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2007/08/30 [Thu] 22:58:01 » E d i t
山口県光市・母子殺害事件で、被告の元少年(26)の弁護士が8月27日、テレビ番組の発言で業務を妨害されたとして、タレントとしても活動する橋下徹弁護士に損害賠償を求める訴えを広島地裁に起こす方針を明らかにしました。(8月31日追記:いくらか文章を補充し、追記もしました)


1.橋下弁護士に対して訴える方針であるとの報道記事は、次のようなものです。

(1) RCCニュース(中国放送)(8/27 18:01)

 「光市母子殺害事件弁護団が提訴~橋下弁護士のテレビ発言で損害賠償請求へ

 タレント活動でも知られる弁護士がテレビ番組での発言をめぐってほかの弁護士から訴えられることになりました。山口県光市の母子殺害事件で、被告の元少年の弁護団が弁護団の活動を批判している橋下徹弁護士にテレビ番組で業務を妨害する発言をされたとして、損害賠償を求めて広島地裁に提訴する方針を固めました。

 提訴するのは99年に起きた光市母子殺害事件の差し戻し控訴審で、被告の元少年の弁護団に加わっている広島弁護士会の足立修一弁護士や今枝仁弁護士などで最終的に原告の弁護士は4人から6人となる見通しです。

 足立弁護士らは橋下徹弁護士が今年5月、大阪のテレビ番組に出演した際、正当な理由がないにもかかわらず弁護団の懲戒処分を弁護士会に請求するよう視聴者に呼びかけて業務を妨害したとして、原告の弁護士1人あたりおよそ100万円の損害賠償を橋下弁護士に求める方針です。

 この訴訟のために足立弁護士らには6人から7人の弁護団が組織され、9月3日頃、広島地裁に訴状を提出することになっています。

 足立弁護士らの提訴の方針について橋下弁護士は「訴状が出されれば、その上できちんと対応したい」と話しています。 (8/27 18:01)」



(2) 中国新聞('07/8/28)

 「光母子殺害で弁護士が提訴へ '07/8/28

-----------------------------------------------------------------
 光市母子殺害事件の差し戻し控訴審で、テレビ番組で弁護団の懲戒処分を弁護士会に申し立てるよう呼び掛け、活動を妨害したとして、弁護団に加わる広島弁護士会所属の弁護士数人が、大阪弁護士会所属の橋下徹弁護士を相手に1人当たり100万円の損害賠償を求め、近く広島地裁に提訴する方針を決めた。訴えによると、橋下弁護士は5月下旬、十分な調査もせず、テレビ番組で視聴者に呼び掛けたとしている。」



この2つの記事によると、 足立弁護士ら数名の弁護士は、橋下徹弁護士が、5月下旬、大阪放映のテレビ番組において、「正当な理由がないにもかかわらず」ないしは「十分な調査もせずに」、弁護団の懲戒処分を弁護士会に請求するよう多数の視聴者に呼びかけて(教唆)、業務を妨害したということで、不法行為(民法709条又は719条2項[共同不法行為])に基づく損害賠償請求を求める訴えを起こすということのようです。




2.では、足立弁護士ら数名の弁護士による、橋下弁護士に対する損害賠償請求は認められるでしょうか?

(1) 橋下弁護士は、「懲戒請求ってのは誰でも彼でも簡単に弁護士会にいって懲戒請求立てれますんで何万何十万という形であの21人の弁護士の懲戒請求立てて貰いたいですね。……1万2万とか10万人位この番組見てる人が一斉に弁護士会にいって懲戒請求をかけてくれ……下さったらですね弁護士会の方としても処分出さないわけにはいかないですよ」(「たかじんのそこまで言って委員会」07-05-27放送分)と述べており、この点が重要です。懲戒請求を単なる署名活動と誤解させるような発言です。

仮に適法な懲戒請求であっても、10万人位という過剰な懲戒請求を唆すことは、懲戒請求を受けた者及び所属弁護士会に過剰な負担を求めるものであり、実際上、数百件に及ぶ懲戒請求がなされているのですから、懲戒請求を受けた者及び所属弁護士会に対して業務妨害を生じさせたことは明白です。

