いわゆる民法の離婚後300日規定が原因で戸籍がない兵庫県の女性が先月出産した男の子について、子供の出生届が受理されず無戸籍のままになる恐れがありました。その解消の要望を受けて鳩山邦夫法相が配慮する考えを示したため、法務省の異例の指示で、女性の夫である男性の長男として6月11日、出生届が受理され、戸籍が作られたからです。
1.まず、報道記事を幾つか。
(1) 毎日新聞平成20年6月12日付朝刊1面
「無戸籍:女性の子に戸籍 法律婚認め、救済−−法務省
離婚後300日規定により無戸籍となった兵庫県内の女性(27)が5月末に出産した男児が11日、同県内の自治体で出生届を受理され、戸籍に記載された。女性は戸籍がなく事実婚を余儀なくされた。このため男児の出生届の受理には女性の戸籍が必要で、男児も無戸籍となることが懸念されていた。法務省は、女性の無戸籍のままでの結婚(法律婚)を認め、通常の夫婦のケースと同様に夫の戸籍に記載することで、無戸籍となることを避けた。
法務省によると、当事者が無戸籍での婚姻届を認めたのは初めて。無戸籍者の結婚を認めて親子2代にわたる無戸籍を回避した手続きは、同様のケースの救済につながりそうだ。
戸籍法の施行規則は、結婚を届ける際に、戸籍謄本など名前や年齢など身分を証明する書類の提出を義務付けており、自治体は通常、戸籍謄本の提出を求めている。
法務省民事局によると、今回は代替書類として、医師による出生証明書などで、女性の身分事項が証明できたため、これまで事実婚だった夫との法律婚を認めた。
そのうえで、結婚によって新たに作られた夫を筆頭者とする戸籍では、「無籍者」である女性との結婚経緯を記載。妻である女性の欄は無戸籍のため記載せず、生まれた男児の欄には、「父」として夫の名前、「母」として女性が使っている名前を記した。
2代にわたる無戸籍をめぐっては、離婚が成立していない母親と別の男性との間に生まれたため無戸籍になった大阪府の女性(24)が、子供2人を産み、戸籍がない状態になったケースが明らかになっている。
民事局の担当者は「今回、民法や戸籍法の枠内で救済できた。同様のケースでは、詳細を調査したうえで適切に対応したい」と話している。【坂本高志】
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■ことば
◇無戸籍者
戸籍に記載がなかったり戸籍自体がない状態。離婚後300日規定により「前夫の子」となるのを拒んで親が出生届を出さなかったり、前夫の子を覆す裁判手続きを取らないなどの理由で子供が無戸籍となる。
毎日新聞 2008年6月12日 東京朝刊」
(2) 毎日新聞平成20年6月12日付朝刊26面
「無戸籍児:無戸籍女性の子、父親戸籍に記載 救済の道、広げて 同じ境遇の女性ら期待
親子2代にわたり無戸籍となる懸念があった兵庫県の無戸籍女性(27)が先月産んだ男児は11日、戸籍に記載された。法務省が取った手続きは、無戸籍のまま女性の結婚を認める内容。この特例に従えば、親子で無戸籍という事態が避けられるだけでなく、結婚は困難とされてきた無戸籍の人たちの結婚が認められることになる。関係者から期待の声が相次いだ。
「(息子の)戸籍が取れて本当にうれしく思います。私も含め無戸籍の問題が残っているが、できれば何らかの救済方法を考えてほしい」
先月29日に男児を出産した女性は、支援者を通じてそうコメントした。
関係者によると、地元の法務局から今回の手続きの説明があったのは出産の数日前。出産前日に婚姻届を提出したが、「これで夫の姓を名乗ることが公的に認めてもらえた」と感じた。多くの人に支えられてきたため、男児には「思いやりのある元気な子に育ってほしい」と願っているという。
