その橋下徹知事は9月6日、国際児童文学館(吹田市)について、報道陣に対し、「8月に館内をビデオで隠し撮りした。(利用者を増やす)努力をした形跡がない。議会に証拠に持っていきたい」と述べ、私設秘書を使って利用実態を秘密裏に撮影(=いわゆる「盗撮」)していたことを明らかにしました。橋下知事は、こうした秘密撮影(=「盗撮」)について何ら違法性がないとの認識のようです。
1.報道記事を幾つか。
(1) 朝日新聞平成20年9月7日付朝刊(日曜)33面
「橋下知事、職員の仕事ぶり「隠し撮り」 国際児童文学館
2008年9月6日19時44分
大阪府の橋下徹知事は6日、府が財団法人に運営させている国際児童文学館(吹田市)で、職員の働きぶりや展示の工夫などをチェックするためにビデオの隠し撮りをしていたことを報道陣に明らかにした。府の財政再建案には文学館の廃止が盛り込まれており、知事は「あれだけ(存廃を)大議論したのに努力の形跡が何も見られない。府議会が求めればビデオを見せたい」と語った。
知事によると、私設秘書にビデオカメラを持たせて8月中の2日間、存廃の論議が進む複数の公の施設を「覆面リサーチ」したという。文学館以外にどこを調査したのかは明かさなかった。
文学館のビデオを見た感想として、「マンガばかりが並んでいるから『マンガ図書館』に名前を変えるべきだ」「職員にやる気がない」と厳しく批判した。
財政再建案では、09年度中に文学館を府立中央図書館(東大阪市)へ移転させ、財団法人の存廃についても結論を出す。知事はこの日に視察した中央図書館については「レイアウトなどを大変工夫している。やっぱり人が集まる施設でないと努力しない」と語り、文学館移転のメリットを改めて強調した。」
(2) 毎日新聞平成20年9月7日付東京朝刊27面
「橋下大阪知事:廃止方針の児童文学館の仕事ぶりを隠し撮り
大阪府の橋下徹知事は6日、廃止方針を打ち出している府立国際児童文学館(吹田市)の館内の様子を調べるため、職員に内緒で2日間にわたってビデオ撮影したことを明らかにした。橋下知事は「なんの努力の形跡もうかがわれない」と映像を見た感想を述べた。「隠し撮り」について「民間だったら当たり前のリサーチ」と話したが、その手法は議論を呼びそうだ。
橋下知事の私設秘書が8月、撮影した。知事は「(来館者を増やす)取り組みは一切感じられなかった」と酷評。子どもたちが漫画ばかり読んでいたとして、「実際は漫画図書館」と不満を表した。映像は府議会などでの公表を検討する。
文学館の北田彰常務理事は「びっくりした。府民サービスを心がけて、いつ誰が来てもきちんと対応している」と困惑気味に話した。6月から書庫などの見学ツアーを始め、50回で延べ約500人が参加したといい「7月の来館者は昨年の4割増、8月は5割増になった」と反論。さらに「『漫画ばかり』と言われるが、70万点の資料のうち14%に過ぎない」と話した。
府は財政再建案で、文学館を来年度中に廃止し、機能を中央図書館(東大阪市)に移す方針を示している。橋下知事は「行政は予算を付けても、執行の管理ができていない。本当にやっているのかチェックするのが僕のやり方」と話し、廃止を検討する他の施設についても府職員らに「隠し撮り」させる方針を示した。【長谷川豊、田中博子】
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毎日新聞 2008年9月6日 21時24分(最終更新 9月7日 0時15分)」
(3) 東京新聞平成20年9月7日付朝刊27面
「職員を隠し撮りチェック 橋下知事
2008年9月7日 朝刊
大阪府の橋下徹知事が、財政再建のため廃止の方針を打ち出した国際児童文学館(同府吹田市)で、職員の様子をビデオカメラで隠し撮りさせていたことが6日、分かった。職員の仕事ぶりをチェックするためとしているが、調査方法が妥当かどうか議論を呼びそうだ。
橋下知事は記者団に「民間だったら当たり前で、本当にやっているかをチェックするまでが僕の仕事のやり方」と説明。映像を見た感想を「あれだけ騒がれている中で、(利用者を増やす)何の努力の形跡もうかがわれない状況だった」と述べた。
