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2008/08/20 [Wed] 00:53:31 » E d i t
日本人男性の依頼でインド人女性が代理出産して生まれた女児が、国籍などが不明なためインドを出国できない問題で、保岡興治法相は8月15日の閣議後の記者会見で、女児がインド旅券を獲得して日本のビザ(査証)を申請すれば「認める方向で対応したい」と述べています。


1.報道記事を幾つか。

(1) 読売新聞平成20年8月15日付夕刊20面

代理出産無国籍児 日本入国を容認へ

 日本人の男性の依頼でインド人女性が代理出産した女児が無国籍になっている問題で、保岡法相は、15日の閣議後会見で、女児側が現地の日本大使館に日本への入国に必要な査証(ビザ)の申請をした場合には、入国を認める方向で検討していることを明らかにした。

 女児は先月25日、インドで生まれたが、出生証明書には母親名が記されておらず、インドの国籍やパスポートがとれない状況になっている。

 無国籍の女児がインドを出国し、日本に入国するには、インド政府の渡航証明書に加え、日本の入国ビザが必要とされる。

(2008年8月15日 読売新聞)」



(2) 日経新聞平成20年8月15日付夕刊16面

法相、ビザ認める方向 インドの代理出産児  「子どもの将来配慮」

 インド人女性に代理出産を依頼した日本人夫婦が子供の誕生前に離婚し、生まれた女児の国籍などが不明なため出国できずにいる問題で、保岡興治法相は15日の閣議後の記者会見で、女児がインド旅券を獲得して日本のビザ(査証)を申請すれば「認める方向で対応したい」と述べた。

 法相は「代理出産そのものがいいかどうかは、しかるべきところで検討されることだ」としたうえで、「子供の将来にきちっとした配慮をしていくという姿勢で法の在り方についてよく検討したい」と語った。」



 
(3) 保岡興治法相は、女児側が現地の日本大使館に日本への入国に必要な査証(ビザ)の申請をした場合には、査証(ビザ)を発行し、入国を認める方向で検討しているとのことです。

「無国籍の女児がインドを出国し、日本に入国するには、インド政府の渡航証明書に加え、日本の入国ビザが必要とされる。」(読売新聞)


  イ:「渡航証明書」とは、旅券(パスポート)に代わる証明書のことで、無国籍者や未承認国(北朝鮮など)の人に、領事官などが出入国のために発給するものです。

保岡興治法相の発言からすれば、女児が無国籍であるために、インド政府発行の旅券がなくても、インド政府の渡航証明書さえあれば、査証(ビザ)を発行するのですから、女児の日本への入国の点は問題なくなりました。こうなると、インド政府が渡航証明書を発行すれば出国でき、日本への入国もできるようになるわけです。


  ロ:日本の法務省としては、女児の保護を図るためにともかく査証(ビザ)を発行して日本への入国を認めようという意図だと推測できます。元々、女児自体には何ら問題はなく、女児に対して査証(ビザ)を発行しない理由もないわけですから。

また、法務省側とすれば、日本国籍の取得については、日本人男性医師が認知届をだすか、養子縁組の方法になるのか、色々な方法があるとは思いますが、それも日本に入国させてから決定すればよい、という意図であると思われます。

日本国籍取得の有無、親子関係や養育監護を行う者は誰かなど、これらは子供の将来に深く関わることです。ですから、法相は、こうした点について、「子供の将来にきちっとした配慮をしていくという姿勢」で対応していくと述べているのです。もちろん、国側が一方的に親子関係や養育監護者を決定できるわけではないので、日本人男性医師と協議していくことになるとは思います。


  ハ:日本人父と外国人母から生まれた婚外子が出生後に認知しか受けていない場合にも、日本国籍の取得を認めたのが、最高裁平成20年6月4日大法廷判決です(「婚外子国籍確認訴訟(1):最高裁平成20年6月4日大法廷判決は、両親の結婚を国籍取得の要件とした国籍法3条1項を違憲と初判断」(2008/06/07 [Sat] 05:36:09))。ですから、日本人男性が認知届を出せば、本来、女児に日本国籍を認める対応も可能だとは思いますし、それが筋でしょう。