ですから、仮に「正当な理由がないにもかかわらず」ないしは「十分な調査もせずに」という要素がない、適法な懲戒請求であっても、10万人位という過剰な懲戒請求を唆すことは、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求が十分に成り立つということです。懲戒請求を受けた弁護士は、根拠のない請求により名誉・信用等を不当に侵害されるおそれがあり、また、その弁明を余儀なくされる負担を負うことになるのですから、懲戒請求は署名活動ではないのです。



(2) 「弁護士に対する懲戒請求と不法行為の成否~“母子殺害で懲戒請求数百件”との報道を聞いて」においていくらか検討したように、弁護団は、接見により得られた被告人の(否認)供述及び鑑定書・家庭裁判所の調査官による「少年記録」(精神年齢は4、5歳)・第1審での被告人質問では否認しているといった証拠に基づいて、差し戻し審において殺人罪でなく傷害致死罪であるなど事実誤認があるという弁護活動を行っているのです。

そうすると、弁護人は被告人の利益のために誠実に弁護する(誠実義務)という刑事弁護の基本に沿った弁護活動を行っていることは明らかであって、異論を挟むことも困難です。ですから、「正当な理由がないにもかかわらず」懲戒請求をしたことは明らかであって、橋下弁護士は不当な懲戒請求を唆したことになります。


なお、いまだに「懲戒請求のテンプレートのHP」がありますが、このテンプレートは全く懲戒請求の理由になっていません(「弁護士に対する懲戒請求と不法行為の成否~“母子殺害で懲戒請求数百件”との報道を聞いて」参照)。このHPでも、橋下弁護士のテレビ発言を掲載しており、いまだにこのHPとともに不当な懲戒請求を煽っているのです。



(3) しかも、弁護団は、報道機関に対して、差し戻し控訴審の初公判2日前に、新たな証拠に基づき提出した更新意見書について2時間をかけて説明し、また、当日には100頁ある更新意見書のコピーを記者に配布したのです(週刊金曜日2007.6.8(657号)・人権とメディア第400回、浅野健一「光市母子殺害事件報道 検察メディア一体の弁護士攻撃だ」31頁)。

そうすると、最高裁平成19年4月24日判決によれば、懲戒請求者は「懲戒請求を受ける対象者の利益が不当に侵害されることがないように,対象者に懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について調査,検討をすべき義務を負う」のですから、100頁ある更新意見書又はそれに類似する証拠を入手する必要があり、それを読めば、弁護内容が証拠に基づいて行っていることは明らかなので、懲戒事由に当たらないことが明白です。

ですから、このような証拠資料を入手することなく懲戒請求をした者は、「十分な調査もせずに」懲戒請求をしたことは明らかです。特に、テレビ視聴者という立場である者にとっては、100頁ある更新意見書又はそれに類似する証拠を、簡単に入手することは非常に困難です。

なので、橋下弁護士が「懲戒請求ってのは誰でも彼でも簡単に弁護士会にいって懲戒請求立てれます」と唆すことは、「十分な調査もせず」に懲戒請求できることを唆したのですから、明らかに不当な懲戒請求を唆したことになります。


ただし、現在では、差し戻し控訴審において、被告人質問において被告人は殺意を否定しており、鑑定人の証人喚問もなされており、山口県光市「母子殺害事件」 弁護団記者会見(1) 全6回(00:09:07)といった情報やあることから、「100頁ある更新意見書又はそれに類似する証拠」の入手がかなり容易になったと思います。

もっとも、こういった情報を入手すれば、弁護内容が証拠に基づいて行っていると容易に判断できるでしょう。なお、光市事件における最高裁弁護人弁論要旨・補充書は、以前から書籍として出版されています(『光市裁判 年報・死刑廃止2006』発行: 2006年10月この書籍は通常人も容易に入手でき、しかも読めば、法律に疎い「通常人」であっても、弁護内容が証拠に基づいて行っているという位は、容易に判断できるでしょう。


なお、橋下弁護士は、ご自身のブログにおいて、「弁護団は、なぜ第1審や第2審と異なる弁護をするのか国民に対して説明していない」として、説明義務違反が懲戒理由にあたると述べています。しかし、説明義務自体(法的根拠がなく、守秘義務違反のおそれがあるので)認められないことはもちろん、差し戻し控訴審の初公判2日前と当日において、報道機関に対して説明しているのですから(一部報道済み)、説明義務を果たしていないという言い分は妄想にすぎません。



