「懇談会は、憲法解釈変更に前向きな安倍前首相が設置した。集団的自衛権の行使容認に積極的なメンバーが多く、「結論ありき」(政府関係者)の懇談会という側面もあった。報告書の内容も「米国との強固な信頼関係なしに同盟関係は成り立たない」という安倍前首相の主張を、論理的に補強するものとなっている。
しかし、現在の政府・与党には、憲法解釈変更の意欲は乏しい。福田首相にとっても、「ねじれ国会」の下では、与野党の火種になる憲法解釈変更の「優先度」は決して高くない。通常国会閉会後に受け取ったのも、野党との衝突を避けるためだ。
「中身はこれから研究する。ご苦労さまでした」
首相は24日夕、柳井氏から報告書を受け取ると、こう告げた。面会時間はわずか13分間で、報道各社の写真撮影も認めなかった。」(読売新聞平成20年6月25日付朝刊4面)
報告書を通常国会閉会後に受け取り、面会時間もわずか13分間というそっけなさ、報道各社の写真撮影による写真という証拠を残すことも否定したことは、福田首相は、懇談会に対してかなり冷ややかな姿勢であることが分かります。
報告書を受け取った首相は6月24日夜、記者団に「内容はまだ見ていません」。「(憲法解釈を)変えるなんて話したことはない」と語ったうえで、懇談会を閉じる考えを明らかにしています(朝日新聞)。
福田首相は、おそらく今後、報告書を見るつもりもないのでしょう。報告書は最初から棚上げされて、終わるという結果になりました。懇談会の意義は、安倍首相の辞任とともに、事実上、終了していたということだったのです。
1.報道記事を幾つか。
(1) 朝日新聞平成20年6月25日付朝刊4面
「集団的自衛権の論議失速 首相冷ややか、法制懇幕引き
2008年6月25日8時14分
首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二元駐米大使)は24日、福田首相に報告書を提出し、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認するよう政府に求めた。だが、首相に提言を正面から受け止め、本格検討するそぶりはない。安倍前首相の肝いりで設置された懇談会は、議論を喚起できないまま役目を終えた。
安倍前首相は、現在の政府解釈で自衛隊の活動が困難とされる(1)公海上での米艦船への攻撃への応戦(2)米国に向かう弾道ミサイルの迎撃(3)国際平和活動をともにする他国部隊への「駆けつけ警護」(4)国際平和活動に参加する他国への後方支援の4類型について検討を指示。報告書は、いずれも可能とすべきだと提言し、(1)(2)は集団的自衛権の行使容認、(3)(4)は憲法解釈の変更を求めた。
だが、福田首相の視線は冷ややかだ。そもそも、福田氏は集団的自衛権の行使には慎重で、福田政権誕生後は同懇談会は一度も開かれず、約10カ月にわたり「休眠状態」に置かれていた。
懇談会は集団的自衛権の行使容認論者が大勢を占め、首相が「私が受け取れる内容にしてくれ」と間接的にメッセージを出したが、変わらなかった。政府高官は「(メンバーの)頭の中を変えるわけにはいかない。現実の政権のあり方とはかけ離れた報告書」と突き放す。
報告書を受け取った首相も24日夜、記者団に「内容はまだ見ていません」。「(憲法解釈を)変えるなんて話したことはない」と語ったうえで、懇談会を閉じる考えを明らかにした。
国会閉会を待って報告書を提出した懇談会だが、提出の場面は報道陣には公開されなかった。柳井氏は提出後の会見で「今までのような憲法解釈で、激変した安保環境で日本の安全保障が達成できるのか」と報告書の意義を強調したが、提案が政策に生かされるかについては「国内政治的には厳しい。一朝一夕には変わらないことは分かっている」と語った。(金子桂一)
◇
〈安保法制懇報告要旨〉
【憲法9条への基本認識】
これまでの政府解釈の踏襲では今日の安全保障環境で生起する重要問題への対処は困難。現行解釈に固執することは法的に合理的でない解釈の連鎖を生み出しかねず、国際的に適切と考えられる新しい解釈を採用することが必要。
【4類型に関する提言】
〈公海における米艦防護〉これまでの憲法解釈、現行法の規定では自衛隊は極めて例外的にしか米艦を防護できない。集団的自衛権の行使を認める必要がある。
〈米国に向かう弾道ミサイル迎撃〉弾道ミサイルを打ち落とさないことは日米同盟を根幹から揺るがす。絶対に避けるべきだ。集団的自衛権の行使に頼らざるを得ない。
〈国際平和活動での駆けつけ警護〉国際的平和活動は憲法9条で禁止されないと整理し、認めるべきだ。
〈国際平和活動に参加する他国の後方支援〉憲法上の評価を問う「他国の武力行使と一体化」論をやめ、政策的妥当性の問題として決定すべきだ。」
5日は「世界の紛争と非暴力」「アジアの中の9条」などの分科会を開催し、最終日の6日、武力によらない平和実現を呼び掛けた世界宣言を採択し、閉幕しました。
1.まず、初日である5月4日についての報道記事を。
初日は、北アイルランド問題の平和的解決に取り組み、1976年にノーベル平和賞を受賞したマイリード・マグワイア氏らの基調講演が行われました。そして、夜には、趣旨に賛同する加藤登紀子さんやUA(ウーア)さんらのコンサートも行われました。
「基調講演した英国北アイルランドの平和運動家で、1976年にノーベル平和賞を受賞したメイリアド・マクガイアさんは「9条は60年間にわたって世界の人々に希望を与え続けた」と評価。「北アイルランド紛争で、私たちは武力なしで平和をつくることが可能だと実践した」と非暴力の重要性を説いた。