しかし、法務省側としては、代理出産という形態での親子関係は、日本では問題となった事例がほとんどないので、即断できないということで、保留のまま(=日本政府はパスポートを発行しない)で、事態の解決を行うつもりのようです。女児の入国が最優先なのであって、国籍は二の次であるのですから、こうした曖昧な対応であっても、ともかく事実上、女児の養育監護が可能になる以上、許容できるものだと考えます。

もちろん、インド政府が女児にインド国籍を付与することもあるでしょうが、そうであればインドと日本の二重国籍となる可能性が出てくるというだけのことです。


  ニ:なお、国籍立法は、各国の主権に基づく国内的管轄事項です。ですので、各国は、国家形成の歴史的背景を中心としつつ、人口政策、移民政策、同化政策などの観点から、それぞれの国籍法を制定しており、ある者が特定国の国籍を有するか否かは、もっぱらそれによって判断されることになります。しかし国籍立法にあたって考慮されるべき理想として、幾つかの原則があり、その1つに「国籍唯一の原則」というものがあります。

国籍唯一の原則

 各国の国籍法の内容が不統一であると、二重国籍者や無国籍者が生じることになる。そしてこのような事態は望ましくないものと考えられてきた。そこで、すべての個人が必ず1個の国籍を有し、かつ2個以上の国籍を有しないことという原則、すなわち国籍唯一の原則が国籍立法の理想として主張されている。1930・54・61年の各種のハーグ条約はこれを目的とするものであるが、批准した国は少ない。日本は署名のみである。

 無国籍の発生の防止については、世界人権宣言15条1項および市民的及び政治的権利に関する国際規約24条3項で、国籍を保有することが人権の一内容をなすものとして規定されている。他方、重国籍の発生の防止については、出生による国籍取得につき、両性平等原則により父母両系主義を採用した場合、困難な問題が生じることになる。」(澤木敬郎(さわき・たかお)『国際私法入門(第3版)』(有斐閣、1990年)78頁)


このように、世界人権宣言15条1項および市民的及び政治的権利に関する国際規約(国際人権B規約)24条3項からすれば、日本政府は、無国籍の発生を防止する義務があります。インドは国際人権B規約に加入しているので、同様だといえます。

ですから、「インド政府と日本政府はともに、女児への自国の国籍付与を拒絶する意図はなく、女児を無国籍のままにしておくという意図もない」という考えであることは、注意しておくべきです。



2.この海外における日本人の依頼による代理出産の事例に関連して、8月15日、日本学術会議会長が「会長談話」を公表しています。その旨の記事と「会長談話」全文を紹介しておきます。


(1) 朝日新聞平成20年8月16日付夕刊16面

インド代理出産「子供の福祉優先」 日本学術会議会長
2008年8月16日11時31分

 日本人男性の依頼でインド人女性が代理出産した女児が出国できない問題を受け、日本学術会議の金沢一郎会長は15日、「最優先されるべきは子供たちの福祉」だとする談話を発表した。「懸念されるのは、報道された子供だけでなく、報道されていない事例で生まれてくる子供たちのこと」と指摘し、こうした代理出産が水面下で広まっている実態に懸念を表明した。

 同会議は4月、代理母や生まれてくる子供の権利や福祉を最大限考慮する立場から、代理出産を法律で禁じるべきだとの報告を発表している。金沢会長は談話で「(原則禁止とした報告を参考に)国民の間で幅広く議論が行われ」「法制面での整備を含め、国を挙げて問題解決に向けて動き出すことを期待する」などと述べた。」



(2) 代理懐胎を中心とする生殖補助医療に関する課題についての会長談話 (-海外における日本人の依頼による代理出産の事例に関連して-)(PDF)

代理懐胎を中心とする生殖補助医療に関する課題についての会長談話
(-海外における日本人の依頼による代理出産の事例に関連して-)


