1.まず、報道記事を幾つか。
(1) 読売新聞平成20年6月27日付夕刊1面(4版)
「諫早堤防5年開門 干拓、漁業に悪影響 環境調査命じる…佐賀地裁判決
国営諫早湾干拓事業(長崎県)で有明海の環境が変化し漁業被害が発生するなどしたとして、福岡、佐賀、長崎、熊本の沿岸4県の漁業者ら約2500人が国を相手取り、潮受け堤防撤去や堤防の排水門の常時開放などを求めた訴訟の判決が27日、佐賀地裁であった。神山隆一裁判長は干拓事業と一部海域での環境悪化や漁業被害との因果関係を認め、「国は中・長期の開門調査を実施すべきだ」として、国に対し、判決確定後、代替の防災工事などに要する3年間の猶予後に南北2か所の排水門を少なくとも5年間開放するよう命じた。
堤防撤去や漁業者への慰謝料の支払いについては認めなかった。排水門の常時開放の仮処分は却下した。農水省は控訴する方向で検討している。
提訴は2002年11月。原告側は、1997年に潮受け堤防により諫早湾の3分の1が閉め切られた後、諫早湾内や有明海全域で高級二枚貝のタイラギやアサリが取れなくなり、有明海全体で00年度にノリが凶作になるなど漁業被害が生じたと主張。国側は、堤防閉め切りで漁業環境は悪化しておらず、漁獲量の変化は見られないと反論していた。
判決では、堤防閉め切りで泥の質が悪化したと認定。魚介類の生息が困難になるほど水中の酸素濃度が低下する「貧酸素水塊」が頻発する事態を招いたとした。
また、干拓工事で海底の泥が拡散し、毒性の強い赤潮の増加につながった可能性を指摘。これらの影響で、諫早湾内や近隣海域でアサリ養殖や漁船漁業に被害が出たと認定した。
因果関係の立証に関しては、原告側について「相当程度のがい然性の立証がされている」とし、「これ以上求めるのは酷」とした。
一方、国に対しては「中・長期の開門調査をして干拓と環境変化の因果関係がないことを反証する義務があるのに、協力しないことは立証妨害と言っても過言ではなく、訴訟上の信義則に反する」と批判した。
(2008年6月27日15時11分 読売新聞)」
(2) 東京新聞平成20年6月27日付夕刊1面
「諫早水門 開放を命令 湾の漁業被害認定 佐賀地裁判決 調査妨害と国を非難
2008年6月27日 夕刊
有明海の漁業不振は、国営諫早湾干拓事業(長崎県)の潮受け堤防閉め切りが原因だとして、同海に面する長崎、佐賀、福岡、熊本各県の漁業者ら約二千五百人が、国に堤防の撤去や排水門の開門などを求めた訴訟の判決で、佐賀地裁の神山隆一裁判長は二十七日、南北排水門の五年間常時開放を命じた。諫早湾の環境変化や漁業被害と閉め切りの因果関係を認め、国に中・長期の開門調査を速やかに実施するよう異例の付言をした。
「5年間、常時開門」
準備に必要な三年間は開門を猶予するとしたが、巨額な費用がかかることなどを理由に開門を拒否してきた国は根本的な対応の転換を迫られた。
漁業者らが開門を求めた仮処分申請については「速やかに実施しなければ有明海の環境が回復不能な損害を被るとまではいえない」と却下した。
判決理由で神山裁判長は「有明海の漁業被害と堤防閉め切りの因果関係は、データが不足しており認めるのは困難だが、諫早湾内とその近くの漁場については相当程度の立証がされている」と認定。「中・長期の開門調査に応じないのは、原告が主張する被害の立証を妨害するものと言わざるを得ない」と国の姿勢を厳しく非難した。
事業の公共性については「防災機能は新たな工事により代替できる」とし、調整池への海水導入により支障が出る干拓地の農業も「漁業行使権の侵害に優越する公共性や公益があるとは言い難い」と指摘。「判決を契機に中・長期開門調査が実施され、それに基づき適切な施策が講じられることを願ってやまない」と結んだ。
諫早湾の干拓には、総事業費約二千五百億円が投じられ、費用対効果や環境への配慮をめぐり、大型公共事業の在り方が問われてきた。
