FC2ブログ
Because It's There
主に社会問題について法律的に考えてみる。など。
04« 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 12. 13. 14. 15. 16. 17. 18. 19. 20. 21. 22. 23. 24. 25. 26. 27. 28. 29. 30. 31.»06
スポンサーサイト 
--/--/-- [--] --:--:-- » E d i t
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告 *  TB: --  *  CM: --  * top △ 
2010/01/15 [Fri] 03:04:22 » E d i t
性同一性障害で女性から男性に戸籍上の性別を変えた夫が、第三者の精子を使って妻との間に人工授精でもうけた子を法務省が「嫡出子」と認めなかった問題をめぐり、千葉景子法相が1月12日の閣議後会見で、「これ(性同一性障害のケース)だけダメというのは、差別というか無理がある」として、「早急に改善に取り組みたい」と述べ、法務省の見解を見直す方針を表明しました。これにより、「嫡出子」として認める方向で検討されることになったのです。

この性同一性障害者の親子関係を巡る問題について、最も詳しい記事を掲載している朝日新聞が、1月14日付社説として掲載していましたので、紹介したいと思います。



1.朝日新聞平成22年1月14日付(木)「社説」

性同一性障害―千葉法相の妥当な判断

 結婚している男女が、第三者の精子を使って人工授精で子をもうけたら一般的には嫡出子だが、性同一性障害のため性を変えた夫と妻の場合は非嫡出子とする。こうした法務省の認定に、兵庫県宍粟(しそう)市に住む夫と妻は納得がいかなかった。

 夫妻の強い思いを知った千葉景子法相は、現行の扱いを改善し、そうした子を夫妻の嫡出子として認める方向で検討することを表明した。

 法相の判断を高く評価したい。

 心と体の性が一致しない性同一性障害の人たちが、望む性別を社会的に選べるようにと2004年、性同一性障害特例法が施行された。

 夫は手術を受け、特例法に基づいて戸籍上も男性となった。妻と法律上の婚姻関係を結んだ。

 だが、第三者から精子提供を受けて妻が人工授精で産んだ子を、嫡出子として届けようとして待ったがかかった。夫がもとは女性なので、「遺伝的に父子関係がないのは明らか」として法務省が認めなかった。同様の例が特例法施行以来、5件あるという。

 法律上の婚姻関係にある男女を父母として生まれた子を嫡出子と呼ぶ。その例外とされたわけだ。

 第三者の精子を使い人工授精で子をもうける夫妻は年100件以上。無精子症など夫側が原因の不妊症の治療として日本では60年前から行われ、1万人以上の子が生まれたという。

 夫婦の間にできたこれらの子は通常、嫡出子として出生届が受け付けられている。

 特例法は、性を変更した後は新たな性別で民法の適用を受けるとしている。親子関係について差別を受けるのは不合理だ。法相もそう判断したのだろう。

 障壁を乗り越えて心と社会的性別を一致させ、結婚した夫と妻が子どもを持ちたいと思うのは自然だ。性同一性障害で戸籍上の性を変えた男女は1400人以上いる。

 同じ障害に悩む人はさらに多い。これからも宍粟市の事例のような夫婦は増えるだろう。

 千葉法相が示した見直しの実現には運用の変更、法改正などいくつか方策があろう。早急に詰め、他の5例についても調査し、救済してほしい。

 法務省が性同一性障害の夫を別扱いしようとしたのは、民法が子どもは生来の男女の自然生殖で生まれるものだという前提に立っているからだ。だが現実には、民法が制定された明治には想定されなかったような状況で生まれる子が増えている。

 医療の進歩によって、これまで子どもを持てなかったようなカップルが子どもを持てる時代になった。それによりそった法律の考え方がもっと論じられていい。」



-- 続きを読む --

テーマ:法律全般 - ジャンル:政治・経済

2010/01/14 [Thu] 02:01:27 » E d i t
性同一性障害により女性から男性に戸籍上の性別を変えた夫が、妻との間で第三者からの精子提供による人工授精でもうけた子の法的な地位について、法務省(の役人)は「嫡出子と認めない」とする見解を示していました(「性別変えた夫の子、妻出産でも婚外子扱い(法務省見解)~性同一性障害者に対する不当な差別(憲法14条違反)ではないのか?」(2010/01/12 [Tue] 01:40:56)参照)。

