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2009/10/10 [Sat] 23:59:33 » E d i t
ファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」を開発、インターネットで公開し、ゲームソフトや映画の違法コピーを容易にしたとして、著作権法違反幇助(ほうじょ)罪に問われた元東大助手金子勇さん(39)の控訴審判決で大阪高裁は平成21年10月8日、罰金150万円とした一審・京都地裁(平成18年12月)の有罪判決を破棄し、無罪を言い渡しました。

日本では、ファイル交換ソフトを使った著作権侵害をめぐり、開発者本人が刑事責任が問われた初の事件です。金子さんは一貫して無罪を主張し「技術開発の現場を萎縮させる」と一審判決を批判しており、控訴審判決に対して、「事実を正確に認識した正当な判断だ」と述べています。


1.まず、控訴審判決要旨を。

(1) 【資料】ウィニー裁判・判決要旨(共同通信)

「「ウィニー」という新技術(ソフトウェア)を使うと映画や音楽がインターネットを通じてやり取りできる。2002年にこの新技術を開発し自らのサイトで無料公開した東大の元助手が著作権法違反ほう助の罪に問われた。一審は有罪だったが、大阪高裁が2009年10月8日に言い渡した控訴審判決は一転無罪となった。その判決要旨を以下に紹介する。

 【ほう助の成否】

 (1)ソフトについて検討

 ウィニーはP2P技術を応用したファイル共有ソフトであり、利用者らは既存のセンターサーバーに依存することなく情報交換することができる。

 その匿名性機能は、通信の秘密を守る技術として必要にして重要な技術で、ダウンロード枠増加機能などもファイルの検索や転送の効率化を図り、ネットワークへの負荷を低減させる機能で、違法視されるべき技術ではない。

 したがってファイル共有機能は、匿名性と送受信の効率化などを図る技術の中核であり、著作権侵害を助長するような態様で設計されたものではなく、その技術は著作権侵害に特化したものではない。ウィニーは多様な情報交換の通信の秘密を保持しつつ、効率的に可能にする有用性があるとともに、著作権の侵害にも用い得るという価値中立のソフトである。

 (2)ほう助が成立するか

 ネット上のソフト提供で成立するほう助犯はこれまでにない新しい類型で、刑事罰を科するには慎重な検討を要する。

 原判決は、ウィニーは価値中立的な技術であると認定した上で、ホームページ上に公開し不特定多数の者が入手できるようにしたことが認められるとして、ほう助犯が成立するとした。

 しかし、2002年5月に公開されてから何度も改良を重ね、03年9月の本件に至るが、どの時点からどのバージョンの提供からほう助犯が成立するのか判然としない。

 利用状況を把握することも困難で、どの程度の割合の利用状況によってほう助犯の成立に至るかや、主観的意図がネット上において明らかにされることが必要かどうかの基準も判然としない。したがって原判決の基準は相当でない。

 被告は誰がウィニーをダウンロードしたか把握できず、その人が著作権法違反の行為をしようとしているかどうかも分からない。価値中立のソフトをネット上で提供することが正犯の実行行為を容易にさせるためにはソフトの提供者が違法行為をする人が出ることを認識しているだけでは足りず、それ以上にソフトを違法行為のみに使用させるように勧めて提供する場合にはほう助犯が成立する。

 被告はをネットで公開した際、著作権侵害をする者が出る可能性を認識し、「これらのソフトにより違法なファイルをやりとりしないようお願いします」と著作権侵害をしないよう注意喚起している。

 また、被告は02年10月14日には「コンテンツに課金可能なシステムに持ってゆく」などと著作権の課金システムについても発言しており、ウィニーを著作権侵害の用途のみに使用させるよう提供したとは認められない。

 被告は価値中立のソフトであるウィニーをネットで公開した際、著作権侵害をする者が出る可能性は認識していたが、著作権侵害のみに提供したとは認められず、ほう助犯の成立は認められない。

 【結論】

 被告にはほう助犯の成立が認められないのに一審判決がほう助犯の成立を認めたのは刑法62条の解釈適用を誤ったもので、検察官の所論は理由を欠き、いれることはできない。よって被告は無罪とする。