知事によると、八月に私設秘書が児童文学館を訪れ撮影。同様に存続が取りざたされている府立施設についても部局に「覆面リサーチ」を指示したという。
橋下知事は「文学館は『漫画図書館』。あれだけの(来場)人数で、果たしてそこに税金をかけて維持する必要があるのか」と疑問を示し、この日視察した中央図書館(東大阪市)の来場者の多さを引き合いに出して努力不足を強調した。
ただ、児童文学館は児童書の収集と研究が目的の施設で、一般客の利用は限られている。」
(1) 大阪府の橋下徹知事によると、私設秘書にビデオカメラを持たせて8月中の2日間、存廃の論議が進む複数の公の施設を、職員に秘密でビデオ撮影させたことを明らかにしました。そうした「隠し撮り」について「民間だったら当たり前のリサーチ」と話しています。
私設秘書は、橋下知事の指示を受けて秘密裏にビデオ撮影を行ったのですから、「橋下知事の道具」であって、この行為は橋下知事の行為とみなすことができます。また、橋下知事は、「子どもたちが漫画ばかり読んでいたとして、『実際は漫画図書館』と不満を表した」とのことですから、職員のみならず、館内にいる子供たちも撮影したと推測できます。
イ:しかし、憲法の知識に欠ける橋下知事は、憲法13条で保障されている「プライバシー権」さえも、理解していないのでしょうか?
「プライバシーの権利
▼プライバシーの権利とは何か はじめは、プライバシーの権利は、「ひとりにしてもらう権利」と定義され、相手に対して自分の私生活のなかに不当に介入や侵入を行わないように求める権利と考えられていました。とりわけ、表現自由との関係が問題になります(……)。
最近では、高度情報化社会のなかで、自らの情報が自分の知らないところですでに他人(具体的には、行政や企業)に渡ってしまい、平穏な生活が侵される危機にあるので、そのような情報をコントロールする(閲覧し、訂正し、削除を求める)権利をも含んだものとして、プライバシーの権利を考えるようになってきました。
▼何を守るのか 人は、社会のなかでいろいろな顔をもって生きています。家族に対する場合、友人に対する場合、仕事上のつきあいの場合、なんの関係もない人との場合などなど。そして、それらの関係に応じて、秘密領域の範囲も異なります。したがって秘密をあばくということは、本人が築いてきた社会関係を破壊するということになり、これがプライバシーという権利が守ろうとしているものです。」(27頁以下)
書籍の内容は、例えば教科書はもちろんのこと、人の人生や生活に大きな影響を与えるものです。そして、捜査機関が容疑者所有の書籍を押収することもあることからも分かるように、いままでどんな本を読んできたのか、現在何を読んでいるのかなどは、その人の「私生活」の一端を明らかにしてしまうことになってしまいます。もちろん、子供であっても成人であってもプライバシーを保護すべきことに、異論はありません。
(また、この秘密撮影自体がプライバシー侵害であると同時に、行政手続きの適正に反するものですから、そうした秘密撮影した映像を視聴し利用することも不当です。大阪府個人情報保護条例7条は、「実施機関は、個人情報を収集するときは、あらかじめ個人情報を取り扱う目的を具体的に明らかにし、
当該目的の達成のために必要な範囲内で収集しなければならない」としてるため、来館者の撮影は7条に違反する可能性がある。)
ロ:問題なのは、橋下知事の行為は「図書館の自由」に違反することです。
日本図書館協会は、「図書館の自由に関する宣言」(日本図書館協会のホームページより)を掲げています。
「図書館の自由に関する宣言
日 本 図 書 館 協 会
1 9 5 4 採 択
1 9 7 9 改 訂
図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする。
1.日本国憲法は主権が国民に存するとの原理にもとづいており、この国民主権の原理を維持し発展させるためには、国民ひとりひとりが思想・意見を自由に発表し交換すること、すなわち表現の自由の保障が不可欠である
知る自由は、表現の送り手に対して保障されるべき自由と表裏一体をなすものであり、知る自由の保障があってこそ表現の自由は成立する。