要するに、法務省の見解は、「同じ人工授精で生まれ、同様に遺伝的な父子関係がない子であっても、父親が生来の男性の場合と性別変更で男性になった場合とを分けて対応する立場を明らかにしたもの」でした(朝日新聞)。

ところが、その法務省の見解が一転して見直されることになりました。千葉景子法相が1月12日の閣議後会見で、「これ(性同一性障害のケース)だけダメというのは、差別というか無理がある」と述べて、法務省の見解を見直す方針を表明したためです。



1.報道記事を幾つか。

(1) 朝日新聞平成22年1月13日付朝刊1面(14版)

性同一性障害夫婦の「非嫡出子」 法相、認定見直す方針
2010年1月12日17時44分

 性同一性障害で女性から男性に戸籍上の性別を変えた夫が、第三者の精子を使って妻との間に人工授精でもうけた子を法務省が「嫡出子」と認めなかった問題をめぐり、千葉景子法相は12日の閣議後会見で、「早急に改善に取り組みたい」と述べ、現行の取り扱いを見直す方針を表明した。「嫡出子」として認める方向で検討を進める。

 性同一性障害者が自ら望む性別を選べるようにした特例法が2004年に施行され、こうした事例が起きるようになった。法務省は全国で6件把握しているが、「生物学的な父子関係がないのは明らか」として、嫡出子と認めない見解を示してきた。

 しかし、千葉法相は「これ(性同一性障害のケース)だけダメというのは、差別というか無理がある」と述べ、「法の下の平等に反する」という見解を表明。6例についても経緯を改めて確認する意向を示した。ただ、見直しのあり方には、「運用でできるか、解釈で可能か、(民法改正など)法的措置が必要なのかも含めて検討しないといけない」と話した。

 この問題をめぐっては、兵庫県宍粟市の自営業者が戸籍を女から男に変更後、女性と結婚。実弟から精子の提供を受け、昨年11月、妻が体内受精で男児を出産した。市役所に嫡出子として出生届を出そうとしたが、市は性別変更を理由に受理を保留。法務省の判断を受け、「非嫡出子」として届け出るよう通知していた。(延与光貞)」



(2) 東京新聞平成22年1月13日付朝刊24面

性別変更者の子 非嫡出扱い救済 法相が検討指示
2010年1月12日 19時27分

 性同一性障害で戸籍の性別を女性から変えた兵庫県の男性(27)が、弟の精子の提供を受け非配偶者間人工授精(AID)で妻(28)との間に生まれた子どもを「非嫡出子(婚外子)」とされた問題で、千葉景子法相は12日、救済策の検討を省内に指示したことを明らかにした。

 生来の男性と女性の夫婦間にAIDで生まれた子どもの場合は、生物学的な父子関係がなくても、その事実が分からないため、夫の子どもと推定され、「嫡出子」として出生届を受理されているのが実態。

 この日の閣議後の記者会見で千葉法相は「(生物学的な父子関係がなくても)認めているケースがあるのに、片方だけ駄目とするのは、差別というか無理がある。改善すべき点がある」と表明。その上で「法整備が必要なのか運用で可能なのか、できるだけ早く議論を進めたい」と語った。(共同)」



千葉景子法相の記者会見のポイントとして、2点挙げることができます。(なお、省庁の見解に反する方向であっても、すぐに対応ができるのは民主党だからであり、今回の法相の対応は政権交代の恩恵であるといえます。)

 イ 1点目としては、「同じ非配偶者間人工授精(AID)で生まれ、同様に遺伝的な父子関係がない子であっても、父親が生来の男性の場合は嫡出親子関係を認めるが、性別変更で男性になった場合は認めないという両者を分けて対応する立場」(法務省の見解)は、憲法14条の「法の下の平等に反する」という趣旨の見解を表明したことです。

