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1.毎日新聞平成20年7月7日付夕刊9面
「無戸籍児:認知調停で「前夫に連絡」も 戸惑う母たち「かかわりなしのはずが」
◇300日規定、無戸籍の「解消」
離婚後300日規定による無戸籍児について「現夫の子」と戸籍に記載するため、母親らが各地の家庭裁判所に申し立てている認知調停。子が実父(母親の現夫)を相手に「自分の子」と認めてもらう手続きのため、前夫にかかわりなく進められるのがメリットとされていた。しかし実際には、家裁から「前夫に連絡を取らなければならないこともある」と説明されるケースが相次いでおり、母親らに戸惑いが広がっている。【工藤哲】
300日規定に基づく「前夫の子」を「現夫の子」と戸籍に記載するには▽親子関係不存在確認▽嫡出否認の調停や裁判の手続きが一般的だが、いずれも前夫が手続きの直接の当事者となる。一方、認知調停は、前夫が直接の当事者にならないため、前夫から暴力を振るわれたりして連絡を取りたくない場合などに役立つとされる。
最高裁は先月、ホームページで「(前)夫が長期の海外出張、受刑、別居など、妻が(前)夫の子を妊娠する可能性がないことが客観的に明白である場合」との前提で、この手続きを紹介した。裁判所内部の研修でも認知調停の講義を取り入れるなど周知徹底に乗り出した。これを機に「無戸籍児家族の会」が無戸籍児の母親らに呼びかけ、今月から次々と家裁への申し立てが行われている。11日までに全国で25人が予定している。
しかし、1日に千葉家裁の支部に申し立てた千葉県内の女性(38)によると、家裁の窓口の担当者から「前夫に連絡して確認させていただく可能性がある」と言われたという。昨年12月に産んだ女児が無戸籍で、前夫は携帯電話にも応じない状態が続いている。女性は「もし、このまま連絡が取れなければ、調停はできないのでは」と心配する。
昨年3月に出産した女児を抱える埼玉県の女性(36)は、3日にさいたま家裁の支部に申し立てたが、「裁判所から『親子関係不存在確認の方がいいかもしれない』と言われた。調停に期待していただけに不安」と話す。
こうした対応について、最高裁家庭局は「夫婦の別居状況や離婚の理由などは個々で異なる。調停では、それらの事情を基に判断することになる。必要があれば前夫から話を聞くこともある」と説明。ただ、具体的な判断基準は示していない。
自身も認知調停で子供の無戸籍状態を解消した無戸籍児家族の会の井戸正枝事務局長は「私の場合は前夫とかかわらずに調停を成立させることができた。前夫とかかわれない、あるいはかかわりたくない事情がある母親らが認知調停に踏み切っている。裁判所は理解してほしい」と訴えている。
◇データの蓄積で条件見えてくる−−離婚訴訟や家族法に詳しい榊原富士子弁護士の話
住民票など客観的資料で妊娠時に前夫と別居していたことを示せない場合、確認のため裁判所が前夫を呼ぶこともあり得る。申し立てが増え、前夫を巻き込まないケースに関するデータが蓄積されれば、呼ぶ、呼ばないの条件も見えてくるだろう。
毎日新聞 2008年7月7日 東京夕刊」
(*「『現夫の子』とするための調停や裁判」についての図表は省略しました。)
(1) NHKニュース(6月19日 20時0分)
「無戸籍児 認知調停申し立てへ
民法の300日規定が原因で、戸籍がない子どもについて、最高裁判所は、実の父親の子として戸籍を得る手段として、これまでは一般的でなかった「認知調停」という方法が活用できることを全国の家庭裁判所に周知しました。これを受けて、各地の戸籍がない子どもたちが家庭裁判所に一斉に調停を申し立てることを決めました。
離婚後300日以内に生まれた子どもは、前の夫の子どもと推定するという民法の規定が原因で、実の父親の子として出生届が受理されず、戸籍がない子どもたちは少なくありません。戸籍を得るためには、これまでは前の夫を相手に家庭裁判所に調停を申し立て、親子でないことを確認する方法が一般的で、裁判官もこの方法を利用するよう促していました。