 日本学術会議は、代理懐胎を中心とする生殖補助医療をめぐる諸問題について、法務大臣と厚生労働大臣からの審議依頼(平成18 年11 月)に基づき、法学、医学、生命倫理等の専門家からなる委員会を設けて1 年以上かけて検討を進め、本年(平成20 年)4 月に、同審議依頼に対する両大臣への回答及び「代理懐胎を中心とする生殖補助医療の課題-社会的合意に向けて-(日本学術会議 生殖補助医療の在り方検討委員会)」と題する対外報告をとりまとめました。

 対外報告「代理懐胎を中心とする生殖補助医療の課題-社会的合意に向けて-」
(平成20 年4 月8 日 日本学術会議 生殖補助医療の在り方検討委員会)
http://www.scj.go.jp/ja/info/iinkai/seishoku/index.html

 今般、海外における日本人の依頼による代理出産に関する報道がなされております。日本学術会議は個別の問題についてのコメントを差し控えますが、ここで発生した事例は、上記対外報告で指摘した代理懐胎に関する諸問題及びそれらに対する提言の内容と直接関連しているものと考えます。言うまでもなく、最優先されるべきは子供たちの福祉であり、その点から懸念されるのは、報道された子供だけでなく、報道されていない事例で生まれてくる子供たちのことです。

 日本学術会議としては、生殖補助医療に関する課題について、それが個人の生命倫理観や家族観等にかかわる深淵かつ難しい問題ではあることを十分理解しつつも、改めて本年4月に取りまとめた対外報告における提言を参考としていただき、国民の間で幅広く議論が行われ、早期に社会的な合意がなされ、法制面での整備を含め、国を挙げて問題解決に向けて動き出すことを期待します。

 平成20 年8月15 日
 日本学術会議会長

  金 澤 一 郎」




(3) 「最優先されるべきは子供たちの福祉」という会長談話は、極めて妥当です。

  イ:しかし、「懸念されるのは、報道された子供だけでなく、報道されていない事例で生まれてくる子供たちのこと」と指摘し、こうした代理出産が水面下で広まっている実態に懸念を表明したと受け取れる点は妥当なのでしょうか?

日本においては、代理出産の実施を公表しているのは「諏訪マタニティークリニック」だけであり、日本では(密かに実施している医院は別として)事実上、実施できないのですから、海外で実施する代理出産の方が多いというのが公知の事実でした。欧米でも、代理出産できない国から許容している国へ行って実施するというのが通常であって、海外での自国民の行動にまで規制することはない、というのが国際社会の通常のあり方です。

このように、元から「報道されていない事例で生まれてくる子供たち」の方が多いのですから、いまさら「懸念」するほどのことではないのです。


  ロ:また、「会長談話」によると、「報道されていない事例で生まれてくる子供たち」、すなわち表面化しない代理出産によって、多数の代理出産による「子供たちの福祉」が損なわれているとでもいいたいのでしょうか?

しかし、代理出産は、自分の子供が欲しい者が求めて初めて成り立つのであって、避妊に失敗して仕方なく産むことになって結婚するといった事例の方が、よほど子供の養育監護に不安があるのですから、子供の福祉にとって好ましくない事態が生じうるのです。

このように、代理出産によって生まれた子供が不幸になる蓋然性が通常よりも高いとは言いにくいのですから、この点でも「会長談話」は妥当ではありません(辰井聡子「『生命倫理法』論議の争点と作法」ジュリスト1359号(2008年7月1日号)62頁)。


  ハ:金澤会長は、「ここで発生した事例は、上記対外報告で指摘した代理懐胎に関する諸問題及びそれらに対する提言の内容と直接関連しているもの」としています。しかし、その考えは妥当でしょうか?

