民主党の比例票は自民党の1.4倍であり、比例区で自民党を670万票上回る過去最多の2325万6242票を獲得したのですから(朝日新聞7月30日付夕刊3面)、名実ともに第1党となりました。この選挙について触れたいと思います。
「自民、歴史的大敗 民主躍進、初の参院第1党
2007年07月30日06時30分
安倍政権の信任が問われた第21回参院議員選挙は29日投開票された。自民党は改選の64議席から37議席に減らし、89年に宇野首相が退陣した過去最低の36議席に匹敵する歴史的大敗となった。公明党も選挙区で擁立した5人中3人が落選する惨敗で、非改選を含む与党の議席は過半数を割り込んだ。しかし、安倍首相は同日夜、続投を表明した。一方、民主党は改選議席の32議席から60議席に躍進し、自民党が55年に結党してから参院で占めてきた第1党の座が初めて入れ替わった。
今回の当選者と非改選議席を合わせた新勢力は、野党側が134議席、与党側は105議席。
政党別の当選者は、選挙区、比例区を合わせて、自民は改選64議席を大きく下回る37議席。公明も改選12議席のところ9議席にとどまった。
一方、民主は改選32議席に対し60議席と躍進。他は共産3、社民2、国民2、日本1などとなっている。
今回の改選数は選挙区73、比例区48の計121。年金や政治とカネにまつわる問題に関心が集まる中、前回(04年)に比べて57人多い377人が立候補し、支持を訴えてきた。」(asahi.com(2007年07月30日06時30分))
安倍首相は、選挙戦中
という問い掛けをしたのです。この参院選挙において、有権者は僅差でなく圧倒的な議席数を民主党に与えたのですから、小沢さんの方が首相にふさわしいという意思を示したことになります。「私と小沢さんのどちらが首相にふさわしいか」
ならば、「安倍氏は首相にふさわしくない」という決断をした有権者の意思を尊重して頂きたいと思います。自ら述べた言葉の責任をとるべきです。責任を取らないのであれば、嘘つき首相とそしられ、ますます信頼されないことになり、安倍政権及び与党(自民党、公明党)ともども支持率が一層下がるだけです。
1.年金問題や「政治とカネ」の問題、格差問題などが大きな争点となり、憲法改正を掲げる安倍首相の「戦後レジームからの脱却」路線を含め、安倍政権10ヶ月間への信任の是非が問われています。
「参院選29日投開票 安倍政権への信任の是非問われる
2007年07月28日00時23分
第21回参院議員選挙は29日投開票される。社会保険庁のずさんな記録管理が次々に発覚した年金問題や「政治とカネ」の問題、格差問題などが大きな争点となり、憲法改正を掲げる安倍首相の「戦後レジームからの脱却」路線を含め、政権への信任の是非が問われている。
改選は選挙区73議席と比例区48議席。最大の焦点は、与野党のどちらが過半数(非改選を含め122議席)を獲得するかだ。自民、公明の与党が過半数を維持するには改選121議席のうち64議席が必要となる。自民党は公示前勢力110議席のうち64議席が今回改選になる。朝日新聞など各種の情勢調査で苦戦が伝えられており、40議席台前半以下に落ち込んだ場合は民主党が参院の第1党となる可能性が高く、政権運営が困難になる。
選挙区218人、比例区159人の計377人が立候補している。主要政党別では自民党83人、民主党80人、公明党22人、共産党63人、社民党23人、国民新党23人、新党日本3人。ほかに維新政党・新風、共生新党、9条ネット、女性党など諸派46人、無所属34人。」 (asahi.com(2007年07月28日00時23分))
強い逆風を受ける与党の獲得議席数が最大の焦点で、即日開票され、選挙区は29日深夜、比例代表は30日未明までに当落が判明する見通しです(毎日新聞7月29日付朝刊1面)。獲得議席数の結果次第では安倍晋三首相が進退を問われることになります。もっとも、安倍首相は結果如何に関わらず、首相の地位に留まりたいようですが。
安倍首相の進退はともかく、投票率も焦点で、前回04年の56・57%(選挙区)を上回るかどうかも重要です。投票したかどうかは、有権者の政治意識がどれほど高まっているかが現れているといえるからです。
「(7/20)参院選、投票所の3割が終了時間繰り上げ
29日投開票の参院選で、全国約5万1700の投票所のうち29%に当たる約1万4800カ所で、原則午後8時までの投票時間を繰り上げて終了する予定であることが総務省の調査で判明した。終了時間を繰り上げる投票所数は2004年の前回参院選よりも約3400増加。「平成の大合併」で開票所が集約され、自治体が投票箱を運ぶ時間などを考慮したためとみられる。
開票所は市町村に1カ所が基本。全国の開票所数は約2000で、前回と比べ39%(約1300)減少した。投票時間は1998年の参院選から「午前7時から午後8時まで」が原則だが、特別の事情があれば終了時間を最大4時間繰り上げることができる。」(NIKKI NET(07月20日))
もう投票を済ませた方が多いとは思いますが、まだの方はお急ぎ下さい。投票所の3割が終了時間繰り上げという状態ですから。
朝日新聞では、「投票日を前に ニッポンのゆくえ」と題する記事を連載していました(7月26日~28日)。投票する政党、候補者を選ぶのに直接関係する記事ではないのですが、日本社会の現状を振り返ってみる記事になっています。
もっとも、こういう日本社会の現状を維持するのか、変えようとする意識があるのか、と問い掛けるものですから、投票行動に無関係ではないと思います。そこで、この記事を紹介してみることにしました。
1.まず、「投票日を前に ニッポンのゆくえ」と題する記事を紹介する前に、東京新聞平成19年7月28日付【社説】は、光市母子殺害事件の弁護団への非難を諌めるものでしたので、取り上げておきます。「投票日を前に ニッポンのゆくえ」と題する記事と関連するので。
「【社説】 弁護士脅迫 裁きは法廷で冷静に
2007年7月28日
遺族感情を害し、いわゆる世間の批判にさらされても、正しいと考える活動をするのが弁護士の使命だ。その行動や自由な司法判断を封じようとする卑劣な脅迫は、法で裁かなければならない。
一九九九年に起きた山口県光市の母子殺害事件の弁護人を脅迫する手紙が、日本弁護士連合会や新聞社に届いた。事件当時十八歳だった被告を死刑にできないなら弁護人らを銃で処刑する、という内容だ。
母親と幼い子供の命が奪われた痛ましい事件であり、遺族の心情は察するに余りある。被告に対する憎しみをあおる報道が一部メディアにあふれ、一、二審判決が無期懲役だったことと相まって関心を集めた。
最高裁が広島高裁に差し戻し、現在は同高裁で審理中だが、上告審、やり直し控訴審における弁護人の行動、弁護方針が多くの人に違和感を抱かせたことも事実だ。
しかし、刑の量定も、弁護人の主張に対する法的判断も裁判官のみができる。裁判と無関係な人間が特定の行動や司法判断を関係者に強要することは許されない。
憲法三七条は「刑事被告人はいかなる場合にも資格を有する弁護人を依頼することができる」と定めている。弁護人の役割は被告に適正な裁判を受けさせ、罪を犯した被告であっても刑罰の適正を確保してその人権を守ることである。
人類が英知を積み重ねて完成した刑事裁判は、凶悪な事件を起こした被告にも守られるべき人権はあるとの前提で成り立っている。
役割を忠実に果たしている弁護活動が、被害者感情を害し、社会的批判を受けることもある。そのような場合でも敢然と職責を全うすることが弁護士には求められる。
国連の「弁護士の役割に関する基本原則」は各国政府に弁護士の安全を保障するよう求めている。
「政府は、弁護士が脅迫、妨害、困惑あるいは不当な干渉を受けることなく、その専門的職務をすべて果たしうること…を保障する」「弁護士が、その職務を果たしたことにより、安全が脅かされる時には、当局により十分に保護される」-という第一六条の規定である。
捜査当局は速やかに捜査し、手紙を送った人物に法の裁きを受けさせなければならない。さもなければ弁護活動が委縮し、刑事裁判が形骸(けいがい)化しかねない。
脅迫は元少年の弁護人たちが死刑廃止論者であることも関係していそうだが死刑廃止の是非は冷静な環境で考えるべき問題だ。特定の事件をもとに感情的に語るのは避けたい。」
裁判自体は、裁判外の報道と異なり冷静に行われています。
「2007/07/26-21:29 元少年の供述変遷、解明へ=光市母子殺害、差し戻し審-広島高裁
1999年4月に起きた山口県光市の母子殺害事件で、殺人などの罪に問われ、最高裁が一、二審の無期懲役判決を破棄した当時18歳少年の被告(26)の差し戻し控訴審第7回公判が26日、広島高裁であり、楢崎康英裁判長は、被告の供述の変遷を把握するため、これまで明らかでなかった逮捕時からの全供述調書を証拠採用した。
第8~10回公判は9月18日から3日連続で開かれ、情状面などの被告人質問のほか、検察側が申請した法医学者の証人尋問が実施される。
この日の証人尋問で、野田正彰・関西学院大教授(精神病理学)は「父親の虐待や実母の自殺で被告の精神発達は未成熟」と指摘。18歳と同等の刑事責任を問うことは困難だと証言した。
また、拘置所で面会した被告が「ぼくは死刑になっても仕方ない。来世に行って先に(本村洋さんの妻の)弥生さんの夫になる可能性があるが、そうなると洋さんに大変申し訳ない」などと話したことも明かした。」(時事ドットコム(2007/07/26-21:29))
「最高裁の認定事実に疑問を呈する法医学者らの鑑定書3通なども証拠として認めた」(BIGLOBEニュース2007年07月26日 16時10分)ようです。
被告人の供述は、差し戻し審になるまでほとんど明らかになっていなかったのですが、これまで明らかでなかった逮捕時からの全供述調書を証拠採用することになったようです。「我田引水で身勝手な主張」だとか言って、証拠採用しないなどといった対応はしていないのです。
東京新聞平成19年7月28日付「社説」は、「刑の量定も、弁護人の主張に対する法的判断も裁判官のみができる」といった裁判制度の仕組みを説いています。言い換えると、弁護士の訴訟活動上、必要であれば、他人の名誉を毀損するような事実を主張することがあるのですが、それは正当な業務行為として違法性が阻却されるというのが通説判例なのです(東京高裁平成9年12月17日判決、判例タイムズ1004号179頁など参照)。名誉に関する主張は、裁判所の裁判によって判断され、これによって損なわれた名誉を回復することができる仕組みになっているからです。
東京新聞7月28日付「社説」は、憲法37条を示して刑事弁護の意義も説いています。すなわち、刑事弁護人は、憲法37条3項(弁護人依頼権)に基づき、その被告人のために存在するのですから、被告人の主張を裏付けるように弁護することが、憲法上要求されているのです。弁護人は、被告人の利益・権利のために誠実に、献身的に最善を尽くさなくてはならないのです(誠実義務)。
もし、被告人のために献身的に最善を尽くすことを優先せずに、被害者感情や世論に配慮して弁護することを優先するのであれば、誠実義務に違反し、憲法37条違反になってしまうのです。
このように東京新聞の社説は、裁判制度の仕組みや、刑事弁護の意義を説いて、「被告に対する憎しみをあおる報道」を行った一部メディアのあり方をたしなめ、市民に対して冷静になるよう求めたのです。
この記事ではあえて触れていないと思いますが、市民がこの裁判に対して冷静さを欠くようになった原因の1つとして、被害者遺族である本村氏の発言にあると思います。
「本村氏憤り「聞くに堪えない3日間」
山口県光市・母子殺害事件の差し戻し控訴審は28日、広島高裁で集中審理を終えた遺族本村洋さん(31)が広島市内で記者会見。殺人罪などに問われた元少年(26)について「聞くに堪えない3日間だった」と憤りをあらわにした。
本村さんは28日の公判で、退廷する元少年と事件後初めて目が合ったといい「鋭い目でにらみつけられた」と話し「この人間を社会に返してはいけない。裁けない司法ならばいらない」と強調。証言については「人を殺した理由に母親の自殺までも使っている。ここまで落ちたかと思った」と語った。 [スポーツニッポン2007年06月29日付 紙面記事 ] 」
