 本罪が成立するには、危険な運転行為をした結果人の死傷という結果が発生したことが必要である。したがって、自動車の直前への飛び出しによる事故など、結果の発生が運転行為の危険性とは関係のないものについては、因果関係が認められない。

 (死傷結果は、必ずしも危険運転行為から直接生じたものには限られないが、例えば、高速道路で進行を妨害して停車させたところ、第三者の車が衝突し当該運転手が死傷したような場合は含まれない(最決平16・10・19刑集58・7・645)。)

【参考文献】
・井上宏「自動車運転による死傷事犯に対する罰則の整備(刑法の一部改正)等について」ジュリスト1216号(2002年4月10日号)(有斐閣、2002年)36頁以下
・曽根威彦「交通犯罪に関する刑法改正の問題点」ジュリスト1216号(2002年4月10日号)(有斐閣、2002年)46頁以下
・大塚仁ほか編者「大コンメンタール刑法第二版(第10巻)」(青林書院、2006年)500頁以下
・葛原力三「危険運転致傷罪の成否」平成18年度重要判例解説(有斐閣、2007年)165頁以下
・西田典之「刑法各論〔第4版〕」(弘文堂、2007年)46頁以下
・前田雅英「刑法各論講義〔第4版〕」(東京大学出版会、2007年)51頁以下」」

(*基本的には、井上宏「自動車運転による死傷事犯に対する罰則の整備(刑法の一部改正)等について」ジュリスト1216号(有斐閣、平成14年)36頁以下の記述を基にして、改正後の規定に合わせて修正したものである。( )の部分は、判例の状況について追記したもの。)



(2) 最高裁平成20年10月16日決定全文

「事件番号:平成20(あ)1
事件名:道路交通法違反,道路運送車両法違反,自動車損害賠償保障法違反,危険運転致死被告事件
裁判年月日:平成20年10月16日
法廷名:最高裁判所第一小法廷
裁判種別:決定
結果:棄却
判例集巻・号・頁

原審裁判所名:名古屋高等裁判所
原審事件番号:平成19(う)402
原審裁判年月日:平成19年11月19日

判示事項
裁判要旨:平成19年法律第54号による改正前の刑法208条の2第2項後段にいう赤色信号を「殊更に無視し」の意義」



「      主    文

 本件上告を棄却する。

 当審における未決勾留日数中200日を本刑に算入する。

       理    由

 弁護人渡邉靖子の上告趣意は,単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 なお,所論にかんがみ,危険運転致死罪の成否につき,職権により判断する。

 1 原判決及びその是認する第1審判決の認定によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。

 被告人は,普通乗用自動車を運転し,パトカーで警ら中の警察官に赤色信号無視を現認され,追跡されて停止を求められたが,そのまま逃走し,信号機により交通整理の行われている交差点を直進するに当たり,対面信号機が赤色信号を表示していたにもかかわらず,その表示を認識しないまま,同交差点手前で車が止まっているのを見て,赤色信号だろうと思ったものの,パトカーの追跡を振り切るため,同信号機の表示を意に介することなく,時速約70kmで同交差点内に進入し,折から同交差点内を横断中の歩行者をはねて死亡させた。

 2 所論は,平成19年法律第54号による改正前の刑法208条の2第2項後段にいう赤色信号を「殊更に無視し」とは,赤色信号についての確定的な認識がある場合に限られる旨主張する。

 しかしながら,赤色信号を「殊更に無視し」とは,およそ赤色信号に従う意思のないものをいい,赤色信号であることの確定的な認識がない場合であっても,信号の規制自体に従うつもりがないため,その表示を意に介することなく,たとえ赤色信号であったとしてもこれを無視する意思で進行する行為も,これに含まれると解すべきである。これと同旨の見解の下,被告人の上記行為について,赤色信号を殊更に無視したものに当たるとして,危険運転致死罪の成立を認めた原判断は正当である。

 よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 甲斐中辰夫  裁判官 泉徳治  裁判官 涌井紀夫  裁判官 宮川光治)」




(3) 最高裁平成20年10月16日決定の検討

 イ:本決定は、まず、「赤色信号を「殊更に無視し」とは,およそ赤色信号に従う意思のないものをいい」として、「殊更に無視し」の定義を明示しています。

すでに述べたように、井上宏・法務省刑事局の刑事法制企画官による立法当時の解説によれば、「『赤色信号を殊更に無視する』とは、故意に赤色信号に従わない行為のうち、およそ赤色信号に従う意思のないものをいう」と説明されていました。本決定は、この立法当時の解説とほぼそのままの判示を行っているのですから、立法当時の解説を是認したものといえます。


 ロ:次に、本決定は、本事案が赤色信号を確定的に認識していたものではなかったことから、「赤色信号であることの確定的な認識がない場合であっても,信号の規制自体に従うつもりがないため,その表示を意に介することなく,たとえ赤色信号であったとしてもこれを無視する意思で進行する行為も」、「およそ赤色信号に従う意思のないもの」であるとして、「赤色信号を『殊更に無視し』」に含まれるとの判断を示しました。

すでに述べたように、井上宏・法務省刑事局の刑事法制企画官による立法当時の解説によれば、<1>「赤色信号であることの確定的な認識があり、停止位置で停止することが十分可能であるにもかかわらず、これを無視して進行する行為」だけでなく、<2>「信号の規制自体を無視し、およそ赤色信号であるか否かについては一切意に介することなく、赤色信号に従わずに進行する行為」をも、「「赤色信号を『殊更に無視し』」に含まれるとしています。

本決定は、<2>とほぼ同様の判示を行っているのですから、立法当時の解説を是認したものといえます。このように、本判決は、立法当時から予想された事例について、予想していた法解釈論を示したものであって、特に問題がない判例といえます。