2009/10/08 12:52 【共同通信】」



(2) 毎日新聞平成21年10月9日付東京朝刊24面

ウィニー事件:控訴審判決(要旨)

 ファイル共有ソフト「Winny(ウィニー)」を巡る著作権法違反のほう助事件で8日、開発・公開した金子勇被告に逆転無罪を言い渡した大阪高裁判決の要旨は次の通り。

 【主文】原判決破棄。被告人は無罪

 【理由】

 ◆ウィニーの技術的評価

 技術、機能を見ると、著作権侵害に特化したものではなく、多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に可能にする有用性があるとともに、著作権の侵害にも用い得るという価値中立のソフトであると認めるのが相当。

 ◆1審判決が示したほう助犯成立の基準

 原判決はウィニーが価値中立的な技術であることを認定した上で、外部への提供行為自体がほう助行為として違法性を有するかは、(1)その技術の社会における現実の利用状況や(2)それに対する認識(3)さらに提供する際の主観的態様による--との基準を示した。

 しかし、ファイル共有ソフトによる著作権侵害の状況について把握するのは困難で、どの程度の割合の利用状況によってほう助犯が成立するのか原判決の基準では判然としない。また、いかなる主観的意図の下で開発されたとしても、主観的意図がインターネット上で明らかにされることが必要か否かが原判決の基準では判然とせず、基準は相当でない。

 ◆控訴審判決が新たに示した基準

 開発したソフトをインターネット上で公開した提供者はダウンロードした者を把握できず、違法行為をしているかを把握できない。価値中立のソフトを提供した行為について、ほう助犯の成立を認めれば、ソフトが存在し、ソフトを用いて違法行為をする者が出てくる限り、提供者は刑事上の責任を無限に問われることになる。ほう助犯として刑事責任を問うことは罪刑法定主義の見地からも慎重でなければならない。ソフトの提供者が不特定多数の者のうちには違法行為をする者が出る可能性・蓋然(がいぜん)性があると認識し、認容しているだけでは足りず、それ以上にソフトを違法行為の用途のみに、または主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めて提供した場合にほう助犯が成立すると解すべきである。

毎日新聞 2009年10月9日 東京朝刊」


簡潔にまとめると、控訴審判決は、

<1>ソフト自体の評価を行い、Winny(ウィニー)は著作権侵害に特化したソフトではなく、価値中立なソフトであると判断し、
<2>価値中立なソフトを提供したことで処罰するか否かにつき、1審判決は違法行為をする可能性があることの認識があれば足りるとしたが、その基準では曖昧すぎてダメだとし、
<3>価値中立のソフトをネット上で提供することにつき、幇助犯が成立するか否かの基準は、「ソフトの提供者が違法行為をする人が出ることを認識しているだけでは足りず、それ以上にソフトを違法行為のみに使用させるように勧めて提供する場合」に限る、


と判断したわけです。こう簡潔にまとめると、処罰の成否のポイントは、「Winny(ウィニー)」が価値中立なソフトなのか否かに関わっていることがよく分かるかと思います。


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2009/04/27 [Mon] 01:30:16 » E d i t
アイドルグループSMAPのメンバー草剛さん(34)が平成21年4月23日未明、東京都港区の公園内で裸になったとして、公然わいせつ容疑で警視庁に現行犯逮捕されました。現行犯で逮捕された際、泥酔状態だったようです。

その後、赤坂署は赤坂の東京ミッドタウン内にある同容疑者の高級マンションを家宅捜索するなど、「同様の事件では異例といえる措置」(スポニチ)を行いましたが、押収物はありませんでした。

草さんは4月24日午前、留置先の警視庁原宿署から東京区検に送検され取り調べを受けましたが、同区検は、草さんが容疑を認めていることなどから「証拠隠滅や逃亡の恐れがない」と判断し、同日午後、釈放しました。同区検は今後、在宅で草さんの捜査を続け、刑事処分を決めるとしています(読売新聞)。もっとも、「釈放され、起訴される公算が小さい」(東京新聞平成21年4月25日付朝刊1面)という見方が穏当でしょう。


1.報道記事を幾つか。

(1) 日経新聞平成21年4月23日付夕刊21面(4版)

