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主に社会問題について法律的に考えてみる。など。
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2008/09/22 [Mon] 05:06:23 » E d i t
2005年9月10日、衆院選で共産党への支持を得ようと、東京都世田谷区の警視庁職員官舎の1階で、集合ポストに共産党機関紙「しんぶん赤旗」の号外を配ったという事案について、国家公務員法(政治的行為の制限)違反罪に問われた元厚生労働省社会統計課課長補佐宇治橋真一被告(60)=定年退職=の判決が9月19日、東京地裁であり、小池勝雅裁判長は求刑通り罰金10万円を言い渡しました。



1.報道記事を幾つか。

(1) 朝日新聞平成20年9月20日付朝刊38面

赤旗配布の厚労省元職員に有罪判決 政治的行為を認定
2008年9月19日15時31分

 05年9月の総選挙の投開票日前日に、東京都内の警視庁職員官舎の集合ポストに共産党機関紙「しんぶん赤旗」の号外を配ったとして、国家公務員法違反(政治的行為の制限)の罪で在宅起訴された、厚生労働省元課長補佐の宇治橋真一被告(60)=3月に定年退職=の公判で、東京地裁(小池勝雅裁判長)は19日、求刑通り罰金10万円とする判決を言い渡した。弁護側は控訴する方針。

 公判では、公務員の政治的活動を禁じ、罰則を設けた法律の規定が、表現の自由を定めた憲法に違反するかなどが争点となった。

 判決は、郵便局職員が60年代に社会党(当時)のポスターを掲示・配布したことが国公法違反に問われた「猿払(さるふつ)事件」で、「合憲」と認めた最高裁判決(74年)の判断を踏襲。「公務員が政治的に中立であることは国民全体の重要な利益だ」とし、「中立性を損なうおそれのある行為を禁止することは、必要やむを得ない範囲で憲法上許される」と認めた。

 宇治橋元課長補佐が機関紙を配布したことは「政治的偏向の強い行為で、強い違法性がある」と指摘。「職務に関係なく休日に配った個人的な行為で、犯罪にはあたらない」とした弁護側の主張を退け、国公法の規定は合憲だと結論づけた。

 宇治橋課長補佐は住居侵入の疑いで現行犯逮捕され、国公法違反で追送検された。だが、検察側は住居侵入罪については「事案が軽微だ」として不起訴処分としていた。

 同様の事例では、赤旗の配った社会保険庁職員が06年6月に東京地裁で罰金10万円執行猶予2年の有罪判決を受け、控訴している。」



(2) 毎日新聞平成20年9月20日付東京朝刊29面

警視庁官舎・赤旗配布:元厚労課長補佐に有罪、罰金10万円--東京地裁判決

 共産党機関紙を配布したとして、国家公務員法(政治的行為の制限)違反に問われた元厚生労働省社会統計課課長補佐、宇治橋真一被告(60)=定年退職=に対し、東京地裁は19日、求刑通り罰金10万円を言い渡した。小池勝雅裁判長は「衆院選前日に相当枚数を配っており、公務員の政治的中立性に抵触する」と述べた。弁護側は20日にも控訴する方針。

 判決によると、宇治橋被告は衆院選前日の05年9月10日、東京都世田谷区の警視庁職員官舎の郵便受け32カ所に「しんぶん赤旗」の号外を投函(とうかん)し、人事院規則が禁止する政治的行為をした。

 弁護側は「休日に職務と関連のない文書を配布しており、公務とは無関係」と訴えたが、小池裁判長は「政党の機関紙配布は法が制限する『政治的行為』の中でも政治的偏向の強い類型に属し、放任すれば行政の中立的運営に対する国民の信頼が損なわれる」と指摘した。

 宇治橋被告は住居侵入容疑で現行犯逮捕されたが、拘置が認められずに釈放されて起訴猶予処分となり、国家公務員法違反で在宅起訴された。【伊藤一郎】

 ◇「事実見てない」「中身薄っぺら」--被告ら会見

 判決後に会見した小林容子・主任弁護人は「大変残念な判決。日本の政治活動の自由が問われた事件だったが、中身の薄っぺらい判決だった」と批判した。

 宇治橋被告は「(判決は)国家公務員が勤務時間外にビラをまくことが公務の遂行に支障を来し、行政に対する国民の信頼を損なうと言っているが、組織の一員として仕事をしてるのに党派的なものが発揮できると裁判長が認識したということは、事実を見てないのか、行政が分かってないと思う」と語った。

