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2008/10/31 [Fri] 04:59:30 » E d i t
戦時下最大の言論弾圧とされる「横浜事件」については、第4次再審請求がなされています。この第4次再審請求に対する再審開始の可否について、10月31日(金)午前10時から横浜地裁で言い渡されます。



1.asahi.com:マイタウン・神奈川(2008年10月11日)

横浜事件 再審開始判断31日に
2008年10月11日

 戦時下最大の言論弾圧事件とされる「横浜事件」で、治安維持法違反の罪に問われた雑誌「改造」元編集部員の遺族による第4次再審請求の弁護団に10日、横浜地裁から31日に再審開始するか否かの決定をするとの通知があった。第3次請求の免訴確定から半年余り。遺族側の関係者らは、決定理由で地裁が実質的な「無罪判断」を示すかどうかに注目している。

 この編集部員は、故小野康人さん。小野さんは、42年に雑誌「改造」に発表された政治学者、故細川嘉六氏の論文「世界史の動向と日本」の校正を担当。当時の神奈川県警はこの論文が「共産主義の啓蒙(けいもう)だ」として、43年5月に小野さんを治安維持法違反容疑で逮捕。

 敗戦直後の45年9月に横浜地裁で有罪判決を受け、翌月に治安維持法が廃止されて大赦を受けた。59年に51歳で亡くなった。

 1次、2次の再審請求では小野さんの妻が請求人となったが、95年に他界した。その後は小野さんの次男(62)と長女(59)が請求している。

 4次の弁護団はこれまで、共産党再建のための謀議とされた、富山県泊町(現・朝日町)の会合(泊会議)を「編集者の慰労会に過ぎず、事件は『でっちあげ』だ」などと主張している。

 大川隆司弁護団長は「まずは開始決定の理由で実質的に無罪の判断が示されるよう、注目している」とコメントした。

(長野佑介)

 ◆キーワード・横浜事件◆ 戦時下の1942年から45年にかけ中央公論や改造社、朝日新聞などの言論・出版関係者ら約60人が「共産主義を宣伝した」などとして治安維持法違反容疑で逮捕された事件の総称。約30人が起訴され、45年8~9月に有罪判決を受けた。その後、拷問をしたとして元特高警察官3人が有罪となった。

 元被告や遺族は86年以降、4度の再審請求を申し立て。1次、2次はいずれも棄却。3次は請求が認められたが、06年2月の横浜地裁の再審判決は「治安維持法が廃止になっている」として、有罪、無罪の判断をせずに裁判手続きを打ち切る「免訴」を言い渡し、今年3月に確定した。」



第3次再審請求では、治安維持法廃止を理由に有罪無罪の判断に踏み込まない免訴判決が確定しています(「横浜事件:最高裁は免訴判決で確定(上)~言論弾圧に加担した司法の戦争責任を何ら清算せず」(2008/03/16 [Sun] 06:18:35)「横浜事件:最高裁は免訴判決で確定(中)~免訴判決を妥当とした最高裁判決を妄信し礼賛するのは止めるべきでは?」(2008/03/25 [Tue] 05:07:13)参照)。

このため、第4次で再審が始まったとしても、最高裁に従い、同じ結論となる可能性が高いことから、「再審開始決定の理由で実質的に無罪の判断が示されるかどうか」が注目されています。この「横浜事件」第4次再審請求について、東京新聞「こちら特報部」で記事にしていましたので、紹介しておきたいと思います。



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テーマ:死刑 - ジャンル:政治・経済

裁判例 *  TB: 2  *  CM: 2  * top △ 
2008/10/30 [Thu] 01:41:11 » E d i t
森英介法相は10月28日午前、久間三千年さん(70)、高塩正裕さん(55)の刑を執行したと発表しました。死刑執行は9月11日以来で、麻生内閣では初めてあり、先月24日に着任してからわずか1ヶ月での執行です。今年5回目の死刑執行であり、今年の執行は計5回15人となり、執行者数が公表されるようになった1999年以降、年間執行回数も執行者数も最多を更新しました。

クローズアップ2008:死刑執行、ハイペース 強まる「自動化」 背景に確定者増加

 森英介法相は執行後の会見で「法の求めるところに従って粛々と職責を果たした。時期や間隔は一切意識にない」と述べた。先月24日に着任してから1カ月。保岡興治前法相下での前回の執行(9月11日)から1カ月半という間隔は、93年の死刑再開以降で最も短い。「法相は通常、着任後3カ月は、勉強期間でもあり執行はしない」(法曹関係者)との慣例からも外れる異例の執行と言える。

 昨年8月に就任した鳩山邦夫元法相は「自動執行」の方向性を打ち出した。保岡前法相、森法相の執行で、その傾向がはっきりしたと保坂議員はみる。」(毎日新聞2008年10月29日東京朝刊3面



1.報道記事を幾つか。

(1) 朝日新聞平成20年10月28日付夕刊15面(4版)

2人の死刑執行 森法相就任1ヶ月で初
2008年10月28日11時13分

 法務省は28日、死刑囚2人に死刑を執行したと発表した。森英介法相が9月24日に就任してからほぼ1カ月で初めての執行となった。福田前首相が退陣を表明した直後の9月11日に保岡前法相が3人に執行して以来。これで確定死刑囚は101人となった。

 死刑は、約1年の在任期間中に13人に執行した鳩山元法相の当時から、約2カ月に一度の割合で執行されていた。今回は、それを上回るペースで行われたことになる。

 森法相は、執行を発表する会見で「法の求めに従って粛々と自らの職責を果たした。慎重かつ適正な検討を加えた。時期や間隔は一切、意識にない」と語った。就任時の記者会見では、死刑について、「粛々と実施することが妥当。鳩山元大臣の考えに共感する」と話していた。

 法務省によると、執行されたのは久間三千年(くま・みちとし)(70)、高塩正裕(55)の2死刑囚。久間死刑囚は福岡拘置所、高塩死刑囚は仙台拘置支所で執行された。

 久間死刑囚は、92年2月に福岡県飯塚市で登校中の小学1年の女児2人を車に誘い込み、首を絞めて殺害。遺体を同県甘木市(現・朝倉市)の山中に捨てた。殺人と死体遺棄などの罪に問われ、06年9月に最高裁が上告を棄却し、死刑が確定した。同死刑囚は、逮捕以来、一貫して無罪を主張していた。

 高塩死刑囚は04年3月、福島県いわき市で、女性(当時83)と、その娘(同55)の2人をナイフで刺して殺害し、現金約5万円を奪った。強盗殺人罪に問われ、06年12月に高塩死刑囚側が上告を取り下げて、死刑が確定していた。

 07年までの10年間で執行された死刑囚は刑が確定してから平均して8年間、拘置所に収容されてきたが、久間死刑囚は約2年、高塩死刑囚が約1年10カ月だった。

   ◇

 久間死刑囚の死刑が執行されたことについて、福岡県飯塚市の被害者の遺族の1人(50)は朝日新聞の取材に対し「死刑執行は1つの区切りであって、今でも事件と犯人は許し難い」と語った。また「同じような事件が二度と起こらないようにしてほしい」と語った。
 
 高塩死刑囚に、母と姉を殺害された遺族の女性は「こんなに早く執行されるとは思わなかった。改めて亡くなった2人の冥福を祈りたい。死刑執行がひと区切りとも言えない。事件から年月がたっても、気持ちが癒やされることはない」と話した。」



(2) 時事通信(2008/10/28-12:23)

2人の死刑執行=森法相就任後初-女児誘拐殺人の久間死刑囚ら・法務省

 法務省は28日、福岡県で女児2人を殺害した久間三千年死刑囚(70)=福岡拘置所=と、福島県2女性殺害の高塩正裕死刑囚(55)=仙台拘置支所=の刑を執行したと発表した。9月に就任した森英介法相の下では初。執行は同月11日以来で、47日の間隔は、執行を法務省が公表するようになった1998年以降で最短。
 鳩山邦夫元法相、保岡興治前法相に続き、死刑囚の氏名と犯罪事実、執行場所を公表した。執行は今年になって計15人で、未執行の死刑確定囚は101人となった。
 執行後に記者会見した森法相は「慎重な検討を加えた上で、法の求めに従って粛々と執行した。間隔や人数は意識していない」と述べた。(2008/10/28-12:23)」


その鳩山元法相は「友人の友人はアルカイダ」など多くの妄言を繰り返し、日本文化への理解も間違っており、刑事訴訟法への理解は実に乏しいものでした。森法相は、そういう「鳩山元大臣の考えに共感する」と話しているのですから、森法相も同類といえそうです。「同類」だからこそ、「法相は通常、着任後3カ月は、勉強期間でもあり執行はしない」(法曹関係者)との慣例からも外れる異例の執行でさえも、森法相にとっては抵抗がなかったのでしょう。

久間三千年さんの事件は、犯行場所も殺害状況も動機も、正確には何も真相が分かっておらず(西日本新聞)、「逮捕以来、一貫して無罪を主張していた」(朝日新聞)のですし、他方で、高塩正裕さんは、自暴自棄になったかのように上告を取り下げた結果、死刑が確定したという事情があったのです。このような今回の裁判の事情をも考慮すれば、1ヶ月というわずかな時間では、十分な判断をすることは困難です。

森法相は、ほとんど勉強することもなく死刑執行命令書に署名してしまうのですから、職責の重さを理解できないままで処刑を行ったといえ、救いがたいほど法相としての資質を欠いています。こうした資質が劣化している国会議員を法相に就任させるしかなかった自民党、そして、こうした人物を法相とした麻生首相にも問題があり、また、こうした著しく劣化した法務大臣(自民党議員)を焚き付けて、死刑執行に署名をさせてしまう法務省もまた、問題があるように思います。


10月28日、被害者のコメントを掲載したのは、朝日新聞だけでした(後日、毎日新聞や読売新聞は地方版でのみ掲載)。以前から、全国版において被害者のコメントを掲載しているのは朝日新聞だけのように思えます(その意味で、「全国犯罪被害者の会(あすの会)」が朝日新聞に対して、コラム「素粒子」の「死に神騒動」に関して謝罪要求をしたのは実に奇妙な感じがしました。)。

世論の一部は、盛んに被害者感情に配慮せよと唱えるのですが、朝日新聞に目を通して、被害者の発言に真剣に耳を傾けているのでしょうか。世論の一部は、本当に被害者のためになる行動をしているのでしょうか。

世論の一部は、加害者を恨み続け、死刑存置に積極的な「良い遺族」を持ち上げ、憐憫の情を抱き、加害者の更生を願い、死刑廃止を容認する「悪い遺族」に対しては非難しているのです。「悪い遺族」は、一般の人から「被害者の気持ちを考えろ」となじられ、記者から「残虐な殺され方をしても許せるか」と問われたりするのです(「「死刑――存廃を問う前に」(第1回):死刑制度に疑問投げかける被害者遺族(東京新聞3月23日付「こちら特報部」より)」(2008/04/15 [Tue] 19:05:48)参照)。