SMAP草容疑者逮捕 港区の公園、泥酔し全裸 公然わいせつ容疑

 東京都港区赤坂の公園内で裸になったとして、警視庁赤坂署は23日、人気アイドルグループ「SMAP」のメンバー、草剛容疑者(34)=東京都港区赤坂9=を公然わいせつ容疑の現行犯で逮捕した。当時、草容疑者は、かなり酒に酔っていたという。同署によると、同容疑者は「なぜ裸になったか覚えていないが、反省している」と容疑を認めている。

 逮捕容疑は23日午前3時ごろ、港区赤坂9の区立檜町(ひのきちょう)公園内で裸になっていた疑い。当時、同容疑者は一人で、服を着ておらず、靴もはいていなかった。ジーパンなど衣服は公園内に脱ぎ捨てられていたという。

 赤坂署によると、近所の住民から「公園で騒いでいる人がいる」と110番通報があった。同署の警察官が駆けつけ注意したところ、草容疑者は園内の芝生にあぐらをかき、「裸だったら何が悪い」と叫び、警察官の注意を聞き入れなかったという。

 赤坂署によると、逮捕から約5時間後の23日午前8時ごろの時点で、草容疑者のアルコール濃度は呼気1リットル中0.8ミリグラムだった。現行犯で逮捕された際には泥酔状態だったとみられる。同容疑者は「赤坂の居酒屋で知人2人とビール、焼酎を飲んだ」と供述しているという。

 草容疑者が所属するジャニーズ事務所は23日、同容疑者の逮捕を受け「ファンをはじめ、多くの皆さまに多大な迷惑と心配をおかけしたことを深くおわび申し上げます」とのコメントを発表した。

 草容疑者は埼玉県出身で、アイドルグループ「SMAP」の一員として1991年に歌手デビュー。「世界に1つだけの花」など次々にヒット曲を出した。

 個人としても「日本沈没」などの映画のほか、数多くのドラマやバラエティー番組、CM番組に出演している。99年から5年連続でジーンズが似合う有名人に贈られる「ベストジーニスト」に選ばれ、殿堂入り。韓国語が得意なタレントとしても知られる。」



地デジCMなど急きょ中止 起用企業、対応追われる

 トップアイドルグループの一員として多くのCMやテレビ番組に出演する草剛容疑者。起用している企業やテレビ局は急きょ放送を取りやめるなど、対応に追われた。

 草容疑者は2011年の地上デジタル放送への移行を広報するメーンキャラクターとしてCMに出演しており、現在NHKと民放各社が放映中。

 CMを製作した社団法人デジタル放送推進協会は23日からCM放送を停止。メーンキャラクターからも外す方向で、「早急に別のタレントなどによるCMを製作する」という。
 
 プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G)も同日、草容疑者を起用した選択用洗剤のCM放送を自粛し、「逮捕の詳細が確認でき次第、今後の対応を検討する」(広報担当者)。

 トヨタ自動車は、草容疑者を起用しているトヨタレンタリースのCMや店頭ポスター、ウェブサイトなどすべての広告を打ち切ると決めた。「必要に応じ、草容疑者に代わるタレントの起用も検討していく」(広報担当者)という。

 9月には草容疑者が主演する映画「BALLAD 名もなき恋のうた」の全国の公開を控えている。配給元の東宝によると、撮影は終了して編集作業に入っており、「情報を収集している。配給をやめるかどうか、なんとも言えない」(広報室)。

 レギュラー出演しているバラエティー番組などを放送するフジテレビやテレビ朝日も「対応を協議中」としている。

 韓国の人気女優、チェ・ジウさんと草容疑者が共演して「エコライバルになろう」などと環境保全を訴える日韓共同キャンペーンのCMを昨年7月から1年間の予定で流している公共広告機構(AC)も、「6月までの残り期間の放送は中止する方向」(尾形敏朗東京事務局次長)という。

      ◇

 鳩山邦夫総務相は23日、草剛容疑者の逮捕を受け「事実であれば、めちゃくちゃな怒りを感じる」と語った。草容疑者は地上デジタル放送普及のためのメーンキャラクターだが「地デジ関係のものは全部取りかえる」と強調、キャラクターから外す方針を明言した。国会内で記者団に語った。総務相は「イメージキャラクターをやっている社会的な責任の意識を持って行動してもらいたい。最低の人間としか思えない」とも語った。」