本村氏は、「裁けない司法ならばいらない」とまで言っているのですが、これでは被害者の意向に従うのが裁判制度であると言っているのと同じであり、刑事弁護の意義を無視し、証拠に基づいて判断するという裁判を私刑集会と勘違いしているかのようです。裁判に対して無理解なのか、冷静さを失っているのか分かりませんが。
刑事弁護人として、憲法上、求められる義務・任務を行っているだけであるのに、「被告を死刑にできないなら弁護人らを銃で処刑する」といった脅迫をすることまでする者まで現れるのはあまりにも異常です。被告人を死刑と判断するか否かの判決は裁判官のみができ、弁護人は関与できないのにも関わらず、「被告を死刑にできないなら弁護人らを銃で処刑する」という内容なのですから、脅迫した者は裁判制度を全く理解していないことが明白です。
いつからこんなにも、冷静さを欠くような市民が増えてしまったのでしょうか。被害者(遺族)が冷静さを欠いた発言をしようと、煽るような報道があろうとも、市民はもっと理性的な態度であるべきなのです。
これも日本社会の現状の一端であるのだと思います。報道機関が、光市母子殺害事件の弁護団への非難を諌めること自体難しいほど、冷静さを欠いた市民が増えているのです(東京新聞の“勇気”を評価したいと思います)。では、次に「投票日を前に ニッポンのゆくえ」と題する記事を紹介します。
最近のオーストラリアの病気腎移植事情について、東京新聞の記事(「【特報】オーストラリア現地ルポ 日本で禁止の病気腎移植が未来の医療に」(2007年7月23日)、「病気腎移植現地(オーストラリア)ルポ~東京新聞7月23日付「こちら特報部」より」)に続いて産経新聞も現地ルポ記事を掲載しています。その記事を紹介したいと思います。なお、ネット上での記事とは「見出し」や段落などが異なっていますが、このエントリーでは紙面のものを引用しています。(7月28日追記:(上)の部分へのコメントを修正し、(下)の部分にコメントを追加しました。7月29日追記:(上)の部分へのコメントを追加しました。)
1.産経新聞平成19年7月24日付朝刊29面「ブリスベーンの風 移植先進地からの報告(上)」
「リスクの比較 「生きる」ために選択
「フリーダム(自由だ)!」。サンタクロースのようなひげを生やしたポール(61)=仮名=は、今の心境を一言でこう表現した。
オーストラリア東部、クイーンズランド州のある町で、運送業を営んでいた。2年半ほど前、腎不全を患って働けなくなった。自宅で人工透析の機械に数時間つながれる日が、当初は週3日、途中からは週5日。「ほかの日もすぐに激しい疲労に襲われてしまうんだ。人はただベッドで寝ているだけだと思うだろうけど、あまりにつらいんだ」
今年5月、医師から電話で「がんの腎臓だが、移植を受けられる」と知らされた。病院で詳しい説明を受け、迷わず移植を受けると決めた。「とにかくあの機械から逃れたかったんだ」
手術は5月22日、州都ブリスベーンにある州立プリンセス・アレクサンドラ(PA)病院で行われた。クイーンズランド州内の腎・肝移植を一手に行う中核病院だ。がんの見つかった患者の腎臓を摘出し、がんを切除したうえで、ポールの体に移植する。
手術は成功し、腎機能は順調に回復した。
「翌日にはそこらを歩き回っていたよ。普通の生活に戻ったんだ。あの機械に縛られていたころは、週末のショッピングにも行けないし、バーベキューをしても満足に食べられなかった。今はOKさ。トラックの運転もできるよ」
ポールは太い腕でハンドルを握るまねをしてみせた。
■■■――■■■
PA病院では1996年以降、既に42人がポールと同じ手術を受けた。提供された病腎の摘出は州内の8病院で行われ、広域の提供システムができあがりつつある。さらに昨年以降、シドニーのロイヤル・プリンセス・アルフレッド病院などでも3例行われるなど、他州に拡大しつつある。
がんの再発を招く恐れのある病腎移植が、なぜこの国では容認されるのか―。その答えはごく単純で合理的だ。キーワードは「リスクの比較」と「生活の質」。
腎機能が低下する腎不全の症状を根本的に改善する方法は、透析と腎移植の2つしかない。豪で透析患者が移植を受けられるまで待つ期間(待機期間)は4、5年だ。透析患者は年8%のペースで増えるのに、死体腎のドナー(臓器提供者)数は増えないため、待機期間は長くなる一方だ。
移植待機中の透析患者の年間死亡率は平均16%。この数字は60歳以上だと25%に達する。原因の多くは透析による合併症。ポールと同じ60歳以上の患者の4人に1人が毎年、移植を受けられずに亡くなっていくのだ。
一方、4センチ以下のがんが見つかった腎臓から、がんの組織だけを部分切除して腎臓を温存した場合、がんが再発する割合は5%前後だ。腎臓は人体に左右一体あり、片方を摘出しても機能は失われないため、多くの腎がん患者は、部分切除より再発リスクの低い腎臓摘出を希望する。
こうして摘出された病腎をもらうか、それとも死体腎を待つか。5%の再発リスクと、年間25%の死亡リスク。ポールら患者はこの2つのリスクについて説明を受け、自ら選択する。これまでに病腎移植を拒否した患者は20人中1人程度だという。
同州の病腎移植は、対象患者を65歳以上に限定して始められ、現在は60歳以上に引き下げられた。待っているうちに死んでしまうリスクの高い高齢者に絞っているのだ。リスクの問題だけでなく、患者を透析生活から1日でも早く解放することが、生活の質を豊かにするという点で、この国では重視されている。
■■■――■■■
7月11日、PA病院で通算43例目となる腎がん患者からの病腎移植が行われた。
午前10時、まずドナーの右腎臓を内視鏡で摘出し、続いてこぶのように膨らんだがんの病変部分を切除する。執刀したのはアイルランドからきた女性の研修医、ノーマ・ギブンス医師。摘出は順調にいったが、切除に手間取った。すかさず腎移植チームの責任者でクイーンズランド大学教授のデビッド・ニコル医師(46)がサポートした。
ニコル医師のもとで学ぶ医師はギブンス医師ら総勢9人。このチームで年間110例以上の生体・死体腎移植を行い、国内外に巣立っていく。日本で最多の東京女子医大に匹敵する件数だ。
がんの大きさは約3.5センチ。きれいに切除され、検査の後、レシピエントの待つ手術室へ運ばれた。
手術を見学した医師が言った。
「技術的には熟練した移植医なら誰でもできる手術だ。それよりも感銘を受けたのは、この効率的なシステムの素晴らしさだ」
◇
日本の厚生労働省が「原則禁止」の指針を打ち出した腎がん患者からの病腎移植。だが、日本から多くの医師が研修に訪れる移植先進地、オーストラリア・クイーンズランド州では、州政府による公的システムとして病腎移植のネットワークが運営され、日常の医療になっている。この国で救われる命と、日本では救えない命。現地から報告する。(石塚健司)
■日本の現状■
日本の透析患者数は平均17年時点で約25万人にのぼり、世界有数の「透析大国」といわれる。毎年、新たな透析導入患者数の増加が死亡者数の増加を上回るため、透析患者は年1万人のペースで増え続け、巨額の透析医療費が病院経営を支える構図になっている。透析開始後5年間の生存率は61%、10年間は39%。一方で、移植の普及は欧米よりはるかに遅れ、腎移植の待機期間は平均16年。豪より深刻なドナー不足に陥っている。」
(1) 産経新聞は、オーストラリアの秒腎移植事情について、3日間にわたる充実した記事を掲載しました。(上)はその第1日目のものです。幾つかの点に触れていきます。
「がんの再発を招く恐れのある病腎移植が、なぜこの国では容認されるのか―。その答えはごく単純で合理的だ。キーワードは「リスクの比較」と「生活の質」。
腎機能が低下する腎不全の症状を根本的に改善する方法は、透析と腎移植の2つしかない。豪で透析患者が移植を受けられるまで待つ期間(待機期間)は4、5年だ。透析患者は年8%のペースで増えるのに、死体腎のドナー(臓器提供者)数は増えないため、待機期間は長くなる一方だ。……
こうして摘出された病腎をもらうか、それとも死体腎を待つか。5%の再発リスクと、年間25%の死亡リスク。ポールら患者はこの2つのリスクについて説明を受け、自ら選択する。これまでに病腎移植を拒否した患者は20人中1人程度だという。
同州の病腎移植は、対象患者を65歳以上に限定して始められ、現在は60歳以上に引き下げられた。待っているうちに死んでしまうリスクの高い高齢者に絞っているのだ。リスクの問題だけでなく、患者を透析生活から1日でも早く解放することが、生活の質を豊かにするという点で、この国では重視されている。」
患者に対して、メリットとデメリットを示して移植するか否かの選択を求めるのです。選択権を保障している点が重要です。しかも、「5%の再発リスク」があるとはいっても、40例に及ぶ移植すべてがん再発がないのですから、「再発リスク」は0%に近いのです。そうなると、健康体からの腎臓移植のリスクと何ら変わらないのですから、「病腎移植を拒否した患者は20人中1人程度」になるのは当然の結果でしょう。
これに対して、日本では患者に(病腎移植か否かの)選択権はありません。しかも、待機期間は、日本では15年もの長期間であるのに対して、オーストラリアでは4、5年なのです。オーストラリアよりも、病腎移植を認める意義が大きいのにもかかわらず、日本では患者に選択権がないのです。実に不条理です。
(2)
「手術を見学した医師が言った。
「技術的には熟練した移植医なら誰でもできる手術だ。それよりも感銘を受けたのは、この効率的なシステムの素晴らしさだ」」
注目すべき点は、手術を見学した医師が述べるように、完成された「効率的なシステム」です。この「効率的なシステム」こそ学ぶべき点なのでしょう。この「効率的なシステム」については、次の産経新聞平成19年7月25日付朝刊27面「ブリスベーンの風 移植先進地からの報告(中)」が触れています。
「技術的には熟練した移植医なら誰でもできる手術」というのは、万波誠医師が述べていたことと共通しています。もっとも、注意すべきことは、技量の優れた万波医師らや海外での「技術的には熟練した移植医」であるということです。「技術的には熟練した移植医」に当たる医師は、日本移植学会の幹部には少なそうです。もし多かったとしたら、手術を見学した医師と同様に、「技術的には熟練した移植医なら誰でもできる手術」であると判断し、病腎移植は「実験的医療」でないと断定できたはずですから。
テーマ:政治・経済・時事問題 - ジャンル:政治・経済
1.まずは、各政党の参議院選挙政策(マニフェスト)から、共謀罪について触れた部分を引用しておきます。
(1) 自由民主党……「なし」
(2) 公明党……「なし」(公明党マニフェスト2007)
(3) 民主党……「7.共謀罪導入に反対
政府は、国連組織犯罪防止条約を批准するための国内法整備として、共謀罪を新設する法案を国会に提出しています。共謀罪は、団体の活動として犯罪の遂行を共謀した者を処罰するものですが、犯罪の実行の着手、準備行為がなくても相談をしただけで犯罪となること、およそ国際性とは無縁な犯罪や重大犯罪とまではいえないようなものを含め619もの犯罪が対象となることなど、わが国の刑法体系を根底から覆しかねないものです。しかし、条約は「自国の国内法の基本原則に従って必要な措置をとる」ことを求めているにすぎず、また、条約が定める重大犯罪のほとんどについて、わが国の現行法は共謀を予備罪、準備罪、幇助犯、共謀共同正犯などの形で共謀を犯罪とする措置がとられています。したがって、わが国は何ら新規立法をすることなく条約を批准できると考えられることから、法案の成立に強く反対します。」(民主党の政権政策 マニフェスト)
(4) 社会民主党……「13.犯罪への着手前の「共謀」自体を犯罪とする「共謀罪」の新設に反対します。」(社民党 参議院選挙公約2007)
(5) 日本共産党……「なし」(2007参議院選挙政策(マニフェスト))
(6) 国民新党……「なし」(第21回参議院議員選挙 わが党の選挙公約)
(7) 新党日本……「なし」(新党日本 マニフェスト)
*自民党のHPの場合、マニフェストに直接リンクすることが難しいので、ここで掲載していません。
このように共謀罪法案への対応について、各政党の参議院選挙政策を比較してみると、民主党と社民党以外は触れていないことが分かります。ただし、従来の共謀罪法案への対応からすると、自民党や公明党は共謀罪法案導入に賛成、他の野党は導入反対の姿勢であると思います。