結局は、世論の一部にとっては、被害者はどうでもいい存在であって、ただ自らの復讐感情を満たすだけのために、「良い被害者・遺族」の「被害者感情」を引き合いに出しているだけのように思えます。



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テーマ:死刑 - ジャンル:政治・経済

2008/10/28 [Tue] 01:06:40 » E d i t
仕手集団「光進」(破産)の小谷光浩元代表(71)による恐喝事件に絡み、蛇の目ミシン工業(東京都中央区)に巨額の損失を与えたとして、同社株主が元役員5人に損害賠償を求めた株主代表訴訟の差し戻し後の上告審で、最高裁第1小法廷(甲斐中辰夫裁判長)は10月2日、旧経営陣側の上告を棄却する決定をしました(時事通信(2008/10/02-17:04)「旧経営陣に583億円賠償確定=蛇の目ミシン株主訴訟-最高裁」日経新聞平成20年10月3日付朝刊39面)。

この蛇の目ミシン株主代表訴訟では、1、2審では旧経営陣の賠償責任を否定したのですが、「最高裁平成18年04月10日(第60巻4号1273頁)」は責任を認め、賠償額(旧経営陣の負担すべき損害額,利益供与額等)算定のため審理を東京高裁に差し戻していました。差戻控訴審の東京高裁判決は、旧経営陣に約583億6000万円の支払いを命じており、上告棄却により、その東京高裁判決が確定したことになります。



1.報道記事を幾つか。

(1) 共同通信(2008/10/02 20:19)

583億円賠償が確定 蛇の目株主代表訴訟

 仕手集団「光進」の小谷光浩元代表(71)=懲役7年確定=による恐喝などに応じ会社に損害を与えたとして、蛇の目ミシン工業(東京)の株主が、元社長ら旧経営陣5人に約612億5000万円の損害賠償を求めた株主代表訴訟で、最高裁第1小法廷(甲斐中辰夫裁判長)は2日、旧経営陣側の上告を退ける決定をした。

 旧経営陣の責任を認め、約583億6000万円を同社に支払うよう命じた2審東京高裁判決が確定した。

 1、2審では旧経営陣の責任は否定されたが、最高裁は2006年、「不当な要求に従った過失がある」として賠償責任を認め、支払額算定のため審理を高裁に差し戻した。旧経営陣は、差し戻し控訴審判決が高額過ぎるとして、上告していた。

 この訴訟では、01年3月の1審東京地裁判決が、同社の取締役でもあった小谷元代表について939億円の賠償責任を認定。元代表側も株主も控訴せずに確定し、ほかの役員に対する訴訟が継続していた。

2008/10/02 20:19 【共同通信】」



(2) NHKニュース( 10月2日 21時5分)

蛇の目旧経営陣 巨額賠償確定

 「蛇の目ミシン工業」の株主が旧経営陣を訴えた株主代表訴訟で、583億円の巨額の賠償を命じた判決が最高裁判所で確定しました。確定した賠償額としては過去最高とみられます。

 「蛇の目ミシン工業」が自社株の売買に関連し、仕手グループに300億円を脅し取られた事件をめぐっては、株主の男性が、当時の社長や副社長など5人に、会社に賠償するよう求める株主代表訴訟を起こしていました。2審の東京高等裁判所は「仕手グループの脅しに屈し、不当な要求を受け入れた旧経営陣の対応はあまりに稚拙だった」として、583億円の賠償を命じていました。

 これについて、最高裁判所第1小法廷の甲斐中辰夫裁判長は、2日、旧経営陣の上告を退け、巨額の賠償を命じた判決が確定しました。大手企業の株主代表訴訟では、「ダスキン」の旧経営陣に53億円の賠償を命じた判決がことし2月に確定していますが、今回はその10倍を超える巨額の賠償額で、確定した賠償額としては過去最高とみられます。」



(3) 朝日新聞平成20年10月3日付朝刊34面

旧経営陣の583億円賠償確定 蛇の目ミシン株主訴訟
2008年10月2日18時59分

 仕手集団「光進」の小谷光浩元代表=恐喝罪で有罪確定=から約300億円を脅し取られるなどした「蛇の目ミシン工業」(東京都中央区)の森田暁元社長ら旧経営陣5人が、約610億円の損害賠償を求められた株主代表訴訟で、最高裁第一小法廷(甲斐中辰夫裁判長)は2日、元社長らの上告を棄却する決定をした。提訴から15年を経て、約583億円の賠償を命じた東京高裁判決が確定した。

 株主代表訴訟では旧大和銀行の役員らに計7億7500万ドル(当時の為替レートで約830億円)を命じた大阪地裁判決があるが、01年に2億5千万円の支払いで和解している。賠償額が確定する例としては、今回の訴訟が過去最高額とみられる。

 訴訟は93年に起こされた。一、二審とも元社長らの責任を認めなかったが、最高裁が06年に「過失は否定できない」と判断し、審理を東京高裁に差し戻した。差し戻し後の控訴審判決は583億円の賠償を命じ、旧経営陣が上告していた。

 差し戻し後控訴審判決によると、元社長らは小谷元代表に求められて300億円を支出したほか、債務の肩代わりを続け、最終的に約583億円の利益供与をした。(中井大助)」



蛇の目ミシン株主代表訴訟については、<1>「蛇の目ミシン株主代表訴訟最高裁判決」(2006/04/14 [Fri] 05:52:44)、<2>「蛇の目ミシン代表訴訟の差戻控訴審:東京高裁平成20年4月23日判決は、旧経営陣5人に583億円の賠償命じる」(2008/04/25 [Fri] 05:21:17)というように、2つほど論じたことがありますが、今回の差戻上告審がでたことにより、この訴訟はすべて終結したことになります。



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テーマ:裁判 - ジャンル:政治・経済

諸法 *  TB: 1  *  CM: 2  * top △ 
2008/10/27 [Mon] 00:00:04 » E d i t
最近、読売新聞は、「進化する人工臓器」というタイトルでの連載記事を始めました(読売新聞平成20年10月19日(日)朝刊から連載)。


1.まず、人工臓器とは何か、について触れておきます(日本人工臓器学会」のHPから引用)。

人工臓器とは?

心臓、肺、肝臓、腎臓などの臓器の機能が損なわれると種々の病気になり、重い場合は生命の危機にさらされます。人工臓器は、このように病んだ臓器の代行を目的として開発されたもので、さまざまな治療を通じて機能補助が行われます。一口に人工臓器といっても、20万人を超える患者さんの命を救っている人工腎臓(血液透析)から、人工肝臓のように臨床使用されていないものまで、さまざまです。」



(Q1)

人工臓器の定義について教えてください。

(A1)

人工臓器は、生体臓器(または組織)の機能の一部(または全部)を一時的に(または半永久的に)代行する人工(または半人工)の装置のことです。しかし言葉で述べる以上に、上の定義は色々な解釈ができます。たとえば、非常に広く捉えれば、入れ歯、松葉杖、メガネなども上の定義に当てはまりますので、広義の「人工臓器」かもしれませんが、普通はこのようなものをさしてわざわざ「人工臓器」と呼ぶことはありません。広く知られている人工臓器は、人工心臓、人工肝臓、人工腎臓などのように、主に胴体に含まれる内臓の機能代行装置です。首から上では、「脳の科学」や「人工知能」の研究を、人工臓器に含めることは稀ですが、人工聴覚や人工視覚は人工臓器の分野で扱われています。人工鼻は人工呼吸時に使用する加温・加湿装置のことで、嗅覚はありませんが、やはり人工臓器の一つと考えて良いでしょう。
 生体機能を模倣するために、駆動メカニズムまで模倣している場合(拍動型人工心臓など)と、機能を代行することだけを考えて異なるメカニズムで運転されている場合(軸流型人工心臓、人工腎臓など)とがあります。
 当学会では古典的な意味での人工臓器に加え、ハイブリッド型人工臓器や再生医療を含めた、最新医療科学について毎年さまざまな研究発表がなされています。


(湘南工科大学工学部マテリアル工学科 山下明泰)」



人工臓器とは、「病んだ臓器の代行を目的として開発されたもので、さまざまな治療を通じて機能補助」するものです。完全に人体の中に埋め込むものだけでなく、血液透析などに用いられる血液浄化器(ダイアライザ)だけでなく、人工聴覚・人工視覚・人工鼻まで含まれているのです。

こうした人工臓器の開発に新たな動きが出始めているとして、読売新聞は、「国内外で進化する人工臓器の最前線をリポート」しています。そこで、今後適時、紹介していきたいと思います。今回は、平成20年10月19・26日の2回分で、1回目は「人工心臓」であり、2回目は「人工透析(人工腎臓)・人工肝臓・人工膵臓」です。



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テーマ:政治・時事問題 - ジャンル:政治・経済

2008/10/25 [Sat] 23:04:29 » E d i t
第17回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『光と影~光市母子殺害事件 弁護団の300日~』(制作:東海テレビ)が、フジテレビにおいて平成20年10月26日(日) 3:05~4:00(2008年10月25日(土)深夜3時5分~4時)に放映されます。この番組は、東海、北陸地区において放映されていますが、首都圏では初めて放映されるものです。


1.東京新聞平成20年10月25日付夕刊9面「大波小波」

「光と影」首都圏でも

 25日深夜、フジテレビで1本のドキュメンタリー番組が放送される。タイトルは「光と影―光市母子殺害事件弁護団の300日」。サブタイトルが示すとおり、あの光市母子殺害事件で、日本中から「鬼畜」などと罵倒(ばとう)された弁護団を被写体にしたドキュメンタリーだ。

 制作は東海テレビ。『放送レポート』11月号によれば、このドキュメンタリーの撮影を決めたプロデューサーに対して、「鬼畜弁護士を撮るおまえが鬼畜だ」などの声が社内にもあったという。あわや撮影中止の局面も何度かあったようだ。でもプロデューサーは信念を押し通した。そしてあの裁判における別の視点を呈示してくれた。

 この事件の差し戻し判決で裁判長が死刑判決を言い渡したとき、広島高裁に集まっていた数百人の群集から、大きな歓声と拍手が沸き上がった。この作品にはそんな瞬間も捉(とら)えられている。

 放送の時間帯は午前3時5分から。本音は見せたくないのかとフジテレビに言いたくなる。でも今回、東海、北陸地区に続き、首都圏でも放送されることを喜びたい。そして自分が今までメディアから一面的な情報しか与えられていなかったことを知ってほしい。メディアが一律になる恐ろしさを誰もが感じるはずだから。 (ミネルヴァの梟)」



