2.東京新聞3月22〜29日「生活保護を考える」
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東京新聞平成20年3月22日付朝刊11面【暮らし面】「生活保護を考える(上):単身世帯の高齢者 食費、半数が月3万未満 国は基準引き下げ検討
2008年3月22日
生活保護を受ける世帯が増えている。普通の生活から、突然貧しい生活に陥ることもある。高齢で働けなくなった、年金だけでは生活できない、離婚で母子家庭になった…。“最後のセーフティーネット”とされる生活保護制度の現状を探った。 (渡部穣)
「これまで一生懸命働いて、税金もきちんと納めてきたのに。どうしてこんなことになっちゃったのかな」。生活保護を受けて二年目の埼玉県内に住む男性(83)は独り言のようにつぶやいた。「楽しみは何もない。毎日どうやって生き延びるかという悩みだけです」
若いころに妻と離婚してから一人暮らし。七十五歳まで道路の工事現場で働いたが、景気悪化と高齢が重なり仕事がなくなった。それから五年後、貯金が底をつき、生活保護に助けを求めた。
男性の一カ月の生活保護費は約十一万円。家に風呂はなく、三、四日に一度銭湯に行く。洗濯機もない。光熱費や家賃などを差し引いた残り約三万円が食費に。「朝食を遅めにとって、一日二食に抑えている。とにかく惨めだ」
「十数年前に夫と死別して急に貧しくなった」という女性(80)も生活保護を受ける。居間のテレビは三十年前に買ったものだ。「もうちょっとお金があるとね。灯油が高くてストーブはほとんどつけないし、こたつも壊れたまま」とため息をつく。腰が悪くて外出できず、週一回デイサービスの介助で風呂に入るのが唯一の楽しみという。
◇
生活保護受給者は一九九五年から毎年増加し二〇〇六年度は約百五十一万人(厚生労働省統計)。生活保護全世帯に占める六十五歳以上の高齢者世帯は47%(〇四年度)で、過去十年間で一・八倍になった。
前出の二人のような、生活保護の高齢者世帯に占める単身世帯は九割に上る。全日本民主医療機関連合会の〇七年調査では、その食費は半数以上が月三万円未満。うち23%が二万円未満という貧しさだ。国立社会保障・人口問題研究所は、二〇三〇年には七十五歳以上の単身高齢者世帯数は倍増すると見込んでいる。
備えがないと、老後の生活は苦しい。六十五歳以降に受け取れる老齢基礎年金は現在、満額でも月額約六万六千円。前出の男性は無年金だが「国民年金をもらっていたとしても少なすぎて、生活保護を受けることになっただろう」と話す。
生活保護基準と世帯収入の差額が生活保護費になるが、国は保護基準引き下げを検討している。「(年金などで生活する)低所得者層との均衡を図る」という理由だ。同じ理由で、国は〇六年、七十歳以上に支給していた月約一万五千−一万八千円の「老齢加算」を廃止した。
生活保護世帯を支援する市民団体「生活と健康を守る会」の幹部は「少なすぎる年金で生活する低所得者世帯と比べて、支給額を引き下げるのは“あべこべ”。長生きすることは罪なのか、国に問いたい」と憤る。
◇
生活保護を受ける高齢者は、社会から孤立する傾向がある。生活保護を受ける後ろめたさに加え、金銭的な余裕がなく、人付き合いを避けるからだ。前出の男性は「外でお茶一杯を飲むのも懐が痛い。人を遠ざけるようになってしまった」。女性も「友人の葬式にも出られない。香典を出せないから」とつぶやいた。
「家にいれば電気代がかかるから」と、男性は天気の良い日は外出し、近くの公園で遊ぶ子どもたちを見ながら考える。「国に何とかしてほしいけど、老後を考えてこなかった自分も悪い。若い人たちには、厚生年金がある大きな企業に入りなさいよ、と言いたい」
=次回は25日掲載」
(2)
東京新聞平成20年3月25日付朝刊21面【暮らし面】「生活保護を考える(中):母子家庭 9割が養育費不払い にもかかわらず、あと1年で「母子加算」廃止
2008年3月25日
「最近ようやく人間らしい生活ができるようになった感じです」
東京都内で生活保護を受ける女性(35)は落ち着いた表情でそう話した。九歳と六歳、三歳の計三人の子どもを育てる母子家庭だ。生活保護費や児童扶養手当、元夫からの養育費を含めた一カ月の生活費は約二十四万円。
家賃や光熱費などを差し引けば、家族四人の食費や衣服代、学用品などの雑費に使えるのは七万円程度。それでも、女性は「決して楽ではないが、結婚しているときは、月二万円ぐらいで何とかしなければならなかった。当時に比べればまだ余裕がある」と、たくましい。