人工授精

 無精子症、乏精子症など不妊の原因が男性側にある場合の治療法である。精子を直接女性の子宮に送り込んで妊娠をさせる。夫の精子による配偶者間人工授精(Artificial Insemination by Husband、AIH)と、第三者の精子による非配偶者間人工授精(Artificial Insemination by Donor、AID)とがある。非配偶者間の人工授精では、父親と子どもの間には遺伝的な関係がないから、その倫理性が問題となる。日本では、1949年に慶應義塾大学病院ではじめて実施され、ここだけがその実施を公表してきたが、最近までの約50年間にほぼ1万人が誕生している。日本産婦人科学会は、1996年に会告をだして公認している。」(金城清子『ジェンダーの法律学(第2版)』(有斐閣、2007年)141頁)


この説明から分かるように、人工授精、特に非配偶者間の人工授精は、男性側に生殖能力が欠如している場合、夫婦間の自然生殖では妊娠に至らない場合に行われるわけです。

法務省は、性同一性障害により女性から男性に戸籍を変更した夫の場合は、「生物学上は同性同士で、子をもうけることは不可能」「民法は夫婦間の自然生殖を前提にしている」とした理由で、言い換えれば、男性側に生殖能力がないという理由で、嫡出親子関係を認めませんでした。

しかし、非配偶者間の人工授精を行うケースは、父親が生来の男性の場合であろうとも、性別変更で男性になった場合であろうとも、いずれも男性側に生殖能力が欠如している場合であることには変わりがないのです。それなのに、両者の場合に子供の地位ついて法的扱いを変えるのは、合理的な理由に欠けています。

父親が生来の男性の場合は、非配偶者間人工授精(AID)が夫の同意を得てなされた場合は、母とその夫の嫡出子と推定される(民法772条の推定が及ぶ嫡出子)のであって、しかも、同意した夫の否認権(=自分の子供ではないという主張)を排除する考えが一般的なのです(高橋朋子=床谷文雄=棚村政行『民法7 親族・相続(第2版)』(有斐閣、2007年)139頁、手嶋豊『医事法入門(第2版)』(有斐閣、2008年)。そして、裁判例もこうした学説と同様の立場を採っているのです(裁判例として東京高決平10・9・16家月51巻3号165頁・判例タイムズ1014号245頁)。ですから、性別変更で男性になった場合での非配偶者間人工授精(AID)をなしたケースも、父親が生来の男性の場合と同じ法的取り扱いをするべきです。

千葉景子法相が、憲法14条の「法の下の平等に反する」という趣旨の見解を表明したことは、妥当なものといえます。


 ロ 2点目としては、嫡出子として扱うとしても、その見直しのあり方には、「運用でできるか、解釈で可能か、(民法改正など)法的措置が必要なのか」についても検討するとしたことです。

この点については、当事者である、全国の性同一性障害者で構成する団体の意見を尊重するべきです。今回のケースが大きく報道されたことから、意見表明を行っています。そこで、その記事を引用しておきます。



-- 続きを読む --

テーマ:法律全般 - ジャンル:政治・経済

2010/01/12 [Tue] 01:40:56 » E d i t
心と体の性が一致しない性同一性障害により女性から男性に戸籍を変更した夫が、第三者から精子提供を受け妻との間に人工授精でもうけた子について、法務省が「嫡出子として認めない」とする見解を示していたことが明らかになりました。「嫡出子として認めない」のは、夫が元女性で生物学的に父子関係が成り立たないとの理由です。

法務省によると、元女性の夫が、妻との間に人工授精で子をもうけた事例は全国で少なくとも6件あるとのことですが、非嫡出子として扱うよう指示したため、「兵庫県宍粟市において、女性から性別を変更した自営業の夫(27)が実弟の精子を妻に提供してもらい、妻は人工授精で昨年11月に出産した」事例につき、嫡出子届は不受理となるわけです。法務省の見解に沿った場合、性別変更した父親が子との間で嫡出子と同等の法的効力のある親子関係を結ぶには、養子縁組を行う必要があります。

夫が生まれつき男性の場合、正式な婚姻関係があれば、同じ人工授精でも嫡出子として認められていることから、性同一性障害者に対する不当な差別(憲法14条の平等原則違反)であるとして、問題視する声が出ています。



1.報道記事を幾つか。

(1) 朝日新聞平成22年1月10日付朝刊1面(14版)