(1) 光市事件に関して放映した多くのテレビ番組は、「第1、2審で争わなかった事実問題を、差戻控訴審になって持ち出すのはおかしい」「被害者遺族の無念の思いを踏みにじっている」「弁護団は死刑制度反対のために、この裁判を利用している」等々の反発・批判をさかんに浴びせていました。多くの番組がそのことだけに終始した、という印象でした。

これらの背景には、番組制作者に刑事裁判の仕組みについての前提的知識が欠けていたか、あるいは知っていても軽視した、という事情があったとか言いようがないのです(「光市事件報道問題:BPOは各局に裁判報道の改善要求(下)~「極めて感情的に制作、他局より輪をかけて大袈裟にやるという『集団的過剰同調番組』、刑事裁判の知識なし、「素材負け」していた、巨大なる凡庸」など徹底して酷評!」(2008/04/20 [Sun] 07:46:06)参照)。

「このドキュメンタリーの撮影を決めたプロデューサーに対して、『鬼畜弁護士を撮るおまえが鬼畜だ』などの声が社内にもあった」わけですが、これはまさに、テレビ局では、「誠実義務」が課せられている弁護人の役割についての理解が全く欠けていた証左といえるのです。

【意見3 本件放送は、弁護人の役割の認識に欠けるところがなかったか】

 当事者主義のもとでの弁護人には、被告に対して、被告のために最善の弁護をする、という「誠実義務」が課せられている。

 被告は、強力な権限を行使して迫ってくる検察官に対して自己を防御しなければならない、という境遇にある。一般私人であれば、訴訟能力もさほど持ち合わせていないだろう。弁護人はそうした苦境にある被告とのあいだで信頼関係を築き、ときには被告に不利な事情にも踏み込んででも、可能なかぎりの事実と関係情報を集め、それを被告にもっとも有利な主張や立証として組み立てて法廷に提示することにより、全力を尽くして被告人を弁護しなければならない。それが、弁護人の誠実義務である。この義務に違反することがあれば弁護人は懲戒処分の対象になる。

 弁護人が被告人に有利だと判断して法廷にあらたな事実を提示し、争うことは、場合によっては被害者やその家族・遺族を傷つけることにもなりうるが、だからといって弁護人が、被告の主張している事実を提出しなかったりすれば、この誠実義務に背馳することになるのである。

 付言すれば、弁護人には、その公的、公益的な地位を勘案したとしても、被告に対する誠実義務や守秘義務に背いて、被告に不利な方向での「真実」発見に関する証拠や情報を進んで積極的に提出・開示するという義務(積極的真実義務)はない、とされるのが一般的な理解である。

 弁護人にこのような義務を課し、もっぱら被告人のために立証・主張を尽くさせるのは、そのような役割をつとめる専門家がいなければ、真実を発見し、認定することはむずかしい、という司法の歴史的経験に由来している。三審という司法制度の背景をなすのも、真実発見は容易ではなく、審理は慎重に行わなければならない、という歴史的経験に培われた認識である。」(「光市母子殺害事件の差戻控訴審に関する放送についての意見書」)




(2) 番組内容については、「来栖宥子★午後のアダージォ」さんの「光市事件 加害者側に焦点 東海テレビが制作「光と影」」(2008-06-04)で紹介されている記事には、次のようなことが書かれています。

 「阿武野勝彦プロデューサーは「もし、事件を利用して『人権派』の名を売るものだったら、そこで制作をやめるつもりだった」と明かす。「でも、違った。真実を明らかにする姿があった」

 当初は番組スタッフにさえ逆風が吹いた。「妻が拒否反応を示した」と斉藤さん。ナレーションを務める女優の寺島しのぶも「初め、お受けしたくないと思った」という。番組を見て「弁護団が、何をしていたのか、初めて知った感じです」。
「憎い」という感情だけで白黒をつけ、真実の解明にふたをする風潮。このまま来年5月に裁判員制度が始まったら、どうなるか。現代日本に、番組は一石を投じている。」(中日新聞夕刊 2008/06/04)


真実を明らかにする姿を報道するというのは、報道機関として真っ当なものであるのに、どのテレビ番組もそうしたものがほとんどありませんでした。法治国家とは何であるか、刑事裁判の構造的原理は何か、なぜ裁判では犯行事実がわかっているのに、被告の生育歴を調べたり、精神鑑定までするのか、法はどうして成人と少年を区別しているのか、被害者とその家族や遺族の無念の思いは、どうすれば軽減・救済できるだろうか――。こうしたことは殆ど調べることなく、放映されませんでした。

ほぼすべての番組が、「被告・弁護団」対「被害者遺族」という対立構図を描くものばかりでした。こうした構図で描くこと自体、刑事訴訟における当事者主義構造について全く知識が欠けていることが明らかです。刑事裁判の仕組みなどそっちのけで弁護団に反発したり、反発と共感のどちらを語るときも、感情的であって、「巨大なる凡庸」(BPOの委員会の席上で、ある委員が口にした感想)といえる放送番組ばかりだったのです。

「『憎い』という感情だけで白黒をつけ、真実の解明にふたをする風潮」になっているのが、今の日本社会なのです。そうした風潮に抗して作成した、唯一といえる番組が『光と影~光市母子殺害事件 弁護団の300日~』だったのです。



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2008/10/24 [Fri] 23:59:46 » E d i t
日本に駐留する米兵の犯罪について、日本政府が1953年に「重要事件以外の裁判権を行使しない」と米国側に表明したとする議事録を、日米関係研究者の新原昭治氏が米国立公文書館で入手し、10月23日に公表しました。日本の第一次裁判権放棄に関する密約の存在は、多数の米政府解禁文書などで指摘されていましたが、原文が確認されたのは初めてです。

「密約問題では、日本の法務省が裁判権不行使を指示する通達を全国の地検検事正に出したことが既に判明。一方で、通達を掲載した同省の実務資料は国会図書館が所蔵しているが、現在は閲覧禁止になっている。」(共同通信(2008/10/23 13:40)


密約問題は、日本側も密約を前提としたような「通達」が出ていますし、法務省はその通達を国民に見せないようにするため、国会図書館に圧力をかけて閲覧禁止にさせており、こうした「図書館はすべての検閲に反対する」という「図書館の自由」を踏みにじる態度には厳しく批判がなされています(「法務省の圧力に揺れる国会図書館の迷走」月刊創2008年11月号112頁以下)。


1.幾つかの報道記事と密約全文を。

(1) 毎日新聞平成20年10月24日付東京朝刊2面

日米密約:「米兵1次裁判権を放棄」 研究者が公文書発見

 日本に駐留する米兵らによる事件について日米両政府が1953年10月、「日本にとって著しく重要と考えられる事件以外は1次裁判権を行使するつもりがない」との密約を交わしていたことを裏付ける文書が明らかになった。国際問題研究者の新原昭治さん(77)が23日、米国立公文書館で見つけた機密文書を公表した。日本政府は、こうした合意や密約を否定している。

 この文書は米国立公文書館が95年に公開を解禁した在日米大使館秘密外交文書の一部。53年10月28日付の日米合同委員会裁判権分科委員会の議事録で、日本側代表が在日米兵やその家族について「日本に著しく重要と考えられる事件以外については1次裁判権を行使するつもりがない」との見解を提示。米国側代表とともに署名し、合意したことになっている。

 米兵らの日本での法的地位を定めた日米行政協定を53年9月に改定した際、「日本国の当局が、裁判権を行使する第1次の権利を有する」と明記。しかしこれと並行する交渉で1次裁判権の事実上の放棄を密約していたことになる。実際、日本側は53~57年の間に起きた事件の97%の1次裁判権を放棄している。日米行政協定に代わる現行の日米地位協定も同じ条文を踏襲している。

 新原さんは23日、国会内で会見し「米兵による事件の処理に現在もこの密約が影響していると考えている」と述べた。これに関連して河村建夫官房長官は同日の会見で「日本人による事件と、米軍構成員などによる事件で起訴すべきか否かの判断に差はない。1次裁判権を行使しないとの日米間の合意、密約はない」と述べた。

 日米地位協定に詳しい本間浩・法政大名誉教授は「日本政府は機密文書が情報公開の対象になっても『あずかり知らぬ』という態度だが、国民に明らかにすべきだ」と指摘している。【大谷麻由美】

毎日新聞 2008年10月24日 東京朝刊」



(2) 東京新聞平成20年10月24日付朝刊3面

米兵裁判権 日本は放棄」 密約文書原文を発見 米公文書館

 日本に駐留する米兵らの犯罪をめぐり、日米政府が「重要な事件を除き、日本側は裁判権を放棄する」との密約を交わした文書がみつかった。日米合同委員会裁判権分科委員会が作成した1953年10月28日付の「米兵犯罪の第1次的裁判権の実質放棄に関する日米取り決め」で、今年9月、国際問題研究者の新原昭治氏が米公文書館の非公開議事録から発見した。

 機密解除された別の公文書で密約の存在は指摘されていたが、原文が確認されたのは初めて。

 法務省総務課長だった津田実氏と在日米軍法務官のトッド中佐が交わした。

 密約には「日本側が起訴することを決定した場合、米国に通告する」とあり、日本側は米側への通告抜きに裁判を開始できない仕組み。日本は独立国家に不可欠な裁判権を事実上、放棄していたことになる。

 同時に見つかった日米の交渉過程を記録した米政府解禁文書には「日本側がきわめて寛大で、かつ裁判権を行使したいと考える事例がぎりぎり最小限になるように、との希望を表明した」(53年9月17日、在日米大使館アリソン大使発、米国務省あて)などとあり、米側が日本側に繰り返し裁判権行使を抑制するよう求めていたことが分かる。」




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事件 *  TB: 0  *  CM: 0  * top △ 
2008/10/23 [Thu] 23:59:37 » E d i t
日米欧をはじめ世界の株式市場が再度、株安の連鎖の様相となっています。10月23日の東京株式市場は、前日の米国株式市場の大幅安や外為市場での急激な円高進行を受け、大幅続落し、日経平均株価(225種)の下げ幅は一時、8000円割れ寸前にまでなりました。



1.報道記事を幾つか。

(1) 読売新聞平成20年10月23日付夕刊1面(4版)

株8000円割れ寸前 

 世界同時不況に陥る懸念が強まり、株安の連鎖に歯止めがかからない。

 22日のニューヨーク株式市場はダウ平均株価(30種)が急落し、9000ドルを割り込んだ。

 23日の東京株式市場も日経平均株価(225種)が一時、8000円割れ寸前まで値下がりするなど、買い材料が見当たらない状況だ。東京外国為替市場では一時、1ドル=96円台まで急速に円高・ドル安が進み、景気に悪影響を及ぼすとの警戒感が広がっている。(以下、省略)」