離婚したのは三年前。元夫は定職に就かず、趣味の車やパソコンに大金を注ぎ、借金も女性に隠していた。浮気も発覚し家に戻らなくなった。それを責めると暴力を受けた。三人目の子どもができると、「オレはおまえと子どもの犠牲にはならない」。離婚を決めた。
元夫からの養育費が二年間滞っていたが、最近になって、元夫側から養育費減額が請求された。女性が渋々応じると再び養育費が振り込まれるようになった。子ども三人分で、月六万円。
それでも恵まれているほうだ。国の統計では、元夫が母子家庭の養育費を支払っているケースは全体の一割程度。十分な扶養能力がありながら、拒否する例も多い。
生活保護法には、保護費を支出した自治体が父親に対し、司法手段などを通じて負担を要求できる規定があるが、適用している自治体はほとんどない。厚生労働省は「各自治体にノウハウがないのが要因」と判断。新年度にも、適用マニュアルを各自治体に配布する予定。
◇
生活保護に頼らざるを得ない母子家庭は増えている。二〇〇四年度で約八万七千世帯。全生活保護世帯数の9%を占め、過去十年間で一・七倍にふくらんでいる。
国は、増加を続ける社会保障分野の予算抑制に躍起だ。「老齢加算」と同じく、生活保護を受けていない低所得世帯との「均衡を図る」という理由で、十六歳から十八歳の子を持つ一人親への母子加算は〇七年度から廃止。十五歳以下の子どもの分も〇七年度から段階的に削られ、〇八年度の七千七百五十円(月額)が最後の支給になる。
女性は「子どもに、十分な教育を受けさせてあげられるかどうか…」。将来への不安が胸をふさぐ。離婚直後、無理をして働いて腰と首を痛め、今も働ける体ではない。「早く働けるようになって、この状況から抜け出さなくちゃ、と焦る」
◇
母子家庭を支援するNPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事の赤石千衣子さんは「生活保護世帯の方が、多数の低所得世帯より収入が高くなるのは、大半の母子世帯が生活保護を受ける権利があるのに受けていないから。生活保護費を減額して、より低い方に合わせる政策は、格差を助長する」と批判する。
さらに「夫が家庭にお金を入れなくても、暴力があっても、長い間、我慢してしまう女性は多い。私たちに助けを求めに来たときは肉体的にも精神的にも疲弊している人が多い」と指摘。疲れ切ってしまう前に、生活保護に助けを求めることを勧める。
「疲弊してからでは自立が難しく、生涯にわたって生活保護を受ける可能性が高くなる。結果的に、国の支出も高くつく。国は自立支援に力を入れているが、生活保護申請の“入り口”を低くすることが必要だ」
(渡部穣)
=次回は29日掲載」
(3)
東京新聞平成20年3月29日付朝刊21面【暮らし面】「生活保護を考える(下):自治体の苦悩 ケースワーカーが足りない 適正な支給、自立支援難しく
2008年3月29日
「何で離婚なんかしたの? あなたの責任なんだから自分で何とかしなさい」
「税金で食べさせてもらおうなんて甘いよ」
離婚後、三人の子育てで生活に窮した東京都内に住む女性(35)が、生活保護の申請で福祉事務所を訪れ、相談員から投げつけられた拒絶の言葉だ。後日、母子家庭支援団体の女性と一緒に訪れると、一転、申請が認められ、急場しのぎの一時金数万円まで渡された。
女性は「同じ職員だったのに態度がまったく違った」と納得がいかない様子。
生活保護の申請があった場合、福祉事務所は受理し、収入や扶養者の有無などを審査の上、十四日以内に要否を通知することが生活保護法で定められている。しかし、前出の相談員のように、申請を断念するよう“説得”する「水際作戦」が広く行われている。
二〇〇六年五月、北九州市で生活保護申請を拒絶された男性(56)が餓死した事件では、同市の組織的な水際作戦が、社会的な批判を浴びた。生活保護を受ける年金受給者に対し、年金だけでの生活を指導し、生活保護の辞退を促す例もある。
こうした対応をする自治体側の事情として、「ケースワーカーの不足」を指摘する声もある。ケースワーカーは、生活保護の妥当性を審査し、保護受給者の自立にむけた指導も担当。大都市では、一人で百世帯程度を受け持つ場合が多く、百五十世帯以上のケースも。担当世帯が増えれば、当然仕事は忙しくなる。ある相談員は「申請の対応をしていると、『これ以上忙しくさせるな』という、ケースワーカーからの厳しい視線を感じる」と明かした。
毎年増加する生活保護世帯に対し、財政難の自治体は、十分なケースワーカーの増員ができていない。厚労省調査では、〇四年度までの過去五年間で、ケースワーカー一人が担当する世帯数は十軒増加している。