 ◇官僚的な判決--奥平康弘・東大名誉教授(憲法)の話

 「最高裁判決があるから」「たかが罰金10万円」という意識がのぞく官僚的な判決だ。近年、非政治的であることをよしとする雰囲気が強まっているが、それ自体が物言わぬ市民を作り出そうとする政治性を含んでいる。判決は、国家公務員の問題にとどまらず、国民全体の自由を制限する方向に利用されかねない。

 ◇法の適用、限定を--土本武司・白鴎大法科大学院長(刑事法)の話

 被告が筆頭課長補佐の地位にあったことに照らせば有罪は妥当だ。ただ、公務員も表現の自由はできる限り保障する必要があり、法の適用にあたっては、直接的、具体的に中立性を損なう行為のみを違法と限定すべきだ。公務員の政治的行為について区別する努力を始めるべきだ。

毎日新聞 2008年9月20日 東京朝刊」




(3) 東京新聞平成20年9月20日付朝刊27面

公務員の赤旗配布 罰金刑 東京地裁『政治的な偏向強い』
2008年9月20日 朝刊

 共産党機関紙の号外を警視庁職員官舎の集合ポストに投函(とうかん)したとして、国家公務員法(政治的行為の制限)違反の罪に問われた元厚生労働省課長補佐宇治橋真一被告(60)=三月末で定年退職=の判決公判で、東京地裁は十九日、求刑通り罰金十万円を言い渡した。

 宇治橋被告は控訴する方針。

 小池勝雅裁判長は、投函したのが二〇〇五年九月の衆院選の投票日前日だったことを挙げ、「特定政党のための直接かつ積極的な支援行為」と認定。「勤務時間外で、職場と離れた場所でのビラ配布であっても、公務員の政治的中立性に強く抵触する政治的偏向の強い行為」と述べた。

 弁護側は「公務員の政治活動を禁じた国家公務員法は『表現の自由』を保障した憲法に違反する」と主張したが、判決は一九七四年の最高裁大法廷判決を踏襲。「公務員が政治的中立性を維持することは国民全体の重要な利益。公務員の政治的行為は一定の制約を受ける」と判断した。

 判決によると、宇治橋被告は〇五年九月十日、衆院選で共産党への支持を得ようと、東京都世田谷区の同官舎の一階で、集合ポストに機関紙「しんぶん赤旗」の号外を配った。

『司法の職責投げ出した』 被告が判決批判

 「最高裁判決のコピー。司法の職責を投げ出している」。有罪判決後、宇治橋真一被告らは東京・霞が関の弁護士会館で記者会見、不当判決と訴えた。

 宇治橋被告は「言論の自由に対する東京地裁の認識の到達点を示した」と皮肉を込め、判決に言及。「高裁や最高裁の裁判官の認識を見届けたい」と、争う姿勢を示した。

 弁護団の小林容子弁護士は「かつて公務員がやっていた仕事を民間人がやる時代になっている。『最高裁判決を尊重するのが基本的立場』ということだけで通過(判断)した」と憤った。」



この事件では、共産党機関紙「赤旗」の号外を集合ポストに投函行為につき、公務員の政治的活動を制限した国家公務員法102条や人事院規則14-7(第6項7号)が、表現の自由を定めた憲法21条に違反するかが争点になりました。

この点、弁護側は「公務員の身分を示さず、休日に配布した。職務との関連性はなく、公務員の政治的中立性を損なうものではないとして、表現活動の妨害」と無罪を主張していました。一方検察側は、「政治的偏向の強い行為で、厚労省の事務処理全体の公正な運営への国民の信頼を著しく害するおそれがあった」と訴えていました。

(政治的行為の制限)
国家公務員法第百二条  
1 職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。
2  職員は、公選による公職の候補者となることができない。
3  職員は、政党その他の政治的団体の役員、政治的顧問、その他これらと同様な役割をもつ構成員となることができない。

(政治的行為の定義)
人事院規則14-7
6  法第百二条第一項の規定する政治的行為とは、次に掲げるものをいう。
 七  政党その他の政治的団体の機関紙たる新聞その他の刊行物を発行し、編集し、配布し又はこれらの行為を援助すること。 」(*人事院規則14-7第6項で列挙している政治的行為は、政治的目的(同規則第5項)が存在する場合に初めて、禁止又は制限される政治的行為となる。)