(2) 2008/10/23 17:21 【共同通信】

東証続落、213円安 買い戻しで下げ幅縮小

 23日の東京株式市場は、世界経済の先行き不安から売り注文が優勢の展開となり、日経平均株価(225種)の終値は、前日比213円71銭安の8460円98銭と続落した。午後に入って、外為市場の急速な円高進行がやや一服したことなどから、買い戻しの動きもみられ、下げ幅を縮小した。

 全銘柄の値動きを示す東証株価指数(TOPIX)も、17・53ポイント安の871・70。出来高は約28億2600万株。

 欧米の景気不安に加え、円高による業績悪化懸念から、自動車、電機といった輸出関連株が大幅に値下がりしたほか、鉄鋼、銀行株なども売られた。

 午後は、外為市場で対ドル、対ユーロともに円がやや伸び悩んだことを背景に、先物が買い戻された。午前の急落で割安感の出た銘柄に国内機関投資家とみられる買いも入った。また米国で新たな金融危機対策が打ち出されるとの観測が伝わったことも買い材料になった。

 大手証券担当者は「市場は世界の景況感に敏感になっている。海外株式市場や外為市場に左右される不安定な相場が続きそうだ」と指摘していた。

2008/10/23 17:21 【共同通信】」



(3) 読売新聞平成20年10月23日付夕刊2面「解説」

世界同時不況を懸念

 東京株式市場で株安が止まらないのは、世界が同時不況に突入し、日本の景気がさらに悪化するという見方が強まっているためだ。急速な円高も景気の懸念要因になっており、市場は悲観ムードに包まれている。

 財務省が23日発表した2008年度上半期の貿易統計では、貿易黒字が大幅に減り、特に米国向け輸出の不振が顕著になった。さらに円高が進行し、自動車、電機などの輸出企業は窮地に陥りつつある。

 世界経済の先行きも暗雲が広がっている。米国や欧州の景気後退懸念に加えて、金融危機の影響で東欧などの新興国の経済も変調をきたし始めた。

 欧州では、アイスランドで通貨クローナが暴落している。ハンガリーの中央銀行は22日、通貨危機回避のため大幅な緊急利上げに踏み切った。南米でもアルゼンチンが経済危機の様相を呈すなど、「新興国の国債などのデフォルト(債務不履行)が現実味を帯び、世界の投資家に恐怖が広がっている」(準大手証券)状況だ。

 東京市場の株価をリードする銘柄は不在の状況となり、株価下落の底は見えない。(経済部 松原智基)」





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論評 *  TB: 3  *  CM: 2  * top △ 
2008/10/22 [Wed] 17:15:09 » E d i t
危険運転致死傷罪のうち、信号無視運転致死傷罪(刑法208条の2第2項後段)の構成要件である「赤信号を『殊更に』無視する」ことの解釈が争われた刑事裁判において、最高裁第1小法廷(甲斐中辰夫裁判長)は10月16日付の決定で、「赤信号だと明確に認識していなくても、信号規制に従うつもりがなく、表示を意に介さずに進行」すればと「およそ赤色信号に従う意思のないもの」に当たるとして、「赤色信号を『殊更に無視し』」に含まれるとの初判断を示しました。

この事案では、赤信号をはっきり認識していなかった場合でも、赤信号を「殊更に無視し」たといえるのか、赤信号であるとの確定的な認識が必要なのか否かが問題となりました。

最高裁は、赤信号であるとの確定的な認識がない場合であっても、赤信号を「殊更に無視し」たといえる場合があると判断したわけです。もちろん、赤信号であるとの確定的な認識がない場合すべて、赤信号を「殊更に無視し」たに当たるとしたわけではありません。
10月23日追記:「殊更に無視し」とは、危険運転致死傷罪の「故意とは異なる主観的要素」であることを追記しました。念のため。)


1.報道記事を幾つか。

(1) 毎日新聞平成20年10月19日付東京朝刊28面

名古屋・危険運転致死:構成要件「赤信号を『殊更に』無視」、「従う意思ない」該当

 ◇最高裁が初判断

 危険運転致死罪の構成要件である「赤信号を『殊更に』無視する」ことの解釈が争われた刑事裁判で、最高裁第1小法廷(甲斐中辰夫裁判長)は16日付の決定で「赤信号をはっきり認識していなくても、信号の規制に従う意思がなければ要件に該当する」との初判断を示した。

 その上で同罪などに問われた無職、平敏浩被告(42)の上告を棄却。懲役10年の1、2審判決が確定する。

 弁護側は「『殊更に』の要件を満たすには、赤信号の明確な認識が必要」と指摘。

 赤かどうかはっきり分からず、「赤でも構わない」と思って交差点に進入した平被告には危険運転致死罪は適用されないとして、業務上過失致死罪の適用を主張した。

 これに対し小法廷は「信号表示を意に介さず、赤でも無視しようとの意思で進行すれば、要件を満たす」と結論づけた。

 1、2審判決によると、平被告は07年2月、無免許運転中に信号無視をパトカーに見つかり、追跡を振り切ろうと信号表示を認識しないまま時速70キロで名古屋市中区の交差点に進入、横断中の女性(当時23歳)をはねて死亡させた。【北村和巳】

毎日新聞 2008年10月19日 東京朝刊」



(2) 共同通信(2008/10/18 21:37)

赤信号ことさら無視で最高裁判断 「明確な認識必要なし」

 「赤信号をことさらに無視」とは、どんな状態か-。危険運転致死罪の条文解釈が争われた男の上告審決定で、最高裁第1小法廷は18日までに「赤信号だと明確に認識していなくても、信号規制に従うつもりがなく、表示を意に介さずに進行すれば該当する」との初判断を示した。

 その上で甲斐中辰夫裁判長は、車で歩行者をはねて死亡させた無職平敏浩被告(42)の上告を棄却した。懲役10年の1、2審判決が確定する。決定は16日付。

 名古屋高裁判決などによると、平被告は昨年2月、名古屋市内で乗用車を運転中に信号を無視し、パトカーに見つかり逃走。その後、交差点の信号表示を認識しないまま、手前で車が止まっているのを見て赤信号だろうと思ったが進入、横断中の女性=当時(23)=をはね、死亡させた。

 「赤信号をことさらに無視し、重大な危険を生じさせる速度で運転、人を死傷させた」という同罪の条文解釈が争点となり、弁護側は「『ことさら』とは、わざわざ、故意に、という意味。赤信号だという明確な認識はなく(法定刑の軽い)業務上過失致死罪の適用が相当」と訴えていた。

2008/10/18 21:37 【共同通信】」




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刑法 *  TB: 0  *  CM: 0  * top △ 
2008/10/19 [Sun] 23:34:03 » E d i t
国連の自由権規約委員会は10月15、16の両日、ジュネーブの国連欧州本部で、日本の人権保護状況に関する審査会合を開きました。会合では、複数の委員から日本政府に死刑制度や代用監獄制度に批判が集中しており、「月末までに公表される勧告措置を盛り込んだ同委の最終見解書では、日本に厳しい判断が下され」る見込みです(時事通信)。



1.報道記事を幾つか。

(1) 時事通信(2008/10/17-07:48)

死刑制度に不満相次ぐ=国連委の対日人権審査で

 【ジュネーブ16日時事】国連の自由権規約委員会は15、16の両日、ジュネーブの国連欧州本部で、日本の人権保護状況に関する審査会合を開いた。会合では、複数の委員から日本政府に死刑制度の廃止や刑事手続きの透明性向上を求める発言が相次いだ。月末までに公表される勧告措置を盛り込んだ同委の最終見解書では、日本に厳しい判断が下されそうだ。

 日本政府は会合で、極めて凶悪な犯罪には死刑もやむを得ないとの国内世論があることなどを踏まえ、死刑制度を存続する方針を説明。これに対し、委員の間からは「人権問題である(死刑)制度の存廃を世論調査で決めるべきではない」などと批判的な意見が続出した。(2008/10/17-07:48)」



(2) 共同通信(2008/10/17 10:05)

日本の死刑、代用監獄に批判続出 国連委、10年ぶり対日審査

 【ジュネーブ17日共同】国連のB規約(市民的および政治的権利)人権委員会による対日審査が15、16の両日、ジュネーブの国連欧州本部で行われ、法律専門家など有識者18人の委員からは、日本の死刑制度や代用監獄制度の廃止を求めるなど厳しい意見や質問が相次いだ。

 同委員会による対日審査は1998年以来、10年ぶり。

 日本政府は現行制度を維持する型通りの答弁に終始。閉幕に当たりポサダ委員長は「委員会はフラストレーションを感じたと思う。前回の政府見解から十分なフォローアップや(人権状況の)改善がなされていない」などと総括した。

 B規約委員会の審査は162の同規約の全批准国を対象に5-6年ごとに規約の順守状況をチェックする制度。今回の審査は日本政府の事前の報告書提出の遅れなどから、10年ぶりの審査となった。

2008/10/17 10:05 【共同通信】」



(3) 朝日新聞平成20年10月17日付夕刊2面

日本の死刑・代用監獄に批判相次ぐ 国連規約人権委審査
2008年10月17日10時13分

 【ジュネーブ=飯竹恒一】ジュネーブの国連欧州本部で開かれていた国連規約人権委員会の日本に対する人権状況審査は16日、2日間の日程を終えた。質疑では死刑や代用監獄制度などをめぐり、委員から「10年前(前回審査)の問題提起に十分対応していない」などといった批判が相次いだ。

 対日審査は10年ぶり。死刑制度は98年の審査で「廃止に向けた措置」の勧告を受けたが、この間、執行数は増加した。委員からは「30年も死刑囚として過ごして70代で死刑が執行された事例は理解に苦しむ」「死刑を巡っては世界的に廃止の流れがある」といった指摘が出た。日本政府は「国民世論の多数が凶悪犯罪については死刑もやむを得ないと考えている」と従来の主張を繰り返した。

 警察の留置場を拘置所代わりに使う代用監獄制度については、委員が「取り調べが長時間になる一方、弁護士との接見が限られる事態を招く」と指摘。日本政府は「廃止すれば、日本の刑事司法制度の利点の基盤が損なわれる」と答えた。

 委員会は、今回の質疑を踏まえて、勧告を含む「最終見解」を月末までにまとめるが、日本に厳しい指摘が盛り込まれる可能性がある。」




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2008/10/17 [Fri] 17:34:29 » E d i t
ロス疑惑銃撃事件で、三浦和義元社長(61)の自殺を受けて訴追を取り下げたロサンゼルス郡検察のサンディ・ギボンズ広報官は10月15日、事件をめぐる新証拠の存在を否定しました。「新証拠」の存在が取りざたされていたのですが、「憶測にすぎない」と述べたのです。