性別変え夫に、人工授精で妻出産  国、嫡出子と認めず
2010年1月10日3時1分
  
 心と体の性別が一致しない性同一性障害との診断を受け、女性から男性に戸籍上の性別を変更した夫が、第三者の精子を使って妻との間に人工授精でもうけた子を、法務省は「嫡出子(ちゃくしゅつし)とは認めない」との見解を示した。全国で6件の出産例を把握、非嫡出子(婚外子)として届けるよう指示した。だが、同じ人工授精でも夫が生来の男性の場合は嫡出子として受理しており、「法の下の平等に反する」との指摘が出ている。(上原賢子)

 性同一性障害者が自ら望む性別を選べるよう、2004年に施行された特例法に基づき、兵庫県宍粟(しそう)市在住の自営業Aさん(27)が戸籍を「女」から「男」に変更したのは08年3月。翌月、妻(28)と結婚した。男性としての生殖能力はないため実弟から精子提供を受け、妻が体内受精で昨年11月に男児を出産した。

 市役所に「嫡出子」として出生届を出そうとしたところ、宍粟市はAさんの性別変更を理由に受理を保留。法務省の判断を受け、今月12日までに「非嫡出子」と書き改めて届け出るよう、昨年末にAさんに通知した。嫡出子は、法律上の婚姻関係にある夫婦から生まれた子。非嫡出子となれば、戸籍に父親の名は記載されない。

 嫡出子と認めない理由について、法務省は朝日新聞の取材に「特例法は生物学的な性まで変更するものではなく、生物学的な親子関係の形成まで想定していない」と文書で回答。出生届を出す窓口で、戸籍から元は女性だったとわかるため、「遺伝的な父子関係がないのは明らか」(民事1課)と説明している。

 他人の精子を使う非配偶者間人工授精(AID)は、性同一性障害者に限らず夫の生殖能力に問題がある場合の不妊治療として戦後広く行われてきた。1万人以上の子が生まれたとされ、遺伝的な父子関係がないにもかかわらず、一般的には嫡出子として受理されている。「窓口ではAIDの子かどうか、わからないため」(宍粟市)だ。

 法務省の見解は、同じ人工授精で生まれ、同様に遺伝的な父子関係がない子であっても、父親が生来の男性の場合と性別変更で男性になった場合とを分けて対応する立場を明らかにしたものだ。

 ただ、民法には夫が生物学的な男性であるべきだとの規定はない。特例法は性別変更後は新たな性別で民法の適用を受ける(4条)と規定している。Aさんは「男として結婚は認めたのに、父親としては認めないのはおかしい」と反発。市の求めには応じず、市が非嫡出子として手続きを進めた場合は、神戸家裁に不服申し立てをする。

■性同一性障害を差別

 性同一性障害学会理事長の大島俊之・九州国際大大学院法学研究科長(民法)は「生まれた子と遺伝的な父子関係がない点では、Aさんも、人工授精によって子をもうけたほかの多くの夫も同じ。過去に女だったという事実をもとに嫡出子と認めないのは道理が通らない。性同一性障害者への差別だ」と話している。」

(*「過去に女だったという事実をもとに嫡出子と認めないのは道理が通らない。」との一文は、13版にはあるが14版にはないので追加した。)



「【嫡出子】 法律上の婚姻関係にある男女を父母として生まれた子。戸籍には夫婦の子として記載される。法律上の婚姻関係にない男女から生まれた子が非嫡出子(婚外子)で、原則として母親の戸籍に入り、父親の名は記載されない。将来、法定相続分が嫡出子の半分となるなど不利益を被る可能性がある。」



(2) 朝日新聞平成22年1月10日付朝刊34面(14版)

父親になれない「なぜ」 嫡出子と認めず 夫婦の決断 国の壁

 「父親」になれた喜びに胸を躍らせていた。性同一性障害を乗り越え、新たに男性となったAさん=兵庫県宍粟市=にとって、人工授精は妻とも十分に話し合った末の結論だった。だが、生まれた子は法務省に嫡出子としての届けを拒まれた。「父親になれないのはなぜ?」と悔しさを募らせている。(上原賢子)

