「▼船場吉兆の食品偽装問題 2007年10月、福岡市の店舗でプリンなどの消費・賞味期限のラベルを付け替えていたことが発覚。その後、農林水産省などの調査で本店で販売した牛肉や鶏肉を使った商品も原材料表示を偽装していたことが判明した。船場吉兆は全4店舗の休業に追い込まれ、資金繰りが悪化。08年1月に民事再生法の適用を申請した。湯木正徳前社長の妻、佐知子氏(71)が社長に就任し、本店と博多店(福岡市)の営業を再開している。」(日経新聞平成20年5月3日付朝刊35面)
食品偽装問題は、売れなかった商品の「使い回し」ですが、おなじ使い回しでも「残飯」を使い回すとなれば、不衛生の一言であり、その重大さは段違いに異なります。
1.報道記事を幾つか。
(1) 朝日新聞平成20年5月3日付朝刊31面
「船場吉兆、食べ残し料理を別の客に
2008年05月03日
牛肉の産地偽装や総菜の不正表示が相次いで発覚した高級料亭「船場吉兆」(大阪市中央区)=民事再生手続き中=は2日、昨年11月の営業休止前まで、本店の料亭で客の食べ残した食事を別の客に再び出していたことを明らかにした。湯木正徳前社長(74)の指示で、はしをつけていない料理などを「もったいない」として使い回していたという。大阪市保健所は同日、本店に立ち入り調査し、再発防止を指導した。
市保健所によると、使い回していた料理は、アユの塩焼き▽稚鮎(ちあゆ)の素揚げ▽ゴボウをウナギで巻いた「八幡巻き」▽エビと魚のすり身を蒸した「えびきす」▽サーモンの焼き物▽刺し身の添え物――など少なくとも6種類。
料理長の山中啓司取締役や代理人弁護士らによると、客が食べた形跡のない料理を置いておき、食材が足りなくなったときなどに再び加熱するなどして別の客に提供していた。こうした使い回しは2〜3週間に1回の頻度で繰り返されており、調理場のほぼ全員が知っていたという。6〜7年前に正徳前社長から「もったいないから明らかに使えそうなのは使え」と指示を受けたのが始まりで、今年1月の営業再開後はしていないという。
同社は昨年12月、偽装や不正表示問題を受けて農林水産省に改善報告書などを提出したが、使い回しについては触れていなかった。同日夜、店舗前で報道陣の質問に答えた山中取締役は「お客様に不快な思いをさせ、深く深くおわびします」と謝罪した。
厚生労働省によると、食品衛生法は、腐敗などで健康を損なう恐れがある食品の販売を禁じているが、食べ残しの使い回しを禁止する規定はない。同省監視安全課の担当者は「同法では、調理側が料理を使い回す事態をそもそも想定していないため、違法行為ではないが、不適切だ」と話している。
船場吉兆をめぐっては、大阪府警が、同社が九州産牛肉を「但馬牛」と偽ってみそ漬けに加工して販売していたとして、正徳前社長と長男の喜久郎前取締役(45)を不正競争防止法違反容疑で書類送検する方針を固めている。
◇
使い回しはどのように行われたのか――。山中取締役は「(客が)一切手をつけていなかった時に限って再び加熱調理をした。料理人が味見をし、もう一度出すと判断することもあった」と説明した。
こうした実態については「調理場ではほとんど全員が知っていた」といい、「やっちゃいけないことをやっていたという意識があった」と当時を振り返った。正徳前社長の指示で6〜7年前から繰り返すようになったことを認め、「前社長に(やめるよう)忠言をしたことはあったが、どこまで聞き入れてもらったかは分からない」と額の汗をぬぐった。
前社長の妻で女将(おかみ)の佐知子社長は、この日は報道陣の前に姿を見せなかった。社長は使い回しを知っていたのかとの問いに、山中取締役は「分かりかねる」と答えた。」
(2) 日経新聞平成20年5月3日付朝刊35面
「高級料亭「背信」再び
偽装表示で揺れた船場吉兆で再び食の安全を裏切る行為が発覚した。客が食べ残した料理の使い回しを繰り返し、一連の偽装が明らかになった昨秋以降も自ら事実を明かすことはなかった。
「きれいなものはもったいない。再利用できる」。使い回しは湯木正徳前社長の指示で6、7年前から始まった。「調理場のほとんど全員が知っていたが、(正徳前社長の)指示を断ることはできなかった」と料理長の山中啓司取締役。トップの意向に逆らえない社内事情をうかがわせる。
