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「無戸籍児家族の会」は5月20日、鳩山法相と面会し、改善を求める兵庫県の井戸敏三知事からの要望書とともに、法務省通達(医師の証明書で「前夫との離婚後に妊娠した」と証明すれば現在の夫の籍に入れられるとの内容の通達にとどまる)の運用の見直しや民法772条の抜本改正を求めました。面会には、公明党の浜四津敏子代表代行らが同行し、家族の会の井戸正枝事務局長ら約10人が臨んだとのことです(毎日新聞 2008年5月20日 東京夕刊)。
1.まず報道記事を幾つか。
(1) 毎日新聞 2008年5月21日 東京朝刊
「無戸籍児家族の会:事態改善へ一歩…法相の意欲を評価
離婚後300日規定(民法772条)により無戸籍になった子供の家族で作る「無戸籍児家族の会」のメンバーらは20日、鳩山邦夫法相と面会後、記者会見した。無戸籍児を抱える家族が法相に面会するのは初めて。家族によると、面会で法相は「772条難民を作っている」と現状を表現するなどし、事態の改善に意欲を示したという。
会見では、東京都墨田区の川村美奈さん(39)が「戸籍のない子がいなくなる一歩」と話すなど、面会をおおむね評価する声が相次いだ。また、三重県亀山市で行政サービスを受ける際に、「念書」を書かされた小島典子さん(37)は「いまだに自治体によって対応がまちまちな現状を大臣に知ってほしい」と話した。
面会は、離婚後妊娠に限って「現夫の子」の届を認める法務省通達(昨年5月21日から出生届の受け付け開始)から1年になるのを機に、家族会の要望で実現した。
法務省によると、以前なら「前夫の子」とせざるをえなかったが、通達によって「現夫の子」で出生届を受理されたのは472件(9日現在)に上る。規定の見直しを求める地方議会からの声も多く、20日現在114の議会で意見書を可決している。【工藤哲】
毎日新聞 2008年5月20日 21時03分」
(2) NHKニュース(5月20日 12時35分)
「民法規定で無戸籍 法相に要望
女性が離婚して300日以内に出産した場合、戸籍上、前の夫の子どもと推定する民法の規定が障害となって戸籍がない子どもの親たちが鳩山法務大臣と面会し、離婚前に、後に再婚した夫との子どもを妊娠した場合も、実の父親の子としての出生届を認めるよう要望しました。
申し入れを行ったのは兵庫県の井戸正枝さんら10人で、20日午前、法務省を訪れて鳩山法務大臣と面会しました。いわゆる民法の300日規定をめぐっては、去年5月から、女性が離婚して300日以内に出産した場合でも離婚後に妊娠したことが確認できれば、再婚した夫の子としての出生届が認められるようになりました。
しかし、離婚前に妊娠した場合は、戸籍上、前の夫の子どもとなるため、母親が出生届を出さず、戸籍がない子どもが問題となっています。このため、井戸さんらは「夫の暴力などの理由で、離婚したくてもできない場合もある」などと実態を説明し、やむをえない事情がある場合は、離婚前に、後に再婚した夫との子どもを妊娠した場合も、実の父親の子としての出生届を認めるよう要望しました。
これに対し、鳩山大臣は「論点が多い問題なので、方針が決まっているわけではないが、子どものことを中心に考えなければならない。虚心たんかいに受け止めたい」と答えました。
10か月の息子が戸籍のない状態になっている三重県の小島典子さんは、法務大臣との面会を終えて「戸籍のない子どもへの対応が自治体によって異なることなどを訴えました。現状を把握して早急に対応すると大臣に言ってもらえたので、三重県から来たかいがありました。戸籍のない子が一日も早く救われるようにしてほしいと思います」と話していました。」(原文と異なり、段落分けをしました。)
(1) 無戸籍となった者は、その者自身の憲法上の多くの人権が損なわれていることから、多くの憲法上の人権が保障されないことの連鎖が続くのです。
それだけではありません。
戸籍は、日本人の身分上の事実や親族関係を登録し公証する制度です。戸籍は、民法上の親族関係を基礎にしつつも、それとは独立の基準により編製されています。すなわち、氏の同一性(同氏同籍の原則、復氏復籍の原則)と家族単位(家族簿主義)の2つを原則として編製の基準としています。氏の同一性の原則は、氏を同じくする者は同じ戸籍に入るということであり、身分変動(婚姻、養子縁組、離婚、離縁など)や子の氏変更によって氏が変わった場合には、それに応じて戸籍も変わることになります。他方、家族簿主義は、個人単位での登録をせずに、一定の範囲の家族を単位として登録することです。
