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主に社会問題について法律的に考えてみる。など。
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2008/06/02 [Mon] 18:55:27 » E d i t
自分が先に暴行した相手から殴り返され、さらに反撃したことが正当防衛(刑法36条1項)に当たるか、すなわち「自ら招いた正当防衛状況(自招防衛・自招侵害・挑発防衛)」が争われた刑事裁判の上告審決定で、最高裁第二小法廷(古田佑紀裁判長)は5月20日、自分の不正行為で招いた侵害に対しては、正当防衛は成立しないとする判断を示しました。その上で、傷害罪に問われ、懲役6月執行猶予3年の有罪判決を受けた男(44)の上告を棄却しています。

事案は、被告人は路上で口論となった男性の顔を殴って逃げたが、自転車で追いかけてきた男性に背後から殴り返され転倒してしまい、被告人は直後に起き上がり、持っていた特殊警棒で男性に暴行を加え、約3週間のけがを負わせたというものです(日経新聞平成20年5月22日付夕刊23面)。新聞紙面での事案紹介はこのような扱いですから、新聞での事案からすると最高裁の判断は当然の結論のようにも読めますが、最高裁決定の事案をよく読むとなかなか微妙です。後に詳しく検討します。



1.まず、報道記事を幾つか。

(1) asahi.com(2008年05月22日11時03分)

「自ら招いたけんか、正当防衛には当たらない」最高裁
2008年05月22日11時03分

 自分がきっかけをつくったけんかで傷害罪に問われた被告が、「正当防衛が成立し、無罪だ」と主張した刑事事件の上告審決定で、最高裁第二小法廷(古田佑紀裁判長)は「自らの不正行為により結果を招いた場合には、正当防衛には当たらない」とする初めての判断を示した。

 裁判員制度が始まったときに市民裁判員が判断に悩まなくてもいいような基準の一つになるとみられる。

 被告は東京都三鷹市の男(44)。05年11月、路上で口論になった相手の男性を殴って走り去った。男性に自転車で追いつかれ、後方から殴られて倒れたが、被告は携帯していた特殊警棒で顔などを殴り返して男性に3週間のけがを負わせた。被告は「相手の攻撃を受けたため、やむをえず殴った」と正当防衛の成立を主張していた。

 決定は20日付。被告は懲役6カ月執行猶予3年の有罪が確定する。」



(2) 毎日新聞 2008年5月22日 東京夕刊

正当防衛:「先に手を出し反撃され攻撃」は認めず 最高裁

 自分が先に暴行した相手から逆に攻撃されたときに、それへの反撃が正当防衛に当たるかどうかが争われた刑事裁判で、最高裁第2小法廷(古田佑紀裁判長)は20日付の決定で、相手の攻撃の程度が最初の暴行を大きく超えるような場合でない限り、原則として正当防衛は成立しないとの初判断を示した。その上で、傷害罪に問われ、正当防衛を主張していた派遣社員の男性被告(44)の上告を棄却。懲役6月、執行猶予3年とした2審判決が確定する。

 2審・東京高裁判決によると、被告は05年11月、東京都府中市の路上で50代男性と口論になり拳で顔を殴った。自転車で追いかけて来た男性に後ろから首周辺を腕で強くぶたれたため、特殊警棒で男性の顔などを殴り3週間のけがを負わせた。

 正当防衛が成立するには危険が差し迫っていること(急迫性)が必要。最近の裁判例はこうしたケースでは、相手の攻撃を予期できたかどうかで判断しており、2審は「被告は相手の報復攻撃を十分予期しており、急迫性はない」と正当防衛を否定した。

 これに対し小法廷は「相手の攻撃は被告の暴行に触発された一連の事態であり、被告は自らの不正行為により侵害を招いた」と指摘し、報復攻撃を予期していたかどうかにかかわらず、原則として正当防衛は成立しないと判断した。裁判員制度を控え、客観的行為のみで判断する枠組みを示した形だ。【北村和巳】

毎日新聞 2008年5月22日 12時44分」



(3) スポーツ報知(2008年5月22日12時22分)

暴行し暴行された場合の再反撃を正当防衛と認めず 

 暴行した相手から反撃され、再び暴行に及んだ被告に正当防衛を認めるかどうかが争われた傷害事件の上告審決定で、最高裁第二小法廷(古田佑紀裁判長)は22日までに、「(反撃は)最初の暴行に触発された」と認定。自らの不正行為が原因の場合、再度反撃すると正当防衛にならないとする初判断を示した。

 正当防衛は「急迫不正の侵害に対し、やむを得ない場合」に成立。自分が先に手を出したケースでの成否は、「急迫性」の有無という主観的な要素を基に争われてきた。

 しかし今回の決定は、自分の行為が原因かどうかという基準のみで判断。「相手の反撃は、最初の暴行の直後に近接した場所でなされた一連、一体の出来事。暴行の程度を大きく超えていない」とし、被告自身の暴行が反撃を招いたと認めた。

 決定は被告の男(44)の上告を棄却。懲役6月、執行猶予3年とした二審東京高裁判決が確定する。20日付。

 決定によると、被告は2005年11月、東京都府中市の歩道で、被害者の男性を不審者と思って声を掛けたことから口論となり、顔を殴り逃走。自転車で約90メートル追い掛けてきた男性に後方から殴り返されたため、特殊警棒で顔面などを殴りけがをさせた。

 被告は「反撃は危険な不意打ち。正当防衛で無罪」と訴えたが、一、二審はいずれも退けた。

(2008年5月22日12時22分 スポーツ報知)」



事案や本決定については、後で決定文で直接検討しますが、その前に記事内容で気になった点があります。

「裁判員制度が始まったときに市民裁判員が判断に悩まなくてもいいような基準の一つになるとみられる。」(朝日新聞)

「小法廷は「相手の攻撃は被告の暴行に触発された一連の事態であり、被告は自らの不正行為により侵害を招いた」と指摘し、報復攻撃を予期していたかどうかにかかわらず、原則として正当防衛は成立しないと判断した。裁判員制度を控え、客観的行為のみで判断する枠組みを示した形だ。」(毎日新聞)


この事案は、「自ら招いた正当防衛状況(自招防衛・自招侵害)」と呼ばれる刑法理論における重要論点の1つにかかわるものです。裁判員制度という手続法での裁判員の便宜のために、実体法である刑法上の刑法理論が左右されるわけがありません。

確かに、「自分の不正行為で招いた侵害に対しては、正当防衛は成立しない」という結論だけは裁判員も迷わないで済むでしょう。「報復攻撃を予期していたかどうか」ということにこだわらずに済むことも確かです。しかし、この決定は結論だけを書いているだけであって、何の判断枠組みも示していませんから(詳しくは後述します)、むしろ、これでは裁判員が困ってしまいます。新しい判例が出れば、何でも裁判員制度と結びつける短絡的な思考は、止めてほしいと思います。



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