では、東京新聞7月12日付「こちら特報部」の記事を紹介します。
1.東京新聞平成19年7月23日付朝刊20・21面「こちら特報部」
なお、ネット上の記事の表題は、「オーストラリア現地ルポ 日本で禁止の病気腎移植が未来の医療に」となっていましたが、見出しは紙面の方を引用しておきます。
「SOS臓器移植:豪では広がる病気腎移植 先駆病院 挑戦の10年
2007年7月23日
宇和島徳洲会病院の万波誠医師らが行っていた病気腎移植について、厚生労働省は今月、「現時点で医学的な妥当性がない」として臨床以外は「原則禁止」とする通知を出した。しかし、オーストラリアのブリスベーンの病院では11年前から主に小さながんに侵された腎臓を腎臓病患者に移植する手術を実施。他の病院にも広がりつつある。日本では禁止される手術が、なぜ可能で、どのように受け止められているのか。オーストラリア事情を取材した。 (片山夏子)
◆小さながん43例 再発なし
摘出した腎臓を調べた医師の顔が一瞬曇る。思ったよりもがんが大きいのか。医師らが慎重に調べる。「大丈夫だ」。執刀医が素早くがんを切除して処理。取り出したがんは約2.5センチだった。腎臓は、数時間後には、20年間透析をしながら移植を待ち続けていた65歳の女性に移植された。
クイーンズランド州ブリスベーンの州立プリンセス・アレクサンドラ病院。同州で唯一、腎臓や肝臓の移植手術を行う病院で、世界初の生体肝移植を行った病院でもある。
泌尿器科部長でクイーンズランド大のデビッド・ニコル教授(46)は11年前から、小さながんに侵された腎臓を60歳以上の患者に限定して移植してきた。症例は死体腎からの3例を含め、計43例になる。がんの再発や転移、拒絶反応による摘出は今のところない。
◆患者「透析…待っている間に死ぬかも」
「小さな腫瘍(しゅよう)のある腎臓の移植の可能性について考えましょう」
泌尿器科のクリニックの一室。ニッキー・イスベル医師がブリスベーンの男性(63)に丁寧に説明していた。傍らでは男性の妻が心配そうに見守る。以前より超音波診断でがんが初期段階で発見されるようになったこと、ドナーとなる患者ががんがある片側の腎臓すべての摘出を望んでいること、腎臓提供に同意していることが説明される。
「再発のリスクは5%ぐらい、他への転移は2.5%ぐらい。移植後は定期的に検査をして、もし異変があればすぐに対処します」
男性は透析をしながら、6年間、移植の機会を待ち続けてきた。説明を聞きながらも表情は完全に晴れない。「腎機能に問題はないのですか」。男性の質問に、これまで病気腎の移植を受けた40人あまりは再発もなく順調なこと、中には拒絶反応が強い人もいたが今のところ摘出した人はいないことが説明される。「60歳以上の透析患者の15―20%が亡くなっています。透析を続けるリスクの方が大きいかもしれません」
少し考えて男性は口を開いた。「電話で連絡を受けてから、さらに5年、10年待つか、今やるべきかを考えてきました。透析をしながら待っている間に死んでしまうかもしれない。死体腎の待機者リストは長い。いつ移植ができるのかと思いながら、ずっと生活することはつらい。今やるしかないと思っています。できることなら、もう1度ヨットに乗りたい」
数週間前にがんの腎臓の移植を受けたコリンズビルの女性(62)は「腫瘍があると聞いた時に『私はがんになるの?』と思わず聞きました」と話す。その後、医師から詳しい説明を受けた。「再発や転移の可能性も聞いたが、定期的に検査をしてくれると聞きお願いした」。女性は11歳の時に英国から家族で移住。今は家族が亡くなったため英国しか親せきがいない。病院が遠いので、一人で毎晩9時間の腹膜透析をする生活はつらかった。「手術後、信じられないほど体の調子がいいし、気分が全然違う。やっと家族に会いにいける」
◆レシピエント選び 州リストから 説明、手術は別の医師担当
デビッド・ニコル教授は1996年に、初めて小さながんを切除した死体腎移植を行った。「患者がどんどん増えるのにドナーが全然足りない。目の前で捨てられる腎臓を見て何とかできないかずっと考えていた」。当初、医学界の反応は「再発の可能性が低いとはいえ、疑わしい」と懐疑的だったが、症例が重なるにつれ何も言われなくなった。それどころか、臓器提供の可能性がある時に連絡が入るようになった。
3センチ以下のがんで患者が摘出を希望した場合に限定して、初めて移植の可能性を考える。「最初に移植ありきには絶対になってはならない」とニコル教授。そのためにいくつかのルールがある。「ドナー(提供者)とレシピエント(移植を受ける患者)への説明や手術は必ず別の医師が行う」
がん患者には主治医が再発率が低く部分切除ができることを十分説明。その上で患者が摘出を希望した場合に、主治医はニコル教授に連絡する。提供への説明は、移植や移植を待つ患者にかかわる医師は一切しない。がん患者が同意した後、州の死体腎待機者リストから、ニコル教授らがレシピエントを選ぶ。
レシピエントは、当初65歳以上だったが徐々に年齢を下げ、現在は60歳以上が対象。さらに、糖尿病など合併症がある人、状態のよくない人を優先する。クイーンズランド州での死体腎の待機年数は平均4、5年。透析患者の死亡率は年間約15%で、65歳以上は20%を超える。
「がんの再発率と比較し、待つのが限界な患者を優先する」とニコル教授。再発率は部分切除の場合を参考にする。「違う免疫系の体に移植するので、実際はもっと低いと考えられるが、患者にはリスクを十分に理解してもらう」。若者を対象としないのは、「高齢者に比べ移植後の人生が長く、再発の可能性も高くなる」から。「実績を重ねて徹底的に再発率や予後を経過観察し、将来的に範囲を広げられれば」という。
また、がんの腎臓移植は、移植が初めての人に限定される。「2度目の方が拒絶の確率が高いと考えられる。より免疫抑制が必要となると再発率が高くなる可能性がある」
移植を待つ患者の中には、がんと聞いただけで断る人もいる。「20人に1人ぐらいが断る。だが多くの人が驚くほど早くイエスと答える」とイスベル医師。臓器提供でドナーに予想以上の負担がかかったり、がんが思ったより大きい場合は中止することも説明した上で同意書をとる。
◆「捨てるもので命救えるなら」
移植手術はすべてプリンセス・アレクサンドラ病院で行われるが、執刀医は当番制で決まる。臓器提供はこれまで比較的近い地域にある7病院からあったが、今年になってあらためて州内の病院に提供を呼び掛けるメールを送ったところ申し出が増加。43例のうち、8例が今年行われた。
同病院では尿管狭窄(きょうさく)や動脈瘤(りゅう)の病気腎移植もするが、今、最も着目しているのが、がんだ。「医療の進歩で小さいうちにがんが発見されるようになった。がんは小さくても全摘を希望する患者が多く、圧倒的に捨てられる数が多い」からだという。
がんの腎移植は、別の病院にも広がりつつある。シドニーのロイヤル・プリンス・アルフレッド病院は昨年から2例実施。西オーストラリア州サー・チャールズ・ガーデナー病院でも今年1例が行われた。問い合わせも増え、海外から医師が研修に来ている。
腎臓の摘出手術の直前、ブリスベーンの女性(58)はベッドの上で話した。「がんと聞いた時、全部摘出した方がすっきりすると思った。捨てられるもので人の命が助かるなら、そんな素晴らしいことはない」
ニコル教授はいう。「医療は常に新しいことをするリスクと何もしないリスクをてんびんに掛けながら進む。捨てるもので救える命があるなら、それを使うのは理にかなっているように思う。なによりも、ドナー不足で透析中の患者が次々亡くなっていくのが気にならないのか」
===========================
オーストラリアの腎移植事情 人口約2000万人の同国で、年間移植数は2005年で623例と10年前より41%増加した。うち約4割が生体間。死体腎の待機者は07年で1415人、うちクイーンズランド州は121人。プリンセス・アレクサンドラ病院では年間約120例の移植を実施。がんの腎移植を受けたのは全員がオーストラリア人。43例のうち4人が死亡したが、再発や転移が原因ではなかった。同州の透析患者は約1000人。糖尿病患者の増加に連れて、急増している。
===========================
<デスクメモ>
日本では、学会の大反対で病気腎移植手術ができなくなった。だが「生きたい」と願う患者の視点があれば、別な選択があったはずだ。あの「運用指針」によって、一体誰が救われたのか。患者は「生ゴミ」となる腎臓を指をくわえて見るだけだ。「医学」と「医療」は立つところが違う。やっと気が付いた。(充)」
テーマ:政治・経済・時事問題 - ジャンル:政治・経済
1.まず、その問題となった発言について触れた記事を引用しておきます。
(1) 朝日新聞平成19年7月23日付朝刊31面
「松岡氏事務所費は「芸者の花代」 山本副大臣 後に撤回
2007年07月22日03時10分
自殺した松岡利勝・前農水相の事務所費問題について、山本拓・農水副大臣=自民=が福井県坂井市で20日に開かれた演説会で、「芸者の花代として使った、と聞いた」などと発言していたことがわかった。その後、「話した内容は事実ではなかった」として、発言を撤回した。
演説会で山本副大臣は事務所費問題に触れ、「たいした話ではない。赤坂の芸者に行く際に、花代は領収書がもらえないんですよ。それを事務所費で払っていたという話だった」などと発言したという。山本副大臣は21日、朝日新聞の取材に「松岡さんとは昔から友だちで、若い頃一緒に遊んだ仲間。『政治とカネ』に絡んで参院選で自民党に逆風が吹いているので、会場の人を和ませるために冗談を言った。まともに取られたのは心外だ」と話した。」
(2) 朝日新聞平成19年7月23日付夕刊2面
「農水副大臣の「花代」発言、塩崎長官「悪すぎる冗談」
2007年07月23日12時33分
塩崎官房長官は23日午前の記者会見で、山本拓農水副大臣が自殺した松岡利勝前農水相の事務所費問題を「芸者の花代として使ったと聞いた」などと発言し、「冗談」として撤回したことについて、「悪すぎる冗談だ」と批判した。副大臣担当の下村博文官房副長官を通じて「こういった発言を二度としないように」と厳重注意したことを明らかにした。
また、塩崎氏は新たに指摘された赤城農水相の関連政治団体の事務所費問題について「政治家としての活動であり、政府としてコメントは差し控える」と語った。」
結局は、「話した内容は事実ではなかった」として発言を撤回しています。また、塩崎官房長官があえて厳重注意をしたのは、閣僚による相次ぐ失言への歯止めをかけた意図があったようです(読売新聞平成19年7月24日付朝刊2面)。7月19日にも麻生外相が富山県高岡市での講演で、日本のコメの中国への輸出再開に関連して「アルツハイマーでもこれくらいは分かる」と述べて、認知症患者に対する侮辱であり差別であるとして問題となっていましたから、自民党の支持率を下げるような発言を止めたいという意図は理解できるところです。
山本副大臣が「話した内容は事実でなかった」というのは、「事務所費が芸者の花代だった」という点でしょうから、赤坂の芸者の花代には領収書がでないという点は「事実ではなかった」ということではないと思います。では、山本農水副大臣が言うように、赤坂の芸者の花代には領収書が出ないのでしょうか? この問題について東京新聞7月24日付が記事にしていましたので、紹介したいと思います。
1.まず、報道記事から。
IAEAの調査を決定したことは確かですが、一度断っていたのに、一転して受け入れ決定を決めたという経緯がありました。なお、読売新聞平成19年7月21日付夕刊2面では、「国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は20日、日本政府に対し、新潟県中越沖地震でトラブルが多発した東京電力・柏崎刈羽原子力発電所に対する調査に加わる用意があることを伝えた。日本側も、受け入れを前向きに検討している。」とするだけで、読売新聞だけは断ったことについて触れていませんでした。
(1) 毎日新聞平成19年7月21日付夕刊6面
「日本政府:IAEA調査団受け入れ見送り