(4) もっとも、橋下弁護士に対する損害賠償請求については、多少の問題点があります。すなわち、まだ(多くは)懲戒請求が却下される前の損害賠償請求であるから、不当な懲戒請求かどうか分からないのではないか、という点です。


通常、弁護士に対する懲戒請求に不法行為を認めた裁判例は、懲戒請求が却下された後であることは確かです。しかし、すでに述べたように10万人位という過剰な懲戒請求を唆すことは、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求が十分に成り立つのです。

また、前述のように「正当な理由がないにもかかわらず」懲戒請求をしたことは明らかであり、「十分な調査もせず」に懲戒請求できることを唆したのですから、明らかに不当な懲戒請求を唆したことになります。

懲戒処分の決定前で提訴することは、これ以上、不当な懲戒請求をしないように、不当な懲戒請求を抑制するという必要性から行うものと考えられます。このように必要性が高いことを考慮するべきです。

このようなことから、懲戒請求が却下される前であっても、損害賠償請求を求めることは問題ないと思われます。



(5) このような検討からすると、足立弁護士ら数名の弁護士による、橋下弁護士に対する損害賠償請求は認められるものであり、損害賠償請求が認められる可能性が非常に高いと考えます。

足立弁護士らは、損害賠償額として原告1人100万円を予定しているようです。名古屋地裁平成13年7月11日判決は100万円、最高裁平成19年4月24日判決は50万円の賠償金を認めていることから、従来の裁判例並みの額といえます。

もっとも、従来の裁判例は、1つの懲戒請求による損害につき認めた損害額ですから、事情が異なります。橋下弁護士の場合、10万人もの懲戒請求を煽り、結果として数百件の懲戒請求がなされているのですから、煽った行為と個別の懲戒請求との因果関係をすべて立証することは難しいことを考慮しても、数千万円の賠償額を認めることも可能かもしれません。


なお、差し戻し控訴審後の弁護団の記者会見については、山口県光市「母子殺害事件」 弁護団記者会見(1) 全6回(00:09:07)で見ることができます。ぜひご覧下さい。


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2007/06/22 [Fri] 07:30:56 » E d i t
山口県光市の母子殺害事件の弁護団に対して、インターネットを利用した懲戒請求が相次いでいるそうです。


 「母子殺害で懲戒請求数百件 弁護士が中止求めアピール
2007年6月19日 16時56分

 山口県光市の母子殺害事件で殺人罪などに問われた当時18歳の元少年(26)の弁護人に対する、インターネットを利用した懲戒請求が相次いでいることが分かり、有志の弁護士508人が19日、「被告が弁護を受ける権利を否定する言動に抗議し、直ちに中止を求める」との緊急アピールを発表した。請求は計数百件に上るという。

 アピールなどによると、ネット上に「意図的に裁判を遅らせている」などとして懲戒を求める書面のフォームが出回り、これを使った請求が各弁護人の所属弁護士会に届いている。

 アピールの呼び掛け人の1人、前田裕司弁護士は「基本的人権を守る弁護士への攻撃だ」と話している。

 日弁連は、こうした懲戒請求の有無について「答えられない」としている。

(共同)」(東京新聞(2007年6月19日 16時56分)

懲戒請求が数百件に及ぶという事態になり、「被告が弁護を受ける権利を否定する言動に抗議し、直ちに中止を求める」との緊急アピールまで行っているのですから、かなり異常な事態になっているといえます。



1.「情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士」さんの「橋下弁護士の口車に乗って光市事件弁護団の懲戒請求をしたあなた、取り下げるべきだとアドバイスします!」によると、懲戒請求が殺到しているのは、「橋下弁護士がテレビの番組で、光市母子殺人事件にからんで、誰でも懲戒請求できるとコメントしたこと」が発端となっているようです。


(1) この「情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士」さんの「橋下弁護士の口車に乗って光市事件弁護団の懲戒請求をしたあなた、取り下げるべきだとアドバイスします!」には、弁護士に対する懲戒請求を行った者に対して不法行為責任(民法709条)を認めた判例(最高裁平成19年4月24日判決を引用されていて、次のようなコメントを出されています。