 Aさんが女性だったことは戸籍を見ればわかる。昨年11月、市役所で出生届を出す際に押し問答になったのはそのためだ。嫡出子は法律上の婚姻関係にある夫婦から生まれた子、それ以外が非嫡出子――。「それなら僕らは結婚しているから嫡出子や」と詰め寄ったが、かなわなかった。

 非嫡出子では国に父親と認められないことになる。嫡出子にこだわるのは、長く性同一性障害に苦しんだ末に手に入れた「男であること」も否定されたと感じるからだ。

 2004年に性同一性障害との診断を受けた。妻とはその2年後、パーティーで知り合った。自分を男と思い込んでいた妻に「元は女性やった」と打ち明け、交際を申し込むまで1年かかった。妻は驚いたが、誠実な人柄にひかれた。

 2年前に結婚。「子どもがほしい」と言い出したのはAさんだ。男性ホルモンの投与や肝機能障害や心血管疾患のリスクを高めるとも聞いた。「将来、僕が先に死んで妻が一人になっても、支えてくれる子を残しておきたい」。実弟に精子を提供してもらおう、と妻に相談した。妻は半年以上迷った。「夫に残りの人生、生きていてよかったと感じてほしい」と心を決めた。

 11月4日午後、体重2310グラムの元気な男の子が誕生。寝顔をみて「おれの息子だ」と確信した。

 いつか性同一性障害のことを話してきかせるつもりだ。「血のつながりでは親子ではないけれど、父親はおれなんだよ」と伝えたい。 

■《解説》 法整備、現実に追いつかず

 性同一性障害を抱える人が自ら望む性別で社会生活が送れるよう、制度化したのが特例法だった。昨年3月までに戸籍上の性別を変更した男女は1468人。性同一性障害者はこの何倍もいるとみられる。だが今回、法務省が示した見解は、法に基づいて性別変更した人をなお「別扱い」にするもので、今後各地で争われる可能性が高い。

 民法は「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」(772条)と規定。法的に結婚した夫婦の間に生まれた子を嫡出子と定義している。夫以外から精子の提供を受ける非配偶者間人工授精(AID)でも、夫の同意があれば嫡出子として扱われてきたのは、そのためだ。

 日本産科婦人科学会の倫理委員会は、特例法により女性から男性に性別変更した人と妻がAIDを受けることについて「ガイドラインに抵触しない」との見方を07年に示した。学会理事長の吉村泰典・慶応大医学部教授も「法律婚であることがAIDの要件。今回のような夫婦に実施するのを否定する理由はない」と明言。ことは法の受け皿の問題であるのは明らかだ。

 早稲田大学の棚村政行教授(家族法)は「民法は夫について生来の男性とは規定しておらず、特例法でも特にルールを設けていないのだから性同一性障害者を別扱いする理由はない」と指摘。

 一方、学習院大学の野村豊弘教授(民法)は「民法は夫婦間の自然生殖を前提としている。今回のケースは、生来の男性が夫である場合の人工授精と違って夫の子ではあり得ないということが客観的に明らかなので、民法772条の嫡出子とみる『推定』は働かず、法務省のように判断するしかない」と話す。

 だが、両氏とも「第三者の精子や卵子を使って生まれた子と親の関係を決める法整備が現実に追いついていないことが今回の問題を招いた一因だ」という点では一致している。まずは特例法で子の法的な位置づけを明確にするなど、法整備を急ぐべきだ。」



 イ 民法は「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」(772条)と規定しています。

(嫡出の推定)
民法第772条  妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2  婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。


この民法772条の規定により、法的に結婚した夫婦の間に生まれた子は嫡出子と推定されることになります。その結果、夫以外から精子の提供を受ける非配偶者間人工授精(AID)でも、法的な婚姻関係があれば、(夫の同意があれば)父子関係は実子と扱うのが戸籍及び学説・判例上の運用となっています(高橋朋子=床谷文雄=棚村政行『民法7 親族・相続(第2版)』(有斐閣、2007年)139頁以下)。要するに、遺伝子上のつながりのない子も実子になっているわけです。