これらに対し、東京地裁(小池勝雅裁判長)は、すべての公務員の政治活動を一律に全面禁止し、刑事制裁が可能とした現行法制につき、緩やかな審査基準により全面的な合憲判断を行った「猿払事件最高裁判決」(1974(昭和49)年11月6日判決)を踏襲しました。この点につき、東京地裁は、猿払事件判決について「有力な学説からも厳しい批判が加えられている」としながらも、「合理性を欠くとはいえず、同種事案の解決の指針として確立している」とし、「下級裁判所としては同判決を尊重すべき立場」だと述べた、とのことです(2008年9月20日(土)「しんぶん赤旗」)。

そして、東京地裁は、「投函が2005年9月の衆院選投票日前日だったことを挙げ、『特定政党のための直接かつ積極的な支援行為』と認定。「勤務時間外で、職場と離れた場所でのビラ配布であっても、公務員の政治的中立性に強く抵触する政治的偏向の強い行為」と述べた」ほか(東京新聞)、「政党の機関紙配布は法が制限する『政治的行為』の中でも政治的偏向の強い類型に属し、放任すれば行政の中立的運営に対する国民の信頼が損なわれる」(毎日新聞)とも指摘したようです。




2.解説記事と社説を幾つか。

(1) 毎日新聞平成20年9月20日付東京朝刊29面「解説」

◇34年前の判例、またも踏襲

 東京地裁判決は、同様の行為で起訴された社会保険庁職員を有罪(罰金10万円、執行猶予2年)とした06年6月の地裁判決とほぼ同じ考え方を踏襲した。

 しかし、社保庁職員のケースは罰金刑に執行猶予がつき、量刑は今回の方が重い。この日の判決は「管理職に準ずる地位にあった」と指摘し、中枢ポストに近い公務員により厳しい法令順守を求めたと言える。

 両事件で弁護側は「国家公務員の政治活動を制限するのは『表現の自由』を保障した憲法に反する」と主張したが、いずれも合憲とされた。両判決が根拠としたのは、選挙ポスターを掲示板に張ったとして起訴された郵便局員を有罪とした「猿払事件」の最高裁判決(74年)だ。

 ただ、日本が制度設計の参考にした米国では、93年の法改正で勤務時間外、勤務場所外の政治活動が原則自由となった。憲法学者などの批判が強いにもかかわらず、30年以上前の判例がそのまま踏襲される日本とは対照的だ。裁量の小さい非幹部職員の政治活動をどこまで認めるのか、議論を深める時期にきているのではないか。【伊藤一郎】

毎日新聞 2008年9月20日 東京朝刊」



(2) 東京新聞平成20年9月20日付朝刊27面「解説」

最高裁判例ひたすら踏襲

 今回の事件は二〇〇四-〇五年、共産党機関紙などを配布したことで住居侵入容疑などで逮捕者が相次いだケースの一つだ。宇治橋被告も住居侵入の現行犯で逮捕され、国家公務員法違反容疑で追送検、起訴された。

 東京地裁が検察側の拘置請求を認めなかったため、宇治橋被告は在宅で起訴されたが、微罪でも身柄拘束を求める捜査姿勢は、体制に批判的な人を「狙い撃ち」にしたとの疑念がぬぐえない。

 判決は、三十四年前の最高裁大法廷判決を「指針」とした。「全体の奉仕者」である国家公務員の政治的行為に必要最小限の制約が課されるとの判断は、不合理ではない。

 ただ、その大法廷判決で、四人の裁判官が「公務の中立性をどれだけ侵したかで判断すべきだ」と反対意見を述べていたことを忘れてはなるまい。今回の判決は、こうした点について、ほとんど言及していない。

 「大法廷判決を尊重するのは採るべき基本的な立場」と、ひたすら判例を踏襲した今回の判決は、「最高裁判決をのりとはさみでつないだもの」と言われても仕方がない。 (寺岡秀樹)」



(3) 朝日新聞平成20年9月20日付「社説」

政党紙配布―公務員への刑罰どこまで 

 共産党の機関紙を配って逮捕された公務員が、また1人有罪になった。

 今回の事件は3年前の総選挙の投票前日、警視庁官舎で起きた。集合ポストに共産党機関紙の号外を入れた厚生労働省の課長補佐が、住居侵入の現行犯で逮捕された。検察は住居侵入容疑は「軽微」として不起訴にしたが、公務員の政治的活動を制限した国家公務員法に違反するとして起訴した。