戸籍がない2人の幼児を育てる大阪府内の無戸籍女性(24)も「自分の子供も戸籍登録され、親子2代の無戸籍が解消できるかもしれない」と期待を膨らませた。女性は、母親が前夫との離婚協議が困難な中、別の男性との間に生まれた。05年と06年に生まれた子供が住民票に記載されているのが救いだ。「私も結婚できたり子供の戸籍が取れるのか役所の窓口で相談したい」と話した。
「無戸籍児家族の会」の井戸正枝事務局長(42)は「無戸籍者でも結婚できることが確認できた。大きな一歩だ。法務省には、こうした措置を全国で共有できるように徹底してほしい」と求めた。【工藤哲】
毎日新聞 2008年6月12日 東京朝刊」
先日、前夫のDVなどが原因で離婚した後、「離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子」と推定する民法772条の規定のため、母親が出生届を提出できず無戸籍となった兵庫県の女性(27)が、出産予定であることについて紹介しました(「離婚後300日問題:離婚後300日規定で無戸籍の女性、出産へ〜出生届不受理で無戸籍児の連鎖に」(2008/05/20 [Tue] 23:59:36)、「離婚後300日問題:「無戸籍児家族の会」は鳩山法務大臣と面会し、改善を要望」(2008/05/21 [Wed] 22:35:10)参照。この無戸籍となった兵庫県の女性(27)も5月29日、男児を出産しました。)。
1.まず報道記事を幾つか。
(1) 中国新聞('08/6/2)
「子ども2人が無戸籍状態 大阪府女性、救済求める '08/6/2
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家庭内暴力から逃れたが離婚が成立していない母親と別の男性との間に生まれ、無戸籍状態になっている大阪府在住の女性(24)が二日、大阪市内で記者会見し「自分が産んだ子ども二人も無戸籍状態になっている」と訴えて救済を求めた。
支援団体は「母親に戸籍がないと子の戸籍取得も難しい。実際の親子関係に即した形で認められる仕組みにしないと、無戸籍の連鎖が起きる」と国に制度と運用の改善を求めている。
女性や団体によると、母親は三十一年前に暴力をふるう夫と別居。七年後に女性が生まれた。夫は現在も離婚を承諾しておらず、居場所を知られるのを恐れて女性の出生届を出さなかった。
女性は戸籍がなく、三年前に三十代男性と事実婚状態で初出産。女児(2)と男児(1)の四人で暮らす。
以前住んでいた東大阪市は二人の子の出生届を受理して住民票を作成。女性も二〇〇六年に国民健康保険に加入できたが、三人の戸籍や女性の住民票はない状態が続いているという。
先月末には離婚後三百日以内に生まれた子を「前夫の子」とみなす民法規定で無戸籍となった兵庫県の女性(27)が男児を出産。法務省が対応を検討している。」
(2) asahi.com:関西(2008年06月02日)
「「連鎖とめて」国に訴え 無戸籍の母、出産2児も無戸籍
2008年06月02日
母親の夫によるDV(ドメスティックバイオレンス)が原因で出生届が出されず、無戸籍となった大阪府内の女性(24)が、子ども2人を出産し、無戸籍のまま育てている。女性は2日、支援団体と大阪市内で記者会見し、「同じ境遇の人はたくさんいるはず。無戸籍の連鎖を止めるため、国はきちんと実態を調べてほしい」と訴えた。支援団体によると、「無戸籍2世」の存在が明らかになるのは、兵庫県の女性の子に続いて2例目。
NPO法人「親子法改正研究会」(大阪市)などによると、この女性の母親は約30年前、暴力をふるう夫と別居するため、近畿圏に引っ越してきた。母親は離婚しようと弁護士や家庭裁判所に相談したが、夫は応じなかった。
別居から7年後、別の男性との間に、この女性が生まれた。住所を夫に知られたくないなどの事情から離婚手続きをとれなかったため、女性は無戸籍のまま育てられた。
女性は中学3年の夏、母親から戸籍がないことを告げられた。卒業後に保育士の資格を取ろうと思ったが、戸籍が必要と知ってあきらめた。「好きな仕事ができない」。運転免許証も、選挙権もないままだ。