「会長談話」と異なり、この事件で一番問題となっているのは、女児が法的に養育監護者がいないインドから出国できない点なのです。その要因は、女児が無国籍だからです。

無国籍の発生の防止については、世界人権宣言15条1項および市民的及び政治的権利に関する国際規約(いわゆる「国際人権B規約」)24条3項で、国籍を保有することが人権の一内容をなすものとして規定されています。「世界人権宣言」は、1948年12月10日に第3回国連総会において採択されていますし、日本国は国際人権B規約に署名し、批准しています。

ですから、金澤一郎会長としては、

「無国籍状態に置かれている子供を憂慮する。代理出産を巡る問題は議論があるが、それとは別として、世界人権宣言及び国際人権B規約を尊重して、直ちに無国籍状態を解消する対応を行うべきだ」

という談話を発表すべきであって、不適切な談話だったのです。


  ニ:日本学術会議の報告書は国会で積極的に取り上げられておらず、生殖補助医療に関心のある議員や大臣は、代理出産に肯定的なのですから、日本学術会議の報告書は、無視した形で立法される可能性が高いのです。

科学技術政策:野田科学技術担当相に聞く 理数系でないからこそ、国民との橋渡し役に

 各国が科学技術を中核とした新しい価値の創造(イノベーション)にしのぎを削っている。福田改造内閣で科学技術担当相、宇宙開発担当相に就任した野田聖子衆院議員(47)に、今後の科学技術政策の課題や抱負を聞いた。【西川拓】(中略)

 --日本学術会議が代理出産を禁止する報告書を出したが、どう考えるか。

 私も不妊治療を経験している。代理出産には肯定的だ。少子化の中にあって、新しい家族のあり方、親子関係を想像し始めてもいい。当たり前の出産もあるし、体外受精という方法もある。さらには子宮を失った方には、ボランタリー精神のある方の協力で母になる。その可能性を国が禁ずる理由はどこにもない。」(「毎日新聞 2008年8月17日 東京朝刊」


世論調査によれば、国民の多数は代理出産に肯定的なのですから、国民の代表者たる立場からすれば、違和感のない姿勢です。日本学術会議の報告書が無視されている現状に危機感を抱いた日本学術会議の会長としては、「会長談話」を表明して関心を向けさせたかったのが本音だといえます。

しかし、「会長談話」を単独の記事として取り上げたのは朝日新聞だけですから、報道機関はまったく無視の状況に終わったのです。勝手に「会長談話」などとしゃしゃり出てきた挙句、言うべきことが適切ではなかったのですから、日本学術会議会長の見識のなさに失望したというのが、報道機関の本音なのでしょう。




3.夫婦間の揉め事については、夫婦間の事情があるので部外者が何か言うことは妥当とは思えません。しかし、この事件の元妻は「8月9日に、メディアに自らの言い分をファクスで送っている」(週刊朝日2008年8月29日号(2008年8月19日発売)132頁)ことや、共同通信の取材にも答えているため、自ら積極的に公にする意思があると理解し、触れておくことにします。

(1) 東京新聞平成20年8月19日付朝刊27面

「代理出産、元夫の独断」 インド女児 元妻「文書で確認」
2008年8月18日 18時18分

 日本人男性が依頼したインドでの代理出産により7月に生まれた女児が、無国籍状態となりインドを出国できなくなっている問題で、女児の誕生直前に男性と離婚した元妻(41)が18日までに共同通信の取材に応じ「自分は代理出産に同意していない。元夫が独断でやった」などと語った。元夫は取材に応じていない。

 元妻によると、夫婦で訪れたインドの病院で昨年11月、代理出産の同意書らしい文書に署名させられたが、その場で内容を読んだり詳しい説明を聞いたりはできなかったという。元妻は「インド行きが代理出産のためだとは思っていなかった。離婚に際し元夫には、代理出産がわたしの意思ではないことを文書で確認させた」としている。

 関係者やインドでの報道によると、女児は、日本人男性の精子と第三者の卵子を体外受精させ、インド人代理母の子宮に移植する方法で、今年7月下旬に誕生。男性は女児を日本に帰国させたい意向というが、地元自治体が発行した女児の出生証明書には母親名の記載がなく、インド国籍や旅券が取得できない状態。インド政府が渡航証明書を発行すれば、日本の入国査証(ビザ)を得て帰国する道も開けるとされるが、インドの非政府組織(NGO)が、女児の外国への引き渡しは人身売買に当たると提訴しており、裁判の決着までは出国できない可能性が高い。」