知る自由は、また、思想・良心の自由をはじめとして、いっさいの基本的人権と密接にかかわり、それらの保障を実現するための基礎的な要件である。それは、憲法が示すように、国民の不断の努力によって保持されなければならない。
2.すべての国民は、いつでもその必要とする資料を入手し利用する権利を有する。この権利を社会的に保障することは、すなわち知る自由を保障することである。図書館は、まさにこのことに責任を負う機関である。
3.図書館は、権力の介入または社会的圧力に左右されることなく、自らの責任にもとづき、図書館間の相互協力をふくむ図書館の総力をあげて、収集した資料と整備された施設を国民の利用に供するものである。
4.わが国においては、図書館が国民の知る自由を保障するのではなく、国民に対する「思想善導」の機関として、国民の知る自由を妨げる役割さえ果たした歴史的事実があることを忘れてはならない。図書館は、この反省の上に、国民の知る自由を守り、ひろげていく責任を果たすことが必要である。
5.すべての国民は、図書館利用に公平な権利をもっており、人種、信条、性別、年齢やそのおかれている条件等によっていかなる差別もあってはならない。
外国人も、その権利は保障される。
6.ここに掲げる「図書館の自由」に関する原則は、国民の知る自由を保障するためであって、すべての図書館に基本的に妥当するものである。」
憲法21条で保障する知る権利に基づく、このような「任務」を果たすため、「図書館は次のことを確認し実践する」として、次のような項目を挙げています。
「第3 図書館は利用者の秘密を守る
1.読者が何を読むかはその人のプライバシーに属することであり、図書館は、利用者の読書事実を外部に漏らさない。ただし、憲法第35条にもとづく令状を確認した場合は例外とする。
2.図書館は、読書記録以外の図書館の利用事実に関しても、利用者のプライバシーを侵さない。
3.利用者の読書事実、利用事実は、図書館が業務上知り得た秘密であって、図書館活動に従事するすべての人びとは、この秘密を守らなければならない。」
要するに、図書館は、「図書館の自由」のつとして「図書館は利用者の秘密を守る」とする原則を掲げ、「読者が何を読むかはその人のプライバシーに属することであり、図書館は、利用者の読書事実を外部に漏らさない」と、利用者保護を謳っているのです。利用者を保護するのが図書館の重要な役割の1つとさえ、いえるわけです。
それなのに、橋下知事が、子どもたちが漫画ばかり読んでいたとして、『実際は漫画図書館』と不満を表した」として、秘密裏に子供たちが何を読んでいるのかについて、秘密裏にビデオ撮影を行い、勝手に暴露したのです。このような行為は「図書館は利用者の秘密を守る」とした原則に違反するものであって、許されません。
気になるのは、橋下知事は、「文学館は『漫画図書館』」と述べており、漫画軽視の考えが伺えることです。日本において、子供のみならず成人であっても漫画を読むことは通常のことであり、子供が漫画を読んでいたら「漫画図書館」だというレッテルをはること自体、日本文化に無知であって、日本の現状認識に無知な発言であって、単に難癖をつけているだけのように思えます。(なお、「盗撮」時期は8月でしたが、その期間は、「手塚治虫と幼年漫画の歴史」展(2008年8月1日〜10月30日)が実施されていました。ですから、子供が特に漫画を読んでいたとしても、少しも特異なことではありません。この点でも、難癖をつけただけのようです。)
ハ:このように、橋下知事の行為は、憲法13条のプライバシー権及び図書館の自由を侵害し、違法行為(民法709条)であって許されないものというべきです。(そもそも、いかに正当目的があろうとも、児童保護の観点から、児童を盗撮する行為自体が問題であるように思います。)
(2) 橋下知事は「文学館は『漫画図書館』。あれだけの(来場)人数で、果たしてそこに税金をかけて維持する必要があるのか」と疑問を示し、視察した中央図書館(東大阪市)の来場者の多さを引き合いに出して努力不足を強調するなどして、秘密撮影の正当性を主張しています。