 「橋下弁護士は、懲戒請求をしても、光市の弁護団が懲戒されるとは思っていないはずだ。もし、本気でそう思っているなら、弁護士失格だ。弁護人は、一見、不合理だと思われることでも、被告人がその主張をしてほしいと望むのであれば、法廷で主張することもある。そのこと自体が懲戒の対象となるならば、弁護活動に多大な支障を来すことになる。

 おそらく、橋下弁護士に煽られて懲戒請求した人も、本気で懲戒されるとは思っていないだろう。軽い抗議のつもりで懲戒請求しているのだろう。

 そのような懲戒請求は、明らかに違法な行為であり、光市母子殺人事件の弁護団が損害賠償請求をしたら支払い義務を負うことになるだろう。

 そして、多くの懲戒請求者はそのことを知らないまま、懲戒請求したのだろうが、知らなかったと言って、責任を免れるわけではない。」

と述べ、「専門家として、直ちに、懲戒請求を撤回されることをお奨めします。」としています。


(2) 最高裁平成19年4月24日判決というごく最近の判例なのですが、この判例を引用したことで、ネット上では、懲戒請求をした者(懲戒請求をしようと思っている者)が

「損害賠償責任を負うのか!? シマッタ! 橋下弁護士に乗せられてしまったのか!?」

と、かなりの動揺が広がっているようで、この判例を引用して懲戒請求殺到に関して諌めるエントリーを行ったブログに対して、批判的なコメントが押し寄せています。


「弁護士に対する懲戒請求と不法行為の成否」については、最高裁判例としては1つだけのようですが、下級審判例は多数ありますので、突如として出てきた判例ではありません。また、類似する事例としては、理由なく相手を訴える「不当訴訟」があり、こちらはすでに最高裁判例(最高裁昭和63年1月26日判決民集第42巻1号1頁、最高裁平成11年4月22日判決判時1681-102)がありますので、最高裁平成19年4月24日判決が、弁護士に対する懲戒請求を行った者に対して不法行為責任を認める結論を導いたことも、当然の結論といえます。

その意味で、弁護士に対する懲戒請求を行う者にとっては、最高裁平成19年4月24日判決は当然知っておくべき判例といえます。そこで、すでに幾つかの法律系ブログでは触れている判例ではありますが、以下、下級審判例の傾向や「不当訴訟」の判例について触れつつ、最高裁平成19年4月24日判決の検討を行いたいと思います。

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2006/08/03 [Thu] 19:07:32 » E d i t
名人戦の主催問題について、日本将棋連盟(米長邦雄会長)は、8月1日、臨時棋士総会を平成18年8月1日、東京・千駄ケ谷のけんぽプラザで開き、現在主催している毎日新聞社の単独主催案(継続契約案)を否決しました(議長は投票せず)。その結果、来年6月に予選が始まる第66期名人戦から、朝日新聞が主催するようです。
「『カネか、信義か』と棋士やファンを二分する論争が続いていた名人戦問題」(東京新聞8月2日付朝刊)についてコメントしたいと思います。


1.読売新聞8月2日付朝刊3面「スキャナー」より

名人戦『朝日』主催へ  連盟理事会 薄氷勝利

 将棋名人戦をめぐる問題は、毎日新聞が提示していた単独継続案が1日、日本将棋連盟の臨時棋士総会で90票対101票で否決されたことで、来年予選が開催する第66期から朝日新聞が主催することになった。ところが開票後、連盟と朝日は毎日との共催を模索する意向を表明、毎日がどう対応するかが最後の焦点となっている。…

■ スピード総会

 午後1時に開会した総会は冒頭の5分だけ報道陣に公開されたが、その後はこれまで通り非公開で行われた。

 今回は棋士195人のうち156人が出席。委任状は36通だった。

 表決方法は毎日案を『支持する』『支持しない』のどちらかに○をつける無記名投票と決まった。毎日案、朝日案ともに事前に各棋士に文書で配布されていたため、議論はほとんどないまま投票。通常総会が未明までもつれる時代もあったが、今回は開票終了までわずか1時間半というスピード総会だった。