  イ:元妻によると、「その場で内容を読んだり詳しい説明を聞いたりはできなかった」から、代理出産契約に同意しておらず、(自分に関する限り)無効であるとでも言いたいようです。

これは、代理出産契約の有効性の問題ですが、契約内容に関して説明受けていない場合、一般的には、説明義務違反として、契約は無効であるということは可能です。

しかし、この契約の場合、日本人夫婦でインドの病院を訪れて契約書に署名したという経緯からすると、インドの病院との間では、日本人夫婦共同で契約の当事者になったといえます。そうすると、インドの病院側とすれば、夫の方に十分に説明をしている以上、署名する場において妻に「詳しい説明」をしていなくても、夫が説明したはずであると期待しており、日本人夫婦では言語の問題やインドでの法律関係に通じていないことをも考慮すれば、その期待には十分な理由があるといえます。

また、代理出産契約を締結すれば、負担する義務(代理出産費用の負担、親としての義務)が生じます。それなのに、自ら署名する文書に何ら説明を受けずに署名したこと自体、説明を求める権利を放棄したといえるのですから、説明を受けていないとインド側及び元夫を非難することはできないというべきです。

ですから、「その場で内容を読んだり詳しい説明を聞いたりはできなかった」から、代理出産契約に同意しておらず、(自分に関する限り)無効であるという主張は困難です。


  ロ:もっとも、元妻は、離婚に際し元夫には、代理出産がわたしの意思ではないことを文書で確認させた」としています。

しかし、代理出産契約の相手方はインドの病院(及び代理母)ですから、契約に瑕疵があるのであれば、契約の相手方に対して契約の無効を主張しなければなりません。ですから、契約の相手方ではない元夫に対して、「代理出産がわたしの意思ではないことを文書で確認」させたとしても、まったく無意味です。

なお、元妻は「インド行きが代理出産のためだとは思っていなかった」と述べています。しかし、どこで契約を締結しようとも、騙されてインドに行ったとしても、契約場所は契約の要件ではないのですから、契約の有効性には何ら無関係です。


  ハ:元妻は、代理出産に関わったことへ非難を回避し、勝手に離婚して子供を放棄したと思われたくないために、「代理出産と無関係だ」と主張したいのだと思います。その気持ちは尊重できるとしても、法律上は、代理出産契約は有効とみるのが素直ですから、元妻の発言は単なる言い逃れにすぎません。

元妻が契約書に署名し、その結果、代理母が子供をもうけ、現に女児がインドから出国できないことに対して、元妻は何ら責任がないと思っているのでしょうか。離婚に際し元夫には、代理出産がわたしの意思ではないことを文書で確認させた」点からすると、女児の命に関して何ら責任がないと言い捨てているように伺えます。

しかし、いくら無関係にしたいとはいえ、生まれたばかりの子供に何の責任があるというのでしょうか。誰の子供だろうと、不安定な立場にいる嬰児の行く末を案じるのが人としてごく自然な感覚のはずです。元妻は(東京新聞の記事では)女児に配慮した言葉を行っておらず、かえって元妻に対して悪印象を抱いてしまいました。



(2) 妻の発言に対して、元夫は次のように答えています。

 「この前妻の言い分について、男性はどう思っているのだろう。男性は言う。

「彼女の気持ちもわかるから、反論するつもりはないんです。インドでの代理母は結婚前に申し込んでましたから、彼女は関係ないので、悪く書かないでほしいんです。彼女は代理母に賛成はしたけど、ほんとはそんなことしないで、自分で産めればいいと思っていたんですよ。彼女は日本で不妊治療をしていました。でも、産婦人科の先生に聞くと、40歳で不妊治療して2~3%なんですって。50回で1回でしょ。彼女は最初は大丈夫だと思って結婚したし、インドにも行ったけど、だんだん難しくなっていったんじゃないですか」」(「インド代理出産 日本に来られぬ赤ちゃん 『夫』の告白と『離婚妻』の言い分」週刊朝日2008年8月29日号(2008年8月19日発売)132頁)