イ:しかし、文学館を設立した財団法人は、児童文学等児童文学に関する図書その他の資料の収集・保存・活用及び研究ならびに国際交流に係る諸事業を行うことにより、大阪の児童文化の振興に資し、もって児童の健全育成に寄与することを、設置目的としています。このことから分かるように、要するに、一般の図書館と異なり、「児童文学館は児童書の収集と研究が目的の施設」(東京新聞)という、資料と専門家がそろった研究機関・専門図書館であって、一般客の利用は限られているのです。
それなのに、橋下知事は、来館者を増やす努力が足りないなどと述べているのですから、児童文学館の設置目的も何も知らずに批判をしているのです。橋下知事の批判は、まったくの的外れであって妥当ではないのです。
ロ:橋下知事は、来館者を増やす努力をしていないとの見解を示していますが、現実とは異なります。
「文学館の北田彰常務理事は「びっくりした。府民サービスを心がけて、いつ誰が来てもきちんと対応している」と困惑気味に話した。6月から書庫などの見学ツアーを始め、50回で延べ約500人が参加したといい「7月の来館者は昨年の4割増、8月は5割増になった」と反論。さらに「『漫画ばかり』と言われるが、70万点の資料のうち14%に過ぎない」と話した。」(毎日新聞)
橋下知事は、違法に収集した「秘密撮影」のみを信用して、客観的に明らかになっている努力を無視していることも、行政手続の適正(憲法31条)の観点からして問題です。
ハ:このようなことから、橋下知事は、来館者を増やす努力が足りないなどして、秘密撮影の正当性を主張していますが、その主張には何ら根拠がないというべきです。橋下知事は、「存廃問題が議論になる9月議会で廃止の妥当性を示す『証拠』にしたい考え」(読売新聞)のようですが、違法に収集した「証拠」は、憲法35条により「証拠」とならない(「違法収集証拠排除の原則」といいます)のが基本です(最高裁平成11年12月16日決定刑集53巻9号1327頁参照)。「証拠」とすることは困難でしょう。
(3) 橋下知事は、文学館のビデオを見た感想として、「マンガばかりが並んでいるから『マンガ図書館』に名前を変えるべきだ」と述べて、文学館の収蔵の仕方を批判し、文学館廃止の意図を正当付けています。
しかし、これも「図書館の自由」に違反します。
「第1 図書館は資料収集の自由を有する
1.図書館は、国民の知る自由を保障する機関として、国民のあらゆる資料要求にこたえなければならない。
2.図書館は、自らの責任において作成した収集方針にもとづき資料の選択および収集を行う。その際、
(1) 多様な、対立する意見のある問題については、それぞれの観点に立つ資料を幅広く収集する。
(2) 著者の思想的、宗教的、党派的立場にとらわれて、その著作を排除することはしない。
(3) 図書館員の個人的な関心や好みによって選択をしない。
(4) 個人・組織・団体からの圧力や干渉によって収集の自由を放棄したり、紛糾をおそれて自己規制したりはしない。
(5) 寄贈資料の受入にあたっても同様である。図書館の収集した資料がどのような思想や主張をもっていようとも、それを図書館および図書館員が支持することを意味するものではない。
3.図書館は、成文化された収集方針を公開して、広く社会からの批判と協力を得るようにつとめる。」
図書館は、「自らの責任において作成した収集方針にもとづき資料の選択および収集を行う」自由を有しているのですから、その自由を尊重しなければなりませんが、橋下知事はまるでその自由を知らないようです。
元々、文学館の北田彰常務理事によれば、「70万点の資料のうち、漫画は14%に過ぎない」のですから、漫画ばかりという点自体が客観的事実に反した批判なのです。
もちろん、「図書館は、成文化された収集方針を公開して、広く社会からの批判と協力を得るようにつとめる」のですから、いささかの批判も許されないわけではありません。しかし、批判するのであれば、「成文化された収集方針」を熟知した上でその方針の妥当性を批判するべきであり、また、橋下知事は、客観的事実に反して、「マンガばかり」と非難しているのですから、的外れな批判であるのです。
(4) 橋下知事は、「隠し撮り」について「民間だったら当たり前のリサーチ」と話しています。しかし、「労働者の個人情報保護に関する行動指針」からすれば、「隠し撮り」は「民間だったら当たり前」とはいえません。