  ハ:もっとも、弁護側は「『殊更に』の要件を満たすには、赤信号の明確な認識が必要」と指摘しています。そのように理解できるかのような説明もあるようです。

 「『殊更に無視し』とは、およそ赤色信号に従う意思のない場合をいう。赤色信号であることの確定的な認識があり、十分停車が可能なのにそれを無視して進行する場合や、信号の表示を一切意に介することなく進行する場合をいう。赤色信号であることにつき未必的認識しかない場合や、完全に停止することが困難な地点ではじめてそれに気づいた場合は、これにあたらない。」(山中敬一「刑法各論1」(成文堂、2004年)57頁)


 「『殊更に無視し』とは、およそ赤色信号に従う意思を積極的に欠くことをいい、故意とは異なる主観的要素である。信号の変わり際に無視するような場合は含まない。」(大谷實「刑法講義各論」(成文堂、2007年)42頁)


ただ、いずれも単にこれだけ記述しているだけであって、全体としても立法当時の解説を否定するような記述は一切にありません。ですから、これらの記述は、立法当時の解説で示した見解と異なる見解を主張しているわけではなく、立法当時の解説について理解不足であったか、または、立法当時の解説を不完全な形で引用をしてしまっただけのように思えます。

このように考えると、弁護人側がなぜ最高裁まで争ったか理解に苦しむところですが、最高裁判例が出たことで「殊更に無視し」の意義が明確になった点においては、歓迎したいと思います。


  ニ:本決定は、「これと同旨の見解の下,被告人の上記行為について,赤色信号を殊更に無視したものに当たるとして,危険運転致死罪の成立を認めた原判断は正当である」としています。

  (イ) 本決定の事案は、次のようなものでした。

「被告人は、名古屋市内で普通乗用自動車を運転中、赤信号を無視したところ、パトカーで警ら中の警察官に赤色信号無視したところを直接見つかり、パトカーで追跡されて停止を求められたのにそのまま逃走した。その後、信号機により交通整理の行われている交差点を直進するに当たり、対面信号機が赤色信号を表示していたにもかかわらず、その表示を認識しないまま、同交差点手前で車が止まっているのを見て赤色信号だろうと思ったものの、パトカーの追跡を振り切るため、同信号機の表示を意に介することなく、時速約70kmで同交差点内に進入したため、折から同交差点内を横断中の歩行者(女性・当時23歳)をはねて死亡させた。」



  (ロ) この被告人は、

<a>赤信号を無視したところ、警ら中の警察官に赤色信号無視したところを直接見つかっていて、その後、赤信号を無視して交差点に進入しており、連続して赤信号を無視していること、
<b>赤信号を無視したために、パトカーで追跡されて停止を求められたのにそのまま逃走し、また赤信号を無視していること、
<c>信号機により交通整理の行われている交差点を直進するに当たり、対面信号機が赤色信号を表示していたにもかかわらず、その表示を認識しないまま、同交差点手前で車が止まっているのを見て赤色信号だろうと思ったものの、赤色信号に従って停止している他の車両の横を通って交差点に進入していたこと、


という3点もの行為を行っています。要するに、一度赤信号を無視し、パトカーに追跡されながら停止の要請を無視して逃走しているのですから、この時点で交通規制を無視する態度をとっています。さらに、交差点で停止している車両を見ているのですから、容易に赤信号であると気づくことができたのに、あえて目をつぶって交差点に進入したとさえいえます。ここまでくると、被告人は、赤信号におよそ従う意思がなく、他人の交通の安全を考慮しない態度を表している(曽根威彦「交通犯罪に関する刑法改正の問題点」ジュリスト1216号52頁参照)と判断できます。

このように、およそ赤信号におよそ従う意思がなく、他人の交通の安全を考慮しない態度が明らかである以上、「信号の規制自体を無視し、およそ赤色信号であるか否かについては一切意に介することなく、赤色信号に従わずに進行する行為」に当たるとした判断は、妥当であると考えます。

「殊更に無視し」に当たるとした裁判例としては、<a>連続して赤色信号を無視した事案(東京地判平14・11・20判タ1119号273頁)、<b>パトカーに追跡されながら赤色信号を無視した事案(大阪地堺支判平14・7・8判時1790号161頁)、<c>赤色信号に従って停止している他の車両の横を通って交差点に進入した事案(津地判平14・5・8判タ1109号270頁)があります。本決定の事案は、<a><b><c>の裁判例をすべて合わせたものであって、極めて悪質な事案と判断できます。ですから、本決定が「殊更に無視し」に当たるとした結論は、異論を挟む余地のないほどのものといえます。


  ホ:危険運転致死傷罪における、赤信号を「殊更に無視し」の意義について、従来から異論のないものであったとはいえ、本決定は最高裁として初めて判断を示したものである点で、重要な意義を有するものといえます。



<10月23日追記>

大谷教授が述べているように、「殊更に無視し」とは、危険運転致死傷罪の「故意とは異なる主観的要素」です(大谷實「刑法講義各論」(成文堂、2007年)42頁)。曾根教授も、「『赤色信号……を殊更に無視し』という形で、主観的要素によって構成されている」として同旨の見解を述べています(曽根威彦「交通犯罪に関する刑法改正の問題点」ジュリスト1216号49・52頁)。条文を見れば明らかですから、異論もありません。

もっとも、「危険運転致死罪の故意に関する最高裁の判断」が出たなどと、平気で間違えている弁護士もいるようですが、一般の方はそうした間違いは無視して下さい。念のため注意を促しておくことにします。

テーマ:法律全般 - ジャンル:政治・経済

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