性同一性障害により性別を変更した者(元男性、元女性)であっても、民法772条にいう「夫」又は「妻」なのですから、法的に結婚した夫婦の間で生まれた子である以上、非配偶者間人工授精(AID)でも、民法772条により嫡出子として推定するのが基本であるはずなのです。


 ロ ところが、法務省は、この民法772条の基本原則を捻じ曲げる法解釈を行うわけです。その捻じ曲げのポイントは2点あります。

 <1>1点目のポイントは、「生物学的に親子関係がないことが明らか」(民事1課)・「民法は夫婦間の自然生殖を前提としている」(学習院大学の野村豊弘教授)という理屈、言い換えれば「自然の摂理ではありえない」「(性同一性障害者の子どもは)民法の想定外」という理屈を、民法規定に勝手に付け加えたことです。

しかし、「自然の摂理ではありえない」「(性同一性障害者の子どもは)民法の想定外」という点は、生殖補助医療すべてにおいて当てはまるものであって、なぜ、この場合のみ区別するのか根拠がありません。もし生殖補助医療に関する問題はすべて民法の想定外とするならば、すべて立法問題となるはずですが、既に述べたように非配偶者間人工授精(AID)の場合には、依頼夫婦と出生した子との嫡出親子関係を認めていることと、整合性に欠けています(吉田邦彦「死後凍結保存精子による体外受精子の亡父への死後認知請求(法律上の父子関係形成)の可否(最二判18・9・4)」判例評論604号7頁・判例時報2036号(平成21年6月1日号)153頁)参照)。

また、「夫婦間の自然生殖を前提」とか「自然の摂理」云々という理屈は、いわば「性交至高主義」という意味といえます。しかし、「現実には必ずしも崇高な意思に支配されているとは限られない性交に親子関係形成上の線引きを認めるのは何故なのかが、よくわからない」のです(前掲判例評論604号7頁・判例時報2036号(平成21年6月1日号)153頁参照)。

 <2>2点目のポイントは、性同一性障害特例法に基づいて性別変更した人であっても、なお法務省は「別扱い」にするとしたわけです。要するに、性同一性障害特例法上では、性別変更した人を「別扱い」していないのに、法務省は、例えば、戸籍上男性となっていても「女性」扱いするわけで、性同一性障害特例法を変容させた解釈をしたわけです。

しかし、性同一性障害特例法に基づいて性別変更した人は、その特例法に基づいてすでに元の性は失っているのに、「元の性」のまま扱いをすることは、いったい現在と元のどちらの性を有しているというのでしょうか。法務省は、特例法に基づいて性別変更した人を、どちらの性でもない、まるでコウモリ又はキメラ(=ギリシャ神話で、ライオンの頭・ヤギの胴・ヘビの尾をもち口から火を吐く怪獣)扱いしているのと同然であって、不当な扱いであるように思います。当事者たるAさんは「男として結婚は認めたのに、父親としては認めないのはおかしい」(朝日新聞)と反発していますが、当然の反応といえます。

このように、国自ら、性同一性障害者をいつまでも元の性から解放させない扱いをすることは、性同一性障害者にいつまでも元の性に苦しんだ悩みを強制し続け、また、性同一性障害特例法性同一性障害者に対する世間の差別を助長するものであって、妥当性を欠いています。


 ロ 性同一性障害特例法4条は、「性別の取扱いの変更の審判を受けた者は、民法(明治二十九年法律第八十九号)その他の法令の規定の適用については、法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別に変わったものとみなす」と規定しています。

そうすると、法律で例外規定を設けない限り、変更された性別の者として「みなす」のですから、性別変更後も「別扱い」することは違法であり、また、現在、民法772条の適用を排除する規定がない以上、民法772条の適用を排除する法解釈は不当であるというべきです。

このように、民法772条の基本原則を捻じ曲げる法解釈には、何らの合理性な理由がありません。法務省は、合理的な理由がないのに、同じ人工授精でも夫が生来の男性の場合は嫡出子として受理していることと差別的扱いし、性同一性障害者に対する差別を助長するものであるので、「法の下の平等に反する」(憲法14条)ものとして、違憲的な扱いであるというべきです。