船場吉兆は農林水産省に提出した改善報告書などで、料理の使い回しについて何ら公表していない。同取締役は「やってはいけないことなので恥ずかしく、出せなかった……」と釈明した。
高級料亭で脈々と続いた背信行為に専門家や客からは批判の声も強い。男性客は「まさか使い回しまで。営業再開後はしていないと言われても信じられない」と驚く。
食品の流通に詳しい宮城大大学院の大泉一貫教授(食品流通事業論)は「食の安全を守るため、各省庁などが制度作りを進めているが、現場のモラルがこんなに低くては、行政のチェックも行き届かない」と話す。」
使い回しの実態については「調理場ではほとんど全員が知っていた」というのは、隠して調理することはできないのですから、当然といえば当然なのでしょうが、やはり驚きです。
1.asahi.com(2006年03月01日13時19分)によると、
「『判決短すぎ』井上判事、退官へ 再任希望を撤回
判決文の短さなどが問題となり、10年の任期切れを控えて再任されるかどうかが注目されていた横浜地裁の井上薫判事(51)が2月末、再任希望を自ら撤回していたことがわかった。昨年12月の下級裁判所裁判官指名諮問委員会で『再任は不適当』と答申され、1日の最高裁裁判官会議で審議される予定だった。だが、直前になって自ら希望を撤回したため、審議の対象にならなかった模様だ。4月に任期切れとなり、退官する見通し。
この日の裁判官会議では、諮問委で『不適当』とされた4人のうち、井上判事や同様に自ら希望を撤回した計3人を除く1人について、答申通りに再任しないことを決めた。判事・判事補が任命・再任されなかったのは、記録が残る69年以降、9人目。ほかの183人については、任命・再任されることになった。
最高裁は、プライバシーの観点から、対象判事らの名前や理由は公表していない。 …」
としています(3月1日付夕刊に出ていなかったので、3月2日付朝刊に出るかと思います)。
2.以前、井上判事は、昨年の12月14日に緊急声明を行っていました。その声明を抜粋すると(要旨全文は、「井上判事の緊急声明へのコメント」に出ています)、
「最高裁はなりふり構わず、裁判干渉を拒否した私の再任を拒否して見せしめにしようというのだ。放置すれば裁判官の地位は死に絶え、国民の基本的人権は絵に描いた餅となる。このような違憲かつ理不尽を黙過することはできない。最高裁に対し再任拒否を撤回するよう断固要求する。また、国会に対し弾劾裁判と国政調査権の発動、内閣に対し最高裁の指名抜きの任命などの非常の措置を要請する。」
というものです。
この声明からすると、この段階では再任希望だったはずです。もし万一、最高裁が再任拒否を撤回したとしても、そもそも本人が再任を希望していなければ、再任対象者がいない以上、再任しようがないからです。
(1) なぜ、再任希望を撤回したのかははっきりしませんが、「1日の最高裁裁判官会議で審議される予定だった。だが、直前になって自ら希望を撤回したため、審議の対象にならなかった模様だ」という記事からすると、最高裁裁判官会議の審議対象となることを避けたためと思われます。
そうすると、かなり推測になるのですので不確かになりますが、審議内容次第によっては、退官後弁護士会登録ができないと考えたからと思います。
弁護士法を引用すると、
(登録又は登録換えの請求の進達の拒絶)
第十二条 弁護士会は、弁護士会の秩序若しくは信用を害するおそれがある者又は次に掲げる場合に該当し弁護士の職務を行わせることがその適正を欠くおそれがある者について、資格審査会の議決に基づき、登録又は登録換えの請求の進達を拒絶することができる。
一 心身に故障があるとき。
二 第七条第三号に当たる者が、除名、業務禁止、登録の抹消又は免職の処分を受けた日から三年を経過して請求したとき。
2 登録又は登録換えの請求前一年以内に当該弁護士会の地域内において常時勤務を要する公務員であつた者で、その地域内において弁護士の職務を行わせることが特にその適正を欠くおそれがあるものについてもまた前項と同様とする。
3 弁護士会は、前二項の規定により請求の進達を拒絶する場合には、登録又は登録換えを請求した者に、速やかに、その旨及びその理由を書面により通知しなければならない。
4 弁護士会が登録又は登録換えの請求の進達を求められた後三箇月を経てもなお日本弁護士連合会にその進達をしないときは、その登録又は登録換えの請求をした者は、その登録又は登録換えの請求の進達を拒絶されたものとみなし、行政不服審査法 (昭和三十七年法律第百六十号)による審査請求をすることができる。