「彼女の気持ちもわかるから、反論するつもりはない」「彼女は関係ないので、悪く書かないでほしい」と述べて、元妻への配慮を見せるが元夫です。これに対して、女児の行く末にも配慮せず、元夫への非難ともいえる発言を、報道機関を通じて繰り返す元妻……。

もちろん、表面化していない複雑な事情があるのでしょうから一概にはいえないとしても、こうして表面化した発言を比べると、この元夫婦のどちらへ好意的な印象を抱くのかは、歴然としているのではないでしょうか。

最初に触れたように、保岡興治法相は、女児がインド旅券を獲得して日本のビザ(査証)を申請すれば「認める方向で対応したい」と述べています。元夫へのわだかまりがあるとはいえ、女児とは無関係なのですから、日本へ入国出来る可能性が高まったことについて、元妻も安堵している意思を示すことがなかったのは大変残念なことです。



(3) この代理出産問題に関しては、代理出産に携わった者に対して、単に代理出産に関わった一点で、心無い誹謗中傷を行っている者が少なくないですし、さらには代理出産に賛成する者への誹謗中傷も見受けられます。(酷い誹謗中傷を行う者のブログを見ると、家族関係に問題が生じていてその鬱憤を晴らしているだけと思える者が多々見受けられます。)

しかし、そうした誹謗中傷を行う人達は、代理出産問題の根本問題を理解していないのではないでしょうか?

今までに何度も触れていることですが、代理出産を巡る問題は、「子供を持つということはどういう意味なのか?」が根本問題なのです。すなわち、

「<1>生殖自体、生物としての人(ヒト)の最も基本的な営みであり、子供を持つことは生殖として人間として本源的な欲求であると考える

<2>生殖問題は知識のある医師又は国家が患者に温情的に実施すべきものであり(パターナリズム=父権主義)、子供を持つことは国家・社会政策の一環であって、子供を産む産まないは国家によって統制される」

のどちらを取るかなのです。

<2>の立場は、いわずと知れた一人っ子政策を実施している中国の立場であり、代理出産に携わった者に対して、単に代理出産に関わった一点で、心無い誹謗中傷を行っている者の立場です。

これに対して、<1>の立場は、憲法13条により保障されている、リプロダクション(生殖活動)に関する自己決定権に沿った考えといえますから、現行憲法下においては、<1>の立場が妥当ということになります。

このような<1>の立場からすれば、代理出産と言う形態であれ、子供を産む産まない自由は、その当事者の意思決定に委ねられた問題であって、他人や国家が関与すべき問題ではないのです。また、子供をどう育てるのかはその両親に委ねられ、その両親にのみ養育監護する義務があるのです。ですから、<1>の立場、すなわち憲法論からすれば、代理出産に携わったからといって、誹謗中傷を受ける根拠はまったくないのです。

この元夫婦も、今、酷い誹謗中傷に悩まされているはずです。日本国民であれば、現行憲法を尊重するべきであって、単なる八つ当たりのように代理出産に携わった者に対して誹謗中傷することは、直ちに止めるべきなのです。



テーマ:政治・時事問題 - ジャンル:政治・経済

コメント
この記事へのコメント
国籍
春霞 殿
拝啓
 貴殿の冷静な法解釈に基づく論評には敬意を抱いています。一言、インド女児は無国籍者ではありません。戸籍に名が載っていないだけです。日本国籍
の有無は国籍法で決まります。国籍法2条は
 父または母が日本国籍者であれば、子は日本国籍者、
と規定しています。女児は日本国籍者です。
 詳しく語り合う機会があればさらに深く話し合うことができます。              敬具
                                    Yasunao Kondo Ph.D.      
2008/08/22 Fri 19:54:43
URL | Yasunao Kondo #-[ 編集 ]
>Yasunao Kondoさん:2008/08/22 Fri 19:54:43
はじめまして、コメントありがとうございます。


