1.報道記事を幾つか。
(1) 時事通信(2008/08/05-19:58)
「ナチス発言「理解できぬ」=小沢民主代表
民主党の小沢一郎代表は5日のTBSラジオの番組で、麻生太郎自民党幹事長がナチス台頭の経緯を引き合いに、民主党に注文を付けたことについて「感覚的にどういうあれを持っているのかなあという感じだ。民主党はナチスとは正反対の、非常に民主的な、それこそ名前の通りの党だ。どういう思い、趣旨で言ったのか理解できない」と疑問を呈した。(2008/08/05-19:58)」
(2) 東京新聞(2008年8月5日 11時51分)
「ナチス発言で謝罪要求 民主、麻生氏は反論
2008年8月5日 11時51分
民主党の鳩山由紀夫幹事長は5日午前の役員会で、ナチス・ドイツを引き合いに民主党をけん制した麻生太郎自民党幹事長の発言に関し「看過できない。党として謝罪を求めたい」と述べ、麻生氏に謝罪を強く求めていく考えを示した。
一方、麻生氏は同日の記者会見で「民主党をナチスに例えたつもりはない」と重ねて反論。同時に「参院で審議が行われない状況はいかがなものかと(いう趣旨で)言った」と説明した。
麻生氏は4日、江田五月参院議長への就任あいさつで、民主党が参院第1党としての自覚を持つべきだと指摘した上で「かつてドイツはナチスに1回(政権を)やらせようとなって、ああいうことになった」と発言。民主党は同党をナチス・ドイツに例えたと受け取れると強く反発していた。
(共同)」
このように、小沢代表が麻生氏の発言を批判していますし、鳩山幹事長も、8月5日午前の役員会で、自民党の麻生太郎幹事長がナチスが台頭した経緯を引き合いに民主党の国会対応に注文を付けた発言について、「看過できない。党として謝罪を求めたい」と述べて、了承されたのです。要するに、民主党として、自民党の幹事長である麻生氏に正式に謝罪を求めているわけです。
2.民主党だけでなく、自民党側からも麻生氏の発言に対して批判が出ています。
(1) 時事通信(2008/08/05-13:06)
「「日本語を大切に」=麻生氏のナチス発言で−野田消費者相
野田聖子消費者行政担当相は5日午前の閣議後の記者会見で、民主党の対応をめぐりナチスを引用した自民党の麻生太郎幹事長の発言について、「わたしが気を付けているのは、日本人として日本語を大切にしていくこと。以前、入閣した際に与謝野馨氏から『とにかく失言をしない賢い大臣であってほしい』と言われた」と語った。麻生氏の発言が失言に当たるかどうかとの質問には「国民がどう受け止めて判断するかだ」と述べるにとどめた。(2008/08/05-13:06)」
元々、麻生太郎氏の失言癖については、自民党内でも苦々しく思われていたことは指摘するまでもないことですが、野田消費者行政担当相のように、暗に批判する閣僚も出てきているのです。
「麻生氏は4日、民主党をナチスドイツに例える発言をして民主党の猛反発を招いただけに、「早くも失言癖が出た」と先行きを懸念する向きも少なくない。」(読売新聞平成20年8月5日付朝刊4面)
(2) 麻生氏は、民主党をナチス扱いした発言について、次のような歴史認識を示して釈明していますが、そのナチスに関する麻生氏の歴史認識は、どの程度正しいのでしょうか?
「麻生氏は、記者団に対し、「参議院できちんと審議しないのは、問題なのではないかという話をした。審議をしなければどうなるかという例で、ワイマール共和国の時代に、ナチスにやらせてみたらいいのではないかとなったのが歴史だ。審議をするのが大事だというのが趣旨で、民主党をナチスに例えたわけではない」と述べました。」(NHKニュース)
東京新聞平成20年8月6日付「こちら特報部」では、「ナチスに関する麻生氏の歴史認識は、どの程度正しいのか」について、九州大大学院の熊野直樹教授(ドイツ現代政治史)と、同志社大学の望田幸男名誉教授(ドイツ近現代史)という2人の研究者に尋ねていますので、紹介したいと思います。
「麻生幹事長「ナチス」発言 日本と当時の独 似てる? ◆的外れでも「経済不安・政局不安」は一致
幹事長に就任早々、早くも飛び出した自民党・麻生太郎氏の「ナチス」発言。独裁政党と比べられた民主党は激怒。麻生氏は釈明に懸命だが、掟(おきて)破りの暴言に、自民党のかつてない危機意識を感じ取った人も多いはず。それにしても今の日本、麻生氏がいうように、本当にナチス台頭前夜のドイツと似ているのか。研究者に聞いてみた。
話の発端は今月4日。麻生氏が江田五月参院議長に就任あいさつした折に、「民主党は政権を取るつもりはあるのか。しっかりしてもらわないと。ナチスも1回やらせろと言って、国民が選んで、ああなったこともある」などと発言したという。これに対して、鳩山由紀夫幹事長は「民主党をナチスになぞらえるのは、許し難い暴言」と反発。麻生氏は「きちんと参院で審議することが大事だと話しただけだ」と釈明した。ナチスに関する麻生氏の歴史認識は、どの程度正しいのか。
