FC2ブログ
Because It's There
主に社会問題について法律的に考えてみる。など。
03« 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 12. 13. 14. 15. 16. 17. 18. 19. 20. 21. 22. 23. 24. 25. 26. 27. 28. 29. 30.»05
2006/07/14 [Fri] 06:10:14 » E d i t
いまやW杯に関心のある者に限らず世界中の多数の人が、マテラッツィ選手が“何を言ったのか”真相を知りたがっていたわけですが、ジダン選手がついに仏テレビで頭突きの理由を語りました


1.まずは、朝日新聞(平成18年7月13日付夕刊19面)でのTV2局でジダン選手が語った記事について。
http://www.asahi.com/sports/update/0713/011.html

母や姉傷つける言葉 耐えきれなかった ジダン、「頭突き」TVで釈明
テロリスト発言『まあそうだ』
 
 サッカーW杯決勝で相手のイタリア選手に頭突きし、退場処分となったフランス代表主将のジネディーヌ・ジダン選手(34)は12日夜(日本時間13日未明)の仏テレビで「母や姉を傷つけるひどい言葉を繰り返され、耐えきれなかった」と釈明した。「ひどい言葉」の中身について自らは明らかにせず、真相究明は国際サッカー連盟(FIFA)の調査に委ねられる。ジダン選手が自身の行為について語ったのは初めて。

 ジダン選手は12日夕、仏の民放カナル・プリュスとTF1の看板キャスターによるインタビューに個別に応じ、その模様が両局のニュース番組で録画放映された。

 頭突きの原因となったマルコ・マテラッツィ選手(32)の「挑発」について、ジダン選手は「とても個人的なことだ。母と姉を傷つけるひどい言葉を繰り返された。1度や2度ならともかく、3度となると我慢できなかった」「言葉はしばしば(暴力)行為よりきつい。それは、私を最も深く傷つける言葉だった」と述べた。

 どんな言葉だったのかについて、同選手は「とても口には出せない」と伏せた。英紙がマテラッツィ選手の挑発として報じた「テロリスト売春婦の息子」との発言の真偽を問われると「まあそうだ」と答えた。ジダン選手はアルジェリア系移民2世。

 決勝の延長戦後半、ジダン選手はゴール前で激しいマークを続けていたマテラッツィ選手と言葉を交わした後、いったん離れかけたが、再び向かい合って頭突きを見舞った。ジダン選手によると、離れようとした後も同じ言葉を背中に浴びせられ、怒りが爆発したという。

 ジダン選手はまた「20億、30億人が見守る中での私の行為は許されないもので、特にテレビを見ていた子供たちに謝りたい。やっていいこと、悪いことを子どもに教えようとしていた人にも謝る」と語った。一方で「後悔はしていない。後悔すれば彼の言葉を認めることになるから」とも述べた。

 同選手はFIFAの調査に協力するとしたうえで「挑発した側も罰せられるべきだ」と審判の判断に注文。「W杯決勝の、しかもサッカー人生の終了10分前に面白半分にあんなことをすると思いますか」と、自らの怒りに理解を求めた。

 ジダン選手は、反移民を掲げるイタリアの政党幹部が「仏代表は黒人とイスラム教徒、共産主義者で構成されている」と発言したことにも触れ「私の行為より悪質ではないか」と批判した。

 マテラッツィ選手は伊スポーツ紙に、守備のためジダン選手のシャツを数秒間つかんだら「そんなにシャツが欲しけりゃ試合後に交換してやるよ」と見下した態度で言われ、ののしり返したと語っている。ジダン選手は「シャツ発言」を認めたうえで「誰も見下していない」と強調した。

 フランス国内では、国民的ヒーローの引退試合を本人が汚したことへの失望が尾を引くが、「彼の人間としての価値は変わらない。ジダンはジダンのままだ」(ドビルパン首相)との同情的な反応が優勢。61%が頭突きを「許す」とした世論調査(11日付パリジャン紙)もある。」