■ 組織票

 11票差に見えるが、実際は毎日案を否決した6人の棋士が賛成に回れば、毎日案が可決されていただけに『薄氷を踏む勝利』とある連盟理事は振り返る。

 朝日は今年3月、年3億5500万円の5年契約などの条件を出したが、表だった動きはほとんど見せなかった。

 1966年には33億円の収入があった連盟も2004年には28億円を割り込むほど落ち込み、単年度赤字決算を出していたという背景もあり、連盟理事会は朝日移管の方針を決定。しかし、その後、毎日側に一方的に契約解消通知を送ったことが棋士の反発を受けたため、5月の通常総会では、毎日案の提示を受けてから投票すると決めていた。

 理事は弟子も多く、朝日支持で結束する一門もあった。

 最後に勝負を分けたのは、1日の臨時総会に向けて、理事会や朝日支持の棋士が集めていた委任状を中心とした組織票だった。36通の委任状のうち、少なくともベテラン棋士中心に20通以上が、毎日案の否決に使われたと見られる。

 『謝礼の高い連盟主催のイベントへの出演を決めるのは理事会。考え方が理事会寄りになる棋士が多いのはやむを得ない面もある』と中堅棋士は解説する。

 総会が近づくにつれ、渡辺明竜王や羽生善治三冠、森内俊之名人が相次いで毎日支持を表明、若手棋士の中には追随する動きもあったが、『将来的な連盟の経営を考えれば、毎日の倍以上の朝刊部数を持つ朝日に名人戦を託したい』という声も聞かれた。

■ 毎日、共催案に困惑

 毎日案否決を受けて、将棋会館で会見した柘一郎・朝日新聞社広報宣伝部長は『毎日との共催を模索したい』と話した。これに対して毎日は、社長室広報担当が『今後の将棋連盟との関係を総合的に検討したい』とコメントを発表しただけで、担当者からは『共催は一度断った話。理解できない』と困惑の声がもれた。

 1935年に名人戦が発足して以来、全国紙が1つのタイトル戦を共催したことはない。将棋関係者は『棋譜掲載の権利関係、七番勝負の対局地の選定、取材体制など課題は多い。次の予選開始は来年6月とはいえ、課題が多すぎる』と指摘、共催案実現の可能性はきわめて低いという見方が多い。

 さらに棋士たちが最も憂慮するのは、毎日がこれをきっかけにスポーツニッポン新聞社と共催している王将戦も廃止し、プロ将棋から撤退することだ。毎日は先月11日の朝刊で『名人戦が毎日主催で続くなら王将戦を継続する』と書いている。

 毎日が共催案に応じるのか。王将戦は継続するのか。どの棋士にも先は読めていない。」


拙劣な交渉 猛省を

 この問題が公になった4月から、棋士と何度深夜まで語り合ったことだろうか。棋士の考えは、『理事会が朝日に移したいという事情は分かる。でも毎日にいきなり契約解消通知を送りつけるやり方はひど過ぎる』で一致していた。

 あるタイトル保持者は以前から毎日・朝日の共催案を強く推していた。後輩たちが『毎日が受けないから無理ですよ』と説得しても、『朝日は将棋文化のためにこれだけのおカネを出すと言ってくれてるんです。ほかに選択肢はない』と繰り返した。

 酔った若手棋士が、店を出た後、『毎日さんにおわびします』と車道に倒れ込んだこともあった。

 棋界の未来を憂う棋士にとってはつらい期間だった。今後、朝日単独になるのか、共催になるのかは分からないが、多くの棋士を悩ませ、苦しめた連盟理事会は今一度、交渉の拙劣さを反省してほしい。」


*産経新聞(8月2日付)によると、「会場では、投票前に若手棋士から『羽生さん、森内さん以外のA級棋士の考えも聞きたい』という声があったが、谷川浩司九段と佐藤康光棋聖が立ち上がって『どちらかは言えません』と答えた」そうです。読売新聞にでている「あるタイトル保持者」とは、この2人だといえます。


苦渋の決断支持 将棋ファンの英文学者、柳瀬尚紀氏の話

 15回も名人位をとられた永世名人、中原誠副会長の、苦渋の決断を全面的に支持したい。これほどすばらしい知的ゲームである将棋の棋士が、野球やサッカーなどスポーツ選手に比べ恵まれていないと常々思ってきた。将棋ファンとしては、棋士によりよい環境で指してほしい。朝日は毎日より発行部数が多いので、将棋人気が高まるのでは。その資本力と誠意、熱意に期待したい」


毎日かわいそう 作家の団鬼六氏の話

 毎日を応援していたので、残念だ。将棋連盟は、信義よりカネを優先するようになった。7年契約の新たな条件を提示するなど、ぎりぎりまでがんばってきた毎日がかわいそう。将棋は文化ではなく、ビジネスになってしまった。こんな結果を見せられると、ファンはしらけてしまう」



2.この名人戦問題については、上で引用した読売新聞の記事でほぼ理解できると思います。ではコメントします。

(1) この名人戦問題の発端はどこからでしょうか?