 被告側は「公務員の政治的行為を禁じた法律自体が、表現の自由を保障した憲法に違反している」として無罪を主張した。しかし、東京地裁の判決は、求刑通り罰金10万円だった。

 全体の奉仕者である公務員は、民主的に決定された政策を忠実に偏ることなく行わなければならない。公務員の中立性を損なう恐れのある行為を禁じることは、やむを得ない制限だ。それが東京地裁の論理だった。

 公務員に政治的な中立性が必要なのは言うまでもない。一方で、政治活動を含む「表現の自由」は民主主義社会の根幹となるものだ。公務員といえども、可能な限り尊重されねばならない。その二つのバランスをどうとるかが難しく、悩ましいところだ。

 東京地裁は、投票を翌日に控え、公務員が特定政党を直接かつ積極的に支援したことをとらえ、「強い違法性がある」と批判した。この考え方がわからないわけではない。

 だが、被告が配ったのは勤務時間外であり、住人にとがめられなければ、公務員ということも知られることはなかった。そうした行為が行政の中立性を損ない、国民の信頼を揺るがすことになるのだろうか。そう考えると、果たして刑罰を科すほどのことなのか、と疑問がわいてくる。

 そんな思いにとらわれるのも、ひとつには、官僚出身の候補者が選挙で出身官庁の影響力を利用したり、官僚が政治家のパーティーであいさつしたりすることがまかり通ってきたからだろう。こんなことの方が行政の中立性を大きく損なっていないか。

 今回の判決のもとになっているのは34年前の最高裁判決だ。衆院選で郵便局員が社会党候補のポスターを張った。結論は有罪だが、15人の裁判官のうち4人は反対意見だった。学界でもいまも無罪を支持する意見がある。

 その後、捜査当局の摘発はほとんどなかったが、04年、共産党の機関紙を配った社会保険庁職員が逮捕された。この事件も一審は有罪だった。

 心配なのは、裁判所が有罪判決を繰り返すことで、公務員の表現や言論の自由が縮こまらないかということだ。

 公務員の政治的行為をどこまで制限すべきか。刑罰によって一律に禁じることが妥当なのか。これは立法の問題でもある。党派的な利害を超えて、国会でもじっくり議論してはどうか。」





3.これらの解説を踏まえて、今回の東京地裁判決を検討してみたいと思います。

(1) まず、いまだに「猿払事件最高裁判決」を無批判に墨守するような判決を出すのかと、心底うんざりしました。

判例:猿払事件(最大判昭和49・11・6刑集28巻9号393頁)

 北海道宗谷郡猿払村の郵便局員Yが、衆議院議員選挙に際して労働組合の地区協議会の決定に従い、勤務時間外に日本社会党を支持する目的で同党公認候補者の選挙用ポスターを掲示したり、掲示の依頼をして配布した。これらの行為が国家公務員法102条1項が禁止しその具体的内容を定める人事院規則14-7第5項3号・6号13号の「政治的行為」にあたるとして同法110条1項19号の罰則の適用が求められた事件である。簡易裁判所は罰金5000円の略式命令を出したが、被告人は正式裁判を請求し、一審・二審は無罪判決を下したので、検察側が上告した。

 最高裁は、「行政の中立的運営が確保され、これに対する国民の信頼が維持されることは、憲法の要請にかなうものであり、公務員の政治的中立性が維持されることは、国民全体の重要な利益にほかならない」。したがって「公務員の政治的中立性を損うおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところである」として制約目的の正当化論を展開した。

 そして、このような「弊害の発生を防止するため、公務員の政治的中立性を損うおそれがあると認められる政治的行為を禁止することは、禁止目的との間に合理的な関連性がある」し、またそれは「これに内包される意見表明そのものの制約をねらい」とするものではなく、「単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約」にすぎないとした。Yは有罪となった。」(渋谷秀樹・赤坂正浩『憲法1人権(第3版)』(有斐閣アルマ、2007年)298・299頁)(見やすくするため、原文と異なり段落分けをした。)