(1) ジダン選手は、具体的な内容までは述べなかったようですが、「自分の母と姉を深く傷つける言葉」を3回繰り返した」ことが頭突きをした理由であり、しかも、「『テロリスト売春婦の息子』との発言の真偽を問われると『まあそうだ』と答えた」のですから、真実だとしたら大変深刻です。

「母と姉を深く傷つける言葉」は、「女性差別的表現・発言」にあたりますし、イスラム教国であるアルジェリアは家族を大切にすることから、ジダン選手にとって家族への侮辱は極めて許されない行為でしょう。しかも、イスラム教国であるアルジェリア系移民ゆえにテロリストと呼んだことになりますから、人種差別と同列に扱われる「民族差別」にもあたるからです。


(2) すでにネット上でもイスラム教徒と思われる方たちが、家族を侮辱したことに対して激しい憤りを表明しているように、家族への侮辱に対する激しい憤りはイスラム教が背景にあるといえます。

また、アルジェリアのブーテフリカ大統領は11日、「アルジェリア国民を代表し、ジダンに連帯感と親愛の情を表すため、昨日(10日)手紙を出した」と述べて、フランスのジダンを擁護する内容の手紙を同選手に送ったことを明らかにしています(東京新聞平成18年7月12日)。

さらに、「終身上院議員のコシガ元大統領『シラク仏大統領とアルジェリア大統領に発言をおわびしたい』と述べた。同元大統領が伊記者団に明かしたマテラッツィ発言は『お前の姉は売春婦で、汚いアラブ人でテロリストだ』。」(朝日新聞7月13日夕刊)とも報道されています。

この事件は、もはや国際問題化しているようです。


(3) キリスト教やイスラム教における宗教心への理解が乏しかったり、人種差別に対する切迫感のないと思われる日本人には、ジダン選手の行動が理解できないことかもしれません。

しかし、ジダン選手が「『後悔はしていない。後悔すれば彼の言葉を認めることになるから」と述べているように、宗教・民族問題に関わる侮辱的差別発言や宗教心を背景とした家族への侮辱発言は、「W杯決勝の、しかもサッカー人生の終了10分前に」暴力的行為に出てしまうほど個人の尊厳を傷つける問題であることを理解すべきであると思います。

暴力は許されないことは確かですが、侮辱的差別発言に対して、「プライドをもって自分を自分として確立し、アイデンティティを保持」(憲法の争点105頁)するための行為であったとも評価できると思うのです。


(4) この事件に対する日本人らしい反応として、伊藤洋一・住信基礎研究所主席研究員の発言をあげることができます。

「やじうまプラス」(7月13日)というテレビ番組において、伊藤洋一・住信基礎研究所主席研究員は、「スポーツでは家族を含め侮辱発言は許される、何を言われても手を出すほうが悪い」と発言しています。

しかし、侮辱発言はFIFA規則に違反する行為です。また、日本刑法では侮辱罪(231条)に該当する可能性がある犯罪行為であり、また、挑発行為をした者が相手から攻撃された場合には、挑発行為をした者が防衛行為をしても違法(正当防衛は認められない:自招防衛)なのです。法理論としても、「何を言われても手を出す方が悪い」わけではないのです。もちろん、ドイツで行われた行為ですからドイツ法が適用され、人種差別発言に対して処罰規定のあるドイツ法で処罰される可能性もあります。

このように、侮辱発言はサッカーにおいても法的にも許される行為ではありません伊藤氏のようにスポーツは無法地帯だと思い込んでしまったり、法遵守の意識が乏しいようでは、この事件を正しく理解できないと考えます。


「沈黙のジダン チームメートがマテラッツィを糾弾 [06.07.10](スポニチのHP)という記事には、フランス代表のチームメイトのコメントが出ています。

「他のチームメートたちは、あのような形でジダンの一流の経歴を終わらせたマテラッツィに非難を浴びせる。まずはDFウィリアム・ギャラス。
 「10人になったってオレたちの勝利への意欲は衰えなかった。あんなことをしても無駄だったんだ。あいつの顔を見かけたら、オレがぶん殴ってやるよ」
 次にダビド・トレゼゲ。彼はPKをミスしたが、ジダン退場で動揺したせいにはできないと語り、むしろ言葉にできないような無礼な振る舞いだったマテラッツィを糾弾する。
 「ジズーは顔を上げて大会を去ればいいんだ。あいつ(マテラッツィ)はカップを勝ち取ったかもしれないが、胸を張ることはできないだろう?サッカーよりも大切なものが人生にはあるってことだ」」