新潟県中越沖地震での東京電力柏崎刈羽原発のトラブルに関し、国際原子力機関(IAEA)が事故原因などについて調査団派遣の準備があると表明していたことに関し、日本政府が調査団受け入れを当面見送る意向をIAEA側に伝えたことが21日までに分かった。日本政府筋が明らかにした。
IAEAのエルバラダイ事務局長は18日「IAEAは事故原因を究明し、必要な教訓を得るため、国際的なチームを通じて調査に参加する用意がある」と表明し、IAEAは同日、日本側に伝えていた。
日本側は当面、自国内で対応する方針だが、将来の調査団受け入れなどには可能性を残すという。(共同)
毎日新聞 2007年7月21日 11時59分」
(2) 朝日新聞平成19年7月22日付朝刊2面
「IAEAの柏崎刈羽原発調査 政府「余裕ない」と断る
2007年07月22日02時45分
新潟県中越沖地震で、火災などトラブルが多発している東京電力柏崎刈羽原発に国際原子力機関(IAEA)が調査に入る意向を示したことに対し、政府が調査団の受け入れを当面見送る意向をIAEAに伝えていたことが21日、わかった。被害が甚大で受け入れる余裕がないとしている。
IAEAのエルバラダイ事務局長は18日、地震による原発被害の情報を共有する目的で、調査団を同原発に派遣する用意があると表明。自力で原発事故に対応できない場合に支援する「原子力事故援助条約」に基づいて、調査団を送る考えを日本側に示していた。
しかし日本側は、事態の収拾や調査は自力で可能とし、今は現場が混乱しているため調査団を受け入れる余裕がないとして、IAEAに現時点では調査団の受け入れを見送ることを伝えた。
ただし、「原発が経験したかつてない大きな地震に見舞われた貴重な事例として、情報を世界に発信することが必要だ」(経済産業省原子力安全・保安院)として、秋以降に国際会議を開き、現地視察の受け入れなどを検討したいとしている。」
(3) 東京新聞平成19年7月23日付朝刊1面
「IAEA調査、受け入れへ 柏崎刈羽原発で保安院
2007年7月22日 22時38分
経済産業省原子力安全・保安院は、新潟県中越沖地震で被害を受けた東京電力柏崎刈羽原発への国際原子力機関(IAEA)調査団の受け入れを決め、22日までにIAEAに伝えた。
政府は、原因究明や被害状況の把握に技術的にはIAEAの手助けは必要ないとしているが、情報や経験を国際的に共有することで原発の安全性を高める必要があると判断した。調査の時期や方法、スタッフなどの調整に入る。
同原発では地震によって、放射性物質を含む水を海へ放出したり、主排気筒で放射性物質を検出したりするなどのトラブルが発生。IAEAは調査団派遣の準備があることを日本側に示したが、政府は調査団受け入れを当面見送るとの意向をIAEAに伝えていた。
これに対し新潟県は22日「事故は世界に報道され、国民に不安を与え、県内の観光産業や農林水産業に風評被害を及ぼしている。正確な情報を発信する必要がある」として、IAEA調査団の早期受け入れを求める甘利明経産相あての要望書を柏崎刈羽原子力保安検査官事務所に提出。安倍晋三首相やほかの閣僚4人にも同じ要望書を郵送した。
(共同)」
(4) 朝日新聞平成19年7月23日付朝刊1面
「柏崎刈羽原発のIAEA調査 政府、受け入れ決定
2007年07月23日00時01分
経済産業省原子力安全・保安院は22日、新潟県中越沖地震で被災した東京電力柏崎刈羽原発に、国際原子力機関(IAEA)からの調査団を受け入れることを決めた。時期や方法は今後、IAEAと協議する。
保安院は、安全性の確保や被害状況の確認については十分に対応できており、技術的な援助は必要ないとしながらも、情報を国際的に共有することは重要だとして、受け入れることにした。
一方、新潟県の泉田裕彦知事は22日、調査団を受け入れるよう政府に文書で要請した。」
テーマ:政治・経済・時事問題 - ジャンル:政治・経済
医師法第19条 診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。
2 診察若しくは検案をし、又は出産に立ち会つた医師は、診断書若しくは検案書又は出生証明書若しくは死産証書の交付の求があつた場合には、正当の事由がなければ、これを拒んではならない。
1.報道記事を紹介します。ただ、毎日新聞でのみ報道しているため、どれだけ真実性があるのか疑問があります。そのことを心に留めて置いてください。
(1) 毎日新聞2007年7月9日 3時00分
「比腎移植患者:国内病院で診療拒否広がる 臓器売買を懸念
臓器売買となる恐れのあるフィリピンで今後腎臓移植を受ける患者に対し、その事後処置にあたる診療はしないという方針を打ち出す動きが国内の病院で広がっている。結果的に臓器売買という犯罪の手助けにつながることなどを懸念したためだ。今後、フィリピンで腎移植を受けた患者の国内での治療先が見つからなくなる可能性もあり、医療関係者は「フィリピンでの移植は控えてほしい」と呼びかけている。
フィリピンは臓器移植の際、ドナー(臓器提供者)への「謝礼」提供を認める新しい移植制度案を検討している。これに先行して、既に制度案に沿った形での移植も行われているという。
しかし、日本では臓器売買に相当する可能性がある。昨年、宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)で起きた生体腎移植を巡る臓器売買事件では、レシピエント(移植を受けた患者)らに初の有罪判決が出ており、刑事事件への関与を懸念する病院が相次いでいる。
東邦大医療センター大森病院(東京都大田区)もその一つ。相川厚・腎センター長は「刑事事件になるため、診療は実質不可能。売買は移植の発展にもつながらない」と話す。神戸大(神戸市中央区)や東京医大八王子医療センター(東京都八王子市)も「法律に触れる可能性がある」とし、診療できないとする。背景には、治療を行った場合、臓器売買を認めてしまうことになるとの懸念もある。
一方、岡山大の粟屋剛教授(医事法・生命倫理)は「たとえ犯罪者であれ、困っている患者を診るのは医師としての職業倫理の根幹」と語り、治療すべだきと反論する。医師法では、正当な理由がない場合の診療拒否は認められておらず、今後はその解釈なども議論になりそうだ。
長崎医療センター(長崎県大村市)の松屋福蔵医長は「結果的に金で臓器を買う患者の行為が正しいのか疑問が残る」とする一方、「移植ができずに透析で苦しんでいる患者がいるのも事実。ドナー不足の日本でも、腎移植がもっと受けられるよう前向きに議論すべきで、このままの状況では問題の根本的な解決にはならない」と訴えている。【河内敏康】
毎日新聞 2007年7月9日 3時00分」
(2) 毎日新聞平成19年7月21日付朝刊4面
「土曜解説:フィリピンで腎移植受けた人に診療拒否=大阪科学環境部・河内敏康
◇国内の患者処遇、論議の時
フィリピンでドナー(臓器提供者)への謝礼提供を認める制度が実現した場合、その制度のもとで腎臓移植を受けた日本人患者に対し、帰国後の診療を複数の病院が受け付けない方針を決めたことが明らかになった。新たな制度が、日本では臓器売買とみなされて、臓器移植法に抵触する恐れがあるからだ。医師法は、正当な理由のない診療拒否を禁じており、どこまで「正当」とするか、論議を呼びそうだ。
フィリピンの新制度案は、外国人患者に腎臓を提供するフィリピン人ドナーへの「謝礼」を公認する内容だ。具体的には、外国人患者がドナーに休職手当や健康保険料を支払い、他のフィリピン人患者1人の移植手術費用などを負担。同国内での外国人患者への移植手術数制限を撤廃することなどを盛り込んでいる。
フィリピンでは、生活のため貧しい人がドナーとなり、海外の移植希望者に、闇のブローカーなどを通じて腎臓を売っているとの調査報告もある。フィリピン政府は、ブローカーにだまされ、金が受け取れないといった被害が防げるなど、新制度はドナー保護につながると主張。臓器売買には当たらないとの認識を示している。
しかし日本では、これが「臓器提供を受けた対価としての財産上の利益供与」などを禁じた臓器移植法に違反する恐れがある。国際移植学会もフィリピンでの臓器売買を強く糾弾しており、日本の医療関係者は、こうした行為にかかわることで、臓器売買の手助けにつながったり、発覚後に診療報酬の返還を求められたりするのではないかと懸念している。
さらに、中国で今年5月、臓器売買や親族間以外の生体間移植が条例で禁止されたため、今後多くの患者がフィリピンに向かう可能性が高い。既にフィリピンの民間財団が、新制度に先行する形で、日本人に腎移植を始めたとする報道も一部であるほどだ。日本の医療関係者の中には、この流れを食い止めなければ、という危機感は大きい。
だが国内のドナー不足は深刻な状況にある。透析患者は約26万人に達し、増加傾向だ。腎移植の待機患者も1万人を超えている。ところが実際に移植できた患者は、05年の1年間でわずか約1000人にとどまり、脳死を含めた献腎移植が極端に少ないことが、移植希望者の海外流出につながるとみられる。海外に頼らず、国内で患者をいかにして救うべきか、議論が求められている。
毎日新聞 2007年7月21日 東京朝刊」
新潟県中越沖地震の影響で、東京電力柏崎刈羽原子力発電所で火災が発生するなどした問題で、柏崎市の会田洋市長は18日、消防法に基づいて発電所内の全基の危険物施設について緊急使用停止命令を出しています(朝日新聞平成19年7月18日付夕刊1面)。市消防本部の立ち入り調査で損傷の恐れがあったためで、停止期間の期限は定めていません。
1.まず、報道記事から。
(1) 東京新聞平成19年7月18日付朝刊1面
「中越沖地震 柏崎原発トラブル50件 消火配管も破損
2007年7月18日 朝刊
東京電力は十七日、新潟県中越沖地震に襲われた柏崎刈羽原発1-7号機で計五十件の損傷やトラブルを確認したと発表した。消火用配管が数カ所で破損して消火活動に影響した可能性があることが分かった。排気筒から放射能が放出されたほか、排気ダクトの変形も多数見つかったため他の放射能漏れがなかったか調べている。
同日、7号機の排気を監視する装置のフィルターを調べたところヨウ素などの放射性同位元素(RI)が付着していた。このフィルターは九日に取り付けられたが、東電ではRIが発生したのは地震後とみて原因を調べている。放出された放射能による周辺への影響は、法令で定められた一般人の年間被ばく限度の一千万分の一以下という。
また、1-5号機の主排気筒につながるダクトの継ぎ目が変形してずれていることも分かった。ダクトの継ぎ目に亀裂がないか、放射能漏れの可能性はなかったかを確認している。
1号機では、消火用配管が壊れて地下五階に千六百トンもの水がたまっていた。ほかに屋外の消火用配管も四カ所で破損していた。
地震直後に火災を起こした3号機の変圧器の消火作業は、消火栓の水圧が低かったため思うように進まなかった。配管の損傷による水漏れが水圧低下を招いた可能性もあるという。
火災を起こした変圧器のほかにも1、2、3、6号機の計七台の変圧器で固定ボルトが折れて動いたり油漏れが起きたりしていたことも分かった。
原発敷地内にある低レベル固体廃棄物の貯蔵庫では、廃棄物を詰めたドラム缶約百本が倒れているのが確認された。うち数本のふたが開き周辺の床から放射能汚染が見つかった。
東電報告遅い首相、強く批判
安倍晋三首相は十七日午後、新潟県中越沖地震で東京電力柏崎刈羽原発から放射性物質を含む水が漏れるなど、トラブルが相次いだことについて「(東電の)報告は遅かった。こうした報告は厳格、迅速にするように、あらためて厳しく指示した。厳しく反省してもらわなければならない」と、強く批判した。首相は「原発は、国民の信頼があって初めて運用できる。信頼のためには、起きていることを正しく迅速に報告し、情報を公開することだ」と強調した。」
このほかにも、東京電力は18日、中越沖地震により柏崎刈羽原子力発電所6号機から放射能を含む水が海に流出した問題で、流出した水の放射能量を訂正する発表を行いました。訂正後の放射能量は当初発表の1・5倍となる約9万ベクレルで、ドラム缶の転倒は、100本ではなく約400本であり、そのうち40本のふたが開いていたそうです(ただし、新たな放射能漏れはなかった)。