朝日新聞は、平成20年10月13日付「社説」において、「米国側は、関係者の人権に配慮しつつ可能な範囲で、手持ちの情報を明らかにしてほしい」と述べ、このブログでも、「日本政府は、『新証拠を日本政府及び日本国民に示せ』と米国政府に要求するべき」(「三浦和義元社長が自殺~「ロス疑惑の真相解明ができなくなった」(捜査関係者)という意見があるが、それは日本の司法制度(最高裁で無罪判決)の軽視では?」(2008/10/14 [Tue] 05:01:12))と述べていましたが、米国捜査機関は自ら、「新証拠がなかった」ことを明確にしました。

日本では、「ロス市警は新証拠を入手している」との見方が盛んに出てましたが、日本での「新証拠騒動」は、憶測に基づいたものであって、単なる馬鹿騒ぎだったわけです。米国側にとっては、「日本の市民やマスコミは、新証拠がないのに揃って大騒動になっていて実に滑稽だ」と内心笑っていたに違いありません。米国側は、「新証拠がない」と説明して誤解を解消することはできたのにしなかったのですから、わざと誤解を解消することをしなかったと思えるからです。



1.報道記事を幾つか。

(1) 毎日新聞平成20年10月16日付東京朝刊26面

三浦元社長自殺:訴追時「新証拠なかった」 ロス郡地検の広報官証言

 【ロサンゼルス吉富裕倫】米ロサンゼルス郡地検のサンディ・ギボンス広報官は14日、輸入雑貨販売会社の三浦和義元社長(61)が自殺し終結したロス銃撃事件(81年)の訴追について「DNA鑑定や、新証言などの新しい証拠はなかった」と述べた。三浦元社長が米自治領サイパンで逮捕された2月末以降、地検が新証拠の有無について言及したのは初めて。

 三浦元社長は、ロス市内で妻一美さん(当時28歳)の頭部を銃撃させて殺し、保険金をだまし取ったとして94年、東京地裁で無期懲役の有罪判決を受けた。しかし、銃撃実行者との共謀に関する証拠が足りないとして、98年東京高裁で逆転無罪となり、03年に最高裁で無罪が確定した。

 このため日本では、三浦元社長の2月の逮捕をめぐり「米捜査当局に新しい証拠があるのでは」という憶測を呼んだ。「FBI(米連邦捜査局)が2月末、日本の警察庁に『新証拠を発見した』と連絡した」とも報道された。

 しかし、ギボンス広報官は「(各州にまたがる捜査が専門の)FBI捜査員は、絶対にこの事件のことを何も知らなかった」と報道を否定。「(日本側との捜査協力に基づき、三浦元社長の殺人と共謀容疑で逮捕状を請求した)88年当時と同じ証拠だ」と述べた。

 三浦元社長と共謀した銃撃実行者を特定しないまま訴追していることについて、ロス地検の関係者は「状況証拠が豊富で、米国では陪審員を十分説得できると判断した。そうした判例もある」と米国では特殊なケースでないことを強調した。

毎日新聞 2008年10月16日 東京朝刊」



(2) 東京新聞平成20年10月16日付夕刊10面

三浦元社長 「新証拠なかった」  ロス郡検察 訴追、可能と判断

【ロサンゼルス=時事】 ロス疑惑銃撃事件で、三浦和義元社長(61)の自殺を受けて訴追を取り下げたロサンゼルス郡検察のサンディ・ギボンズ広報官は15日、事件をめぐる新たな証拠について「憶測にすぎない」と述べ、存在を否定した。

 同広報官は「(米国での)訴追がこれまでの証拠で可能だったことは、逮捕から一貫している」とコメントした。

 日本の裁判で無罪が確定した三浦元社長は2月、米自治領サイパンに渡航中、ロス市警が1988年に取得した殺人と共謀容疑の令状に基づき逮捕された。

 その際、捜査の進展と「新証拠」の存在が取りざたされていた。

 郡検察は14日、三浦元社長の自殺で訴追を取り下げ、米司法での刑事手続きは終了した。」




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2008/10/14 [Tue] 05:01:12 » E d i t
81年の米ロサンゼルス銃撃事件に関与した疑いで米自治領サイパンで2月に逮捕された元会社社長、三浦和義容疑者(61)=日本では無罪確定=がロサンゼルス市内で自殺を図り、死亡しました。ロサンゼルス市警から10日午後10時(日本時間11日午後2時)ごろ、現地の日本総領事館に連絡が入ったとの情報によるものです(朝日新聞平成20年10月12日付朝刊)。

三浦元社長は、10月10日未明に、7ヶ月間勾留されたサイパンからロサンゼルスに移送され、10月14日には、妻が殺害された事件をめぐって裁判所に出頭することになっていました。しかし、三浦元社長が自殺したことによって、三浦元社長の妻が殺害された事件をめぐる司法手続はすべて打ち切られることになりました。



1.報道記事を幾つか。

(1) 中日新聞2008年10月12日 朝刊

三浦和義元社長、ロス留置場で自殺
2008年10月12日 朝刊

 【ニューヨーク=阿部伸哉】1981年の米ロサンゼルス銃撃事件に絡み、殺人の共謀容疑で拘置先の米自治領サイパンからロスに移送された三浦和義・元会社社長(61)=日本では無罪確定=が10日午後10時(日本時間11日午後2時)ごろ、ロス市警本部の留置場で自殺を図り、搬送先の病院で死亡が確認された。在ロサンゼルス日本総領事館に市警から連絡が入った。

 元社長の死亡で、うわさされた「新証拠」も含め、今回の逮捕に至った根拠などは示されないことになった。元社長は10日朝、サイパンから訴追手続き開始のため移送され到着したばかり。ロス移送後、最初の夜だった。14日に罪状認否の出廷を控えていた。

 元社長は今年2月、サイパンの空港で、妻一美さん=当時(28)=の殺人と共謀容疑でロス市警の逮捕状により身柄を拘束された。その後、現地で人身保護請求やロスで逮捕状取り消し請求を起こしたが、サイパンの裁判所が移送を命令。

 さらに9月26日、ロス郡地裁が殺人容疑は無効としたものの、日本にはない共謀容疑での訴追は可能と判断し、司法手続き開始の道を開いた。

 元社長はロスへの移送前、弁護士らに「カリフォルニアに行く時が来た」と決意を述べ、10日にもロスの領事と面会、「元気だ」と答えていたという。

 カリフォルニア州の刑事手続きでは、罪状認否後、公判開始が妥当かどうかを決める予備審理がある。元社長をめぐっては、日本と米国で同じ事件で再び訴追するのを禁じた「一事不再理」原則に反するとの議論があり、弁護側は予備審理でも訴追の合法性を争うと述べ、長期戦が予想されていた。

 【ロサンゼルス=共同】米ロサンゼルスの関係者は11日、ロス市警関係者の話として、三浦和義元社長は収容先の警備担当者による20-30分ごとの見回りの間に、Tシャツで首つり自殺を図ったと語った。

 【ロス銃撃事件】 1981年8月、米ロサンゼルス市のホテルで三浦和義元社長の妻一美さん=当時(28)=がホテルの自室で頭を殴られ負傷、同年11月に市内で頭を銃撃され、約1年後に死亡した。元社長も左足を撃たれ、事件後に一美さんの保険金約1億6000万円を受け取った。警視庁は85年9月、殴打事件の殺人未遂容疑で、88年10月には銃撃事件の殺人容疑で元社長らを逮捕。元社長は殴打事件で98年、実刑が確定し服役。銃撃事件では1審は無期懲役だったが、逆転無罪とした2審判決が2003年、最高裁で確定した。元社長は08年2月、殺人と共謀の容疑で米自治領サイパンで逮捕され、10月にロスに移送された。」




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2008/10/10 [Fri] 17:38:28 » E d i t
10月10日は死刑廃止世界連盟(WCADP)が定めた「世界死刑廃止デー」です(以前のエントリーについては、「10月10日は「世界死刑廃止デー」」(2007/10/10 [Wed]」23:59:53)を参照)。

第6回目にあたる今年は、10月11日(土)に、市民団体「死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90」(FORURUM90)主催の死刑廃止のシンポジウム(場所:新宿区角筈区民ホール、午後1時開場・1時30分開演、入場料:1000円)、とアムネスティ・インターナショナル日本主催の死刑に反対する街頭デモンストレーション(出発場所:新宿中央公園 水の広場、出発時間:10月11日(土)午後5時30分(予定))を行うとのことです。

この「フォーラム90」が死刑囚の思いや暮らしぶりなどを聞こうと、8月から9月にかけてアンケートを行いました。そのアンケートの結果は、すでに新聞報道もなされていますが、世界死刑廃止デー(10月10日)のイベントとして、10月11日に東京都内で開かれる上記のシンポジウムで公表することになっています。



1.東京新聞平成20年10月10日付朝刊26面「こちら特報部」

死刑―存廃を問う前に:制度廃止 時代の流れ  EU、フランス両大使に聞く

 10日は「世界死刑廃止デー」。民主主義大国の中で死刑が執行され続けている国は日本、米国など少数派だ。欧州連合(EU)は死刑廃止を加盟条件にしており、トルコのように加盟を目指して廃止した国も。人権政策の一環として全世界で死刑制度廃止を訴えているEUのヒュー・リチャードソン駐日大使と、EU議長国フランスのフィリップ・フォール駐日大使に考えを聞いた。 (久原穏)

◆世界中に冤罪/犯罪抑止力ない

 ―死刑制度に反対する理由は何か。

 EU大使「いかなる犯罪であろうともEUは信条として死刑に反対する。全世界的な廃止に立ち上がるのは歴史、正義、人道主義の流れをくむものだ。死刑は世界中で減少している。それは死刑が公平でもなければ効率的でもなく、司法の要求に応えるものではない。むしろ現実は死刑の不公平さを示している。絶対かつ確実な司法は存在しないから、冤罪(えんざい)で死刑になる事例が世界中で見られる」

 仏大使「死刑囚は毎朝、今日が自分の執行日かもしれないという恐怖におびえる生活をしている。そのような非人道的行為は許されるものではない」

 ―日本は死刑制度に賛成している国民が多い。

 仏大使「死刑廃止への闘いは(終身刑導入など)刑罰の見直しや、勇気ある議論を必要とする長期戦だ。過ちを償い、かつ公平な司法制度をどのように確立できるのか。どうすれば被害者や社会全体の要求に応えられるのか。政治家は世論や無意識の復讐(ふくしゅう)願望に左右されてはいけない。死刑廃止法案は多くの場合、世論の反対を押し切って決定されている。1981年に廃止を定めたフランスでも大論争が起きた」

