死刑の「存廃議論を切り離したことで、法案提出に向けて議論が高まる可能性が出てきた」(朝日新聞平成20年5月3日付朝刊30面)との評価もなされています。
1.まず、5月15日、初会合の記事を幾つか。
(1) 東京新聞平成20年5月16日付朝刊3面
「「終身刑」めぐり 秋に改正案提出 量刑制度議連
「量刑制度を考える超党派の会」は15日、設立総会を国会内で開き<1>仮釈放のない終身刑を新設する<2>現在は10年間の無期懲役刑の仮釈放期間を大幅に延長する―の2案のどちらかを選択し、秋の臨時国会に関係法の改正案を提出することで一致した。
会合には、与野党の議員55人と代理45人が出席。死刑制度の是非は議論しないことも確認した。」
(2) 東京新聞平成20年5月16日付朝刊25面「こちら特報部」(「死刑―存廃を問う前に」第9回)
「死刑―存廃を問う前に:極刑 無期 「差」解消へ 超党派の会
死刑と無期懲役とのギャップ(差)の解消を目指す議員連盟「量刑制度を考える超党派の会」が15日発足した。市民が参加する裁判員制度を来年5月に控え、死刑存置派と廃止派がともに、新たな「中間刑」などを目指して意見を交わした。 (岩岡千景)
◆終身刑新設 ■ 仮釈放までの期間延長
◆裁判員制度控え「中間刑」を検討
会長に就任した加藤紘一自民党元幹事長が「裁判員制度では量刑も市民に委ねられる。量刑にギャップがあるまま市民に判断を迫るには問題があり、この会で解消を考え、慎重かつ早く結論をまとめたい」とあいさつした。
死刑の次に重い無期懲役は、現行刑法の規定上、10年で仮釈放が可能。8日の準備会合ではこの点を踏まえ、「中間刑」として▽仮釈放のない終身刑を新設する▽仮釈放になる最短期間10年を延長する―2案が出ている。
衆議院法制局の担当者は、ギャップの解消に向けた法改正の方向性と論点を説明した。例えば、仮釈放のない終身刑を新設する場合「死刑でも認められている恩赦を認めるか」「仮釈放を一切認めなければ残酷」といった疑問や指摘がある。
一方、無期懲役の仮釈放までの期間を長期化する場合、「最長30年の有期刑とのバランスをどうするか」「長期化は無期刑の重罰化にすぎず、ギャップ解消にならない」などが論点という。続いて法務省の担当者が、仮釈放を許さない無期刑がある米国や中国の例や、死刑を廃止した欧州の国々で無期刑に仮釈放が許されている事情などを紹介した。
席上、議員から「ギャップを埋めるには終身刑を設けるのがいいのでは」「終生投獄ではなく、例外的に釈放の可能性も認めるべきだ」「25年か30年後に恩赦による減刑で仮釈放があり得るなら、仮釈放のない終身刑でもいいだろう」などの意見が出された。」
これを見ると、「中間刑」として「▽仮釈放のない終身刑を新設する▽仮釈放になる最短期間10年を延長する―2案が出ている」とのことですから、「仮釈放のない終身刑」の創設だけを目標にしているのではないことが分かります。
(3) 「量刑制度を考える超党派の会」の動きについて、何らかの評価をする前に、無期懲役に関する基礎的な知識について、示しておきます。日本の無期懲役刑とは、刑期の定めがない刑のことを言います。
刑法第28条(仮釈放)は、「懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、有期刑についてはその刑期の三分の一を、無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。」と規定していることから、文言上は、無期懲役に処せられた者でも10年で仮釈放が可能です。
しかし、実際上は、10年で仮釈放されることはありません。
「結局、無期懲役って何年で仮釈放されるの?
