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三菱ふそう元会長らに無罪判決(横浜簡裁平成18年12月13日判決)
2006/12/14 23:35

三菱自動車(三菱ふそうトラック・バスに分社)製の大型車のタイヤ脱落事故をめぐり、道路運送車両法違反(虚偽報告)罪に問われた▽三菱ふそう元会長、宇佐美隆(66)▽三菱自元常務、花輪亮男(65)▽三菱自元執行役員、越川忠(64)の3被告と法人としての三菱自に対し、13日の横浜簡裁は、いずれも無罪を言い渡しました。
小島裕史裁判官は、3人と法人「(同罪成立の前提となる)国土交通相の報告要求がなかった」と理由を述べましたが、一方で、三菱自の報告の一部に隠ぺいや改ざんがあった事実を認定しました。この報道について紹介したいと思います。

1.新聞報道から幾つか

(1) 朝日新聞平成18年12月14日付朝刊1面

 「三菱ふそう元会長ら無罪 虚偽報告踏み込まず 横浜簡裁
2006年12月13日13時23分

 三菱自動車製大型車の欠陥をめぐる道路運送車両法違反事件の13日の横浜簡裁判決で、小島裕史裁判官は、元三菱ふそうトラック・バス会長(当時、三菱自副社長)宇佐美隆被告(66)ら3人と法人としての三菱自をいずれも無罪とした理由について、同法に基づく国土交通相の報告要求が存在せず、犯罪は成立しないと説明した。検察側は控訴する方針。

 三菱自側の報告が虚偽の内容だったかどうかが焦点だったが、小島裁判官はこの部分の認定には踏み込まなかった。

 この件をめぐる民事訴訟では今年4月、横浜地裁が同社の欠陥隠しや虚偽報告を認定し、被害者側への慰謝料支払いを命令(原告側が控訴)。一連の欠陥車問題に絡む刑事裁判は3件あり、判決は今回が初めて。

 ほかに起訴されていたのは三菱自の元常務花輪亮男被告(65)と元執行役員越川忠被告(64)。

 母子死傷事故は02年1月10日に起きた。横浜市瀬谷区で、走行中の三菱自製大型車の「ハブ」が破損、外れた左前輪の直撃を受けた岡本紫穂さん(当時29)が死亡、子ども2人がけがを負った。

 検察側は、ハブ自体の欠陥が疑われたのに、三菱自側が02年2月1日、「破損は整備不良による摩耗が原因で0・8ミリ以上すり減ったハブを交換すれば安全だ」と国交省側に虚偽の説明をした、と主張。それぞれに罰金20万円を求刑していた。

 判決は、同年1月16日に三菱自の品質管理部門が不具合40件の一覧表を国交省に提出する際、0・8ミリ未満の摩耗で車輪が脱落した事例9件を削除したり摩耗量を多く書き換えたりして提出した、と認定した。

 ただ、うその説明だったかどうかについては「国交省に隠蔽(いん・ぺい)した9件については02年2月1日当時、三菱自が指摘する整備不良や過酷使用などを疑わせるデータはなかった」と客観的な事実を認定するにとどめ、判断を示さなかった。

 一方で、判決は道路運送車両法違反にあたるかどうかを検討。事実関係について「国交相が同法に基づいて三菱自に報告要求をすると意思決定したり、同省リコール対策室が国交相の名による報告を求めたりしたと認めるべき証拠はまったくない」と述べ、「報告要求が存在したとは証拠上認めがたい」と結論づけた。」



(2) 東京新聞平成18年12月14日付朝刊28面

 「重大に受け止めよ
 企業倫理に詳しい高巖(たかいわお)麗澤大教授


 無罪判決ではあるが、データの隠ぺいがあったことを認めている。このことは三菱自動車全体として重大に受け止めるべきだ。問題になった大型車は一般の消費者から遠い存在だが、だからといって欠陥を放置すれば結局は消費者の安全をおびやかすことになる。無罪だからとあぐらをかくのではなく、三菱自はまったく新しい会社をつくるつもりで努力しなければ、社会的支持も得られないし、遺族も納得しないだろう。