-- 続きを読む --

テーマ:法律全般 - ジャンル:政治・経済

2008/02/21 [Thu] 23:25:36 » E d i t
全国21の不妊治療施設でつくる日本生殖補助医療標準化機関(JISART)は20日までに、第三者からの提供卵子による体外受精を実施する方針を固めました。卵子提供に関する明確な規制はないため、独自の指針をつくり、それに基づいて進め、3月1日の理事会で正式決定します。



1.まず、報道記事を幾つか。

(1) 読売新聞平成20年2月20日付朝刊1面

提供卵子による体外受精、不妊治療の団体 実施へ…独自に指針

 全国21の不妊治療施設で作る「日本生殖補助医療標準化機関(JISART)」は19日、友人や姉妹から提供された卵子を使う体外受精を独自のルールに基づいて進める方針を固めた。すでに同機関の倫理委員会で承認されている2例をまず実施し、その後も独自の指針を策定して実施していく。3月1日の理事会で正式決定する。

 卵子提供による不妊治療は、卵巣を失ったり機能が低下した女性でも妊娠が可能になるため、海外でも米国を中心に広く行われており、多数の日本人が海外で卵子の提供を受けている。国内では、長野県の根津八紘医師が110例以上の実施を公表しているが、法整備の遅れなどもあって、一般的にはなっていない。

 同機関は昨年6月、日本産科婦人科学会や厚生労働省に対し、卵子提供による不妊治療の実施を承認するよう申し入れた。これに対し同学会は、生殖補助医療のルール作りを昨年から検討している日本学術会議の結論が出るまでは実施を見送るよう要請し、同機関もそれを了承した。

 ところが、学術会議の検討は代理出産の是非が中心で、それより希望患者数が多い卵子提供についてはほとんど審議されなかった。19日に提示された報告書案にも盛り込まれなかったため、「『ノー』というサインはない」(高橋克彦理事長)と独自に実施する方針を固めた。2例は、いずれも卵子提供以外に妊娠の可能性がない夫婦。それぞれ子を持つ友人と姉妹から卵子提供を受ける。

 JISARTの方針について、同学会の星合昊(ひろし)倫理委員長は「第三者の卵子提供を明確に禁止しているわけではない」とし、「体外受精は夫婦間に限る」とする会告の違反には当たらないとの見解を示している。


[解説]ルール作り早急に必要

 JISARTが、独自の基準で妻以外の卵子を使った体外受精を進める方針を固めたのは、不妊患者の要望があるなかで、国や学会によるルール作りをこれ以上待てないという意思表示だ。

 卵子提供については、厚生労働省生殖補助医療部会が2003年、匿名の第三者に限り卵子提供を認める報告書をまとめた。それから4年以上たつが、法制化に至っていない。日本学術会議の検討委でも、委員の吉村泰典・日本産科婦人科学会理事長らから卵子提供の是非を審議するよう再三の要望があったが、結局ほとんど審議されなかった。

 議論を呼びそうなのは、JISARTが実施を検討しているケースは姉妹や友人からの卵子提供で、厚労省報告書が認めた匿名の第三者ではない点だ。だが、JISARTは「無報酬で匿名の提供者を探すのは非現実的」(高橋克彦理事長)と判断し、独自の基準で進める方針だ。

 生殖補助医療技術は日進月歩だ。国や学会の動きが鈍ければ、患者の求めに応じて医療側が見切り発車し、社会が混乱する可能性も高まる。規制のあり方を早急に検討し、迅速に実行していくことが必要だ。(科学部 木村達矢)

(2008年2月20日 読売新聞)」




(2) 東京新聞平成20年2月20日付夕刊10面

提供卵子の体外受精実施へ 不妊治療で独自指針 民間団体

 全国21の不妊治療施設でつくる日本生殖補助医療標準化機関(JISART)は20日までに、第三者からの提供卵子による体外受精を実施する方針を固めた。卵子提供に関する明確な規制はないため、独自の指針をつくり、それに基づいて進める。3月1日の理事会で正式決定する。

 卵子提供については厚生労働省の部会が2003年、心理的圧迫や家族関係の複雑化を避けるため、匿名の第三者に限って容認する見解を出しているが、法律や指針などのルール化には至っていない。