 ―日本は裁判員制度の導入もあり、これから議論は深まるはずだが。

 EU大使「現在では死刑廃止を問題視する人は少ないのではないか。世論と政治家の一部が死刑判決の抑止力を主張し、死刑廃止は犯罪を増やすだろうと反撃したが、歴史はそれが間違いであると示した。死刑の廃止が暴力の回復をもたらすことはなかった」

 「緊張や不安、恐怖が充満している今日の社会で、死刑に『ノー』と言うことは人類への信頼を表す行為であり、暴力の悪循環に終止符を打つことができる。合法でも殺人は殺人者に対する抑止力にはならない。『人の命の不可侵は権利中の権利であり、すべての原理がそこから発生する』と記したのはフランスの作家で偉大な欧州人だったビクトル・ユゴーだ」

◆EU加盟の必須条件

 ―死刑制度廃止があらゆる国で適用されるようになると思うか。

 仏大使「時代の流れからいって当然だろう。国連に参加する192ヶ国のうち68件が死刑執行国だが、執行数は減少している。2004年にはセネガル、メキシコ、リベリア、タジキスタン、フィリピン、ルワンダが死刑廃止国になり、90ヶ国が死刑廃止を法的に定めた。

 「昨年の国連総会では95ヶ国が死刑反対宣言に正式に署名した。死刑廃止はEU加盟の必須条件だ。民主主義の大国で定期的に死刑を執行しているのは、米国(一部の州は死刑制度がない)と日本だけだ。人と将来を信用し、司法と法律を前進させ、世界中で死刑を廃止していこう」」




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2008/10/09 [Thu] 00:56:13 » E d i t
厚生労働省の検討会は10月3日、原子力発電所や使用済み核燃料再処理工場での業務に従事し悪性リンパ腫を発症し死亡した喜友名(きゆな)正さんについて、原発での被曝(ひばく)との因果関係を認める方針を固めました。これを受け、厚労省は近く、この男性の労災を認定する見通しとなりました。

喜友名さんの遺族は大阪市の淀川労働基準監督署に労災申請したのですが、同労基署は2006年9月、「対象疾患ではない」として労災補償を不支給とする決定をしていました。

10月15日追記:大阪労働局は10月14日、労災認定が妥当と判断したとの報道があったので報道記事を引用しました。)




1.報道記事を幾つか。

(1) NHKニュース(10月3日 21時50分)

悪性リンパ腫 初の労災認定へ

 各地の原子力発電所で働いたあと「悪性リンパ腫」で死亡した男性の遺族が申請していた労災認定について、厚生労働省の検討会は、3日、病気と被ばくに因果関係があるという結論をまとめ、近く労災が認められる見通しとなりました。悪性リンパ腫による労災の認定は初めてです。

 労災認定を申請していたのは沖縄県うるま市出身の喜友名正さんの遺族です。喜友名さんは、平成9年9月から平成16年1月までの6年4か月にわたって全国各地の原子力発電所で定期検査などの作業に当たり、3年前、悪性リンパ腫のため53歳で亡くなりました。

 喜友名さんの放射線管理手帳によりますと、その間に浴びた放射線の量は被ばくのため白血病になったとして労災が認められる基準の3倍以上でした。遺族は3年前に労災を申請しましたが、悪性リンパ腫は認定基準にはない病気だとして却下されたことから不服の申し立てを行い、厚生労働省の検討会があらためて調べていました。

 3日に開かれた検討会では、広島と長崎の原爆被爆者の追跡調査の結果などから、悪性リンパ腫は放射線の被ばくによって生じる可能性があるとして、男性の病気と原発での被ばくには因果関係があるという結論をまとめました。

 これを受けて、厚生労働省は、近く、男性の労災を認める方針です。厚生労働省によりますと、原発で働く人の被ばくによる労災の認定は今回が7件目で、悪性リンパ腫での認定は初めてです。」



(2) 東京新聞平成20年10月4日付朝刊1面

悪性リンパ腫に労災 原発労働者 初認定へ 
2008年10月4日 朝刊

■因果関係 厚労省、認める方針

 全国の原子力発電所や使用済み核燃料再処理工場で被ばくし、三年半前に悪性リンパ腫で亡くなった沖縄県うるま市の喜友名(きゆな)正さん=当時(53)=について、厚生労働省の検討会は三日、悪性リンパ腫と放射線業務の因果関係を認める方針を固めた。

 今後、検討会がまとめる報告書を踏まえ、大阪労働局が労災認定を決める。原発労働者の悪性リンパ腫での認定は初めて。

 喜友名さんは、一九九七年に大阪市の放射線検査の孫請け会社に就職。全国各地の原子力発電所や再処理工場を転々とし、放射能漏れの検査をしていた。六年四カ月間で被ばくした放射線量は約九九・八ミリシーベルト。これは白血病の労災認定基準の三倍以上に当たる。健康診断で、被ばく線量が他の原発労働者平均の十一倍に及んだこともあった。

 喜友名さんは二〇〇一年ごろ、頻繁に鼻血が出るようになり、〇四年に悪性リンパ腫と診断され、〇五年三月に亡くなった。

 妻の末子さんが労災申請をしたが、大阪市の淀川労働基準監督署は〇六年九月、「対象疾患でない」などとして不支給に。支援者が厚労省に検討の必要性を訴え、昨年秋から検討会が開かれていた。

 放射線を扱う業務での労災対象疾患は白血病や肺がん、骨肉腫などで、昨年末に多発性骨髄腫で亡くなった大阪市の長尾光明さん=当時(82)、〇四年一月に同病で初めて認定=ら対象外疾患の人は取り残されてきた。」



解説:対象疾患 広がる可能性

 原発労働者の労災認定はこれまで白血病以外は、多発性骨髄腫で1例あるのみ。悪性リンパ腫で亡くなった喜友名正さんが労災認定される見通しになったことで、白血病の類縁疾患で苦しむ人の救済に向け、大きく道が開ける可能性が高い。

 放射線を扱う業務の労災認定で対象疾患となるのは、白血病や肺がん、骨肉腫など。白血病には認定基準があるが、それ以外の道は険しい。まして対象外疾患の喜友名さんの場合、「対象疾患ではない」と不支給に。支援者らの働き掛けがあってはじめて厚労省は検討会を開いた。

 大阪市の長尾光明さんが多発性骨髄腫で労災認定され4年以上たつが、いまだに対象疾患に入れるかどうかの検討もされていない。また、長尾さんが東京電力に損害賠償を求めた一審判決は、労災認定された仕事と病気との因果関係ばかりか、病名まで否定する内容だった。

 労働者が業務上疾患と立証することは至難の業であり、支援者らは1日も早く対象疾患に病名を加えることを訴えている。 (特別報道部・片山夏子)」



(3) これらの記事を見ると、原発労災は認められることが極めて少ないことが分かります。

  イ:すなわち、現在までに原発と関わった総労働者数(1970~2005年)は169万7000人で、総被曝線量は(累積)2851ミリシーベルトと記録されているほど、多数人の被曝が生じているのに(JAN
JAN「安全神話の闇に葬られる原発被曝労働者」(2007/06/01)))、<1>厚生労働省によると「原発で働く人の被ばくによる労災の認定は今回が7件目」にすぎず、<2>「原発労働者の労災認定はこれまで白血病以外は、多発性骨髄腫で1例あるのみ」という少なさで、<3>「悪性リンパ腫での認定は初めて」なのです。

「原発城下町」では労災申請を思いとどまらせる雰囲気がある(東京新聞)状態のなかで、何とか申請してもまるで認められず、裁判においても、被曝による損害を否定するものさえあります。

「大阪市の長尾光明さんが多発性骨髄腫で労災認定され4年以上たつが、いまだに対象疾患に入れるかどうかの検討もされていない。また、長尾さんが東京電力に損害賠償を求めた一審判決は、労災認定された仕事と病気との因果関係ばかりか、病名まで否定する内容だった。」(東京新聞)



  ロ:原発労災問題では、何度も触れていることを今回も引用しておきます。

「原発は事故がなくても、仕事の中で被ばくをしいられている労働者がいなければ絶対に動かないことをよく理解しておく必要があります。」(「よく分かる原子力・原子力教育を考える会」のサイトより)


原発の裏では、たくさんの人が放射線を浴びながら危険な仕事に携わっています。どんなに機械が近代化されても、この裏方の仕事なしには原子力発電所は動かないのです。原子力発電所が存在する以上、被曝する労働者は増え続けるのです。

現在の日本では稼働中の原子力発電所を廃棄することはできず、多くの市民がその恩恵に与っている一方、原子力発電所では被曝を避けることができず、被曝する労働者は多数に及んでいるのに、労災認定されず見捨てられているのが実情です。これはあまりにもおかしい状態にあるといわざるを得ません。


「悪性リンパ腫で亡くなった喜友名正さんが労災認定される見通しになったことで、白血病の類縁疾患で苦しむ人の救済に向け、大きく道が開ける可能性が高い。」(東京新聞)

厚労省の態度からすると「大きく道が開ける可能性が高い」という判断は希望的観測のように思います。ですが、「大きく道が開ける可能性が高い」と信じたいものです。



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2008/10/05 [Sun] 23:59:30 » E d i t
病気腎移植を手掛けた宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波誠医師(67)を支援する「移植への理解を求める会」が10月4日、松山市で記者会見し、腎不全の患者らが病気腎移植の禁止で治療を受ける権利(生存権と自己決定権)を侵害されたとして、10月下旬にも国に<1>移植の容認<2>保険の適用<3>損害賠償を求める訴訟を松山地裁に起こすことを決めた、と明らかにしました。

また、病気腎移植の医学的妥当性を否定し、禁止の論拠を示した日本移植学会幹部ら数人に対しても損害賠償を求める方針です。

「「病気(修復)腎移植」実施求め、10月下旬ごろ提訴へ~国の無策打開を狙って」(2008/10/04 [Sat] 20:12:18)の続きの報道となりますが、東京新聞「こちら特報部」において、この原告側患者へのインタビュー記事を掲載していましたので、紹介したいと思います。
10月6日付追記:堤寛(つつみ・ゆたか)・藤田保健衛生大学教授が、「現代医学」56(1)、2008.7(愛知県医師会雑誌:インフォメーション)に掲載された論文を紹介しました。)



1.その前に、報道記事を幾つか。

(1) asahi.com(2008年10月4日22時12分)(東京版での掲載なし)

「病気腎移植、早く認めて」 患者9人、国を提訴へ
2008年10月4日22時12分

 がんや尿道狭窄(きょうさく)などのため摘出された腎臓に治療を施したうえで別の患者に移植する「病気腎移植」の問題で、慢性腎不全患者9人が今月下旬にも、国を相手に病気腎移植を受ける権利の確認と総額約7500万円の慰謝料を求める訴えを松山地裁に起こす。