 がっかりする判決
 製造物責任(PL)法に詳しい中村雅人弁護士


 国民の立場から見れば、とてもがっかりさせられる判決だ。道路運送車両法はリコール勧告の要件として報告を求めているのであり、うその報告でリコールにならなかった場合、結果として国民の安全が守られないことになる。ただ判決では三菱自が2000年のクレーム隠し事件以降、信用回復を図るべき時期にうその報告をしていることは認定した。無罪とはいえ、倫理観にかけた企業だったということは明らかになった。」




2.無罪判決となったのですから、遺族にとって憤りを感じる結果となりました。それに、国民の立場から見ても、とてもがっかりさせられる判決でした(中村雅人弁護士談)。道路運送車両法はリコール勧告の要件として報告を求めていて、うその報告でリコールにならなかった場合、結果として国民の安全が守られないことになるからです。

結論はもちろんですが、この判決の問題点は現実無視の判断をした点です。
 

 「「報告要求存在せず」 国交省は困惑

 国にうその報告をしたとして道路運送車両法違反罪に問われた三菱自動車と元幹部3人に、無罪を言い渡した横浜簡裁判決。「国土交通相から正式な報告要求がなかった」との理由に、ある国交省幹部は13日、「霞が関の仕事の実態を理解していないんじゃないか」と困惑を隠さなかった。

 国交省がユーザーから入手する車両の不具合情報は、年に約5千件。高速道路会社や警察からも路上落下物や事故の情報を入手し、メーカーに確認してリコールの要否を判断する。

 三菱自元幹部らが逮捕された2004年以降、リコール対策室の職員は14人に倍増されたが、メーカーとのやりとりは電話やメールで行うのが実情だ。

 「1つ1つ大臣の決裁を取っていたら仕事にならない。実務担当者が大臣権限を行使できないとすれば、すべての役所で仕事の進め方を根本的に変えなければならない」と幹部。メーカーの担当社員も「余計な文書が増えれば、迅速なリコール業務の阻害要因になりかねない」と危惧(きぐ)する。

 三菱自の事件後、国交省は、自主的な報告に依存していた“メーカー性善説”を改め、事故につながる不具合情報の3ヶ月ごとの報告を義務化。販売店への抜き打ち監査を実施したり、メーカーの技術系OBを外郭団体で採用し、技術検証部門も発足させたりした。

 ただ、リコール制度に詳しい杉浦直樹弁護士は「メーカーは不都合な情報を隠す時は隠す。メーカーOBに依存した不具合の検証では公正さを担保できず、改革は不十分」と指摘している。」(東京新聞平成18年12月14日付朝刊29面


要するに、リコール業務は、メーカーとのやりとりは電話やメールで行うのが実情なのに、その1つ1つに大臣の決裁を取るなんて非常に難しいのです。現状のままで運用するしかないのですから、今後も、同様のことがあっても、ほとんど無罪となってしまう結果となり、規制した意味がなくなってしまい、不合理です。

判決は、国交省の手続きを厳しく要求したわけですが、そうなると、

メーカーの担当社員も「余計な文書が増えれば、迅速なリコール業務の阻害要因になりかねない」と危惧(きぐ)する

ように、かえって会社の業務にも支障を来たす可能性があり、その結果、死傷者を生じるような欠陥が放置され、国民の生命身体の安全が脅かされるのです。不合理な論理に基づく判断だと考えます。



3.この判決以上に問題と感じたのは、弁護団が次のように反応した点です。

 「被告ら安堵の色  三菱側弁護団「当たり前」余裕

 三菱ふそう元会長、宇佐美隆被告(66)ら3人は、判決言い渡しの「無罪」の言葉に表情は崩さなかったものの、席に戻る際、弁護団に軽くいなずいて見せた。

 判決理由が読み上げられる中、宇佐美被告はじっと目を閉じたまま。隣の三菱自元上級執行役員、花輪亮男被告(65)はやや顔を上気させ、同元執行役員、越川忠被告(64)は裁判官をじっと見つめていた。閉廷すると弁護団からに歩み寄り、一様に微笑に笑みも浮かべた。

 政木道夫弁護士ら3被告の弁護団は判決後、横浜市中区で記者会見し、「法を的確に運用した裁判所に敬意を表する。犯罪の要件を検討しないまま不当な逮捕に及び、2年以上の裁判を通じてわれわれを苦しめた警察、検察に猛省を求める」とする3被告のコメントを読み上げた。