九州大大学院の熊野直樹教授(ドイツ現代政治史)は、「そもそも当時のドイツとは日本は(政治の)制度も違う。麻生氏の発言は歴史的にトンチンカン。ありえない」とばっさり切り捨てる。
ナチスは1929年の世界恐慌の混乱を背景にドイツで躍進。30年に第2党、32年に第1党となった。
「ナチスは、経済困窮の理由を、戦後の国際秩序や国内の政治体制がいけないとして明確にわかりやすく説き、国民の心をとらえていった。ワイマールの議会主義が駄目だと反議会主義を公然と主張して支持を得たのだから、審議拒否は公約通り」
当時のドイツは二院制でも、ライヒ参議院と呼ばれた議院は異議を唱えて審議を差し戻すことしかできなかった。さらに、議会で法律が決まらなくなっても大統領がそれに替わって緊急令を出せた。熊野教授は「日本のように、法案を通さないための審議拒否とはまったく違った」と説明する。
◆研究者「事態続けば独裁勢力台頭も」
同志社大学の望田幸男名誉教授(ドイツ近現代史)は「国民がナチスを選んだのは、食えない民主主義か、食える独裁政権かという難しい選択に直面したから」と解説する。
それでも「ナチスの得票率は40%程度で、阻止する可能性はなかったとはいえない」とも。だが、共産党の力が増すことを恐れた保守派が反共の防波堤としてナチスを利用しようとして、逆に利用されたという。
同名誉教授は、不気味な警告も発する。「大きな経済不安と、政府のリーダーシップの弱体化。慢性的な政局不安という意味では、今の日本と社会状況が似ている。こうした事態が続けば、ナチ的な勢力の台頭を誘発しかねない」
ところで、前出の熊野教授は、首をひねる。
「今、ドイツで、ナチのレッテルを他党にはるような発言をしたら、政治生命を失うくらいの大問題になるでしょうね。それでも、あえて口にする麻生氏の本心は…」」
(*見出しの文章は紙面のままですが、見出しの位置は適切な位置においています。)
(1) この記事を読めば、麻生氏の発言は、間違った歴史認識であることがよく分かります。次の部分で明快に示しています。
「九州大大学院の熊野直樹教授(ドイツ現代政治史)は、「そもそも当時のドイツとは日本は(政治の)制度も違う。麻生氏の発言は歴史的にトンチンカン。ありえない」とばっさり切り捨てる。
ナチスは1929年の世界恐慌の混乱を背景にドイツで躍進。30年に第2党、32年に第1党となった。
「ナチスは、経済困窮の理由を、戦後の国際秩序や国内の政治体制がいけないとして明確にわかりやすく説き、国民の心をとらえていった。ワイマールの議会主義が駄目だと反議会主義を公然と主張して支持を得たのだから、審議拒否は公約通り」
当時のドイツは二院制でも、ライヒ参議院と呼ばれた議院は異議を唱えて審議を差し戻すことしかできなかった。さらに、議会で法律が決まらなくなっても大統領がそれに替わって緊急令を出せた。熊野教授は「日本のように、法案を通さないための審議拒否とはまったく違った」と説明する。」
ワイマール共和国の時代について、特にその時代のドイツの歴史に言及して他党を批判するのであれば、正しい歴史認識をしたうえで行うべきです。国会議員、特に党の幹事長であれば、日本の政治的な意思決定に深く関わるのですから、特に正しい政治的な歴史認識を持っているべきだからです。
麻生氏は、政治家としての資質に欠け、間違った歴史認識を前提にして、民主党を批判したのですから、結局は民主党をナチス扱いして誹謗中傷したかったという、卑劣な根性を露呈しただけだったように思えます。
(2) 麻生氏が民主党をナチス扱いした発言は、海外メディアも報道しています。
「ところで、前出の熊野教授は、首をひねる。
「今、ドイツで、ナチのレッテルを他党にはるような発言をしたら、政治生命を失うくらいの大問題になるでしょうね。それでも、あえて口にする麻生氏の本心は…」」
このように、海外の意識からすれば、ナチス扱いした発言は「政治生命を失う」ほど問題視されるのですから、海外メディアが報道するのも当然なのでしょう。海外では、「麻生氏は平然と他党をナチス扱いして、謝罪しない人物」というレッテルが付いてしまったと思われます。
3.麻生氏は、結局は民主党をナチス扱いして誹謗中傷したかったという、卑劣な根性の持ち主といえますが、この卑劣な根性は、有名なエピソードを思い起こせばすぐに納得できることです。魚住昭(著)『野中広務 差別と権力』 (講談社文庫、2006年)から、その有名なエピソードを挙げておきます。
「2003年9月21日、野中は最後の自民党総務会に臨んだ。議題は党三役人事の承認である。楕円形のテーブルに総裁の小泉や幹事長の山崎拓、政調会長の麻生太郎ら約30人が座っていた。
午前11時からはじまった総務会は淡々と進み、執行部から総裁選後の党人事に関する報告が行われた。11時15分、会長の堀内光雄が、