無戸籍となった者は、日本人でありながら「身分上の事実や親族関係を登録し公証」することがなく、法律婚も不可能であることから、法律婚といった身分上の事実も戸籍にされず、その無戸籍となった者の子供もまた、無戸籍となるのです。こうして、多くの身分関係が登録されず、延々と無戸籍者が連なっていくとなると、「日本人の身分上の事実や親族関係を登録し公証する」戸籍制度は崩壊します。
しかも、今の夫の子であるにもかかわらず、民法の規定で認められない子供が、少なくとも年間で1000人以上に上る可能性があるとの報道がありました(TBSニュース:2007年02月15日10:59)。このすべてが無戸籍児となっているわけではありませんが、年々、相当数の子供が無戸籍になっていると予想できます。
出産年齢が高齢化してきていることから、どうしても子供を産む年齢が限界に近くなってくるため、女性だけでなく、夫婦にとって一日でも早く子供をもうけたいという気持ちになり、300日は長く感じられてきます。また、出産年齢の高齢化は早産化の傾向を生じますから、300日規定を知っていて、300日に出産予定であっても、思わぬ早産で前の夫の子供になっていまい、困ってしまう夫婦が増加しています。出産年齢の高齢化により、300日規定の不合理性がより顕在化しているのです。
このように、「無戸籍の連鎖」はますます加速していく可能性があり、ますます戸籍制度の崩壊をもたらしているといえるのです。だからこそ、問題視されているのです。
(2) 鳩山法相との面会では、次のようなことになっています。
「家族によると、面会で法相は「772条難民を作っている」と現状を表現するなどし、事態の改善に意欲を示したという。」(毎日新聞)
「これに対し、鳩山大臣は「論点が多い問題なので、方針が決まっているわけではないが、子どものことを中心に考えなければならない。虚心たんかいに受け止めたい」と答えました。
10か月の息子が戸籍のない状態になっている三重県の小島典子さんは、法務大臣との面会を終えて「戸籍のない子どもへの対応が自治体によって異なることなどを訴えました。現状を把握して早急に対応すると大臣に言ってもらえたので、三重県から来たかいがありました。戸籍のない子が一日も早く救われるようにしてほしいと思います」と話していました。」(NHKニュース)
「無戸籍児家族の会」の方は、鳩山法相との面会を「現状を把握して早急に対応すると大臣に言ってもらえた」として好意的に受け取っているようです。本当にそういった形になり、救済されるとよいことは確かです。
しかし、問題解決に程遠い通達で誤魔化した法務省が、本当に救済を行うのでしょうか。とても「無戸籍児家族の会」のような希望をもつことはできないのです。
<5月24日追記>
毎日新聞平成20年5月23日付夕刊12面を引用。
「無戸籍児:鳩山法相「特別な計らいを」 無戸籍女性出産、救済へ
鳩山邦夫法相は23日の閣議後会見で、離婚後300日規定により無戸籍となった兵庫県の女性(27)が6月に出産を予定する子供も無戸籍となることが懸念されている問題について「生まれる子の福祉や身分の安定のために特別な計らいができなければならないと思う」と述べ、救済に乗り出す考えを示した。
法相は「すべての子に戸籍を持たせなくてはいけないと思っている。親のさまざまな事情で子が不幸になってはいけないのが大原則」と述べ、法務省民事局で具体策を検討することを明らかにした。
兵庫県の女性は、母親が「前夫の子」としての出生届の提出を拒んだため戸籍も住民票もない。昨年夏、事実婚の形で結婚し、6月に出産を予定しているが、戸籍がないため出生届が不受理となる可能性が高い。【工藤哲】
毎日新聞 2008年5月23日 東京夕刊」
救済に乗り出すことはよいです。鳩山法相は「すべての子に戸籍を持たせなくてはいけないと思っている。親のさまざまな事情で子が不幸になってはいけないのが大原則」と述べていますが、珍しく実に妥当な発言をしています。
ただし、この子供だけの「特別な計らい」にとどまるのでは、平等原則(憲法14条)に反します。多くの無戸籍児が救済されるような「特別の計らい」を行うべきです。
ちなみに、「親のさまざまな事情で子が不幸になってはいけないのが大原則」というのは、あらゆる親子関係に求められることです。そうであれば、代理出産によって生まれる子供も「親のさまざまな事情で子が不幸になってはいけない」として、代理出産依頼夫婦を「親」と扱うべきことになります。
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