東電の社長は、「重要な施設はびくともしていない」と強調していますが、50件といったかなりのトラブルや被害が生じていることについて、日本の多くの市民が深刻さを感じているかと思います。流出した水の放射能量を訂正したことは、計算ミスが原因だそうですが、隠蔽体質がある以上、わざと過小評価したのではないかとの疑念を抱きます。最初は放射能は漏れてなかったとの報道や、原発の下には活断層はなかったとの報道だったのですから。
(2) 朝日新聞平成19年7月18日付朝刊
「原発火災、消火に2時間 「想定外」の対応に課題
2007年07月17日23時58分
新潟県中越沖地震の影響で変圧器から出火した柏崎刈羽原発の火災は、消火まで約2時間を要した。消防はほかの対応に追われてなかなか現場に到着できず、東京電力側も当初、消火活動にあたったのは4人だけ。経済産業省によると、地震に伴って原発で火災が起きたのは初めてといい、想定外の事態への対応に大きな課題を残した。
「火災の状況が国民の目にさらされ、原子力の安全に対する不安を増大させた」。甘利経産相は17日未明、東電の勝俣恒久社長を呼び、不満をぶちまけた。
原発敷地内で黒煙が上がったのは、地震発生直後。隣の2号機で当直勤務中の従業員が見つけ、連絡を受けた3号機の社員が119番通報を試みたが、すぐにはつながらなかった。火災発見から12分後の16日午前10時27分、連絡がとれたが、柏崎市消防署は人命救助などに追われ、全隊が出払っていた。
東電社員2人と協力会社員2人が現場に駆けつけた。油類が燃えている可能性が高いため直接放水ができず、化学消火剤の準備を急ぐ一方、変圧器の周囲に水をかけた。
一方、消防は隊員4人を緊急招集し、同11時ごろに化学消防車で出動。通報から1時間後の同11時27分に到着し、鎮火は午後0時10分だった。
同署と東電は年1回、放射線防護服などを着込んでの訓練を実施。同署の萩野義一警防第2消防主幹は「原発で火災が起きるなんて想定外中の想定外」といい、同原発内で消火活動をしたのは初めてという。
また、同原発では約1000人の職員のうち約3割にあたる当直勤務のある職員が、消火活動の研修を受けている。これら職員を中心に「自衛消防隊」を組織している。だが、16日の火災で現場に居合わせた中には、こうしたメンバーはいなかったという。」
東電の社長は、「重要な施設はびくともしていない」と強調していますが、柏崎刈羽原発の火災は、これら職員を中心にした「自衛消防隊」が対応しておらず、消火まで約2時間を要したのです。
そうすると、もしもっと大きな火災であったらもっと被害が生じていたはずでで、今回のような対応だと「重要な施設」にまで火災が広がる可能性は十分にあるのです。黒煙の映像は、実際に火災に遭った市民ばかりでなく、火災に遭ったことのない、ニュースを見守る視聴者にも「恐怖」の意識を感じさせたはずです。東電の社長は、火災の怖さを知らず、火災に対する認識があまりにも甘いのではないかと思います。
テーマ:政治・経済・時事問題 - ジャンル:政治・経済
1.報道記事をいくつか。
(1) asahi.com(2007年07月17日)
「丸川氏仰天!選挙権がなかった
2007年07月17日
東京選挙区(改選5)に自民党から立候補している元テレビ朝日アナウンサーの丸川珠代氏(36)に選挙権がないことが16日、分かった。投票所整理券が届かないため、丸川氏はこの日、新宿区役所に出向いたが、住民登録が遅れ、選挙権がないことが判明した。住民税未納の疑いも浮上し、選対本部では「未納分があるなら17日にも早急に納めたい」と大慌て。同じ自民党で東京選挙区の保坂三蔵氏(68)は「年金未納問題みたい」とあきれていた。
新宿区役所から出てきた丸川氏の表情は引きつり、こわばっていた。「ごめんなさい。投票できませんでした」とみけんにしわを寄せて頭を下げた。
午後1時に同区役所で期日前投票すると報道各社に事前連絡していた。集まった新聞、テレビなど9社に対して「住民登録を忘れてしまっていて、私の手続きした日が、選挙人名簿の登録する期日に間に合っていなかったことが分かりました。すみません、皆さんに集まっていただいてお騒がせして、ごめんなさい」と再度頭を下げた。
丸川氏は、新宿区から投票所整理券が郵送されなかったため、区選管に整理券が届いていないことを連絡。期日前投票なら整理券は不要で、選挙人名簿と照合後に投票できることを確認し、この日、新宿区役所を訪れた。ところが、丸川氏の事務所によると、丸川氏が住民登録したのは今年4月20日前後。参院選公示日の前日(今月11日)が選挙人名簿の基準日となり、その3カ月前の4月11日が選挙権を得られる期限だった。同行した選対スタッフによると、「(丸川氏は)大変驚いていた」。ショックを隠しきれない動揺ぶりだったという。
丸川氏は米ニューヨークに03年6月に赴任し、04年6月帰国。赴任前に住んでいた新宿区内のマンションに戻った。今年4月、同区役所を訪れた際に住民登録されていないことを指摘され、すぐ登録したという。空白の約2年10カ月間、住民税を納付していない疑惑も浮上したが、テレビ朝日の給与明細から住民税が源泉徴収されていたことは確認された。事務所では「未納はないと思う」としたが、住民登録されていない状態でどの自治体に納付されていたのか判然としない。17日にも、テレビ朝日に確認し、仮に未納が発覚すれば「すみやかに手続きを取りたい」としている。
ライバルの保坂氏は、報道陣から「丸川さんが投票できなかった」と聞くと「そうなの? まるで3年前の年金未納問題みたいだな」とあきれた様子だった。首相官邸の“身体検査”は閣僚だけでなく参院選候補者にもなされていなかったようだ。【寺沢卓】」
(2) スポーツニッポン[ 2007年07月17日付]
「選挙権なかった!丸川珠代さん
安倍首相の意向を受けて自民党公認で東京選挙区から出馬した元テレビ朝日アナウンサーの丸川珠代氏(36)に16日、4月の都知事選を含む過去2回の選挙に行っていない疑惑が浮上。自民党関係者に衝撃が走った。
≪投票にも3年間行ってない?≫丸川氏に選挙権がないことが分かった。「期日前投票に行く」との丸川事務所の知らせを受け、報道陣が新宿区役所に集まったが、住民票を公示前日の3カ月以上前に移していなかったことが判明し、投票できなかった。
丸川氏はぎごちない笑みを浮かべ「ニューヨークに住んでいたんですけど、忙しくて(手続きを)していられませんでした。お騒がせして申し訳ありません」と話すと記者の質問を振り切って、車に乗り込んだ。選対関係者は「ここに来るまで分からなかった」と渋い顔だ。
実は立候補者に選挙区の選挙権がないのはよくあること。公職選挙法の規定で、公示日前日から起算して3カ月より前に転入届を提出していなければ、当該の選挙区では投票ができない。急きょ出馬した候補は手続きが間に合わないことが少なくない。
しかし、今回、政界関係者の間で問題視されているのは、丸川氏の“選挙に行っていない疑惑”だ。テレビ朝日のアナウンサーだった丸川氏は、赴任先の米ニューヨークから04年6月に帰国した際に転入届を出し忘れていた。出馬に向けて急きょ4月20日前後に届を出したが間に合わなかった。単純に計算すれば3年間、選挙権を持っていないことになり、05年9月の衆院選、今年4月の都知事選に行っていない可能性がある。
丸川氏はニュース番組や政治番組に携わっており、選挙に行っていない行動が問題視されそう。選挙戦では石原慎太郎都知事の長男、石原伸晃衆院議員の事務所が全面的にバックアップしており、都知事選にも行っていないならば大きな波紋を広げそうだ。さらに、永田町では「住民税は払っていたのか?税金未納か?」の声も漏れたが、丸川事務所は「テレビ朝日時代、住民税は源泉徴収されている」とした。
[ 2007年07月17日付 紙面記事 ] 」
(3) スポーツ報知(2007年7月17日06時00分)より一部引用。
「◆届け出は公示前3か月以上必要、立候補はOK
丸川氏はなぜこんな事態に陥ったのか。選挙権の行使(投票)には各市町村の選管が管理する選挙人名簿に登録されていることが必要だ。通常は各市町村の住民票などの住民基本台帳に基づき登録される。選挙区内で投票するには、各選挙の公示(告示)の3か月以上前までに住民票の届け出が済んでいなければならない。
海外に転居した場合は、各市町村に転出届を提出後4か月以上がたつと選挙人名簿から抹消される。だが、各国の日本大使館などに「在外選挙人名簿」の登録を申請すれば海外での投票が可能となる。
しかし帰国した際に転入届の提出を怠ると、選挙の公示日まで3か月を切っている場合は日本国内での選挙人名簿に登録されず、投票ができない状態となる。
なお被選挙権については、日本国籍を保有していれば公選法上、海外在住でも立候補は可能。チリに軟禁中のフジモリ元ペルー大統領が今回の参院選に出馬している。」
1.まずは報道記事から。
(1) 日本経済新聞平成19年7月13日付朝刊38面
「病気腎移植の原則禁止を通知・厚労省が改正指針
厚生労働省は、治療のために摘出した腎臓を別の患者の移植に用いる病気腎移植の原則禁止などを盛り込んで臓器移植法の運用指針を改正し、都道府県などに12日通知した。
改正指針は、生体移植に関する規定を新設。病気腎移植については「現時点では医学的に妥当性がないとされている」とした上で、有効性、安全性が見込まれる臨床研究として実施する場合以外には実施してはならないとした。臨床研究では、同省の倫理指針の順守や情報公開による透明性の確保を求めた。
生体移植については、医療機関などに(1)提供が任意で行われることの確認(2)提供者に手術内容を文書で説明し同意を得る(3)提供者が親族の場合は公的証明書で確認(4)親族以外の第三者が提供する場合は倫理委員会の承認を受ける―などを求めた。
病気腎移植は、宇和島徳洲会病院の万波誠医師らが実施していたことが明らかになり問題化。厚労省の臓器移植委員会は4月、原則禁止とすることで合意していた。〔共同〕(23:00)」
(2) 読売新聞平成19年7月13日付朝刊2面
「病気腎移植、原則禁止…厚労省が指針
厚生労働省は12日、病気腎移植の原則禁止を盛り込んだ改正臓器移植法運用指針を、各都道府県や日本移植学会など6学会、日本医師会などに通知した。
改正運用指針は、生体移植の規程を新たに設けたのが特徴で、病気腎移植は、「現時点では医学的に妥当性がないとされている」と明記し、原則禁止。生体移植全般についても、〈1〉患者と提供者の間で金銭の授受がないことを移植施設の倫理委員会で確認する〈2〉臓器提供者に医師が手術の内容や危険性を説明し、書面で提供の同意を得る〈3〉提供者が患者の親族の場合、公的証明書で本人であることを確認する〈4〉親族以外の第三者からの提供の場合は、倫理委員会での承認を受ける――ことなどを求めた。
今回の指針の改正は、宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波誠医師らによる病気腎移植を受けたもの。
(2007年7月13日 読売新聞)」
(3) TBS NEWSi(07月12日22:12)
「病気腎移植、厚労省が原則禁止を通知
愛媛県の宇和島徳洲会病院で行われた「病気の腎臓移植」の問題を受け、厚生労働省は、こうした移植については原則禁止とすることを全国に通知しました。
厚労省は、新たに生体移植に関する規定を臓器移植法の運用指針に盛り込み、12日、各都道府県に通知しました。
指針では病気の腎臓の移植について、有効性と安全性が予測される臨床研究以外では認めないとしています。
また、生体からの臓器提供者については、移植を受ける人の親族かどうかを医療機関側が戸籍抄本などで確認するとしたほか、親族でない人からの提供の場合は、倫理委員会で審査するとしています。
がんなどの病気の腎臓移植をめぐっては、これまでルールがない状態で、宇和島徳州会病院の万波誠医師らが42件実施していました。(12日22:12)」
「各都道府県や日本移植学会など6学会、日本医師会などに通知」とのことですから、広く通知したことが分かります。また、病気腎移植否定表明に参加した学会は5学会ですから、はっきりしませんが、病気腎移植否定表明に参加しなかった日本病理学会にも通知したものと思われます。