この登録拒否事由である12条のうち、1項の「弁護士会の秩序若しくは信用を害するおそれがある者」か、2項の「登録又は登録換えの請求前一年以内に当該弁護士会の地域内において常時勤務を要する公務員であつた者で、その地域内において弁護士の職務を行わせることが特にその適正を欠くおそれがあるもの」について、該当するかが問題となるでしょう。従来からの井上判事の言動をも考慮すると、最高裁判所が厳しい判断をする可能性もありえたのですから、いずれかに該当したかもしれません。個人的には、該当する可能性は低いとは思いますが。
その意味では、最高裁裁判官会議で審議される前に再任希望を撤回した、井上判事の判断は賢明であったと考えます。
(2) しかし、この再任希望撤回に至るまで雑誌「諸君!」(2006年1月号)や新聞のみならず記者会見まで開いて、再任を希望し、再任希望を貫徹するため「国会に対し弾劾裁判と国政調査権の発動、内閣に対し最高裁の指名抜きの任命などの非常の措置を要請」という、明らかに司法権の独立を害する違憲行為まで公然と要請していた態度は、一体なんだったのでしょうか?
私自身は、再任希望を撤回した井上判事の判断は賢明であったと思いますが、井上判事の言動に賛成していた人たちや「諸君!」の編集部・読者は、井上判事が結局は、再任希望を撤回したことを知ったらどう思うのでしょうか? 「背信行為である」とか、「ひどくがっかりした」と思い、裏切られたと思うはずです。
なにも弁護士登録できなくても、多数の著書からすれば、どこかの法科大学院なりで学者として活動できる可能性があったのですから、再任希望を撤回しなくても良かったと思うのです。
それに、たとえ弁護士登録できたとしても、訴訟当事者から不満を受けていながら聞き入れない元判事に対して、事件処理を依頼する依頼人がどれだけいるのだろうかと思います。蛇足だからと言って依頼人の希望を殆ど聞き入れてくれないのではないかと、依頼することさえも躊躇するでしょう。おそらく、事実上、弁護士活動で報酬を得ることは難しいと推測します。
そうなると、再任希望を撤回しようが、再任拒否で退官することになっても、いずれにしても今後は学者やあるいは(弁護士以外の)別の道を歩むしかないと思うのです。
(3) 再任希望撤回によって井上判事は、井上判事を支持する方たちの信頼を失ってしまったと思います。もし井上判事が、今まで通りの信用回復を願うのであれば、記者会見などで、きちんと釈明やお詫びをすることも一案でしょう。
ただ、再任希望を撤回したことについてお詫びしたとしても、記者会見次第では、民主党の永田議員のようにかえって非難されることにもなりかねませんし、必ず信頼回復できると限らないのですが……。ですから、信頼回復なんて気にせずになにもしないのも一案ですが。
本来は、今さら再任希望を撤回するくらいなら、最初から雑誌などで、司法権の独立を侵害するような違憲行為の要請や上司への罷免請求などしなければよかったと思うのです。井上判事の徹底した態度を望んでいただけに、残念に思います。 今後のご活躍をお祈り致します。
<3月2日追記1>
法科大学院で学者としての道があると書きましたが、もし蛇足論を学生に強要するとなると、蛇足論は試験としては良い評価を受けると思えないので、試験対策上は大変都合が悪いです。もし蛇足論を強要した場合には、その講義を受講する学生にとって、大変な冒険といえるでしょう。試験の合格不合格は、今後の人生を代えてしまうのですから。その意味で、井上判事を法科大学院の教官として迎え入れることは、法科大学院にとっても冒険といえそうです。
<3月2日追記2>
井上判事による上司への罷免請求の点については、「井上薫判事による上司の罷免請求」というエントリーをご覧下さい。
井上判事については、このブログでは度々取り上げています。「井上判事の緊急声明へのコメント」、「最高裁諮問委員会が井上判事を「再任不適当」と答申」、「「『判決短すぎる』とマイナス評価」は不当なのか?」、 「大阪高裁は違憲判断をしてはいけなかったのか?」というエントリーもご覧下さい。
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