「首都圏生活保護支援法律家ネットワーク」事務局長の森川清弁護士は「ケースワーカーの絶対数が不足し、調査が行き届かない。その結果、生活保護の『適正な支給』や自立支援が難しくなっている。悪循環だ」と指摘。情報不足は、約九十億円(〇六年度)にのぼる不正受給の増加にもつながっている。
◇
厚労省の指導で、〇五年度から、生活保護受給者の自立支援プログラムが導入された。自立を促し、毎年ふくらむ生活保護費を削減する狙い。プログラムで福祉事務所とハローワークが連携、無料の職業訓練などで成果をあげつつある。同年度から「貧困の再生産」を防止しようと、生活保護世帯の子どもへの高校就学費支給も始まった。
さらに東京都は独自に来年度から、塾費用なども支援する。都の決定に先立ち、小金井市は〇六年度から塾費用を援助。〇七年度からは板橋区、北区、西東京市、武蔵野市も始めた。
板橋区の場合、中学三年生のいる保護世帯の希望者に年十九万円を支給している。同区の生活保護世帯の子どもの全日制高校進学率は74%で、全国平均より二割も低い。同区のケースワーカーは「高校受験のために塾に行くのは今や常識。高校進学で就職率が高くなるだけでなく、人間的にも成長できる」と話す。
しかし、自立支援や就学支援は「世帯の抱える問題の把握」が前提。自治体ごとに取り組みの“温度差”が違い、ケースワーカー不足が暗い影を落とす。森川弁護士は「国は財政難の自治体を助け、ケースワーカー増員を支援することが重要」と訴える。 (渡部穣)」
3.今、このブログを読んでいる方がどの程度の暮らしをしているのか分かりません。もしかしたら衝撃を受け、大変なショックを受けた方もいるかもしれません。しかし、東京新聞がこの3日間にわたって掲載したものより、現実はもっと悲惨な状況であり、生活保護を受けられずに市役所の前で行き倒れになって死亡しているという例さえもあるのです。
(1) 注意しておきたいのは、もっと悲惨な事例があるからといってまだマシとか、言ってはならないのです。生活保護受給者への世論の白眼視的ムードも妥当なことではないのです。
「下見て暮らせ
一生懸命働いても生活保護費に及ばない。まじめに働く気がしない、という声をこの数年聞いた。働く人が働かない人より貧しい生活を送るようなことがあってはならない、是正するのは当然のことと誰もが思う。
だが、単純に低所得世帯の生活水準以下に下げることが、適正な措置かどうか。この数年政府がやってきたことを一言でいえば、社会階層の上と下の格差拡大だ。上は累進課税の緩和、下はフリーターなどに見られる低賃金化だ。下へ押し下げられた層は、年金や国民健康保険の掛け金がまともに払えない状況にある。船で言えば喫水線いっぱいで航行している。
このたびの厚生労働省の有識者による検討会の生活保護費引き下げの最終報告は、はっきり言ってあしきポピュリズムだ。低所得世帯の一般的生活費の下に生活保護水準を持っていくことは国民感情に合う。生活保護受給者への世論の白眼視的ムードに便乗する。報告にはそういう狙いが始めからあったとしか思えない。かつて江戸幕府は悲惨な生活を送る農民に「上見て暮らすな、下見て暮らせ」と言った。死語になったはずの言葉が政府の中に脈々と生きていることに驚く。冗談ではない。(伊)」(東京新聞平成19年12月6日付夕刊4面「けいざい潮流」欄)
「上見て暮らすな、下見て暮らせ」という死語になったはずの言葉を、日本政府は何かと言うと、人々の間に定着させようとしていると思えてなりません。日本の市民はいつの間にか、その扇動に載せられてしまっているように思えるのです。
(2) 最初に、憲法は、国民に「人間に値する生存」を保障していると述べました。今の日本では、「人間に値する生存」が脅かされている状況が多数の方に生じており、むしろ増え続けているのです。「生活保護に頼らざるを得ない母子家庭は増えている。二〇〇四年度で約八万七千世帯。全生活保護世帯数の9%を占め、過去十年間で一・七倍にふくらんでいる」(東京新聞3月25日付)のです。
さらに、「(生活保護)申請を断念するよう“説得”する「水際作戦」が広く行われている」(東京新聞3月29日付)であり、憲法上の権利行使を妨害することさえ平然と行われているのです。
これら生活保護の現状は、憲法上、極めて不当なことであり、「下を見て暮らせ」という扇動に乗せられてはならないのです。この状況はおかしいと言い続けるべきであり、直ちに改善されるべきことなのです。
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