この報道記事からすると、改定案の文言が変更されたのかどうかの言及がなく、病気腎移植について触れた部分も、改定案のままの文章を引用しているだけです。なので、おそらくは改定案のまま変更されていないのではないかと思われます。
臓器の移植に関する法律の運用に関する指針の改正(案)について
1.改正の趣旨
臓器移植法違反事件(参考資料6)及びいわゆる病腎移植問題(参考資料7)を受け、臓器移植法の運用に係る事項を定める「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針(平成9年10月8日付け健医発第1329号厚生省保健医療局長通知)」を改正し、生体間の臓器移植に係る臓器提供者の意思確認や移植を受ける者に対するインフォームドコンセントの方法など、生体間の臓器移植に関する規定を加えることで、適正な臓器移植の実施を図る。
2.改正(案)
運用指針に第12を加え、次の事項を規定する。
第12 生体からの臓器移植の取扱い
○ 生体からの臓器移植は、健常な提供者に侵襲を及ぼすことから、やむを得ない場合に例外として実施されるものであること。生体から臓器移植を行う場合においては、法第2 条第2 項及び第3 項、第4条、第11 条等の規定を遵守するため、以下のとおり取り扱うこと。
○ 臓器の提供の申し出については、任意になされ他からの強制でないことを、家族及び移植医療に関与する者以外の者であって、提供者の自由意思を適切に確認できる者により確認しなければならないこと。
○ 提供者に対しては、摘出術の内容について文書により説明するほか、臓器の提供に伴う危険性及び移植術を受ける者の手術において推定される成功の可能性について説明を行い、書面で提供の同意を得なければならないこと。
○ 移植術を受けて摘出された肝臓が他の患者の移植術に用いられるいわゆるドミノ移植において、最初の移植術を受ける患者については、移植術を受ける者としてのほか、提供者としての説明及び同意の取得を行わなければならないこと。
○ 移植術を受ける者に対して移植術の内容、効果及び危険性について説明し書面で同意を得る際には、併せて提供者における臓器の提供に伴う危険性についても、説明しなければならないこと。
○ 臓器の提供者が移植術を受ける者の親族である場合は、親族関係及び当該親族本人であることを、公的証明書により確認することを原則とし、親族であることを公的証明書により確認することができないときは、当該施設内の倫理委員会等の委員会で関係資料に基づき確認を実施すること。
細則:本人確認のほか、親族関係について、戸籍抄本、住民票又は世帯単位の保険証により確認すること。別世帯であるが戸籍抄本等による確認が困難なときは、少なくとも本籍地が同一であることを公的証明書で確認すべきであること。
細則:倫理委員会等の委員会の構成員にドナー・レシピエントの関係者や移植医療の関係者を含むときは、これらの者は評決に加わらず、また、外部委員を加えるべきであること。
○ 親族以外の第三者から臓器が提供される場合は、当該施設内の倫理委員会等の委員会において、有償性の回避及び任意性の確保に配慮し、症例ごとに個別に承認を受けるものとすること。
細則:生体腎移植においては、提供者の両腎のうち状態の良いものを提供者に止めることが原則とされている。したがって、親族以外の第三者から腎臓が提供される場合において、その腎臓が医学的に摘出の必要のない疾患を有するときにも、本項が適用される。
○ 疾患の治療上の必要から腎臓が摘出された場合において、摘出された腎臓を移植に用いるいわゆる病腎移植については、現時点では医学的に妥当性がないとされている。したがって、病腎移植は、医学・医療の専門家において一般的に受け入れられた科学的原則に従い、有効性及び安全性が予測されるときの臨床研究として行う以外は、これを行ってはならないこと。また、当該臨床研究を行う者は「臨床研究に関する倫理指針」(平成16年厚生労働省告示第459号)に規定する事項を遵守すべきであること。さらに、研究実施に当たっての適正な手続の確保、臓器の提供者からの研究に関する問合せへの的確な対応、研究に関する情報の適切かつ正確な公開等を通じて、研究の透明性の確保を図らなければならないこと。
(注)細則については、「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針」の詳細として別途通知するものとする。
テーマ:政治・経済・時事問題 - ジャンル:政治・経済
1.社説と識者のコメントを引用しておきます。
(1) 東京新聞平成19年7月12日付朝刊【社説】
「年金、政治とカネ、憲法… 参院選きょう公示
2007年7月12日
参院選がきょう公示される。発足十カ月になる安倍政権に評価が下る。年金、政治とカネ、憲法、税と、争点は明確だ。与野党逆転はあるか。熱い戦いを期待する。
今回の参院選ほど、多くの政策課題で争点がはっきりしているのは珍しい。十一日の日本記者クラブ主催の党首討論会でも、争点が次々と浮かび上がった。
二十九日の投票日へ、さらに論点を詰める選挙戦を望む。有権者は分かりやすい選択肢を求めている。
政権の信頼が問われる
党首討論でもそうだったが、争点の一番は年金問題だ。
安倍晋三首相は“消えた年金”について「打てる手段、打てる政策をすべて出している」と、対策に万全を期していることを強調した。
公明党の太田昭宏代表は「必ず全額受け取れるようにしたい」と、与党の立場から首相を後押しした。
いずれも年金不信を払拭(ふっしょく)しようとしている。政府・与党は数年前に年金問題で「百年安心」を唱えて、当時導入した制度に胸を張った。
しかし、その制度のもとでいま、国民の不安と怒りが燃えさかる。
該当者が不明の五千万件の納付記録、入力されずに放置された千四百万件余の記録…。
消えた記録はもっとあるのではないか。そうなれば、もう年金制度は信じられない。有権者の多くが、まだ隠された情報があるのではないかと疑っている。首相はこれにしっかり答えねばならない。
民主党の小沢一郎代表は「自称『百年安心の年金』か、抜本改革かだ」と訴えている。
だが、民主党の提唱する全額税方式の最低保障年金も、今の消費税率を維持したままで、財源が足りるのか疑問がつきまとう。
安倍政権の「百年安心」年金を信じるのか、小沢民主党の年金改革に乗るのか。有権者が判断するにはまだ材料が足りない。双方とも議論を掘り下げ、分かりやすく有権者に伝える努力をすべきだ。
いまだに説明がない
年金制度と消費税問題は切り離せない。その税制について首相は「秋に議論する」の一点張りだ。首相は「消費税を上げないとは、言っていない」と述べたり、そのときにならなければ分からないような言い方をしている。野党が明確な発言を求めるのも、もっともなことだ。
「政治とカネ」問題の対立軸は実に分かりやすい。
赤城徳彦農相の事務所費問題。領収書をつけて内訳を公表するかどうか。党首討論でも野党が公表を迫ったのに対し、首相と公明党の太田氏は必要ないとの認識を示している。
昨年暮れの佐田玄一郎前行革相の不正経理問題を皮切りに、自殺した松岡利勝前農相の「何とか還元水」問題など閣僚による「政治とカネ」をめぐる騒ぎが続いてきた。
その都度、首相は問題の閣僚をかばい、彼らはいまだに説明責任を果たしていない。
こうした政権のありようを是とするか非とするか、これも選挙戦の大事な争点である。
参院議員の任期は六年ある。先の国会で国民投票法が成立した。安倍自民党は、二〇一〇年の改憲発議を目指す政権公約を明らかにしている。首相の狙い通りに進めば、この選挙で選ばれる人たちが、改憲作業に手を染めることになる。
党首討論でも各党の違いがそれなりに示された。改憲に意欲を見せる首相に、小沢氏は「緊急の必要性はない」と述べた。
共産党の志位和夫委員長と社民党の福島瑞穂党首は改憲阻止。これを選挙戦で訴えていくと宣言した。公明党の太田氏は九条第一、二項の維持を訴えた。
改憲の動きが具体化するにつれ、九条護持論も盛り上がりを見せている。参院選の候補者たちは九条を変えるか変えないか、なぜそうすべきなのか、を語るべきだ。首相は海外での武力行使を認めるのかと問われて、返答を留保している。これではいけない。
参院選は衆院選と違って、与野党が逆転しても直ちに政権交代にはつながらない。有識者らからなる「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)は参院選を「政権審判の選挙」と位置づけて、安倍政権の政策や実績に有権者が点数をつけるよう提言している。
「戦後レジーム(体制)からの脱却」を繰り返す首相は、教育基本法改正、防衛庁の省昇格、役人の天下り規制などを、そのシンボルに掲げている。
有権者の力量も試される
この選挙では、その路線自体に、有権者が是非の答えを出すことになる。これまで示された「目次」だけでなく、具体的な政策の中身が選択のポイントとなる。
首相は「約束したことは必ず実行していく」と言っている。その約束は信頼に足るか。与野党逆転を訴える野党もまた、実のある政策を提起しているか。じっくり聞いて、見極める力量を有権者も備えたい。
暮らしにかかわる大事な選挙である。有権者の力量も試される。」
(2) 東京新聞平成19年7月12日付夕刊12面
「◆覚悟が問われる――山口二郎さん(北大大学院教授)
戦後レジームからの脱却や憲法改正を掲げる安倍政権そのものを認めるのか否かが問われる、重要な選挙だ。首相としての適格性や政治理念をどう評価するか。有権者は、投票に覚悟が求められる。
年金記録不備問題で世論が沸騰すると、安倍首相は、慌ててわずか1日の審議で法案を通させるなどした。政策をじっくり議論し熟成させるという議会政治の基本を理解していない。その人が改憲や集団的自衛権の行使容認に意気込んでいる。このまま国のかじ取りを委ねていいのかどうか。
争点の1つである憲法に関しては、選挙戦ではあまり議論されていない可能性があるが、首相は勝てば「改憲路線が支持された」と言うだろう。年金問題について言えば、記録がどこへ行ったかという話より、重要なのは持続可能な制度について根本から議論することだ。3年前の参院選でも争点だったが、いまだに前へ進んでいない。
有権者の判断が今後の政治に与える影響は極めて大きい。各党首の言葉やマニフェストを吟味して一票を投じてほしい。
◆自覚して一票を――石坂啓さん(漫画家)
衆院では与党に議席を与えすぎていて、乱暴な政治になっているような印象だ。「美しい国」を目指すと安倍首相は言うが、現状では健全ではない。今の政治に頼っていて幸せでいられるのか。それを自覚して投票してほしい。
多くの人が腹を立てた年金制度は、分かりにくさに問題の本質がある。社会保険庁の職員はサービス精神など持っていない。それでも「国が生活を守ってくれる」と信じている人も多かった。「増税」もあった。これほどの痛みは今までなかったというのが実感だ。
憲法改正問題も大きな争点。3年後に改憲発議があるとするならば、待ったなしだ。既に改憲に向け動きだしていて、自民党の新憲法草案には自衛軍の保持が盛り込まれた。戦争をする国でいいのか。まっとうな憲法とはどうあるべきか。“臨界点”は既に超えている気もするが、流れを変えることはできるのか。野党側にも、与党を切り崩す余力が感じられない。漫画家のように斜に構えて、世の中や権力者を意地悪く見てみたらどうだろうか。」
東京高裁という司法機関が、スティールを「濫用的買収者」と認定した点が注目されます。それは、「濫用的買収者」たる株主への差別的扱いは許され、「濫用的買収者」への買収防衛策は適法になりやすいことから、他の会社においてもスティールに対する買収防衛策は適法となる可能性が非常に高くなり、スティールが今までのように好きなように物色(日本企業買収)することは難しくなると予測されるからです。
このような買収防衛策が適法となるポイントについて、に関する司法判断について、元東京高裁判事の鬼頭季郎氏に適法となる買収防衛策のポイントを聞いたインタビュー記事を紹介します。もちろん、この記事はブルドックソースの買収防衛策自体についてコメントしたものではありません。
1.東京新聞平成19年6月19日付朝刊9面
「適法な買収防衛策とは? 「危機」証明 経営側に必要 元東京高裁判事鬼頭季郎氏に聞く