 

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2008/10/22 [Wed] 17:15:09 » E d i t
危険運転致死傷罪のうち、信号無視運転致死傷罪(刑法208条の2第2項後段)の構成要件である「赤信号を『殊更に』無視する」ことの解釈が争われた刑事裁判において、最高裁第1小法廷(甲斐中辰夫裁判長)は10月16日付の決定で、「赤信号だと明確に認識していなくても、信号規制に従うつもりがなく、表示を意に介さずに進行」すればと「およそ赤色信号に従う意思のないもの」に当たるとして、「赤色信号を『殊更に無視し』」に含まれるとの初判断を示しました。

この事案では、赤信号をはっきり認識していなかった場合でも、赤信号を「殊更に無視し」たといえるのか、赤信号であるとの確定的な認識が必要なのか否かが問題となりました。

最高裁は、赤信号であるとの確定的な認識がない場合であっても、赤信号を「殊更に無視し」たといえる場合があると判断したわけです。もちろん、赤信号であるとの確定的な認識がない場合すべて、赤信号を「殊更に無視し」たに当たるとしたわけではありません。
10月23日追記:「殊更に無視し」とは、危険運転致死傷罪の「故意とは異なる主観的要素」であることを追記しました。念のため。)


1.報道記事を幾つか。

(1) 毎日新聞平成20年10月19日付東京朝刊28面

名古屋・危険運転致死:構成要件「赤信号を『殊更に』無視」、「従う意思ない」該当

 ◇最高裁が初判断

 危険運転致死罪の構成要件である「赤信号を『殊更に』無視する」ことの解釈が争われた刑事裁判で、最高裁第1小法廷(甲斐中辰夫裁判長)は16日付の決定で「赤信号をはっきり認識していなくても、信号の規制に従う意思がなければ要件に該当する」との初判断を示した。

 その上で同罪などに問われた無職、平敏浩被告(42)の上告を棄却。懲役10年の1、2審判決が確定する。

 弁護側は「『殊更に』の要件を満たすには、赤信号の明確な認識が必要」と指摘。

 赤かどうかはっきり分からず、「赤でも構わない」と思って交差点に進入した平被告には危険運転致死罪は適用されないとして、業務上過失致死罪の適用を主張した。

 これに対し小法廷は「信号表示を意に介さず、赤でも無視しようとの意思で進行すれば、要件を満たす」と結論づけた。

 1、2審判決によると、平被告は07年2月、無免許運転中に信号無視をパトカーに見つかり、追跡を振り切ろうと信号表示を認識しないまま時速70キロで名古屋市中区の交差点に進入、横断中の女性(当時23歳)をはねて死亡させた。【北村和巳】

毎日新聞 2008年10月19日 東京朝刊」



(2) 共同通信(2008/10/18 21:37)

赤信号ことさら無視で最高裁判断 「明確な認識必要なし」

 「赤信号をことさらに無視」とは、どんな状態か-。危険運転致死罪の条文解釈が争われた男の上告審決定で、最高裁第1小法廷は18日までに「赤信号だと明確に認識していなくても、信号規制に従うつもりがなく、表示を意に介さずに進行すれば該当する」との初判断を示した。

 その上で甲斐中辰夫裁判長は、車で歩行者をはねて死亡させた無職平敏浩被告(42)の上告を棄却した。懲役10年の1、2審判決が確定する。決定は16日付。

 名古屋高裁判決などによると、平被告は昨年2月、名古屋市内で乗用車を運転中に信号を無視し、パトカーに見つかり逃走。その後、交差点の信号表示を認識しないまま、手前で車が止まっているのを見て赤信号だろうと思ったが進入、横断中の女性=当時(23)=をはね、死亡させた。

 「赤信号をことさらに無視し、重大な危険を生じさせる速度で運転、人を死傷させた」という同罪の条文解釈が争点となり、弁護側は「『ことさら』とは、わざわざ、故意に、という意味。赤信号だという明確な認識はなく(法定刑の軽い)業務上過失致死罪の適用が相当」と訴えていた。