チームメイトは、ジダン選手には、決勝戦それも現役最後の10分を犠牲にしてでも譲れないほどのことを言われたのだと思い、ジダン選手に対する尊敬がゆるぎないことを表明しています。伊藤氏の感覚では、チームメイトのコメントは理解できないことになるでしょう。




2.asahi.com(2006年07月13日23時01分)には、フランスにおけるジダン選手のテレビ会見についての反応が出ています。

ジダン発言、差別には反発の声 暴力には批判 仏国内

 仏代表主将のジダン選手が12日、サッカーW杯決勝でイタリア選手を頭突きし、退場になった理由について「耐えきれない言葉を繰り返された」と釈明したことで、この出来事が投げかけた仏国内の波紋はさらに広がった。メディアではジダン選手の行為は「差別への反撃」と受け止められ、人種差別問題への取り組みを求める声が強まる一方、「それでも暴力は許されない」「スポーツ選手に過大な理想を求めるのも問題」との声も聞かれた。

 パリジャン紙は13日、「カウンターアタックが始まった」との見出しを掲げた。ジダン選手の12日の発言には、人種差別解消の先頭に立たないサッカー界へのいらだちが込められていると見る。

 同選手は人種差別という表現は避けたものの、「テロリスト売春婦の息子」とののしられたとする報道は否定しなかった。アルジェリア系移民2世のジダン選手をはじめ、移民の大半を占めるイスラム圏出身者に「テロリスト」は最大の侮辱だ。

 多人種化が進む欧州サッカー界は、移民社会と伝統社会がせめぎ合う欧州社会の縮図。選手同士や観客による差別事件もあとを絶たない。今回のW杯後も、フランスでは右翼政党が「有色人種ばかりのチームは仏代表ではない」と決勝敗退を歓迎した。

 その一方、リベラシオン紙は12日の発言について「ジダン選手のふるまいを認めたら、街中がけんかだらけになってしまう」という移民社会の若者の声を伝えた。進学や就職で差別されるフランスの移民社会では、スポーツが子供たちを非行や暴力から遠ざける貴重な機会。模範としていたジダン選手の退場劇は、そんな努力にも水を差した。各地のスポーツ指導員からも同選手に対し、「子供たちのためにも非を認めてほしい」という声が広がっていた。

 W杯後、ジダン選手に対する擁護論が広がる雰囲気に、在仏アフリカ系団体は「はけ口を暴力に求める移民社会の若者は容赦なく取り締まりながら、なぜジダン選手は国をあげて許すのか」と、仏社会の「二重基準」を批判していた。

 一人のスポーツ選手に社会全体を投影することをいさめる声も出た。ラファラン前首相は朝日新聞に「スポーツを政治的な分析対象にしてはならない」と話した。

 フランスをW杯初優勝に導いた98年、ジダン選手は「多民族社会の良さを体現した」とたたえられた。そして今回は「差別の犠牲者」。同選手は発言の中で「私もひとりの人間に過ぎない」と吐露し、自らにかかる重圧感をにじませた。 」


日本のテレビ報道では、人種差別的な要素があったことは触れていなかったようですが、フランスのメディアは、ジダン選手の行為は人種差別発言への反撃であったと受け取ったようです。だからこそ、フランスではジダン選手擁護論が多数なのでしょう。

他方で、「はけ口を暴力に求める移民社会の若者は容赦なく取り締まりながら、なぜジダン選手は国をあげて許すのか」という、仏社会の「二重基準」へ批判する声があることにも注目すべきです。要するに、単純にジダン選手による暴力を批判するのではなく、移民住民に対する政府の厳しい取り締まりとの不平等感があるとともに、サッカーに限らず、移民社会の若者による暴力が深刻な問題となっていることを明らかにしているからです。