買収者に対する企業防衛のあり方に注目が集まっている。ブルドックソースの買収防衛策では、米系投資ファンド「スティール・パートナーズ」が買収防衛策発動の差し止め仮処分を東京地裁に求めた。TBSも楽天への防衛策発動の検討に入っている。2005年3月、ニッポン放送が発動しようとした防衛策の訴訟でライブドアに軍配を上げ、防衛策が認められる例外事例を示した元東京高裁判事の鬼頭季郎氏(66)に適法となる防衛策のポイントを聞いた。 (聞き手・桐山純平)
――最近の買収防衛策をどうみる。
「株主は会社法で、企業経営の細かい部分に口を出せない。だから、株主による取締役の更迭権限は最低限保障する必要がある。株主の議決権割合を薄める防衛策は、経営者の保身につながりやすく簡単に許されるものではない」
――訴訟で防衛策が適法かどうか判断されるポイントは。
「買収者が会社を食い物にしようとする具体的な危機の内容とその可能性の証明が防衛側に必要だ。危機を回避するための防衛策の内容が、一般株主に必要最小限の影響に終わるかどうかもポイントだ。買収者以外の既存株主に影響を与える防衛策は好ましくない。切迫した大きな危機などが証明できれば、取締役会の判断のみでも発動可能な場合もある」
「上場企業の大半が取り入れている事前警告型の防衛策については、導入時点ではなく発動段階になってそれが適法かどうかを裁判所は判断する」
――防衛側の危機の証明は難しくないか。
「危機を直接証明するものを出しにくいのは分かる。だから、例えば、買収者がファンドの場合、その投資スタイルやこれまでの買収のやり方など、『危機』が推測できるような事例を出せばいい」
「私はニッポン放送の防衛策をめぐる訴訟で、防衛策が認められる4類型を法廷を示した。それ以外に、買収者が標的企業を守るための第三者の友好的買収(ホワイトナイト)を誘発し、保有株式の高値売り抜けの画策を推測できれば、会社を食い物にすると認めても不当ともいえない」
「一方、事業会社が相乗効果を求めて行う買収の場合は、過去に被買収事業に危機や脅威を与えた事例がなければ、証明がおそらく難しくなる」
――防衛側が社外取締役や有識者らで構成される第三者機関に発動の判断を委ねる企業が多い。
「第三者機関が防衛策を承認しても、その構成メンバーや判断能力からみて客観性に疑問があるケースが多い。経営側の判断に恣意(しい)性がないことを示す間接的な証明にはなり、また一般株主が買収に対する対応を決定する重要な資料にもなるが、裁判所にとっては参考意見にしかならない」
――株主総会の普通決議(議決権の過半数の賛成)で、株主の承認を得た場合は。
「株主が買収者より経営陣の経営にお墨付きを与えたとしても、買収者が会社を食い物にするとは言い切れない。参考資料にはなるが、防衛策の必要性や相当性を法律的に評価するのに決定的な要素ではない。ただ、特別決議(3分の2以上の賛成)で承認を得られれれば、新株発行の割り当てを受ける者の範囲や発行条件次第では、裁判所がその防衛策を『不公正』だという余地はかなりなくなる」
◆2005年3月に東京高裁が防衛策を認めた4類型
*買収者が以下の事例にあてはまれば例外的に発動が許される
1 経営参加の意思がないのに、株価をつりあげて高値で株式を会社関係者にひきとらせる(グリーンメーラー)
2 会社経営を一時的に支配し、事業上必要な知的財産権や秘密情報などを買収者などに移す
3 会社経営を支配後に、その会社の資産を買収者などの債務の担保や弁済原資として流用する
4 会社経営を一時的に支配し、事業に当面関係ない不動産や有価証券などを売却させ、その処分利益で一時的な高配当をさせるか、一時的高配当による株価急上昇を狙って高値売り抜けをする
=====================
きとう・すえお
1963年名古屋大学法学部卒。65年東京地裁判事補。旭川地家裁所長などを経て、97年東京高裁部総括。2005年10月から政府の「情報公開・個人情報保護審査会」の会長。名古屋市中川区出身。
=====================
◆大半が「事前警告型」
野村證券金融経済研究所によると、買収防衛策を導入した上場企業は、ライブドアによるニッポン放送買収問題が起きた2005年以降、3年間で全体の約10%に当たる378社(5月時点)。07年だけでも200社に上る。
導入した防衛策の大半は「事前警告型」と呼ばれる。例えば会社が定めた防衛ライン「20%以上」まで株式を取得しようとする買収者が現れた場合、防衛側が買収側に質問書を送付するなど、買収側と交渉する時間的猶予を自ら与える。会社を食い物にする「乱用的買収者」と認定すれば、既存の株主に新株予約権などを発行し、買収者の持株比率を薄める。
こうした防衛策の目的は、買収者の急激な株買い占めを防ぐとともに、株主のために時間を稼ぐ手段となる。類似の防衛策を企業が導入している米国では一度も発動されたことがない。」
新聞報道や学者の解説は色々ありますが、このインタビュー記事が一番分かりやすく正確であると思います。
「 ――訴訟で防衛策が適法かどうか判断されるポイントは。
「買収者が会社を食い物にしようとする具体的な危機の内容とその可能性の証明が防衛側に必要だ。危機を回避するための防衛策の内容が、一般株主に必要最小限の影響に終わるかどうかもポイントだ。」
こういった点を端的に指摘している解説報道はまずありません。
「 ――防衛側が社外取締役や有識者らで構成される第三者機関に発動の判断を委ねる企業が多い。
「第三者機関が防衛策を承認しても、その構成メンバーや判断能力からみて客観性に疑問があるケースが多い。……裁判所にとっては参考意見にしかならない」 」
「――株主総会の普通決議(議決権の過半数の賛成)で、株主の承認を得た場合は。
「株主が買収者より経営陣の経営にお墨付きを与えたとしても、買収者が会社を食い物にするとは言い切れない。参考資料にはなるが、防衛策の必要性や相当性を法律的に評価するのに決定的な要素ではない。ただ、特別決議(3分の2以上の賛成)で承認を得られれれば、新株発行の割り当てを受ける者の範囲や発行条件次第では、裁判所がその防衛策を『不公正』だという余地はかなりなくなる」
この2点も、新聞報道や解説とは一致してない点でしょう。
「第三者機関」をいくら設定したところで、裁判所にとっては参考意見にしかならない、要するに、適法か否かの判断につき、証拠ともならず、判断を左右するほどの重要な意見でもなく、あまり意味のない機関であるということです。
株主総会決議は、「第三者機関」と異なり意味のある機関の決議ですが、決定的な要素ではありません。「切迫した大きな危機などが証明できれば、取締役会の判断のみでも発動可能な場合もある」のです。
ただ、株主総会の特別決議は、適法になる方へ傾くわけですが、やはり条件次第ということで、適法となるための決定的な要素ではないのです。
繰り返しますが、新株予約権の発行を決めた決定機関が、株主総会か取締役会かの違いは、適法性の判断に関して決定的な要素ではないのです。「防衛策発動を決議するのが取締役会か株主総会かがポイント」(日経新聞7月9日付「社説」)ではないのです。注意が必要です。その意味で東京地裁の決定も問題があったのですが……。
1.まずは、辞任についての報道を。
(1) 東京新聞2007年7月3日 夕刊(東京新聞7月4日付朝刊(13版)1面)
「久間防衛相が辞任 原爆発言で引責 参院選影響に配慮
2007年7月3日 夕刊
久間章生防衛相は三日午後、首相官邸に安倍晋三首相を訪ね、広島、長崎への原爆投下について「しょうがない」と発言した責任をとり、辞意を表明した。首相も了承した。安倍政権の閣僚が辞任するのは、昨年末の佐田玄一郎行革担当相に次いで二人目。二十九日投票の参院選を目前に、安倍政権には大きな打撃になった。
久間氏は首相との会談後、記者団に「なかなか理解を得られていないようだから、『けじめをつけないといけない』と申し上げ、了承された。首相は『残念だ』と言っていたが、慰留はされなかった」と述べた。
首相は当初、久間氏を更迭しない考えだったが、参院選への影響を懸念する与党からも辞任論が高まったことから、辞意を受け入れることにした。
これに先立ち、公明党の浜四津敏子代表代行は三日、「久間氏は自覚して、自身の身の処し方を決めてほしい」と述べ、自発的辞任が必要との考えを示していた。
一方、長崎市の田上富久市長は三日午前、防衛省に久間氏を訪ね、抗議した。田上氏は「原爆投下の正当化とも受け取れる発言は、被爆者の心情を踏みにじるもので、被爆地長崎としては看過できない。被爆者への配慮を欠いた発言であり、(久間氏は)長崎県選出議員であるだけに誠に遺憾だ」という内容の抗議文を久間氏に手渡した。
これに対し、久間氏は「長崎市民、県民だけでなく全国の被爆者の方に今回の発言で本当にご迷惑をかけた。今後は発言に注意したい」と陳謝。長崎で八月九日に行われる平和祈念式典に久間氏が出席することに被爆者団体が反対していることについて、久間氏は「混乱が生じるようなら出席を辞退したい」と述べた。
安倍首相は午前の閣僚懇談会で「各閣僚はいろんな言動に気を付けて、緊張感を持って対処してもらいたい」と全閣僚に注意した。」
(2) 朝日新聞平成19年7月3日付夕刊(4版)1面(朝日新聞7月4日付朝刊(13版)1面)
「久間防衛相が辞任 「しょうがない」発言で引責
2007年07月03日13時27分
久間防衛相=衆院長崎2区選出=は3日午後、首相官邸で安倍首相に会い、講演で米国による広島、長崎への原爆投下を「しょうがない」と発言した責任をとり、辞任する考えを伝え、首相も了承した。久間氏は発言を撤回して陳謝したが、与党内からも批判の声が広がり、参院選公示を12日に控え、これ以上問題を長期化させるべきではないと判断した。安倍政権発足9カ月あまりで閣僚の交代は3人目。年金記録問題で逆風を受ける安倍政権や与党にとって参院選への深刻な打撃は避けられない情勢だ。
久間氏は首相との会談後、首相官邸で「長崎の皆さんに非常にご迷惑をおかけした。理解が得られないようなので、それに対して申し訳ない、けじめをつけなければいけないと私自身、辞任することにした」と記者団に語った。久間氏によると、首相は「本当にいろいろやってもらったのに残念だ」と述べ、慰留はしなかったという。
長崎市の田上富久市長は3日午前、防衛省に久間氏を訪ね、「発言は被爆者の心情を踏みにじるもので、被爆地長崎としては看過できない。いかなる理由があろうとも(核兵器の)使用は許されないということを深く認識され、核兵器廃絶に取り組むことを要請する」とした要請書を手渡した。久間氏は「長崎市民や県民、全国の被爆者にご迷惑をおかけしてすいませんでした」と陳謝し、8月9日の長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典への出席辞退を検討する意向を伝えた。
一方、与党内からも久間氏に自発的な辞任を求める声が広がった。公明党は3日の閣議後に久間氏から釈明を聞く予定だったが、「党内議論が終わっていないので時期尚早だ」(党幹部)との理由で申し出を断った。浜四津敏子代表代行は同日、「個人としては、柳沢厚労相の発言とは質的に違う重大な発言だと思う。ご自身で身の処し方を賢明に判断していただきたい」とのコメントを出し、辞任を求めた。
また民主、社民、国民新党の3野党幹事長は3日午後、首相官邸に久間氏の罷免を申し入れることにしていた。
久間氏は6月30日、千葉県柏市で講演し、米軍が日本に原爆を投下したことについて、「原爆を落とされて長崎は本当に無数の人が悲惨な目にあったが、あれで戦争が終わったんだという頭の整理で今、しょうがないと思っている」と述べた。
この発言を受け、自民党の中川秀直幹事長が謝罪し撤回するよう久間氏に助言するなど、政府・与党は火消しを図った。久間氏も地元で会見し、発言を撤回。首相も1日、久間氏の責任は問わない考えを示していた。
しかし、野党は罷免要求し、与党内からも厳しい対応を求める声が相次いだ。久間氏の地元・長崎県からも辞任を求める動きがやまず、参院選への影響を考慮し、政府・与党は辞任やむなしとの姿勢に傾いた。
◇
久間氏は農林省職員、長崎県議を経て80年、衆院議員に初当選し、当選9回。運輸政務次官、自民党副幹事長などを歴任し、橋本内閣で防衛庁長官を務めた。その後も自民党の幹事長代理や総務会長などを務め、昨年9月に防衛庁長官に就任。今年1月に同庁は防衛省となり、初代防衛相となった。」