名人戦問題の発端は、2005年8月ごろ、米長・日本将棋連盟会長の経営諮問委員会が名人戦の朝日新聞社移管を提案し、朝日新聞社と接触を始めたところからでした(読売新聞8月2日付による「名人戦問題の経緯」より)。
もっとも、朝日新聞社は名人戦主催を長年望んでいたようですから、朝日新聞社側が経営委員会に働きかけた結果ゆえの「提案」と判断した方が適切でしょう。朝日新聞社側の行為が発端であるというべきです。

問題が大きくなったのは、2006年3月3日に、朝日新聞社から名人戦移管の申し入れ書が日本将棋連盟に届き、特に、3月28日に連盟は一方的に毎日新聞社に名人戦の契約解消通知を発送したところにあるといえます。



(2) この名人戦問題について、毎日新聞社側が怒っている理由、すなわち名人戦問題が大きくなった理由はどこにあるのでしょうか?

将棋:「毎日の名人戦」守ります=東京本社編集局長・観堂義憲

 将棋界で最古の伝統と最高の権威をもつ名人戦は、1935年に毎日新聞社が創設したものです。いったん朝日新聞社の主催に移った時期もありましたが、77年からは再び毎日新聞社の主催に戻り、将棋連盟と協力して運営してきました。私たちは、名人戦の単なるスポンサーではなく、将棋連盟とともに最高のタイトルを育ててきたという自負があります。

 ところが、通知書の郵送に続いて来社した中原誠・将棋連盟副会長は「長い間お世話になり、感謝している。名人戦の運営には何の問題もなく、あのような通知書を出して恐縮している」と切り出しました。

 なぜ契約解消なのでしょう? 中原氏によれば、朝日新聞が高額の契約金や協力金を示し、名人戦を朝日新聞にもってくるよう強く要請しているから、というのです。

 毎日新聞は将棋連盟と名人戦の契約書を交わしていて、これには来年度以降も契約を継続する、と明記しています。ただし書きで「著しい状況の変化などで変更の提案がある場合は両者で協議する」となっています。

 「著しい状況の変化」とは、たとえば将棋連盟から棋士が大量脱退して経営が立ち行かなくなったとか、毎日新聞が契約金を払えなくなった場合を意味し、他社の新契約金提示などの介入はそれには相当しないというべきでしょう。連盟に通知書の撤回を求めます。

 毎日新聞は名人戦の契約金を将棋連盟の要請に応じて徐々にアップしてきました。このほか王将戦をスポーツニッポン新聞社と共催しており、合わせて年に4億円以上の支払いをしています。

 関係者によれば、朝日新聞が将棋連盟に提示した条件は年間5億円以上を5年間払う、というものです。日本の伝統を大切にする将棋連盟が信義よりも損得を重視するのでしょうか。

 30年前、朝日新聞と連盟の契約交渉が決裂しました。この時は、連盟がそれを公表したことを受け、毎日新聞は復帰交渉に入ることをあらかじめ朝日新聞に通告したうえで連盟と契約しました。毎日新聞はきちんと手順を踏んだのです。

 ところが今回の契約解消通知は、私たちにとりまさに寝耳に水でした。将棋連盟から契約金の値上げなど契約の変更要請は一切なく、朝日新聞からはいまだに何の連絡もありません。長年、共同で事業を営んできて、しかもその運営には何の不満もなかったパートナーに対して、社会通念上も許されない行為と言えるでしょう。…」



要するに、将棋界で最古の伝統と最高の権威をもつ名人戦は、毎日新聞社が創設したものであって、将棋連盟とともに育ててきたという自負とプライドをもっていたのに、契約金の値上げ交渉もなく、連盟による一方的解消は信義に欠けるもの(民法1条参照)だということと、名人戦の契約書では原則として来年度以降も契約を継続するはずで、例外的に但し書きで「著しい状況の変化などで変更の提案がある場合は両者で協議する」となっているが、朝日新聞社による移管の申し入れは但し書きに当たらず、連盟による一方的解消は名人戦契約の契約違反であるという2点にあるといえます。この2点が毎日新聞社側が怒っている理由であるわけです。