「第2 個人情報の処理に関する原則
6. 特定の収集方法
(4) 使用者は、職場において、労働者に関しビデオカメラ、コンピュータ等によりモニタリング(以下「ビデオ等によるモニタリング」という。)を行う場合には、労働者に対し、実施理由、実施時間帯、収集される情報内容等を事前に通知するとともに、個人情報の保護に関する権利を侵害しないよう配慮するものとする。ただし、次に掲げる場合にはこの限りでない。
(イ) 法令に定めがある場合
(ロ) 犯罪その他の重要な不正行為があるとするに足りる相当の理由があると認められる場合
(5) 職場において、労働者に対して常時ビデオ等によるモニタリングを行うことは、労働者の健康及び安全の確保又は業務上の財産の保全に必要な場合に限り認められるものとする。
(6) 使用者は、原則として、個人情報のコンピュータ等による自動処理又はビデオ等によるモニタリングの結果のみに基づいて労働者に対する評価又は雇用上の決定を行ってはならない。」
「労働者の個人情報保護に関する行動指針」では、「職場において、労働者に関しビデオカメラ、コンピュータ等によりモニタリング(以下「ビデオ等によるモニタリング」という。)を行う場合」には、労働者に対し、実施理由などを「事前に通知」しなければならないのですから、秘密裏に撮影すること=「隠し撮り」は許さないことになります。
しかも、橋下知事の場合は、この隠し撮りビデオを使って児童文学館の職員を非難する資料としているのですから、それは「原則として、個人情報のコンピュータ等による自動処理又はビデオ等によるモニタリングの結果のみに基づいて労働者に対する評価又は雇用上の決定を行ってはならない」という点に抵触します。
橋下知事は、「労働者の個人情報保護に関する行動指針」を知らずに、勝手な思い込みで「隠し撮り」は「民間だったら当たり前のリサーチ」だと述べているにすぎないというべきです。
3.こうした検討をみると分かりますが、橋下知事は、およそ図書館の役割とは何かについて、まるで無知なのです。
(1) 図書館の役割については、元鳥取県知事の片山 善博・慶應義塾大学大学院教授(地方自治論)が執筆した「知的立国の基盤としての図書館とその可能性」(特集「図書館新時代──知のインフラの活用法と可能性を探る」月刊言語2008年9月号28頁以下)から、一部引用しておきます。
「一 知的立国とは
知的立国とは、これからわが国がめざすべきだと筆者が考えている国是ないし国柄である。それは、軍事大国や金満国家や土建国家ではなく、知識や知恵や知的財産に基づいて国民を豊かにし、同時に世界に貢献できる国家のことをいう。(中略)
知的立国の形成に必要な以上の要素を満たす上で最も重要な条件は、これらを担うに足る人材の養成である。人材の養成といっても、単に少数のエリートを輩出すればいいということではない。もちろん、秀でた科学技術者や優れた芸術家、さらには志を持った高潔の政治家の存在は欠かせない。しかし、こうした有為の人材を生みだし、かつ、彼らを支えるのは国民をおいてほかにない。多くの国民が科学技術の重要性を理解し、あるいは日常生活において文化や芸術に親しむ環境の中から、技術者や芸術家は生まれるからだ。
さらには、人が自分の頭のサイズに合わせた帽子をかぶるように、一国の政治家もその国民のレベルに見合ったものでしかないといわれる。そこで、清潔で透明な政治を実現しようと思えば、それを単に政治家にのみ求めるものではなく、その政治家を選ぶ国民自身の政治意識も高くなければならない。
二 知的立国を支える国民、それを育てる図書館
では、こうした国民を形成するには何が必要か。その1つが教育である。所得の如何にかかわらず質の高い教育を十分に受けることができる。知的立国をめざすわが国において、このことほど大切なことはない。国・地方を通じた厳しい財政事情の中で、ともすれば教育にもしわ寄せが及びかねない昨今だが、教育への投資は決して惜しむべきではない。
知的立国を形成する上で、教育と並んで重要なのが図書館である。人は生涯に渡って成長を続ける存在だ。常に自己の持っている資質や能力に磨きをかけ、そこからあらゆる力を引き出し、それによって自己実現を果たし、同時に他者や社会に貢献する。人のこの自立の過程を、学校教育と並んでサポートする知的拠点が図書館にほかならならい。(中略)