野党のみならず、長崎市長など多くの国民からの批判だけでなく、与党内からも批判があったわけですが、久間氏は、3日朝の閣僚懇談会においても、3日午前11時、長崎市の田上富久市長が防衛省に久間氏を訪ねた際にも、辞任する気がなかったのです。ですから、辞任の決意は唐突でした。
では、久間氏が防衛相の辞任を決意するに至った原因は何なのでしょうか? そこで、この点について触れた、朝日新聞7月4日付朝刊2面「時時刻刻」の記事を紹介することにします。
テーマ:政治・経済・時事問題 - ジャンル:政治・経済
1.まず、久間防衛相の発言内容と安倍首相のコメントから。
(1) 朝日新聞平成19年7月1日付朝刊(日曜)1面
「久間防衛相、講演で「原爆投下、しょうがない」
2007年06月30日22時23分
久間防衛相(衆院長崎2区)は30日、千葉県柏市の麗沢大学で講演し、1945年8月に米軍が日本に原爆を投下したことについて「原爆を落とされて長崎は本当に無数の人が悲惨な目にあったが、あれで戦争が終わったんだという頭の整理で今、しょうがないなと思っている」と述べた。原爆投下を正当化する発言とも受け取られかねず、野党が久間氏の罷免を求める動きを見せるなど波紋が広がっている。
久間氏は「我が国の防衛について」と題した講演で、東西冷戦下で米国と安全保障条約締結を選択した日本の防衛政策の正当性を説明する際、原爆投下に言及した。
久間氏は「米国を恨むつもりはないが、勝ち戦と分かっていながら、原爆まで使う必要があったのかという思いが今でもしている」としつつ、「国際情勢とか戦後の占領状態からいくと、そういうこと(原爆投下)も選択肢としてはありうる」と語った。
久間氏は講演後、朝日新聞の取材に対し、「核兵器の使用は許せないし、米国の原爆投下は今でも残念だということが発言の大前提だ。ただ日本が早く戦争を終わらせていれば、こうした悲劇が起こらなかったことも事実で、為政者がいかに賢明な判断をすることが大切かということを強調したかった」と発言の意図を説明した。
安倍首相は同日夜、遊説先の香川県丸亀市での会見で久間氏の発言に関して「自分としては忸怩(じくじ)たるものがあるとの被爆地としての考え方も披瀝(ひれき)されたと聞いている。核を廃絶することが日本の使命だ」と述べた。
◇
【久間氏の発言要旨】
日本が戦後、ドイツのように東西が壁で仕切られずに済んだのは、ソ連の侵略がなかったからだ。米国は戦争に勝つと分かっていた。ところが日本がなかなかしぶとい。しぶといとソ連も出てくる可能性がある。ソ連とベルリンを分けたみたいになりかねない、ということから、日本が負けると分かっているのに、あえて原爆を広島と長崎に落とした。8月9日に長崎に落とした。長崎に落とせば日本も降参するだろう、そうしたらソ連の参戦を止められるということだった。
幸いに(戦争が)8月15日に終わったから、北海道は占領されずに済んだが、間違えば北海道までソ連に取られてしまう。その当時の日本は取られても何もする方法もないわけですから、私はその点は、原爆が落とされて長崎は本当に無数の人が悲惨な目にあったが、あれで戦争が終わったんだ、という頭の整理で今、しょうがないな、という風に思っている。
米国を恨むつもりはないが、勝ち戦ということが分かっていながら、原爆まで使う必要があったのか、という思いは今でもしている。国際情勢とか戦後の占領状態などからいくと、そういうことも選択肢としてはありうるのかな。そういうことも我々は十分、頭に入れながら考えなくてはいけないと思った。」
(2) 東京新聞平成19年7月1日付朝刊1面
「「米国の考え方を紹介」 首相、問題ないとの認識
2007年6月30日 19時51分
安倍晋三首相は30日夕、久間章生防衛相が長崎への原爆投下を「しょうがない」と発言したことについて「米国の(当時の)考え方について紹介したと承知している」と述べ、問題はないとの認識を示した。香川県丸亀市で記者団の質問に答えた。
被爆者への配慮を欠いたのではないかとの質問に対しても「(久間氏は)原爆の惨禍に遭った長崎についてじくじたるものがあると、被爆地の考え方についても言及されていると聞いている」と述べた。
その上で首相は「いずれにせよ、核を廃絶していくのが日本の使命であり、国連においても日本は主導的な役割を果たしている」と核廃絶を求める日本政府の立場に変わりはないと強調した。
(共同)」
「米国の原爆投下は今でも残念だということが発言の大前提」などと言い訳をしていますが、「原爆投下を正当化している発言」と受け取れる以外に考えにくい発言です。しかも、米国の立場であれば「あれで終わったんだという頭の整理」をわざわざする必要がないのですから、安倍首相が擁護するような「米国の(当時の)考え方について紹介した」という説明は極めて不自然です。やはり、日本人自ら「「原爆投下を正当化している発言」というべきものです。
まさか長崎、広島と原爆を投下され、原爆の被害を身に沁みて分かっている日本人自ら、しかも選挙区が長崎であり、閣僚という政府を代表する立場にいる者が、「原爆投下を正当化する発言」をするとは……。首相という立場にある者まで、「米国の(当時の)考え方について紹介した」などと詭弁を弄して、「原爆投下を正当化する発言」を擁護するとは……。こいつら頭がどうかしているのではないかと、信じがたい気持ちです。
被爆者が誰も生存しなくなった遠い未来においては、そういう卑屈で媚びへつらう発言をする政府関係者が出てくるだろうとは想像していましたが、まさか今の段階で聞くことになろうとは。
従軍慰安婦問題をめぐり米下院外交委員会が日本政府に謝罪を求める決議をしたのに対して、「日本政府・日本国民は原爆投下を認め、恨んでいない」と米国に伝える駆け引きではないか(東京新聞7月1日付27面・広島修道大・岡本名誉教授の発言)との指摘もありますが、本当にそうかもしれません。だとしても、そこまで自虐的な態度にでるとは、久間防衛相にはプライドなんて皆無なのでしょう。
久間防衛相は、発言を事実上撤回していますが、その経緯は次のようなものです。
「久間防衛相が陳謝 原爆しょうがない発言
2007年7月1日 15時28分
原爆投下を「しょうがない」と発言したことについて記者会見し、頭を下げる久間防衛相=1日午後、長崎県島原市
久間章生防衛相は1日昼、長崎県島原市内で記者会見し、原爆投下を「しょうがない」と発言したことについて「被爆者を軽く見ているかのような印象に取られたとすれば申し訳なかった。これから先は講演で言ったような話はしない」と陳謝し、発言を事実上撤回した。
同日朝のフジテレビ番組では「そんなような内容(の発言)ではない」として引責辞任や発言の撤回、訂正を行う考えはないことを強調していたが、与党幹部から同日午前「私の認識とは違う。誤解を招いたのであれば、きちんと釈明して、謝罪すべきところは謝罪した方がよい」(中川昭一自民党政調会長)などと、批判が相次いだのを受け軌道修正したとみられる。
久間氏は朝の番組で「原爆投下する必要はなかったというのは会場でも言っている」と強調。「過去のことをああすればよかったと今言ってみてもしょうがないという思いで言った」と釈明していた。
(共同)」(東京新聞2007年7月1日 15時28分)
批判を受けても自らは撤回する気がなかったのに、与党幹部から参院選に影響があるからと、批判を受けて仕方なく事実上撤回したのです。しかもテレビ報道で行っている映像では、へらへら笑いながら「ごめんなさい」と言っているのであって、少しも謝罪しているようにはみえません。本音としては、撤回する気はなく謝罪する気もないと捉えておくべきだと思います。
長崎、広島への原爆投下は、無防備な市民に対する無差別攻撃であり、その破壊力、殺傷力はあまりにも絶大なものでした。ですから、国際法上はもちろん、原爆被害を受けた日本国・日本人としては、心底、未来永劫、原爆投下を正当化する気になれない、というの共通意識であったのです。敗戦国であるとか、米国への気兼ねとかで核抑止を否定できないといった色々な事情があるとしても、「原爆投下を正当化する気になれない」ということは、日本人の国民感情からして原爆被害国(者)としてどうしても譲れない一線であったはずです。
しかし、久間防衛相と、その「原爆投下正当化」発言を擁護する安倍首相は、「原爆被害国(者)としてどうしても譲れない一線」を破ったのです。久間氏と安倍氏は、日本国を代表する首相及び大臣として、国会議員の資格を有する者としても、二度と見る気になれません。
テーマ:政治・経済・時事問題 - ジャンル:政治・経済
施餓鬼会(せがきえ)とは、生きとし生けるものすべてを対象にして行われる法会です。施餓鬼会は布施の実践であり、供養を受けることのできない無縁の精霊を供養する儀式でもあります。このような法会なのですから、回向院は6月30日、動物供養のために行ったわけです。
法要の際に施餓鬼会の由来について説明していましたので、ここでもその説明を載せておきます。
釈尊の弟子の阿難(あなん)が、喉が針のように細く、やせ衰えて醜い姿をした餓鬼から、「お前の命はあと3ヶ月しかなく、死んだ後は餓鬼に生まれ変わる」と言われました。阿難は釈尊にどうしたらいいかと教えを乞いました。そして、阿難は釈尊に教えられた陀羅尼(だらに)を唱えながら餓鬼に食を施したところ、かえって長寿を得られたという仏説に由来しています(藤井正雄監修「わが家の仏教・浄土宗」147頁)。
今回も、「家畜総回向」の際に頂いた「散華」(道場にみ佛をお迎えし、佛を讃え供養する為に古来より広く行われてきたもの。元来は、樒の葉や菊の花、蓮弁等の生花を用いていたが、現在は通常蓮弁形に截った紙花を用いている)に書かれていた言葉を引用しておきます。この和歌は、法然上人が詠まれた歌(浄土宗の宗歌)です。
「月影のいたらぬ里はなけれども 眺むる人乃心にぞすむ」
この和歌の意味について、浄土宗のHPから引用しておきます。
「月の光はすべてのものを照らし、里人にくまなく降り注いでいるけれども、月を眺めるひと以外にはその月の美しさはわからない。阿弥陀仏のお慈悲のこころは、すべての人々に平等に注がれているけれども、手を合わせて「南無阿弥陀仏」とお念仏を称えるひとのみが阿弥陀仏の救いをこうむることができる・・・という意味です。
法然上人は「月かげ」のお歌に、『観無量寿経』の一節「光明遍照 十方世界 念仏衆生 摂取不捨」のこころを説き、私たちにお示しくださったのです。
法然上人の教えは、厳しい修行を経た者や財力のあるものだけが救われるという教えが主流であった当時の仏教諸宗とは全く違ったものでした。
「南無阿弥陀仏」と唱えればみな平等に救われる・・・。法然上人のおしえは貴族や武士だけでなく、老若男女を問わずすべての人々から衝撃と感動をもって受け入れられ、800年を経た今日もそのおしえはひとびとの「心のよりどころ」となっているのです。」(元祖法然上人のみ教え:浄土宗 総本山知恩院)
「月影」とは、阿弥陀仏の光明の喩えであり、「ながむる人」とは、阿弥陀仏の光明に面を向け、心を開いて念仏を唱える人のことをいいます。要するに、月の光(阿弥陀仏の光明)が降り注がない地はないのだけれども、その素晴らしさを知ることができるのは、眺めようと心掛ける者(心を開いて念仏を唱える人)だけという意味です。
他力本願の浄土思想といっても、やはり自覚的出発なしには救いに気づくことはありません。救われてると本当に気づくことが至難であるとしても、そこに身をおいて月影を仰ぐほかないのです(「浄土の本」158頁)。
法然が仏教の道を選ぶことになったのは、父の遺言に基づいています。法然(幼名:勢至丸)が9歳の頃、父が非業の最期を遂げるのですが、復讐を誓う勢至丸に対して、「復讐をしてはならない。これも私の過去の業のせいであるから彼を恨んではならない。もしお前が恨みを晴らせば、次には彼の遺児がお前を恨もう。それでは永遠に恨みの尽きるときはない。それよりも恨みのない安らぎの心を手に入れるがよい」と言い残して息絶えました(松原泰道著『仏教入門』167頁)。
最近の日本では、裁判が被害者の復讐の場のようであり、弁護人が被告人に有利なことを述べることさえ非難する者たちさえいます。「恨みのない安らぎの心を手に入れる」ことを求める意識など皆無のようです。仏教国と言われた日本は、遠い過去のこととなりつつあるようです。