しかし、暴力が原因で別れるなど、前の夫の協力を得にくいケースが多く、改善を求める声が出ていました。これについて最高裁判所は、前の夫ではなく、実の父親を相手に調停を申し立てる「認知調停」という方法が活用できることを、全国の家庭裁判所に周知しました。「認知調停」は、戸籍のない子どもが、実の父親の子として戸籍を得る手段で、これまでは一般的な方法ではありませんでした。
これを受けて、戸籍がない子どもたちおよそ20人が、来月上旬、全国各地の家庭裁判所に一斉に認知調停を申し立てることを決めました。戸籍がない子どもたちの親でつくる家族の会の井戸正枝事務局長は「認知調停という救済手段があることを広く知ってほしい」と話しています。」
(2) 毎日新聞 2008年7月2日 東京朝刊
「無戸籍児:離婚後300日規定、「現夫の子」認知を 母ら、調停申し立て
◇最高裁の家裁周知受け
離婚後300日規定による無戸籍児の母親たちが1日、子供を「現夫の子」として戸籍に記載するため、現夫に「自分の子」と認めてもらう「認知調停」を神戸家裁などに申し立てた。規定の「前夫の子」を覆す調停で、手続きには前夫が加わらない。最高裁が6月、無戸籍解消の手続きとして全国の家裁に周知を図ったことに伴う申し立てだ。【稲垣淳、山田泰蔵】
「無戸籍児家族の会」によると、1日は東京都、大阪府、兵庫県で4人の子供について申し立てた。この日を含め10日までに計15都道府県の25人が予定している。
300日規定で「前夫の子」となる場合、「現夫の子」として戸籍に記載するには、前夫を巻き込んでの親子関係不存在などの裁判などが必要だ。しかし、暴力などが原因で前夫と連絡を取れないケースなどで子供が無戸籍となっていた。
「認知調停」は、以前からあった手続きだが、関係者によると採用しない家裁もあった。このため、最高裁は家裁への周知を図ったほか、裁判官や調査官への研修に乗り出している。
申し立てを行った母親らはこの日、大阪市内で会見。自分と産んだ子供が無戸籍となっている大阪府内の女性(24)は「無戸籍児に生まれて以来、本当の父親の戸籍に入りたいとずっと考えてきた。一日も早く戸籍がほしい」。近く申し立てをする京都府内の4歳の無戸籍児の母親は「子供にもつらい思いをさせているのが苦痛。やっと希望が持て、申し立てを決意した」と話した。
家族の会の井戸正枝事務局長は「前夫が関係しない認知調停は今後も増えるだろう。ただ無戸籍児の根本的な解決には法改正が必要だ」と指摘している。
毎日新聞 2008年7月2日 東京朝刊」
これらの報道からすると、どの家庭裁判所でも、前夫が関わらずに「認知調停」ができると思えそうです。「無戸籍児の母親は『子供にもつらい思いをさせているのが苦痛。やっと希望が持て、申し立てを決意した』と話した」(毎日新聞)わけですが、そのような希望を抱く内容であったと思えます。しかし、実際は違っていたわけです。
3.最高裁が6月、無戸籍解消の手続きとして全国の家裁に周知を図ったわけですが、どのように紹介したのかというと、
のです。「最高裁は先月、ホームページで『(前)夫が長期の海外出張、受刑、別居など、妻が(前)夫の子を妊娠する可能性がないことが客観的に明白である場合』との前提で、この手続きを紹介した」(毎日新聞2008年7月7日東京夕刊)
(1) では、最高裁判所は、具体的にはどのように説明しているのでしょうか。その全文を引用しておきます(「裁判所」の「認知調停」)。
「認知調停
1 概要
婚姻関係にない父と母の間に出生した子を父が認知しない場合には,子などから父を相手とする家庭裁判所の調停手続を利用することができます。
この調停において,当事者双方の間で,子どもが父の子であるという合意ができ,家庭裁判所が必要な事実の調査等を行った上で,その合意が正当であると認めれば,合意に従った審判がなされます。
認知がされると,出生のときにさかのぼって法律上の親子関係が生じることになります。