2008/10/18 21:37 【共同通信】」




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2008/08/01 [Fri] 23:59:12 » E d i t
「刑法39条は削除すべきなのか?(上)~1999年下関通り魔事件・最高裁平成20年7月11日判決を契機として」(2008/07/30 [Wed] 06:29:17)の続きです。今回は、「刑法39条を削除し責任無能力状態における犯罪でも処罰するとなると、どうなるのか?」について触れてみたいと思います。



1.今回は、刑法39条を削除し責任無能力状態における犯罪でも処罰するとなると、今まで不可罰とされた行為をも例外なく処罰することになります。

(1) その典型例を挙げてみます。

 「ノイローゼ気味で、覚せい剤中毒の後遺症としての妄想性曲解や妄想性被害念慮に捉われて心的混乱を招いていた被告人が、自宅で妻と就寝したものの不安、焦燥を伴う心的緊張のために熟睡できず、浅眠状態にあったところ、午前4時30分頃男が3人ほど突如室内に侵入し被告人を殺そうとして後側から首をしめつけてくる夢をみて極度の恐怖感に襲われ、防衛のため先制的攻撃を加えるつもりで男の首を強くしめたが、男と思っていたのが実は側に寝ていた妻であり同人を死亡させたという、事案がある。

 被告人は殺人罪で起訴されたが、第1審は、被告人の行動は「規範意識の活動に基ずいてなされた行為」ではなく、「任意の医師に基ずく支配可能な行動」ではないから「行為」そのものに欠けるとした(大阪地判昭和37年7月24日下刑集4巻7・8号696頁)。

 しかし、この事案の場合、不完全な意思であるにせよ、行為の原因となる意味での意思は存在したのであるから、伝統的な行為論に立ったとしても「行為」は存在し、責任能力のみが問題となると解される(第2審は責任無能力として無罪とした)。」(町野朔ほか『考える刑法』(弘文堂、昭和61年)217頁〔林美月子〕)(*原文と異なり、段落分けをした。)



他にも、暁方4時頃、やくざの一味となり、人を殺した夢をみて、その後手斧で父母に重傷を負わせ、同居人に取り押さえられてはじめてはっきり覚醒したという事案について、ねぼけまたは夢遊の状態にあったという鑑定を採用して責任無能力とした判例があります(中田修「ねぼけによる殺人未遂の一例」犯罪学雑誌37巻3号24頁)。

このように、寝ぼけ症状、夢遊病の状態下での犯罪行為は、刑法39条により、責任無能力であるために処罰しないとしていたのです。こうした睡眠中の動きについては、本人にとっては止めることは不可能なのですから、これを処罰すべきであるとして非難することは、あまりにも酷といえます。



(2) こうした寝ぼけ症状下での犯罪と推測される事例は、最近も出ています。

  イ:東京新聞平成20年7月30日付夕刊11面

『夢で見たので刺した…』 15歳少女 見えぬ動機
2008年7月30日 夕刊

 埼玉県川口市のマンションで私立中学三年の長女(15)が父親(46)を刺殺したとされる事件は、発生から十一日が経過したが、長女は動機について、現在も「父親が家族を殺す夢を見たので包丁で刺した」との供述を繰り返しているという。県警は供述の信ぴょう性を含めて解明を進めているが、なぜ殺さなければならなかったのか、という事件の核心は依然、闇の中だ。

 長女は、事件直後の調べに「十九日午前零時ごろに寝た後、父親が家族を殺す夢を見たため、目が覚めた同三時ごろに台所から持ち出した包丁で父親の上半身を二度刺して殺した」と説明していたという。

 この供述について、県警は「事件の動揺から出ているのではないか」とみて調べを進めてきた。しかし、長女は前後の行動などは説明しているものの、動機部分を問われると現在も「父親が家族を殺す夢を見たから」と答えているという。

 県警は、長女が「両親から勉強しろと言われ、うっとうしかった」と話していることから、事件の根底に勉強のストレスがあるとみて捜査している。一方で「勉強にうるさかったのは父親より母親だった」という供述もあり、父親を殺した動機が見えないという。