行政の中立性を確保し、その継続性・安定性を維持するために、公務員の政治活動を制限することは、一般的に許されないわけではありません。しかし、公務員もまた個人として政治活動の自由を享有しており、したがって、規制の当否は、公務員の地位・職務内容、制限される政治活動の内容、公務員に対する制裁の種類等について具体的に検討して決すべきものです。現行法の規制は、一律かつ広汎であり、違憲の疑いが強いというのが学説の多数です(戸波江二「憲法(新版)」169頁など)。

政治活動の自由は、国民主権の基礎を直接形成する基本的人権であって、その制限は、精神的自由に対する制限ですから、この場合には憲法上要請される明確性等必要最低限の基準を充足しなければならないのに、国公法102条はこの点での考慮に欠けています。

特に、猿払事件最高裁判決は、こうした政治的表現の自由の制限が問題になっているにも関わらず、「合理的関連性」の基準、ないし「付随的規制論」という緩やかな審査基準を用いている点など、その判決の論理には問題が多いのです。

しかし、学説の強い批判、ならびに猿払事件判決の論理には問題があると指摘されているのにも関わらず、今回の東京地裁は、「合理性を欠くとはいえず、同種事案の解決の指針として確立している」と述べており、この意味において、極めて妥当性を欠いた判決であったように思います。

 「日本が制度設計の参考にした米国では、93年の法改正で勤務時間外、勤務場所外の政治活動が原則自由となった。憲法学者などの批判が強いにもかかわらず、30年以上前の判例がそのまま踏襲される日本とは対照的だ。裁量の小さい非幹部職員の政治活動をどこまで認めるのか、議論を深める時期にきているのではないか。」(毎日新聞「解説」)


このように参考にした米国では、すでに法改正をしてしまったのですから、東京地裁も「法改正の必要がある」くらいは指摘したとしても、少しもおかしくなったのです。



(2) 東京地裁は、「勤務時間外で、職場と離れた場所でのビラ配布であっても、公務員の政治的中立性に強く抵触する政治的偏向の強い行為」としています。しかし、本当にそうなのだろうかと、疑問に感じます。

 「被告が配ったのは勤務時間外であり、住人にとがめられなければ、公務員ということも知られることはなかった。そうした行為が行政の中立性を損ない、国民の信頼を揺るがすことになるのだろうか。そう考えると、果たして刑罰を科すほどのことなのか、と疑問がわいてくる。
 そんな思いにとらわれるのも、ひとつには、官僚出身の候補者が選挙で出身官庁の影響力を利用したり、官僚が政治家のパーティーであいさつしたりすることがまかり通ってきたからだろう。こんなことの方が行政の中立性を大きく損なっていないか。」(朝日新聞「社説」)


「官僚出身の候補者が選挙で出身官庁の影響力を利用したり、官僚が政治家のパーティーであいさつしたりする」ことは、その官僚がその身分を明示して、その特定の政治家との結びつきが強いことを示しているのですから、公然と行政の中立性を損なっていると判断できるはずです。

官僚がその身分を明確にして、公然と特定の政治家と結び付きを行うことを黙認しておきながら、他方で、勤務時間外に公務員であることを名乗ることなく、政党の機関紙を配ることを違法とするのは、あまりにも不合理です。一体どちらがより強く「行政の中立性を損なう行為」というのでしょうか。



(3) いつもながら思うのは、捜査機関に狙い撃ちされるのは野党、特に共産党です。

 「今回の事件は二〇〇四-〇五年、共産党機関紙などを配布したことで住居侵入容疑などで逮捕者が相次いだケースの一つだ。宇治橋被告も住居侵入の現行犯で逮捕され、国家公務員法違反容疑で追送検、起訴された。
 東京地裁が検察側の拘置請求を認めなかったため、宇治橋被告は在宅で起訴されたが、微罪でも身柄拘束を求める捜査姿勢は、体制に批判的な人を「狙い撃ち」にしたとの疑念がぬぐえない。」(東京新聞「解説」)


主張の当否はともかくとして、国会における政治的な影響力が乏しい共産党を「狙い撃ち」したところで、何になるのだろうと、いつも不思議に思います。公安警察などの職業を存続させるために、共産党を狙い撃ちするのでしょうか。

いまや共産党を取り巻く状況は一変しました。生活に困窮した労働者が増えたという社会状況の下、小林多喜二氏の小説「蟹工船」が売れたことだけが原因というわけではなく、(共産党は)「格差問題に対する取り組みなどが評価され、昨年9月以降の10カ月間で約1万人が新規に入党。次期衆院選をにらんだ幹部の演説会には1カ所平均約1300人が集まる」(毎日新聞平成20年9月1日付)という状況なのです。