原告らが工事差し止めを求めた仮処分申請では、佐賀地裁が二〇〇四年、漁業被害を認めて差し止めを命令。工事は約九カ月間中断したが、福岡高裁の取り消し決定で再開され、今年三月に完了した。現在は干拓地で営農が始まっている。
判決によると、一九九七年に諫早湾の湾奥部を全長約七キロの堤防で閉め切ったため、潮流が弱まり赤潮が発生するなど諫早湾の環境が悪化、深刻な不漁となった。」
「判決の骨子
一、国は潮受け堤防の南北排水門を5年間常時開放せよ
一、防災機能代替工事のため、判決確定から3年間は開放を猶予する
一、堤防閉め切りと有明海全体の環境変化の因果関係は認められないが、諫早湾内については相当程度立証されている
一、国が中・長期の開門調査に協力しないのは漁業者らへの立証妨害
一、開放で農業生産に支障が生じたとしても、漁業行使権侵害に優越する公共性、公益上の必要があるとは言い難い」
(3) 朝日新聞平成20年6月27日付夕刊1面(4版)
「諫早干拓 常時開門命じる 漁業影響 調査促す 期間5年、猶予3年 佐賀地裁判決
国営諫早湾干拓事業(長崎県)で有明海の漁場環境が悪化したとして、有明海沿岸の漁民らが同事業で設置された潮受け堤防の撤去や排水門の常時開門を求めた訴訟の判決が27日、佐賀地裁であった。神山隆一裁判長は、環境変化の調査期間などとして5年間、排水門を常時開門するよう国に命じた。ただし、防災上必要な工事のために国に3年間の猶予期間を与えるとした。司法が、完成した大型公共事業の見直しを迫る異例の判決だ。
神山裁判長は国が中・長期開門調査を実施しなかったことについて、原告側に対する「立証妨害」と批判。堤防撤去の請求は退けたが、諫早湾内などの環境悪化と同事業の因果関係については「相当程度の蓋然(がいぜん)性がある」とした。
佐賀地裁は同日、原告団が05年10月に同地裁に申し立てていた排水門の常時開門を求める仮処分は却下した。
判決は、国が97年4月に潮受け堤防で諫早湾を締め切った後、同湾や有明海湾奥部などで赤潮の発生期間が増大したと指摘。ただし、有明海全体については「原因を特定できるほどに科学的知見の集成が行われておらず、高度の蓋然性で認定するのは困難」とした。だが、諫早湾内と付近に限っては「漁船漁業やアサリ漁、養殖漁業の環境を悪化させた」として閉め切りと漁場不振との因果関係を認めた。
さらに、国の公害等調整委員会などが求めた中・長期開門調査を国が実施しないのは「立証妨害と同視できるといっても過言ではなく、訴訟上の信義則に反する」と批判。国には因果関係について反証する義務があると指摘した。
常時開門にむけた防災工事には少なくとも3年かかるとし、判決確定から3年以内の開門を求めた。開門期間を5年とした理由については、調整池が海域の生態系へ移行するのに2年、その後の調査期間に3年が必要としている。
開門などに伴って支障が生じる農業生産についても「漁業行使権の侵害に対して優越する公共性ないし公益上の必要性があるとは言い難い」と断じた。
長崎県によると、排水門は現在、農業用水として使用している淡水の調整池の水位を一定に保つため干潮時などに定期的に開かれているが、常時開門すれば海水が流れ込み、営農に支障が出る。池の水位も上昇するため、防災機能も低下する、としている。
判決に先立って佐賀地裁は、04年8月、事業と漁業被害の因果関係を原告の主張の沿う形で認め、干拓工事の差し止めを命じる仮処分を決定し、工事が一時中断。この決定は05年5月、福岡高裁で「因果関係の証明が十分でない」として取り消され、工事は再開された。最高裁も05年9月、原告側の抗告を棄却した。
<キーワード>諫早湾干拓事業 防災と農地造成を目的に、長崎県諫早湾億部を長さ約7キロの潮受け堤防で閉め切り、干拓地と調整池を設けた事業。89年に着工し、97年に堤防が閉め切られ、97年11月に完工。今年4月から営農が始まっている。00年に養殖ノリの大凶作が発生し、事業との関連を指摘する声が沿岸の農民を中心に相次いだ。総事業費は当初見込みの1350億円から2533億円に膨れ上がった。」