 「夢を見たから」という供述について、熊本大発生医学研究センターの粂和彦准教授は「怖い夢を見て現実と勘違いしたまま、理性が働かない状態で父親を刺してしまったのではないか。前後の状況を説明しながら動機の部分だけうそをつくのは不自然」と寝ぼけの一種「覚せい障害」の可能性を指摘する。

 さらに、父親の胸の傷は肺まで達し「寝ぼけた状態でためらいなく刺し、確定的な殺意はなかったと考えるのが自然」と話す。

 これに対して、県警は「目が覚めた時、父親を殺さなきゃいけないと思った」と長女が語っていることから「覚せい障害なら、当時の心情は詳しく覚えていないのではないか」と、長女の供述がうその可能性もあるとみている。一方で「誘導にならないよう、本人に動機を語らせたい」と慎重に調べを進めている。

 <覚せい障害> 寝ぼけ症状の一種。起きた後の一定時間、目が完全に覚めていない状態で混乱状態に陥る。悪夢にうなされ突然、起きて暴力をふるうなど錯乱状態になる譫妄(せんもう)や、夢遊病、夜驚(やきょう)症なども含まれる。理性が働かないため、本人は制御できず、家族らに押さえられるまで記憶がほとんど残らない。無目的な行動が多く、人を傷つけるケースはまれだが、米国では1987年に寝ぼけた状態の男性が親類の家まで車で行き、殺害した事件があったという。」



  ロ:長女は、動機部分を問われると現在でも、一貫して「父親が家族を殺す夢を見たから」と答えています。そうなると、粂和彦准教授の判断どおりのように思われます。

「「夢を見たから」という供述について、熊本大発生医学研究センターの粂和彦准教授は 「怖い夢を見て現実と勘違いしたまま、理性が働かない状態で父親を刺してしまったのではないか。前後の状況を説明しながら動機の部分だけうそをつくのは不自然」と寝ぼけの一種「覚せい障害」の可能性を指摘する。

 さらに、父親の胸の傷は肺まで達し「寝ぼけた状態でためらいなく刺し、確定的な殺意はなかったと考えるのが自然」と話す。」

(*粂和彦准教授のブログによると、「確定的な殺意はなかった」というのは、「理性に基づく殺意がなかった」という程度の意味とのことです。要は、夢うつつの中だったので抑制の働かない行動であって、「多分とにかく怖くて、思い切り刺した」のだろうと説明されています。「父親が家族を殺そうとしているというような何らかの怖い夢を見て、それを現実と勘違いしたまま、自分や家族を守るために、父親を刺してしまった」(粂和彦准教授のブログ)わけです。)


粂和彦准教授の判断どおりとなれば、刑法39条により責任無能力であるとして、検察側は不起訴処分にするか、又は起訴したとしても裁判では無罪(不可罰)となるでしょう。

もし、被害者感情を重視して刑法39条を削除した場合には、こうした「覚醒障害」下での行為をも処罰を免れることはできません。刑法39条が削除されてしまえば、検察側は不起訴処分にする根拠がなく、また、裁判でも不処罰する根拠がなくなってしまうからです。

しかし、「覚醒障害」下の行為を処罰することは、「睡眠していること自体を処罰した」のと同様ですから、「一生、寝てはいけない」と述べているに等しく、到底、合理性のある判断とは思えないのです。刑法39条の削除は、こうした本来処罰すべきでない行為をも処罰することになってしまうのです。



<8月3日追記>

時事通信(2008/08/02-22:55)を引用しておきます。

家族全員殺すつもりだった=「すべてが嫌、疲れた」-中3長女父親殺害・埼玉県警 

 埼玉県川口市の自宅で男性会社員(46)が殺害された事件で、逮捕された中学3年の長女(15)が県警少年捜査課の調べに対し、「すべてが嫌になって疲れた。家族(全員)を殺して、自分も死のうと思っていた」と供述していることが2日、分かった。
 長女は動機について当初、「事件前は寝ていた」「父親が家族を殺す夢を見て、殺害を思いついた」と話したが、「起きていた」と供述を翻していた。
 同課の調べに長女は、父親以外の家族も殺すつもりだったと供述。動機で夢の話をした理由を「お母さんと弟につらい思いをさせるから(本当の動機が)なかなか言えなかった」と泣きながら答えたという。
 また、「お父さんを殺してごめんなさい」と泣きながら話し、謝罪の言葉を口にした。(2008/08/02-22:55)」