05年。30代の男性会社員と東大阪市内で暮らし始め、7月に長女(2)、翌06年11月に長男(1)が生まれた。市役所に出生届を提出すると、市は「子どもに医療サービスなどを受けてもらうための異例の判断」(市民課)を示し、長女を世帯主、長男を同居人とする形で住民票を発行した。現在、府内の別の場所に住民票も移して転居し、一家4人で生活している。
女性は「私の母も誰にも言えずに悩んでいた。戸籍がないと、人として認められないと感じる。戸籍がなくても人権はある。戸籍が取得できたら、正式に結婚したい」と話している。
法務省民事局の担当者は「女性の事例は正式に把握していない。今後調査して対応を検討する」としている。
また、「無戸籍2世」が最初に明らかになった兵庫県内の女性(27)は5月29日に県内の病院で男の子を出産した。関係者によると、近く居住地の自治体に出生届を出す予定だという。女性の夫は「家族としてしっかり支えていきたい」とコメントした。(板橋洋佳、宮崎園子、戸田和人) 」
今回の事案を見ると、女性がDVから逃れることは相当に大変であることが分かります。
「女性や団体によると、母親は三十一年前に暴力をふるう夫と別居。七年後に女性が生まれた。夫は現在も離婚を承諾しておらず、居場所を知られるのを恐れて女性の出生届を出さなかった。」(中国新聞)
「NPO法人「親子法改正研究会」(大阪市)などによると、この女性の母親は約30年前、暴力をふるう夫と別居するため、近畿圏に引っ越してきた。母親は離婚しようと弁護士や家庭裁判所に相談したが、夫は応じなかった。
別居から7年後、別の男性との間に、この女性が生まれた。住所を夫に知られたくないなどの事情から離婚手続きをとれなかったため、女性は無戸籍のまま育てられた。」(asahi.com:関西)
夫からDVを受けたため、31年前に夫と別居をし、別居のままでは離婚しようと弁護士や家庭裁判所に相談したのに夫は応じることなく、31年も別居しているのに、今でも「夫は現在も離婚を承諾し」ないのです。しかも、今でも「居場所を知られるのを恐れ」なくてはならないほどの事情があるのです。
では、夫と離婚できるでしょうか。
この夫は、31年も別居しているのに未だに離婚を承諾しないほど執念を抱いている持ち主ですから、協議離婚(民法763条)も調停離婚・審判離婚(家事審判法18条・21条1項)も不可能です。そうなると、女性の側とすると、裁判離婚(民法770条1項1号〜5号)を請求することになります。
配偶者による暴行・虐待は「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(民法770条1項5号)に当たるとされているので(最判昭33・2・25家月10巻2号39頁)、この事例では夫によるDVがあったのですから裁判離婚することは理論上は可能です。しかし、31年前のDVの証拠が残っていない場合には「離婚原因」を立証できずに離婚できない可能性もありますし、離婚裁判を切っ掛けとして現住所を発見されてしまう可能性もあるため、再びDVの被害を受ける可能性があります。
1996(平成8)年の民法改正要綱は、5年以上の別居を離婚原因に加えていたため、もしその要綱どおりに民法改正がなされていれば、今回の事例でも裁判離婚は十分に可能でした。しかし、改正されていない以上、どうしようもありません。
仮に、離婚は諦めて、もし子供の出生届を出すとすれば、民法772条1項の推定規定によりDVを行った夫の子供と戸籍に記載され、DV夫に居場所が判明する恐れがあります。ですから、もし判明したら今度は親子共々DVを受ける可能性があるため、出生届を出すことをためらうわけです。
このように、DVを行った夫と離婚することは相当に困難であり、逃げていても、逃げた先で子供を産み育てるという家庭生活を送ることが難しいことが分かります。