一方で「9条をないがしろにすることは、広島、長崎の被爆者への侮辱でもある」と憲法改正の動きを批判した。(共同通信)」(東京新聞2008年5月4日 20時20分:「9条は希望与え続けた」 平和憲法を考える世界会議)
(1) 朝日新聞平成20年5月5日付朝刊千葉版
「9条世界会議
2008年05月05日
「世界は、9条をえらび始めた」を合言葉に国内外から平和運動に取り組む人々が集まった。4日、千葉市の幕張メッセで始まった「9条世界会議」。定員を超える約1万5千人が訪れ、3千人が会場からあふれた。「予想以上。長期化するイラク戦争など世界情勢の変化で憲法9条への関心が高まっているのでは」という。5日は午前10時から9条をどう生かすかを分科会で話し合う。
第一部のテーマは「世界の希望としての9条」。北アイルランド紛争の平和的解決に尽くしたノーベル平和賞受賞者マイレッド・マグワイアさんと、米国・ハーグ平和アピール代表のコーラ・ワイスさんが基調講演した。ワイスさんは「教育や医療費などに使われるべき予算が、軍事費に向けられないようにするために9条は役立つ」と訴えた。
マグワイアさんは記者会見で、「暴力」を公共の場所での喫煙に例え、キャンペーン(運動)でなくせる事例として紹介、「暴力は健康に悪い」ということを広めるため、「例えば、非暴力や非戦を呼びかける広告をバスや電車の車中に下げてみては」などと提案。「市民一人ひとりができる等身大の活動をやっていきましょう」と呼びかけた。ブース会場では、各地の市民団体121グループが写真やキルトなど憲法9条を考える展示を披露した。
5日の分科会のテーマは「世界の紛争と非暴力」「アジアのなかの9条」「平和を創る女性パワー」「環境と平和をつなぐ」「核時代と9条」「9条の危機と未来」。」
(2) 東京新聞平成20年5月5日付朝刊23面
「『9条で命守られた』 9条世界会議 高遠さん語る 千葉で開幕
2008年5月5日 朝刊
世界各地で紛争が絶えない中、戦争放棄をうたった日本国憲法九条の意義を再確認する「9条世界会議」が四日、千葉市の幕張メッセで始まり、海外の参加者も含め約一万五千人(主催者発表)が会場を埋めた。
イラク支援ボランティアの高遠菜穂子さんは、武装勢力に拘束された経験を基に発言。「(自衛隊のイラク派遣で)日本が九条を突破したことで人質にされた。殺されなかったのは、私たちがイラクで丸腰で対話を続けてきたと分かったから。九条(の精神)を実践し、九条で命を守られた」と振り返った。
作家の雨宮処凛さんは「貧困で生存権を脅かされた人が『希望は戦争』と言う状況は、貧困層が戦争に駆り出される米国と近いものがある。軍事費を削って人が生きるために使うべきだ」と話した。
「人類の敵は貧困、病気、無学、人権侵害、テロ、温暖化。戦争ではなくせない。むしろひどくしている」と訴えたのは、米国の平和運動家コーラ・ワイスさん。元日弁連会長の土屋公献さんは「立派な軍隊を持ちつつ九条を世界に広めようとはおこがましいが、矛盾を打破して堂々と呼び掛けるべきだ」。
連合国軍総司令部(GHQ)で憲法草案を執筆した米国のベアテ・シロタ・ゴードンさんは「押し付けというが、自分より良いものは押し付けない。日本の憲法は米国より素晴らしい」と日本語で演説し、拍手を浴びた。
会議は作家井上ひさしさん、国際政治学者の武者小路公秀さん、歌手の加藤登紀子さんら各界の著名人が呼び掛け人となって催した。五日は分科会、六日は総会を開く。」
(3) 朝日新聞平成20年5月5日付朝刊
「「9条世界会議」開幕 市民続々、約3千人会場に入れず
2008年05月04日19時13分
作家の井上ひさしさんらが呼びかけ人となった「9条世界会議」が4日、千葉市の幕張メッセで始まった。憲法9条の意義や核兵器撤廃などについて議論する。9条を守ろうという趣旨に賛同する市民らが主催者の予想を超えて各地から集まり、主催者によると、3千人以上が会場に入りきれない事態になった。
この日は、9条にエールを送る海外ゲストの発言が相次いだ。76年にノーベル平和賞を受賞した北アイルランドのマイレッド・マグワイアさんは「9条を放棄しようとする動きが日本にあることを憂慮している」と述べた。
約1万2千人が入れる会場からあふれた人たちは近くの広場で、講演を終えたアメリカの平和活動家コーラ・ワイスさんらを囲んで、集会を開いた。バス2台で福島県郡山市から来た星光行さん(57)は「会場に入れなかったのは残念だが、ゴールデンウイークのさなかに9条のためにこれだけ人が集まったことに感動した」と話していた。
会議は5日に分科会などを開き、6日に閉会する。」
まさか「9条世界会議」の初日に、海外の参加者も含め約1万5千人(主催者発表)も参加するとは思いませんでした。しかも、そのうち「3千人以上が会場に入りきれない事態」になったのですから、参加者も予想外だったようです。
改憲の旗振り役をつとめてきた読売新聞の調査では今年、93年以降の構図が逆転し、改憲反対が賛成を上回り、朝日新聞の調査でも、9条については改正賛成が23%に対して、反対は3倍近い66%でした(朝日新聞)。このように、改憲を行う意識が減退し、むしろ現行9条の「戦争放棄」の理念を維持しようという意識が増しています。 「9条世界会議」が大規模集会になったことは、この世論調査が正しいものであったことを物語っています。