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2008/07/30 [Wed] 06:29:17 » E d i t
山口県下関市のJR下関駅で1999年9月、5人を殺害、10人に重軽傷を負わせたとして、殺人罪などに問われた元運送業上部康明被告(44)の上告審判決で、最高裁第2小法廷(今井功裁判長)は7月11日、「対人恐怖症に悩んできたことを考慮しても、死刑を是認せざるを得ない」と結論付け、被告の上告を棄却しました。これにより、1、2審の死刑判決が確定することになります。

この裁判では、責任能力の有無が争点であり、弁護側は「社会から敵視されてきたとの妄想に支配され、心神喪失状態だった」と無罪を主張していたのですが、本判決は、完全責任能力を認定し、死刑を妥当としたのです。

平成20年7月31日追記:被害者遺族の主張する刑法39条廃止論についての分析について追記しました。)


1.報道記事を幾つか。

(1) 朝日新聞平成20年7月12日付朝刊1面

99年下関駅無差別殺傷、上部被告の死刑確定へ
2008年7月11日15時39分

 山口県のJR下関駅で99年に5人が死亡、10人が重軽傷を負った無差別殺傷事件で、最高裁第二小法廷(今井功裁判長)は11日、殺人などの罪に問われて一、二審とも死刑とされた元運送業・上部(うわべ)康明被告(44)の上告を棄却する判決を言い渡した。上部被告の死刑が確定する。

 公判では、犯行時の被告に刑事責任能力があったかが争点だったが、第二小法廷は「心神喪失または心神耗弱の状態にはなかった」とする二審・広島高裁の判断は相当だと述べた。

 判決によると、上部被告は99年9月29日夕、レンタカーで下関駅構内に突入。通行人らをはねたうえ、車から降りてホームに駆け上がり、包丁で乗降客らに切りつけた。

 動機について第二小法廷は「将来に失望して自暴自棄となり、自分をそのような状況に陥れたのは社会や両親だとして、衝撃を与えるために無差別大量殺人を企てた」と指摘。確定的な殺意をもって5人の生命を奪ったという結果の重大性や、「通り魔的な大量殺人」として社会に与えた衝撃、遺族の処罰感情の強さなどを考慮すると、死刑もやむを得ないと結論づけた。

 一審段階で2回実施された精神鑑定では、「妄想性障害の状態で心神耗弱にあたる」という意見と、「著しい障害があったとはいえない」という意見に分かれた。二審段階で改めてもう一度、精神鑑定がされ、「軽度の対人恐怖症で被害妄想もあったが、犯行に直接関係していない」と事実上、責任能力を認めた。

 上告審で弁護側は、東京・秋葉原で6月に起きた無差別殺傷事件との類似性に言及。「秋葉原では容疑者にためらいや良心のとがめがあったようだが、上部被告にはなかった」と弁論で述べ、上部被告に責任能力はなく、無罪だとする主張を繰り返した。(岩田清隆)」



(2) 東京新聞平成20年7月12日付朝刊27面

『命の重さと向き合って』

 下関通り魔事件の最高裁判決後、遺族や被害者は東京・霞が関で会見。「事件から九年。何度も精神鑑定が続き、長い裁判の日々だった」と振り返った。

 妻をひき殺された松尾明久さん(67)は遺影を持って法廷に入った。「裁判は終わった、思い通りの判決だったよ、と心の中で遺影に呼び掛けた」という。被告には「命の重さに向き合ってもらいたい」と話した。

 起訴前の簡易鑑定を含め精神鑑定は計四回実施された。鑑定のたびに裁判が延期された。

 松尾さんは「つらい時間が長かった。精神障害で心神喪失や心神耗弱と判断されると、刑が軽くなったり、起訴すらされないという法律はおかしいと思う」と訴えた。

 切りつけられて重傷を負った永藤登さん(77)は「退院してからも両手が使えず、だまってはいられないと被害者の会を結成した。会に報告できる判決で良かった」と話した。」




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