>貴殿の冷静な法解釈に基づく論評には敬意を抱いています。

ありがとうございます。Yasunao KondoさんのHPを拝見しました。親子関係の存否など、参考にさせて頂くことがあるかと思います。これからも宜しくお願いします。


>一言、インド女児は無国籍者ではありません。戸籍に名が載っていないだけです。日本国籍の有無は国籍法で決まります。国籍法2条は父または母が日本国籍者であれば、子は日本国籍者、と規定しています。女児は日本国籍者です。

確かに、国籍法2条からすれば、父が日本人である以上、女児は日本国籍を有するはずです。仰るとおりであるといえるのです。本来は。

ただ、国籍取得の前提して、その親子に身分関係が存在している必要があります。父母が結婚していれば問題がないのですが、離婚してしまっているため、父子関係が当然に発生しているとは言い難いのです。

それで、(おそらくは非嫡出関係という身分関係となり)非嫡出子の父子関係の発生については、通常、父親が認知している必要があり、この事件では認知の有無が不明なので、無国籍という表記にしています。
2008/08/25 Mon 22:13:45
URL | 春霞 #5oClkA7g[ 編集 ]
ご参考までに
興味深く読ませていただきました。
他の話題に関しても丁寧な解説をありがとうございます。

ただ、この元夫と元妻への評価については、ちょっと報道の情報に偏り過ぎな可能性もあるのかなと思い、これがはたして正しい情報なのかどうか私には判断できないのですが、ご参考までに以下のURLをお伝えしておきます。

同様のことを書かれている方はほかにもいらっしゃるので、すでに読まれたかもしれませんが、そうだったばあい、余計なことをしてしまってすみません。

ぜろだまBlog インドでの代理出産の話(1)
http://zerodama.seesaa.net/article/104395707.html
インドでの代理出産の話(2)
http://zerodama.seesaa.net/article/104397567.html
2008/08/28 Thu 12:08:58
URL | TARO #-[ 編集 ]
>TAROさん:2008/08/28 Thu 12:08:58
コメントありがとうございます。


>他の話題に関しても丁寧な解説をありがとうございます

ありがとうございます。


>ただ、この元夫と元妻への評価については、ちょっと報道の情報に偏り過ぎな可能性もあるのかなと思い、これがはたして正しい情報なのかどうか私には判断できないのですが、ご参考までに以下のURLをお伝えしておきます

情報ありがとうございます。元妻と思われる女性の相談内容は知っていましたが、「ぜろだまBlog」さんの評価の部分を知ることができました。 

私としては、「不妊治療や代理母出産について甘い認識で行い、いざ子供が生まれる段になって『やっぱり私の血が入っていない子どもなんか育てられない』と身勝手に逃げ出した」と評価しているわけでもありません。また、他方で、「ぜろだまBlog」さんのように、「・子供の血のつながり以前に、妻を騙す形で非合法な代理母出産と卵子提供を強行、その上母親偽装という犯罪まで犯させようとする」とか「・最初から『子供の日本民法上の母』であることだけを期待し、妻の人格や心を一切認めず、子の養育者たることを目的に結婚した」という評価もしていません。

基本的に、元妻のものと思われる相談であるとはいえ、真偽が不明ですし、もし本当ならば、ネットという公開された形での相談とはいえ、プライバシー上、躊躇せざるを得ないからです。

元々、離婚相談をしている夫婦においては、通常、妻は夫のことを悪く言うものであり、また夫は妻のことを悪く言うのですから、どちらかの言い分のみを取り上げて信用することはできません。もっとも、今回の事件では、元妻は報道機関に対して元夫のことを悪くいい、元夫は報道機関に対して元妻をかばうという図式ですが。

特に、元妻側の情報のうち、インドの病院からの情報と一致しない点は、信用することは困難です。大体、自ら述べているように、インドの病院において、どういう書類に署名したのか不確かなくらい(インドでの)語学力がないのですから、妻が述べる「インド固有の情報」は信用できるわけがないのですから。