学ぶ必要があるのは仕事上のことだけではない。家庭を築き子供を持つと、子育てや子供の教育に取り組まなければならない。また、それぞれ一人の市民として、政治に関心を持ち、自治体行政へ参画することも不可欠だ。それは民主主義を実践する作業でもある。
では、これら社会人として必要な知識や情報はどうやって身につければいいのだろうか。もちろん学校教育においてかなりのことを学ぶが、それだけで必要にして十分なものが得られるわけではない。しかも、学問や知識は日進月歩であり、学校教育を通じて学んだことだけを後生大事にしていると、やがて時代遅れの人間になってしまうだろう。
このように、職場においては重要な仕事を任され、家庭では子育てに勤しみ、同時に一人の市民として社会や自治体を支えなければならない時期にあってこそ、常に学び、自らを高め、そしてその成果を日々の実践や行動に活かさねばならないはずだ。この学びこそが、実は本来の生涯学習である。図書館が生涯学習の拠点であると言った場合、この観点を避けて通ることは許されないだろう。(中略)
三 図書館と民主主義
知的立国をめざす上で、図書館の持っている力は実に大きく、これまで以上の役割と働きが期待されている。しかし、昨今の図書館をめぐる環境を見ると、むしろむしろそれとは反対に、その機能の縮小や外部化による大幅な予算の削減が行われつつあるようだ。
これは、これまでの図書館のイメージとも大いに関係がある。従来型の「生涯学習の拠点」だと、趣味で読む本ぐらい自前で買うべきだという主張が出てきて、それが図書館予算を縮小する論拠にもなっている。
しかし、図書館が知的立国を支える基盤だということになると、話は俄然違ってくる。いささかオーバーな表現をすれば、図書館の盛衰がわが国の将来を左右しかねないということになるからだ。その認識を持つに至れば、自治体の首長や議員はもっと図書館に目を向けるようになるはずだ。
もちろん、いまだそんな認識を持つ首長や議員は多くないのが現状だろう。しかし、そんな彼らを選んでいるのは市民自身なのだから、残念ながら市民自身が政治や地方自治の重要性を認識していないということにほかならない。その市民の自治や民主主義に対するリテラシーを高めるのも実は図書館の役割だということを敢えて指摘して本稿を閉じることとしたい。」
(2) 「図書館の自由に関する宣言」の中にも、次のような文章が含まれています。
「図書館の自由の状況は、一国の民主主義の進展をはかる重要な指標である」
図書館及び「図書館の自由」に関する原則は、国民の知る自由を保障するために存在するのであって、「民主主義に対するリテラシーを高めるのも図書館の役割」です。こうした図書館の役割からすれば、図書館の自由をこともなげに踏みにじってしまうことを認めてしまうようでは、わが国の民主主義のレベルはあまりにも低いものといわざるを得ません。
国際児童文学館を廃止するか否かは、我々がどれほど民主主義を理解し、民主主義を尊重しているのかどうかが問われている問題なのです。
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この事件に関する法律的な問題点が参考になったとのこと、良かったと思います。このエントリーでも触れたように橋下知事が述べていることは、法律的には間違っています。リンク先を見るとわかりますが、これが最初というわけではなく、何度も憲法の知識を欠くような言動を行っているのです。
問題なのは、こういう人物を市民が知事として選んだということです。市民自身が民主主義に対するリテラシーを高めなくてはならない、と切に思います。
エントリーで触れたように、くしくも、「民主主義に対するリテラシーを高めるのも実は図書館の役割」です。文学館廃止をもくろんでいる橋下知事の言動は、市民が民主主義に対するリテラシーを高めることを警戒している、言い換えれば、「大阪府民はいつまでも馬鹿なままでいてほしい」と願っているかのようです。
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