なお、ジダン選手が言ったような暴言が本当であったかどうかについては、YOMIURI ONLINE(2006年7月13日20時38分 読売新聞)によると、「13日付の伊紙『コリエーレ・デラ・セラ』は、頭突きをされたイタリアのマテラッツィが、ジダンの姉を侮辱したことを事実上認めた、と報じた。同紙に対し、マテラッツィは、宗教、政治、人種やジダンの母親に絡む侮辱はなかったと主張。『姉が残るが』との問いに、『消去法でいけばそうなる』と答えた。」そうです。
今のところ、少なくともジダン選手の姉に対する耐え難い侮辱発言を行ったことは事実のようです。




3.この問題についてはどのような処分が行われるのでしょうか?

(1) asahi.com(2006年07月13日10時23分)によると、仏リーグ会長は、次のようにFIFAにマテラッツィ選手に対して処罰を求めています。
http://www.asahi.com/sports/update/0713/056.html

仏リーグ会長、FIFAに伊選手への処罰望む

 仏プロサッカーリーグ(LFP)のチリエ会長は12日の仏ラジオで、ジダン選手が頭突きしたマテラッツィ選手について「処分対象になりうる過ちを犯した疑いが濃い」と述べ、国際サッカー連盟(FIFA)に「挑発行為」として処罰するよう促した。

 チリエ会長は「FIFAの使命は、ジダンに過ちを犯させた背景に光を当てること。マテラッツィが試合全般を通してジダンに何を言っていたのかを正確につかむことだ」と語った。また「ジダンは重い償いをした。FIFA規則によれば、挑発行為は2~4試合の出場停止に値する」とも指摘した。

 ただ、イタリアの優勝自体に異議を唱える可能性については「責任はチームではなく(マテラッツィ)個人にある」と否定した。」


この記事から2点のことが分かると思います。

1つは、マテラッツィ選手に対する処分です。挑発行為はFIFA規則に違反する行為なので、マテラッツィ選手に対する懲戒処分が要求されていて、今なされている報道を前提にすると懲戒処分がなされる可能性が高いことが分かります。

もう1つはイタリアチームに対する処分です。「イタリアの優勝自体に異議を唱える可能性については『責任はチームではなく(マテラッツィ)個人にある』と否定」していることからすると、イタリアチームに対する処分の可能性がありうることであって、しかもイタリアチームに責任はないと述べなければならないほど、イタリアの優勝取り消しを求める意見が少なくないことが分かります。



(2) asahi.com(2006年07月14日00時29分)によると、

FIFAがマテラッツィへの調査開始 ジダン退場問題

 国際サッカー連盟(FIFA)は13日、W杯決勝でフランス代表のジダンがイタリア代表のマテラッツィに頭突きをして退場処分になった問題で、規律委員会がマテラッツィに対する調査を始めたと発表した。

 ジダンは自分の主張を18日までに書面でFIFAに送ることができる。書面はマテラッツィにも送付され、マテラッツィはこれに反論できる。そのうえで規律委が、20日に両者を対面させて事情聴取するという。同日中に結論が出る見通し。 」

だそうです。
いよいよFIFAによる本格的な調査が始まったようです。ジダン選手とマテラッツィ選手の言い分が異なることが予想されますが、食い違いについては、複数の読唇術の専門家によって判断されるのではないかと思います。決勝戦の録画が唯一の客観的証拠ですし、それを証拠といえるほどの鑑定ができるのは読唇術の専門家だけだと思われるからです。
事件 *  TB: 1  *  CM: 0  * top △ 
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://sokonisonnzaisuru.blog23.fc2.com/tb.php/120-c7de756c
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック
『主権在米経済』著者の小林興起さん(前衆議院議員、「新党日本」代表代行)のことを以前は「ならず者的雰囲気の人だなあ」と思っていました。ところが、小林さんは東大法学部を卒業後、通商産業省に入省し、政府派遣留学生として米国ペンシルベニア大学ウォートン・スクー
2006/07/20(木) 20:20:45 | 喜八ログ