「ぜろだまBlog」さんは、不確かな妻側の相談内容を重視しすぎた評価であるように思えます。

離婚相談をしている夫婦においては、通常、妻は夫のことを悪く言うものであり、また夫は妻のことを悪く言うのですから、どっちが悪いかなどという点を、他人が評価すること自体、意味がないのです。このブログでは、(不確かな情報は排除して)法律論のみに言及した形で論じています。

この問題で最も大切なことは、女児の養育監護の行方です。日本に早く連れ帰れるように、世論は日本やインドの政府に向けて声を上げるべきなのです。ですから、「代理出産」がどうこうとか、どっちの夫婦が悪いかなど、この問題ではどうでもいいことなのです。
2008/09/01 Mon 19:04:29
URL | 春霞 #5oClkA7g[ 編集 ]
お返事ありがとうございます。
やはり、余計な事だったようで、失礼いたしました。

>この問題で最も大切なことは、女児の養育監護の行方

この点は同感です。
元妻が不本意だろうとなんだろうと自分がかかわった責任があるにもかかわらず、最も弱い存在である子どもが生まれてくる前に(あえて)離婚してしまったために、インド出国および日本入国が難しくなったという経緯もあり、だからこそ春霞さんの評価が、自己防衛優先にみえる元妻に辛口になるのかなとも思いました。

ただ、春霞さんが引用されていた、元夫のコメントに以下のような部分があるのは気になります。

「インドでの代理母は結婚前に申し込んでましたから、彼女は関係ないので、悪く書かないでほしいんです。」

この男性、もし結婚が成立しなかった場合にはどうするつもりだったのでしょうかね。いや、結果的に成立しなかったので問題になっているわけですが・・・
2008/09/08 Mon 14:38:52
URL | TARO #-[ 編集 ]
>TAROさん:2008/09/08 Mon 14:38:52
コメントありがとうございます。


>やはり、余計な事だったようで、失礼いたしました

まったく余計なことではありませんので、これからも情報提供など、遠慮なく宜しくお願いします。

一般論なのですが、他のブログに出ていることについては、リンクや引用がなかなか難しいと感じています。というのは、下手にリンクすると、「荒らし」をする方がいたりしますので。うまいリンクの仕方があれば、よいのですが。


>>この問題で最も大切なことは、女児の養育監護の行方
>この点は同感です。
>だからこそ春霞さんの評価が、自己防衛優先にみえる元妻に辛口になるのかなとも思いました

法律論はともかく、女児の母親して養育する立場となる可能性があったのですから、せめて日本に連れ帰ることへの協力だけは、して欲しかったとは思うのですけどね。誰も身寄りのないインドの病院で、放置されていていいはずがないのですから。


>ただ、春霞さんが引用されていた、元夫のコメントに以下のような部分があるのは気になります。
>「インドでの代理母は結婚前に申し込んでましたから、彼女は関係ないので、悪く書かないでほしいんです。」
>この男性、もし結婚が成立しなかった場合にはどうするつもりだったのでしょうかね。いや、結果的に成立しなかったので問題になっているわけですが・・・

「インドでの代理母は結婚前に申し込んでました」というくらいなのですから、「もし結婚が成立しなかった場合」、すなわち、独身のままでも代理出産契約を完了させていたのでしょうね。

離婚や性的虐待などの原因から配偶者はいらないが、どうしても自分の子供は欲しいと思う方はかなりいるはずです。男女問わず。その場合、代理母を依頼して子供をもうけてもらう(女性の場合は、出産機能を失っている場合でしょうが)という気持ちになるでしょう。

また、家族の形態として、同性愛者の場合もあるわけですから、特に男性同士の場合には、自分たちの子供をもうけるには代理出産という方法も1方法です。

今回の事件は、家族と言う形態が多様化していることを物語っているように思います。そうした多様化した家族関係をどこまで許容できるかが問われているように感じました。もちろん、何よりも女児の養育監護を何とかしてほしいというのが一番ですが。
2008/09/10 Wed 23:59:58
URL | 春霞 #5oClkA7g[ 編集 ]
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2008/12/10(水) 21:03:49 | ?л
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