なお,婚姻中又は離婚後300日以内に生まれた子どもは,婚姻中の夫婦間にできた子(嫡出子)と推定され,仮に他の男性との間に生まれた子どもであっても出生届を提出すると夫婦の子どもとして戸籍に入籍することになります。しかし,婚姻中又は離婚後300日以内に生まれた子どもであっても,夫が長期の海外出張,受刑,別居等で子の母との性的交渉がなかった場合など,妻が夫の子どもを妊娠する可能性がないことが客観的に明白である場合には,夫の子であるとの推定を受けないことになるので,そのような場合には,前の夫を相手として親子関係不存在確認の調停を申し立てる方法や,子から実父を相手とする認知請求の調停を申し立てる方法もあります。
※ 婚姻の解消又は取消し後300日以内に生まれた子の出生の届出の取扱いについて
婚姻の解消又は取消し後300日以内に生まれた子のうち,医師の作成した「懐胎時期に関する証明書」が添付され,当該証明書の記載から,推定される懐胎の時期の最も早い日が婚姻の解消又は取消し後である場合には,前の夫を父としない出生の届出をすることができることとされています。詳細については,最寄りの戸籍役場にお問い合わせください。
2 申立人
・子
・子の直系卑属
・子又は子の直系卑属の法定代理人
3 申立先
相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所
管轄裁判所を調べたい方はこちら
4 申立てに必要な費用
・収入印紙1200円
・連絡用の郵便切手(申立てされる家庭裁判所へ確認してください。)
※ 後日,鑑定料が必要になる場合があります。
5 申立てに必要な書類
・申立書1通
・申立人,相手方,子の戸籍謄本
※ 事案によっては,このほかの資料の提出をお願いすることがあります。
6 その他
親子の関係があることを明らかにするために,鑑定を行う場合もあります。
この場合,原則として申立人がこの鑑定に要する費用を負担することになります。」
(2) 正直なところ、この最高裁判所が紹介した該当箇所をみると、「どの家庭裁判所であっても、どの事件でも、前夫がかかわることなく認知調停ができる」と読むことは難しいです。
「婚姻中又は離婚後300日以内に生まれた子どもであっても,夫が長期の海外出張,受刑,別居等で子の母との性的交渉がなかった場合など,妻が夫の子どもを妊娠する可能性がないことが客観的に明白である場合には,夫の子であるとの推定を受けないことになるので,そのような場合には,前の夫を相手として親子関係不存在確認の調停を申し立てる方法や,子から実父を相手とする認知請求の調停を申し立てる方法もあります。」
「妻が夫の子どもを妊娠する可能性がないことが客観的に明白である場合」に限定している点がネックになっていることは明白です。
「客観的に明白」か否かの判断については、「婚姻中又は離婚後300日以内に生まれた子どもであっても,夫が長期の海外出張,受刑,別居等で子の母との性的交渉がなかった場合など」という例示を挙げていることからわかるように、(子供と現在の夫の間で)DNA鑑定で判断するのではないのです。むしろ、「前夫が長期の海外出張,受刑,別居」していたという事実について、客観的に明白な証拠があることを意味していると、思われます。最高裁(最判平10・8・31判時1655号128頁、最判平12・3・14家月52巻9号85頁)は外観説の立場を採用しているからです(「無戸籍問題:新たに「無戸籍2世」の存在が明らかに〜こうなると“無戸籍の連鎖”の存在は全国的には相当数あるのではないか。」(2008/06/04 [Wed] 07:00:11)参照)。
そうすると、家庭裁判所としては、従来の裁判実務どおりの対応をするだけであって、「前夫が長期の海外出張,受刑,別居」していたかは、前夫に連絡して確認することが最も確実ということになってしまいます。
しかも、「妻が夫の子どもを妊娠する可能性がないことが客観的に明白である場合」であると判断できても、最高裁は、「子から実父を相手とする認知請求の調停を申し立てる方法もあります」と指摘しているだけなのです。要するに、最高裁判所は、単に「認知調停」の方法を紹介しただけに留まり、家庭裁判所に対して必ず「認知調停」で行うようにせよと、命じたものではないのです。