 JISARTは昨年、友人姉妹の卵子を使う2件の体外受精を倫理委員会で承認し、日本産科婦人科学会などに実施を申請。同学会から、生殖補助医療について審議中の日本学術会議の結論を待つよう求められていた。

 しかし、同会議の検討は代理出産が中心で、卵子提供についてはほとんど審議されず、ほぼまとまった報告書にも盛り込まれなかった。このため、まず倫理委が承認した2件について実施し、その後は同委の審議内容を踏まえて作成する指針に沿って行うとしている。」




-- 続きを読む --

テーマ:政治・時事問題 - ジャンル:政治・経済

2008/01/24 [Thu] 17:51:33 » E d i t
近時、日本学術会議「生殖補助医療の在り方検討委員会」に対して、「代理出産一律禁止、代理母以外の関係者すべて処罰」とする学術会議報告書素案が提出され、検討されたとの報道がありました(素案の検討については、「「代理出産一律禁止、代理母以外の関係者すべて処罰」の学術会議報告書素案提示(上)~委員会では賛否両論で結論持ち越し」「「代理出産一律禁止、代理母以外の関係者すべて処罰」の学術会議報告書素案提示(下)~憲法に対する意識、日本人の生き方が問われている問題である」をご覧ください)。


1.その素案では子供の法的地位の問題、生まれてきた子供の出自を知る権利、第三者の配偶子(卵子又は精子)の提供については触れておらず、検討委員会の作業部会は結論を出すことを諦めてしまったのです。

「生まれた子が出自を知る権利の確保や、第三者から卵子などの提供を受ける不妊治療の是非についても検討課題だったが、「十分な検討時間がない」として、結論を出さないことにした。」(毎日新聞平成20年1月19日付朝刊30面)



第三者の生殖により生まれた子の法的地位は、日本法では明文規定がなく、しかも母子関係を決定する規定さえもないため、かなり不安定な状況であり、一刻の猶予もないのです。子の法的身分関係が不安定となると、養育監護を受ける権利が保障されないなど「子の保護」が危うくなるのですから、「子の保護」を最優先とする(比較法的にも)親子法制の基本原則に著しく反している状態なのです。

ですから、なぜ作業部会は、子供の出自を知る権利や、第三者の配偶子(卵子又は精子)の提供につき、なぜ結論を出さなかったのか疑問に感じたと思います。では、学術会議報告書素案が出自を知る権利や配偶子提供の是非につき沈黙したのはなぜでしょうか? 

検討委員会作業部会の委員に見識がなかったことが最大の理由でしょうが、最近の海外事情を知ったことで、結論が出せなくなってしまったのではないかと推測しています。そこで、海外における配偶子提供の現状に関して報告した論文(石原 理・他『卵子提供,代理懐胎(IVFサロガシー)の実態と展望』 臨床婦人科産科2007年12月号(61巻12号)1496頁)を紹介しつつ、説明していきたいと思います。


臨床婦人科産科2007年12月号(61巻12号)の論文を紹介する前に。

ネットでの議論を見ると、古い海外データを使い、1980年代のフェミニストグループやカトリック教会の主張をそのまま受け売りにして、代理出産などの生殖補助医療を巡る問題に関して強行に反対する方が多いようです。誰がその主張をしているのか、なぜ探らないのでしょうか? 日本ではこんなにもフェミニズム――しかも1980年代半ばの――を肯定する意識が増えて、いつの間にカトリック教会(バチカン)の信者が増大したのだろうかと皮肉りたくなります。

そして、代理出産などの生殖補助医療を巡る問題は、どのような立法を行うかの段階に入っているのです(立法論)から、関連する法分野(憲法、民法、刑法、国際私法、国際民事訴訟法)に目を配りつつ法律的な議論を行うことが不可欠なのです。しかし、代理出産などの生殖補助医療を巡る問題に関して、幅広い法分野の問題であることを意識しつつ法律的な議論をして、否定的に論じている方は皆無です。少なくとも、もっと法律論であることを意識して論じるべきではないでしょうか。「向井亜紀さんが気に食わないから代理出産に反対」だといった趣旨のことを述べている方もいますが、あまりにも情けないと思うのです。



-- 続きを読む --

テーマ:法律全般 - ジャンル:政治・経済

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。