共産党への支持が拡大している中での、捜査機関による「共産党狙い撃ち」したイジメ、今回の事件でいえば、こうした事件の起訴さらには有罪判決は、多数の市民を「赤旗」に関心を向けることになりますから、「赤旗」を捜査機関や裁判所が宣伝しているようなものです。捜査機関や裁判所は、馬鹿馬鹿しいとは思わないのでしょうか。

「共産党狙い撃ち」したような不平等捜査・不平等起訴自体が問題があることはもちろんですが、共産党員に対して有罪判決を出して、愚かな市民の喝采を得られるような時代は過ぎたと思うのです。今回の東京地裁判決は、「裁判所が時代錯誤の意識から脱却できないでいる」ことをよく示しているように思います。



(4) 裁判所が、議会制民主主義に不可欠で、国民主権の基礎を直接形成する基本的人権である「政治的表現の自由」を尊重しないのですから、もはや国家公務員法102条、人事院規則14-7を改正するしかありません。

近く実施される衆議院選挙により、政権交代がなされることが極めて現実味を帯びてきました。自民党政権下では、多方面での癒着構造からおよそ法改正されなかった規定も、民主党政権下においては法改正することが可能です。

国家公務員法102条、人事院規則14-7の行方は、なかば「人権保障の砦」を放棄したような裁判所よりも、現在の政治状況からすれば、国会での法改正に期待することにしたいと思います。


テーマ:裁判 - ジャンル:政治・経済

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コメント
この記事へのコメント
承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
2008/09/22 Mon 05:15:47
| #[ 編集 ]
承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
2008/09/25 Thu 16:06:35
| #[ 編集 ]
裁判所は時代錯誤です。
2008/09/25 Thu 16:06:35の承認待ちコメントは、住所氏名を明記していましたので、公開コメントにするのは不適当と考え、「住所氏名」とメールアドレスの部分を除いた部分を、ブログ管理人側がそのまま転記しました。
-------------------------------------

いまや共産党を取り巻く状況は一変しました。生活に困窮した労働者が増えたという社会状況の下、小林多喜二氏の小説「蟹工船」が売れたことだけが原因というわけではなく、(共産党は)「格差問題に対する取り組みなどが評価され、昨年9月以降の10カ月間で約1万人が新規に入党。次期衆院選をにらんだ幹部の演説会には1カ所平均約1300人が集まる」(毎日新聞平成20年9月1日付)という状況なのです。

共産党への支持が拡大している中での、捜査機関による「共産党狙い撃ち」したイジメ、今回の事件でいえば、こうした事件の起訴さらには有罪判決は、多数の市民を「赤旗」に関心を向けることになりますから、「赤旗」を捜査機関や裁判所が宣伝しているようなものです。捜査機関や裁判所は、馬鹿馬鹿しいとは思わないのでしょうか。


春霞 様
仰せの通りです。共感できる箇所を抜き書きさせていただきます。
「共産党狙い撃ち」したような不平等捜査・不平等起訴自体が問題があることはもちろんですが、共産党員に対して有罪判決を出して、愚かな市民の喝采を得られるような時代は過ぎたと思うのです。今回の東京地裁判決は、「裁判所が時代錯誤の意識から脱却できないでいる」ことをよく示しているように思います。
 宇治橋氏は控訴されています。 
 裁判所は先例踏襲主義で、時代錯誤であり、控訴審で宇治橋氏ののご検討を祈ります。

2008/09/25 Thu 21:38:43
URL | Yasunao Kondo #FqTu9.sQ[ 編集 ]
>Yasunao Kondoさん:2008/09/25 Thu 21:38:43
コメントありがとうございます。


>裁判所は先例踏襲主義で、時代錯誤であり、控訴審で宇治橋氏ののご検討を祈ります

同感です。
公務員の政治活動については、色々あるとは思いますが、少なくともこの事案のように、勤務時間外に、公務員と名乗ることなく、単に集合ポストに投函する場合には、公務の色彩は皆無ですから、郵便配達やポスティング会社による投函と殆ど変わりません。もはや、こうした行為を処罰するのは、止めるべきですね。
2008/09/27 Sat 07:14:17
URL | 春霞 #5oClkA7g[ 編集 ]
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