長期間にわたる契約期間のある名人戦契約は継続的契約の1つといえますが、継続的契約の特徴として、契約継続性の要請があります。
すなわち、正当な理由なしに解約申し入れができない(借地借家法6条、28条)とか、信頼関係を著しく破壊する場合がないと解除できない(最高裁昭和39年7月28日、東京高裁平成6年9月14日)など、信義則に基づいて契約解除を制限する規定や法理があるのです。さらに、近時は、代理店契約といったような当事者に契約の継続性に対する強い期待がある契約では、「契約関係継続義務」という法理があると主張され(内田貴「民法2」84頁)、さらなる継続的契約の維持が図られつつあるのが現状です。

名人戦契約は長期間の契約というだけでなく、毎日新聞が名人戦を創設し、30年にわたって問題なく主催し、「週刊将棋」の発行など深く将棋連盟と関わっていることからすると、名人戦契約は契約継続性に対する強い期待がある契約といえそうです。


そうすると、契約解除は著しく制限されるはずであり、おそらく連盟側が理由とする「他社の新契約金提示などの介入」や「朝日新聞社側の方が発行部数が多いこと」は、契約解除条項に当たらず、一方的な契約解消は不当というべきであり、信義に反するといえます。そうなると、毎日新聞社が怒る理由は正当であり、その主張には十分妥当性があると思います。



(3) 「信義よりカネを優先した」と評価される結果ですが、なぜ毎日案を否決したのでしょうか? 

毎日案と朝日案を挙げてみます(NIKKEI NET将棋王国)。

(8/1)朝日と毎日の提案内容
 
 朝日新聞社と毎日新聞社が名人戦主催に関し、提案した内容は次の通り。

 ▽朝日案

 (1)年3億5500万円の5年契約(2)5年間で計7億5000万円の将棋普及協力金(3)朝日オープン選手権(契約金・年1億3480万円)に代わって年4000万円の臨時棋戦を5年開催。

 ▽毎日案

 (1)名人戦契約金(現在3億3400万円)とは別に、将棋振興金として3000万円を7年間拠出(2)2007年に始まる第66期の契約金は100万円増額して3億3500万円とし、第67期以降は従来通り毎年協議(3)名人戦と併せて王将戦(契約金・年7800万円)を継続(4)全日本都市対抗将棋大会(事業規模2800万円)を創設。」(共同通信)


「単純な比較は難しいが、毎日案の7年間の契約金総額は朝日案を上回り、仮にそれを5年間に換算しても、朝日案に見劣りしない内容」(東京新聞8月2日付朝刊30面)です。

それなのに、毎日案を否決したのは、「連盟の関係者は『現段階で使途の決まっていない朝日の7億5000万円の『将棋普及協力金』は、赤字解消のためにも大きな魅力として映ったようだ』と語る」(東京新聞8月2日付朝刊30面)といった点にあるようです。

使途が不明な多額の金銭は、連盟の運営にとって利便性があるといえます。しかし、理事会による濫用の恐れが大きくなり、理事が個人的に使い込むおそれがあります。理事にとっては好都合であっても必ずしも棋士のためにならず、問題があります。

そうすると、毎日案を否決したのは、金銭面の観点では「赤字体質で収入が減っている連盟のために少しでもカネがほしい、理事会(理事)が自由に使うカネがほしい」ということにありそうです。


なお、英文学者の柳瀬氏によると「朝日は毎日より発行部数が多いので、将棋人気が高まるのでは」としています。確かに、部数が多ければ、多く人が目にする可能性があるとはいえます。

しかし、目にする可能性があるからといって、将棋に関心がなければ見ないのです。例えば、スポーツ欄にしか関心がない人は将棋欄は見ないですし、株式市場に関心がなければ株式欄は読まないのです。囲碁にしか関心がなければ、紙面で並んで掲載している将棋欄は見ないのです。今、囲碁人気が高いのですが、それは漫画の影響が大きいのであって、新聞掲載と無関係なのです。
発行部数が多ければ、将棋人気が高まるなんて、勘違いも甚だしいと思います。



(4) 米長会長や朝日新聞社は、なぜか毎日新聞社との共催を望むとのコメントをしているようですが、その意図はどこにあるのでしょうか?