 弁護士らは「初公判から報告要求は存在せず、無罪と主張してきており、当たり前の判決だ」と余裕の表情。検察の捜査手法について「結論ありきで、容疑者や被告の話を素直に聞く姿勢に欠けていた」と厳しく批判、マスコミにも「最初から悪人扱いの報道は反省してほしい」と語った。

 一方、破損事例9件について国土交通省への隠ぺいが認められたことについて、「強度不足を疑って隠したとは判決は認めてない。3人は隠ぺいしていないし、当時リコールが必要だとも思いはしていない」と反論したが、詳細については「よく分からない」と歯切れが悪い場面もあった。」


被告人が無罪判決を喜ぶのは当然のことで、弁護士も無罪を求めている以上、無罪を喜び、警察・検察批判をするのもよくあることです。マスコミ批判をすることもまた、よくあることと思います。

しかし、起訴された切っ掛けは、2002年1月10日、横浜市瀬谷区の県道で、走行中の三菱自動車製のトレーラーの車軸と車輪をつなぐ金属部品のハブが折れ、脱落した左前輪(直径1メートル、約140キロ)が坂道を約50メートル転がり、歩道を歩いていた岡本紫穂さん(29)の背中を直撃して、岡本さんが死亡、手を引いていた長男(4)とベビーカーの2男(1)が頭や手に軽い怪我をしたためです。

被告人や弁護士が無罪を喜んだとしても、三菱自動車の欠陥によって死んだ者がいるのです。三菱自動車の元幹部として、警察・検察・マスコミ批判は遺族を余計に悲しませるとは思わないのでしょうか? 三菱自動車の欠陥があり、それによって死傷者が生じた結果は揺るがないのですから、人の安全を確保すべき自動車メーカーの幹部としては、手放しで喜んだり、他者を批判すべき立場にないのです。

横浜母子3人死傷事故の遺族が起こした民事訴訟で、三菱自は、虚偽報告を認定、損害賠償を命じた横浜地裁判決を受け入れているのですが、一転して、刑事事件では、幹部は責任を否定するのですから、会社の意向は表向きのものにすぎず、欠陥を会社ぐるみで隠していた三菱の幹部の意識は変わらず、今後も幹部は欠陥を隠し続けるのだろうと思わざるを得ないのです。
無罪判決に喜び、警察・検察・マスコミ批判を行うことは、それを見ている遺族、たまたま遺族にならずに済んだ多くの市民に対して、「企業の社会的責任は感じないのだろうか? 命を奪う結果に対する反省は皆無なのだ」と意識させてしまうのです。

弁護士は、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命」(弁護士法1条1項)としています。政木弁護士らは、「当時リコールが必要だとも思いはしていない」と述べていたようですが、死傷者が生じるような欠陥であったのですし、一連のリコール隠しもあったのですから、リコールが必要なものであったことは事実なのです。リコールせずに、どんどん死傷者が生じるような欠陥を放置することは、社会正義を実現することにはならないのです。


「三菱自動車は1日、「道路運送車両法の両罰規定では、社として独自の陳述は行えない」などとする多賀谷秀保社長名のコメントを出した。しかし、否認はあくまで「社の法的立場」とした上で、「亡くなった方へのおわびの気持ちはいささかも変わらない」とした。」((2004年9月1日 読売新聞:YOMIURI ONLINE

このように、三菱自動車は会社としては、社として独自の陳述ができない以上、死傷を生じたことへの反省はあることは確かです。

しかし、3被告人の弁護団の記者会見内容からすると、3被告人は自動車会社としての社会的責任をより自覚すべき立場であったのに、最後の最後ではまるで責任なんかなかったかのように振る舞い、弁護人もまた、企業の社会的責任を自覚せずに、非難する側(警察・検察・マスコミ)が悪いと言い立て、それを怒りの感情で見ていた遺族やたまたま遺族にならなかった消費者の感情を逆なでするような視野狭窄な態度を示したのです。
こうなると、三菱自動車の幹部は、本音のところでは安全を軽視し、企業の社会的責任は無視してしまうのでしょうから、今後も三菱自動車の「安全を軽視する企業体質」は変わらないのだと思います。今後二度と三菱自動車を購入することはないと、心に深く誓いました

カテゴリ:裁判例

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