結局は、最高裁判所としては、従来の立場から無戸籍の子供の救済をしやすくした立場に変更したものではなく、勉強不足の一部の家庭裁判所の裁判官に対して、「認知調停」という方法があると知らせただけなのです。ですから、特に、無戸籍の子供たちを積極的に救済しようとしたものではないのです。
「1日に千葉家裁の支部に申し立てた千葉県内の女性(38)によると、家裁の窓口の担当者から「前夫に連絡して確認させていただく可能性がある」と言われたという。昨年12月に産んだ女児が無戸籍で、前夫は携帯電話にも応じない状態が続いている。女性は「もし、このまま連絡が取れなければ、調停はできないのでは」と心配する。
昨年3月に出産した女児を抱える埼玉県の女性(36)は、3日にさいたま家裁の支部に申し立てたが、「裁判所から『親子関係不存在確認の方がいいかもしれない』と言われた。調停に期待していただけに不安」と話す。」(毎日新聞)
前夫が関わらない「認知調停」ができると思っていた方々は、こうした家裁の対応について、戸惑いとともに、裏切られたという思いでいるかと思います。ですが、こうした「裏切り」もいえる家裁での対応は、最高裁判所の態度からすれば、半ば予想されたものだったといえるのかもしれません。
(3) こうした「裏切り」ともいえる家裁での対応について、最高裁は実に冷淡な回答を行っています。
「こうした対応について、最高裁家庭局は「夫婦の別居状況や離婚の理由などは個々で異なる。調停では、それらの事情を基に判断することになる。必要があれば前夫から話を聞くこともある」と説明。ただ、具体的な判断基準は示していない。」
最高裁のHPでの説明を見ればわかるように、元々、「必ず認知調停ができる」と確約したものではないのですし、また、調停も、個別具体的な事案ごとに判断するものであるのですから、各家庭裁判素で対応が異なるのは、ありえることでした。ですから、最高裁判所としては、内心では「過度に期待した側が悪い」と思っているのでしょう。
各家庭裁判所としては、子どもの後見的立場から判断するため、好意的に見れば、「慎重に判断しようとしている」のだとは思います。ですから、家裁から「前夫に連絡を取らなければならないこともある」と説明されるケースが、相次いでいるわけです。
しかし、こうした対応は、前夫が関わることなく認知調停を行いたいという、子どもと母親と現在の夫の意向に反しているのです。裁判官の裁量次第で、前夫が関わることなく認知調停を行うことも可能なはずですが、そこまで配慮できる裁判官は多くないのが現実ということなのです。
現在のところは、なるべく、子どもと母親と現在の夫の意向にそった形で「認知調停」を行うことを求めていくしかないのですが、個別裁判・調停での裁量次第では、無戸籍問題の解決としては不安定すぎます。不安定さが伴うのは、司法制度でこの問題を処理する限りはやむを得ないものです。
法務省の調べでは、毎年約3000人が離婚後300日以内に生まれています。去年6月時点で無戸籍になっている子供は、わかっているだけで227人にも上っているのです(朝日新聞平成20年7月6日付「社説」)。 これほど多くの子供たちの戸籍を認めるために、実の父親との親子関係の確認を求める調停や裁判をしなければならないというのは、当事者すべてにとって無用な負担であり、訴訟経済上も不適当です。
やはり、「無戸籍児の根本的な解決には法改正が必要」(家族の会の井戸正枝事務局長)なのです。親子法制は、子供の利益の保護こそが重要なのですから、子供の利益が損なわれている現状を見直すべきなのです。「離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子」と推定する民法772条の規定は、改正を行うべきと考えます。
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