朝日新聞社側は、「表決の差は、わずかなものでした。単独開催の場合、感情的なしこりが残るおそれも否定しきれません」(朝日新聞8月2日付朝刊30面)ということです。これは朝日側の意図です。

しかし、朝日新聞社側は、元々単独開催を望み、多額の金銭で連盟の顔をはたくまねをしていたのですから、あまりにもお為ごかしな言い分です。名人戦にかかる費用を毎日新聞社とともに分担し、費用軽減を図るのが意図だと思われます。


他方、連盟側の意図は不明ですが、今まで両天秤にかけてきた経緯からすると、両新聞社からなるべく多額の金銭を引き出そう、あまり金銭を引き出せなくても、あまり効果はないが毎日新聞社の紙面でも載せれば少しは普及に役立つだろうという点が、連盟側の意図だと推測しています。


いずれにしても、連盟による信義に反する行為、そして多額の金銭を提示し、信義違反をけしかける結果となった朝日新聞の行為は、毎日新聞社のプライドを著しく傷つけるものです。元々、毎日新聞社は共催を拒絶していたという経緯もあるのです。もし共催を受けるとすると、「そこまでプライドを捨てられるのか」と思われてしまい、毎日新聞社に対する信用が失墜しかねません。

そうすると、連盟や朝日新聞社が希望するような共催が実現することは極めて困難で、共催はありえないと思われます。




3.新聞社の評価はもちろん、ネット上の評価を見ると、将棋ファンを含め、多く人はこの結果を「信義よりもカネを選んだ」と評価しているようです。


おカネはもちろん大事です。ですが、30年来の信義を踏みにじり、少し多いカネを優先させた態度は、未来永劫にわたって揶揄の対象となるでしょう。朝日新聞は拝金主義を批判しながら、自社はカネで名人戦を買った、連盟はカネに目が眩んで名人戦を売った、あくどいカネで汚れた名人戦であると……。


名人戦契約も契約であり、資本主義社会では本来的には金銭の多い方が優先されるでしょう。しかし、「礼に始まり礼に終わる」という言葉は、将棋を始める人がまず学ぶ言葉と聞いていますし、将棋は日本文化の象徴の1つですし、名人戦は将棋で最高に権威のあるものです。
それなのに、連盟と朝日新聞社は、毎日新聞社への礼儀を尽くさず、カネ優先で解決したのです。これでは、「将棋は文化ではなく、ビジネスになってしまった」(団鬼六氏)という嘆きも当然でしょう。


朝日新聞は、右寄りの思想の方からは特に不信感を抱かれていますから、より不信感が増大するでしょうし、左寄りの思想の方も、日本文化を信義よりもカネで解決した結果に、朝日新聞社に対する不信感を抱くことになるでしょう。
バブル経済時に、アメリカの文化の象徴について日本企業が金で買ったことにアメリカ国民の反感が生じたように、その国の文化に関わるものは、国民全体のプライドに関わるものですから、カネ優先の解決は国民のプライドを傷つけるものだからです。


毎日新聞社は王将戦の廃止を示唆していますし、プロ将棋からの撤退する可能性があります。これほどプライドを傷つければ、普通、王将戦を廃止する可能性が大きいと見るのが合理的な判断です。将棋人気のなさや汚れてしまった連盟を見れば、王将戦の負担をしてくれる新聞社はないでしょう。
そうしたら、連盟に入る金銭は確実に減ることになります。連盟や毎日案否決に賛成した101人の棋士は、より収入が減りかねないという予想をしなかったのでしょうか?


将棋ファン及びそうでない一般市民も、反感を抱いた以上、さらなる将棋人口の激減をもたらし、より一層の将棋の没落へ繋がると思います。これは今目前のカネを優先し、信義を欠いた結果で、自己責任です。日本文化が没落し、衰退することは悲しいことですが、棋士自らが望んだ以上、仕方がないのでしょう。




<追記>

名人戦問題について最も詳しいのが、 「勝手に将棋トピックス」さんです。かなり前から論じてますし、リンクも詳しいです。ぜひご覧下さい。

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