 原告となるのは愛媛、広島、香川、岐阜、兵庫の5県に住む男女9人。6人は人工透析を受けている。厚生労働省が病気腎移植を原則禁止したため、希望する医療を受ける権利を奪われ、憲法が保障する生存権と幸福追求権を侵害されたと主張。透析患者の5年生存率は60%、10年生存率は40%といわれ、死に対する恐怖など精神的苦痛を受けたとして一人500万~1千万円の慰謝料を求める。

 患者と弁護団は4日、松山市で記者会見し、「修復腎(病気腎)移植は米国や豪州では日常的に実施されている医療行為。一刻も早く認めて欲しい」と訴えた。

 病気腎移植を全面的に否定する見解を出した日本移植学会の幹部らについても「誤った判断を導いた」として別の訴訟を起こす方針。

 病気腎移植は宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波誠医師(67)らのグループが91~06年に42件実施していたことが判明。関連4学会は07年3月、「医学的に妥当性がない」として全面否定する共同声明を出した。声明を受け、厚労省は同年7月、臨床研究以外の病気腎移植を禁止し、保険診療の適用外としている。」



(2) 産経ニュース:地方版〔愛媛〕

病腎移植認めて! 腎不全患者ら訴え 松山
2008.10.5 02:12

 「修復腎移植(病腎移植)を認め、多くの命を助けてほしい」-。4日、11月中旬までに厚労省と日本移植学会の幹部らを相手取って損害賠償請求訴訟を起こすと発表した「移植への理解を求める会」(向田陽二代表)。腎不全患者らが原告となり、国が原則禁止とした病腎移植によって医療を受ける権利を侵害されたと訴える。また、支援者の拡大と裁判支援の義援金の受け皿とするため、NPO法人を来春までに立ち上げることを明らかにした。

 松山市内で行われた会見には向田会長ら約10人が出席。会見で、訴訟の原告は透析患者6人、腎臓移植者3人の計9人。患者は愛媛、香川、広島、岐阜、兵庫の5県にまたがり、男性6人、女性は3人。また、弁護団は愛媛県3人、東京都3人、岡山県2人の計8人を予定しているという。

 裁判では、患者側に治療を選択する「自己決定権」があり、「病腎移植への健康保険適用」を認めてもらうことが骨子。さらに、日本移植学会の幹部らにも「(病腎移植に対する)発言の内容に明らかな間違いや誇張があり、絶対に許されない。これが国のガイドラインを誤った方向(病腎移植の原則禁止)に導く結果となった」と強調した。

 賠償額については「検討中」としながらも、透析患者6人に各1000万円ほど、透析を受けていない3人にはそれぞれ500万円程度を求めるという。

 宇和島徳洲会病院の万波誠医師の移植医療に関し、説明責任などを果たさなかったという手続き上の不備と、病腎移植の必要性や(万波医師らの)高い医療技術とは別次元で論じるべきとする同会関係者ら。向田代表は「ドナーに恵まれない患者がたくさんいる現実をみてほしい。1日も早く修復腎移植を再開し、1人でも多くの方を助けてほしい」と話していた。」


「原告となるのは愛媛、広島、香川、岐阜、兵庫の5県に住む男女9人」ですが、全員が「訴えを松山地裁」だけに限定しました。それは、原告や支援者も愛媛県が一番多いため、東京まで出向くのは患者にとっても負担が非常に大きいためです(「修復腎移植推進・万波誠医師を支援します」さんによる)。

「希望する医療を受ける権利を奪われ、憲法が保障する生存権と幸福追求権を侵害されたと主張」していることすると、幸福追求権(自己決定権)の規定である憲法13条だけでなく、憲法25条(生存権)をも根拠条文として挙げて訴訟を行っていくことになりました。



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2008/10/04 [Sat] 20:12:18 » E d i t
厚生労働省が臓器移植法運用指針で「原則禁止」としている「病気腎移植」について、以前、腎不全で透析中などの患者ら約10人が、国家賠償を求める訴訟の準備を進めているとの報道がありました(「「病腎移植禁止」で、愛媛など4県の腎不全患者らが国家賠償求め提訴へ」(2008/09/18 [Thu] 22:32:33)参照)。

以前の報道では、未定の部分が多々あったのですが、「移植への理解を求める会」(向田代表)は松山市で、本日、10月4日(土)午後2時から記者会見を行い、「移植への理解を求める会」が今後NPO法人化をする準備をしていること、また、透析患者等の患者団体が、早ければ10月下旬頃にも、国(厚労省)や日本移植学会幹部を相手に訴訟を起こす準備を行っていることを、明らかにしました。記者会見のの様子などは、「修復腎移植推進・万波誠医師を支援します」さんの「患者はもう待てない-厚労省に対し提訴準備-」(2008/10/04 18:05)をご覧下さい。



1.報道記事を。

(1) 東京新聞平成20年10月4日付朝刊1面(11版S)

病気腎移植求め提訴へ 患者ら「国、治療の権利侵害」
2008年10月4日 朝刊

 厚生労働省が病気腎移植を「原則禁止」にしたことにより、患者が適切な治療を受ける権利を侵害したとして、腎不全で透析中などの患者ら約10人が今月下旬にも、国などを相手取り、移植を受ける権利の確認と国会賠償を求め松山地裁に提訴する。

 厚労省は昨年7月、日本移植学会などが示した「(病気腎移植は)現時点で医学的妥当性がない」との見解を踏まえて原則禁止にした。患者らは「事実と違う発言をして病気腎移植の道を閉ざした」として、同学会の幹部も相手取り、損害賠償を求める。

 提訴するのは、香川県丸亀市の長谷川博さん(48)をはじめ、愛媛や岐阜、広島各県などの透析患者や病気腎移植を受けた患者約10人。国への賠償請求は、一人当たり1千万-数百万円。患者らは、治療を選ぶ患者の自己決定権や生存権を中心に争う考え。

 患者らは「病気腎移植は海外でも実績があり、深刻な臓器不足の中で必要な手段」と主張。治療を選択する権利については、生命や自由を追求する権利を定めた憲法13条に基づき「合理的な理由がない限り国が禁止することは許されない」としている。

 病気腎移植については、厚労省は日本移植学会などの見解を踏まえ昨年7月、臨床研究以外は病気腎移植を原則禁止することを盛り込んで改正した臓器移植法の運用指針を都道府県などに通知した。」



(2) 東京新聞平成20年10月4日付朝刊26面「解説」(11版S)

病気腎移植 患者ら提訴 国の無策打開狙う

 腎不全などで苦しむ患者たちが、国を相手に、病気腎移植を受ける権利を求め提訴に踏み切る決意をした背景には、一向に有効な施策を打ち出さない国に「これでは命がもたない」としびれを切らしたことがある。

 病気腎移植は、宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波誠医師を中心に始まったが、日本移植学会などは昨年3月、否定的な統一見解をまとめた。これを受け、厚生労働省は同7月、原則禁止とする改正した臓器移植法の運用指針を都道府県などに通知した。

 海外では、小さながんを除去した病気腎移植がオーストラリアで60例近くある。

 しかし、移植学会は「小さい腎がんは部分切除が主流で、(提供者となる)患者の治療を優先すれば病気腎移植はあり得ない」と否定。万波医師らは「多くの腎臓が捨てられている。小さいがんでも不安なので(すべて)摘出してほしいという患者がいる」と反論、対立は深まっている。

 こうした中、今年5月、超党派議連の「修復(病気)腎移植を考える超党派の会」が要件を満たせば病気腎移植を容認する見解をまとめた。だが、その後、国に特段の動きはない。患者たちは法廷で生きる権利を訴え、状況を変えたいと願っている。 (特別報道部 片山夏子)」





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2008/10/03 [Fri] 03:14:59 » E d i t
光市事件の被告弁護団に対する懲戒請求をテレビで呼び掛け、大量の懲戒請求がなされた結果、業務を妨害され、名誉を毀損されたとして、広島弁護士会所属の弁護士4人が、タレント弁護士の橋下徹氏(現大阪府知事)に1人300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が10月2日、広島地裁であり、1人につき200万円、計800万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。

広島地裁は、メディアを通じた懲戒請求の呼び掛けについて「不必要な心理的、物理的負担をさせて損害を与えるもので、懲戒制度の趣旨に照らして相当性を欠き、不法行為に当たる」と判断しました。また、発言の一部について「意見、論評の粋を逸脱している」と指摘し、弁護団が被告人の弁解として虚偽の事実を作り出した事実はないとして、名誉棄損に当たるとしています。

なお、「懲戒請求は一般市民もでき、弁護士会が懲戒に当たるかどうか判断する。日本弁護士連合会によると、今年9月末までに8千件以上の懲戒請求があったが、懲戒を決定した弁護士会はないという。」(朝日新聞平成20年10月2日付夕刊13面)とのことです。

10月5日付追記:1.の部分につき、記述内容を明確にするような修正を加え、<追記>としてこの問題に関する朝日新聞の社説に言及した。)



1.光市事件の弁護団懲戒請求の判決要旨 【共同通信:2008/10/02 12:49】

弁護団懲戒請求の判決要旨 光市の母子殺害事件

 山口県光市の母子殺害事件の弁護団懲戒請求をめぐる訴訟で、橋下徹大阪府知事に賠償を命じた広島地裁の2日の判決の要旨は次の通り。

 【名誉棄損】

 被害者を生き返らせるためだったなどと弁護団が許されない主張をしているという被告の発言は、正確性を欠いているものの弁護団の主張と著しく乖離しない。弁護士が主張を組み立てたという発言は、刑事事件では被告人が主張を変更することはしばしばあり、本件でも原告らが選任される前の弁護人の方針により主張しなかったことも十分考えられる。創作したかどうか弁護士なら少なくとも速断を避けるべきだ。弁護士である被告が真実と信じた相当な理由があるとは認められず、発言は名誉を棄損し、不法行為に当たる。原告らの弁護活動は懲戒に相当するものではなく、そのように信じた相当な理由もない。

 【それ以外の不法行為】

 弁護士懲戒制度は弁護士会の弁護士に対する指導監督作用の一環として設けられた。だが根拠のない懲戒請求で名誉を侵害される恐れがあり、請求する者は請求を受ける者の利益が不当に侵害されないよう、根拠を調査、検討すべき義務を負う。根拠を欠くことを知りながら請求した場合、不法行為になる。

 マスメディアを通じて特定の弁護士への懲戒請求を呼び掛け、弁護士に不必要な負担を負わせることは、懲戒制度の趣旨に照らして相当性を欠き、不法行為に該当する。原告らは極めて多くの懲戒請求を申し立てられ、精神的、経済的な損害を受けたと認められ、被告の発言は不法行為に当たる。