そもそも、無期懲役とはどんな刑罰なのか。本当に7年ぐらいで出所できるのか。法務省の刑事法制管理官室に聞いてみた。
「一部の国や地域では、生涯出所できない無期懲役の制度もありますが、日本では『仮釈放』が認められる制度を採用しています。一般的に『終身刑=死ぬまで服役』と思われているようですが、たとえ仮釈放がある無期懲役でも“一生その刑が続く”という意味では同じものなのです」
この「仮釈放」が、刑期中でも出所できる制度だ。ただし、出所できるといってもあくまで「仮」。刑が消えるわけではない。
「仮釈放された受刑者は、保護観察下に置かれます。住居が規制され、長期の外出も許可が必要になる。無期懲役は、このような制限のある生活が一生続くのです」(同)
もちろん、無期懲役囚の仮釈放は容易ではない。まず、その申請には最低10年の服役が必要だ。さらに、引受人や帰住地環境などが調査され、厳重に審理が行われる。「犯罪白書」(05年版)によると、04年に仮釈放された無期懲役囚数は全無期懲役受刑者1467人中3人。いずれも20年以上服役し、仮釈放許可人員の平均服役期間は27年2カ月(「矯正統計年報」05年版より)である。7年はおろか、十数年で出所できるなんてありえない話なのだ。」(R25.jp:社会(2007.07.05)から一部引用)」
このように、無期懲役の受刑者すべてでなく、仮釈放が許可された者であっても平均服役期間は27年2カ月ですから、今でも30年近く服役しているのが現実です。
もし、「仮釈放」できたとしても、仮釈放された受刑者は、すべて必要的に保護観察下におかれるのですから(犯罪者予防更生法33条1項3号)、自由ではないのです。しかも、この記述にはでていませんが、服役が40年を超える者も少なくなく、50年に及んでいるケースもあるほど長期間に及んでいますから、10年で仮釈放されるなんて、実際上は、あり得ないのです。
注意しておきたいのは、「仮釈放許可人員の平均服役期間は27年2カ月」というのは、平成16年刑法改正による「刑法の重罰化(有期刑引き上げ等)」がなされる前に判決が出た場合の運用なのです。
平成16年刑法改正前は、有期懲役・禁錮の法定刑の上限は15年、加重された場合で20年とされていたのですが、平均寿命が伸びたことを理由に平成16年刑法改正は、それぞれ20年、30年に引き上げました(刑法12条1項、14条)。
刑期の上限が20年のときに平均服役期間が27年(40年・50年に及ぶこともある)なのですから、上限が30年になれば、有期刑とのバランス上、当然、(平成16年改正後に犯罪行為を行い無期懲役となった者については、)平均服役期間が30年以上になることは必至です。
30〜40年前の自分に立ち返って考えてみてください。今ある生活環境、社会状況を想像できたでしょうか。刑務所でも一定の情報は得られるとはいえ、30〜40年世間と隔絶していたら、刑務所から出てきても全くの「浦島太郎」状態でしょう。無期懲役刑とは、それほどまでに長期間服役しているものなのです。
さらに言えば、検察庁は無期懲役者の仮釈放について秘密通達を出しており、その通達では、無期懲役刑が確定した事件のうち、「動機や結果が死刑事件に準ずるくらい悪質」などの「マル特無期事件」について、刑務所長・地方更生保護委員会からの意見照会に対し、「仮出獄不許可」の意見を作成し、事実上の「終身刑」とするよう求めています。すなわち、実際上は、検察庁は、「仮釈放のない終身刑」を勝手に創設しているのです(「終身刑創設法案を今国会提出へ〜亀井静香・死刑廃止議連会長に真意を聞く(東京新聞平成20年3月18日付「こちら特報部」より)」(2008/03/20 [Thu] 00:08:48))。
裁判所も、死刑の求刑に対して無期懲役を言い渡した場合、仮釈放については「被告の性格の改善が容易でないことに十分留意するよう希望する」と慎重な運用を求めることがあります(秋田県藤里町で2006年にあった連続児童殺害事件・秋田地裁平成20年3月19日判決)。要するに、裁判所も、検察庁の秘密通達を事実上、黙認していると理解できるのです。
確認しておきます。
無期懲役の受刑者は、刑期の上限が20年のときに平均服役期間が27年(40年・50年に及ぶこともある)であり、今後は30年以上服役するのが通常となるのであり、さらに、「動機や結果が死刑事件に準ずるくらい悪質」などの「マル特無期事件」については、すでに仮釈放のない終身刑として運用されているのです。これが無期懲役の現実です。
そうなると、はて?と思うはずです。
と。「死刑と無期懲役とのギャップ(差)はあるのだろうか?」
その問いへの答えは明白です。実際上は、「死刑と無期懲役とのギャップ(差)」はないのであって、一部のマスコミ(それを妄信している一部の市民)が勝手に勘違いしているだけなのです。