「人事権は総裁にありますが、異議はありますか?」
と発言すると出席者たちは、
「異議なし!」
と応じた。堀内の目の前に座っていた野中が、
「総務会長!」
と甲高い声を上げたのはそのときだった。
「総務会長、この発言は、私の最後の発言と肝に銘じて申し上げます」
と断って、山崎拓の女性スキャンダルに触れた後で、政調会長の麻生のほうに顔を向けた。
「総務大臣に予定されておる麻生政調会長。あなたは大勇会の会合で『野中のような部落出身者を日本の総理にはできないわなあ』とおっしゃった。そのことを、私は大勇会の3人のメンバーに確認しました。君のような人間がわが党の政策をやり、これから大臣ポストについていく。こんなことで人権啓発なんてできようはずがないんだ。私は絶対に許さん!」
野中の激しい言葉に総務会の空気は凍りついた。麻生は何も答えず、顔を真っ赤にしてうつむいたままだった。
部落開放同盟中央本部の幹部が語る。
「総務会の出席者に確認しましたが、野中さんがそういう発言をしたのは事実です。自民党のなかで長い間、差別の眼差しを受けてきた野中さんのたまりにたまった怒りが最後に爆発したのでしょう。野中さんがなぜ最有力候補と言われながら総裁選に出なかったのか。橋本派内部で根強い反対があったからとも聞きましたが、それは議員たちの差別意識と無縁ではないのではないか。そんなことを考えると、政界の差別の闇の深さに暗然とします」
この国の歴史で被差別部落出身の事実を隠さずに政治活動を行い、権力の中枢にまでたどり着いた人間は野中しかいない。彼は「人間ばなれした仕事によって評価をされるのだ。そういう道筋を俺がひこう」と心に誓いながら、誰も足を踏み入れたことのない険しい山道を登ってきた。ようやく頂上にたどり着こうとしたところで耳に飛び込んできた麻生の言葉は、彼の半世紀にわたる苦闘の意味を全否定するものだったにちがいない。」(魚住昭『野中広務 差別と権力』(講談社文庫、2006年)391〜393頁)
麻生太郎氏が、多数人の前で臆面もなく、
と述べたことは、決して忘れてはならない事実です。部落差別は、「人種」による差別に通ずる生まれによる差別であって、決して許されない差別であるのに、麻生太郎氏は、公然と部落差別を認めたのですから、憲法14条(法の下の平等)を公然と無視し、下劣な差別主義者であることを公言したといえるのですから。(*ただし、麻生氏は、第162回・衆議院総務委員会(平成17(2005)年2月22日)での中村(哲)委員の質問において、発言した事実を否定している)『野中のような部落出身者を日本の総理にはできないわなあ』
要するに、差別主義者である麻生氏にとっては、民主党をナチス扱いして誹謗中傷することなぞ、謝罪することもないということなのです。差別主義者が自民党の幹事長であるという事実は、来るべき衆院選のときまで、しっかり覚えておくべきことだと思います。このブログでも、麻生氏について言及するたびに、差別主義者であることは指摘し続けていきます。
| #[ 編集 ]
>「今、ドイツで、ナチのレッテルを他党にはるような発言をしたら、政治生命を失うくらいの大問題になるでしょうね。
これは当然すぎるほど当然のツッコミだと私も思うのですが、本当に頭を抱えたくなってしまうのは、こんな麻生氏が外務大臣経験者だということです。この「ナチス発言」の、いったいどこに「国際感覚」があるのだか。
他国の首脳との会談でよくもまあボロを出さなかったものだ(通訳が配慮しただけかもしれませんが)、日本国民にとっては運がいい、と思うと同時に、自民党ではよほど人材が払底してるのだな、と暗澹とさせられた一件でした。
URL | 自民党に明日などないのか #D.fOQoIg[ 編集 ]
>30年代のナチスの戦法は、日本で言うと衆議院の三分の二を持つ第一党が審議拒否している状態でした。つまり、参議院であれ、むしろ、自民党が審議拒否することの方がナチスになぞらえることができるのです
そういうことになるでしょうね〜。やはり、民主党をナチスに例えて誹謗したかっただけなんでしょう。いい加減に、失言・暴言癖は止めたらと思うのですが、無理なんでしょうね。
>本当に頭を抱えたくなってしまうのは、こんな麻生氏が外務大臣経験者だということです。この「ナチス発言」の、いったいどこに「国際感覚」があるのだか。
ああ! 麻生氏が外務大臣経験者であることを、指摘されて思い出しました。
>他国の首脳との会談でよくもまあボロを出さなかったものだ(通訳が配慮しただけかもしれませんが)
各国にとっては、日本人の「国際感覚」は極めて低いと思われているため、何を発言しようと、無視されているのかもしれませんね。麻生氏は、失言癖のあるいわくつきの人物ですから(苦笑)。
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