 被告は、多数の懲戒請求がされた事実により、原告らの行為は非行に当たると世間が考えていることが証明されたと主張するが、弁護士の使命は少数派の基本的人権の保護にあり、弁護士の活動が多数派の意向に沿わない場合もあり得る。

 また刑事弁護人の役割は刑事被告人の基本的人権の擁護であり、多数の人から批判されたことをもって懲戒されることはあり得ない。被告の主張は弁護士の使命を理解しない失当なものである。

 被告の発言は懲戒事由として根拠を欠き、そのことを被告は知っていたと判断される。被告が示した懲戒事由は「弁護団が被告人の主張として虚偽内容を創作している」「その内容は荒唐無稽(むけい)であり、許されない」ということであるが、創作と認める根拠はなく、被告の憶測にすぎない。また荒唐無稽だったとしても刑事被告人の意向に沿った主張をする以上、弁護士の品位を損なう非行とは到底言えない。

 被告は、原告らが差し戻し前に主張しなかったことを主張するようになった経緯や理由を、一般市民や被害者遺族に説明すべきだったと非難するが、訴訟手続きの場以外で事件について発言した結果を予測することは困難であり、説明しなかったことも最善の弁護活動の使命を果たすため必要だったといえ、懲戒に当たらない。

 【発言と損害の因果関係】

 発言は多数の懲戒請求を呼び掛けて全国放送され、前日までなかった請求の件数は、放送後から2008年1月21日ごろまでに原告1人当たり600件以上になった。

 またインターネットで紹介され、氏名や請求方法を教えるよう求める書き込みがあり、ネット上に請求書式が掲載され、請求の多くはこれを利用していた。掲載したホームページには発言を引用したり番組動画を閲覧できるサイトへのリンクを付けて発言を紹介、請求を勧めるものがあった。

 多数の請求がされたのは、発言で被告が視聴者に請求を勧めたことによると認定できる。被告は請求は一般市民の自由意思で発言と請求に因果関係はないと主張するが、因果関係は明らかだ。

 【損害の程度】

 原告らは請求に対応するため答弁書作成など事務負担を必要とし、相当な精神的損害を受けた。

 もっとも呼び掛けに応じたとみられる請求の多くは内容が大同小異で、広島弁護士会綱紀委員会である程度併合処理され、弁護士会は懲戒しないと決定した。経済的負担について原告の主張そのままは採用しがたい。

 弁護士として知識、経験を有すべき被告の行為でもたらされたことに照らすと、精神的、経済的損害を慰謝するには原告らそれぞれに対し200万円の支払いが相当だ。

2008/10/02 12:49 【共同通信】」



◇判決骨子◇

◆名誉棄損にあたるか

 懲戒請求を呼びかける発言は、原告の弁護士としての客観的評価を低下させる

◆懲戒制度の趣旨

 弁護士は少数派の基本的人権を保護すべき使命も有する。多数から批判されたことをもって、懲戒されてはならない

◆発言と損害の因果関係

 発言と懲戒請求の因果関係は明らか

◆損害の有無と程度

 懲戒請求で原告は相応の事務負担を必要とし、精神的被害を受けた。いずれも弁護士として相応の知識・経験を有すべき被告の行為でもたらされた」(毎日新聞平成20年10月2日付夕刊1面より)




(1) 広島地裁判決の論理・結論は、「光市母子殺害事件弁護団が、タレントの橋下弁護士を提訴へ~テレビ番組での“懲戒請求呼び掛け”発言で」(2007/08/30 [Thu] 22:58:01)で言及した点とほぼ重なっています。ですから、論理展開も十分に納得できたものであり、十分に予想できた結論であったと思います。

この事件は、「弁護士に対する不当な懲戒請求としての不法行為責任」(最高裁平成19年4月24日判決参照)の一種です(「弁護士に対する懲戒請求と不法行為の成否~“母子殺害で懲戒請求数百件”との報道を聞いて」(2007/06/22 [Fri] 07:30:56)参照)から、不法行為責任を認めたとしても、さほど珍しい判断ではありません。

「被告の発言は懲戒事由として根拠を欠き、そのことを被告は知っていたと判断される」としているように、橋下氏が述べる点は懲戒事由に当たらないとしていますので、この部分に不法行為責任を肯定した点は従来どおりの判断です。

なお、「原告らが差し戻し前に主張しなかったことを主張するようになった経緯や理由を、一般市民や被害者遺族に説明すべき」だったか否かという説明義務の有無は、おそらく初めての判断です。広島地裁は、当然ながら説明義務はないとしており、妥当な判断です。なぜなら、弁護人が訴訟手続外で説明した場合、被告人の利益になるか不確定であり、特にBPOの意見書が指摘するように、テレビ報道の仕方が当事者主義や弁護士の役割などの刑事裁判に対する前提的知識を欠いており、公正性・正確性・公平性の原則を満たしていなかったのですから、訴訟手続外で説明しなかったことは、むしろ、弁護士の使命として必要だったともいえるのですから(広島地裁)。



(2) ただし、この訴訟は、自ら懲戒請求をせずに、メディアで多数人に懲戒請求を煽った者に対しても不法行為責任が認められるかが問題となった事案であり、その点については以前に裁判例は見当たりませんでした。

この点、広島地裁判決は、名誉毀損に当たるとして不法行為を認めただけでなく、自ら懲戒請求をせずに懲戒請求を煽った者に対しても、不当な懲戒請求であるとして不法行為責任(最高裁平成19年4月24日判決)を認めており、この点が新しい判断であって、意義のあるものとなったいえます。すなわち、「懲戒行為を呼びかける行為自体の違法性」を問題とし、多数の懲戒請求が押し寄せたことにつき、不法行為を肯定した点で、注目すべき裁判例といえるのです。



(3) こうした意義も重要なのですが、この広島地裁判決の指摘のうち、特に重要な指摘は、「刑事弁護人の役割は刑事被告人の基本的人権の擁護であり、多数の人から批判されたことをもって懲戒されることはあり得ない。被告の主張は弁護士の使命を理解しない失当なものである。」とした点です。

「橋下弁護士の懲戒請求扇動訴訟~弁護士は誰のためにいるのか?」(2007/09/15 [Sat] 22:42:16)において、橋下氏の主張は、専ら被告人の利益擁護のための弁護人制度を定めた弁護士法そのもの及び弁護人依頼権(憲法37条3項、憲34条)に違反するものであり、「刑事訴訟法の歴史は弁護権の拡大の歴史である」ことを失念したものだと、厳しく批判していました。

ですから、広島地裁判決が、「橋下氏は弁護士でありながら、被告人の基本的人権の擁護という弁護士の使命を理解していない」として厳しく非難した点は極めて妥当であり、多くの者が予想できるような指摘であったといえるのです。

このように、今回の広島地裁判決は、橋下氏は、弁護士でありながら弁護士資格を有するに値しないといわんばかり判示を行ったのです。弁護士でありながら、弁護士の使命を理解していないことは、自己否定に等しいのですから。



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裁判例 *  TB: 4  *  CM: 21  * top △ 
2008/10/01 [Wed] 23:59:38 » E d i t
中山成彬前国交相の暴言問題については、次のように何度か触れています。

「中山国交相の暴言問題:「日本は内向きな単一民族、成田闘争は『ごね得』、日教組強いと学力弱い」~いずれもまったく根拠のないデタラメ!!!」(2008/09/27 [Sat] 22:55:42)

「中山国交相が辞任:麻生首相、任命責任認め陳謝」(2008/09/29 [Mon] 23:57:17)



1.何度か触れている問題とはいえ、東京新聞10月1日付「こちら特報部」で記事にしていたこともあり、もう一度触れておきたいと思います。もう一度触れるのは、平成19年9月、国連において「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が日本も賛成したうえで採択され、さらに、平成20年6月6日(金)の衆参議院本会議において、アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議案が全会一致(両議院で反対議員なし)をもって可決されたことを、無意味なものにしないようにし、二度と中山成彬前国交相のような妄言を吐く者が出てこないようにするためです。

東京新聞10月1日付「こちら特報部」も紹介しておきます。



アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議


平成20年6月6日
参議院本会議

 昨年九月、国連において「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が、我が国も賛成する中で採択された。これはアイヌ民族の長年の悲願を映したものであり、同時に、その趣旨を体して具体的な行動をとることが、国連人権条約監視機関から我が国に求められている。

 我が国が近代化する過程において、多数のアイヌの人々が、法的には等しく国民でありながらも差別され、貧窮を余儀なくされたという歴史的事実を、私たちは厳粛に受け止めなければならない。

 すべての先住民族が、名誉と尊厳を保持し、その文化と誇りを次世代に継承していくことは、国際社会の潮流であり、また、こうした国際的な価値観を共有することは、我が国が二十一世紀の国際社会をリードしていくためにも不可欠である。

 特に、本年七月に、環境サミットとも言われるG8サミットが、自然との共生を根幹とするアイヌ民族先住の地、北海道で開催されることは、誠に意義深い。

 政府は、これを機に次の施策を早急に講ずるべきである。

一 政府は、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を踏まえ、アイヌの人々を日本列島北部周辺、とりわけ北海道に先住し、独自の言語、宗教や文化の独自性を有する先住民族として認めること。

二 政府は、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が採択されたことを機に、同宣言における関連条項を参照しつつ、高いレベルで有識者の意見を聴きながら、これまでのアイヌ政策を更に推進し、総合的な施策の確立に取り組むこと。

 右決議する。


(西岡武夫君外六名発議)」



アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」に関する内閣官房長官談話


平成20年6月6日

1.本日、国会において「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が全会一致で決定されました。

2.アイヌの人々に関しては、これまでも平成8年の「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会」報告書等を踏まえ文化振興等に関する施策を推進してきたところですが、本日の国会決議でも述べられているように、我が国が近代化する過程において、法的には等しく国民でありながらも差別され、貧窮を余儀なくされたアイヌの人々が多数に上ったという歴史的事実について、政府として改めて、これを厳粛に受け止めたいと思います。

3.また政府としても、アイヌの人々が日本列島北部周辺、とりわけ北海道に先住し、独自の言語、宗教や文化の独自性を有する先住民族であるとの認識の下に、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」における関連条項を参照しつつ、これまでのアイヌ政策をさらに推進し、総合的な施策の確立に取り組む所存であります。

4.このため、官邸に、有識者の意見を伺う「有識者懇談会」を設置することを検討いたします。その中で、アイヌの人々のお話を具体的に伺いつつ、我が国の実情を踏まえながら、検討を進めて参りたいと思います。

5.アイヌの人々が民族としての名誉と尊厳を保持し、これを次世代へ継承していくことは、多様な価値観が共生し、活力ある社会を形成する「共生社会」を実現することに資するとの確信のもと、これからもアイヌ政策の推進に取り組む所存であります。




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